命改変プログラム

ファーストなサイコロ

不穏な動き

 取り敢えず親の迎えと共に病院を後にして、それから口うるさい小言に耐えて家までの時間を耐えぬいた。ストレスを溜めないように……と医者が注意をしてくれた筈なのにこの親と来たら分かってない。
 いやまあ責めるような事は言ってないし、心配してるってのは分かる。けどそのうち、クドクドと「アンタはそんなんだから〜」とか言われるとイラッと来るんだよね。


 そんな時間を耐えぬいて自宅につくと、そこには一人の学生の姿があった。なんだか物憂げに佇んでるその姿はちょっと絵になりそうだった。


「アレって同じ学校の子でしょ? んふふ、アンタも隅に置けないわね。アレは恋をしてる目よ」
「何言ってるんだよ。そんな訳ないから」


 たく、このおばさんは……取り敢えずタクシーから降りると雨乃森先輩もこっちに気付いたようだ。


「あっ……」


 何かを口にしようしたけど上手く出来なかった様な途切れ方。こっちもちょっと気不味いな〜とか思ってたらおばさんが動いた。


「綴君を心配して来てくれたんでしょ? いや〜貴女みたいな可愛い子が来るなんてこの子も隅に置けなくなっちゃったわね。どうせだから中でお茶にしましょう。そうしましょう」


 何を狙ってるんだこのおばさんは! だからストレスはいけないって忠告されたじゃん! わざわざ家に上げたりしたら恥かくだけだよ。何の変哲もない庶民の家なんだから! 雨乃森先輩はブルジョワだぞ。
 てな訳で自分はこのテンションが異様に上ってるおばさんの腕を取って強引に止めた。


「おい、何勝手に……」
「勝手ってせっかく来てくれた女の子にお茶も出さないとか気が効いてないわよ。アンタみたいな根暗な子に少しでも好意あるのなら、がっちり捕まえないと行けないでしょ。そうしないと、一生独身よ。
 孫の顔くらいみせなさいよ」
「いやいや、飛躍し過ぎだから」


 孫とか気が早すぎだろ。変なプレッシャー与えまくりだからね。また胃に穴が空いたらどうするんだ。それにさっきから言ってるように雨乃森先輩とはそんなんじゃないから。


「まあまあ、この百戦錬磨のお母さんに任せなさい。今だって近所の若い子達をブイブイ言わせてるから」
「なにやってるんだよアンタは!」


 ヤバイな。家はそれなりに円満な家庭だと思ってたけど、実はそうでもなかったようだ。これはいきなり離婚とかありえそう。それか隠し子登場……とかそんな漫画みたいな展開も? しかもそれが結構な美少女だったり……なんて無いか。
 それに近い歳だったとしたら色々と……ね。二つの家庭を持ってたんですか……と成るのは困る。


「あ、あのすみません! 直ぐにお暇しますから。それに私のせいなんです……綴君が入院したのは……だからそのお詫びと、こんなものでは足りないかもしれませんが、お見舞いを」


 そう言って雨乃森先輩は綺麗にラッピングされた箱を取り出した。薄いけどそれなりに大きな箱だ。お菓子の詰め合わせとか? いやいや、金持ちだしね。そこらのお菓子とかじゃきっと無い。ゴディバのチョコの詰め合わせとかかもしれない。いや、まあ高いお菓子をその程度しか知らないってだけの予想だけどね。


「あははは、いいのよ全然全くこれっぽっちも気にしなくて。元々そんなに体強くないしね」
「でも……私の父のせいで……」
「え? あれ? もしかして既にそちらのご両親に挨拶済み? やるわね」


 お見舞いを貰って両手塞がってるからか、ウインクをバチバチしてくるこのおばさん。なんかホントやだ。


「いえ、両親というか、父だけですけど……」
「そう、既にそんな仲だったのね。それなら、やっぱりこのまま返すなんて出来ないわ。お父さんにも連絡して直ぐに帰ってきて貰うから、お夕飯一緒に食べましょう!! 赤飯にするわ!!」
「え? あ……あれ?」
「大丈夫、家はこの子貰ってくれるなら誰でもいいから。貴女みたいな美少女なら何の問題も––はっ! まさか綴君遊ばれてる!? よくよく考えたら、こんな可愛い子が綴君を好きになるわけない……」


