命改変プログラム
珠洲の庭
「うう〜ん……むにゃむにゃ……」
エアコンが快適な温度を保ってくれて、よく通る教師の声は子守唄のよう。人類の英知に感謝しつつ快適な夢見こ心地気分を味わってると頭に衝撃が落ちてきた。
「おら、堂々と寝るな。ぶっ叩くぞ」
「ぷっ叩いてから言うなよ」
頭をさすりながら僕は教師を睨む。まあこっちが悪かったけどさ。でも最近は寝不足なんだ。なんせエリアバトルが大量に続いてる。しかもいろんなチームと組んでやってるから精神力も削られる。ほんとこれも全部一心の奴のせいだな。あいつが毎回毎回僕を生贄にするから、いろんなチームに出向かなきゃいけなくなってる。
僕自身はそこまでコミュ力高くないんだからやめてほしい。何が悲しくて毎回初対面の煩わしさを味わわないといけないんだよ。そんなこんなで最近は疲れ気味だ。
「ふあぁ〜あ」
大きなあくびが出る。もう一眠りしたいところだけど、さすがにまずいか。でもぶっちゃけ授業聞いてるよりも後で日鞠に教えてもらったほうが身につくんだよね。それはまああんまりやりたくないだが……そもそも最近はまた忙しそうだしな。学校にはちょくちょく来ては出て行ってるのを教室から見ることができる。
マジであいつの忙しさは学生のそれじゃない。色々と心配……はしないけど、自分まであいつの手を煩わせるのはどうかと思うし,気合い入れるか。
「うし」
そんな意気込みを一人でしてると全方の席の摂理と目があった。こっちを見てニコニコしてる。まああれは嘲笑ってるんだろう。
「ん?」
なんだか自分の前の男子達が小刻みに震えてる。それに耳もなんだか赤いし……どうやら笑ってる摂理に興奮してるようだ。見た目は最上級だもんな。ここの男子達は自然と摂理に目がいってるんだろう。
【昼休み】
空き教室でいつものメンバーで弁当を突く。僕と秋徒と摂理と鈴鹿だ。なんで空き教室かというと教室じゃ摂理が落ち着けないのと,それから−−
「お待たせしましたデ〜〜ス!!」
こいつも一緒に食うためだ。クリスのやつは元気いっぱいに入ってきた。こそこそやってるのにそんな目立つ入り方するなよな。
「あははごめんデース」
僕の微妙な表情に気づいたのか、軽くそういうクリス。でも全然気にしてないだろこいつ。クリスも一緒に食いたいとか言うから付き合ってやってるのに……今この学校は摂理派とクリス派、それに対立はしてないけど水面下では大多数がそのはずの日鞠派と三つ巴状態。
だからそれの神輿二人が一緒に食事とか他の奴らに見られたら面倒なんだ。実際は摂理もクリスもこの通り仲良いわけだけど、クリスのやつが無駄に信者どもを煽ってるから質が悪い。
「おーヅカの弁当美味しそうデス。じゅる……」
「あげないわよ」
「なんでですか! なんでですか! 日本にはお弁当のおかずを分け合う文化があるって聞いてます!」
「私は自分の領域が侵されるのが嫌いなの」
そう言って黙々と箸を動かし続ける鈴鹿。相変わらずドライなやつだな。別に弁当のおかず一つくらいいいだろうに。まあ鈴鹿の弁当はちっちゃいけどさ。でも女子の弁当って大概小さいからな。そうやって少食アピールしながらよくお菓子とか間食してるんだけどな女子って。
一気に食うか、こまめに食うかの違いしかないよねそれって言いたいけど,そんなこと言ったら女子の集団に批判されるからな。
「まあまあ,ほら私のと交換しよう」
「摂理のはお菓子じゃないデスか! そんなの違います! 違うんデス!」
クリスのやつがマジにそんなこと訴えてる。そんなにおかず交換したかったのかよ。てか確かに摂理のは弁当じゃなくお菓子だな。てか摂理の奴ってかなりの偏食なんだよね。お菓子はなんでもどんな商品でも手を出す癖にご飯となれば必要以上に神経質になりやがる。
