命改変プログラム

ファーストなサイコロ

歌姫の登場

『あ~テステス、皆さんこんばんは、私はテア・レス・テレスでリーダーやってます会長です。この度はレスティアへ訪問頂きありがとうございます。これからきっと沢山のチームのエリアがLROと接続されるでしょう。
 その先陣を切れたのを誇りに思います。それもこれも優秀な人材のお陰です。皆ありがとう。ですがここで終わりじゃ無いです。ここから更にレスティアは進化していきます。それには皆さんの協力が必要です。
 でも力む必要はありません。目一杯楽しんじゃってください!』


 片耳でそんな日鞠の放送を聞いてると、ふと涼やかな旋律に切り替わった。上空に映しだされてる映像に視線を向けるとそこには真っ暗な中、浮かび上がるシルエットが見えた。透き通ったイエローのドレスを着た女性が暗闇の中佇んでる。
 そしてその口が開くと同時に染み入る様な声が胸を打つ。


「え?」


 ふと気づくと旋律は最後の音を奏でて空気に溶けて行ってた。あれ? いつ終わったんだ? 時間が飛んだような感覚だ。いったい何が? 歌――ってたよね? 聞いてた記憶すら無いんだが。
 そう思ってると涼やかだったさっきとは打って変わって激しいノリの音が繰り出されだす。光源も変わったのか色がとりどり舞っている。更にさっきまで神秘的な感じが全開だった映像の中の彼女は意思の強そうな瞳に切り替わり、マイクを投げると同時に服が光と共に切り替わる。
 叩きつける様な低音の響きが腹にズンズンと伝わって来てマイクから彼女の激し目の声が響いてきた。その声はだんだんと自然と体を動かしだす。僕と同じように先の一曲で呆けてた人達がそんな戸惑いどことやらでノッていく。
 僕は精々足でリズムを刻む程度だけどね。でもお祭り気分で浮かれてた人達はアップビートな音楽と心がシンクロしてるのか相乗式に盛り上がり続けてる。そしてそれに応えるように彼女は姿を表わす。
 映像でしか見えなかった彼女は夜空に輝くようにライトアップされてとても眩しい。けどあの眩しさはきっとライトアップされてるだけじゃない。


「アイドル……というかスターの様な輝きだな」


 これだけの人を前に動じない強さに、視線を向けさせるその容姿。でもその視線を外させないことこそ本当の輝き。街全体が揺れている。人々の熱気……そして歌が響かせる。


「今度は何はじめる気だよアイツ?」


 そう言って近づいて来たのはアギトの奴だ。居たのか……と思ったらその後ろからぞろぞろと皆来た。


「何で皆居るんだ?」
「何ってそれは日鞠ちゃんに誘われてたし」


 摂理の奴がさも当然という感じてそう言った。それに皆が頷いてる。おいおい直前で伝えたのは僕だけか。


「でもでも内容までは知らなかったよ。日鞠ちゃんが『きてね』って言うから来た感じだもん」
「まあ匂わせては居たけどな」
「結構話題になってもしてたよスオウ君」


 テッケンさんは優しくそう言ってくれる。相変わらず小さいままのテッケンさんは癒やしだね。シルクちゃんとテッケンさんはマイナスイオン出してる感じする。


「全然知らなかった……」
「あんまりニューリードには居なかったしね。しょうがないよ」
「でも皆も同じだった筈なのに……」
「俺達にはお前にはない繋がりもあるからな。まあそんな嫉妬すんなよ」


 アギトの奴め……それじゃあ僕が一番ボッチみたいじゃないか。間違ってないけどさ。そもそも日鞠の事とかあんまり聞かない様にしてたし。話すけど、そっちの話はしないみたいな。


「それにしてもアイドルなんて、私に頼めばいいのに」


 不満気にそう呟く摂理。おいおいどれだけ自分の容姿に自信があるんだよ。いや、確かに摂理ならアイドル出来る容姿だと思うけどさ。それを自分で言うのはどうなんだ。容姿だけならまあ文句なんて誰も言わないだろうけど、実際問題摂理には無理の様な気がする。
 なぜなら……


「お前アレだけの人前に出れるのか?」
「それは……」


 口ごもる摂理。だって摂理は人前になんて立ったこと無いはずだ。ずっとベッドの上だった訳だしさ、どう考えてもアイドルなんて……


「でも私だって人の視線は浴び慣れてるよ。よく見られるし」
「それはそうかも知れないけどさ、でも一気に集中するって訳じゃないだろ?  歩いてる時に振り返られる程度とは訳が違うぞ」
「むう~」


 頬を膨らませて、抗議の目を向けてくる摂理。何でそんな顔してるんだよ。こっちは別に役不足なんて言ってないだろ? 容姿なら十分だと思ってるし。


「ふふ、スオウ君はセツリちゃんが沢山の人の目に触れるのが嫌なんだよね。セツリちゃん可愛いから」
「いや別にそんな事一切ないけ――」
「え……えへへ。そっかあスオウは私の事が心配なのか~」