 おい、息子泣いちゃうぞ。どれだけ自分の息子過小評価してるんだよ。この母親、酷いにも程がある。


「貴女、本気なの?」
「え? え〜と……」
「うう……つわああああああああああああああああああああああああ!!」


 自分は先輩の手を取って、走りだした。どこに向かってるかなんて分からない。取り敢えずあの夕日に向かって走った。


「はぁはぁはぁ……」
「綴……君、苦しい」
「あっ、すみません」


 結構走った所で自分は先輩の腕を離す。いつの間にか夕刻は過ぎ去って夜の帳が落ち始めてた。息を整えて、お互いに落ち着く状況になっても沈黙は続く。あれ以上あの場に居たらヤバイってだけで走りだしからね……その後の事は考えてなかった。
 でもなんだか雨乃森先輩はいつもの感じじゃないし、自分の事で責任を感じてるんだろうから、ここは自分が男を見せるべき場面。


「あの先輩……自分この通り全然平気ですから……気にしないでください」
「え? あっ……うん」


 あれ? 何か違ったかな? そんな反応だったような。


「ええとそれと先輩、さっき家の母親が言ったことは気にしないでください。ちょっとおかしいんで」
「私、悪女認定されちゃったかな?」
「だから気にしないでください」


 あんなの冗談ですから。先輩そっちの方を気にしてたの?


「けどしょうが無いね。こんな事になっちゃったのは私が悪いし……それに私、自分でもちょっとそう思うしね」
「そ、そんな事ないんじゃないですか? 先輩優しいですよ。それに色々と器用にこなせるし、人気にもあるし、自分は素敵だと思いますけど……なんて自分が言ったって嬉しくもなんともないですよね」
「…………」
「先輩?」
「ふえ!? ああ、うん、グッド・イブニング」
「大丈夫ですか先輩?」


 なんだか錯乱なさってるような……耳がなんだか真っ赤だ。


「だ、大丈夫、大丈夫だから落ち着かせて……」
「先輩、ホント気にしないでください。会長にも言われたんです。自分が踏み出して、もう後戻りは出来ない。進むしかないんです。だから前を向くことにします」
「……そっか。私も応援してるよ。私は絶対に綴君の味方だから……忘れないで」


 ちょっと火照った様な顔で微笑んだ雨乃森先輩。その顔があまりにも––だったから思わずこっちも火照ってしまう。


「綴君?」
「え? いや……」


 顔を見れないよ。だって鼓動がバクバク言ってる。あれ? また胃に穴が空いたかな? いや、今度は心臓? あれは反則級のアレだった。女性に馴れてない自分にあんなの駄目。勘違いしてしまう。雨乃森先輩は優しいんだ。そう、その優しさを分け与えられてるだけだというのに……


「先輩……ありがとうございます。先輩の事、自分守ってみせます」
「ええ!? それってどういう事?」
「えっと、自分が負けたら何でもやるって言ってたじゃないですか。何を要求されるかわからないから……」
「ああ……うん、よろしくね」


 なんだかさっきから自分達オーバーリアクション気味の様な気がする。会話が途切れて再び訪れる沈黙。二人共テンションがおかしいよ。木枯らしに晒して冷まさないと。そう思って背を向けてると背中にトス––と寄りかかってるくる何かを感じた。


「ごめんね綴君」
「あっ……え……だから、こんなの全然……」
「その事じゃないんだ。そのことじゃないの……ごめん」
「…………先輩」


 胃の事じゃなかったから、先輩が何に対して謝ってるのか、自分には分からない。分からないから何も言えなかった。でも振り解こうなんて思えない。良くわからないけど、自分は先輩が離れるまでジッと空を見つめてた。




 先輩とどうにか別れて家に戻ると、この家に住み着いてる妖怪、噂好きババアがニヤニヤしながら自分に詮索を掛けてきた。「なんでもない」––と言って誤魔化しておいたけど、部屋に戻る前にふと真面目なトーンでこんな事を言われたよ。


