命改変プログラム

ファーストなサイコロ

心の拠り所

 二日酔いに苦しむ大人達が朝から阿鼻叫喚の体で悶えてる。そんな中、次々とテーブルには豪華なお節が並び始めてる。四角い漆塗りの箱には定番の料理が綺羅びやかに盛りつけられてるよ。 連結させて伸ばしたテーブル一杯に広がってる。ソファーも増量して座布団も増やして、
 いつもは無駄に広いだけの空間も今年は一杯だ。日鞠の家族もこっちで今年はお節食べるらしいんで、ちょっと新鮮。いつもは僕がお邪魔する側だからね。


「ほら、皆さんもうすぐお食事ですよ。体調戻してください」
「そう言われても……」


 ラオウさんは食事を運びならがら平気そうにそう言う。一応撃たれたんだけどね。この中で唯一負傷して物理的なダメージを受けたはずなのに、一番元気だよ。二日酔いに苦しんでるおっさん達も見習うべき。
 銃弾受けたからね。けどそれも自分で処理してしまったよ。ピンセットで銃弾を抉り出し、消毒して包帯巻いて……それで終わってしまった。確かに受けたのは胴体とかじゃなく腕だったけどさ……自分で処理できるってどうよ。荒ぶり過ぎだよね。
 きっと誰も気付いてない。あんな事があったなんて。わざわざ正月に話してもね。この雰囲気を壊したくはない。それに……


「はあ、クリスちゃん帰っちゃうなんて……また会えるかな?」
「さあ、けどこれで終わりじゃない気はするよ」
「それなら良いけど。んん?」


 首を傾げる摂理。何か引っかかる事があったようだ。まあ僕の言葉微妙なニュアンスだったからな。けど流石に摂理には言えないよ。友達と思ったままで別にいい。狙われてるのは僕だしね。けどまあ摂理にはそれで良いけど、大人の方々には聞きたいことがあるね。
 でもそれも聞ける状態でもないけど……


「まあどれだけ吐いても別に良いと思うけど、大人の義務は忘れないで欲しいよね」
「義務って何? メカブちゃん」


 朝シャンを浴びてタオルを頭にかぶったままのメカブが現れた。服は日鞠に借りたのか、胸元がバイーンとなっておヘソが露わになってる。あんな風になってるとこ日鞠じゃ見たことない。胸囲の格差って奴か。


「それはほら、お正月一番の楽しみって奴。これがあるから私達はお正月を楽しみにしてると言っても過言じゃない! 大人がいっぱいいるんだし、期待してもいいよね?」


 メカブが何を言いたいのか、僕にはわかったよ。ようはアレだろ? お年玉。子供が正月を楽しみにする理由はそれだろ。ただで金貰えるんだもんね。そりゃあ楽しみになる。でもそんなにがめついのはどうかと……そもそも用意してるんだろうか? メカブの奴はめっちゃ期待してるようだけど、別段上げる義務もないよね。
 そこまで僕は期待してないけど……貰えるのならやぶさかじゃない。毎年日鞠の両親からしか貰えないしね。それは実際悪いと思うから毎年使わずに貯金に回してるし、臨時収入として……ね。ちょっとはその……にゃはは。


「メカブちゃん、もっとちゃんとした服来てよ。そんな薄着じゃ風邪引くよ」
「だって摂理の服じゃあどれもキツくて。楽なのこれしかなかったんだもん」
「うう……そのメロンのせいだね。まあ暖房は入ってるし……ちゃんと髪は乾かしてね」


 パタパタと小忙しそうにしてる日鞠。日鞠はちょっと自分の胸元を触ってた。悲しいな。確かめなくてもわかってるだろうに。日鞠じゃなく愛さんの服とかならまだマシだったろうに。


「やっぱアイツの胸すげーよな」
「お前は直ぐにそういう態度取るから愛さんが心配するんだよ」
「いや、でもさ……メカブのあの部分だけはインフィニットだと思うぜ」


 秋徒の奴は凄くマジマジと見てるよ。もっとさり気なく見るとか出来ないのかお前は。ガン見し過ぎだろ。そう思ってるといきなり秋徒が声を上げた。


「いてええ!!」
「うお、フフタル不気味だな」


 足元には秋徒足に噛み付くウサギのヌイグルミが居た。変な駆動音と共に、噛み付いてる頭を支えにフニャフニャの胴体が回ってる。


「全く、これだから人間と言うやつは……」
「妹が無防備だとお兄ちゃんは大変ですね」
「そんなんではない。奴も既に立派なインフィニットアートの継承者。心配などするか」