 摂理の奴はうねうねしながら赤く成ってる。てか聞けよ。自分に都合の良い部分しか聞いてないな。


「それならしょうがないね」


 やけに嬉しそうな摂理。何故かやけに突き出して来てちょっとうざい。


「摂理の奴がアイドルとかどうでも良いけど、日鞠の奴は何の為にあんなのを用意したのか? だろ」
「どうでも良いってアギト酷い! このノッポ!」
「ノッポって……別に俺はお前に嫌われようがどうでもいいけどな」
「ぬぬ~」


 摂理の奴は僕の後ろに回ってアギトを睨みつけてる。なんだかあんまりアギトというか秋徒と相性よくないよな。なんでだろう? 大体アギトは女の子には例外なく優しい筈だけど? あんまり秋徒が女の子から嫌われてるのって見たこと無いし……


「ほらほらセツリちゃん折角の可愛い顔が台無しだよ。はいわたあめ」


 物で釣ろうとするシルクちゃん。もこもこのわたあめにセツリは直ぐに興味がうつるよ。初めて見たのか、なんだか目がキラキラしてる。単純な奴だな。そして一口齧るとワナワナと震えて僕の背中を叩き出す。
 やめろよ、痛いだろ。でもそう思ってもセツリの顔を見るとそんな事言えない。幸せそうだからな。


「日鞠ちゃんもただ楽しんでるだけだと思うけどな。そんなに良く知らないけど」
「甘いぞシルク。アイツは常識ではかっちゃ駄目なんだ」


 酷い言い草である。いや、その通りなんだけどさ。確かに日鞠の奴は常識で測ってたら行けない。でも全てがそうってわけでも無い。アギトも軽いけど信仰心入ってるしな。アイツはなんでも出来るけど、特別って訳じゃない。スペシャルってだけだよ。


「日鞠だって意味のない事はやるぞ。ただそれが後から意味を持つってだけでな」
「それが異常なんだろ? 普通は簡単に意味なんて現れないんだよ」
「アイツはなんでも出来る様になんでもやってるからな。簡単にやってるけど、それは簡単じゃないことの積み重ねだ」
「スオウくんがそこまで言うなんて日鞠ちゃんは相当なんだね」


 シルクちゃんのそんな言葉に我に返って恥ずかしく成る。そして後ろのセツリがなにやら不満気な表情してるんだ。なんか居心地が悪いんだが……


「えっと……まぁ僕よりはずっと凄いですから」
「なんてことっすか……スオウ君よりも全然って凄すぎじゃないっすか!」


 ノウイの奴がワナワナと打ち震えてる。う~ん、ノウイは僕を過大評価し過ぎだろ。本当はこんな程度の僕よりは――って事だったんだけど、ノウイはそうと受け取ってくれなかった。


「あの子は確かになんだか不思議な雰囲気があるよね。スオウくんと同じように面白そうだ」
「ちょっとどういう意味ですかそれ?」


 テッケンさん僕の事面白そうとか思って付き合ってくれてたの? ちょっとショックなんですけど。


「はは、いい意味でだよ。いい意味で」


 ないだか苦しい言い訳にしか聞こえないが……そんな事を思ってると後ろに居るセツリにふと目がいった。するとなんだか小刻みに震えてる。寒いのか? と一瞬思ったけどどうやらそうじゃないようだ。
 一定の間隔で揺れるセツリの体は震えてると言うよりはリズムを刻んでる。視線は上を向いてるし彼女の音楽に影響されてるんだろう。


「まっここで喋ってるのも何だし、もっと近づいてみようか?」
「おっ、スオウが自分からそんな事言い出すとは珍しいな。人混みなんてなるべく避ける癖に」
「別に……ただもっと近くで観てもいいかなって思っただけだ。折角のお祭だしな」


 そう言うと後ろのセツリがキュッと服を引っ張るのが分かった。そして小声で僕の名前を呟いたのも……


「そもそも人混みとか今更だし、日鞠に引っ張っられた時点で諦めてるっての」


 ちょっとした気恥ずかしさで更に言葉を紡ぐ。赤く成ってるのがバレてないだろうか。


「まぁ確かに日鞠の狙いも知りたいしな。近づけば居るかも知れない」
「でも忙しいんじゃ? 一緒にきたスオウくんを放っておく程だし」
「確かにアイツ忙しそうでしたね」


 僕は素直にそういうよ。このお祭り騒ぎ、全部日鞠達が仕切ってる筈だしな。忙しくないわけない。それにアイツはリーダー。中心だ。映像の中心に近づくにつれて人混みは増していき興奮も激しくなっていく。
 流石にそろそろ動くのが辛く成って来た。これぞ所謂すし詰め状態って奴か。


