命改変プログラム

ファーストなサイコロ

白紙の未来

 光を遮ってたシステムが解除されたのか、窓や照明から降り注ぐ光。それが展開した結晶状の結界を煌めかせる。外で囲んでる鯨とミジンコのメンバーは傭兵さえも弾き返したこの結界に手を出せずに居る。
 そんな中、上から降ってきた一人のプレイヤー。いや、続け様に更に四人落ちてきた。なんだか耳にまとわり付くような嫌な音を立てて、ズルズルと地面に落ちるその人達。その姿……間違える訳もなく、上階に行ったウルさん達だ。


「なんだあ? おいおいやられてんじゃねーか。だっせぇぞお前等」
「うるせえ! そっちにだって人質は居るだろうが」
「まあそうだが、一人と複数人じゃ重要性がな。ガックリだよお前達には。けどこれで取り分が大きくなるかな? 無能な奴等の分まで俺が頂いてやるよ」


 上の手すりに立って剣をこちらに向けるそいつ。不味い……奴の力は奪えてない。幾らこの結界が通常よりも強力に成ってると言っても、地力の差は歴然。だからこそ、こっち側の傭兵の力を奪ったんだ。
 それにどうにかするにしても……既に紙は使い果たしてしまってる。しかも周りは敵が囲んでるんだ……ウルさんたちがやれなかった時点で計画は失敗。


「ふざ……けんなよ。まだ俺達はやられてねえぞ!」
「はっ、何をやったか知らないが、随分とタフじゃないか。だがそれだけだ。お前達は俺に手も足も出てない。まあ、さっさと死にたいなら止めないがな!!」


 手すりを蹴ってこっちに向かってくる最後の傭兵。そいつに向かってウルさんが飛ぶ。彼にも意地があるんだろう。けど、思いだけではどうにもならない程に実力は開いてる。紙でブーストしてる筈だけど、それでも傭兵はウルさん達の攻撃を軽く受け流して再び結界に叩きつける。


「一緒に砕け散れ。ホントお前達は最低だ。どちらのチームの足も引っ張る。碌でもねえよいやマジで。少しは悔い改める為にここで手痛く死んでろ!!」


 そう告げた傭兵は一振りして、風を起こしウルさん達を結界に貼り付ける。そしてスキルの光を纏って向かってくる。ある意味彼の言ったことには賛成出来る。ウルさん達は無効のチームでもこっちのチームでも碌でもないと思われてる。
 そりゃそうだよ。だって裏切ったり戻ってきたり……ホント碌でもないもん。けど、それを許したのは会長だ。だからあんまり責めたりもしない。一応ちゃんとしたやる気は今ので見えたしね。それが例え自分達の為だったとしても、会長だってそれでいいって言うだろう。
 だからまあ……‘仲間’の事は助けるべきか。


「ウルさん達を中に。遠距離攻撃出来る人達は奴に一斉放火だ!!」
「「「おお!!」」」


 案外皆素直に従ってくれた。まあこの結界が破られるのは不味いからね。結界の内側に落ちてくるウルさんたちにはヒーラーが回復魔法を掛ける。その時大きな衝撃と共に、激しく揺れる結界。
 どうやら数十人にも昇る魔法とスキルの一斉放火でもあの傭兵は止まらずにぶつかってきたみたいだ。


「なるほど、硬いな。だがそれがいつまで持つ? 俺が必ず破壊する! 周りの奴等はその時に備えて準備してろ!!」


 彼の確信めいた言葉に周囲は武器を構え直す。不味いな……傭兵一人だけで何度だって立て直せる。そんなのズルい。けど言ってもしょうが無いか。


「どの位持ちそうですか?」
「どうだろう……後二回くらいは……なんとか」


 不味い、あとたった二回。速攻だよそれ。けど奴を止める術が無い。これだけの一斉攻撃さえも意に返さないなんて……


「触るな!」


 聞こえたそんな声に反応すると、回復の光を拒むようにしてるウルさん達の姿が……まあそんな態度だけで、魔法は掛かってるけどね。


「ちょっ、回復して上げてるのに何よその態度」
「要らないって言ってるんだ。構うな」


 ウルさんのそんな言葉に全快を待たずに魔法を止めるヒーラー諸君。無理もないか、あんな言われ方したらね……裏切り行為によって皆の心象悪いし……今の態度はそれに拍車を掛けた。皆、戻ってきた事には何も言わなかったけど、それは別に許したわけなんかじゃ無いんだ。
 そこを勘違いしちゃ……


