命改変プログラム
万華の視線
イベントから数日が過ぎた。LROにはあの出来事からも毎晩入ってるわけだけど、あれ以来大きな動きはなくなってしまった。でも……逆にそれが不気味でもある。きっと水面下では領主の狙いが進行してるはずだろうからな。
それなのにこっちは手を拱いてる。街に変わりはない。強いて言えばプレイヤーが増えたくらいかな? 何故か……あれからこの街には人が溢れてる。あんな事があったのに……と思うんだけど、寧ろあんなことがあったから……とも言える。
LROをやってる人達は多分刺激––って奴を求めてるんだろう。エリアバトルもその一つ。けど他に何かが聞こえてきたら、そっちも覗き見たくなる。それが人の本能というものだ。てな訳で今のLROでの話題の中心はここなのである。
でもまあどうだろうか? 流石にこう何もないとこんなぽっと出の話題の熱なんて直ぐに冷めてしまいそう……というか別にこっちは冷めて貰って構わない。話題に成るとか困るからね。LROは別段決まりがあるわけじゃない。
僕達がイベントを進めてるからと言って、他の誰もそこに介入できない訳じゃなく、寧ろ逆だ。誰だって関われる。だからこそ沢山いると、どこかで何かが始まってしまうかも……それか既に誰かが何かをしてるかも……
「はぁ〜」
「どうしたスオウ? 腹でも減ったのか? まだ二時間目だぞ」
僕が机で突っ伏してると秋徒の奴が覗いてくる。こいつはクラスでも中心的な位置に居たりするやつだ。だから常にクラスメイトと何か話してるわけだけど、こっちにもよく来るんだ。
秋徒の仲裁精神というか、潤滑油的な特性がクラスで浮いてる僕と言う存在を気にかけるらしい。いや、友達だから……で済ませてもいいけど、こいつはでかい図体してる割に周囲をよく気にかけるからな。
そんな訳で最初は面倒な奴だと思ったものだ。今も時々思うけどね。
「腹は減ってねーよ。寧ろ食い過ぎた位だ」
「そういえば家政婦が居るんだっけ?」
「ああ、日鞠の奴がな……ちょちょいと声を掛けて連れてきた。最近は中々アイツも家に来ないしな。天道さんも家事とかやるタイプじゃないし、摂理は言わずもがなだろ? 僕自身は出来ない事もないけどさ、流石に洗濯物とか困るし……そんな事を考えたんだろう。
天道さん自身も似たような事考えてたしな。あの人、摂理の事を引き取りはしたけど、世話とかをする気は無いようだから」
そう言って僕達は教室の前に居る摂理に目を向ける。転校して来てからずっと、アイツはクラスの男女それぞれから気を使われてる。いや、気に留めて貰ってるって言う方がいいのかな? それなりに馴染めた感じで何より。
男子からはチヤホヤ、女子からはペットみたいな感じで可愛がられてる感じだな。やっぱり見た目が飛び抜けてると興味が長く続くんだな。良くブスには三日で馴れる。美人は三日で飽きるとかいうけど、どうやらそんな事はないようだ。この言葉を残した人は三ヶ月程度にしといた方が良かったかもしれないな。
ガラ––
後数分で授業の開始を告げる予鈴が鳴ろうとする時にゾンビの様に扉から入ってくる奴が視界に止まった。それはクラスメイトで生徒会の一応同僚とも言える風砂だ。いつもそこまで存在感ないし、気にも留めない奴なんだけど……流石にあんなにゾンビっぽかったら嫌でも目につく。
それに風砂は生徒会役員だし、あいつが疲れる要員の大半は生徒会活動と相場が決まってる。そうなると必然的に日鞠の奴が気になる訳だ。今はアイツもLROやってるわけだしな。てな訳でそれとなく近づいて見ることに。
「おいスオウ?」
いきなり立ち上がった僕を訝しんで声を出す秋徒。僕はそんな秋徒に視線だけで風砂を指し示す。すると何か察したのか、率先して風砂に声を掛けに行く秋徒。
「よっ、風砂。なんだか今日は朝からやつれてるな? どうした?」
(おおっ!?)
