命改変プログラム

ファーストなサイコロ

二重の側面

 いい匂いの他には特徴的なヌイグルミにかわいい感じの家具が揃えられてる。壁の色は淡い感じだし、やっぱり女子の部屋って感じ。いや、一度も入ったこと無いんですけどね。掛けてある服もヒラヒラしてるし、まあ女の子部屋なんだろう。
 けどああいう服、LROで着る機会はあるんだろうか? 大体普段から装備してる物を来てるような……リアルに寄せてる所もあるけど、便利な所はちゃんと便利だからね。装備はまあ汚れたりもするけど、ちゃんと洗濯できるし、乾くのは一瞬。
 お金はかかるけど、新品同様に出来る職人や店もあるし、毎回服を変える必要はね……色々と装備の相性とかもあるし。それにここに掛かってるのはそもそもリアルの服に近い。お洒落を楽しむものであって冒険者用のには見えない。
 こんなの着る機会なんてどこであるんだ? 自分には理解できないよ。


「彼女の部屋かと思ったけど……別段何かがあるわけじゃないな」


 何が目的なのか分かるかもと思ったんだけどな……まあでも大体は検討は付く。政府側が不特定多数に色んな夢をばらまいてるようだし……やっぱり自分達ぐらいの年代で一番心配なのは将来の事とかだもんね。
 夢なんて無くても取り敢えずいい大学に行って良い会社につければ……はだ誰もが思ってる。それが楽に実現できるのならゲームで頑張るくらいなんてこと無いだろう。机に齧りついて勉強するよりも、大冒険の果てにそれらを掴めるのならそっちの方が浪漫あるしね。
 まあ女子が浪漫を求めるかは知らないけど。もっと現実的なのかもしれない。


「やっぱりもうコソコソとやるのもどうかと思うし……ぶつかった時にでも………ん?」


 その時ベッドの枕の下に何かあるのに気づく。引き抜いて見るとそれはノートだった。タイトルは別に無い。日記? とか思ったけど、わざわざここで書く必要もない様な気がする。てかそれなら不可侵な自身のプライベートエリアに保管しとくだろう。
 ある意味こんな所に放置してるのは見てくださいと行ってるような物。


「だから見ても良いって事か」


 完璧な理屈の下に自分はそのノートを開く。するとそこには一つのページが真っ黒に埋め尽くされる程に殴り書きされた様な文字があった。背筋がちょっとゾクッとする。余りにも重ねて書いてるから何を書いてるのか判別出来ない。
 でもこれだけはこの書き込みから感じることが出来る。それは恐怖というか狂気と言うか……そんな物を感じる。でもちょっと信じれないな……


「ああ、アレだよね。実は先鋭的な絵とか? ピカソみたいな」


 なるほど、末広さんの悩みは自分の芸術が認められない事にあるんだな。それなら願いは簡単。この芸術を政府の力を使って強引に認めさせることだな。画家とかって生きてる内に評価されることはあんまりないって言うし……現代はどうか知らないけど、やっぱりこういうのは難しそうだしね。
 でもここまで狂気を感じる絵なら、知名度さえあればね……


「……うん、流石にそれは無いかな」


 やっぱ画家は無いよね。イメージとかけ離れてる行動を目の当たりにしたせいで気が動転してるようだ。


「そもそもこれを描いたのが末広さんとは限らないしね。ここが誰の部屋さえわからないし。断定は出来ないよ」


 うんうん、そうだそうだ。こんなヒステリックな一面があるとは流石にね〜〜、こんな一面あったら能登くんとか今頃刺されてるだろ。まあただの幼馴染みらしいしそんなに感情の起伏が激しくなることもないのだろうけど。