「ちょっ、そんな態度は––」
「俺達にはリソース使わなくて良いって言ってるんだ。まだ回復薬もある。俺達にはまだ、回復を受ける資格もないだろ。そしてこのままだとずっとそうなる。お前は成し遂げた……俺達外れ者が、ここで引いたままなんていられない。珍しくマジでやってんだよ」


 この人はこの人なりに、信頼って奴を取り戻そうとしてる……のかな? やり方は不器用だけどそうっぽい。自分達の居場所をもう一度空けて貰うために、彼等は逃げたくないんだろう。


「まだ紙の効果は続いてる。俺達が近接で奴の注意を引く。俺達の何人がやられたって気にするな。ただ……俺達のやり方は間違ってた様だ。今の状態でも手も足も出てないのは事実。どうにかしてくれ……言えた義理じゃないが、頼むぜリーダー」
「ええ?」


 ちょ……そんな言うだけ言って行っちゃうなんてひどくない。丸投げだぞそれ。他の人達には遠慮してたのに、なんで自分にはそれが無いの? 超不満なんですけど!? どうにかなんて……こっちだって出来るものならしたいさ。けど、そんな手段が安々と落ちてたら苦労しない。
 そう落ちてたら––


「ん?」


 カサ……と靴と地面の間で擦れる何か。視線を向けるとそこには切れ端の一部みたいな白紙の紙が!?


(お、落ちてたあああああああああああ!!)


 いやいやいやいや、流石にこれは……ご、ご都合主義展開全開じゃないか? いいの? これ使っちゃっていいの? いや、そんなの言ってる場合じゃない。こういう時は素直に「神様ありがとう」とだけ言っておけば万事オーケーだって誰かが言ってた気がする。
 それにこういうのも日頃の行いかもしれないし。常々、誰にも迷惑かけない様にホソボソと暮らして来たご褒美なんだ。そうだよきっと。そう思いながら自分は紙を拾い上げる。ふと、何気に後ろを見ると、縦に二本、横に二本の線があって出来たマスの中には◯とバツが交互に––


「ってこれ、マルバツゲームじゃないか!?」


 思わず床に投げ捨ててしまった。誰だよ、こんなのして暇潰してた奴!! 期待しちゃったじゃないか!! 本当の本当に期待したのに……いや待てよ。自分はこのエントランスホール全体を見渡すよ。


(本当に‘ある’かもしれない。この城の色んな場所にランダムに隠したのだとしたら……この場所のどこかにだってきっと……)


 このエントランスホールには最初の顔だからこそ、それなりに立派に見せる様に装飾類が多い。自分達の中心の像もそうだけど、他にも幾つかあるし、端っこには観葉植物もあるし、二階に上がるための左右の螺旋階段には幾つも絵が飾ってある。多分必ずどこかにはあるだろう。この中央の像にもあるだろうけど、それはきっと星の中心模様とかの筈で、白紙の奴じゃないだろうから、使えない。


「あの、すみません! 誰かこのエントランスホールの場所に白紙の紙を隠しませんでしたか?」


 色々と考えて唸ってても仕方ない。誰かが隠したのなら、その人に尋ねるのが一番だ。幸い半分以上のメンバーはここに居る。誰かがきっと隠した筈。けど残念な事に、正確な場所を把握してる人はいなかった。
 まさにランダムにやってたから、そこまで覚えてはいないらしい。でもここのどこかにもきっと多分……と言う言葉は聞けた。


(でも闇雲に行っても……これだけの数……少しは絞り込みたい)


