命改変プログラム
皆の事情
夜も更けた中、カランコロンと扉を鳴らして僕はその店へと足を踏み入れる。街の中心街にほど近い所に店を構えてるオズワリー亭は三階建てでネオンみたいな光を放つ派手派手な装飾をしてその存在を主張してる店だ。
まあそれが功を奏してるのかはわかんないけど、店の中はいつ来ても人でいっぱいだ。実際僕はもっと静かな所が好きなんだけど……まあだけど上に行けば行くほどここ静かにはなる。一階はそれこそ雑多に酒や食事を飲み交わす連中のたまり場だけど、二階は個室に成ってるし、三階は高級路線らしい。
三階は入り口も違うらしいから行ったことは無いけどね。まあ高級思考の客はこういう雑多な感じは見たくないだろうし、妥当だとは思う。雰囲気って大事だしね。後ここがプレイヤーに好まれて使われるのは、経営者もプレイヤーだかららしい。
ようはここオズワリー亭はプレイヤーがプレイヤーの為に……というかそこにターゲットを絞ってやってるということだろう。その気に成ればなんだって出来るLROだ。店を出すことだって可能だろう。
でもだからって成功するかはやっぱり別だ。細々としたのでいいなら躍起になる必要もないだろうけど、ここは明らかに勝負してるよ。新たなメニューを更新したり、接客とかも力を入れてる。具体的には可愛い女の子が多い。そして可愛い衣装を着せてる。
LROは基本可愛い子多いけど、お店とかで雇うのは基本NPC。そういうNPCは街で普通に生活してる人達よりももっと機械的なものなんだけど、なんだかここのNPCは違う。表情が豊かで、個性も一杯。どういうトリックを使ってるのか……まあだけどだからこそリピーターも多いんだろう。
無表情の娘に接客されるよりかは、どう考えても笑顔を振りまいてくれる娘に接客された方がいいに決まってる。それにプレイヤー目線だけあって、味付けや量とかわかった感じに提供される。
そして情報交換をし易い様に、一階の開放的な空間にぶっ刺さってる柱はモニター代わりにも成ってて、そこには色々な情報が流れたりしてる。上の個室は盗聴スキルを妨害する工夫とかもしてあるとかなんとか。
やっぱり繁盛するにはそれだけの理由があるって事だね。
「一名様ですか?」
喧騒の中、フリル一杯の制服に身を包んだ娘が現れる。胸元の開かれた衣装……少し動いただけでフワッと広がって見えそうになるスカート……アホな男が大挙するのも頷ける格好だ。まあ僕はそんな見た目だけにつられたりはしないけど。
視線がついついそういう部分に行くのは人の性なんで……
「えっと、先に来てる筈なんですけど……アギトって奴が」
「アギト様ですね」
そう言うと、彼女の目はどこか虚ろ気になった。そして直ぐに––
「アギト様は二階の犬の間にてお待ちです。そちらの階段からお上がりください」
一瞬の変な間は検索か何かを掛けてたのだろうか? 便利だな。取り敢えず個室をとってたくれてたみたいだから騒がしい一階からおさらばする事に。けどその時、一際大きく一階で盛大に盛り上がってる人達が沸いた。
「なんだ?」
何事かと振り返えって彼等が注目してる柱を中止する。一階と行ってもその中部分は、もう一階分窪んでて、ここからだとそれなりに距離がある。でも僕の眼なら問題なかった。
「エリアバトルの勝敗か。でも何でそんなに盛り上がってるんだ?」
デカデカと輝いてるチーム名を見てもよくわからない。何か重大な事なのだろうか? それかただ単に賭けとか? エリアバトルは大なり小なり賭けの対象になるからね。大きく有名な所の対戦なら尚更。
「これで四国の情勢は決まったな」
「まさか四万十魂が負けるとはな……向こうの方が戦力は大きかった筈なのに……」
「戦いは数じゃないだろ? けどこれでどんどん情勢が塊つつあるな。次は九州くらいか? 関東はテア・レス・テレスで決まりか?」
「どうだろうな? 規模がデカくなったからって、関東にはその他でなら最大勢力と言われる程のチームは結構あるからな」