でも実際、こいつそのうち太るよな? 多分ずっと仮想空間にいたから太るとかの概念が摂理からは抜け落ちてる気がする。「太るぞ」って言っても「まっさかぁ」としか返さないもん。絶対に自分の肉体がリアルにあることを未だにわかってないと思う。なかなか風呂にも入ろうとしない奴だしな。
まあまだ歩けないし入りづらいのはわかる。けど女の子なんだよ? もう少し気にしたほうがいいよね。そもそも摂理には汚れるってことが理解できないのかもしれない。運動しなくったってリアルでは汚れていくんだよ。でもそれは見た目でわかるには相当な期間が必要で、もともと美少女な摂理ではなおさら……
「そんなに何か食いたいのならほら、これやるぞ」
「ハァ、まあこれでもいいですけど……」
何だこの反応は? 何かムカつく。せっかくおばあちゃんが作ってくれたおかずなのに,てか摂理の分もあるんだしそれ食えや。当然のごとく皆の分用意してくれてる。でも摂理は毎回食わない。でも食わずに返すのは忍びないからかいつも押し付けてくる。
まあ育ち盛りの年頃だ。弁当二つなんてなんてことない……秋徒はね。大体摂理の食わない弁当は秋徒がありがたく受け取ってる。こいつは体でかいからか、僕よりもよく食べる。そして最近はそれをアテにしてるからかクリスに分けようという気はないッボイんだよな。
「それにしても最近はいい感じデス」
飯を頬張りながらそんなわけのわからない事を呟くクリス。皆そんなクリスの発言に首をかしげてるから僕が「何のことだよ?」と聞いてみる。すると随分もったいぶった笑みを作ってこう言った。
「わかりませんか? 火種が至る所でくすぶってる感じがデスよ。今にも爆発しそうな感じがたまりません」
何とも危ない事を言う奴である。本当にこいつは……
「お前はここをどうしたいんだよ?」
「別に楽しくしたいだけですよ。楽しいのは皆さん好きでしょう?」
気兼ねなくそう言ってるように聞こえるけど,絶対にその言葉には裏があるよな? いい笑顔してるところがなんかまた怖いし……
「ねっ! ズカ!」
「うっとおしいから離れてくれないかしら? あと話しかけないで」
「酷い! 留学生に対してあんまりの言葉ですよそれ!!」
鈴鹿のそんな言葉にコクコクと文句を垂れるクリス。けど鈴鹿の奴は毛ほども聞いちゃいないっぼい。流石だなあいつ。どうあってもクリスの奴は視界内でチョロチョロされるとちらつくから厄介なんだけど……見た目が見た目だしな。それを気にも留めないなんて凄いスルースキル持ちだ。
騒々しかったお昼時もあと少し、それぞれが弁当箱を端に置きだらっとしてる。外からはこの寒いのに外で元気にはしゃいでる奴らの声が聞こえてた。外は薄らぐらい色をしてる一雨来そうな……でも別にそうでもないような色。そんなこと思って外を見てると日鞠の奴の姿が見えた。相変わらず忙しそうな奴だ。昼飯は食ったのだろうか?
校門の方へ向かってるってことはまた外へ行くのか。本当、学生とは思えないスケジュールしてるなあいつ。こっちはこれから五限六限があると思うと憂鬱なのに……まあ変わりたいとは思わないんだけどね。
「ふっ、戻ってきたとき居場所があるとは思わないことデス」
なんか突っ込んで欲しそうなことをクリスが言ってるけど無視しとこう。めんどくさそうだからな。いつ突っ込んでくれるのかという期待の眼差しやめろ。
「うー、なんで宿題なんてあるの〜? 上目遣いで謝ればイチコロなのに〜」
「そんな姿勢だと教えてあげないわよ。ちゃんと真面目に取り組みなさい」
「はーい」
そう言いながらボッキーをポリポリと口へ運ぶ摂理。そしてその手を叩く鈴鹿。どうやら摂理の奴は宿題を忘れてたようだ。てか摂理が宿題を真面目にやったのって学校に通いだした一週間くらいだけしかなかった印象だ。あの頃は僕も一緒に付き合ってやってたけど,いつしか宿題を教えて欲しいなんて声も聞かなくなってたな。