 結界外に出て、紙を取りに行くにしても、きっとどこか方向を限定して行くしか無い。そしてそこは一番紙がある可能性が高く無いと行けない。そうじゃないと、自分の場合、袋叩きに合うだろうからね。
 鯨とミジンコのメンバーは傭兵の言葉を信じて、武器を構えて待ってる。そこへ飛び出すんだ。迷って足を止めるような事があったら総攻撃を受けるのは必死。


「誰か、射撃した後の球をコントロール出来る人はいないですか? 出来れば複数人協力してください」


 その声掛けに答えてくれた五人に協力してもらって跳弾を放ってもらう。傭兵を狙う様に見せかけて、球をぶつけあって弾かせる。だけどここは城の中でも一・二を争う広い空間だ。そう簡単に跳弾が都合良く装飾品に当たりはしない。
 コントロールって行っても、あからさまにやるわけにも行かないからね。狙いをバラす訳にはいかない。だから数を撃って誤魔化しを掛ける。周りの敵にも当たりだして、「こっちも狙いだしたか」とか言う奴がいたけど、別にそうじゃない。けどわざわざかわすのもおかしいし、当たるのは放って置くようにした。
 そうしたほうが、周りの敵も、外側に意識が向くように成ってくれたしね。自分が飛び出す時、奴等の意識がこっちだけに無いてるか、それとも分散してるかではかなり違うだろう。


 跳弾は確実に数を増し、そしてさり気なく仕方ない感じで装飾品を壊してくれる。けど、まだ紙は出てきてない様に見える。見落とさないように、血眼に成ってガン見してるわけだけど、見落としてないかは正直不安だ。
 魔法をバンバン使う光は正直、チラチラ目に来るし、跳弾を跳ね返す為に周囲の敵もスキルを使い出してるから更に視界は悪くなってる。そんな中、二度目の攻撃が結界を襲う。ウルさん達のメンバーの二人がHP 残量0となり、倒れ果てる。結界を保つ彼女の表情も苦しそう。本当に後一撃食らうとまずそうだ。そんな中、跳弾はそれなりの装飾品を壊してくれてた。くっ、今の傭兵の攻撃で見落としたのがいくつかある。
 もしかしたら紙はもう出たかも……その可能性もある……けど、考えても仕方ない。残ってるのに目を向けよう。残りは階段下にある観葉植物二つに、階段の壁に掛かってる絵が左右合わせて五枚。けど右は後一枚で、左には四枚が残ってる。
 偏り過ぎだろ……けど、自分が走りだして、紙を得て、あの傭兵に更に向かう時間を考えると、今直ぐにでも飛び出した方がいい。
 けど、向かえる方向は一つしかない。どっちだ!? 右なら、後二個の確率がある。左なら五個の確率。けど植物は階段の下……それは正直キツイ。これまでの紙の隠し場所はどちらかと言うと、絵画の裏が多かったように思う。でもそれは数枚の統計でしかないからな……もしかしたら植物の方かも。
 いや、あれだけある絵画の一枚にも隠してないとは考えられない。きっとどれかには……絵画に絞るのは良いとして一体どっちに走る? 右か……左か……一つを見るほうが楽だ。けど、その一つになかったらお終い。左ならまだ四枚がある。けど確率ってそうじゃない様な。
 元々何十パーセントかもわからない。本当にあるのかもさえも。それなら、自分の手におえる範囲で行くしか無い。


「行きます!!」
「どっちへ!?」
「勿論……右です!! 跳弾班は自分の前方に火力を集中させてください!!」
「「了解!!」」


 結界から出ると同時に、開いてた道を抜けて右側の螺旋階段を目指す。後ろからは「一人出たぞ!!」って声が聞こえたけど、振り返りはしない。きっと結界の中の皆がフォローしてくれるだろう。
 彼女が結界にしたのは英断だったな。障壁じゃこうは行かなかった。障壁は一方通行だから。結界は高度な代わりに術者の意思を反映できる。だからこそ、出たり入ったりが自分達には可能な訳だ。


 伸ばした手で残ってた絵画を持ち上げて裏を確認する。するとヒラリと落ちる白い紙。やった、これに間違いはな––


「づあああ!!」


 後方から割り込んできた魔法に吹き飛ばされる。紙は!? 急いで紙を探すと、今の衝撃で宙を待ってた。不味い、まだ幾つも魔法が入り乱れてるんだ。どれかに触れたりしたらたちまち燃え尽きる。アレが最後の希望なのに!! 


