命改変プログラム

ファーストなサイコロ

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 案外圧倒されてるあいつはまあいつもあんなものでしょう。スオウと同じ力を使うあの存在はこちらの想定よりも力をつけてる感じ。私の考えではあれはプレイヤーとは言えない存在だとおもうのよね。
 スオウの奴は人以外に好かれそうというか……勝手な印象だけどね。


(まだかローレ!)


 耐え性がない奴ね。しょうがないから一発でかいのをかましてあげましょう。掲げる杖の先から迸る青白い電気。それが空の黒い雲に伝わる。詠唱の影響で発生してた雲は合図を待ってた状態。
 そして今、その合図を送った。雲から聞こえる物騒な音。そして迸る雷が奴へと向かう。いくら速くてもこれは避けようなんてない。肉体が雷の速さを超えるなんてありえない。まあそれは結局リアルではってことだけど。
 ここはLROだから何があってもいいようにさらに詠唱を始める。そもそも一撃で倒せる相手とも思ってないし。そしてその予想はやっぱりというか−−当たったみたい。上を向いて様子を伺ってたけど、自身の半径10メートルに貼ってある魔法に反応あり。どうやら標的をこちらに移したみたい。
 全く家の召喚獣は何やってるのやら、いつまでもその黒煙を神妙な顔で見てても意味ないわよ。ご自慢の鼻使いなさいよ。いや焦げ付いたような匂いのせいで役に立ってないのかな? なら耳も……とか思ってるうちにうねりが向かってくる。けど私は動かない。最高峰の魔導師は無闇に動かないもの。
 だってそんな必要がないんだから。私が足をつけ術式を施した場所は小さな要塞なりえるんだからね。それにここは私のエリア。この世界そのものが味方だ。圧倒的有利なのよ。いわばこいつはわざわざ罠に飛び込んできた哀れな獲物。
 私が余裕を崩す要素なんてない。ご自慢のうねりは私に届く前に結界によって阻まれる。そして私は完成した魔法を発動させる。


「もっと踊りなさい」


 次の瞬間、頭上から幾重もの光の刃が降り注ぐ。結界のおかげで自分を巻き込むのに躊躇なんてない。自慢の速さで大概は避けたようだけど、問題ない。これは一応距離を開けさせるのが目的。
 やっぱり近くにいるとやりづらい。茶々っと仕事しなさいよ……お守役を自称してるのならね。


(喰らえ!!)


 白銀の狼の口から飛び出すブレス。それが直撃して奴は海に落ちた。白い水柱が大きく立ち上る。ようやく仕事したわね。これでもう勝ったも同じ。これは海だけど海じゃない。高純度のマナの海だ。
 まあほぼ見た目は海と変わらないけどね。普通に魚介類も豊富だ。けど一度私が魔力を伝えれば……海面に幾重にも広がる魔法陣。そして聳える柱の中に奴を閉じ込めた。水の中だから風を使うこともできないでしょう。
 捕獲完了。ね、負ける要素なんてありえない。さてと……私は海の水を操作して奴を閉じ込めてる部分を伸ばして近づける。


「いい気味ね。さて、どうしてあいつを狙うのかしら? てかその存在はなんなの?」


 尋問するけど奴に動きはない。ここまで近づくと顔もわかる。けどなんだか印象に残らない感じ。普通にいい顔してるけど、意識を外すそばからその記憶が抜け落ちるような? 視線を外すだけであれ? と思う。これは世界のシステムが変な干渉をしてるってこと? 
 もっと解析を進めた方がいいわね。いいデータも取れてるし、これから忙しくなりそう。


『流石、優先順位第4位。目覚めかけてる者ですね。それとも既に?』


 聞こえてきた声は明らかに目の前の奴の声ではない。そもそも口動かしてないし。背後にいる奴なんでしょう。それに4位って何よ。私以外に一位がいるとか許せないんだけど。


「誰よあんた?」
『それはまだ言えません。けどこの子は壊さないでくれると助かりますね』
「理由は?」
『この力と彼に関係します。それでお分かりでしょう? この存在が誰がためか』


 その言葉を聞いて、思わず口元がほころぶ。なるほどなるほど、まあこいつ事態に興味ないから別にそれはどうでもいい。けど問題はそっちの方。


「あんたは何が目的なの?」


 答えが来るかわからない質問。そもそも裏で何かしてる奴が真実を言うことなんかまずありえないけど、せっかく出てきたんなら聞いておくべきでしょう。そう思ってると無邪気な声が聞こえてきた。


『楽しそうなこと。ただそれだけですよ。ふふ』


 何だかちょっとムカついた。だから目の前の奴に術式を仕込んだ。まあ向こう側にいるこの声の主に何かできるものじゃないけど、嫌がらせ的な?


「私は私が一番楽しめないと嫌なのよ」
『貴女、おもしろいですね。スオウとかとは違う』
「当たり前でしょ。人はみんな違うのよ」
『そうですね。ついつい同じ数字に見えちゃいます。けどその何が違うのか、私は気になるんです。まあそのくらいは見逃しますよ。それと忠告を一つ。このままでは潰されますよ。思惑通りに行けばいいですね。クスクス』


 その言葉を最後に奴自身は消えた。完璧に捕まえてたはずだけど……まああんな雑魚はいい。私には関係ないし。それよりも潰されるとは言ってくれる。それに思惑って、今の言葉の流れ的に私の思惑通りに行っても潰されるんじゃない? いろいろと修正したほうがいいかもしれない。
 そう思って私は思案する。

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