命改変プログラム

ファーストなサイコロ

1902 前に進むためのXの問い編 275

「くっ!?」

 俺は必死にハンドルを右に回して、左に回してる。オーバードライブしたときは、その勢いと、ヴァレル・ワンの身にまとった炎のお陰で眼の前の物をだいたい薙ぎ払える。それにダメージだって外装には入らない。そのときに入るダメージは内部的な、それこそ無理させてるエンジンとかの機関とかにだけだ。

 でも今のような通常状態では流石に正面から木々にぶつかったりしたらそれはもう正面衝突でしかない。リアルで言うところの交通事故だ。だから木々にぶつからないようにしないとだめだ。いや普通にコースを走るだけなら、そんな心配はいらない。なにせちゃんとこの山だって人々が通る場所は整備されてるからだ。

 この世界、というかLROにはモンスターが居るから、街道なんてのは普通は主要なものしか整備なんてされてない。リアルとは違って技術レベルもそうだが、危険が段違いだからだ。だから人里から離れると大体、まともな道なんてのはなくなっていき、誰もが獣道を使うしかなくなるものだが……テア・レス・テレスのこのエリアは違う。ちゃんと全域……とまで言えるのかは分からないが、もとからある大陸よりはいろいろと整備は行き届いてる。

 だが、今俺はそんな安心安全な街道を外れて、山の頂上らへんを目指してる。なぜなら……

「やっぱり高いところから一気に飛ぶってかなりの短縮なんだよな」

 そういうことだ。最初にどうやらスオウのやつが見つけたらしいが、この山に設置されてるジャンプ台はこのレース随一のショートカットを誇ってる。俺たちが使うよりもスオウの奴は滅茶苦茶短縮してるらしいが、俺たちにも有効だ。あいつはいくつかのエリアを飛ばしてるらしい。

 流石に普通の……というのもおかしいかもしれないが。誰しもがヴァレル・ワンをカスタマイズしまくってるから今や普通のヴァレル・ワンがなんなんのかわかんないくらいだからな。だから普通では無いが、それでもスオウ程飛べる存在はきっといない。

 だが、それでも……だ。それでもかなりの短縮は出来る。それこそ俺だってオーバードライブを使えばかなりの距離を飛べるはずだ。ソレまでにはエンジンももとに戻ってるだろう。まあけど……

「そこに辿り着けるか――だけどな!!」

 後ろから迫る敵。いや、後ろだけじゃない。横とか斜めとか……どこからでもやってくる。なにせこっちはスピードが落ちてるしな。もう追いつかれてしまったようだ。横からタックルされて、木々にぶつかる。衝撃で体が大きく揺れる。けどシールドはある程度戻ってたからなんとか耐える。これが刃を全身に出してるような機体のやつならやばかった。

 一気にシールドが持っていかれたかもしれない。その点、ある意味運が良かったのかもしれない。なにせまだ終わってない。ここまで近いなら自身の武器で殴りつけてやったほうが効果が高い。それに俺の基本武器は槍だからなリーチは十分だ。まあだが、武器を取り出したところで相手は距離をとってた。それに目の前に木が。左右に分かれるようにして、俺たちは距離をとる。

 でもすぐに別方向から迫ってくる別のヴァレル・ワン。くっそ……めっちゃいるな。いや当たり前か。誰もがここのジャンプ台を使うことを狙ってる。ソレがわかってるのなら、順位をもう狙ってない奴等はこの山で妨害するのが確実だ。一番の嫌がらせになる。

「諦めたほうがいいか……」

 レースではない。ジャンプ台だ。ここまで固められてると流石に……今の俺のマグナムドライブの状態では厳しいと言わざる得ない。他にも諦める奴等は出るだろうし、ある意味で順位にそれほど影響はないかもしれない。

 それを期待して……

「おい! そっちに行ったぞ!!」

「くっそ、あいつ全く罠をふまないぞ!」

「どうやってあんなに早くここで動けるんだよ!!」

 そんな声が聞こえてきた。そして通る風。それにはわずかに色が乗ってるように見える。これは……この激しくも優しい風は……

「スオウか」

 見えない。それほどに速い。これだけの木々や、それこそ敵がたくさんいる山の中、全てを避けて行く一迅の風が吹いている。

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