「でもそれら全部をゴボウ抜きしていったのがテア・レス・テレスだろ? 今の勢いを止めれる勢力が居るとは思えないな」
「そうだな。一体どんな奴がトップなのか……考えるだけで恐ろしい」
「変人だって聞くよな」
近くの席から聞こえてくる声。大体状況は分かった。ようは四国は一つに統一されたみたいな感じなんだろう。だからこんなに盛り上がってる。その地域の最大勢力のぶつかり合いがあったって事だ。それは盛り上がるだろう。
でも四国ってどの程度なんだろう? あんまり印象ないよ。後日鞠の奴変人扱いされてるし……まあ間違ってはないよ。アイツは確かに変だからな。でも凄いと思われてるのは、ちょっと自分的に誇らしかったり。
取り敢えず、僕は一段飛ばしで二階へ上がった。
二階は和の雰囲気を取り入れた空間で、幾つもの襖が奥に続いてた。取り敢えず犬の間だっけを探さないと。
「子……丑……寅……卯……辰……これって干支かよ」
って事はもうちょっとすっ飛ばしても問題ない? 少しペースを上げて僕は歩く。部屋の名前が書かれた札の位置は変わらないんだから、一瞬目にいれるだけで十分僕の眼なら確認できる。だからさっさと通りすぎて犬の間に辿り着いた。
そこには既に脱がれた靴が幾つかある。装備解除すれば消える筈だけど……脱いでも消えないのはまだ必要だとシステムが判断してるんだろうか? まあ良いんだけど……取り敢えず僕も皆に習って靴を脱いで隅っこに並べて襖を開ける。
「おうスオウ。遅いぞ」
「遅くはないだろ。直ぐに戻ってきたんだし」
「こんばんはスオウ君」
「確かに遅くはないけど、待たせるってのが気に喰わないわね」
「大丈夫誰も待ってませんよ」
それぞれの返ってくる声。部屋を見るとそれなりの人数が居た。僕を見るだけで声を出してない人も居る。一番奥の上座の方にはアイリさんとメカブ(メカブはそもそも本名じゃないから、こっちでもメカブなのだ)が鎮座してる。
多分それぞれのチームのリーダーだからだろう。その両端には一番の側近であるセラとラオウさん(こっちではオウラと並べ替えてる)二人が控えてる。そしてアギトやセツリが続いて、テッケンさんやシルクちゃんが居て、そして一番の下座には知らない奴が……
「誰?」
「ノウイっすよ!! 忘れないで下さいっす!!」
ノウイ? そんな奴居たっけ? 幾らその姿を見てもピンと来ない。いや緑髪はなんだか頭の隅に引っかかる気はするんだけど……それ以外がね……
「こうすればわかるっすか?」
そういってノウイを名乗るそいつは目を手で隠した。おいおいそんなモザイクしたって……
「……ん? お前あのノウイか!?」
「どうして皆、目があったらわかんないんスカ!?」
思い出した思い出した。目が点だったノウイ君ね。だって目が普通サイズなんだもん。前の印象と全然違ってわかんないっての。
「そりゃあわかんないよ。だってあの目がアイデンティティだったろ?」
「そんな風に思ったことないっすけどね!」
自ら自分のアイデンティティを潰すとは……そりゃあ顔は良くなったよ。イケメンだよ。でも緑髪程度じゃLROじゃインパクト薄いよ。顔なんて幾らでも造形出来るLROじゃイケメンなんてそこら辺を常に闊歩してるもん。
そんな世界で目が点は良い感じだと思ったんだけど……今までノウイを目が点と表現して来たのに、これからどうしろって言うんだよ。
「てか、そっちはLROの時のままっすね……そんなに自分大好きなんすか?」
ちょっと引く感じにノウイに言われると腹立つな。まあでも手を出さずに畳に上がり席を探しつつ答えてやる。
「顔は作ったんだ。てか作って始めたはずなんだよ。けど何度やっても反映されないんだ」
「セツリと一緒なんだよな?」
「そうっぽい」
「へぇ〜やっぱり二人は特殊なんすかね?」
特殊って……なんかそれじゃ変な感じが強くないか? どうせなら特別の方がいい。特殊は『Uniqueness』だけど特別は『Special』だ。なんか後者の方がイメージ良い。
「スオウはこっちだよ」
