命改変プログラム

ファーストなサイコロ

見つめ直すは自分の力

 鍛冶屋の所を後にして僕は最近の拠点になってる例の街に戻ってきた。一回自分のエリアを介せばすぐに街から街へと移動できるようになったのは便利だよね。前はそれこそスキルが必要だったし、アイテムは高価だったはずだ。


 でも今はそんなことを気にせずに移動できる。ちゃんとリアルに移動するってのもいいんだけど、煩わしい時は煩わしいからね。そんなことを思いながら町とフィールドを隔ててる大層な門をくぐるといきなりそれは始まった。


 慌ただしく流れる人々。そして喧騒は怒号になってて、それは明らかにいつもの光景と違ってた。泣き叫ぶ子供の声。熱り立つ町の人々の視線は一箇所に集まってる。けどそれを見ようにもこう人が多いと確認できない。


「いったい何が?」


  何とか人をかき分けて見える位置まで行ってみれば、そこに地面に膝をついて何かを抱きしめてるようなシスターの姿があった。そのシスターの丸まった背中の端から小さくみえるそれはくったりした手。そしてその細い腕についてるアクセサリーには見覚えがある。
  
(あれは……)


 シスターの前方には鎧に身を包んだ兵士の姿。そいつらが不遜な態度で見下げてて、町の人たちの怒気をはらんだ視線がそいつらに集中してるのを見ると状況が段々と理解できてくる。要はあいつらが悪者なんだろう。いやいつもここの兵士たちは悪者なんだけとね。横暴な領主のいいなりで色々と横暴なことをやってるからな。
 強い奴に従うだけで自分達も偉いとか勘違いしちゃってる典型というか、まさに小物って感じの悪者やってるよ。そして今回もそいつらがあの子に酷いことをした。そういうことだろう。 前々から住民の不満は蓄積してた。それが今回のこれで爆発したのかもしれない。民衆が立ち上がればあの領主を落とせるか? 
 横暴で残虐な権力者に引導を渡してきたのはいつだって立ち上がった民だったはず。皆で立ち向かえばこわくない? でも領主が得体の知れない力を得ようとしてるからそうとも言えない。この街全体を包み込んでる陣を形成してるんだ。あれが完成したらこの人たちがどうなるか……でもとりあえずはこの場をどうするかだな。
 このままじゃ衝突しそうな勢い。そうなるともう後戻りはできない状態になる。一揆状態に突入というか……でもどうやって止める。「まあまあ落ち着いて−−」なんて下手にいったらこっちが袋叩きにされそうな雰囲気なんだけど。


(いや、下手に止める必要もないか。ようやく起きた変化なんだから)


 そうも思うけど、でもここは拠点でもあるし、街中で常時戦闘状態はちょっとな……とも思う。


「はっそのガキが悪いんだよ。文句があるのなら聞いてやるよ。力づくでな」


 そう言って住民を挑発する兵士たち。にやにやとしてとても感じが悪い。まさに悪者。絵に描いたような悪者である。住民たちは怒ってはいるけど踏み出せないでいるようだ。さすがに相手は武器持ちだからな。躊躇ってもしょうがない。ここは僕が先陣を切ってやるべきか……


「こないのか? ならこいつらは死ぬぞ!!」


 クッソ、勿体つけてる時間はない! 振り下ろされる白光りする剣。あれが血で染まるのは見たくない。まあ血で染まることはないんだけど……気持ちの問題だ。僕は足に風をあつめて一気に飛び出した。


 −−キン!!−−


 という甲高い音ともに、弾かれた剣が宙を舞う。僕の行動にざわつく町の人々。でも兵士達は楽しそうな笑みを浮かべてる。ようやくボコボコにできるやつが現れたといった表情。 


「おいおいなにやってくれてんだよ? 覚悟は出来ちゃってるのか」


 そんなことを言う兵士にはなにも返さずに、僕はため息一つついてさらに動いた。いい気になってた奴を一人残して周りの奴等をとりあえずノックダウンしてやった。


(やれる、この剣なら!!)


