命改変プログラム

ファーストなサイコロ

籠城作戦3

 指定された場所は城下中腹当たりにある広場。まあ昨日自分がトイ・ボックスで囚われてた場所だと言えばわかりやすいかな。向こうは人質と共に、末広さんが一人でそこにいる状態で待ってると言う。
 残りのメンバーは城下の外の荒野の方まで下がらせると……だからこっちもデザイアと共に一人を寄越して人質交換と行こうとそういうことらしい。こっちは人質全員に対して向こうの要求はたった一人。
 これだけでも悪くはない取引。まあ有無を言わさずに葬り去るのが一番なんだけど……ある意味、そういう人に会長には成ってほしくないし、これでいいのかも知れない。自分達は会長に勝手に期待してる。
 だからちょっとでもそんな期待に反する事をされると、凹むというか……身勝手だってわかってるんだけどね。自分がそれをやったほうがいいと提案しておいて何だけど、ソレを容認してしまう会長にはがっかりしてしまうんだろうって思う。
 ホント人は勝手だよね。


「綴君、綴君!」
「え? あっはい。なんですか?」
「なんですか? じゃないよ。人質交換には綴君に行ってもらいます」
「ああ、なるほど……ええ、わかりまし––ってええええええええええ!?」


 聞き流してたせいで危うく乗りかけちゃったよ。どうして!? 何故に自分なのか説明を求めた。


「う〜ん、丁度いいかなって」
「何ですかその丁度いいって!?」


 別にそこまで目くじら立てるような役目じゃないかもしれない。自分はあんまり戦闘面で役に立てないし、こういう場ではたぶん積極的に動くべきなんだとも理解してる。だから別に嫌とかではないんだけど……う〜ん。


「うんうん、会長の言うとおりこいつが丁度良い」
「確かに丁度良いかもしれないな」
「そうだね。丁度いいよ。なんかこうピタッと来る感じがする」


 なんか色々と勝手言われてる。ピタッと来る感じって何? 隙間に収まる感じですか? 確かに自分でも自分が丁度良いとは思う。戦闘に出てた人達は休ませときたいだろうし、後方支援の方達はバックアップの為にもこの場に居たほうが良い。
 そうなったら、中途半端な奴がこういうのには適任な訳で……テア・レス・テレスで一番中途半端なのはまあ自分だし、この選出はやっぱり妥当か。自分は前衛側としても後衛側としてもなりきれないからね。
 まあまだ皆だってそこまで明確に差があるって訳でもないけど、それなりに自分のスタイルってのを目指してる。でも自分はそんなのもないからね。だからこう……皆から置いてかれてる感が強いのかも。時間が色々と足りなかったってだけじゃない。
 自分が強くなる事とか、成し得るためのビジョンとか……そういうのが見えないから、立ち止まる時間が長くなって、結果的に取り残されて行ってる感じ。ホント自分はダメダメな奴だ。
 会長は多分、自分と彼女を合わせたいんだろう。こっちで。だから丁度いいって言ったんだと思う。確かにこっちでしか聞けない事とかありえそうだし、気になる物も手に入れてる。でもまずは勝ってから……と一度決めたのも確か。
 会長はぶつかる中で通じ合える何かがあると言ってた。それは否定しない。でも、自分にはリスクが大きく感じるんだ。勝ってからでも……まあそれは自分が逃げてるだけだって気付いたけどさ。
 ここで攻めるか、勝ってから攻めるかの違い。それはまあ勝ったという権利があれば色々と有利なのは間違い。けどやっぱりそれは卑怯なんだろうか。勝者という立場を利用するというか、終わったからもういいだろう––と説き伏せる。それは一種の妥協なのかも。


