命改変プログラム

ファーストなサイコロ

最終兵器

 自分の役目は終わった。その筈だ。きっと今に会長が現れて、この勢いを更に盤石の物にしてくれるだろう。デザイアも末広さんもこのまま人質を取ってるだけでどうにかなる状況––じゃなくなったと気付いた筈だ。
 実際、ここで見てるとテア・レス・テレスが押してる。鯨とミジンコの方には動揺が広がり、連携が取りづらくなってる様に見える。傭兵も既に圧倒的ではない。けどそれなら、デザイアか末広さんは撤退か何かの選択肢を選ばないと行けないはず。
 デザイアはともかく、末広さん……彼女はきっと賢いはず。この状況が不味いのはわかってるはずだ。けど二人の姿は見えず、鯨とミジンコのメンバーはここに対応を迫られてる。


(本当に負けるぞ……)


 そう思うのはおかしい事なんだろうけど、これまで何度も窮地まで追い込まれてきた相手だからこそ、「このままで終わるはずがない」と言う心理に自分自身が傾いてるのかもしれない。そんな時、二階部分から、更に増援が……そして彼女の姿が見える。


「皆、ご苦労様。私の甘さに付き合ってくれてごめんなさい。けど、皆ならやってくれるって思ってました。皆凄いからね!」


 そう言って笑ってくれる会長。そしてこちらに視線を向けてくれる。自分はそれに応えるように親指を立てるよ。すると会長も同じようにしてくれた。そしてその肩からルミルミさんが顔を出す。助けだしたんだ……良かった。
 なんだか随分不満そうな顔してらっしゃるけど、自分が活躍できなかったから嫌なのかな? 随分と自分を見る目がどんよりしてる。


「これで私達、勝てますよね?」


 会長を見て彼女がそう言うよ。確かに、流れが来てる。それは確かだ。間違いない。鯨とミジンコのメンバーに撤退の様子もないし……このままやれば、グレートマスターキーを見つけなくても勝てるかもしれない。
 敵が全滅すれば、それは必然的にこちらの勝利。今までは傭兵が居る向こうを全滅させるなんて考えは無理だったけど、今ならそれも出来るんじゃないかと思える。こっちにも一人、傭兵並みの……いや、それ以上のチートが味方についてるしね。そういえば向こうはどうなったのだろうか?
 傭兵が一人も戻ってこない現状から考えると、全部を倒した? それなら本当にチートだな。そんな奴もこっちについてると考えれば……勝てる––といえる。言っていいかな? なんか期待する眼差しを感じるし……この娘の弾けるような笑顔を見たい気もする。
 笑顔は何度も見たことあるけど、こう遠慮しつつの笑顔ってのが大半な娘だからね。大人しい控えめな子だから、テンションが振り切れた時の様な笑顔は見たこと無い。それこそどうせなら、蕾から花開くようなさ……そんな顔を見てみたいきはする。そう言う時の顔が一番女の子は可愛かなって個人的には思ってるからね。


「え〜と、そうだね。勝てる……とおも……ん?」


 感じるのは細かく揺れる様な振動? これは戦闘で起こってるものじゃない。そしてそんな振動に戦ってた人達も次第に気づく。床に耳をつつけて自分はその音の正体を探る。まあ振動だけで何が分かるとも言えないけど、その振動は近づいてきてる様に聞こえた。そして自分達の居る結界内––その床に走る亀裂。その一瞬を捉えたと思った次の瞬間には、下から突き上げて来る剣と共に大きな影が三つ見える。


「ぬおおおおおあああああああああああ!! 邪魔だあああああああああああああ!!」


 激しく振られる剣によって、結界がズタズタに破壊される。アイツは……確か捕らえてた傭兵? 抜け出し……いや、デザイア達に開放されたのか。一緒に現れたのはその二人だ。ルミルミさんが既に居たから、どうにかしたんだろうとは思ってたけど、そうじゃなくて、彼女を置いてあの二人は次の行動に移ってたって事か。
 破壊された結界の結晶が降り注ぐ。そんな結晶が光を反射して煌めく中、その傭兵は用意してたのか、開いた手を二階に居る人達に向けて魔法を放つ。