そう言ってセツリの奴が自身の隣を示すからそっちに行く。そして例の特殊が二人並んだ所でさっきのノウイの言葉に返してやる。
「特殊なのかどうか……一応リセットはされた筈だからな。てか好き好んでこのままでLROに来るわけ無いだろ」
「それもそうっすね。セツリちゃんはともかく、スオウくんの事は良く思ってない人もそれなりに居るっすからね」
「そういう事だ」
LROのリセットはあの時プレイしてた全ユーザーに許可を貰った訳じゃない。僕の独断と偏見で強引に実行したんだ。そりゃあ事情を知ってた人達は仕方ないって言ってくれる。ああするしか勝つ方法はなかったんだし、囚われたユーザーを救うことも出来なかった。
けどそれは事情を知ってた人や理解ある人だけだ。世の中には色んな人が居るわけで、自分達が費やした時間がどっかの誰かに勝手にリセットされたら怒りたく成るなる人も居る。てな訳で、このままの姿じゃ僕は生まれ変わったLROで肩身が狭い。
だからこそ容姿を変えるのは凄く効果的だったんだけど……設定の段階では幾らでもイジれるんだけど、いざLROに入ってみると何故か僕はリアルの姿のままで投影されてしまう。そしてそれはセツリも一緒だった。
「私はあんまり弊害ないけどな〜」
「お前の事はあんまり知らないだろうからな」
黒幕みたいな物だったのに、原因であるセツリに対して矛先は向くことなく、結果をもたらした僕に敵意は向けられてる。結果より過程が大事だというけど、結果はやっぱりその人を見るための周りの指標になる。
近しい人達は過程を認めてくれるけど、大多数の他人は結果でその人を判断するんだ。だからリセットという結果をもたらした僕には批判とか恨みとかがそれなりにあるようだ。定期的にスレ立ってるしね。
しかも今リーフィアが送られてるのが元々LROをやってたユーザーが大多数ってのも大きい。新規の人達が大量に居るんなら、前の事も知らないだろうし、知っててもそんなに関心はないだろう。
けど、リセット前もやってたユーザーが大多数の今は、どうあっても肩身は狭くなる。勿論ちゃんと養護してくれる人達は居るんだけどね。けどネット上とか顔が見えない部分では圧倒的に声がデカイ奴が強いのである。
「まあだけど、こっちで襲われたりとかはしてないんだろ? 気にする必要なんてない。大体、ネットでデカイ顔する奴に限って行動なんておこせないんだからな」
「そうですね。行動をし続けてきたスオウ君は立派ですよ。批判する人達は自分にとって不利益だった所しか見ないんです。理解しようとしない。叩くことが目的に成ってたりすることが有ります。
今こうして、かろうじてLROが復活しつつあるのもスオウくんのおかげだというのに」
上座に居るアイリの言葉は優しくて癒やされる。こうやって自分を認めてくれる人達がいるんだから、確かに別段気にする必要もない。アギトの言うとおり手出しされたわけでもないしね。まあだけど、そもそもキャラメイクを反映してくれたら、こんな事に思い悩む事もなかったんだけどね。
「アイリ様、オウラ様、面々も揃ったわけですし、本題へ入られては?」
「おいちょっとそこのエルフ! なんで私じゃなくオウラへ振る!?」
静かにそう助言したセラに噛み付いたのはメカブである。リアルでもLROでも騒々しい奴だ。するとセラは一瞥した後に、一応礼儀正しく答える。
「別に、貴女では意味が無いと思いまして」
「なんだとこらあああああ!!」
礼儀正しいのは言葉遣いだけだった。完全に小馬鹿にしてるよね。まあだけどメカブに関しては正しい認識だと思う。そもそもなんでメカブがリーダーなんだよ? ほんとラオウさん……じゃなくオウラさんで良かっただろ。
「メカブ落ち着けよ。仕方ないんだからさ。それよりもお金を稼げると聞いたんだけど?」
「スオウ目がお金に成ってるよ」
「この金の亡者が……」
セツリが乾いた笑いを漏らし、メカブが僕に恨めしい視線を送ってくる。しょうがないじゃん。そう一朝一夕にお金なんて稼げないんだよ。必要な時に稼いどかないとな。