「うおおおおおおおおおおおおおお!!」


 自分も階段の手すりを蹴って宙に舞う。掴んだ紙を胸に引き寄せて、綴る文字は『全体降下』これで、その相手の能力を著しく下げる事が出来る。色々と考えたんだけど、自分達はどの力でも傭兵には劣ってる。それなら全部を落すしか無いと思ったんだ。
 まあこんな言葉で上手くいくかは本当に賭けだったけど、上手く行ったから、大量の人質を助けられたんだ。だから今度だって。


「気を付けろ!! そいつのせいで俺達の力が弱まったんだ!!」
「そうか、ならまずは貴様だな!!」 


 自分が相手にした傭兵共の告げ口で、関心持たれた。空中に居るっていうのに、まるで空気を蹴ってるかの様に間合いを詰めてくる。


「何をしたかは聞かないさ。死んでろ!!」
「うっ、うわあああああああああああああああああああ!!」


 自分は仕込んでた鏃を傭兵に向かって伸ばす。これは別の傭兵が使ってた奴。こいつにだってかすり傷位は……と思ったけど、かすりもせずにかわされた。顔なんて部分的じゃなく胴体部分を狙うべきだった?
 いや、けど、流石に防具を貫通は出来ない。守る物が何もない顔面を狙うのは仕方なかった。これ以上どうしようも……傭兵の剣が自分に向かってきてる。向こうの剣は自分を防具事貫くなんて訳ないだろう。けどその時、後方からこんな声が聞こえた。


「後で謝るから許せ!!」


 振りぬかれた剣閃は自分も巻き込んで、傭兵へと届いてた。


「仲間事か……いや貴様にとっては仲間でもないか。いいクズっぷりだ!!」
「うるせえええええええええお前はもう終わりなんだよ!!」


 ウルさんは自分の落とした腕を掴んで、それ事傭兵へとぶつけた。はは……なんて無茶を……しょうが無いから許そう。それにこれで……自分は結界の上へ落ちて直ぐ様結界内に入れられた。


「なんて奴。こんな酷いことを……」
「ああ全くだ!」
「うんうん!!」


 仲間内の心象は更に悪くなってしまったようだねウルさん。確かに傍から見れば、自分を犠牲にして一発入れただけだからね。けど、彼は自分が届かなかった手を、自分の代わりに伸ばしてくれたんだ。
 紙で自身の力をブーストしてた彼だからこそ、あの一撃で傭兵に傷を付けることが出来た。だからこそ、届いたんだ。回復魔法の光が自身を包む中、そう伝えたかったけど、上手く口が回らない。
 それに今は弁明よりも大切な事がある。この場の傭兵は全て無力化出来た。なら、やることは後一つだけ。会長だってきっと気付いてる筈だ。


「全員……攻勢を仕掛ける。結界外に進行して……ルミルミさんの救出と会長達と合流だ!」
「けど、まだあの傭兵が……」
「大丈夫、もう奴は脅威じゃない。全軍、自分を信じて進め!!」
「「「う……ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」


 一瞬の迷い、けど皆信じてくれた。全員の雄叫びでこの城が震えて怯えてるかのよう。大丈夫やれる。情勢は一気にこっちに傾いた。勢いが違う。ここで勝負は決められる! 自分はそう思いながら、結界を維持してる彼女と共に、皆の背中を見送るよ。


「お疲れ様です」
「自分、頑張ったよね? 凄く凄く頑張ったよね?」
「はい、とっても」


 その笑顔に凄く救われた気がして、何かがこみ上げてくる。それを隠すために、自分は腕で顔を隠す。彼女は何も言わない。けどただ静かに頭を撫で撫でしてくれた。



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