なんて奴だ。知ってたけどコミュ力たけーな。僕はまずどうやって声を掛けたものかと悩んでたのに、秋徒の奴はそんな事なかった。流石は取り敢えずクラス全員と友達になろうとする奴は違うぜ。
僕なんか関わらなくていいのなら、クラスメイトでも関わらないもん。そもそもまだ全員の名前覚えてないし。けど秋徒の奴は違う。勉強とかよりもコミュニケーションに力を注ぐ奴だから、直ぐにクラス全員の名前をチェックしてた。
秋徒の気持ちも分からなくはないんだけどね。どう足掻いたって一度決まったクラスは変えようがない。どんなに嫌でもそのコミュニティで一年間は過ごさなきゃいけないんだ。それなのにクラスの雰囲気が悪かったりしたらそれはもう最悪だよ。
つまりは秋徒の奴はそんな最悪を避ける為に、率先してクラスの雰囲気を作ろうとしてきたんだ。それは……結構大変な事だよな。僕ならやる気起きないし、やれる自信もない。でもそれを秋徒はやった。
まあ、秋徒がやらなくても別段問題なんて無かったかもしれない。けど、秋徒……ああ、うん。そういえば秋徒よりも日鞠の方が功績大きかったかも。そもそも最初に纏めたのは日鞠だし……けど秋徒も努力した。うん、僕は親友としてそれを覚えてて上げないと行けない。
ほんと日鞠の用な規格外の奴は凡人の努力ってやつを塗りつぶすよな。でも秋徒の奴はその隙間程度で折り合いつけてるみたいだから不満はないようだけどね。
「うっ……あっ……関係……ないだろ……」
うわああ、こっちはこっちでコミュ症全開だな。生徒会でもあんまり喋んないもんな風砂は。だから雑用ばっかり押し付けられるんだぞ。僕なんてほぼいってないから雑用さえ押し付けられないし。その分行く用事が出来た時は行きづらいんだけどね。
けどそもそも僕は嫌われてるから、今更である。でも風砂は違うようで、寧ろ生徒会というコミュニティの方が重要性高いかも? 日鞠いるしな。それに今は雨乃森先輩も……気になる噂を確かめたくてウズウズするけど、このタイミングで聞くことも出ないかな?
流石にその位の空気は読めるぞ。それに僕は自分が嫌な事は他人にやらないと決めてるんだ。ホント幼馴染ってだけで日鞠との関係を詮索する奴が多かったからな。だから野次馬根性はクソ食らえと思ってる。
だから素直に本題に入る。
「最近何やってるんだよ。また日鞠が変なイベント企画してるとか?」
「会長は無理を押し付けたりしない。ただ自分自身が不甲斐ないだけだ」
ふむ……よく分からない。もっと具体的に質問には答えろよ。そしてそのまま突っ伏すし……と思ったら机からガサゴソと教科書とノートを取り出して次の授業の準備を始める。おいおい
、流石生徒会は授業もぬかりねえな。
なんだかそんな姿を見るとこれ以上言えないというか……ちょっとは予習でもしようかと言う気になるな。僕は日鞠の席を見る。朝、家に寄ったけど既に出てた。けど日鞠の机には鞄はない。ざわめく教室でポッカリと空いた空間。
(アイツの席には誰も座らない)
窓際、四列目そこはまるで不可侵領域の如くだ。なんなんだろうな。僕の席なんかは嫌われてるからか、消しゴムのカスとかが時々あるんだけど……アイツの席は逆に誰かが掃除してるんじゃね? ってレベルで綺麗だ。
「いつまでも……いつまでも一緒にいられると思うなよ」
後ろからそんな言葉が聞こえた。振り返ると、気怠そうな瞳がこっちを見てた。僕が日鞠の席を見てたのを気付いたか? 取り敢えず聞こえなかったふりをして自分の席に戻った。
「はぁはぁはぁ……」
昼が過ぎて腹に昼飯が詰まったまま僕は学校周辺を走ってる。何をしてるかというと、マラソンである。マラソン大会がもうすぐあるからその練習で体育の授業はマラソンなんだ。ホントこの時期の体育は最悪。
この寒空の下、何が悲しくて走らないと行けないんだ。そんな事を延々と考えながら走ってると、道の端っこで蹲ってる奴が見えた。
「何やってんのお前?」
「…………」
返事がない。別に放っといてもいいんだろうけど、気づいたいじょうは気になるよな。
「しょうがない、先生を連れてきてやるよ。ちょっと待ってろ」
僕が珍しく親切心を発揮してやろうと思ったら、フラフラと風砂の奴は立ち上がった。くせっ毛の髪をいじりながら何かブツブツと言ってる。なんだか不気味だな。暗い暗いとは思ってたけど、ここまでのやつだったかな?
