声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

105 声は誰にも抑えられない

「どうする? やらないなら帰るんだな。俺も遊んでるんじゃないんだよ」
「…………やります」

 私はそういった。いや、そういうしかなかった。だってまずはこの勝負を受けないことには、私たちはここには居られないんだ。別段追い出すとか出来るわけでもないだろうが、同じ壇上に上がるためにはこの勝負を受けるしかなかった。

「よし、ならルールを決めるぞ。何も俺にゲームで勝てなんて言わねえよ」
「まあ、そんなことしたら大人げなさ過ぎですからね」

 田無さんがそう言うと愛西さんがちょっとにらんでた。けどすぐにこっちを見て更にこう言ったよ。

「そうだな。お前達経験は?」
「私は小さいときに……ちょっとだけ」
「昔はよく言ってましたけどね。でも最近はとんと……」

 意外とマネージャーはボウラーだったらしい。ならちょっとは希望がある? いや、マネージャーは頼りにならないと思ってた方がいい。そもそもが私の狙いはこの勝負じゃない。試合に勝つことである。そこをはき違えたらだめだ。確かに勝てる可能性は残しておきたいけど、それを当てにするのはきっと違うと思う。
 今までの私なら、こんな男性には極力関わりたくないと思って、諦めてたかもしれない。でも私は積極的に行くことにしたんだ。そして逃げない。

「なるほど。うーん、スコアでは比べるべくもないしな」
「それは……勘弁してほしいですね」

 確かにスコアでなんてダメでしょ。私たちのスコアを合計してよかったとしても、愛西さんに迫れる気がしない。だって絶対私、一本も倒せないとかやるよ? 絶対にやるよ? 両手で投げたとしても、真ん中から転がしたとしても、きっと倒せても一・二本がやっとだと思う。

「それじゃあ、そうだな……こういうのはどうだ? 俺がまずは投げる。そして残ったピンをそっちの二人が倒す。それをワンゲーム分やろう。一度……ううん、やっぱり二人居るからな、二回残った分を倒せたらそれでそっちの勝ちだ。どうだ?」
「それなら……」

 そう言ってマネージャーがこっちを見てくる。それに私も頷くよ。とりあえず気になる事を聞くことにした。

「そっちが最初に投げたとき、全部倒したらどうするんですか?」
「ストライクなら、そっちの一回分にしてもらっていいぞ。まあそんなことはあり得ないがな」

 そう言ってタバコを押し消して立ち上がる愛西さん。投げてピンがバラバラに吹っ飛ぶのに、その自身はどこから来るのか? もしかして、プロボウラーって言うのはピンの反射とかなんやらまて計算してる? そんな頭良さそうに見えないのに……とりあえず一応、勝算って奴がみえた。

 なかなかに良い条件だと思う。勝負になってる。愛三さんが下手にいっぱいピンを残さないのなら……なんとかって感じ? 

「すみませんお二人とも、自分は会社に戻らないといけないんです」

 申し訳なさそうに田無さんがそういうよ。けど、ここまで手配してくれてありがたい事はあっても、残念な事なんて一つも無い。私たちは頭を下げて田無さんを見送った。

「よし、始めるか」

 まずは愛西さんが華麗にボウリングの玉を投げて一本が残った。そして、次にマネージャーが前に出る。率先して出てくれるんだ。ありがたい。なら私は……

「ぶち当てなさいよ! 外したら承知しないわよ!」

 そんな風にアニメ声で言ったら、マネージャーがずっこけて端の部分に玉が吸い込まれていく。ちょっと何やってくれてるのよ。私は不満たらたらだ。

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