 チラッと手元の剣を見てちょっとにやける。そして余裕ぶっこいてた最後の兵士に視線を向ける。目が合うと自分が劣勢になったと理解できたのか後ずさりしていく。


「貴様……こんなことしてタダで済むと思うなよ!」
「はっ、どうなるのかその身で示してくれるんだよね?」


 逃げようとしてる兵士に僕はにじり寄っていく。立場逆転とはこのことだ。後ろの住民たちからの怒声が酷い。やっちまえーとか聞こえるぞ。やる気はないんだけど、でも十分に脅しておく必要はあるよな。また同じようなことされても困るし。でも恐怖を植え付けるってのは得意じゃない。こういうのはラオウさんが得意だろう。
 あの人、下手したら何もしなくてもトラウマ植えつけられそうだし……そんなことを考えてると追いつめてた兵士がこっちに手をかざしてきた。そして展開する魔法陣が輝く。どうやら一矢報いる気のようだ。


「死にやが−−」


 そんな言葉が聞こえた気がしたけど、僕が魔方陣ごと真っ二つにすると言葉は途切れてしまった。信じられないとでもいうような顔……その表情は次第に中央にシワが寄って行き絶望した表情になっていく。これは案外トラウマを植え付けれたかもしれない。なるほど、悪くない気分。そんな風に悪役気分を理解してると風が……一陣の風が吹いてきた。


「ツッ!!」


 甲高い音ともに鍔迫り合いが起きる。目の前には黒いローブに身を包んだ何者かがいる。こいつが何者かその正体までは分からない。けど……この剣は見間違うはずもないもの。今でもわかる。その重さ、感触……目を閉じれば今のこれよりも思い出すのは今つばぜりあってる方の剣だ。ふわっと髪を浮かばせる風。それは次の行動を伝えてくれる。


 僕とそいつは同時に後ろに飛んで、そして再び距離を詰める。二刀流同士、素早い剣戟を繰り出し続ける。


(いける……この剣なら!)


 その確信が持てる。前は手も足も出なかった。けど今はやれてる。やりあえてる。人がごった返してる地上から壁を伝って建物の上へ。


「なんでお前が……なんでここにいる!?」


 剣を交えながら、言葉を交わす。いや交わしてないか。奴は何も言わない。


「つっ−−」


 スビードが増してる? いや、わかってたはずだ。風の勢いはこんなものじゃない。見失なうな。もっと見るんだ!! この目なら……どこまでも見続けられる。


「こっちの風が……」


 奪われる。猛りうねりだした風はイクシードが持って行く。僕の真似してみました−−程度の支配じゃ太刀打ちできない。けど今は風だけじゃない。でもそれは使えるってレベルじゃない。特にこの相手では……


(火力を活かすかしない。接近してきたところに最大火力をぶつける。それしか手はない)


 フラングラン頼む。あの一撃を再び。あの巨大な壁を穿った時の威力ならきっと届く。届かせる。自分の僅かな風で致命傷を受けるギリギリでかわす。この目で見失わない限り、生きてられる自信はある。だからその時を……その時を……


(来る!!)


 うねりが全ての風を統べる。たたき潰しに来た。僕の時は緑色の光が見えてたけど、風の色は僕の時とは違う。集まっていくほどに濃く,その色は黒くなっている。まさに邪悪さを体現してるかのような色。刀身にまとってるうねりも黒く邪悪に染まり、凶悪な力を振り下ろしてくる。だけどこっちだって前とは違う。
 収められてる宝石の輝きは十分。白い刀身は輝きを強め、スパークを放ちだす。右手に力を込めて−−うねりの中心部に狙いを定め−−


「いっけえええええええええええええええええ!!」


 光が弾けて、全てが一瞬で消え去った。風も音も……空気が静まりかえってる、でもそれは刹那のような時間。空気はすぐに奴の元で動き出す。そうだ、セラ・シルフィングは双刀の剣。うねりは二つある。


「つっ……」


 詰んだ。今のはもう打ち止めだ。もう片方の風だけど、支配力では向こうが上でこっちに傾く風はない。防ぎようがない。どうすれば……どうすれば……そんな思考の堂々巡りをしてる間にも奴はうねりをこっち向けて叩きつけてくる。


