命改変プログラム

ファーストなサイコロ

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 僕は向けられた槍を見ながらどうしようか考える。どうやらあの槍は特殊な効果がついてる様で、僕の風では穏便に済ませられないようだ。けど、下手に反撃すると春と同じ結果になってしまう。どうしたものか……あの槍串サイズなのに、結構ダメージ出そうなんだよね。

(下手に攻撃を食らうってのもな……)

 僕はそんなにHPが多い訳じゃないし、流石に……ね。やっぱりこうなったら逃げの一手か。

「会長、セラ、合図したら一斉に――」
「待ってスオウ」
「――おい」

 小声で指示を伝えようとしたら、会長が僕達の一歩前に出た。動いた事で照準が会長へとむく。そして一番近い所にいる騎士が何か言ってる。きっと警告だと思う。状況的に考えてね。それに対して会長はどうする気なのか。逃げるのを止めたんだからあいつにはきっと考えがあるんだろう。

 会長は……というか日鞠という奴はそういう奴だ。そして次に口を開くと、会長の口から騎士たちと同じニュアンスの音がもれてきた。僕とセラはびっくりだよ。二人して顔を見合わせてしまった。目が合った瞬間、速攻で顔反らされたけどね。

 一瞬手がピクッとしてたから、実は手が出そうになったんじゃないか……と僕は思ってる。そんな目が合っただけ手が出る程に、僕の顔はむかつくんだろうか? 結構ショックなんだけど。まあけど今はそれよりも会長の奴だ。あいつ……いつのまに彼等の言葉を……

 僕やセラには全く持って理解できない言葉……それをこの短い時間で理解できて、あまつさえ話せるようになるって……あいつ絶対になにかやっただろ。僕は会長の優秀さ、というか天才っぷりは誰よりも知ってるつもりだ。だから別に違和感はない。

 あいつならこのくらいはまあやってもおかしくない。おかしくないが、だからってあいつが全知全能の神じゃないとも僕は知ってる。あいつの天才性はその努力の証でもある。あいつは天才だけど、そこで止まろうとなんてしてない。

 そして神でもないから、やっぱり知らない事はいっぱいある。そういうのは努力して学習しないといけない。ちょっと聞けばその全てを理解できるなんて、それはもう人間じゃない。けどあいつは確かに人間なんだ。ただの一人の女子高生なんだ。

 だからきっと何かしたんだと思う。そんな会長は慎重に言葉を選んで重ねていってる。なんて言ってるかは分からないが、二人のニュアンスでそんな事を感じる。会長はあくまで冷静だ。それに対してトンボの騎士はいささか興奮気味。

 それに引っ張られない様にしてるんだとおもう。ここは僕達は何もできない。二人のやり取りを見守るしか……そうして何分くらいしてただろうか。次第にトンボの騎士の声が落ち着いていってるのがわかった。そしてこちらをチラリと見た会長がウインクする。

 どうやら上手く話しが出来たみたいだ。

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