「そういえば鍛冶屋がいないな。武器の相談とかしたかったのに……」
「アイツはスレイプルの方で持ち上げられてるからな。色々と忙しいんだよ」
「そういえばそんな事を聞いたな……」
スレイプルは職人が多いから、それぞれ独自にやってたのが前のLROだったわけだけど、今回はスレイプルの職人達が寄り集まって、デカイ生産系ブランドを立ち上げてるらしい。そしてそこの中心がなんとあの鍛冶屋だとか。
これも前のユーザーを引き継いでる弊害なのか……前そこそこスレイプルを纏めたら、その記憶が鍛冶屋の支持に繋がってるらしい。でも普段のアイツなら、そっけなく断りそうな物だけど……
「あいつはあいつで、心境の変化でも会ったんじゃないのか? あれから数ヶ月だしな」
「そっか……そうかもな」
数ヶ月なんてたった––とも、もう––とも言える期間だ。それはきっと過ごし方に寄るだろう。人によっては心境が変わってもおかしくないかもしれない。あの一匹狼みたいだった鍛冶屋がね……なんか感慨深い。
「それで皆さんに依頼したい事ですが……」
そう言ってオウラさんが切り出す。いよいよ本題か。僕達はその言葉に耳を傾ける。
「実は私達が世話してる孤児院がその地の領主によって取り壊されそうなのです。ですのでその悪徳領主を成敗するのにお力をおかし頂きたい」
「ん? それってリアル? LRO?」
「勿論こちらですよ」
オウラさんは上品にそう言うよ。彼女はリアルとは違って間違いなく女性になってた。いや、リアルでも間違いなく性別は女性なんだけどね。でも見た目的にはそこらの男よりも屈強なのは事実。けどここではその姿が女性だ。
種族はウンディーネ。身長も高めで、それなりにリアルに合わせてる所もあるけど、体の線は女性的で、中々に露出の高い服を着てる。青い肌してるけど、その程度じゃリアルラオウさんをしってると動じない。
てかラオウさんってあの姿じゃなかったらかなり女性的な感じ。仕草とか、所作とか……シスターだけあってなんか行き届いてる感じがする。つまりはあの見た目でかなり損してるのかな?
「だけど孤児院ってどういうことっすか? そんなクエストを受領したとか?」
「いいえ、クエストは受けてません。ただ不味いと思うから行動するのです。それが許される世界なのでしょう? 私達には力がある。それは弱い者を守るための物です」
その言葉は実にシスターぽかった。確かにLROは何してもいい。それこそ自由だ。でも領主を倒すとかなればそれはクエスト的な物なのかなとは思うのは当然だ。けど違うらしく、でも行動は起こしたい。
それは結果としてどういう影響を及ぼすんだろうか? 深くLROの世界へ関われなく成った今、いいのかな? と多分皆思ってる。関心はエリアバトルの方へシフトしてるからね。
「確かにコレは私達のわがままだと思うわ。けど、結局ここはLROなのよ。その世界と距離を置くなんて出来ない。だって彼等はここで生きてるもの。この世界に居る限り、私達だって世界の一部。
助けたい子達を助けて何が悪い!」
そう言うメカブの奴はいつものテキトーさ加減はない。真剣で、一生懸命だった。そんな顔を見たからか、僕はこう言うよ。
「別に良いんじゃないか? 悪徳領主の財産を分けてくれるんだろ? 今の僕にはそれが必要だ。先立つ物がないと装備を新調出来ないんだよ」
「まあ俺達は元から協力する気だったしな。依存はない。それに事情もしってる」
「私はスオウがやるのなら……」
「僕も手伝うよ。孤児院を潰すとか許せないね」
「私も、そこの子供たちは知り合いですから」
僕に続いてアギト、セツリ、テッケンさん、そしてシルクちゃんと続いた。セラやアイリ、そしてノウイはアギトと同じチームだし、意思は共有してるんだろう。皆の意思を聞いたメカブは満足気に立ち上がりそして宣言するよ。
「よし! それでこそ選ばれし者達! 私に逆らったこと、あの領主に思い知らせてやるわ!!」