「ぬあ!!」


 避けるしかない。でもスピードは向こうが上。逃げる気なんて不可能。せめてもう一撃打てれば……いや、でも無駄か。既に両のうねりは同じに戻ってる。こっちが回復したとしても、同じことの繰り返しが起きるだけ。それじゃあ何も変わらない。屋根を飛び越え逃げに徹する。下に降りることはできない。
 だってこいつ多分周りへの被害とか微塵も考えてない。下に降りたら凄惨なことになりかねない。そんな事させるわけにはいかない。下にはここに住んでる住人が沢山いる。破壊される屋根の瓦礫が宙に舞う。屋根に穴が空いてごめんだけどそこは許してほしい。とりあえずこうなったら街の外に出るか。そこまで持つかわからないが……


「−−って!?」


 思った瞬間、追い抜いて前に来られた。ここまでかもしれない。けどただではし−−


「ぬおおおおおおおおおおおらあ!!」


 大轟音ともに建物が半壊した。おいおい僕がせっかく気を使ってたのに、そういうの全部吹き飛ばしたよ。僕の立ってる手前で丁度半壊した建物から声が聞こえる。


「ハアハア……大丈夫ですかスオウ?」
「何とか。けど油断しないほうがいいですよ。その程度でやられる奴じゃないですよ」


 どうやら援軍はオウラさんのようだ。それならこの破壊力も納得。彼女はパワータイプだからね。ウンディーネと言う種族はそこまでパワータイプってわけじゃないけど、この人はなんか最初から規格外だった。そういう風に武器やスキル、成長をさせていけば多分この世界ではなんだってどのようにだってなれるんだろうけど、オウラさんは最初からこうだったからね。
 なんなんだろうね。オウラさんの潜在能力までこのゲームは見抜いたってことだろうか。でも彼女の強さは頼りになる。実際既に僕には打つ手がなかったからな。そう思ってるとふと吹く風を感じた。


「オウラさん!」
「わかってます。邪悪な気配は感じてます。そこです!!」


 そう言ってオウラさんは手から水弾を放つ。けどそんなんじゃ奴は止まらない。でもそれは想定内のようで、剣に対して拳を握り振り抜いた。ぶつかり合ったと同時に拳ひとつで押し返す。なんという人だ。けど圧倒的な速度の差が相手に一歩先手をとらせてく。反応できて反撃もできてる……けど、相手は二刀。
 うまく体をひねって防御しつつも向こうはオウラさんに確実に傷を刻んでく。だけどオウラさんはそれを気にしてない。それもそのはず、どうやら回復魔法を誰かが欠けてるらしい。視界に入ってるのはオウラさんしかいないけどきっとどこかに隠れて様子を伺ってる奴がいるんだろう。それはきっとあいつで間違いないと思うんだけど……なんで僕は回復してくれないわけ? 
 こっちにも掛けろよ回復魔法!! まあ文句言ってもしょうがないから言わないけどさ、危なくなったらさすがにかけてくれるだろう……多分。てな訳で僕も再び参戦する。二人ならやれる可能性はある。下に降りるのはどうかと思うけど、ここでラッシュをかける方がいいだろう。


「一気にたたみかけましょう!」
「当然! そのつもりですよ!!」


 僕たちは二人で奴に攻撃を仕掛ける。さっきまで劣勢だったけどオウラさんの圧倒的な戦闘経験とセンス、それに的確な支援が加わって状況は好転した。追いつめてる−−その実感がある。ここでこいつを倒せる? 何もわかってないけど……倒せるのならここで−−


「イクシード……3」


 ささやかな呟きだったはずだ。けど確かに僕には聞こえた。まさかだけど……できない可能性なんてなかった。それはもう僕の力じゃないんだから。荒ぶる風が濃く強く収束してく。うねりが背中から四本生え翼みたいになってる。なるほど、はたから見たらこんな感じなのか。何か禍々しいな……でもそれは奴の風の色のせいだと思う。
 奴の風は黒い。だからこそ威圧感も一層だ。てか……そんな悠長に構えてる場合じゃないな。イクシード3なんて……どうすれば? 奴が動く。さっきとは比にならない速さ。そして威力もさっきの比じゃない。僕たちは一気に吹っ飛ばされた。石畳を転がりそこらの民家の壁を破壊する勢いでぶつかる。流石にここまで派手に暴れると周りが騒々しく逃げ出すようだ。
 最初のところからは距離を取ってたからそれなりに静かだったんだけど……どう考えても僕たちのせいだよね。でも今からはもうここら一帯灰燼に帰す事を許してもらわないといけないかもしれない。イクシード3はめっちゃ派手な技ってわけでも広範囲を殲滅できるものでもないけど,対峙してみて改めてわかる。