「よかったわ。学校に馴染んだだけじゃなく、あんな可愛い女の子が気にしてくれる様になったんだからね」
「だから先輩はそんなんじゃ……」
「お母さんの勘、結構当たるのよ。大丈夫、当たって砕けなさい」
「砕けてるじゃん!!」


 いや、あれ? 砕けていいんだっけ? 別に自分は雨乃森先輩の事好きって訳じゃ……いや、好きじゃない訳勿論ない。いっぱいお世話になってるし、女子の中では多分もっとも近いと思うしね。
 好きじゃないわけない。気になる存在なのは確か。でもそれはLOVEじゃない……と思う。そもそも自分はどっちかって言うと末広さんにその感情を向けてる筈だし。でもちょっとお近づきに成った今、色々とあってその感情を維持してるかと言えば良くわからない気もする。
 やっぱり近づくと、自分が思い描いてた彼女とは違う部分が見えてくるっていうかね。でも別段それで極端に嫌いになった……とかでもない。勝手な理想が、現実にすり合わせられていってるだけ。
 それは多分、自分の中で受け入れられる程度の事だったんだろう。だからまだ、どうにかしたいって気持ちはある。


 取り敢えず厄介な追求をかわして部屋に閉じこもる。荷物の中からリーフィアを取り出して、頭に被った。時計を見ると六時を過ぎた所。テア・レス・テレスはエリアバトルをいつもどおりやってる頃だろうか。
 ダイブ・オンを唱えて仮想世界へと自分は飛び込む。


 瞳を開けると、自分のプライベートルームに出る。エリアは統合されてるけど、プライバシーは必要だからね。自分の家の中は基本不可侵だ。最初はベッドしか無かった部屋も一応は生活感がちょっとはある感じに成ってる。
 まあ安物で埋めただけだけどね。ほら、部屋の中に適度に物があったほうが落ち着いたりするし……あんまりここ活用しないんだけど、一応それらしくはしてるんだ。もしかしたら……誰かを招待とかすることもあるかも知れないしね。でも今でもそれを想定するには不十分だけどね。窓の外を見ると街並みが広がってる。
 最初は真っ白で一本の木と小川しか無かったのに、短期間で建物は増えてエリアもそれなりには大きく成ってる。エリアだけなら一駅間位の広さはあるだろうか? でもエリアの拡張は順調だけど、エリア事態の地ならしはまだまだだ。
 色々と会長は計画してるようだけど、全然手が追いつかない。仲間も増えてるし、入る度に「あれ? こんなのあったっけ?」 的に建物が増えてたりするけど、それは中心部位。少し足を向けると、途端に白くなるんだ。
 自分達はエリア拡張しか見てないけど、その得たエリアをどう活用するかってのも案外難しい課題だったりする。エリアを得る利点……それをまだ自分達は見出してない。


「一般的なのはエリアバトルを有利に進めるために色々と仕掛けを作ったり……とかかな?」


 実際、今まで戦って来た自分達よりも少し進んだ人達はそんな感じだった。特徴的なエリアを作って自分達に有利な状況を作る。けどそれって自分達のエリアに誘い込まないと行けないんだよね。
 まあだからこそエリアバトルは待ちの態勢が普通になってたんだと思う。一応事前に用意されたエリアもあるけどね。『森』や『渓谷』・『砂漠』とか色々と用意はされてる。けどやっぱり皆さん自分達の有利な場所で戦いたいと思うのが心情だからね。
 それぞれのエリアで戦うって事も確か出来た筈だけど、それじゃあ二回戦うことに……もしかしたらそれ以上のバトルが必要になるから厄介だし、守りに誰もが入るのも仕方ない。ようは会長のやり方は正しかったって事だよね。


