命改変プログラム

ファーストなサイコロ

絡む糸

「それじゃあ作戦を説明しますね。でもまず、緊急の招集にも関わらず三十九人も集まってくれて嬉しく思います。この戦闘で勝てば我々は一躍トップ集団の一員と成ることが出来るでしょう。それはつまり、それぞれの願いに近づくということです。頑張りましょう」


 そんな文言から会長は言葉を綴ってく。自分達はざわめく心を抑えつつ、会長の言葉に耳を傾ける。自分達のエリアが合算した街。空は青くて、気持ちのいい風が吹いている。まだまだ殺風景だけど、それでもここまでにするのにだって苦労した。大変だったんだ。
 安々と渡すわけには行かない。それに会長が言った通り、それぞれの願い……自分達はあんまり意識してないけど、他の人達はきっと違うんだろう。まあ自分にだって願いあるしね。それは皆とは違って小さい事なんだろうけど、一番近くでもある。
 自分にとっては今日が最大で最高の踏ん張りどころだ。自分がLROを始めた意義は今日にあるといえる。何が正しいのか、自分のやってることは正義なのか悪なのかとか、もうよくわからないのが本音。でも、負けるわけには行かないのも事実。やらなきゃいけない。やるしか無いんだ!


「それじゃあ取り敢えず班構成を発表します。今までは元チームでの出動が主だったと思いますけど、今日は混合編成で行きます。皆さんの特徴も掴んできたしね。六人六班で三十六人をその中に入れます。
 三人入れないけど、その三人は指揮系統を担当します。私が全体を、そして残りの二人は六班を更に二分割した三班づつの指揮中継係です。それで残りのその指揮を担当する二人ですけど––」


 会長はスラスラと構成を発表していく。いつ自分が呼ばれるか……とか思って不安に思ってると案外早く呼ばれた。それも三人の特別枠……指揮系統の一人……勿論不満がる人続出––なのかは正直わからないけど、空気が淀んだ気はする。
 それに問題はもう一人……


「会長?」


 自分の言葉に何が含まれてるのか、会長は察してるのか笑顔だけを向ける。何も言うなということだろうか? 何か考えがあるのは間違いない。だってもう一人の指揮系統を請け負う奴……それは昨日自分が見た、裏切ってたやつだ。
 てかそもそもよくこれたな。もう現れないかもと話してたんだけど、普通に参加してくるとは……でも、どうやら向こうも動揺してるように見える。笑顔を見せて笑ってるけど、昨日の事を知ってる自分から見ると、その笑顔は引きつってる。
 それはそうだろう、だってまさかこんな役に抜擢されるなんて夢にも思ってなかっただろうからね。彼等が居ることをスルーされたとしても、配置されるのはどこかの一部隊……とか思ってた筈。実際自分もそこら辺が落とし所だろうと踏んでた……けど流石は会長。予想もしない人選をかましてくれる。
 これで指揮系統は大丈夫なんだろうか? 自分も含めて不安しか無い。けど会長の事だ、何かの考えがあってのことなのは間違いない。それがあの笑顔なんだろうしね。開戦の時間は明確には誰にも伝えられては居なかった。でも向こうからの進撃もないまま、会長が宣言してた午前十時のその時は迫ってきて、時計の針がその数字に重なると同時に自分達は『鯨とミジンコ』側のエリアに進撃を開始した。






 会長のスキルを使い、自分達は三班ずつにわかれたチームをエリアの境を通った段階で正面と後方に別れさせた。まあ実際にはどこら辺に出たのかとかよく分からなかったけど、城からの攻撃がこっちとは逆に飛んでるんだから後方に行けたんだろう。


(でも……このまま作戦を進行していいのかな?)