「会長!!」


 接近戦に特化してる感じかと思ったけどそうじゃないのか? いや、確かにLROには特定のジョブがあるわけじゃない。スキルは誰でも何でも取得できる。運があれば。前衛や後衛、ヒーラーやソーサラーって区別はユーザーが独自にしてるだけだ。
 だからめっちゃ強い奴なら、スキルに魔法があるのは別段おかしいって訳じゃない。まあ勿論、後衛に徹しててそう言うスキルばっかり集めてる傭兵にはかなわないんだろうけどね。だからさっきの魔法は、敵を倒す––というよりも寧ろ目眩ましなのかも。


「行って来い!!」


 そう思った矢先に、傭兵に投げられて階段に飛んでくデザイアと末広さん。やっぱり狙いは玉座か! 人質にはどこかで諦めを抱いて、やり方を変えてきたって事か。でもまさか、地下牢に捕らえてた筈の傭兵を開放するなんて……


(いや違う。考えれた筈だ。だってここは奴等の城。牢があったあの空間だってああいうふうに作ったのは彼等。解除の仕方だって知ってて全然おかしくない)
「うう、私の結界が……」


 残念がってる彼女。でもこれはしょうが無い。障壁は大体正面突破前提だけど、結界は内部から破壊するのがセオリー。まあそれでもあんな強引なやり方はそうそうしないけどね。結界は色々とポイントがあるものだから、そのポイントを破壊するのがセオリーだ。
 それか後は術者だね。でも結界の場合は術者に依存せずに自立するタイプもある。別の所からエネルギーを供給したり……だから内部からその術式を破壊するってのが結界を壊すには一番。でもやっぱり力の差があると、ああやって無理矢理ってのもあり得ることだ。それでも外側からなら、まだ耐えれたかも知れない。
 けどもう十分だった。自分は手を彼女に向ける。


「行こう。会長達はダメージを受けてるはずだから回復してやってください」
「そう……ですね」


 パンッ––と両手で頬を叩いて気合をいれる彼女。自分の手は取らずに立ち上がったよ。ちょっと恥ずかしい……静かに引いて二人してぶつかり合う戦場を通り抜けて二階へ続く階段に向かう。けどまあ、乱戦状態でそんな簡単に素通りさせてくれる訳もなく、横から向かってくる敵が見えた。


「うおおおおおおおお!!」


 向こうも必死。元々弱い自分が彼女を守りながら階上に行けるかどうか……いや、考えても仕方ない事だ。上手く受け流して進めばいい。ガッツリ相手してやる必要もない。少し進めば誰かが請け負ってくれそうだしね。
 そうと決めれば剣で受流……受流……


(剣無いよ!)


 そういえば自分の戦闘力は自分がよくわかってるから、落とした剣をわざわざ回収もしてなかったや。そんな高価な奴でもなかったしね。でも流石に素手でと言うわけには……そんな時床に落ちてる十センチ程度の結晶体が目にとまる。


(あれって、結界の……)


 取り敢えずそれを取って防御に使う。なんとか受け止めれたけど、一瞬にして全体に広がる亀裂。流石に二度目はなさそうだ。取り敢えず必死こいて受け流して、それと同時に、その結晶体を敵の顔面目掛けて投げる。
 すると空気抵抗かそれともただ単に限界が来たのかわからないけど、途中で砕けた結晶体が敵の顔に降りかかって「ぐああああ!」と唸ってた。砂でも痛いのに、あんな刺々しい結晶体の破片が目とかに入るとかある意味怖い攻撃だな。リアルだったら失明物だったかもしれない。けどここはLRO、そんな心配は無いだろう。てなわけで、この隙に自分達は進む。同じように何度か襲われたけど、その度に仲間に助けられたりして切り抜けて二階へ。
 魔法の影響が晴れた二階部分では会長達と傭兵が睨み合ってた。傭兵は階段を背にしてる。ここを通す気はない……という意志が見て取れる。それにもしも、どうにか傭兵を退ける事が出来たとしてもあれじゃあ……


「階段が砕けてます……」
「絶対的に謁見の間へは行かせないって事だろうね」


 半分以上の階段は壊されて瓦礫と化してる。流石にここからジャンプとかしてあの高さに届くのか……いや、LROならスキルでどうにか成るんだろうけど、自分には無理だ。


「会長!」
「綴君……とルウナちゃん。二人はそういう関係? 雨乃森先輩に行っちゃうぞ」
「何意味分からない事を言ってるんですか? ふざけてる場合でも無いでしょ」
「まあそうなんだけど……」