「綴君、本当に分かり合えたい相手とはぶつかってみるのもいいものだよ。言ったでしょ、別に勝つ必要なんて無いってね」
「……分かりました。自分が行きます」


 皆に押されて自分はそう言うしか無い。ちらりとデザイアの奴を見ると、奴はいけしゃあしゃあとこういった。


「貴様が俺の付き人か。車を用意しろ」
「車なんてない」
「ううんあるよ」
「え? あるんですか?」


 まあ乗り物自体がない世界じゃないけど……飛空艇とかあるし。ぶっちゃけそっちの方が技術としては凄いよね。なんで個人用の乗り物は動物とかなんだろうと思うくらい。おかしいよね。まあ、そういう演出が別世界だと実感できる物なのかもしれないけど。
 LROにリアルみたいな車があって、街中をビュンビュン走ってたりしたらちょっと嫌だしね。けどここはエリアだしね。厳密にはLROとは別の空間みたいな物だから自由なんだよね。それなら確かに車があってもおかしくない。
 てかここよりも、自分達のエリアの方がリアルっぽいし、車が走る姿とか想像しやすかったかも。エリアは自由なんだ。車だって作れる……のかもしれない。


「うん、城の倉庫に何台かあるみたい。けど、それは使いません。歩いて行ってきて」
「くっ、王に歩かせるとは無礼な奴だ」
「無礼も何も今の貴方は今や城を無くした王ですよ。この城は今や私のものです」
「ふん、いい気に成るなよ」
「いい気になんか成りませんよ。私はいつだって謙虚ですからね」
「そういう所が気に入らない。特別な奴等は特別然としてやるのも優しさだ。幾らそんな奴等が庶民に擦り寄ってきた所で軋轢しか生まれないんだよ。貴様は何も分かってない」


 デザイアのそんな言葉に会長はぼそっと何かを呟いた気がした。「わかってるよ」とかそんな感じに聞こえたけど、あんまり確証はない。そこまでハッキリ聞こえた訳じゃないからね。


「デザイアさん、王様である貴方の言葉はなかなか参考になります。綴君、それにニーナさんもいいですか?」


 会長はいつもと変わらない顔だ。やっぱりさっき聞こえたのは気のせいかな? 取り敢えず結界を解かれたデザイアの下に自分とニーナさんは近づく。流石にデザイアの奴もこの場では大人しい。
 まあ敵に囲まれてる訳だし、デザイア自身は超が付くほど弱いからね。暴れた所でどうにもならないとわかってるんだろう。


「それじゃあまずは拘束魔法を腕部分にお願い」
「はい会長」
「綴君も後はお願いね」
「それは分かってます」


 まあ人質交換もこっちに有利だ。こっちは複数の映像で監視出来るわけだしね。向こうは下手な行動には出れないだろう。でも気になる事はある。それはどうしてデザイアなのか……って事。ハッキリ言って役に立つような奴じゃない。どう考えても、その内部下に下克上されるのがオチな王様だろう。
 わざわざ助けだす価値があるようには考えれない。けど、要求するって事はその価値があるって事だろう。人間性的には全く助けたくなさそうな奴を求めてる……それはようは忠誠心とかそういうのでデザイアの奴を求めてるって事じゃない証拠。
 でも待てよ……それはあくまで自分の想像だ。もしかしたら……うん、限りなくあり得なさそうだけど、万が一って事もあるからね。ちょっと聞いてみた。




「あの……デザイアは部下達に慕われてる訳?」
「ふん、愚問だな。慕われるとかそうじゃないとか、俺はそんなレベルで存在してない」


 何言ってるんだこいつ。腕拘束されながら言うセリフじゃないよね。そもそも自分のどこにそれだけの魅力があると勘違いしちゃってるのか謎だ。神経が相当図太いんだろう。


「いやいや、もっとわかりやすく言ってよ。自分的にはアンタが王様ってどう考えても納得出来ないんだ。だから向こうの要求がアンタなんかでいいのかなってさ」
「王に向かってその口の聞き様……求められるかそうじゃないかなどではない。俺は王だから王なんだ。だから自分達の王を求めるのは必然。貴様だってママが時々無性に恋しくなるだろう? それと同じで、王も恋しくなるのが人の性なんだ」


 ヤバイ、ちょっと何言ってるのかやっぱり分からないや。どういう事だよ。この年頃の男子なら母親がちょっとうざったく感じる年頃だろ。まあこいつだってバカ––じゃないぃぃぃと思う。うん多分。だからはぐらかしに来てるのかな? 
 そう思わないとちょっと可哀想だよね。


