命改変プログラム

ファーストなサイコロ

894

「貴様等――」

 そう似非紳士がいう前にそれは火を噴いた。断続的な発砲音が周囲に響く。けど倒れた奴はいない。牽制か? 穴が地面に穿たれてる。屋根や周囲に展開したヘリからの来訪者たちがその銃口むけていて、存外に自分たちの方が有利だと、そういってるのがわかる。

「くそ、時間が掛かり過ぎたか……」

 似非紳士はそう吐き捨てる。そう思ってるのは似非紳士たちだけではないのか、張り詰めてた空気をでかい男もゆるめる。あのヘリから降りてきた奴らの登場で、決着がついたのかもしれない。けど、それはこいつらにとってはだけど……僕的には戦いは終わってなんかない。

 似非紳士たちは僕を奴らに引き渡す気のようだけど……こっちにしたら似非紳士もあのでかい男もそしてこいつらも同じだ。逃げなきゃいけない……けど、今の僕は鈍足だ。ヘリから降りてきた奴らは黒い特殊なスーツに身を包み、フルフェイスのヘルメットを被ってる。どれもきっと特別な素材とか、最新鋭の技術が注ぎ込まれてるんだろう。
 あの服とかきっと防弾素材だろうし、一・二発程度じゃきっとダメなんだろう。

 それに既に僕は囲まれてる。どうしたらいいのか……

「ほんと気の毒にな。奴らが一番おっかない」

 そんな事を似非紳士の奴がつぶやいた。そういってる間にも、ヘリから降りてきたフル装備の奴らはじりじりとこちらに近づいてきてる。

「離れろ、下がれ!」

 そんな声が聞こえた。それに素直に従う似非紳士。装備が違い過ぎるからだろうか……もう反抗する気はないみたいだ。おっかない……か。今のは奴の策だろうか? どんな策かはわからないけど……近づいてくる一人のフル装備の奴。それは僕よりも背が低く、体つきから女性だとわかる。胸出てるし、腰は括れてる。
 まあだからってなんだって感じだ。一人だけで近づいてくるから、うまくすれば人質にでもとれるだろうか? そうしたら……まだチャンスはあるかもしれない。
 あと二歩くらいで手が届く――そんな場所いったん彼女は立ち止まる。そしてこっちの体をじっと見るようにした。フルフェイスのメットのせいで視線はみえない。けど感じる。見られてるって。

 そしてさらに近づいてきて銃を肩の後ろに回して膝をついてきた。

(これはチャンスなんでは?)

 そう思ったら体が動いてた。だって生きるか死ぬか……日常を守れるか守れないかの瀬戸際だ。躊躇ってなんていられない。殺すわけじゃなく人質程度なら、体もそこまで抵抗はなかった。伸ばされた手を掴み、手首ひねってこちらに引き寄せる。

 これはラオウさんから習った実践的な捕縛術だ。関節を決めれば、人の肉体は動けなくなる。それはそういう構造だから。力に差があってもそれはかわらない。まあ彼女は女だが……訓練されてるだろうから、油断は禁物――

「え? ――ぐは!?」

 一瞬、雲に隠れた夜空が見えた。そして背中に走る衝撃。何が起こったのか理解できない。顔のすぐ上にはフルフェイスのメットがみえた。

(投げられたのか?)

 信じられないが、背中が痛みがそうだと訴えてる。どうやって? 関節は確かに決めたはずだ。そのまま引き寄せて、銃口を突き付ける予定だった。けど、逆に僕は投げられた。

「全く油断も隙もない」

 そういってフルフェイスの顔が近づいてくる。一発くらい殴られると身構えるが、顔が付きそうな距離で彼女は首筋のボタンを押してそのメットの顔部分だけをさらした。綺麗な金髪がはらりと垂れた。そして僕をまっすぐに見つめる。青い瞳。

「私デスよスオウ」
「クリス……」

 その瞬間僕の体から力が抜けた。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品