 そう言いつつ秋徒の足に齧りついて離してないっすよ。全く、言葉と行動が噛み合ってない。メカブが性格がアレだからそうそう男なんて寄ってないだろうけど、普通の格好して無防備な姿を晒してたら不味いな。
 女って部分主張し過ぎだもん。しかも普段とのギャップのせいか、今のメカブは三割増しでちょっと色っぽい。シャワー上がりってのもあるんだろうけどね。さっきまで苦しそうだったおじさん達もちょっと意外そうに見てるし、フフタルが心配しちゃうのもしょうがないかも。
 そう思ってると、自分の派手な色のバックから鼻歌まじりで何かを取り出すメカブ。そしてそれを装備して僕の方によってきた。


「ふふふ、この左目には暗黒神が宿ったのだ。また一つ大きな業を背負ってしまったみたい」
「あっそ」


 いつものメカブになんか皆白けたのか、視線を外していく。ほんと普通にしてれば顔も幼くて可愛い部類だし、体はその顔に似合わずダイナマイトボディしてるからモテるだろうに……性格が残念すぎるな。
 メカブは黒い眼帯を装備してご満悦な様子。まあ僕的にはこれこそメカブで、普通になったら成ってで心配するけどね。
 早朝の事がまるで幻だったかの様な時間。優しい時間だよ。賑やかで楽しくて……けど去っていったクリスの事はやっぱりどこかで考えてしまう。別に僕的には友達になったかも微妙なんだけど、知り合ってしまった以上なんかね。
 僕にもっといっぱいの友達が居れば、こんな事なかったのか知れない。それなら、ただの一人の友達程度ですんだのかも。けど僕はそんな交友関係広くないからね。一人一人、それを大切にしていきたいタイプなんです。
 だから時間は短かったけど、印象に残る事いっぱいだったクリスの事は気にかかる。それなりに楽しそうにしてたしね。今、アイツはどこかでお雑煮食べるかな? いや、外人だしそれはないだろうか?
 回されてきたお雑煮の中の餅を見ると、これも食って行かなきゃだろって思う。アイツが着いた餅なんだからな。やっぱりお正月にはお雑煮の中に入った餅を食べる。それが定番なんだ。


 人数が多いからか、沢山あったと思ったお節はみるみる減っていった。お箸が進むと同時に、大人の人達は再びお酒が進んでいくようだったよ。今日はラオウさんも思いっきり飲みだしてた。食う量も異常だけど、ラオウさんは飲む量も異常だ。
 彼女が持つと一升瓶でさえもペットボトルっぽく見える。そしてそれ事いってしまう。もうなんというか規模が違うよね。スケールが違うよ。日本映画の規模とハリウッド並に違うよ。そして意外にもそんなラオウさんに対抗してるのが天道さんだった。
 あの人、案外お酒強いんだね。まあ昨日も相当飲んでたけど、ラオウさんと張り合うとは。


「夜々さんあんまり飲んじゃうと後が大変ですよ〜」
「五月蠅い摂理! こっちは色々とストレスたまってるのよ。正月くらい飲まないと殺ってられないわ!」


 摂理が誰かを注意するとは珍しい。けどまあ意に介されてはない。天道さんの会社も色々と大変そうだからね。色々と溜まってるものがあるんだろう。まだまだ僕達には大人の世界のことはよく分からないから、なんとも言えないよね。


「お酒で忘れられるのなら、良いですよ。ただそれが一時の事だと分かってても。付き合いましょう」


 カッコイイ。流石ラオウさん。てか明らかにラオウさんは一升瓶をゴロゴロと転がしてるのに、全然酔っ払った気がしない。何? 体内でアルコール分解しまくってるのかな? やっぱり外国人はアルコールに強いって聞くけど、そのとおりなのかもね。
 まあラオウさんはその中でも特別だろうけど。


