声の神に顔はいらない。
11 失敗
あれから数時間。アニメの初アフレコの終わり、私はエントランスぽい場所で放心状態だった。今やここに残ってるのは私と篠塚宮ちゃんしかいない。あっ、声優陣ではって事でね。アニメのスタッフさんは勿論沢山残ってる。
「あ……あぁぁぁあああ」
ゾンビが出すような呻き声が出てくる。背中を丸めて、髪の毛を掻きむしる私の姿を誰かが見たら、きっと本物のゾンビか幽霊だと思われるだろう。けどしょうがないんだ。だって今私は、自分を嘆いてるんだから。
(何やってるのよ私いいいい!?)
地団太を踏みたいが、そこは流石に我慢する。まあ貧乏ゆすりはしてるんだけど……でも床は布っぽい素材のおかげか、音は出てない。相当膝が動いてるんだけどね。何故にこんなに私が悶えてるのかというと……それは勿論、アフレコで失敗したからだ。もしかしたらこれが私にとっては最後のチャンスになるかもしれないと思うと緊張した。
そのせいでいつもの声がなかなか出せなくて……オーディションの時は本当に静川秋華の後で諦めもあって緊張がなかったんだと思い知った。私は何回も何回も失敗した。まあ私以上に上手くいってなかったのが、篠塚宮ちゃんだけど、それは何の言い訳にもならない。だって彼女はド新人だ。
ほぼこれが声優デビュー。それで上手くいくなんて誰も思ってないだろう。けど私は違う。一応一年とちょっとは声優をやってる訳で……なんか圧が違うよね。
篠塚宮ちゃんが失敗しても「いいよー」「緊張しないで~」「大丈夫だから~」とか言われるけど、私のは時は「じゃあ、もう一回お願いします」という事務的な言葉だけが延々と返って来た。勿論合間合間に監督さんや、原作者の先生からこんな感じで……って入るんだけど、それも出来てたから怪しい。
どんどんレベル下げられてる気がしてた。「アイツこんなのも出来ないのかよ? じゃあこれは? これもダメ? ならこの程度はいけるっしょ?」的なやりとりがあったのではと邪推してる。
(もう駄目だ―! 私の声優人生終わった……)
この噂が業界内に広まってそれで仕事なんかもう二度と来なくなるんだ。いつまでそうしてただろうか……人の気配がした。顔を挙げると向こうがなんかビクッとした。失礼な奴だ。確かに蹲って呻いてた女がいきなり顔をあげたらそうなるかもしれないが……いや、私きっと酷い顔してる。
普通の反応だと思った。普段から酷い顔を更にひどくしてるんだ。しかもここはもう薄暗い灯りしかついてない。この中で私を見たら私でも逃げ出すわ。
「はあービックリした。出たのかと思ったよ」
おいおい、それは普通言わないでしょ。マジでデリカシーという概念ないのこの人? そう思う私は薄暗い灯りに照らされてようやく顔が見えたその人を見て、ビビった。
「あ……えっと、ごめんなさい」
「いやいや、ちょっと驚いただけだから」
それは原作者の先生だった。まさかまだいたとは。流石にもう帰ったと思ってた。オーディションにも来てたし、案外熱心なんだなと思う。けど、ググった感じではそこまでアニメには関わらない質だと書いてあったけど……やっぱりネットの情報なんて、そこまで信憑性ないんだね。
沈黙が流れる。
(ど、どうしたらいいのだろう?)
