声の神に顔はいらない。
38 プレゼン5
自分の事をそのぎらついた目で見てくる酒井武夫。その瞳はさっきまでの眠そう目ではない。まさに獲物を狩る肉食獣のそれだ。なるほどこれが肉食系って奴か。違う?
「アンタは俺を必ず選ぶ」
その声には自信しかない。マジで一体どこからその自信が出てくるのか知りたい。それだけ自分の腕を信じてるのだろうか?
「あのですね、そう一方的に言われてもですね――」
「外野は黙ってろ! これはクリエイター同士の話なんだよ。なあ先生」
この酒井武夫という人物が干された理由が何となくわかる。てか寧ろまだよく業界に居れてるとさえ思える。今までもそれなりにこの業界でやってきてるクリエイターの人達と会ってきたが、ここまで我が強い人は始めてだ。「なあ先生」とか言われて舌なめずりされると変な汗が出るな。
確かにクリエイター同士の話は必要だ。だけど……
『そこまでです。武夫スタジオ、酒井社長。一度その興奮を収めてもらえませんか?』
酒井武夫のせいでピリピリとしてた会議室に一輪の凛とした声が響き渡った。その声のする方に目を向ける。それは自分のすぐそばに立てられてるタブレットからだった。そうようやく彼女か来たのである。
「此花さん……心配しましたよ」
『すみません先生。少し問題があったのですが、もう解決しました』
こっちは昼近くだが、海外じゃもう夜とかでは? 相変わらず此花さんは仕事の鬼のようだ。まあそもそも仕事で海外にいってるんだが……けど此花さんがいてくれれば心強い。タブレット越しだが、その鋭い視線は全く持ってあの酒井武夫に怯んではない。
「おいおいなんだこりゃあ!? 外野は引っ込んでろ!」
恫喝する様なその声音。その場にいる自分たちにはビリビリと響く程だ。けど、タブレット越しで海外にいる此花さんはこの場の雰囲気にのまれない。まさかタブレット越しの参加にこんな効果があったなんて盲点だった。
『外野ではありません。私は 此花 寿々子、先生の担当編集です』
「それが外野って言ってんだ。俺は先生とクリエイター同士の話をしてんだよ」
話とは何か? なんか一方的に詰めよられてる感じがするが……
『先生、資料をお願いします』
「あ、はい」
此花さんは酒井武夫の眼光に怯むことなくそういった。自分はただそれに従う。てか、なんで自分に言ったの? きっと自分との関係性を示すため……か? この中ならいくらでも社内の人はいる。わざわざこの場でのトップともいえる自分を指名する事はない。
そのくらい此花さんならわかってる筈だ。様々な会社の人達の目もある。そんな場所で編集が作家を顎で使うような真似を普段の此花さんならまずしないだろう。あの人は自分の事をリスペクトしてるしな。ならこれにも意味はあるんだろう。
『ふむふむ、酒井監督』
「なんだ、まだ口を挟む気か?」
野獣の瞳で睨みつける酒井武夫。だがそれに対抗する此花さんは笑顔である。そしてこういった。
『いいえ、口などはさみません。結論から言いましょう。お帰りください。クリエイター同士の話の前に基本的な資料の作り方を覚えて来てください。これではこちらが求める資料になってませんし、こちらの判断材料になりえません。
大口を叩くのは結構ですけど、最低限皆さまと同じ土俵に上がってから吠えてください」
え、え……えげつねえー!! と思った。流石の酒井武夫もこれには流石に顔真っ赤である。口を開いて反論しようとするも、機先を制する此花さんは酒井武夫に言葉を喋らせずに論破してく。中年のおっさんがまだ二十代くらいの女性にめった刺しにされて行くのは心に来るものがある。
「くそったれが!!」
そういって何故か自分を睨んで出てく酒井武夫ともう一人の顔色悪い人……あの人が一番可哀そうではないだろうか? 八つ当たりとかされないと良いけど……狂犬のような酒井武夫が居なくなったことでプレゼンは順調に進んでいった。
此花さんが来たことも大きい。やっぱり彼女がいるとこっちの心労が減って助かる。そうして筒がなくプレゼンは終わって自分の作品の二作品を実写とアニメで作る会社を決めた。うん、億動いてるよ。億。ヤバイな。けど実は今回は三つの書下ろしがあったわけだが……そんなじぶんの想いを察したのか此花さんがタブレット越しに言うよ。
『先生の作品は安売りする物ではありませんから』
という事だった。彼女がそういうのならこれでいいんだろう。作品を映像化する権利を与えられなかった人たちには悪いが、これもビジネスだ。勝ち取る者がいる以上、堕ちる者もいる。それに勝ち取った者達もこれで終わりじゃない。
寧ろここからが本当の始まりだ。いい作品に出来ると太鼓判を広げたのだ。それだけの物を作って貰わないと困る。自分は作品の出来に妥協したりはしないぞ。
確かに過剰にかかわるなんて事はしないが、つまらない物にはどうあってもゴーサインなんて出せる訳ない。それは絶対なのだ。作品をけなされる様な事を許容できないのはクリエイターとしては当然だろう。
「ふう、疲れた」
プレゼンも終わり、それぞれ皆さん次の仕事へと向かっていく。自分も家に戻りもう一筆生み出しとくかな……とか思って会社から出ると、なんかズカズカと向かってくる野獣と目があった。
「アンタは俺を必ず選ぶ」
その声には自信しかない。マジで一体どこからその自信が出てくるのか知りたい。それだけ自分の腕を信じてるのだろうか?