「大人の方はそっちで楽しんで貰ってればいいよ。こっちはこっちで楽しもう。皆お腹も膨らんできただろうし、お正月らしいことをして遊ぼう」


 そう言って日鞠の奴が用意してた道具を色々と持ってくる。羽子板に福笑いに、人生ゲームとか色々だ。


「食べた後にいきなり動くのはな……けど福笑いってそんなに笑えるか?」
「お正月の定番だよ? 後はちゃんと書き初めも用意してるよ」
「定番だって楽しいとは限らないだろ」
「今年はお正月らしさをテーマにしてるんだよ秋徒」


 そう言って取り敢えず否定的な秋徒の奴に目隠をする日鞠。どうやら否定された福笑いをさせるみたいだな。下に紙を引いて、秋徒にはパーツを持たせる。


「全く、しょうがねーな。完璧なの作ってやるぜ」


 そう言って腕まくりする秋徒。みんなで声を掛け合ってパーツを並べさせていく。そして一仕事終えた秋徒が目隠しを取って完成したソレを見る。


「バカ?」
「完璧だったよ秋徒!」


 グッと親指を立てる日鞠。僕たちは我慢してた笑いを漏らしたよ。てかパーツの少なさに気づけよ。結構盛り上がった。人生ゲームも書き初めも、正月という特別なテンションの中では何故か楽しくなる不思議。
 まあ人生ゲームは日鞠と摂理がうるさかったけどね。伴侶が出来た時とか、子供がどうとか……ちなみに勝ったのは愛さんだったよ。流石人生の勝ち組。こういうゲームでも勝っちゃうんだね。
 愛さんも結構持ってるよ。そしてお腹の調子も良くなってきた所で羽子板へ。


「はは、そろそろ俺に時代が追いついて来たと思うんだ」
「はあ……」


 えっと何言ってるの秋徒の奴。自分の時代とか恥ずかしい……すると秋徒は日鞠の奴にもう一枚を差し出す。


「だから今年こそお前を倒す。いつまでも便利屋のままではいねーからな」
「ふ〜ん、秋徒の癖に生意気な。いいよ、一年に一回はコテンパにしとかないと調子乗るからね。愛さんも覚えててください」
「えっ……はい」


 愛さんが恐縮気味に頷いた。そして二人して庭に出る。寒いから外に出る派と中で見る派にわかれたよ。


「スオウはどっちを応援するの? やっぱり……日鞠?」
「いや、基本日鞠が勝つからな。こういうのは負ける方を応援するようにしてるんだよ。それよりもほら、羽織っといた方がいいぞ」


 僕は隣に座る摂理に毛布を掛けるよ。無理して外に出ちゃった感があるからな。僕は審判として駆り出されたからしょうが無いけど。取り敢えず日鞠にはいちゃもん付けて秋徒に優勢な判定をしまくろう。どうしたら日鞠を負かせるかは僕と秋徒の同目標だからね。


「スオウは日鞠の事は全然心配しないんだね」
「ん?」


 ポツリとつぶやかれたそれになんて返そうかと思ってると、カンという音と共に羽が舞う。始まっちゃったよ。


「てい!」
「おりゃあ!!」
「はっ!」
「ぜりゃあああ!!」


 秋徒渾身の一撃。けどそれをあっさりと返してく日鞠。力いっぱい打ってる秋徒と違って日鞠の奴は柔らかい印象が強い。返す球も秋徒の直線的な弾道と違って、アーチ状に返って行ってる。けど、それでも秋徒の奴は返された羽を落としてしまう。
 点数差が広がると共に、乱れが大きくなる秋徒の呼吸。そして顔の墨の量も半端無くなっていってる。それに比べて日鞠は涼しい物だ。綺麗な顔のまま、息一つ乱してない。おいおい、これじゃあイチャモンつける隙もないじゃないか。


「おい秋徒、もっと気張れよ。このままじゃボロ負けだぞ」
「そうだよ秋徒! そんな物なの!!」


 僕と摂理の言葉の他に秋徒には激励がいっぱい送られる。どうやら、他の人達もいつの間にか見てた様だ。変な盛り上がり見せてるな。


「なんだか私が悪者みたいだね。けどまあいいよ。でも秋徒一人じゃ力不足だからスオウが入ってもいいよ。二対一で相手してあげる」
「ほーそれはそれは随分な自信だな日鞠。言っとくけど、今の僕は去年とは違うぞ」