今日は一段と暗さに拍車がかかってるように思える。疲れてるせいだろうか? フラフラしながらも、前に進もうと歩き出す。けどそれは逆に心配に思える足取りだ。
「おい、あんまり無茶しないほうが……いいから休んでろよ」
伸ばした手は、触れる前に弾かれた。寒空の下のマラソンで冷えてた腕にはその衝撃が骨の芯まで響くようだった。
「っつぅぅぅ、おい、人が珍しく気にかけてやってるんだから大人しくしてろ。見てて危なっかしいんだよ」
「お前の……助けなんか……」
そう言って進み続ける風砂。そんなに嫌いか? 別にいいけど。取り敢えず老人の歩行よりもゆっくりな風砂の後をついていく。少しの間無言でついて行ってると、立ち止まってこっちを見てきた。
「なんで……付いてくるんだよ」
「ついていってるんじゃない。周回マラソンだからな。同じ道を通るのは必然だ」
「先に行けって言ってるんだ。邪魔……なんだよ」
「別に、僕がどう行動しようと勝手だろ? お前に指図されるいわれはない」
そう言うと反論の余地はなくなったのか、無言で歩き出した。案外いいサボる理由が出来たとか思ったけど、このペースじゃチャイムがなる前にグラウンドに戻れるだろうか? 案外走ってないと寒さが辛いしな。汗を書いた後だから余計に……ああは言ったものの、やっぱり置いてさっさとゴールした方が良さそうな……でもあんな風に言った手前、今走り出すのはちょっと格好悪い。
「お前……教師に怒られるぞ……ただでさえ印象悪いのに……」
「悪かったな印象悪くて。それ絶対まともな評価じゃないけど、余計なお世話だ。別にいいんだよそんなの。それに逆にこうも行動が結びつかないんじゃ、本当に不良にでもなろうかという気さえ生まれつつあるな」
「成ればいい。そうなったら会長だってお前を見捨てる」
「はっ、お前たちの大好きな『会長様』はそんなんで誰かを見捨てるような、器の小さな奴なのかよ?」
僕の言葉に一瞬目を見開いて、直ぐに鋭くなった風砂。そして背中を向けてペースを上げて走り––いや、早歩きしだす。少し距離を開けた後––
「会長は立派な人だ。だから自分達はお前を認めないんだ」
––とか失礼な事を言い放ちやがった。背中を向けたままの風砂。普段は丸まってるその背も今だけはビシッとしてるよ。それだけ日鞠の事真っ直ぐに見てるんだろう。ホントそんな奴ばっかだよ。
まあアイツがそうさせるってのもあるんだろうけど………
「一つ、誤解を解いてやろうか?」
「誤解?」
そこで再び振り向く風砂。僕はまた睨まれるのを覚悟して言ってやる。
「日鞠はそんな立派な奴じゃないぞ。周りの誰もがアイツを立派だと認めても、僕は立派だなんて思わない。天才でも鬼才でも、大層でも凄いでも、立派だけは認めないんだ」
「……」
あれ? なんだか反応がないぞ。僕の予想だと幾らコミュ症の風砂でも食いかかってくるかもとか思ったんだけど……そう思ってると、背を向けてこういった。
「やっぱり自分はお前が嫌いだ。好きに成れそうにもない。友達とか……絶対に思うなよ」
「別に思っちゃいないけど……取り敢えず今はクラスメイトだからな」
「それ以上でも以下でもない。そんな自分にとってどうでもいい奴でいろ」
そう言って風砂の奴は今度こそ走っていった。大丈夫かなアイツ? とか思ってたけど、ちょっとして気付いた。アイツが一人で教師の所に行ったら、僕はたださぼってた奴に成るじゃないか。具合悪そうにしてたクラスメイトを甲斐甲斐しく介抱してたって理由が付けれなく成る!
怒られるのには慣れてるけどさ、進んで怒られたいほどマゾじゃない。てな訳で僕は風砂を追っかけた。
「お〜い、ちょっ一人で行くと不味いだろ!」
僕個人的に。けど、そんなの当然風砂の奴は聞く訳もなく……
「ついてくんな!」
「まぁまぁそう言わずにここは一つ」
「いや––だね!」
「ちっ、こっちが下手に出てれば調子乗りやがって––」
どんどんヒートアップしていく僕達。そんなこんなで言い争ってたら、グラウンドに付いて具合の悪さと介抱を訴えたけど、そんなの今この瞬間の僕達では説得力が無く……結局二人揃って説教を受けたんだった。
最悪だよ!!
