命改変プログラム

ファーストなサイコロ

1604 校内三分の計編 214

「失敗……なんて日鞠ちゃんがするの?」

 摂理の奴が皆が疑問に思ってることをボソッとつぶやいた。なにせ日鞠は天才である。それは誰もが認識してる事実だ。なにせこれまで普通のやつではできないことをやってきた。学校の改革とか日の出ジャーナルの創立とか、他校との協力だって、学生だけで学校システムだって作ってる。こんなことを出来る奴を普通の枠に閉じ込めておくやつなんてのはいないだろう。だから日鞠は全校生徒に間違いなく天才的なやつと思われてる。だから失敗なんてしないし、自分たちとは違う世界にいるような気さえしてる奴らだっているだろう。

「しますよ。日鞠だって人間デス。そうですよね?」

 もう一度確認するようにクリスが日鞠に尋ねる。もちろん笑顔でだ。性格の悪さが滲み出る笑顔……はしてないな。普通に無邪気そうな笑顔になってる。さっきはちょっと企んでそうな笑顔してたが、今は純粋無垢な仮面をかぶってるみたいだ。この仮面の使い分けがクリスがクリスたる所だよな。こいつは本心なんて見せてないし、楽しそうにしてる学校生活だって、実際どう思ってるかわからない。そんな奴だ。そして、色々と人間関係に関与するのが好きみたいで、引っ掻き回すというか、そうやって雨降らせて地を固めるというか、そういう事もやってる奴だ。暇つぶしかな? 
 でも今回のはどういう事なのかよくわからないが。学校生活なんてクリスにとっては任務だろうからな。でもその任務に生徒会長選挙のような舞台に立つような指示はないと思う。いまいち、今回はこいつが何をしたいのか見えてこないというか……いや、最初は摂理に協力するためと思ってた。てもそれも途中で放り投げたからな。口ではまだ協力関係なんて言ってるが……僕と日鞠をくっつけて事実上摂理のこと裏切ってるし。こいつの仮面をかぶってる笑顔をみながらそんなことを考えてると、日鞠の奴も自然な笑顔で返してきた。

「ええ、そうですね。私だって完璧じゃないから。失敗くらいしますよ」

 肯定……それは別におかしな事なんかじゃない。そう普通の人にとってみれば、当たり前だ。けど……日鞠を普通と思ってない奴らがこの学校にどれだけ多いのか、コメント欄を見たらそれがわかる。だってコメント欄には「そんな!」「会長が間違えることなんてあるわけない!」「謙遜に決まってる!」「そうだよ! 会長は完璧なんだ!!」−−という声が大量に流れていってる。まあ実際、これからも会長である日鞠についていけば間違いない−−と思ってる奴らにとっては、会長は完璧でないといけないのかもしれない。
 
(いや、会長というか……日鞠が完璧でないといけないのか)

 会長というのはただの役職だ。今はその地位に日鞠がいるから、会長=完璧なんて図式が完成してしまってるが、実際はそんなの無理だと誰もがわかってる。てか完璧な人間なんてどんなだよ−−って言いたいし。それは誰にもわからないだろう。けど、日鞠という少女は完璧に近い。勉強も運動も出来て−−ってここら辺には世の中に探せばいくらでもいるだろう。クラス内でチヤホヤされたりする奴らは文武両道くらいはこなす。けど、日鞠はもっと範囲が広い。普通の高校生の影響力なんてのは学校内、クラス内がほとんどだけど、日鞠はそれにおさまってないからだ。

(日鞠は……まあやりすぎたのかもな)

 色々と規格外なことをやりすぎたから、もっともっと凄いことを日鞠はやってくれて、そしてそれについていけば、自分たちも上がっていける−−そう思ってる輩がなんと多いことか。それは配信者達がどんどん過激になっていくようなものと同じ? かもしれない。人は刺激を求め続けるっていうからな。でも次々と行為を激しくしていくなんてのは当然限界があって、そういう配信者達は犯罪スレスレに走っていくわけだ。日鞠は犯罪なんてしないが、やってることは信じられないような事ばかりだ。だからこそ皆そのおこぼれに預かれると思ってる。
 日鞠が失敗しない限りは……てか本当に日鞠が失敗するなんて考えは頭から抜け落ちてたんじゃないだろうか? だからそれが脳裏をよぎった時、恐ろしくなって、こんな動揺してる。なにせ皆が求めてるのは完璧な会長で、完璧な日鞠だからだ。それがどれだけ理不尽で恐ろしい要求か、みんな分かってなかったんだろう。

(普通は潰れるぞ)

 プレッシャーに潰れる将来有望なスポーツ選手なんていくらでもいるだろう。でもまあ、それさえ日鞠は利用してたと思うが……なにせ去年生徒会長になるとか言い出した時日鞠はこんなことを言ってた。

「皆に夢を見せてあげればいいんだよ」

 その夢に、皆がきっと酔いしれてたんだろう。

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