 会長は別段そこまで焦ってないように見える。いつ通りと言えばいつも通り。相手は傭兵だけど、会長がいれば、例の紙を使うことは簡単の筈。上手く誰かが気を惹きつけてその隙にやれれば……傭兵だからって臆することはないんだ。


「会長、あの紙を使いましょう。奴を無力化して早くデザイア達を追わないと」
「そうしたい所だけど……使うかどうかは迷っちゃうな」
「何故です? あれないと傭兵には勝てませんよ」
「う〜んそうだけど、どこに賭けるか考え中なんだよね。綴くんを見てて、ああ〜可能性だな〜って思ったから」


 意味がわからない。どういうことですかそれ? そんな事を思ってると、城に響くご機嫌な声が聞こえてきた。


『くくはははははははははははは!! 崇め奉れ!! 王の凱旋である!!』


 ほんとあの人楽しそうだな。良い役だけ貰えるってどうなのそれ? まあ自分なら、彼の立場に成ってもああも堂々としてる自信はないけどね。寧ろ遠慮すると思う。てか無理に立てられるのってちょっと嫌な部類だしね。
 けどデザイアは違う。積極的にそのポジションを楽しんでる。かなりの神経の図太さがないと出来ないよねあれ。そこだけは尊敬できる。もしかしたら会長という立場にもそこを買われたんかもしれない。
 無駄に図太い……他のことは全て他の役員に任せられるように優秀な人材を……で出来上がった生徒会な気がする。まあアイツが集めたのか、それとも教師がそういう思惑で集めたのかは知らないけど、だからこそ今のポジションを引け目無くデザイアは全うしてるし、末広さんたちも別段不満も言わない……のかもしれない。


「会長、間に合わなかったポイんですけど……」
「セキュリティは掛けてたんだけどね。やっぱり元の所有者には別の権限があったのかも。ここまで早く解除できる代物じゃなかったはずだもん。せっかく思考複円演算形式にしたのに」


 なんですかそれ? と聞きかけたけど辞めた。どうせ説明されてもわからないだろう。つまりは高度なセキュリティと解釈しとけば大体問題ないはずだ。だからこそ、こんな短時間で解けるはずはない。解けたとしたら、それは別の道を使ったと考えるのが自然––と会長は言ってるんだ。
 そもそもデザイア達は会長が支配してた筈の城にも安々侵入できた程だからね。彼等だけが使える何かがあってもおかしくない。


「逆転に次ぐ逆転で、外も十分盛り上がっただろう。そろそろ潔く負けろよ。正直、俺達が入ってるのに、こんなに時間が掛かるなんて思ってなかったんだ。お前達は十分にやった。それでいいだろ?」
「いいわけないですよ。今でも私達は負ける気はない」
「そうか……だがどうする? 城は持ち主に返った。そしてここは敵の中枢だ。逃げ場なんてどこにもないぞ」
「ご安心を」


 会長はそう言って笑顔を見せる。


「逃げる気なんてありませんから」
「引き際を間違うと、良い大将とは言えないぞ」
「そもそも引く場所なんてありませんよ。エリアは接触してる。決着以外に、収まる方法なんてない。そうでしょう?」
「それもそうだな。なら、最善を尽くさなかった事を後悔するんだな!!」


 そう言って今度奴は自身の足元さえも砕いて自分達を一階へと落とした。なんつう無茶苦茶する奴だ。いくらなんでも破壊しすぎだろう。


「いたたた……」


 落ちた衝撃でクラクラしてると、ボヤける視界に映る銀色の靴。仲間が助けに来てくれたのかと思ったけど突如横からはルウナさんが飛び出してくる。


「危ない!!」


 そんな声で勢い良くぶつかれたものだから再び頭をガツン! とやった。けど今のガツン! ––はどうやら頭を打っただけの音じゃないようだ。地面に刺さる剣が見える。


(これは……)


 視線を上げると、見えたのは銀甲冑の兵士。けどこれはそこらに置いてあったオブジェで……中には何も……


「飾りじゃなかったって事でしょうね」
「か、会長、あんな啖呵切ったんだからまだ何かあるんですよね!?」


 銀甲冑の兵士は奥から上からゾロゾロと出てきてる。三・四階の奴等なんか上から落ちて来る始末で、それは中々に恐怖を煽る光景だ。一人の傭兵はまだその力が健在で、自分達の数を超えてその他の戦力が迫る。
 これじゃあ逃げようにも逃げれないのが現状だ。甲冑はどうやら消滅でもさせないと倒せないみたいで、頭を落としても向かってくるし、そいつらを盾に鯨とミジンコのメンバーが間から襲ってくる。自分達は少しずつ中央に追い込まれていった。