 そんな思いが胸には渦巻く。だって向こうの司令塔は裏切り者だ。このまま作戦を遂行するとはとても……けど別段何か対策を取ってるようにも思えないと言うか……そもそもこっちの作戦が向こうに筒抜けって事も。
 会長はこの事は生徒会メンバーにしか教えてないと言ってた。向こう側に組み込まれてる生徒会の面々にはもしかしたら何かしらの役割があるのかもしれない。いや、あると思いたい。だからこっちはこっちで自分達のやるべきことをやるしか無い。
 向こうの裏切り者共がどう出るかわからない以上、こっちが作戦通りの役割を全うするべきだと思うんだ。だからこそ、こっちには裏切ってたチームが一人も入ってないんだと思う。


「くっ」


 けどそれは責任重大な役割。しかもその責任はこの自分の双肩に掛かってるとなると尚更。どうして自分を会長は抜擢したのか……人選ミスだと思うんだ。自分は他の誰よりも出遅れてる。それはきっと謙遜とか遠慮とか、そんなの全然なく間違いない事実だと思う。


(けどある意味だからかな……とも思えるような)


 指示を出す側の方が最前線で戦うことは少なくなるから、戦闘の足手まといにはならないって利点はあるかも知れない。でもそれにしても、全体を把握して戦闘を組み立てる……そのスキルが自分にあるかどうか。
 確かにそれなりにゲームはしてきたつもりだけど、自分はどんなゲームだってそんなにやりこんだりするタイプじゃないんだ。中堅以上には行けない、そんなタイプ。それに今のゲームってオンライン前提のゲームが多くても、自分はオフライン専属みたいにやってたしね。
 そもそもリアルでも消極的なのに、オンラインマルチで積極的に成れるわけ無いじゃん。思うんだけど、ネットで普通に協力できたり掲示板に書き込めたりするのって開き直ってるそれこそ真のネットの住人か、元々リアルでも上手くやれてる人達だと思うんだ。自分の様なにわか界隈の踏み込めない人達はマルチとか書き込むとか出来ない。まあゲームはオフ専でも極めれるかもしれないけど、それはいわば井の中の蛙だしね。
 なんだって踏み込んでく人達に自分の様な人種は差を付けられっぱなしで、いつの間にか時代にとりのこされたような、そんな感じさえ受ける。もうちょっとボッチにやさしい世界であってもいいのにね。
 まあ自分の周りは充分優しかったのかもしれないけど。それに色んな世界を魅せてくれる人も居た。それは少しだけでも自分の行動力に変わったと思うんだ。だからこそ自分はここに居るわけだしね。


「抜けるぞ!! このまま突っ切れええええええ!!」


 よく通るその声が響いて皆一斉に声を上げて建物の殆どなかった外堀を駆け抜けた。自分よりも全然彼の方がよく指示を出してた気がする。けど一応こっちも司令塔らしいことはするぞ。


「ひ……被害報告を……」


 息が整わなくて途切れ途切れの言葉になった。けど自分の言葉に反応して、それぞれのチームのリーダー的ポジションの人達がメンバーの欠員なしの報告をくれる。ざっと見た感じそれほどダメージも受けてないっぽい。
 結構派手な攻撃を向こうはかましてた様に感じたけど、やっぱりそれほど命中精度は高くないな。


「反対側は無事なんだろうか?」
「確認してみるよ」


 自分は渡されてたアイテムを指で軽く弾く。近距離通信用シェアリングはピアスの形状をした通信用アイテムだ。エリアバトル中はメールとかでの連絡は出来ないからね。今までならこういうのも別に必要って程じゃなかったけど、流石にこの人数で連絡を密にかわすにはこういうアイテムが必要だ。
 自分達指令役の他にも後はそれぞれのチームのリーダーもシェアリングをしてる。けど基本通信する相手は指令同士ってことに成ってる。だからリーダー達は受信専門。通信が重なると聞き取りづらくなるし、作戦も伝達しづらくなるからね。


「こちらA班、B班そっちは抜けれましたか?」
『こちらB班、順調だよ。問題ない』
「了解」


 昨日の場面を見てるからか、変な想像が膨らむ。シェアリングの向こうでほくそ笑んでる奴の姿……とかね。考え過ぎかな? けど、警戒しない訳にはいかない。でもこちら側から向こうの様子を確認する術はないんだよね。
 流石に野放しにしすぎなんじゃないかと思うんだけど……順調と言うのなら作戦通りの行動を取るしか無い。どこかで仕掛けて来るのなら、敵はその最適なタイミングって奴を狙ってるはずだ。それがどこなのか……考えよう。