 色々と考えながら自分はドアに近づく。そしてドアノブを掴み、表示されてる『エリア』を『移動要塞 ダイダロス』へ。エリアは種族の故郷にもデフォルトで行けるからね。ニューリードじゃもしかしたら生徒会の皆さんと鉢会うかも知れない。それはちょっと気まずいじゃん。
 まあ種族が揃ってるからエリアバトルの開始地点がニューリード以外って事もあるんだけど、大体ニューリードだから大丈夫だろう。


 移動要塞ダイダロスは埃っぽい。要塞だし、良く移動してるから、振動が伝わってて常に埃が充満してる感じ。酔う人もいるだろうねこれ。しかもスレイプルは職人だ。基本スキルに鉱石操作があるから岩を掘るのが得意。
 そこから取れた鉱石を武器やら防具やらにするんだ。まあこの要塞事態では何かが取れるって訳じゃない。寧ろ良質な材料を求めて移動する為の要塞だしね。各地を回って収集した材料を使って大量の職人が火事場で大量の作品を作ってる。
 そのせいでムンムンしてる所もある。あれだね……スレイプルの人気がないのって、故郷がこんなんなのもあるかも。なんか他の街を知ってると残念に思えるよね。要塞と言えば聞こえいいけど、外から見たらただの山だし。所々から見える機会部分は無骨だしね。結構残念なんだ。


 どこからとも無く聞こえてくるトンカチの音をBGMに広場に向かう。それぞれの国の街で、人の集まるところにはボードがある。それにはエリアランキング成るものが掲載されてるんだ。まあ大々的に掲載されてるのはトップ二十だけ。
 けど、手を向けて空中でスクロールするとそれ以下を見ることが出来る。テア・レス・テレスは三十位の上の方。これなら来週にはこのランキングに乗れるかもしれない。そもそも今は入れ替わりがとても激しい。トップだって常に入れ替わってる有り様だ。
 どこが覇権を取るのか、競い合ってる感じ。でもこのまま行くと自分達はいいカモされそうな気もする。だってエリアだけ広くて、プレイヤーの経験も決して高いとは言えない集団だ。上位の方々に目を付けられると厄介。流石に会長も、完全に格上の相手に今のやり方はしないよね? 向こうのエリアに行くのは自殺行為。守りに入る用意も必要かもしれない。
 今はほんとに順位の変動が激しいからね。もしかしたら同規模の相手を倒して更にエリアが広がると、一気にトップに食い込んだりするかも……順位を見ていくと、十八位に『鯨とミジンコ』なるチームがある。
 実はそれが末広さん達のチームらしい。自分達よりも広いエリアを有するチームだ。となると、それだけで強敵。そして二つが合わさるとさっきと懸念が大きくなる。


「取り敢えず、今は目先の決戦だよね。その先の事は先の事だ」


 そもそも先を考える余裕なんてないしね。よし……取り敢えず何をしよう? てか、何をすれば良いのか……スキルを上げるのが普通なんだろうけど、それじゃあそれで劇的に強く成れるわけもない。
 けど地道が一番か……そうだね。何かが舞い降りてきてくれるほどに、自分は持ってる奴じゃないってのはわかってる。近道をしようとするんじゃなく、地道に突き詰めるのが自分のやり方だ。


「そうと決まれば外でモンスターの相手でもしよう」


 問題は今この要塞がどこにいるか……だね。普通の国なら街の周囲のモンスターは弱い。けどこれは移動要塞。周囲の敵が強いってことはある。いや、寧ろ自分は運が悪いから……


「––てあれ?」


 今見覚えのある姿があったような……確かあれは何回か前に倒して仲間になった奴。名前は……忘れた。丁度良い、一人よりも二人の方がバトルも効率いいしね。仲良くなんてないけど、会長も仲間って言ってたし勇気をだして声掛けようと自分は彼を追いかける。


「お––ん?」


 バッ––と物陰に自分は隠れた。彼に対して向かい合うのは数人の輩。先約がいたみたい……これは諦めるしか……


「それで奴等の情報は?」
「俺達のエリアの独立は保証して貰うぞ」
「勿論」


  ––ぬあ!? こ、ここここここれは……まさか裏切り!? どうやら自分はとても不味い場面に出会したようだ。自分の運の無さもここに極まれりだよ。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品