どうしてたのかと思ってたけど、どうやら教師を手玉にとる術を得てたようだ。男性教師にしか効かない気もするけど、まあ摂理の場合は理由も理由だし、女性教師にはそこらへんを使ってるんだろう。じゃあなぜ今宿題をやってるのかというと、鈴鹿が真面目だからだ。そんなズルは友達として許せないんだろう。
「スオウはいいの? やってないでしょどうせ?」
「失礼な奴だなお前。僕は元から目つけられてるからな、文句言われないようにちゃんと課題はやってんだよ」
やらなくていいんならやらないんだけど,やらずに更に立場悪くするよりもやって現状維持する方が良いことに気づいたんだ。何でもかんでも突っ撥ねたって良いことないって悟ってるんだよ。そんなのは中学で卒業したんだ。余計な争いなんてのはない方が良いんだよ。こっち的にも向こう的にもな。
「じゃあじゃあ秋徒君はどうなのかな? かな?」
「俺? 俺ももちろんやってるさ。当然だろ? 学生の本分は学業だぜ?」
「……嘘」
失礼な反応だけど少し前の秋徒なら別にあながち間違ってないはずだった。けど今は前の秋徒とは変わったから。なんでもそつなくこなして泥臭くなんてイメージは全くなかった秋徒だけど、最近は色々と必死なようで見てて面白い奴になった気がする。まあ僕が言うのもなんだけど。
「摂理はこんなのもわかんないんですか? むふ、教えてあげてもいいデスよ」
「ほんと!? あでっ−−」
クリスの思いがけない提案に顔を輝かせた摂理だったけど、鈴鹿の奴が速攻でその頭にチョップを入れた。
「何するの〜?」
「貴女はもうちょっと人を疑いなさい。あれがタダでそんなことすると思うの?」
クリスの奴、あれ呼ばわりである。そういえば鈴鹿はまともにクリスと喋らないな。嫌いなんだろうか? 相性良くなさそうなのはなんとなく感じ取れるけどね。そしてアレ呼ばわりされた当の本人はというとわざとにやけてこう言うよ。
「別にフレンドにお金を要求したりしないですよ〜。ただちょっとだけの貸しにするだけデス。それだけデス」
「ほら、大丈夫だよ」
「摂理、貸しなんてのは作らないに越したことはないの。それがライバルならなおさらね」
「それは……でもそれじゃあ今教えてもらってる鈴鹿ちゃんにも貸し?」
「私はとも……クラスメイトだから……」
今友達っていい掛けたよな? その認定してたのか……案外ツンデレなのか?
「それを言うなら私は【同級生】デス!!」
「残念,同級生は数百人、クラスメイトは数十人、どっちが上かハッキリしてる」
「むむー」
何を競ってるのか、この二人は? でも鈴鹿の心配はわかる。クリスは色々と怪しいからな。鈴鹿はクリスの正体知らないはずだけど、今の学校の状況とかでよく思ってないのは確かだろう。そしてトントンと指で開いてる教科書を叩く。暗にこれでその話は終わりで続きに戻れということだろう。
「しょうがないデスね。じゃあ私はスオウとイチャコラしてます」
「ちょ!?」
また荒れるようなことをさらっと言う奴である。事実摂理が立ち上がったじゃん。まあそれも鈴鹿が速攻で制したけどね。
「うふふ、邪魔者はいないようですし何しましょうか? おっぱい触るデス?」
「さわら……せて頂こう」
「何言ってるのスオウ!?」
「宿題に集中しなさい。別にただで胸を触らせてくれる女がいてもいいじゃない。彼女いいオカズになりそうで」
「オカズ?」
摂理の奴は意味わかってないようだけど、鈴鹿のそれはかなりひどい言い草だ。胸を触らせてくれる女とか、オカズとか……まあ触らせてもらおうとした僕が言えることじゃないけどね。実際触らせてくれるの? 手伸ばしちゃっていいの?