それなのにこっちは手を拱いてる。街に変わりはない。強いて言えばプレイヤーが増えたくらいかな? 何故か……あれからこの街には人が溢れてる。あんな事があったのに……と思うんだけど、寧ろあんなことがあったから……とも言える。
LROをやってる人達は多分刺激––って奴を求めてるんだろう。エリアバトルもその一つ。けど他に何かが聞こえてきたら、そっちも覗き見たくなる。それが人の本能というものだ。てな訳で今のLROでの話題の中心はここなのである。
でもまあどうだろうか? 流石にこう何もないとこんなぽっと出の話題の熱なんて直ぐに冷めてしまいそう……というか別にこっちは冷めて貰って構わない。話題に成るとか困るからね。LROは別段決まりがあるわけじゃない。
僕達がイベントを進めてるからと言って、他の誰もそこに介入できない訳じゃなく、寧ろ逆だ。誰だって関われる。だからこそ沢山いると、どこかで何かが始まってしまうかも……それか既に誰かが何かをしてるかも……
「はぁ〜」
「どうしたスオウ? 腹でも減ったのか? まだ二時間目だぞ」
僕が机で突っ伏してると秋徒の奴が覗いてくる。こいつはクラスでも中心的な位置に居たりするやつだ。だから常にクラスメイトと何か話してるわけだけど、こっちにもよく来るんだ。
秋徒の仲裁精神というか、潤滑油的な特性がクラスで浮いてる僕と言う存在を気にかけるらしい。いや、友達だから……で済ませてもいいけど、こいつはでかい図体してる割に周囲をよく気にかけるからな。
そんな訳で最初は面倒な奴だと思ったものだ。今も時々思うけどね。
「腹は減ってねーよ。寧ろ食い過ぎた位だ」
「そういえば家政婦が居るんだっけ?」
「ああ、日鞠の奴がな……ちょちょいと声を掛けて連れてきた。最近は中々アイツも家に来ないしな。天道さんも家事とかやるタイプじゃないし、摂理は言わずもがなだろ? 僕自身は出来ない事もないけどさ、流石に洗濯物とか困るし……そんな事を考えたんだろう。
天道さん自身も似たような事考えてたしな。あの人、摂理の事を引き取りはしたけど、世話とかをする気は無いようだから」
そう言って僕達は教室の前に居る摂理に目を向ける。転校して来てからずっと、アイツはクラスの男女それぞれから気を使われてる。いや、気に留めて貰ってるって言う方がいいのかな? それなりに馴染めた感じで何より。
男子からはチヤホヤ、女子からはペットみたいな感じで可愛がられてる感じだな。やっぱり見た目が飛び抜けてると興味が長く続くんだな。良くブスには三日で馴れる。美人は三日で飽きるとかいうけど、どうやらそんな事はないようだ。この言葉を残した人は三ヶ月程度にしといた方が良かったかもしれないな。
ガラ––
後数分で授業の開始を告げる予鈴が鳴ろうとする時にゾンビの様に扉から入ってくる奴が視界に止まった。それはクラスメイトで生徒会の一応同僚とも言える風砂だ。いつもそこまで存在感ないし、気にも留めない奴なんだけど……流石にあんなにゾンビっぽかったら嫌でも目につく。
それに風砂は生徒会役員だし、あいつが疲れる要員の大半は生徒会活動と相場が決まってる。そうなると必然的に日鞠の奴が気になる訳だ。今はアイツもLROやってるわけだしな。てな訳でそれとなく近づいて見ることに。
「おいスオウ?」
いきなり立ち上がった僕を訝しんで声を出す秋徒。僕はそんな秋徒に視線だけで風砂を指し示す。すると何か察したのか、率先して風砂に声を掛けに行く秋徒。
「よっ、風砂。なんだか今日は朝からやつれてるな? どうした?」
(おおっ!?)
