命改変プログラム

ファーストなサイコロ

1589 校内三分の計編 199

 朝起きると、金縛りに会った。そう思ったけど、どうやら違うようだ。なにせ金縛りってもっと冷たくて怖いものだ。深く深く、不安が押し寄せる……そんな代物だろう。けど今の私はそんな不安なんて感じてない。だからこれは金縛りではない。そういう事だ。

 私は首を横に動かして金縛りの正体を確かめる。それは摂理だ。摂理の奴が私の体に腕を巻き付けて抱き着いてるのだ。

「うへへ……好き」

 寝言でそんな事をいってる。ちょっと一瞬ドキッとする。けど次の言葉で冷めた。

「スオウ……」

 全く、よくわからない。あの男は別の女の物になった。そんなのさっさと忘れて次に行けばいい。なにせこの子はとても可愛い。私は容姿とか正直どうでもいい……と思ってるタイプの人間だ。

 いや、かわいいのとか好きだけど、汚いのは嫌いだし……でもだからって自分がどんなんかくらいは客観的に見てる。だからこそ、私はこんなひねくれてるのだ。

 私は自分が好きな本の中の主人公にも、ましてやヒロインにも成れないとおもってる。そしてそれはおおむね正しいだろう。なにせ私程度の奴なんてのは世界にはごまんとあふれてて、平々凡々だからだ。そんな奴は主人公にもヒロインもなれない。
 モブなのだ。けどこの私に絡みついて幸せそうに眠ってる奴は違う。その卓越した容姿は認めざるえない。特別だと。きめ細かな肌はすべすべでどこにもシミも黒子もない。お風呂で確認したから間違いない。

 目も大きくて、全てのパーツが完璧に配置された顔は、眠ってると作り物では? と思えるほどだ。流れる長いふわふわの髪はどこも絡まりなく、指を通すとこれだけ長いのに、引っかかるなんてことが全くない。そしてカーテンの隙間からの木漏れ日でだけでもキラキラと見えるくらいだ。
 それになぜかいい匂いがする。昨日は一緒にお風呂に入って同じように体を洗ったはずだ。同じものを使ったはず。だからもしかしたら私も同じ匂いを発してるのかもしれないが、彼女の匂いしか私には届かない。

 甘い香りだ。私はそんなに甘ったるい匂いッて好きじゃないから、そんなに匂いが強い奴は使ってない。だからこんなに香しいはずはない。でも彼女はその容姿にふさわしい甘い匂いを放ってる。
 それに彼女は細いのに柔らかい。細かったら、骨とかにすぐに当たり痛そうなのに……実際私は細いというよりも骨ばってる思う。けどなぜか彼女は細いのに柔らかい。そう感じる。胸か? 胸の差か? けどそれだけじゃない気もする。

「起きて。起きて……おきなさい」

 私はなんとか穏便におこそうとかと思ったが、全然起きないからその頬をつねった。餅のようにもちもちしてる。

「う……ん……いひゃいよひゅひゅかぢゃん」

 頬をひっぱったまま喋ってるから節理の言葉が変になってる。まあけど起きたのならいい。

「ほら、さっさと離れて、今日も学校に行かないとでしょ」
「行きたくないよ……」

 そういって摂理は私の胸に頭をうずめてくる。そんなぺったんこな所に顔をうずめても何もないわよ。自分でも私は貧乳だってわかってる。

「別に私はどうでもいいけどね。それができる訳? あんたに」
「ひどいよ鈴鹿ちゃん。ひどいからいっぱい甘える!!」

 そんな事を言ってくる摂理を私に好きなようにさせてやる。一通り気が済むと離してくれるだろう。なんだかんだこの子は優しい。わがままな処はあるが、誰かを裏切れるような子ではない。
 だからなんだかんだいっても学校にいくだろう。

 それから私は手のかかる妹が出来たように摂理をあしらいなんとか学校にきた。学校に来たら、あとは私の出番はない。なにせ私は摂理の生徒会長選挙には関与してない。はずなのに……摂理が私の手を放してくれない。
 今日はずっとそうだ。

「ちょっと……」
「鈴鹿ちゃんじゃないとヤダ」
「そんなこと言っても……」

 今日、あんたの隣でディベートに参加するのは私じゃないでしょ? けどこうなったら摂理は聞かないのだ。そういう手のかかる子だ。それを私も、そしてこれまで節理の活動を手伝ってきた人たちもわかってたから、なぜか私は今、ネットに顔を晒して節理の横に座ってる。どうしてこうなった?

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