「強力……だな」


 呟きながらなんとか体を起こす。倒せそうなんてのは幻想に過ぎなかったか? 流石にそんな甘くはない。二人がかりのはず……現にさっきまで戦えてたのに……今はてんで歯が立たない。どこから回復してくれてるのかはわからない援護も間に合ってない。向こうの攻撃速度が速すぎるんだ。速くて強くて重い。これじゃあすぐにやられてしまう。


 いつの間にかフラングランの輝きは戻ってる。一矢報いることぐらいはできそうか? そんなことを考えてると、オウラさんが頷く。何? 考えがわかってるのかあの人は? でもあの人ならそのくらいできそうな気もする。きっとオウラさんならうまくやってくれる。だからこっちは自由にやろう。オウラさんが前に出て奴の注意を惹きつけてくれる。
 でもその程度でここだってタイミングは現れない。そもそも相手が速すぎる。僕の目には見えてるわけだけど、多分オウラさんには……彼女がそれでもまだ倒れてないのはその戦闘経験で対応してるから。本当に大したものだけど時間はない。僕もちょくちょく参戦しながらその時を探す。でもやっばりイクシード3は強力ではっきり言うとスピードだけの問題じゃなく、近寄るのも問題だった。それはあの背中から生えてる四本のうねり。あれが風の対流を乱して防壁みたいになってるようだ。
 そんな強力な防壁ではないけど、こっちの攻撃は確実にワンテンポ遅れる。そのワンテンポがこいつとの戦闘では命取り。だからこそ効果は絶大。渾身の一撃はきっと通る。でもそれには奴の動きを一瞬でも止めないと。


「ようやくですねメカブ。意地……見せてあげます!!」


 そんなことを呟いたオウラさんはその拳を地面に叩きつける。衝撃波で地面の石畳が割れてせり上がる。その時周囲が淡く光りせり上がった石畳が宙に浮き一斉に奴に攻撃を仕掛ける。全方位からの攻撃,けど奴は背中のうねりを利用して全部をいなす。
 こんなんじゃ傷一つ付けられない。けどそんなのは百も承知。今のの狙いは視界を防ぐこと。実際今の一瞬でラオウさんが槍見たいのを作り出してた。三又の青い槍。それにラオウさんは全ての力を込めて至近距離、真正面から投げつける。
 流石のやつもこの距離ではかわすことはできない。けどきちんとセラ・シルフィングで受け止めてはいる。そこらへん抜かりはない。でも勢いが凄すぎて奴が後方に飛ばされてく。セラ・シルフィング……しかもイクシード3を発動させてる奴を吹っ飛ばすなんて、風そのものを吹き飛ばしてるようなものだ。
 しかもそれは普段吹いてるそよ風じゃない。台風並の暴風だ。それを吹き飛ばす……できなくはないことはわかるけどさ、オウラさんはやっぱりおかしい。だって彼女はそこまで長く……というか積極的にスキルとかを成長させてるわけじゃないらしい。子供達の面倒も見てるしそんな遠くには行けないからしょうがないよね。
 でもそれでもこの強さ……


「スオウ君!」


 その声にハッとする。こんな千載一遇のチャンスを見逃す手はない。フラングランは回復してる。僕の気配が変わったのがわかったのかオウラさんが何か槍を操作してその形状を変える。
 元々が水で作った槍。形を変えるのは簡単なんだろう。爆発するように槍が弾けて奴に襲いかかる。一点集中から突然の範囲型への切り替え。さすがに奴も避けれなかった。そこに更に追い討ちをかける。空に厚い雲がかかる。そして不気味に聞こえる魔物腹の音のような音。
 更には僕に掛けられる魔法補助。それらが合わさってより強力な一撃が奴を襲う。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 フラングランが輝く。放たれる雷光の一撃は今までの僕の攻撃で間違いなく最大のもの。更に奴は濡れてる。多分それをオウラさんは狙ってたんだろう。閃光は一瞬。落雷した時のような轟音が周囲を震えさせた。
 今のは防げたとは思えない。確かな手応えがこの手にはあった。けどその風を僕は感じてしまった。土埃でその姿は見えないけど……風を僕が見逃すはずがない。しかもさっきよりも質が上がってる。
 その時、土埃が一気に晴れた。吹き飛ばしたと言ったほうがいいだろう。そしてその姿を現した奴は再びその姿を変えてた。


