命改変プログラム

ファーストなサイコロ

933

(叩きつぶれろ!!)

 僕のそんな願いは儚くも消える。迫りくる力、それを奴は……オリジンという力は切り裂いたからだ。奴の体が一本の針が伸びたように見えた。それだけだ。それだけで、輝く黄金の光も、燃え盛る灼熱の炎も消え去る。

「なに!?」

 ハンマーを持ってた奴がそう叫んだ。こっちも叫びたい。あんなのは反則ではないか? と。けど僕は言葉がでなかった。

「こんの化け物があああああああああああ!!」

 だが彼は諦めなかった。さっきよりも輝きは落ちるが、再びスキルの光を発して振り下ろす。今度はかき消さない。それとも出来ないのか……流石にあんなことがポンポンと出来るとは思いたくない。それに出来るのなら、僕の風帝武装や風だって掻き消さる筈。それはされてない。何か違いがあるのか? 

 わからない。そう思ってると、「ぐっ!?」という苦し気な声がきこえた。ハンマーの人が奴の全身から拡張された鎧によって全身を切り刻まれたようだった。

「会長……後は……頼む」

 そういう彼はマグマと同じように体の何か所かに透明なブロックが現れて更にその体は何重にも重なってみえた。まるでブレた写真の様。そのまま彼の姿は消える。

「そんな! 何故!?」

 そんな声がテア・レス・テレスの面々から聞こえる。だがそれもそのはずだ。だってハンマーの人のHPはまだ残ってた。消えるはずがない。もしかしたらどこかに転送でもされた? 可能性もなくはないが、その可能性は低そうだ。だってチームを組んでるなら、そこら辺はわかる筈。

 奴は初めて僕以外の奴に向かってく。スキルをかき消されたハンマーの人以外の迫ってた人たちだ。波状攻撃するつもりだったんだろう。けど、その勢いはスキルを潰された事でない。彼らにとっては一陣の不気味な風が吹き抜けただけだったかもしれない。

 事実、彼らは何が起きたか認識する暇なく、さっきのハンマーの人と同様のエフェクトと共に消えていく。いくらこいつでもたった一撃程度であれだけのプレイヤーのHPを削り切る事なんか不可能だ。なのに、彼らは消えた。そして……ぼくは消えてない。
 この違いはなんだ? 僕はウインドウ表示しようとしてやめた。嫌な予感がしたからだ。奴はもしかたらデータその物にダメージを与えているのかもしれない。だからあんなバグったかのように消えていくのかも。僕も体の一部がバグった様になってるし……でも僕はきえていない。

 普通はデータを守る為に安全システムが働いて消える様になってるのかもしれない。でもそれが僕には適応されてないのなら……悪夢が脳裏によみがえる。けど深く考える暇はない。奴は他のテア・レス・テレスの面々を侮蔑してる。

 僕は奴のあふれ出す風を掴む。物理的にじゃない。僕の風で奴の風を掴むんだ。怖気が背中に走る。だがこれは必要な事。風はいろんな事を教えてくれる。僕には奴の倒し方は正直わからない。でも……会長……日鞠なら……

(いや、あいつだけに任せるなんて酷だよな)

 テア・レス・テレスの面々は会長にその視線を送ってる。確かにそれはわかる。正しい判断だ。あいつなら……それはとうぜんの心理。けど、僕は考えることを放棄したりはしない。日鞠なら突破口を見つけてくれると信じてる。だけど、自分でも活路を見出す。
 出来るかどうかじゃない。諦めない事の方がきっと大事だと思うから。

 風のつながりを感じて奴はこちらを見る。今まではこいつの風と深くつながる事はしなかった。だけど、結局はオリジンだけが問題じゃない。この風帝武装も問題だ。僕はフラングランを交差して構える。

「来いよ、お前の風、僕が奪ってやる!!」


「命改変プログラム」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く