ここで私が自分の容姿に自信があれば、もっとぐいぐいと行けたのかもしれない。それこそ気に入られるために媚びた声出して、ベタベタボディタッチとかしちゃったりさ……けど残念ながら私に触られて喜ぶ男性はいない。逆に不快にさせるだけだ。
この人に嫌われたら、役を降板させられるかもしれない。そうなったらそのまま引退まっしぐら。それは嫌だからどうしようもない。
「帰らなくて大丈夫なのかい?」
「ええ、私は他に仕事なんてそうそうないです……から」
「そっか」
言ってて、胸に何かが刺さる。く、苦しい……誰かこの空間を壊してくれないだろうか? でもそんな都合の良い存在なんている訳なく……むこうが先に話しかけてくれたし、今度はこっちから行くべきだろうか? そもそもあんまり先生様に気を使わせるのも悪印象だよね。
(こいつ、気が利かねえなぁ)
とか思われたくないし。
「あの、今日は失敗ばかりで……すみませんでした!」
とりあえず並んだ椅子に正座して頭を下げる。どうせ私には無くすものなんてないのだ。何も使える物も私にはない。なら、誠意だけでも見せるしかない。
「失敗? てか、それよりは土下座はやめてよ。普通にしていいから」
「あ……はい」
そうだよね。こんな所を誰かに見られたら、この人が私を虐めてるみたいに見えるかもしれない。今の時代、直ぐに拡散されるからね。しかもこの人は大人気作家様だ。私には無くすものなんてないが、この人にはいっぱいある。
私がこの人の輝かしい実績に傷をつけたらと思うと……やばい、組織に消されるかも。組織ってなんだよって感じだか、なんかそんな気がする。
「失敗か……確かに最初はオーディションの時とは違って声に伸びがなかったかな」
「そう……ですよね」
やっぱり気づかれてる。音響関係の人達なら、そういう違いに目敏い? 耳ざとい? わかんないが、気づくのもわかる。けどそうでもない原作者の先生にまでわかるほど……ってなると深刻だ。そう思って肩を落としてると、更にこういわれた。
「けど、途中からはずいぶんマシにはなってたと思う。まだまだ収録は続くし、早く緊張が取れた時の君の声が聴いてみたいよ。それこそオーディションの時のような……ね」
「え?」
そういって先生は外に出てった。私はしばらく今の言葉を頭の中で巡らせてた。だってちょっと頭が理解できなかったから。
「今のは、今日はダメダメだったけど、まだチャンスは残してやるって事?」
ひええええええ!? これはなんとしても収録が終わる前に先生の満足する声にならないと消される!? そう思って戦々恐々と私はなった。なんかようやく合格がでた篠塚宮ちゃんが私が自分を待ってたと思って喜んでたが、そんなのほぼ頭に入ってこなかった。
        
「あ……あぁぁぁあああ」
ゾンビが出すような呻き声が出てくる。背中を丸めて、髪の毛を掻きむしる私の姿を誰かが見たら、きっと本物のゾンビか幽霊だと思われるだろう。けどしょうがないんだ。だって今私は、自分を嘆いてるんだから。
(何やってるのよ私いいいい!?)
地団太を踏みたいが、そこは流石に我慢する。まあ貧乏ゆすりはしてるんだけど……でも床は布っぽい素材のおかげか、音は出てない。相当膝が動いてるんだけどね。何故にこんなに私が悶えてるのかというと……それは勿論、アフレコで失敗したからだ。もしかしたらこれが私にとっては最後のチャンスになるかもしれないと思うと緊張した。
そのせいでいつもの声がなかなか出せなくて……オーディションの時は本当に静川秋華の後で諦めもあって緊張がなかったんだと思い知った。私は何回も何回も失敗した。まあ私以上に上手くいってなかったのが、篠塚宮ちゃんだけど、それは何の言い訳にもならない。だって彼女はド新人だ。
ほぼこれが声優デビュー。それで上手くいくなんて誰も思ってないだろう。けど私は違う。一応一年とちょっとは声優をやってる訳で……なんか圧が違うよね。
篠塚宮ちゃんが失敗しても「いいよー」「緊張しないで~」「大丈夫だから~」とか言われるけど、私のは時は「じゃあ、もう一回お願いします」という事務的な言葉だけが延々と返って来た。勿論合間合間に監督さんや、原作者の先生からこんな感じで……って入るんだけど、それも出来てたから怪しい。