「風帝武装まで……」


 それはまさに風の鎧。もうこうなったら以前の僕がやれたこと全部できると思ったほうがいい。絶望……今の感情はそんな言葉がふさわしい。正直……勝てる勝算が見えない。僕たちは文字通り全てを出し切ったと言っても過言じゃない。
 それでも届かない。寧ろ奴にしてみれば本番はここから……風帝武装は僕の切り札だった。正真正銘僕の最後の。
 そこまでは追い詰めたと言えるかもしれない。けど、ここまでだ。僕たちにはもう余力がない。いやどっかで隠れて魔法をくれてたメカブの奴はまだ余力があるだろうけど、あいつは多分戦闘力は低い。だからこそ隠れてるんだろうしな。
 そう思ってるとオウラさんがいきなり笑い出した。恐怖でおかしくなった? とかそんなことはこの人に限ってはありえない。その声はよく聞くとなんだか嬉しそうに思える。


「はははっははっ凄い! 凄いですよ!! 全力をもってしても届かない敵!!」


 それは歓喜の叫びだった。彼女は飢えてたのかもしれない。自分以上の強さというやつに。リアルでは彼女ではもう満足できることはなかったんだろう。彼女は強くなりすぎてた。明らかに人の限界を超えてた。
 それでも銃火器使って数で押せば彼女でも殺されるだろう。でもそれは彼女の求める戦いとは違うのかもしれない。それは戦いではなく、彼女にとっては戦争だ。多分だけどカテゴリーが違うんだと思う。
 彼女が真に求めてたのはこういう戦いなんだろう。肉体と肉体のぶつかり合い。きっとオウラさんはこれからもっとこの世界にのめり込んでいくだろう。それがわかる。だって今の彼女は凄く輝いた顔してる。それは幼女のような顔だ。初めて世界という広さを知った顔。
 そんなことを思ってるととうとう奴が口を開く。


「了解。やはりというべき成果は見れた」


 なんだ? 誰かと通信してる? すると奴の姿が消えた。そしていともあっけなくオウラさんが倒された。あのオウラさんさえ一瞬も反応できなかった。野生という直感を持ってる彼女さえあれだ……僕は多分殺されてもそれに気づけないだろう。
 それほどに自然な流れ。風に……大気に乱れが一切なかった。使ってる時は気づかなかったけど、これが風帝武装の最大の違いなんだろう。風帝武装は自然を体現してると言える。イクシードとかその他の力と呼べるものは強引なんだ。きっとそれはどんな力にも言えることで僕たちが意識的に使役するってこと周囲を歪めてる事と同義。
 だから流れとかなんとなく空気が変わったとかわかる。それによって敵の強大さだって図れる。それは絶対的に不自然だから、生物である僕たちはそれを感じ取るんだろう。でも風帝武装にはそれが一切ない。そこにあることが自然。その恐ろしさが対峙してみて初めてわかる。
 本当に自分は自分が使ってた力を知らなかったんだと思い知らされるよ。そんなことを思ってるといつの間にか……本当にいつの間にか目の前にいた奴に剣を向けられる。


「だが、まだ足りないな。もっと深く可能性を感じろ」


 プスっという感じで簡単に剣が左肩らへんにめり込んだ。その瞬間、燃えるような痛みが広がっていく。


「ぐっづうううううう!!」


 なんとか声を上げることは耐える。けどこれはシステムの痛みとは違う。LROはこんな痛み再現しない。これは本物のリアルの……


「あっが!?」


 何かがセラ・シルフィングから流れ込んでくる気がする。自分の姿が何だか砂嵐に汚されてるような気がする。


「少し思い出すがいい。もう走り出してるんだからな。止まろうとするなよ」


 その言葉が何か二重に聞こえる。男の声と女の声。男の声はこいつ自身だろう。けど女の声は誰だ? いや聞いたことある気がする。けどそれを確信する前に僕の意識は途絶えた。

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