「外野が何か言ってるけど気にすることないデス。女の子はスオウが想像してるよりも柔らかいんですよ?」
そう言って外人らしいスタイルのクリスは両腕で胸を持ち上げるようにして強調する。しかも体をくの字に曲げて上目遣いで言ってくるんだ。こいつ女を武器にしまくってんな。男がたまらないポイントをちゃんと押さえてくるんだもん。
(柔らかい……か)
「ちょっと下卑た目でこっち見ないでくれるかしら?」
「べっ別に変なこと考えてないし。それにお前を見たわけじゃないっての」
焦った〜。なんで女子って妙に勘が鋭い時あるの? 別に二人も柔らかそうだなって思ってないから。でもこんな冷たい鈴鹿でも……とはちょっと思ったけど。
「ほらほらスオウ、あんなチッパイは放っておいていいですよ。きっと頭だけじゃなくおっぱいも固まってるんですよ」
おいそういうこというなよ。鈴鹿が冷気はなっちゃうじゃん。
「自分の体を安っぼく売らないだけ。あなたも気をつけたほうがいいわよ。その女どんな病気を持ってるかわからないから」
やばいな……二人とも視線を合わせないけど、どう見ても火花散ってるよ。
「どうせ自分も中古になるのにお高くとまっててもいいことないデスよ。今のピチピチの体は今だけの特権なんですから。それに世の中の女はもれなく中古デス。大切なのは価値を守ることじゃなく高めることだと思いませんか?」
こっち見ながら言われても困るんですけど……それに僕はどう返答すればいいんだよ。それに地味に男にとってショックなこと言ってるからね。もれなく中古って……摂理も日鞠もまだ違うから。
「もれなく中古……中古」
あっなんか一番傷ついてる奴がいた。秋徒の奴がスマホの画面見たままそんな事ずっと呟いてる。まあ愛さんは大学生だもんな。心配になるのもわかる。それに美人だし、今まで付き合った事ないなんてね……でも今は秋徒の彼女なんだし自信持てよ。
「価値なんて自分の中にあればいいものでしょ」
「自身の価値は周囲の評価で決まるものだと思うデスが?」
とことん合わない二人だな。こいつらこれ以上一緒の空間にいさせないほうがいいだろ。もう火と油の関係だよ。声を荒げるなんて事はふたりともしないけど、静かなやり取りが逆に怖いんだよ。摂理なんか関わり合いたくないのかずっと教科書とにらめっこしてる。
チラチラ見てるから気にしてはいるんだろうけど割り込める程に度胸はない……みたいな。
「お前等何で言い合ってるんだよ? そんな仲良かったっけ?」
「バカ言わないで」
「いやいや前から仲いいですよ。私は楽しいデス。日本人はぶつかってくる事あんまりないですからね。好きですよ鈴鹿」
「……バカなのねあなた」
少しだけ緊張の糸が緩くなった気がする。良かった良かった。息を吐くとすぐ近くのクリスと目があった。すると片目を閉じてウインクしてきた。何を言いたいんだよこいつは。そう思ってると制服の前を大胆に開けてシャツからこれでもかと主張してる胸を寄せて上げて「どうぞ」みたいにやってくるし……確かに触ろうとしたけどさその胸はとても魅力的だけどまたさっきの修羅場になるのは嫌だし……とりあえず首を横に振った。
「そうですか。ではこれからについて話しましようか」
「今度は何やる気だよ?」
「いえいえ別に新しいことするわけじゃないです。三つ巴にはなったので作戦をもう一段階進めるだけデス。日鞠はすごいカリスマですけど,最近はみんな日鞠不足を感じてるデス。遠く近い絶対的な存在が離れかけてる不安。そこに二人の女神の参上ですよ!!」
自分のことを女神とか恥ずかしげもなくよく言えるなこいつ。やってることは女神っていうかコソ泥みたいだが……
「まだまだ日鞠信者は多いですからね。それに私たちが輪になった人たちも日鞠の後光には逆らえませんし、もっと信仰度を高める必要性があります。日鞠がやらないサービスをもっとしましょう。ねっ摂理!」
「え? 私も?」
「当然デス! 友達100人以上作るんです」
「でもでもどうすればいいか?」
「大丈夫です。そこらの男なら摂理が笑うだけでイチコロデス! 後は皆と一緒にもっと遊びに行くとかすればいいですよ。遠くに行っちゃう日鞠より近くの摂理を皆大切にしてくれるデス」