「会長……」
「会長……」
「会長……」


 すがるような視線が会長に集まるのが分かる。てか自分もそうだ。会長だけに頼るのは酷だとわかってるのに……けどこれしか……いや待てよ。


「そうだ! 会長、外にあの二刀の剣士がいます。アイツを呼べばきっとここを切り抜けられる」


 その言葉に周りの人達も、ちょっと湧き立つよ。皆その実力は知ってるだろうし、誰もが風のうわさ程度では聞いてるはずだからね。アイツの力があれば。


「それは無理だよ綴君。彼女の力をこれ以上借りれない。だってアレはイレギュラーだもの。私達が私達自身で勝ち取り守り通すから価値があるんだよ。そこに掛け替えの無い思いが生まれるんだよ」
「それはわかりますけど……でも負けたら全部なくなっちゃうんですよ!」


 自分はついつい語気を荒くしてしまう。普段なら会長にこんな事言わないけど、今は事態が事態なだけに余裕が無い。確かに会長のいうことは分かるよ。けど、負けたらそんな努力が全部なくなるんだ。
 けど会長はギュッと自分の頬を抓ってメッと言うだけだった。


(??)


 つまりはそんな事ないと? 自分の意見は却下されたようだ。


『無様だな。結局玉座が似合うのは俺だけということだ。どちらが上かはっきりしただろう?』
「さあ、それは知りませんけど?」
『はっきりするさ。この戦いの決着でな。今ここで貴様等を全滅させるのは簡単だ。だが、もっと効果的に負けさせてやる。完全敗北、そして俺達の完全勝利。それで締めくくるために、とっておきを見せてやろう』


 そう言うと同時に天井が開放されていく。そして空の上から降りてくる円周状の巨大な遺跡なのか装置なのか……それが向きを変えて、円を別の方向に向けた。


『あれがどこを向いてるのか分かるか?』


 上機嫌な声でそう聞いてくるデザイア。どこ? アレが何かの発射台だとするなら、狙いがあるわけだ。戦ってるのは自分達とこいつら以外にいない。と、なると狙いも自分達に限った場所になる。


「まさか……エリア? 自分達のエリアか!?」
『ご名答。貴様等のエリア、そしてグレートマスターキー事消し飛ばしてやろう。それで俺達の完全勝利だ』


 衝撃が走る。まさか……まさかそんな事が出来るなんて。エリア間を超える攻撃……そんなの聞いたことない。けど聞いたことないだけで無いなんて明言されてる訳ない。自分達が知らなかっただけだ。


『絶望に打ち拉がれるのはまだ早いぞ。その目で自分達のエリアの最後を拝め。さあ傭兵共、最後の役目だ。それと兵士共も、勝利の為にその命を捧げよ』


 そんな言葉とともに、傭兵や鯨とミジンコのメンバーが消えていく。そして昇ってく彼等の光は頭上の巨大な装置へと集まってく。あれはまさに切り札。多分、何発もは撃てない。撃てて一回……だからこの場面で出して来た。そして仲間達の命を利用するあたり、これで勝利しないと向こうがヤバイんだ。それだけの覚悟の攻撃……周りの敵は甲冑だけになった。これならどうにか出来るんじゃないか?
 そう思ったのは自分だけじゃないだろう。けど動こうとして気づく。足元に広がる魔法陣にだ。


(う、動けない?)
『これ以上この城の中をズタズタと闊歩することは許さない。そこで眺めて見てろ。いや、一人だけ許してやっても良かったな』


 そう言われると甲冑が腕を突っ込んできて自分を掴んで投げ飛ばす。すると開けた場所が用意されてて、そこに上から誰かが降りてきた。


「僅かしか時間がないけど、決着––つけましょうか。それを望んでるんでしょう?」


 それは末広さん。リアルとは違う姿をした彼女。投げられた剣は使えということか? あつらえられた舞台……自分が付けなきゃいけない決着って一体……自分はそれでも、投げられた剣を手にとって引きぬいた。刀身に映る自分の姿……自分の付けないと行けない決着……それって––



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