 ちょっとカチンと来たから、僕はそう言いつつ立ち上がる。確かに日鞠に勝てる事なんか殆どないけど、今の僕ならいけそうな気も実はしてたんだ。羽子板位なら止まって見えるわ! その言葉後悔させてやろう。


「別に僕なら秋徒なんか居なくても、一人でやれるぞ」
「まあ確かに秋徒なんか居なくてもいいだろうけど––」
「おい! お前等……俺の扱い酷すぎるぞ!!」


 ありゃりゃ、秋徒の奴が怒っちゃったよ。だって二人で勝ったって完全勝利じゃないじゃん。秋徒は負けたんだからすっこんでてもいいのに。


「ま、待ってくださいスオウくん! 私が……私が秋君と一緒に戦います!!」


 声を張り上げたのは愛さんだ。みんなポカーンとしてる間に窓を開けて外に出てくるよ。


「愛さん、本気?」
「当然です。今は、秋君のパートナーは私ですから」
「愛……」


 愛されてるね秋徒の奴は。愛さんは予備の羽子板を取って秋徒の方へ近寄った。


「頑張りましょう秋君。敵は強大ですけどね」
「愛……ほんとにいいのか?」
「あっ、役に立たないと思ってますか? これでも運動神経良いんですよ」


 ちょっとふくれっ面になる愛さん。そんな顔も可愛らしいけどね。まあ愛さんはLROでも強かったしね。システムが補助してくれるけど、やっぱり体全体を動かす事は変わりないから、向こうでも運動神経は必要だからね。向こうでの動きを知ってると、愛さんは運動神経悪いとは思えないな。


「いや、そうじゃなくて……負けたらこうなるぞ」
「えっと……秋君とお揃いなら恥ずかしくないです!」


 力んでそう言う愛さん。なんて可愛らしい人だ。秋徒の墨まみれの顔でも受け入れてくれるなんて寛大だな。


「それじゃあ行きますよ日鞠ちゃん」
「二人の事は応援してるけど、手加減はしませんよ」


 女のにらみ合いと共に、再びバトルはスタートした。正月の空に羽子板の小気味良い音が響き渡った。




「なるほど、そういう事が……」
「ああ、どうやら世界各国の機密データが大量に被害にあったようだ。そのアクセスはこの国からだということで、色々と政府も大変なようだよ。今はまだ知らぬ存ぜぬを通してるようだけど、君の話しを聞く限り各国は既に動き出してるようだね」
「でもなんで僕が狙われるんですか? 関係ないんですけど……」
「どうやら真犯人が君の痕跡を残してるようだね。どういう意図があるのかはわからないが、各国も君がLROというシステムの中で重要なファクターと言うのは知ってる。だから手に入れるか、消すかしたいんだろう。
 LROというゲーム……と言うか可能性領域や思考間ネットワークという物が広がれば、世界が一変しかねないからね」


 少し追いついて来た正月の夕刻。自分の部屋で、佐々木さんに色々と事情を話して、そっち側の情報も教えてもらう。それによるとどうやらクリスマスの日に世界の重要な機密データが一斉にハックされたとか。
 そして信じられないけど……その犯人にどうやら僕が上がってるようだ。なにその傍迷惑。犯人をぶん殴りたいよ。けど僕という残された以上の情報はつかめてないらしい。でもそれも情報で、既存のシステム構成でのハックじゃなかったようって事で思考間ネットワークを構築してるリーフィアを派生させた何かじゃないかと––とか。


「犯人がスオウを名乗ってるのなら、心当たりがあるよね。今のLROにはスオウの偽物がいる。調べてもらった結果、あれはプレイヤーじゃないらしいから、糸を引いてる何かが居るよ」


 そう云うのは僕のベッドに我が物顔で居座ってる日鞠だ。僕の偽物か……聞いては居たけど……


「確かにアレは怪しいですね。ですが何かが居るとするなら、誰かが関わってる筈では? 思考間ネットワークの一端でも握ってるのは今のそちらの組織しかないのですから、疑ってみるべき誰かは居るでしょう」