「皆が私を……」
そう言って嬉しそうにはにかむ摂理。うまーく使われてる気がするんだが? まあそれでも摂理はいいんだろう。僕もいっぱいリアルを楽しめるのならって思うからこの状況を止める気はない。てかどうしようも無いし。それに日鞠はそんな甘く無いからなクリス。
クリスがどんな情報網を持ってるかとか知らないけどあいつの事分かった気になると足元掬われるぞ。
「よーし皆に愛されましょう!!」
なんの決意表明か知らないけどクリスは盛り上がってる。そんなクリスの言葉に摂理は腕をちょっとだけ上げて応えようとするけど、鈴鹿の奴が教科書叩くから宿題に戻ってた。秋徒の奴は今もずっとスマホとにらめっこしてる。で,僕はというと青い空を見つめてボーとしてる。
LROだけじゃなくリアルまでややこしいことになってきてる。せめてリアルくらいのんびりとしたいところなんだけど……世界は早々変わらないように思えて、意外とあっさりと変わってしまうものなのかもしれない。なんて事を冬の澄んだ空を見つめて考えてた。
エアコンが快適な温度を保ってくれて、よく通る教師の声は子守唄のよう。人類の英知に感謝しつつ快適な夢見こ心地気分を味わってると頭に衝撃が落ちてきた。
「おら、堂々と寝るな。ぶっ叩くぞ」
「ぷっ叩いてから言うなよ」
頭をさすりながら僕は教師を睨む。まあこっちが悪かったけどさ。でも最近は寝不足なんだ。なんせエリアバトルが大量に続いてる。しかもいろんなチームと組んでやってるから精神力も削られる。ほんとこれも全部一心の奴のせいだな。あいつが毎回毎回僕を生贄にするから、いろんなチームに出向かなきゃいけなくなってる。
僕自身はそこまでコミュ力高くないんだからやめてほしい。何が悲しくて毎回初対面の煩わしさを味わわないといけないんだよ。そんなこんなで最近は疲れ気味だ。
「ふあぁ〜あ」
大きなあくびが出る。もう一眠りしたいところだけど、さすがにまずいか。でもぶっちゃけ授業聞いてるよりも後で日鞠に教えてもらったほうが身につくんだよね。それはまああんまりやりたくないだが……そもそも最近はまた忙しそうだしな。学校にはちょくちょく来ては出て行ってるのを教室から見ることができる。
マジであいつの忙しさは学生のそれじゃない。色々と心配……はしないけど、自分まであいつの手を煩わせるのはどうかと思うし,気合い入れるか。
「うし」
そんな意気込みを一人でしてると全方の席の摂理と目があった。こっちを見てニコニコしてる。まああれは嘲笑ってるんだろう。
「ん?」
なんだか自分の前の男子達が小刻みに震えてる。それに耳もなんだか赤いし……どうやら笑ってる摂理に興奮してるようだ。見た目は最上級だもんな。ここの男子達は自然と摂理に目がいってるんだろう。
【昼休み】
空き教室でいつものメンバーで弁当を突く。僕と秋徒と摂理と鈴鹿だ。なんで空き教室かというと教室じゃ摂理が落ち着けないのと,それから−−
「お待たせしましたデ〜〜ス!!」
こいつも一緒に食うためだ。クリスのやつは元気いっぱいに入ってきた。こそこそやってるのにそんな目立つ入り方するなよな。
「あははごめんデース」
僕の微妙な表情に気づいたのか、軽くそういうクリス。でも全然気にしてないだろこいつ。クリスも一緒に食いたいとか言うから付き合ってやってるのに……今この学校は摂理派とクリス派、それに対立はしてないけど水面下では大多数がそのはずの日鞠派と三つ巴状態。
だからそれの神輿二人が一緒に食事とか他の奴らに見られたら面倒なんだ。実際は摂理もクリスもこの通り仲良いわけだけど、クリスのやつが無駄に信者どもを煽ってるから質が悪い。
「おーヅカの弁当美味しそうデス。じゅる……」
「あげないわよ」
「なんでですか! なんでですか! 日本にはお弁当のおかずを分け合う文化があるって聞いてます!」
「私は自分の領域が侵されるのが嫌いなの」
そう言って黙々と箸を動かし続ける鈴鹿。相変わらずドライなやつだな。別に弁当のおかず一つくらいいいだろうに。まあ鈴鹿の弁当はちっちゃいけどさ。でも女子の弁当って大概小さいからな。そうやって少食アピールしながらよくお菓子とか間食してるんだけどな女子って。
