命改変プログラム

ファーストなサイコロ

774

 ピンポーン−−−−


 そんな音を数回鳴らすと扉が少し開いてラフな格好の鈴鹿が出てきた。ここは鈴鹿の家。日鞠から住所を聞いて僕たちはここにきた。別に何の変哲も無いマンション、築十数年といったところの普通のマンションだ。
 てかマンションってバリアフリーが行き届いて無いな。このマンションだけなのかもしれ無いけど、はっきり言って障害者には優しく無い。摂理を車椅子で運ぶの苦労した。そんな訳で鈴鹿の奴をちゃんと説得できるまでは帰れ無いな。
 こんな苦労したんた。成果が欲しい。


「何?」


 そんな僕の思いなんて露も知らず、鈴鹿は不機嫌そうな顔でこっちを見てくる。もうありありと不機嫌なオーラを出してるな。でも鈴鹿ちゃん……と摂理が言うとピクリとその肩が震えたのがわかった。
 僕が言うよりも摂理の方がいいだろう。そう判断して僕は後ろに下がって摂理を扉に近づける。


「鈴鹿ちゃん」


 再びそう呟く摂理。それを罰が悪そうに見つめる鈴鹿。摂理は多分、鈴鹿が唯一友達だと思ってる人物だ。僕たちとも話すけど、それはクラスメイトとしてかそれよりかはちょっと近い感じでしかない。
 摂理のそばにいつも行くからしょうがないって感じの会話しかないからな。けど摂理へはちょっと態度違った。いつもツンツンとした空気を発してるけど、摂理と話してる時はそういうのなかったからな。


「摂理……なんのよう? 私、忙しいんだけど」


 精一杯心を鬼にしてそう言ってる感じがする。これはもしかしたら僕たちの出番はないかもしれない。まあ僕は謝らないといけないんだけど……


「鈴鹿ちゃん、私のこと嫌い?」


 涙目でそういう摂理。男子なら確実に落ちる顔してる。けどその言葉は結構ずるい。誰が嫌いなんて真っ向から言えるよ。鈴鹿ならいいそうではあるけど、摂理には甘い。だから嫌いなんて……


「はあ……」


 溜息一つ、何かを諦めたように「入って」と鈴鹿が言った。そして僕たちは鈴鹿の家へと入る。第一印象はなんか暗い。電気つけてないからだけど……あとなんか雑多だ。段ボールが廊下にまではみ出してる。


「なんだかイメージと違うな」


 なんとはなくそういうと睨まれた。どうやら僕には失言癖があるようだ。鈴鹿の前では口を閉じてた方が良さそう。通されたのはダイニング。でもここも段ボールがいっぱい。四隅の端には天井付近まで積み上げられてる。
 無事なのは中央にあるソファとテーブル、それとテレビ周辺だけだ。摂理はそのまま車椅子で、僕と秋徒はソファへと腰を下ろした。鈴鹿はなぜか部屋の隅に立ったままだ。さっさと話し済ませるから座る気はないと……そういうことなのかもしれない。
 なんだか気まずい空気。僕も摂理も言葉を発せずにいると秋徒が動いた。人の良さそうな柔和な笑みを浮かべて鈴鹿へと話しかける。


「鈴鹿さん、明日はちゃんと学校来てくれる?」
「そんなの私の勝手でしょ」
「勝手だけど、摂理が悲しむ」


 その言葉にコクコクと摂理が頷くよ。そして視線で摂理は訴える。


「わかった、わかったわよ。行けばいいんでしょう? ちゃんと行くからもう帰って。それでいいでしょ」


 鈴鹿の奴は簡単にそう言った。まあこれで万事解決、よかったよかったと思ってたら秋徒の奴が視線を向けてくる。それはあれか? ここで謝れと? しょうがない。僕は立ち上がり鈴鹿の方を見る。


「何?」
「ごめん鈴鹿。朝のこと謝る。酷いこと言ったな」


 そう言って頭を下げた。少しだけ沈黙が流れたけど息を吐いて鈴鹿は言った。


「別に……私が辛気臭いのは知ってるし……」
「何かあったの?」


 摂理が恐る恐るというふうにそう聞いた。


「この家、どう思う?」


 その質問に僕たちは固まった。だって……ねえ……下手なこと言えなくない? とか思ってると鈴鹿は言った。


「薄汚いと思うでしょ? このダンボールの山はね、私の両親の見栄みたいな物」


 ダンボールが見栄とはこれいかに? 


「私の両親、派手好きなの。男遊びも女遊びもどっちも公認してるみたいな変な夫婦。そんな二人の間の子が私。意外でしょ?」


 摂理と秋徒は空気を読んて黙ってたけど、僕は思わず「たしかに」とか言った。でも小声だったしセーフだよね。


「別にそれだけなんだけどね。放置とかされてるわけじゃないし、ちゃんと私のことは気にかけてくれてるとは思う。でも二人の見栄は私には滑稽に映る。そんな二人は私によく言うのよ。辛気臭いって。
 別に悪口じゃないの、私がちゃんとすれば男子は放っておかないとか、そういう親心? 的な感じでね」


 なるほどね。たしかに鈴鹿は目立たない。けど整った顔立ちはしてる。メイクとかすれば化けるタイプだとは思う。まあけど、この場に素で輝き放つレベルの奴がいるから適当には言えないけど。


「でも私はそれが嫌なの。どうして着飾ったりしないといけないの? どうしてありのままじゃダメなの? もしもそれで受け入れられたとしても、そうしないと誰からも受け入れてもらえないの? 
 そんなの私なの? 私はそうまでして見栄を張りたいなんて思わない。けど、辛気臭いって言われるのも嫌なの。別に私辛気臭いわけでもないし……」


 そう言って睨まれた。けど案外子供っぽいところあるんだなって思った。いつも冷静というか冷徹というか、そんなふうに装ってると思ってたけど、鈴鹿は鈴鹿なりに頑張ってたのか。


「僕は的確に地雷を踏んだわけだ」
「そうね。ちょうど親と喧嘩した後だったし、あれは私もいけなかった。ごめんなさい」


 鈴鹿が謝った。驚天動地だよ。そうこうしてる内に鈴鹿のお母さんが帰ってきた。それにさらにビックリ。なんか……鈴鹿のお姉さんみたい。はっきり言って言われないと親なんて思えない。


「あらあらあら、お友達? お友達よね? 凄いじゃない! どっちを狙ってるの? てかなにこの子! ありえないレベルの美少女じゃない!!」


 鈴鹿とは本当全然に違うタイプだった。帰ってきたと思ったら着替えてまた出てったしね。どうやら夜のデートがあるらしい。ぽかんとしてると鈴鹿が「いやになるでしょ?」と、呆れたような顔で言ってきた。
 僕たちはどう答えていいか、再び微妙な空気になった。

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