 扉の前に陣取ってるラオウさんが厳しい視線を向けてそう言う。すると佐々木さんは震え上がりながらも、なんとか言葉を出すよ。


「ああ、一応疑ってみるべき人物のリストはある。クリスマスの日は人が少なかったからね。その日を狙ってたのだとすれば、その日に中に居た奴が怪しいだろう。だが、我々でもそこら辺を使いこなす程には解明出来てはないんだけどね」
「ですからそこにその偽物が関わってくるのでは? プレイヤーではない何か……なら、向こうで発生した自我とかかもしれません。前の段階のLROでそれは確認されてるのですから、あり得なくはない」
「確かにそうだね。けど……私はそんな知らない誰かじゃない気がするな。きっともっと近い気がする。今の段階じゃ根拠はないけどね」
「貴女が言うと怖いものが有りますね日鞠」


 取り敢えず話しを纏めると、犯人の候補はある程度はあるけど、確証はなく、そこまでの技術も無いのに、LROの技術を流用してる所から、そう言う存在の助けがあったかもしれないと。そしてその存在としてもっとも怪しいのが今の所LROに出没してるニセ僕。
 そして各国は犯人と関係ありそうで、LROとつながりが深い僕を狙ってると。


「事態の収束を図るには、やっぱり犯人を自分達で見つけた方がいいって事か。LROで狙われる分には別に良かったけど、リアルにまで来られるとね。流石に放置なんて出来ないよ」


 クリスが言ってたようにもっと過激な組織が動いたら、周囲に被害が及ぶかもしれない。誰かが犠牲になるかも……そんな事にはしたくない。僕は押し入れを見つめるよ。


「スオウが抱えること無いよ。私達で何とかしてもいいしね。スオウをLROに戻そうとする意思も感じるし」
「わかってる。けど……自分の事を誰かに任せたままなんて出来ない。それに日鞠は向こうでも大変だろ。僕は独自に動くよ」
「じゃあ、私は世界を手に入れて、動きやすくしてあげるよ」


 スケールがデカイことをさらっと言いやがって……でも日鞠だからやっちゃいそうだな。


「私は昔の同僚に連絡をとって各国の動きを探ってみましょう。どの部隊が動いてるかだけでもわかれば対策のしようはあります。LROの方でも、偽物と遭遇できれば捕獲を試みてみましょう」
「あんまり無茶はしないほうがいいと思いますよ。多分今のプレイヤーでニセスオウに勝てる人は居ないんじゃないかな?」
「勝てなくても、得れるものは有りますよ。死にはしないんです。出会ったら出来る限りの正確なデータを取ってみせます」


 力強いラオウさんは頼りがいがある。てか僕もいつの間にか恵まれてるのかもしれない。


「こんな事になって済まないね。まさかリアルでも命を狙われるなんて……」
「しょうが無い……ですよ。摂理の奴は別に大丈夫なんですよね?」
「彼女は……狙われる要素がない訳じゃないが、君の方が優先度高いだろう」
「それならまあ良いです。まだ僕は自分で動けますから」
「スオウ、LROに入ったらちゃんと報告してよね。一人で突っ走る事は許さないから」
「はいはい」


 面倒そうに返事しつつ、今回はなんだか安心感がある。日鞠もいるし、ラオウさんも最初からこちら側だ。何もなかった前とは違う。積み重ねた仲間達が居るんだ。その時、扉の向こうから小さな物音が聞こえた。
 それに反応してラオウさんが扉を空けたけど、どうやら誰も居なかったようだ。気のせい? ラオウさんが見逃す筈ないからそうなんだろう。皆がまだいるからいつまでも話してる訳もいかない。
 僕たちはそれぞれ別々に部屋から出てリビングに戻る事に。そろそろ夕食だしね。またお雑煮かな?


「スオウ、今度は私もいるからね」
「いつだってお前は居るだろ。こっちでも向こうでも、別に変わらなかったよ」
「そっか、じゃあ安心だね」


 そう言って日鞠も部屋から出てく。僕は一人になった所で押し入れを開く。そしてダンボールを引っ張りだした。箱を開けるとそこには銀色に光る球体が見える。リーフィア……もう一つの世界への扉。
 僕はそれにそっと手を添える。



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