一気に食うか、こまめに食うかの違いしかないよねそれって言いたいけど,そんなこと言ったら女子の集団に批判されるからな。
「まあまあ,ほら私のと交換しよう」
「摂理のはお菓子じゃないデスか! そんなの違います! 違うんデス!」
クリスのやつがマジにそんなこと訴えてる。そんなにおかず交換したかったのかよ。てか確かに摂理のは弁当じゃなくお菓子だな。てか摂理の奴ってかなりの偏食なんだよね。お菓子はなんでもどんな商品でも手を出す癖にご飯となれば必要以上に神経質になりやがる。
でも実際、こいつそのうち太るよな? 多分ずっと仮想空間にいたから太るとかの概念が摂理からは抜け落ちてる気がする。「太るぞ」って言っても「まっさかぁ」としか返さないもん。絶対に自分の肉体がリアルにあることを未だにわかってないと思う。なかなか風呂にも入ろうとしない奴だしな。
まあまだ歩けないし入りづらいのはわかる。けど女の子なんだよ? もう少し気にしたほうがいいよね。そもそも摂理には汚れるってことが理解できないのかもしれない。運動しなくったってリアルでは汚れていくんだよ。でもそれは見た目でわかるには相当な期間が必要で、もともと美少女な摂理ではなおさら……
「そんなに何か食いたいのならほら、これやるぞ」
「ハァ、まあこれでもいいですけど……」
何だこの反応は? 何かムカつく。せっかくおばあちゃんが作ってくれたおかずなのに,てか摂理の分もあるんだしそれ食えや。当然のごとく皆の分用意してくれてる。でも摂理は毎回食わない。でも食わずに返すのは忍びないからかいつも押し付けてくる。
まあ育ち盛りの年頃だ。弁当二つなんてなんてことない……秋徒はね。大体摂理の食わない弁当は秋徒がありがたく受け取ってる。こいつは体でかいからか、僕よりもよく食べる。そして最近はそれをアテにしてるからかクリスに分けようという気はないッボイんだよな。
「それにしても最近はいい感じデス」
飯を頬張りながらそんなわけのわからない事を呟くクリス。皆そんなクリスの発言に首をかしげてるから僕が「何のことだよ?」と聞いてみる。すると随分もったいぶった笑みを作ってこう言った。
「わかりませんか? 火種が至る所でくすぶってる感じがデスよ。今にも爆発しそうな感じがたまりません」
何とも危ない事を言う奴である。本当にこいつは……
「お前はここをどうしたいんだよ?」
「別に楽しくしたいだけですよ。楽しいのは皆さん好きでしょう?」
気兼ねなくそう言ってるように聞こえるけど,絶対にその言葉には裏があるよな? いい笑顔してるところがなんかまた怖いし……
「ねっ! ズカ!」
「うっとおしいから離れてくれないかしら? あと話しかけないで」
「酷い! 留学生に対してあんまりの言葉ですよそれ!!」
鈴鹿のそんな言葉にコクコクと文句を垂れるクリス。けど鈴鹿の奴は毛ほども聞いちゃいないっぼい。流石だなあいつ。どうあってもクリスの奴は視界内でチョロチョロされるとちらつくから厄介なんだけど……見た目が見た目だしな。それを気にも留めないなんて凄いスルースキル持ちだ。
騒々しかったお昼時もあと少し、それぞれが弁当箱を端に置きだらっとしてる。外からはこの寒いのに外で元気にはしゃいでる奴らの声が聞こえてた。外は薄らぐらい色をしてる一雨来そうな……でも別にそうでもないような色。そんなこと思って外を見てると日鞠の奴の姿が見えた。相変わらず忙しそうな奴だ。昼飯は食ったのだろうか?
校門の方へ向かってるってことはまた外へ行くのか。本当、学生とは思えないスケジュールしてるなあいつ。こっちはこれから五限六限があると思うと憂鬱なのに……まあ変わりたいとは思わないんだけどね。
「ふっ、戻ってきたとき居場所があるとは思わないことデス」
なんか突っ込んで欲しそうなことをクリスが言ってるけど無視しとこう。めんどくさそうだからな。いつ突っ込んでくれるのかという期待の眼差しやめろ。
「うー、なんで宿題なんてあるの〜? 上目遣いで謝ればイチコロなのに〜」
