声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

65 あんたに見せるためじゃないんだからね!

 私は攻勢をかけることにした。だって我慢はやっぱり体によくないって思うんだ。私は基本我慢なんてしない質だ。それで実家の方では色々と問題もおこった。私は基本世界は私の為にあると思ってるからね。でもそれを不思議に思ったことはない。

 子供のころは漠然とそんなことを思う物だろうが、私は今だって本気でそう思ってる。だってそれはそうじゃないだろうか? 誰かの為に自分を捧げるよりも自分の為に自分を捧げるのなんて普通だし、他社の事を思えるのなんて自分に余裕があるからだって思ってる。

 それは大人になって確信に変わってる。皆自分の為に生きてる。その度合いが私はちょっとだけ強いだけだ。だから誰に非難されることもない。本気でね。

 私も二人を追って外に出る。軽快な音楽に、DJがミックスを加えてる。それに合わせて踊る人々。何人呼んでるのか知らないが、この甲板だけで百人くらいはいそうである。途中で私の魅力に惹かれた男が寄ってくる。初めての人かな? いつもなら唾をつけてキープしとく。

 けど今は、ごめんなさい。私急いでるのよね。これ以上、私を差し置いて彼女がそばにいるのはちょっと……ね。なのでその人達は私の魅惑のほほえみで動きを止めておいた。男なんて簡単だ。私がちょっと微笑めば心臓が高鳴ってしまうらしい。

 これは昔から変わらない。私は三人が談笑してる所へと近づく。

「盛り上がってるようですね」
「おお、オーレライ」

 そう言ってミスターバルクがハグをしてくる。まえさっきもしたけどね。取り合えずホストにまずは挨拶するのは礼儀だろうし、私は呼ばれたパーティーでは真っ先に挨拶するようにしてる。けどそっか、私はミスターバルクの狙いを敏感に察する。

(ははーん、見せつけたいわけね。乗っておこ……ん?)

 いつもなら、確かにここで私も乗っておく。だってそうした方が得だからだ。ミスターバルクに乗っかってる間はかわいがってもらえる。この人からの支援がなくなると困る。けど、今はすぐ隣に先生がいる。それに彼女面してる女もいる。

 本人にその気はなくても、周りは勝手にそう思うものだ。そこに割り込むためにも、今、ここでミスターバルクに乗っかっるのは危険では? だってどっちかの女ってのを見せつけることに……

(いやいや、ハグくらいでそんな――)

 そうだ。確かに先生は日本人でハグとかでも何を思うか分からないが、周囲はそんなの日常茶飯事にやる奴らである。だからそこまで気にする必要はない。先生も男だしね。それにある意味、私もミスターバルクを隠れ蓑に出来るかもしれない。

 それは私にとってのメリットというよりは先生へのメリットだが、それもいい。だから私はやっぱりミスターバルクを受け入れる。卑怯? 違うね。最大限のメリットを掴む手段を取ることになんの問題があるのかって事だ。

「ほほう、バルクの愛人か」

 そう言ってきたのは三人のそばにいた奴だ。ジャケットを着崩して、くすんだ金髪に、まくった腕から見えるタトゥーはなかなかに荒っぽそうなやつである。タトゥーなんてこっちでは珍しくはない。だれでも一回は入れた事がある程度のものだしね。

 けどその雰囲気からなんかじゃじゃ馬に見える。私の体を上から下まで嘗め回す様に見るところとかね。別段私はそんなの気にしない。何しろみられる事が仕事の様なものだし。胸元が開いて腰の所もやらしく開いてるこのドレスはどうしても男どもの視線を集める。

「ふふ面白い人ですね。『オーレライ・アンサー』よ」
「なるほど、お前があの……ね」

 なんかとても馬鹿にされた気がする。その含んだものわかってるからね。私が映画評論家どもからなんて呼ばれてるかは知ってる。それはこんなだ。

『顔だけの女優・映画の全てを台無しにして自分を主張する奴・演技の成長がみられない・ベッド上では名女優』

 とか散々なものだ。まあけど、案外作る側はそんなの気にしないらしいが。監督とかは独善的な奴がおおいらしい。

「いやー評判通りの美女だ。なあ? お前も映画に出たいんだろ?」

 そう言ってにやりとするそいつ。見てる所は私の胸だ。どうやら、私と寝たいらしい。映画の出演権をこいつが握ってる? 疑問に思うが、私はここにいるメンツで気づいた。

(まさか、監督?)

 それはある。そもそもミスターバルクは先生の作品を映画にするために動いてる。こんな毎日の様にパーティーを開いてるのも宣伝のためだ。まあこの段階だから市場に宣伝をするんじゃなく、制作側、演者側、出資側への宣伝だろう。
 だからこいつが監督だとしてもそれが決定とは決まってない筈。なら、簡単にこいつに乗る事はできない。確かに私は女を売ってるよ。いや、正確には美女を売ってる。

 だから知ってるでしょう。美女は高いってね。

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