「これ以上近づくのは無理そうですね」
「ラオウさんがいれば無理にでも進めそうだけど……」


 あの人こっちでもガタイ良いからな。けど流石に無理か。幾らガタイがいいと言ってもこっちのラオウさんの姿は常識に収まってしまってる。 リアルの方ではもうなんか人間超えたみたいに成ってるのにね。
 でも実際リアルであの肉体は異常だよね。リアルの方が異常とかそっちの方がおかしいんだけど、ラオウさんだからしかたない。あの人をリアルで見てるから向こうでも規格外の何かを見ても受け入れられる。


「てかラオウさんもメカブの奴も居ないよな?」
「あの二人は孤児院守ってるよ。全員で来たらその隙を狙われるかも知れないし」
「確かにな。でも最近は何もやってこないじゃん」
「甘いなスオウ。そうやって油断した時が一番危ないんだよ」


 それはそうかも知れないな。忘れた頃にやってくるのは定番だ。でも僕的には意外だな。ラオウさんはともかく、あのメカブがあんなに世話やきだったとは。どっちかというと子供嫌いなのかと思ってた。
 まあいつも嫌そうに文句言ってるんだけどね。でもなんとなくなつかれてる。バカにされてるだけかも知れないけど。メカブはともかく、ラオウさんも居るし向こうは大丈夫だろう。


「それにしてもこの音楽ってどこからでてるんでしょうね? 大きな機材とか見えないですけど?」
「上手く隠してあるんじゃないかな? 日鞠はそういうの得意だし」


 よく盗撮されてる僕が言うんだから間違いない。街全体に響いてるだろうしかなりでかい機材かそれかスキルでも使ってるか。


「うおぅぅぅぅぅ! 最高っす!!」


 いつの間にかノウイの奴がサイリウムをめっちゃ振ってた。いやいや、どっから出したんだよそれ? てか興奮しすぎ……って別にノウイだけじゃないか。周りの奴等も最高潮に達してるぽい。
 なんだかアレだな。人はひとつにはなかなか成れないものだけどこういう時は一つに成ってる気がする。同じものを見て、同じ事で興奮して、ここで生み出される熱気は同じものだろう。


「ん?」


 その時僕の視界は何かを捉えた。そう何かだ。ハッキリとは見えないそれは興奮してるプレイヤー達と同化するみたいに消えていく。だけどそれで何かが起きる訳も無くて……皆の興奮は冷めやらない。


(見間違い? やっぱり気のせい?)


 なんでも無いようだし気にする事もないのかも知れない。そんな事を思ってると、ふとステージ上の彼女と目が合った様な気がした。


「見たっすか? 今自分、彼女と目が合ったっす!!」
「はっはいるいるそういう奴」
「よく聞きますね。でも本当にあるとは驚きかな?」
「ちょっ、二人共信じてないっすね? ほんとなんすっよ!!」


 アギトとアイリに誂われてるノウイ。それを見て僕は言わなくて良かったと思った。きっと同じようになっただろう。僕のもノウイと同じ程度の事だからな。実際そんな気がしただけだ。
 今はもう別の場所へ視線を向けてる彼女と目が合ったとかきっと気のせい。ノウイと同じ様にきっと他にも沢山の人が同じ事を思ったに違いないんだから。だってほら、彼女には数えきれない程の視線が注がれてるんだから。


 何曲か終わるとMCがはじまった。少し待って息を整えて彼女は「ありがとうー」と元気一杯に手を振ってくれる。それに応えるように周りのプレイヤー達もそれぞれ叫んで手を上げた。


「えーと初めまして。私は『クリエ』です。みんなぁ私の歌はどうだったぁ?」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」


 おお、凄い反応だ。みんなテンション上がりすぎ。てかクリエって言ったか? でも……


「まさか――な?」


 きっと同名なだけだろう。そもそもクリエってモブリだったし、あんな大きくもなかった。どう見ても僕が知ってるクリエじゃない。別人だろう。でも……なんか気になる。


「ステージはこれから定期的にやっていくから、応援よろしくねぇ〜!」


 ステージ上から手を振る彼女。そして再び目が合った……かも知れない時、今度はウインクしてきた。それが自分に向いたと思い悶絶する男共が多数。幸せな奴等だな。もう寒さなんてない。
 ステージの熱気で寒さなんてどこ吹く風だ。


「さてさてそれではそろそろ最後の曲に行こうかな? 最後は皆の心に私を刻む。いっくよぉぉぉぉ!!」


 体を包む光とともに再びステージ衣装が変わる。綺麗なプロポーションを適度に晒しつつでも卑猥って訳でもない絶妙なラインを攻めてる衣装だ。でもそんな衣装のバックで奏でられる旋律は心に染みる物だ。
 そして声が紡がれた瞬間、意識が飛んでいつの間にかリアルで日が昇ってた。

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