「そんな姿勢だと教えてあげないわよ。ちゃんと真面目に取り組みなさい」
「はーい」
そう言いながらボッキーをポリポリと口へ運ぶ摂理。そしてその手を叩く鈴鹿。どうやら摂理の奴は宿題を忘れてたようだ。てか摂理が宿題を真面目にやったのって学校に通いだした一週間くらいだけしかなかった印象だ。あの頃は僕も一緒に付き合ってやってたけど,いつしか宿題を教えて欲しいなんて声も聞かなくなってたな。
どうしてたのかと思ってたけど、どうやら教師を手玉にとる術を得てたようだ。男性教師にしか効かない気もするけど、まあ摂理の場合は理由も理由だし、女性教師にはそこらへんを使ってるんだろう。じゃあなぜ今宿題をやってるのかというと、鈴鹿が真面目だからだ。そんなズルは友達として許せないんだろう。
「スオウはいいの? やってないでしょどうせ?」
「失礼な奴だなお前。僕は元から目つけられてるからな、文句言われないようにちゃんと課題はやってんだよ」
やらなくていいんならやらないんだけど,やらずに更に立場悪くするよりもやって現状維持する方が良いことに気づいたんだ。何でもかんでも突っ撥ねたって良いことないって悟ってるんだよ。そんなのは中学で卒業したんだ。余計な争いなんてのはない方が良いんだよ。こっち的にも向こう的にもな。
「じゃあじゃあ秋徒君はどうなのかな? かな?」
「俺? 俺ももちろんやってるさ。当然だろ? 学生の本分は学業だぜ?」
「……嘘」
失礼な反応だけど少し前の秋徒なら別にあながち間違ってないはずだった。けど今は前の秋徒とは変わったから。なんでもそつなくこなして泥臭くなんてイメージは全くなかった秋徒だけど、最近は色々と必死なようで見てて面白い奴になった気がする。まあ僕が言うのもなんだけど。
「摂理はこんなのもわかんないんですか? むふ、教えてあげてもいいデスよ」
「ほんと!? あでっ−−」
クリスの思いがけない提案に顔を輝かせた摂理だったけど、鈴鹿の奴が速攻でその頭にチョップを入れた。
「何するの〜?」
「貴女はもうちょっと人を疑いなさい。あれがタダでそんなことすると思うの?」
クリスの奴、あれ呼ばわりである。そういえば鈴鹿はまともにクリスと喋らないな。嫌いなんだろうか? 相性良くなさそうなのはなんとなく感じ取れるけどね。そしてアレ呼ばわりされた当の本人はというとわざとにやけてこう言うよ。
「別にフレンドにお金を要求したりしないですよ〜。ただちょっとだけの貸しにするだけデス。それだけデス」
「ほら、大丈夫だよ」
「摂理、貸しなんてのは作らないに越したことはないの。それがライバルならなおさらね」
「それは……でもそれじゃあ今教えてもらってる鈴鹿ちゃんにも貸し?」
「私はとも……クラスメイトだから……」
今友達っていい掛けたよな? その認定してたのか……案外ツンデレなのか?
「それを言うなら私は【同級生】デス!!」
「残念,同級生は数百人、クラスメイトは数十人、どっちが上かハッキリしてる」
「むむー」
何を競ってるのか、この二人は? でも鈴鹿の心配はわかる。クリスは色々と怪しいからな。鈴鹿はクリスの正体知らないはずだけど、今の学校の状況とかでよく思ってないのは確かだろう。そしてトントンと指で開いてる教科書を叩く。暗にこれでその話は終わりで続きに戻れということだろう。
「しょうがないデスね。じゃあ私はスオウとイチャコラしてます」
「ちょ!?」
また荒れるようなことをさらっと言う奴である。事実摂理が立ち上がったじゃん。まあそれも鈴鹿が速攻で制したけどね。
「うふふ、邪魔者はいないようですし何しましょうか? おっぱい触るデス?」
「さわら……せて頂こう」
「何言ってるのスオウ!?」
「宿題に集中しなさい。別にただで胸を触らせてくれる女がいてもいいじゃない。彼女いいオカズになりそうで」
「オカズ?」
摂理の奴は意味わかってないようだけど、鈴鹿のそれはかなりひどい言い草だ。胸を触らせてくれる女とか、オカズとか……まあ触らせてもらおうとした僕が言えることじゃないけどね。実際触らせてくれるの? 手伸ばしちゃっていいの?