なんかすっごく私情を感じる宣言だったけど、そこには突っ込まずに皆で「おー!」と声を揃えた。
まあそれが功を奏してるのかはわかんないけど、店の中はいつ来ても人でいっぱいだ。実際僕はもっと静かな所が好きなんだけど……まあだけど上に行けば行くほどここ静かにはなる。一階はそれこそ雑多に酒や食事を飲み交わす連中のたまり場だけど、二階は個室に成ってるし、三階は高級路線らしい。
三階は入り口も違うらしいから行ったことは無いけどね。まあ高級思考の客はこういう雑多な感じは見たくないだろうし、妥当だとは思う。雰囲気って大事だしね。後ここがプレイヤーに好まれて使われるのは、経営者もプレイヤーだかららしい。
ようはここオズワリー亭はプレイヤーがプレイヤーの為に……というかそこにターゲットを絞ってやってるということだろう。その気に成ればなんだって出来るLROだ。店を出すことだって可能だろう。
でもだからって成功するかはやっぱり別だ。細々としたのでいいなら躍起になる必要もないだろうけど、ここは明らかに勝負してるよ。新たなメニューを更新したり、接客とかも力を入れてる。具体的には可愛い女の子が多い。そして可愛い衣装を着せてる。
LROは基本可愛い子多いけど、お店とかで雇うのは基本NPC。そういうNPCは街で普通に生活してる人達よりももっと機械的なものなんだけど、なんだかここのNPCは違う。表情が豊かで、個性も一杯。どういうトリックを使ってるのか……まあだけどだからこそリピーターも多いんだろう。
無表情の娘に接客されるよりかは、どう考えても笑顔を振りまいてくれる娘に接客された方がいいに決まってる。それにプレイヤー目線だけあって、味付けや量とかわかった感じに提供される。
そして情報交換をし易い様に、一階の開放的な空間にぶっ刺さってる柱はモニター代わりにも成ってて、そこには色々な情報が流れたりしてる。上の個室は盗聴スキルを妨害する工夫とかもしてあるとかなんとか。
やっぱり繁盛するにはそれだけの理由があるって事だね。
「一名様ですか?」
喧騒の中、フリル一杯の制服に身を包んだ娘が現れる。胸元の開かれた衣装……少し動いただけでフワッと広がって見えそうになるスカート……アホな男が大挙するのも頷ける格好だ。まあ僕はそんな見た目だけにつられたりはしないけど。
視線がついついそういう部分に行くのは人の性なんで……
「えっと、先に来てる筈なんですけど……アギトって奴が」
「アギト様ですね」
そう言うと、彼女の目はどこか虚ろ気になった。そして直ぐに––
「アギト様は二階の犬の間にてお待ちです。そちらの階段からお上がりください」
一瞬の変な間は検索か何かを掛けてたのだろうか? 便利だな。取り敢えず個室をとってたくれてたみたいだから騒がしい一階からおさらばする事に。けどその時、一際大きく一階で盛大に盛り上がってる人達が沸いた。
「なんだ?」
何事かと振り返えって彼等が注目してる柱を中止する。一階と行ってもその中部分は、もう一階分窪んでて、ここからだとそれなりに距離がある。でも僕の眼なら問題なかった。
「エリアバトルの勝敗か。でも何でそんなに盛り上がってるんだ?」
デカデカと輝いてるチーム名を見てもよくわからない。何か重大な事なのだろうか? それかただ単に賭けとか? エリアバトルは大なり小なり賭けの対象になるからね。大きく有名な所の対戦なら尚更。
「これで四国の情勢は決まったな」
「まさか四万十魂が負けるとはな……向こうの方が戦力は大きかった筈なのに……」
「戦いは数じゃないだろ? けどこれでどんどん情勢が塊つつあるな。次は九州くらいか? 関東はテア・レス・テレスで決まりか?」
「どうだろうな? 規模がデカくなったからって、関東にはその他でなら最大勢力と言われる程のチームは結構あるからな」
「でもそれら全部をゴボウ抜きしていったのがテア・レス・テレスだろ? 今の勢いを止めれる勢力が居るとは思えないな」
「そうだな。一体どんな奴がトップなのか……考えるだけで恐ろしい」
