命改変プログラム

ファーストなサイコロ

869

 スカルロードドラゴンの頭に乗っかてる上半身だけの男。僕はその男に見覚えがある。まあ見覚えがあるといっても上半身にいる男は全身黒いし、なかなかに人相とかを確かめるのは困難だ。けど僕には見える。それだけの目がある。
 
「領主?」

 僕はすぐさま動いた。再び聖典を足場に跳んで背中側から頭頂部まで登る。黒い幕に覆われた様になってて、上半身も腕とかはなんとなくあるんだろうな……くらいにしかわからないが、顔はもっとはっきりとしてた。

「間違いない」

 こいつは領主だ。どうしてこんな所に? いや、そもそもスカルロードドラゴン自身が領主の成れの果て。ならこうやって領主の体が合ってもおかしくない。もしかしたらこれが弱点なのでは? こいつを引っこ抜くか切り離せば……スカルロードドラゴンはたおせるのかもしれない。

 だって考えてみれば、このクエストは難易度が高すぎる。高い体力に回復手段までもってて、更に討伐人数の制限まであった。更に各地を飛び回ってたこいつを誘導してこの街に戻すなんてことまでした。普通はそんな事簡単に出来る事じゃない。

 この街に戻さずにも倒す術があると見た方が自然。その弱点こそがこの領主じゃないか? 

「おい、聞こえてるか? まだあんたは正気なのか?」

 なんとなくそんな事を聞いてしまった。正気なはずない。だって街の人達を生贄に自信の力を求めた奴だ。こんな奴がまともであるはずがないんだ。いや、あってはいけない。

『おる……がとぉぉぉ……まだ……たらんのか。まだ永遠には……届かん。死が……迫って来ておる……』

 真っ暗な口を開いてそんな声が聞こえた。目の前から発せられてるとは思えない声だった。こいつは沢山の人達の命を捧げ、永遠の命が欲しかったのか? 身勝手すぎる。僕達にはこいつが死の象徴に見えてるが、どうやらこいつには僕達こそが死を運んでくる省庁に見えてるようだ。

 その声はおびえ、震えてる。こいつはきっと誰よりも死を恐れてる。確かに死ぬのが怖いのは当然だ。それは分かる。僕だって死にたくはない。けどだからって誰かの命を奪って自分の命の糧にしようとは思わない。いや、そんな事はリアルでは出来ない。
 誰かを殺したってその命が自分に加算されることは無いんだ。けどここはLRO……加算する術があってもおかしくはない。領主は死への恐怖から逃れる術をずっと探してたんだろう。そして見つけた恐怖の策がこれ。なまじ方法があったから……こいつはそれを実行してしまった。

『死にたく……ない。じにだぐなああああああい!』

 叫ぶ領主に呼応するように黒い槍が空一面を覆いつくす。そしてそれが自身を顧みずに降り注いだ。それは絶対回避不能の面攻撃だ。僕はすぐさま上に跳んだ。逃げ場所がないのなら突破するしかない。フラングランの黄色の宝石が輝く。二度目の雷が轟いた。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品