なんて奴だ。知ってたけどコミュ力たけーな。僕はまずどうやって声を掛けたものかと悩んでたのに、秋徒の奴はそんな事なかった。流石は取り敢えずクラス全員と友達になろうとする奴は違うぜ。
僕なんか関わらなくていいのなら、クラスメイトでも関わらないもん。そもそもまだ全員の名前覚えてないし。けど秋徒の奴は違う。勉強とかよりもコミュニケーションに力を注ぐ奴だから、直ぐにクラス全員の名前をチェックしてた。
秋徒の気持ちも分からなくはないんだけどね。どう足掻いたって一度決まったクラスは変えようがない。どんなに嫌でもそのコミュニティで一年間は過ごさなきゃいけないんだ。それなのにクラスの雰囲気が悪かったりしたらそれはもう最悪だよ。
つまりは秋徒の奴はそんな最悪を避ける為に、率先してクラスの雰囲気を作ろうとしてきたんだ。それは……結構大変な事だよな。僕ならやる気起きないし、やれる自信もない。でもそれを秋徒はやった。
まあ、秋徒がやらなくても別段問題なんて無かったかもしれない。けど、秋徒……ああ、うん。そういえば秋徒よりも日鞠の方が功績大きかったかも。そもそも最初に纏めたのは日鞠だし……けど秋徒も努力した。うん、僕は親友としてそれを覚えてて上げないと行けない。
ほんと日鞠の用な規格外の奴は凡人の努力ってやつを塗りつぶすよな。でも秋徒の奴はその隙間程度で折り合いつけてるみたいだから不満はないようだけどね。
「うっ……あっ……関係……ないだろ……」
うわああ、こっちはこっちでコミュ症全開だな。生徒会でもあんまり喋んないもんな風砂は。だから雑用ばっかり押し付けられるんだぞ。僕なんてほぼいってないから雑用さえ押し付けられないし。その分行く用事が出来た時は行きづらいんだけどね。
けどそもそも僕は嫌われてるから、今更である。でも風砂は違うようで、寧ろ生徒会というコミュニティの方が重要性高いかも? 日鞠いるしな。それに今は雨乃森先輩も……気になる噂を確かめたくてウズウズするけど、このタイミングで聞くことも出ないかな?
流石にその位の空気は読めるぞ。それに僕は自分が嫌な事は他人にやらないと決めてるんだ。ホント幼馴染ってだけで日鞠との関係を詮索する奴が多かったからな。だから野次馬根性はクソ食らえと思ってる。
だから素直に本題に入る。
「最近何やってるんだよ。また日鞠が変なイベント企画してるとか?」
「会長は無理を押し付けたりしない。ただ自分自身が不甲斐ないだけだ」
ふむ……よく分からない。もっと具体的に質問には答えろよ。そしてそのまま突っ伏すし……と思ったら机からガサゴソと教科書とノートを取り出して次の授業の準備を始める。おいおい
、流石生徒会は授業もぬかりねえな。
なんだかそんな姿を見るとこれ以上言えないというか……ちょっとは予習でもしようかと言う気になるな。僕は日鞠の席を見る。朝、家に寄ったけど既に出てた。けど日鞠の机には鞄はない。ざわめく教室でポッカリと空いた空間。
(アイツの席には誰も座らない)
窓際、四列目そこはまるで不可侵領域の如くだ。なんなんだろうな。僕の席なんかは嫌われてるからか、消しゴムのカスとかが時々あるんだけど……アイツの席は逆に誰かが掃除してるんじゃね? ってレベルで綺麗だ。
「いつまでも……いつまでも一緒にいられると思うなよ」
後ろからそんな言葉が聞こえた。振り返ると、気怠そうな瞳がこっちを見てた。僕が日鞠の席を見てたのを気付いたか? 取り敢えず聞こえなかったふりをして自分の席に戻った。
「はぁはぁはぁ……」
昼が過ぎて腹に昼飯が詰まったまま僕は学校周辺を走ってる。何をしてるかというと、マラソンである。マラソン大会がもうすぐあるからその練習で体育の授業はマラソンなんだ。ホントこの時期の体育は最悪。
この寒空の下、何が悲しくて走らないと行けないんだ。そんな事を延々と考えながら走ってると、道の端っこで蹲ってる奴が見えた。
「何やってんのお前?」
「…………」
返事がない。別に放っといてもいいんだろうけど、気づいたいじょうは気になるよな。
「しょうがない、先生を連れてきてやるよ。ちょっと待ってろ」
僕が珍しく親切心を発揮してやろうと思ったら、フラフラと風砂の奴は立ち上がった。くせっ毛の髪をいじりながら何かブツブツと言ってる。なんだか不気味だな。暗い暗いとは思ってたけど、ここまでのやつだったかな?