「変人だって聞くよな」
近くの席から聞こえてくる声。大体状況は分かった。ようは四国は一つに統一されたみたいな感じなんだろう。だからこんなに盛り上がってる。その地域の最大勢力のぶつかり合いがあったって事だ。それは盛り上がるだろう。
でも四国ってどの程度なんだろう? あんまり印象ないよ。後日鞠の奴変人扱いされてるし……まあ間違ってはないよ。アイツは確かに変だからな。でも凄いと思われてるのは、ちょっと自分的に誇らしかったり。
取り敢えず、僕は一段飛ばしで二階へ上がった。
二階は和の雰囲気を取り入れた空間で、幾つもの襖が奥に続いてた。取り敢えず犬の間だっけを探さないと。
「子……丑……寅……卯……辰……これって干支かよ」
って事はもうちょっとすっ飛ばしても問題ない? 少しペースを上げて僕は歩く。部屋の名前が書かれた札の位置は変わらないんだから、一瞬目にいれるだけで十分僕の眼なら確認できる。だからさっさと通りすぎて犬の間に辿り着いた。
そこには既に脱がれた靴が幾つかある。装備解除すれば消える筈だけど……脱いでも消えないのはまだ必要だとシステムが判断してるんだろうか? まあ良いんだけど……取り敢えず僕も皆に習って靴を脱いで隅っこに並べて襖を開ける。
「おうスオウ。遅いぞ」
「遅くはないだろ。直ぐに戻ってきたんだし」
「こんばんはスオウ君」
「確かに遅くはないけど、待たせるってのが気に喰わないわね」
「大丈夫誰も待ってませんよ」
それぞれの返ってくる声。部屋を見るとそれなりの人数が居た。僕を見るだけで声を出してない人も居る。一番奥の上座の方にはアイリさんとメカブ(メカブはそもそも本名じゃないから、こっちでもメカブなのだ)が鎮座してる。
多分それぞれのチームのリーダーだからだろう。その両端には一番の側近であるセラとラオウさん(こっちではオウラと並べ替えてる)二人が控えてる。そしてアギトやセツリが続いて、テッケンさんやシルクちゃんが居て、そして一番の下座には知らない奴が……
「誰?」
「ノウイっすよ!! 忘れないで下さいっす!!」
ノウイ? そんな奴居たっけ? 幾らその姿を見てもピンと来ない。いや緑髪はなんだか頭の隅に引っかかる気はするんだけど……それ以外がね……
「こうすればわかるっすか?」
そういってノウイを名乗るそいつは目を手で隠した。おいおいそんなモザイクしたって……
「……ん? お前あのノウイか!?」
「どうして皆、目があったらわかんないんスカ!?」
思い出した思い出した。目が点だったノウイ君ね。だって目が普通サイズなんだもん。前の印象と全然違ってわかんないっての。
「そりゃあわかんないよ。だってあの目がアイデンティティだったろ?」
「そんな風に思ったことないっすけどね!」
自ら自分のアイデンティティを潰すとは……そりゃあ顔は良くなったよ。イケメンだよ。でも緑髪程度じゃLROじゃインパクト薄いよ。顔なんて幾らでも造形出来るLROじゃイケメンなんてそこら辺を常に闊歩してるもん。
そんな世界で目が点は良い感じだと思ったんだけど……今までノウイを目が点と表現して来たのに、これからどうしろって言うんだよ。
「てか、そっちはLROの時のままっすね……そんなに自分大好きなんすか?」
ちょっと引く感じにノウイに言われると腹立つな。まあでも手を出さずに畳に上がり席を探しつつ答えてやる。
「顔は作ったんだ。てか作って始めたはずなんだよ。けど何度やっても反映されないんだ」
「セツリと一緒なんだよな?」
「そうっぽい」
「へぇ〜やっぱり二人は特殊なんすかね?」
特殊って……なんかそれじゃ変な感じが強くないか? どうせなら特別の方がいい。特殊は『Uniqueness』だけど特別は『Special』だ。なんか後者の方がイメージ良い。
「スオウはこっちだよ」
そう言ってセツリの奴が自身の隣を示すからそっちに行く。そして例の特殊が二人並んだ所でさっきのノウイの言葉に返してやる。
「特殊なのかどうか……一応リセットはされた筈だからな。てか好き好んでこのままでLROに来るわけ無いだろ」