「外野が何か言ってるけど気にすることないデス。女の子はスオウが想像してるよりも柔らかいんですよ?」
そう言って外人らしいスタイルのクリスは両腕で胸を持ち上げるようにして強調する。しかも体をくの字に曲げて上目遣いで言ってくるんだ。こいつ女を武器にしまくってんな。男がたまらないポイントをちゃんと押さえてくるんだもん。
(柔らかい……か)
「ちょっと下卑た目でこっち見ないでくれるかしら?」
「べっ別に変なこと考えてないし。それにお前を見たわけじゃないっての」
焦った〜。なんで女子って妙に勘が鋭い時あるの? 別に二人も柔らかそうだなって思ってないから。でもこんな冷たい鈴鹿でも……とはちょっと思ったけど。
「ほらほらスオウ、あんなチッパイは放っておいていいですよ。きっと頭だけじゃなくおっぱいも固まってるんですよ」
おいそういうこというなよ。鈴鹿が冷気はなっちゃうじゃん。
「自分の体を安っぼく売らないだけ。あなたも気をつけたほうがいいわよ。その女どんな病気を持ってるかわからないから」
やばいな……二人とも視線を合わせないけど、どう見ても火花散ってるよ。
「どうせ自分も中古になるのにお高くとまっててもいいことないデスよ。今のピチピチの体は今だけの特権なんですから。それに世の中の女はもれなく中古デス。大切なのは価値を守ることじゃなく高めることだと思いませんか?」
こっち見ながら言われても困るんですけど……それに僕はどう返答すればいいんだよ。それに地味に男にとってショックなこと言ってるからね。もれなく中古って……摂理も日鞠もまだ違うから。
「もれなく中古……中古」
あっなんか一番傷ついてる奴がいた。秋徒の奴がスマホの画面見たままそんな事ずっと呟いてる。まあ愛さんは大学生だもんな。心配になるのもわかる。それに美人だし、今まで付き合った事ないなんてね……でも今は秋徒の彼女なんだし自信持てよ。
「価値なんて自分の中にあればいいものでしょ」
「自身の価値は周囲の評価で決まるものだと思うデスが?」
とことん合わない二人だな。こいつらこれ以上一緒の空間にいさせないほうがいいだろ。もう火と油の関係だよ。声を荒げるなんて事はふたりともしないけど、静かなやり取りが逆に怖いんだよ。摂理なんか関わり合いたくないのかずっと教科書とにらめっこしてる。
チラチラ見てるから気にしてはいるんだろうけど割り込める程に度胸はない……みたいな。
「お前等何で言い合ってるんだよ? そんな仲良かったっけ?」
「バカ言わないで」
「いやいや前から仲いいですよ。私は楽しいデス。日本人はぶつかってくる事あんまりないですからね。好きですよ鈴鹿」
「……バカなのねあなた」
少しだけ緊張の糸が緩くなった気がする。良かった良かった。息を吐くとすぐ近くのクリスと目があった。すると片目を閉じてウインクしてきた。何を言いたいんだよこいつは。そう思ってると制服の前を大胆に開けてシャツからこれでもかと主張してる胸を寄せて上げて「どうぞ」みたいにやってくるし……確かに触ろうとしたけどさその胸はとても魅力的だけどまたさっきの修羅場になるのは嫌だし……とりあえず首を横に振った。
「そうですか。ではこれからについて話しましようか」
「今度は何やる気だよ?」
「いえいえ別に新しいことするわけじゃないです。三つ巴にはなったので作戦をもう一段階進めるだけデス。日鞠はすごいカリスマですけど,最近はみんな日鞠不足を感じてるデス。遠く近い絶対的な存在が離れかけてる不安。そこに二人の女神の参上ですよ!!」
自分のことを女神とか恥ずかしげもなくよく言えるなこいつ。やってることは女神っていうかコソ泥みたいだが……
「まだまだ日鞠信者は多いですからね。それに私たちが輪になった人たちも日鞠の後光には逆らえませんし、もっと信仰度を高める必要性があります。日鞠がやらないサービスをもっとしましょう。ねっ摂理!」
「え? 私も?」
「当然デス! 友達100人以上作るんです」
「でもでもどうすればいいか?」
「大丈夫です。そこらの男なら摂理が笑うだけでイチコロデス! 後は皆と一緒にもっと遊びに行くとかすればいいですよ。遠くに行っちゃう日鞠より近くの摂理を皆大切にしてくれるデス」
「皆が私を……」
そう言って嬉しそうにはにかむ摂理。うまーく使われてる気がするんだが? まあそれでも摂理はいいんだろう。僕もいっぱいリアルを楽しめるのならって思うからこの状況を止める気はない。てかどうしようも無いし。それに日鞠はそんな甘く無いからなクリス。
クリスがどんな情報網を持ってるかとか知らないけどあいつの事分かった気になると足元掬われるぞ。
「よーし皆に愛されましょう!!」
なんの決意表明か知らないけどクリスは盛り上がってる。そんなクリスの言葉に摂理は腕をちょっとだけ上げて応えようとするけど、鈴鹿の奴が教科書叩くから宿題に戻ってた。秋徒の奴は今もずっとスマホとにらめっこしてる。で,僕はというと青い空を見つめてボーとしてる。
LROだけじゃなくリアルまでややこしいことになってきてる。せめてリアルくらいのんびりとしたいところなんだけど……世界は早々変わらないように思えて、意外とあっさりと変わってしまうものなのかもしれない。なんて事を冬の澄んだ空を見つめて考えてた。
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