どんどんレベル下げられてる気がしてた。「アイツこんなのも出来ないのかよ? じゃあこれは? これもダメ? ならこの程度はいけるっしょ?」的なやりとりがあったのではと邪推してる。
(もう駄目だ―! 私の声優人生終わった……)
この噂が業界内に広まってそれで仕事なんかもう二度と来なくなるんだ。いつまでそうしてただろうか……人の気配がした。顔を挙げると向こうがなんかビクッとした。失礼な奴だ。確かに蹲って呻いてた女がいきなり顔をあげたらそうなるかもしれないが……いや、私きっと酷い顔してる。
普通の反応だと思った。普段から酷い顔を更にひどくしてるんだ。しかもここはもう薄暗い灯りしかついてない。この中で私を見たら私でも逃げ出すわ。
「はあービックリした。出たのかと思ったよ」
おいおい、それは普通言わないでしょ。マジでデリカシーという概念ないのこの人? そう思う私は薄暗い灯りに照らされてようやく顔が見えたその人を見て、ビビった。
「あ……えっと、ごめんなさい」
「いやいや、ちょっと驚いただけだから」
それは原作者の先生だった。まさかまだいたとは。流石にもう帰ったと思ってた。オーディションにも来てたし、案外熱心なんだなと思う。けど、ググった感じではそこまでアニメには関わらない質だと書いてあったけど……やっぱりネットの情報なんて、そこまで信憑性ないんだね。
沈黙が流れる。
(ど、どうしたらいいのだろう?)
ここで私が自分の容姿に自信があれば、もっとぐいぐいと行けたのかもしれない。それこそ気に入られるために媚びた声出して、ベタベタボディタッチとかしちゃったりさ……けど残念ながら私に触られて喜ぶ男性はいない。逆に不快にさせるだけだ。
この人に嫌われたら、役を降板させられるかもしれない。そうなったらそのまま引退まっしぐら。それは嫌だからどうしようもない。
「帰らなくて大丈夫なのかい?」
「ええ、私は他に仕事なんてそうそうないです……から」
「そっか」
言ってて、胸に何かが刺さる。く、苦しい……誰かこの空間を壊してくれないだろうか? でもそんな都合の良い存在なんている訳なく……むこうが先に話しかけてくれたし、今度はこっちから行くべきだろうか? そもそもあんまり先生様に気を使わせるのも悪印象だよね。
(こいつ、気が利かねえなぁ)
とか思われたくないし。
「あの、今日は失敗ばかりで……すみませんでした!」
とりあえず並んだ椅子に正座して頭を下げる。どうせ私には無くすものなんてないのだ。何も使える物も私にはない。なら、誠意だけでも見せるしかない。
「失敗? てか、それよりは土下座はやめてよ。普通にしていいから」
「あ……はい」
そうだよね。こんな所を誰かに見られたら、この人が私を虐めてるみたいに見えるかもしれない。今の時代、直ぐに拡散されるからね。しかもこの人は大人気作家様だ。私には無くすものなんてないが、この人にはいっぱいある。
私がこの人の輝かしい実績に傷をつけたらと思うと……やばい、組織に消されるかも。組織ってなんだよって感じだか、なんかそんな気がする。
「失敗か……確かに最初はオーディションの時とは違って声に伸びがなかったかな」
「そう……ですよね」
やっぱり気づかれてる。音響関係の人達なら、そういう違いに目敏い? 耳ざとい? わかんないが、気づくのもわかる。けどそうでもない原作者の先生にまでわかるほど……ってなると深刻だ。そう思って肩を落としてると、更にこういわれた。
「けど、途中からはずいぶんマシにはなってたと思う。まだまだ収録は続くし、早く緊張が取れた時の君の声が聴いてみたいよ。それこそオーディションの時のような……ね」
「え?」
そういって先生は外に出てった。私はしばらく今の言葉を頭の中で巡らせてた。だってちょっと頭が理解できなかったから。
「今のは、今日はダメダメだったけど、まだチャンスは残してやるって事?」
ひええええええ!? これはなんとしても収録が終わる前に先生の満足する声にならないと消される!? そう思って戦々恐々と私はなった。なんかようやく合格がでた篠塚宮ちゃんが私が自分を待ってたと思って喜んでたが、そんなのほぼ頭に入ってこなかった。
        
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