「ここからはゆるやかな坂にそって建物が密集してる。敵がどこに潜んで罠がどこに仕掛けてあるかわからない。慎重に行くぞ」


 自分よりも全然指令役っぽい彼が皆にそう告げて了承を得るようにこっちを見てる。自分はいうことも無くなったから頷くよ。城からの攻撃はピタッと止んだ。自分達のエリアを無闇に壊したくないのは誰もが同じだから自制してるんだろうと思う。
 でもだからこそ、ここからは白兵戦になり得る。向こうは完璧に待ち構えてる状態だし、勿論罠だってあるだろう。どこで戦闘が始まるか……それはわからない。建物を影にしながら慎重に進みだすと一番前を行ってる人がこういった。


「前門が空いてる?」


 デカイ城だ。ここからでも門の全景は見えなくても少しは見えてる。確かに僅かだけど開いてるようにも見えなくもない様な……


「誘ってる?」
「いや、これは……仕掛けてくる気だ!!」


 その瞬間四方から光が炸裂した。建物が裂かれてその破片が撒き散る。周囲を曇らす煙を吹き飛ばすように武器を凪いで彼が言う。


「全員全周囲警戒だ! ヒーラーは回復の準備を。できる奴はスキルを使って敵の索敵!」


 ちょ!? この人優秀すぎて自分のやること無いんですけど!? 


「あれ?」


 続けざまに来ると思われた攻撃はそうじゃなかった。煙の向こうには敵の姿はない。これは……


「ヒット・アンド・アウェイ戦法?」
「そのようだな。まあ合理的ではある。これならダメージを受けずにこちらを削れる。地の利は向こうにあるんだ」
「このままここに居るのは不味いですよね……」


 このままだとジワジワと削られて行くだけだ。それじゃあ城を落すなんて言ってられない。外周に出ればまた城からの攻撃が始まるだろう。自分は城を見る。


(まだ……門は開いてるな)


 自分達の役割はまずは城に入る事だ。それなら優先すべき順序は決まってる。けどこのまま全員でって訳には行かないよね。


「俺達のチームが敵を惹きつける。貴方は残りのチームと共に門へ!」


 強い瞳でそう言ってくる彼。確かにそれが一番いい方法。するとタイミング良く通信が入った。


『こちらも襲撃されてる。だが後戻りにはまだ早い。門が開いてるのなら、そこを目指すべきだ! それが俺達の役割だからな!!』


 門? 門が開いてるってそっちからも––


「来るぞ! 早く走って!!」


 思考を遮る爆音が響く。自分は声を張り上げて叫ぶよ。


「残りのチームは門を目指せえええええええ!」


 ソーサラー達で障壁を展開して自分達は門を目指す。下の方では残った人達が派手にスキルや魔法を撃ちまくって気を引いてる。けどそれも効果的なのはちょっとの間だろう。敵の位置とかが分からなければ足を止めることなんて出来ないわけで、敵側がこっちの動きに気付いたのなら優先するのはこちら側の筈だ。
 それに敵が何人出てきてるかも分からないし……これはかなり強引な作戦。いや、殆ど無茶のような。けど敵側に攻め込む場合は無理は覚悟の上でもある。自分達に今必要なのはあの城を落す足掛かりを掴むこと。
 この戦闘に時間制限はない。立て直す機会は何度かはあるんだ。どこで無茶をやるかも使いよう。一番元気な時に一番の無茶をやるのは悪い事じゃない。勢いでどうにか成るかもしれないしね。
 そんな事を思ってると障壁にぶつかる爆発。自分達の足が止まる。更に被せるように続く攻撃。やっぱりこっちを抑えに来たか。このままじゃ障壁が破られる。止まってちゃ駄目だ……良い的になる。


「矢でもなんでも良い、反撃を!」
「そんなこと行ったって敵の姿が見えないんじゃやりようがない!!」


 確かにそのとおりだな。どうやら相当の数に囲まれてる様だ。攻撃の方向がバラバラ……数人単位では無さそう。こうなったら……


「身体強化の魔法を! ダメージを受けても強引にでも抜ければ……」
「それはもう一か八かじゃないか!?」
「もっとまともな案を出せよ!」


 駄目だしされた!! 確かに博打の要素多いけど、じゃあどうしろって言うんだ!! 敵の姿も数も把握できてない。それに対して向こうは手に取るようにこっちの動きを把握してるんだ。強引でもなんでもやるしか切り抜けられない。