「取り敢えずこれは見なかったことにしよう。それがいい」


 やっぱり人の裏側なんて見るものじゃないね。他人って怖い。そう思ってパタンとノートを閉じる。すると裏側に『末広 恵』と見えた。なんでLROなのに本名!? とも思ったけど、手書きだからいつもの癖でこう書いたんだろう。
 それと彼女は表じゃなく裏に名前を書くタイプの様だ。なんかガックシきた。このボディーブローはじわじわ効いてる。でもこれが彼女だとすると……何をこんなに殴り書いてるか解明したく成るな。
 こんな狂気があんな子に……頭には在りし日の塾の思い出が……もうあの頃には戻れないな。踏み入ると色んな事を知ってしまう。知りたかったことも……そして知りたくなかった事もだ。キラキラして見えてた彼女はもう自分の中には思い出としか居ないのかもしれない。それが人と関わると言うこと……想像だけじゃ他人は測れないんだ。


「ここには彼女の闇がある。そしてだからこそ、希望って奴を求めてるんだろう」


 表裏一体って奴だ。光があれば闇があるとはよく言うからね。これにはきっと彼女を救う……とは違うかもしれないけど、もっと踏み込める鍵になるとは思う。それがいい事かはやっぱり分からないし、自分もどう影響されるかわからない。
 やっぱり他人に関わるのとか嫌に成るかもしれないけど、もう引けないからね。ただこの戦いに勝つ……それだけでも当初の予定はきっと遂げれる。前の日常は戻ってくるかもしれない。でも……それはもう前じゃない。自分達は関わったんだ。それならもう行ける所まで行くしか無い。微細な振動が伝わってくる。敵はどこまで進んでるんだろう? まだまだ余裕はあると会長は言ってたけど、あんまりゆっくりも出来ないよね。
 ここに本当にグレートマスターキーがあるのなら、さっさと見つけたい所だしね。


「取り敢えずこれは持って行こう」


 そう思ってアイテム覧に加えようと思ったけど、どうやら無理っぽい。やっぱり他人の物を勝手にアイテム覧に入れることは出来ないんだな。それはそうか……こうなったら直接持っていくしか無い。アイテム覧に入れなかったらオーケーだろう。
 取り敢えず手に持ったままじゃ不便だし、誰かに何かを指摘されたりすると困るから、服と服の間に忍ばせておくことにした。


「不自然じゃないかな?」


 違和感があるけど、まあ大丈夫だろう。部屋の外に出て少し進むとキースさんと鉢あった。


「そっちはどうだったんだい綴君?」
「あの……綴ってのはキャラ名じゃないんですけど」


 てか生徒会の面々がそう呼ぶからすっかり綴の方が定着してるじゃんか。まあ今さら自分もいい加減につけたキャラ名で呼ばれても反応困るんだけどね。


「はは、それは済まない。けどこっちがもういいんじゃないかと思ってね」
「まあそうですけど」
「流石これだけの城だけあって部屋数も相当だね。トイ・ボックスの影響下とは空間が違ってるようだし、再び確認するのは一苦労だ」
「そうですね。使えるものがあればいいですけど」
「って事はそっちも収穫は無しのようだね」
「えっ、ええ」


 服をさすりながら自分は頷くよ。まあこれは戦闘自体には影響無いものだからね。個人的な収穫です。


「このエリアは居住スペースの用だね。色々と補完してる場所は違う様だ。他に散った仲間の方は収穫があったかもしれない。一度戻ろうか。向こうの王様がそろそろグレートマスターキーの在処を吐いたかもしれない」
「吐いてくれればいいんですけど。そうなったら楽だし」


 ホントそれを切に願う。まあこのまま末広さんと邂逅せずにこのバトルが終わるのも考えものだけどさ。けど実際、自分と彼女が戦う場面が来るかは正直わからないよね。そんな都合良く行くものじゃない。
 それこそ戦闘なんてそういうものだろう。会長だって思い通りって訳にはいかないんだし、自分が色々と策を要してもね……それに勝手な行動は皆に迷惑を掛ける。第一目標はあくまでこの戦闘での勝利。
 そこに至る過程で互いの思いとかをぶつけられればね……それが一番いいと思う。自分自身が負けても、チームが勝ってくれるのならそれでいい。けど、だからこそ、下手な行動は打てないんだ。
 向こうは傭兵で戦力増強してるしね。個人で行動したって、そいつ等に鉢あったら終わりだ。きっとアリンコでも踏み潰す感じで自分なんかやられちゃうだろう。