「それもそうっすね。セツリちゃんはともかく、スオウくんの事は良く思ってない人もそれなりに居るっすからね」
「そういう事だ」
LROのリセットはあの時プレイしてた全ユーザーに許可を貰った訳じゃない。僕の独断と偏見で強引に実行したんだ。そりゃあ事情を知ってた人達は仕方ないって言ってくれる。ああするしか勝つ方法はなかったんだし、囚われたユーザーを救うことも出来なかった。
けどそれは事情を知ってた人や理解ある人だけだ。世の中には色んな人が居るわけで、自分達が費やした時間がどっかの誰かに勝手にリセットされたら怒りたく成るなる人も居る。てな訳で、このままの姿じゃ僕は生まれ変わったLROで肩身が狭い。
だからこそ容姿を変えるのは凄く効果的だったんだけど……設定の段階では幾らでもイジれるんだけど、いざLROに入ってみると何故か僕はリアルの姿のままで投影されてしまう。そしてそれはセツリも一緒だった。
「私はあんまり弊害ないけどな〜」
「お前の事はあんまり知らないだろうからな」
黒幕みたいな物だったのに、原因であるセツリに対して矛先は向くことなく、結果をもたらした僕に敵意は向けられてる。結果より過程が大事だというけど、結果はやっぱりその人を見るための周りの指標になる。
近しい人達は過程を認めてくれるけど、大多数の他人は結果でその人を判断するんだ。だからリセットという結果をもたらした僕には批判とか恨みとかがそれなりにあるようだ。定期的にスレ立ってるしね。
しかも今リーフィアが送られてるのが元々LROをやってたユーザーが大多数ってのも大きい。新規の人達が大量に居るんなら、前の事も知らないだろうし、知っててもそんなに関心はないだろう。
けど、リセット前もやってたユーザーが大多数の今は、どうあっても肩身は狭くなる。勿論ちゃんと養護してくれる人達は居るんだけどね。けどネット上とか顔が見えない部分では圧倒的に声がデカイ奴が強いのである。
「まあだけど、こっちで襲われたりとかはしてないんだろ? 気にする必要なんてない。大体、ネットでデカイ顔する奴に限って行動なんておこせないんだからな」
「そうですね。行動をし続けてきたスオウ君は立派ですよ。批判する人達は自分にとって不利益だった所しか見ないんです。理解しようとしない。叩くことが目的に成ってたりすることが有ります。
今こうして、かろうじてLROが復活しつつあるのもスオウくんのおかげだというのに」
上座に居るアイリの言葉は優しくて癒やされる。こうやって自分を認めてくれる人達がいるんだから、確かに別段気にする必要もない。アギトの言うとおり手出しされたわけでもないしね。まあだけど、そもそもキャラメイクを反映してくれたら、こんな事に思い悩む事もなかったんだけどね。
「アイリ様、オウラ様、面々も揃ったわけですし、本題へ入られては?」
「おいちょっとそこのエルフ! なんで私じゃなくオウラへ振る!?」
静かにそう助言したセラに噛み付いたのはメカブである。リアルでもLROでも騒々しい奴だ。するとセラは一瞥した後に、一応礼儀正しく答える。
「別に、貴女では意味が無いと思いまして」
「なんだとこらあああああ!!」
礼儀正しいのは言葉遣いだけだった。完全に小馬鹿にしてるよね。まあだけどメカブに関しては正しい認識だと思う。そもそもなんでメカブがリーダーなんだよ? ほんとラオウさん……じゃなくオウラさんで良かっただろ。
「メカブ落ち着けよ。仕方ないんだからさ。それよりもお金を稼げると聞いたんだけど?」
「スオウ目がお金に成ってるよ」
「この金の亡者が……」
セツリが乾いた笑いを漏らし、メカブが僕に恨めしい視線を送ってくる。しょうがないじゃん。そう一朝一夕にお金なんて稼げないんだよ。必要な時に稼いどかないとな。
「そういえば鍛冶屋がいないな。武器の相談とかしたかったのに……」
「アイツはスレイプルの方で持ち上げられてるからな。色々と忙しいんだよ」