「じゃあ、取り敢えず目くらましの魔法かスキルで命中率を下げて一回バラけてそれぞれ門へ向かうでどうでしょう? それなら敵も一つに集中は出来ない。勿論バラける前に身体強化魔法を掛ける」
「まあそのくらいしか無いか」


 仕方ないという感じで納得してくれた。取り敢えずはヒーラー達が魔法を掛け終わるまで障壁が保つかどうかだな……


「障壁は行けますか?」
「なんとか……この程度の攻撃なら」


 この程度? それにちょっと違和感を感じる。門もまだ……開いてる。ザワッとした何かが心に絡みつく様な感覚。けどそれを考える前に周囲に強烈な閃光が放たれた。どこから? と思ったらどうやらそれは追いかけてきた彼のチームの一撃の様だ。
 お陰で攻撃が止んだ。この間に自分達はその場から散ってそれぞれのチームごとに門を目指す。どこまで敵が配置されてるかわからないけど、複数に別れればそれだけ少しは混乱してくれるかもしれない。実質自分は一人に成ってるから、こっち狙われたらとっても危ないけど、この際しょうが無い。
 寧ろ自分だけやられるのならまだいいさ。一人に構ってくれるのなら、他の皆がたどり着きやすくなる。


「はっはっ––」


 小刻みに息を吐きながら目指してると、少し離れた所で爆発音と共に、煙が上がる。攻撃がまた始まった様だ。こっちも周囲に警戒を……って思った側から通り過ぎた建物が吹き飛んだ。地面に伏せる自分。周囲を見渡すけど、人影は見えない。一体どこから? 取り敢えず体を上げて走りだす––けどその直後背後が爆発して近くの家に吹き飛んだ。


「くっ……もたもたしてられないのに……」


 頭をぶつけたせいか視界がボヤケてる。このままここに居たら建物ごと吹き飛ばされてもおかしくない……ない。


「来ないな……」


 今更建物の1つ2つ気にするとも思えないんだけど。


「…………」


 自分はシェルリングを通してA班のリーダー達に呼びかける。


「皆無事か? 敵の姿を見た奴は居ませんか?」
『A-1は全員無事だ。攻撃はあるが、姿は見ないな』
『こちらA-2班。こっちもHPは削られてるけど、まだいけてる。敵の視認は無い』
『A-3班も無事です。まだ行けます! こちらも敵は見てません』
「了解……攪乱作戦が上手く言ってるのかも。このまま各自門へ向かってくれ」


 上手く行ってる? 自分で言ってなんだけど、実はそう思えてない。どうしてここを攻撃しない? どうして皆が無事なんだ? ある意味、それは不自然じゃないか? それにどうしてまだ門を開けている? おかしいんじゃないか?


「会長、聞こえますか?」
『どうしたのかな?』
「こっちの戦況は分かってますよね? どう思います?」
『皆よく頑張ってると思うよ。それに私はそっちに居ないからね。大体の判断は綴君達でしていいんだよ。何かを感じたのなら、それを信じてみるのもいいんじゃないかな?』
「でも会長! 自分だけじゃそんな判断––会長?」


 何故か突然通信が途切れた。そんな……シェアリングが故障とか? いや、それは余り考えられない。それじゃあ向こうに何かがあった? でもそれなら直前に何かの音を拾ってもおかしくない。今のは突然遮断された様な……自分は外を見るよ。今の状況がどういう事なのか……確かめてみよう。
 そうしないと判断は出来ない。自分は建物の中に紙を一つおいて外へ出る。そして大通りの方へと出た。


(絶好の的……けどもしも敵が誘ってるんだとしたら……自分に当てることは––)


 体の中心を貫く閃光と共に自分は坂を転がった。


「がはっ……」


 やっぱり殺しに来てる? いや、HPはまだある。調整してるのかもしれない。腹がとても痛いけど立ち上がって再び歩き出す。するとやっぱり直ぐに攻撃を当てられた。今度は右肩に当たって左側に吹っ飛んだ。