「それじゃあ頼んだよ綴君」


 そう言って会長に肩を叩かれる。そしてポツリと耳元でこう言われた。


「あんまり意地悪言っちゃ駄目だよ。支持されて無かったら持ち上げられる事も無いんだしね」


 なるほど、そういう考え方も有りますね。実際デザイアの態度だと、周りは直ぐにでも我慢の限界迎えそうな物なのに、案外ここまで持ってるという事実がある。それはつまり、あんまりこいつに不満がある奴は少ないって事だろうか?
 デザイアの周りの人達はどんだけ優しんだよ……とか思ってたけど、実は人心を上手くコントロールする術とかは心得てるのかも? あんまりそうは見えないんだけどな。傲慢で自信過剰、口も悪くて、あまつさえバカと来てる。
 う〜んやっぱりこいつ自身の為に人質交換するとは思えない。


「会長は彼女達がこいつをただ助ける為に人質交換を望んだと考えてるんですか?」
「まあそれはないと思うけど……狙いは多分彼の権限じゃないかな? 曲がりなりにも王様だし。それを彼女達は担いでる。きっと『王様』としての力がここからの逆転には必要なんだと思うな」
「そこまでわかってて……」


 受けたんですかこの交換。そこまで読んでるのならどう考えても受けないほうが良かったのでは? まあ会長が仲間を切り捨てない限り、受けるしか無かったってのもあるけどね。


「でもね綴君。ピンチはチャンスなんだよ。もしもそうなら、私達は鍵を見つけることが出来ると思うな」
「鍵……」


 それはつまりグレートマスターキーの事ですか。会長は既に当たりをつけてそうだけどね。自分の考えなんて浅いからな……会長はきっともっとずっと深く物事を見てる。だから大丈夫なんだろう。
 ピンチはチャンス……その考え方は分からなくもないけど、積極的にはそうしたくないのが本音だよ。自分が望む勝利と、会長が望む勝利はきっと高みが違う。そういうのは可能性って奴も変わってくるのかな?
 いや、変わって来たからこそ、今がある。自分は望んでこの人の下に付いてるんだ。それなら、同じ高みを目指すべき。会長の下に満足してるのなら、文句なんて言えない。デザイアがこんな事を言おうものなら、速攻で否定するけどね。
 でも会長だから。それだけで充分。


「後悔させてやる。いつまでも先頭に入れると思うなよ」
「別に先頭になんかいる気はないですけど? でも、私は前へ進む事を止めません」


 随分とデザイアは会長を目の敵にしてるよね。まあハリボテの王様と、世界に愛されたような会長とじゃあね……残念だけどデザイアは並べないよ。どこかでデザイアは会長の事を認めてるようにも思う。でもだからこそ、負けたくないんだろう。
 まあちょっとはわかるけどね。その気持。自分が頑張ってる事とかで、こっちは必死になってるのに、向こうが飄々と先を歩んでたら「こなくそ〜〜」って成るもん。まあ流石に会長にはそんな気起きないけどね。


「それじゃあ、ちょっくら行ってきます」


 そう告げて門の外へ。っていきなり通行止めだよ。門を出た直ぐ目の前にバカでかい壁が聳えてた。まあそうだよね。会長が張った壁の一つだ。どうするんだろう? とか思ってたら、壁に魔法陣が現れる。そして耳につけてる通信アイテムから「どうぞ」と聞こえた。つまりは通れると。
 自分は恐る恐る魔法陣に手を伸ばす。すると魔法陣の中に手が吸い込まれてく。まるで壁がないみたいだ。そしてそのまま魔法陣の中へ。光の道を数メートル進むと向こう側にでた。アレかな? これだけ分厚いって事だろうか?
 壁自体が薄かったら直ぐにくぐれるんだろうけど、防衛の為の壁だからね。直ぐに壊されないように、かなりの厚さだ。そして少し下って行くと再び壁が今度のはさっきよりも早く壁を抜かれた。
 やっぱり城に近づくほどに厚いようだ。そして更に下って三つ目……まで行かなくて良かったか。広場はもうすぐそこだ。三つ目の壁は別に破壊された訳じゃないけど、邪魔が入らないように末広さん側も壁を通してる。そして自分達はこっちで再び邂逅する。
 道なりに進んで、大きく開けた空間。中央の噴水の所にこちらの仲間が縛られてた。そしてその噴水の後ろから末広さんが現れる。