「そういえばそんな事を聞いたな……」
スレイプルは職人が多いから、それぞれ独自にやってたのが前のLROだったわけだけど、今回はスレイプルの職人達が寄り集まって、デカイ生産系ブランドを立ち上げてるらしい。そしてそこの中心がなんとあの鍛冶屋だとか。
これも前のユーザーを引き継いでる弊害なのか……前そこそこスレイプルを纏めたら、その記憶が鍛冶屋の支持に繋がってるらしい。でも普段のアイツなら、そっけなく断りそうな物だけど……
「あいつはあいつで、心境の変化でも会ったんじゃないのか? あれから数ヶ月だしな」
「そっか……そうかもな」
数ヶ月なんてたった––とも、もう––とも言える期間だ。それはきっと過ごし方に寄るだろう。人によっては心境が変わってもおかしくないかもしれない。あの一匹狼みたいだった鍛冶屋がね……なんか感慨深い。
「それで皆さんに依頼したい事ですが……」
そう言ってオウラさんが切り出す。いよいよ本題か。僕達はその言葉に耳を傾ける。
「実は私達が世話してる孤児院がその地の領主によって取り壊されそうなのです。ですのでその悪徳領主を成敗するのにお力をおかし頂きたい」
「ん? それってリアル? LRO?」
「勿論こちらですよ」
オウラさんは上品にそう言うよ。彼女はリアルとは違って間違いなく女性になってた。いや、リアルでも間違いなく性別は女性なんだけどね。でも見た目的にはそこらの男よりも屈強なのは事実。けどここではその姿が女性だ。
種族はウンディーネ。身長も高めで、それなりにリアルに合わせてる所もあるけど、体の線は女性的で、中々に露出の高い服を着てる。青い肌してるけど、その程度じゃリアルラオウさんをしってると動じない。
てかラオウさんってあの姿じゃなかったらかなり女性的な感じ。仕草とか、所作とか……シスターだけあってなんか行き届いてる感じがする。つまりはあの見た目でかなり損してるのかな?
「だけど孤児院ってどういうことっすか? そんなクエストを受領したとか?」
「いいえ、クエストは受けてません。ただ不味いと思うから行動するのです。それが許される世界なのでしょう? 私達には力がある。それは弱い者を守るための物です」
その言葉は実にシスターぽかった。確かにLROは何してもいい。それこそ自由だ。でも領主を倒すとかなればそれはクエスト的な物なのかなとは思うのは当然だ。けど違うらしく、でも行動は起こしたい。
それは結果としてどういう影響を及ぼすんだろうか? 深くLROの世界へ関われなく成った今、いいのかな? と多分皆思ってる。関心はエリアバトルの方へシフトしてるからね。
「確かにコレは私達のわがままだと思うわ。けど、結局ここはLROなのよ。その世界と距離を置くなんて出来ない。だって彼等はここで生きてるもの。この世界に居る限り、私達だって世界の一部。
助けたい子達を助けて何が悪い!」
そう言うメカブの奴はいつものテキトーさ加減はない。真剣で、一生懸命だった。そんな顔を見たからか、僕はこう言うよ。
「別に良いんじゃないか? 悪徳領主の財産を分けてくれるんだろ? 今の僕にはそれが必要だ。先立つ物がないと装備を新調出来ないんだよ」
「まあ俺達は元から協力する気だったしな。依存はない。それに事情もしってる」
「私はスオウがやるのなら……」
「僕も手伝うよ。孤児院を潰すとか許せないね」
「私も、そこの子供たちは知り合いですから」
僕に続いてアギト、セツリ、テッケンさん、そしてシルクちゃんと続いた。セラやアイリ、そしてノウイはアギトと同じチームだし、意思は共有してるんだろう。皆の意思を聞いたメカブは満足気に立ち上がりそして宣言するよ。
「よし! それでこそ選ばれし者達! 私に逆らったこと、あの領主に思い知らせてやるわ!!」
なんかすっごく私情を感じる宣言だったけど、そこには突っ込まずに皆で「おー!」と声を揃えた。
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