「楽……か。俺はもっとこの戦いを楽しみたいと思う所だけどな」
「キースさんは強いですからね」


 自分なんかとは違って。楽しむ余裕なんて無いのが本音だよ。一杯一杯で……背中が重いし。色々と乗っかってるものがね。


「俺は強くなんか無いさ。向こうに傭兵連中が居るなら尚更。だけど、ワクワクする。こういうのはリアルでは味わえない感覚だ。スポーツとかギャンブルとも違うんだよ。そう思わないか?」
「う〜ん、スポーツにもギャンブルにも興味ないですから」
「そうか、そういえば高校生なんだっけか? それならギャンブルの経験はないか。 部活とかは……って生徒会なのか。頭いいのも納得だな」
「いえ、自分はそう言う事で選ばれたんじゃないと思うんですけど……」


 まあ学年上位の人達も確かにいるけど、色物的なのも結構いる生徒会なんです。自分はその中でも、目立たなくて取り敢えず入れられた? みたいな、そんな感じ。


「けど彼女が君を入れたんだろう? 生徒会に君が必要だと判断したんじゃないか?」
「そう自分に言い聞かせて来たけど、どこを必要としてくれたか結局わかりませんけどね」


 ホント全然わからないよ。別に自分じゃなくても自分の役目は出来ると思う。替えがきくその他大勢なんだ。まあでもそれでも良いんだって思えるんだけどね。選ばれたのはまあ確かだし、それなら他のその他の人達に代えられないように頑張るしかないとも思う。


「自分の価値は自分では気づかない物だよ。だからこそ厄介だと思わないかい? まあ自分はあれが凄い、コレが凄いという奴も薄っぺらいんだけどね」
「どっかの王様の様にですか?」
「はは、そうだね。けどお陰でこっちのリーダーの偉大さがよく分かるとも言える。君達の学校は楽しそうだよね。羨ましいよ」


 どこか在りし日の思い出を映すような瞳。言い方からして、既にこの人は社会人か大学生っぽいから、高校時代を懐かしんでるのかな? いつか自分も今を懐かしむ日が来るんだろうか? まあくるんだろう。いつか大人になる。それは止められない事だ。
 その時、自分は後悔するのか、良くやったと言えるのか……出来れば後者で有りたいものだ。


「まあ小・中に比べたらいいですけど、またテストとか受けたいんですか?」
「うむむ、それは嫌だな。御免こうむるよ」


 ちょっと冗談を聞かせながら話しっつ謁見の間に続く階段の前まで到着した。すると下側、一階の広いエントランス部分に何か大量の箱が運ばれてる。


「お〜い、それはなんだ?」


 そう聞いたキースさん。すると下に居た一人が箱の一つを開けて中身を見せてくれた。


「大量の回復薬とかその他のアイテムだよ。買い占めてやがった」
「おお〜」


 どうりで値段が上がってると思った。こいつらのせいか。まあデカイバトル前には大抵値上がりするんだけどね。先に動かれてた……というか、少しずつ溜めてた分とかもあるのかもしれない。
 こっちは怒涛の勢いでエリアバトルしてきたから、ストックなんてしてなかったんだ。今回のエリアバトルで値上がった時は大変だった。やっぱり自分達に有利な条件でバトルするって大切だよね。
 これだけの城があり、アイテムも豊富……勝ってきたのもわかる。まあだけどお陰でこっちは助かるよ。そう思ってると、別の通路から厳しい声が聞こえてきた。そして出てきたのは縄で縛られた裏切り者の面々。
 あんまり会長は気にしてなかったようだけど、流石に他の皆はそうは行かないよね。彼等はデザイアに穴から落とされた方々の様だ。生きてたんだ。