「やっぱり、君が来ると思ってたわ」
「もう……いいんじゃないかな?」
「何が?」


 自分の言葉に眉を一瞬動かす末広さん。目つきもちょっと厳しいような……まあいつでも狙えるからねこっちは。呑気では居られないのは当然。だけど真っ直ぐにこっちを見てるんだよね。


「いや、だから降伏も選択肢にあっても良いと思うんだ。交渉の材料はあるんだし、今ならこいつと交換するよりもそっちの方が良い条件を引き出せると思う」
「はは、降伏? この程度で勝った気に成ってるんだ。随分舐められた物ね。まあそうか、そっちには会長様が居るものね。全国なんて目じゃない学力、ちょっとやればマスターしちゃう運動神経、おまけに計り知れないカリスマ性。
 ホント、世界に愛されたとしか言い様がない存在……理不尽を体現した様な存在よね」


 凄い言われようですよ会長。まあ否定出来ないけど。確かに理不尽の極みなのかもしれない。でもそもそも平等ってなんだろうと思う。平等であれば良いのか? と言えば多分そうでもないんだよね。この世界に……というかこの世界にもリアルにも完璧な平等なんてない。
 誰もがそんな事わかってる。けど、口では言うしかないんだ。平等という言葉を旗印に掲げなきゃいけない。そうしないと色々と反発あるからね。人は誰かと比べたがる生き物だよ。もっと厳密に言えば、自分よりも下を探す生き物だ。
 そうすることで心の平穏を、優越感を保ってる。平等とか口では言いながら、上を見ずに下を見下してるのが人だろ。まあそんなあからさまじゃないけど、心のどこかでホッとはしてるよ。最低だね……けど、そんなもんだ。普通だよ。


「まっ、会長はそれで良いと思うけど。理不尽上等、そんなの結構前からわかってる。それに別に会長が居るからってだけじゃない。自分達は良いチームだと思うからだよ」
「裏切り者が居たくせによく言うわ」


 うう……そこを突かれるとちょっといたい。確かに裏切り者はいたけどさ、その人達さえもまた取り込んだんだぞ。主に会長が……


「降伏なんてしない。交渉は宣告通り、そこの奴と交換よ」


 そう言って自分が連れてきたデザイアを指差す末広さん。それにデザイアが「うむ、ご苦労」とか言って睨まれてた。




「末広さん……そんなに叶えたい願いがあるんですか?」
「当然。私だけじゃない、チームの皆にあるわ。そっちの会長みたいに恵まれてる訳じゃないのよ。私達は理不尽に併合なんかしない。抗って、そして自分達の力で勝ち取るの。そしてその頂点にあの城は君臨する。 
 だから必ず返して貰う。絶対にね」


 強い光を宿した目だ。言葉でどうにかするとかは無理っぽい。分かってた事だけど……ついついたじろんでしまう。


「嫌いだわ」
「え?」
「なんの意思も無く、私の邪魔をする貴方が嫌い。私は貴方の助けなんか望んでない。もうこれはお節介というより、押し付けよ。必ず倒す」


 強い瞳に更に怒りが含まれる。けどついっと横を向いた彼女は「そして一千万を」とか言ったような気がした。まあドルだからね。そりゃあほしいよね。どうする……ここであのノートをだすか? けどここはまだ対等じゃない。
 それにきっと皆見てるだろうし、流石にそれは悪い気がする。取り敢えず取り決め通り、自分はデザイアを連れて末広さんと共に壁の所まで下った。そして壁に展開される魔法陣。そこでデザイアを引き渡す。二人共何も言わない。そしてそのまま魔法陣を通って壁の向こうへ消えていった。


「ふう」


 魔法陣が消えた壁を見て息を吐く。これで向こうが何かを仕掛けるとかムリだろう。今頃は壁の向こうだ。広場に戻って皆の拘束を解いて城に戻らないと。まだ戦闘は終わってない。必ず向こうは動く。デザイアも末広さんの目もまだ死んでなんかない。



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