「つう……」


 かなり削られた。けどまだ残ってる。多分次食らうと結構ヤバイ。終わるか、僅かに残るかの瀬戸際だろう。胸が凄く激しく動機を繰り返してる。本当にこれは誘いなのだろうか? このまま死んだら誰にも伝わらず死ぬことになるんじゃ……取り敢えずA班の皆にはこの事を……と思ったけど、さっきの会長との事がある、もしかしたら何か仕掛けをされてるかも。
 下手な通信は危険。それならやっぱり直接伝えるしか……でもここで殺されたらその可能性を伝えられないし、伝えるにはあの門を目指してどうにか入る直前で皆を止める必要が……そもそも自分だけを殺した所で罠じゃないとは言い切れない部分もある。
 ヤバイ……頭が混乱してきた。何を優先するべきなんだ? そう思ってると僅かに地響きが伝わってきた。何……と思って上を見ると門が動き出してる。
 閉まる––のか? やっぱり自分の考えは間違い? いやでも……


「くっそ!!」


 自分は走りだす。敵の攻撃は自分を掠めて行くだけで直接当たりはしない。どうなんだ? これはどうなんだ? 殺しに来てる? それともわざと外してる? 分からない! あ〜分からない!!


 視線の先にはA班のチームが先について中へ入ってる。こっちは歩いてたりしてたし、間に合わないよね……せめて罠かどうかの判断だけでもしたい。自分は鉱石を取り出してそれをスキルで操作して腕や太ももに付ける。それは鏡の様に艶のある鉱石だ。振る腕、動かす足、それらを使って見えない範囲をカバーする。探せ……そのタイミングを。後二十メートル! 十五……十……掠れていく攻撃。その一瞬の終わりを見極めて、自分は足を滑らせた。


「ぬあ!?」


 後七メートル地点……門には間に合わない。殺すか? 生かすか!? その時、鉱石にキラリと光る何かが見えた瞬間、自分の背後が爆発した。それによって吹き飛ばされる自分は門へ向かう。


(やっぱり罠!?)


 自分は腕と足に巻きつけてた鉱石を手に集めて地面の石畳と同化させて門の向こうへ滑り込んだ。


「がっ……はぁはぁはぁ……」


 顔面が……というか全てが痛い。良く生きてたよ自分。HPが赤く成ってる。けど、まんまとしてやられた。駆け寄ってきたA班のヒーラーによって回復を受ける。皆警戒態勢を取ってるようだけど、数人居ない所を見ると偵察にでも言ってるのかも。


「B班は?」
「どうでしょう? 間に合わなかったのかも……」


 そう話してたら「おーい」と聞こえる声。敵の城でなんて無防備な……と思ったけど、何かが起こる事は無かった。居なかった人がB班の人達と一緒にこっちに来てる。


「なんだか変だ。中庭の方まで進んだが人気がない。中までは見てないがまるでもぬけの殻の様な……」


 そんな報告を聞いてると何処かから高笑いが聞こえてきた。その声には聞き覚えがある。敵チーム『鯨とミジンコ』のリーダー。いや王様か……そいつの声。


『はーーーっはははははは!! 残念だったな。貴様等は我等の術中に嵌った。このバトル我等の勝ちは決まったような物だ。最強の城は最凶の牢獄と化す。トイ・ボックス発動!!』


 その瞬間、門や城壁に、蔦の様な物が伸びてきて、地面との境は樹の幹で埋め尽くされる。一気に風化したような光景に変わる城。そして満足気に奴は語る。




「残るは貴様等のリーダーを我が戦力の全てで狩るだけ。貴様等はトイ・ボックスの中でスキルを失い、為す術無く敗北を味わうがいい!!」


 高笑いと共に音声は消える。誰かが門に向かって攻撃を加えるけどビクともせずに、逆に蔦が絡まって来る。


「武器を離すんだ!」


 その言葉で間一髪肉体には届かなかった蔦。だけどこれは……トイ・ボックスはスキルを奪う。このままだと反撃の目さえ完璧に摘まれる。けどまさか……奴等が自慢の城を丸ごと使って自分達を閉じ込めるなんて……流石にここまでは予想できなかった。


「会長……」


 このままじゃ間違いなく、自分達は負ける。諦めの足音が近づいてきてる気がする。



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