「あのですね、そう一方的に言われてもですね――」
「外野は黙ってろ! これはクリエイター同士の話なんだよ。なあ先生」
この酒井武夫という人物が干された理由が何となくわかる。てか寧ろまだよく業界に居れてるとさえ思える。今までもそれなりにこの業界でやってきてるクリエイターの人達と会ってきたが、ここまで我が強い人は始めてだ。「なあ先生」とか言われて舌なめずりされると変な汗が出るな。
確かにクリエイター同士の話は必要だ。だけど……
『そこまでです。武夫スタジオ、酒井社長。一度その興奮を収めてもらえませんか?』
酒井武夫のせいでピリピリとしてた会議室に一輪の凛とした声が響き渡った。その声のする方に目を向ける。それは自分のすぐそばに立てられてるタブレットからだった。そうようやく彼女か来たのである。
「此花さん……心配しましたよ」
『すみません先生。少し問題があったのですが、もう解決しました』
こっちは昼近くだが、海外じゃもう夜とかでは? 相変わらず此花さんは仕事の鬼のようだ。まあそもそも仕事で海外にいってるんだが……けど此花さんがいてくれれば心強い。タブレット越しだが、その鋭い視線は全く持ってあの酒井武夫に怯んではない。
「おいおいなんだこりゃあ!? 外野は引っ込んでろ!」
恫喝する様なその声音。その場にいる自分たちにはビリビリと響く程だ。けど、タブレット越しで海外にいる此花さんはこの場の雰囲気にのまれない。まさかタブレット越しの参加にこんな効果があったなんて盲点だった。
『外野ではありません。私は 此花 寿々子、先生の担当編集です』
「それが外野って言ってんだ。俺は先生とクリエイター同士の話をしてんだよ」
話とは何か? なんか一方的に詰めよられてる感じがするが……
『先生、資料をお願いします』
「あ、はい」
此花さんは酒井武夫の眼光に怯むことなくそういった。自分はただそれに従う。てか、なんで自分に言ったの? きっと自分との関係性を示すため……か? この中ならいくらでも社内の人はいる。わざわざこの場でのトップともいえる自分を指名する事はない。
そのくらい此花さんならわかってる筈だ。様々な会社の人達の目もある。そんな場所で編集が作家を顎で使うような真似を普段の此花さんならまずしないだろう。あの人は自分の事をリスペクトしてるしな。ならこれにも意味はあるんだろう。
『ふむふむ、酒井監督』
「なんだ、まだ口を挟む気か?」
野獣の瞳で睨みつける酒井武夫。だがそれに対抗する此花さんは笑顔である。そしてこういった。
『いいえ、口などはさみません。結論から言いましょう。お帰りください。クリエイター同士の話の前に基本的な資料の作り方を覚えて来てください。これではこちらが求める資料になってませんし、こちらの判断材料になりえません。
大口を叩くのは結構ですけど、最低限皆さまと同じ土俵に上がってから吠えてください」
え、え……えげつねえー!! と思った。流石の酒井武夫もこれには流石に顔真っ赤である。口を開いて反論しようとするも、機先を制する此花さんは酒井武夫に言葉を喋らせずに論破してく。中年のおっさんがまだ二十代くらいの女性にめった刺しにされて行くのは心に来るものがある。
「くそったれが!!」
そういって何故か自分を睨んで出てく酒井武夫ともう一人の顔色悪い人……あの人が一番可哀そうではないだろうか? 八つ当たりとかされないと良いけど……狂犬のような酒井武夫が居なくなったことでプレゼンは順調に進んでいった。
此花さんが来たことも大きい。やっぱり彼女がいるとこっちの心労が減って助かる。そうして筒がなくプレゼンは終わって自分の作品の二作品を実写とアニメで作る会社を決めた。うん、億動いてるよ。億。ヤバイな。けど実は今回は三つの書下ろしがあったわけだが……そんなじぶんの想いを察したのか此花さんがタブレット越しに言うよ。
『先生の作品は安売りする物ではありませんから』
という事だった。彼女がそういうのならこれでいいんだろう。作品を映像化する権利を与えられなかった人たちには悪いが、これもビジネスだ。勝ち取る者がいる以上、堕ちる者もいる。それに勝ち取った者達もこれで終わりじゃない。
寧ろここからが本当の始まりだ。いい作品に出来ると太鼓判を広げたのだ。それだけの物を作って貰わないと困る。自分は作品の出来に妥協したりはしないぞ。
確かに過剰にかかわるなんて事はしないが、つまらない物にはどうあってもゴーサインなんて出せる訳ない。それは絶対なのだ。作品をけなされる様な事を許容できないのはクリエイターとしては当然だろう。
「ふう、疲れた」
プレゼンも終わり、それぞれ皆さん次の仕事へと向かっていく。自分も家に戻りもう一筆生み出しとくかな……とか思って会社から出ると、なんかズカズカと向かってくる野獣と目があった。
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