「全くしぶといな。死んでれば良かったのに」


 そう言って縄を引っ張ってるのはルミルミさんだ。ゴミを見るような目をしてらっしゃる。でもルミルミさんなら縛るなんてせずにトドメ刺しそうな物だけど……


「彼等は生きてたんだね」
「地下の牢に送られてた。まあその場で殺してもよかったんだけど、目撃者が……ちっ」


 うわあ……この人絶対に一人で見つけたら殺してたよ。階段を登ってきたルミルミさんはそのままそいつらを引いて謁見の間に向かうようだ。他に数人ついてるけど、下も大変そうだし、自分達が引き継ぐ事にした。
 そして裏切り者の人達を囲んで自分達三人で謁見の間へと戻る。すると扉が開くと同時にデザイアの異様な声が響いてきた。どうやらまだ全身が痒いらしい。


「会長、裏切り者共を連れてきました。地下の牢に落とされてて、そこで殺しても良かったんですが、一応報告をと。どうかこの場で極刑の許可をください。跡形も残さずに殺します」


 ヤバイ……ルミルミさんはこいつ等を殺したくてしょうが無い様だ。まあこいつらのせいで大変な目にあったしね。その気持は分かるよ。


「無事でよかったですよ。ウルさんも皆さんも。賭けは私の勝ちですから、協力して貰います。もう裏切りは無しですよ」
「ふん、それはどうかな? お前が頂点に立てないと判断したら後ろから刺すかもな」
「まあその位のスリルはあってもいいかな? 緊張感って大事だし」


 いやいや緊張感とかの問題ですかソレ? てかいつの間に司法取引を? 


「会長! こいつらは危険です! 今直ぐにでもこの場から退場させたほうがいい」
「けど、人数が減るのは痛いよ。向こうには傭兵もいるしね。それに大丈夫。彼等は味方だよ」
「そう言われても……」


 ルミルミさんは会長に弱いからな。これ以上強く行くこと出来ないだろう。自分的には会長がそういうなら……と思うんだけど、そこでキースさんが前に出た。


「一つ言いかな? 大丈夫だと言われてもハイそうですか……とは行かないよ。戦場で安心して背中を任せられない者が居るのは精神的に不安がある」
「そうですね。それはわかります。ですから、彼等はまとまってこっちで使います。色々とまだ使えると思うんで。籠城してると言っても向こうが勝手知ったる城だからね。安心は出来ないし、こちらからも仕掛けますよ」
「あの……会長、マスターキーは?」


 さっきから唸ってる声が五月蠅いんだ。気になるじゃん。
「なかなか彼も強情でね。そこら辺の見栄やプライドは一級品みたい」


 まあデザイアの場合は見栄とプライド無くしたらおしまいだもんね。結局グレートマスターキーはわからないのか。でも……僕は会長をチラッと見る。会長なら大体の予想をしててもおかしくないと思うんだけどね。
 傭兵がいる以上、ぶつかって全滅させるのは難しいし、こうなると鍵を得るほうが良い。都合良く敵の拠点に自分達は居るんだしね。


「でも大丈夫、きっとグレートマスターキーの方から姿を見せてくれるよ」
「え? それってどういう?」


 また意味深な事を……会長の言葉は時々理解できない。まあそれもワザとなんだろうけど……会長は考えさせることが好きだからね。安易に答えを提示したりはしない。きっと成長を促してくれてるんだろう。


「アイテムも大量、城の事も大体掴んだし、そろそろ動こうか。全員をこの場に招集。作戦を説明したのち、第二戦に入ります」


 会長の宣言に自分は再び気を引き締める。既に三つ目の壁も突破され残りは二つ。敵は城下中腹にまで迫ってる。



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