今日は一段と暗さに拍車がかかってるように思える。疲れてるせいだろうか? フラフラしながらも、前に進もうと歩き出す。けどそれは逆に心配に思える足取りだ。
「おい、あんまり無茶しないほうが……いいから休んでろよ」
伸ばした手は、触れる前に弾かれた。寒空の下のマラソンで冷えてた腕にはその衝撃が骨の芯まで響くようだった。
「っつぅぅぅ、おい、人が珍しく気にかけてやってるんだから大人しくしてろ。見てて危なっかしいんだよ」
「お前の……助けなんか……」
そう言って進み続ける風砂。そんなに嫌いか? 別にいいけど。取り敢えず老人の歩行よりもゆっくりな風砂の後をついていく。少しの間無言でついて行ってると、立ち止まってこっちを見てきた。
「なんで……付いてくるんだよ」
「ついていってるんじゃない。周回マラソンだからな。同じ道を通るのは必然だ」
「先に行けって言ってるんだ。邪魔……なんだよ」
「別に、僕がどう行動しようと勝手だろ? お前に指図されるいわれはない」
そう言うと反論の余地はなくなったのか、無言で歩き出した。案外いいサボる理由が出来たとか思ったけど、このペースじゃチャイムがなる前にグラウンドに戻れるだろうか? 案外走ってないと寒さが辛いしな。汗を書いた後だから余計に……ああは言ったものの、やっぱり置いてさっさとゴールした方が良さそうな……でもあんな風に言った手前、今走り出すのはちょっと格好悪い。
「お前……教師に怒られるぞ……ただでさえ印象悪いのに……」
「悪かったな印象悪くて。それ絶対まともな評価じゃないけど、余計なお世話だ。別にいいんだよそんなの。それに逆にこうも行動が結びつかないんじゃ、本当に不良にでもなろうかという気さえ生まれつつあるな」
「成ればいい。そうなったら会長だってお前を見捨てる」
「はっ、お前たちの大好きな『会長様』はそんなんで誰かを見捨てるような、器の小さな奴なのかよ?」
僕の言葉に一瞬目を見開いて、直ぐに鋭くなった風砂。そして背中を向けてペースを上げて走り––いや、早歩きしだす。少し距離を開けた後––
「会長は立派な人だ。だから自分達はお前を認めないんだ」
––とか失礼な事を言い放ちやがった。背中を向けたままの風砂。普段は丸まってるその背も今だけはビシッとしてるよ。それだけ日鞠の事真っ直ぐに見てるんだろう。ホントそんな奴ばっかだよ。
まあアイツがそうさせるってのもあるんだろうけど………
「一つ、誤解を解いてやろうか?」
「誤解?」
そこで再び振り向く風砂。僕はまた睨まれるのを覚悟して言ってやる。
「日鞠はそんな立派な奴じゃないぞ。周りの誰もがアイツを立派だと認めても、僕は立派だなんて思わない。天才でも鬼才でも、大層でも凄いでも、立派だけは認めないんだ」
「……」
あれ? なんだか反応がないぞ。僕の予想だと幾らコミュ症の風砂でも食いかかってくるかもとか思ったんだけど……そう思ってると、背を向けてこういった。
「やっぱり自分はお前が嫌いだ。好きに成れそうにもない。友達とか……絶対に思うなよ」
「別に思っちゃいないけど……取り敢えず今はクラスメイトだからな」
「それ以上でも以下でもない。そんな自分にとってどうでもいい奴でいろ」
そう言って風砂の奴は今度こそ走っていった。大丈夫かなアイツ? とか思ってたけど、ちょっとして気付いた。アイツが一人で教師の所に行ったら、僕はたださぼってた奴に成るじゃないか。具合悪そうにしてたクラスメイトを甲斐甲斐しく介抱してたって理由が付けれなく成る!
怒られるのには慣れてるけどさ、進んで怒られたいほどマゾじゃない。てな訳で僕は風砂を追っかけた。
「お〜い、ちょっ一人で行くと不味いだろ!」
僕個人的に。けど、そんなの当然風砂の奴は聞く訳もなく……
「ついてくんな!」
「まぁまぁそう言わずにここは一つ」
「いや––だね!」
「ちっ、こっちが下手に出てれば調子乗りやがって––」
どんどんヒートアップしていく僕達。そんなこんなで言い争ってたら、グラウンドに付いて具合の悪さと介抱を訴えたけど、そんなの今この瞬間の僕達では説得力が無く……結局二人揃って説教を受けたんだった。
最悪だよ!!
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