命改変プログラム

ファーストなサイコロ

謎の人

 街の東門から外にでるとそこはもう戦場だった。東門から出るとまず茶けた岩場が広がってるんだけど、そこにプレイヤーとモンスターが集まりひしめき合ってる。しかも今回のモンスターは見たこと無い奴ばかり。基本的に多いのはゴブリンって奴だろうか?
 でも自分が見たことあるやつとはちょっと違う。いつもはガスマスクみたいなの被ってる癖に、今回の奴等はどこかの民族道具みたいな縦に長いお面をしてる。それに細い手足とかとは対照的なゴツイ棍棒みたいなのを握ってる。
 体は葉っぱみたいなので覆われてるし、なんだかまさにどっかの先住民的な感じ……けど面に描かれた模様が不気味に輝いて、体から出てる青黒い蒸気の様なもののせいか変なプレシャーを感じるよ。
 他にも芋虫みたいなデカイモンスターを操ってる奴もいるし……どっかの部族が攻め込んで来てるのだろうか? 


「う〜ん、なんだかヤバそうだね」
「そうだね〜、このタイプのモンスターの出現は初めてかも」


 仲間に成ったばかりのモブリの一人がそう言った。確かに既に始まってる戦闘をよく見るとプレイヤー側は劣勢に見える。それに敵は大量……絶え間なく遠くに見える変なボワボワした所から出てきてるように見える。


「あれ……が?」
「そう、プルートと呼ばれてるわ。雑魚が出尽くすと最後にボス級のモンスターが顔を現す。そいつを倒すとアレも消える」
「なるほど……倒せなかったら?」
「さあ、今まで倒せなかった事は無いようだし、わかんない」


 ゲームって特性上、プレイヤーが負けても、一定時間で消えそうだけど……ここはLROだからね。それで終わるのかどうか……正直分からない。奴等の勢い的に街にまで攻めてきそうな……


「どうするの会長?」
「参加するからには勝つよ。だから狙いは雑魚じゃない。ねえショコラさん、あれの向こうにはこっちから行けないのかな?」


ショコラさんはリーダー格の人だ。ポニテに大きなリボンが特徴。


「アレの向こう?」
「そう、だって出てきてるんなら入れるんじゃないかって思って」
「それは……どうだろうね? そんな事やった人居ないんじゃないかな?」


 確かにそれはそうだろう。雑魚を倒しつつ、ボスが来るのを待って出てきたら倒す。それがこのイベントだと殆どの人が思ってるはずだ。てか、別にそれは間違いじゃないと証明もされてる。だからあの中に行こうなんて誰も思わない。
 でも、会長は違うようだ。間違いじゃない……からと行ってそれを正解とだとも思っちゃいない。いや、そもそも会長はこの世界……と言うかどっちもだけどに、正解と言う物があるとは思ってないのかもしれない。
 まあリアルはそれで良いと思うけど、一応ここはゲームだからね。正解というものもちゃんと用意されてる物だと思うけど。


「それじゃあやってみようよ。今回雑魚が強そうだし、狙いは絞った方がいい」
「けど会長、自分達だけで倒せるものでしょうか? 雑魚がいつもより強力って事は、そのボスは更に強力って事ですよ。仲間たちを集結させても対抗できるかどうか……」


 実際ここ数日で倒したプレイヤー達はそこまでやりこんでる人達じゃない。自分達よりは確かに強かったし、時間も掛けてた人達だったけど、やりこんでるって感じの人達は居なかった。まあ今の段階でそんな人達を相手には出来ないだろうけどね。
 多分この街にはそんなにコアな層はいないんじゃないだろうか? 初めから辿り着ける街だからね。まあそれなりに強そうな人達も見かけるけど、流石にそれは街中だけで、ここら周辺でバトルってるって所は見たこと無いし……だからやっぱりここは初めの街なんだ。
 そんなまだまだな人達が多いこの街に、見合わない敵を出現するプルートが現れた。これは結構なピンチじゃないだろうか。


「それにプルートに入るって言ったって、プルート周囲にはモンスターが沢山ですよ日鞠様。この戦力で突っ込むのは自殺行為」


 流石のルミルミも弱気だな。でもその通り……プルートからは次々とモンスターが出てる。つまりプルートに近づくって事はそのモンスターの群れの中に飛び込むようなもの。ルミルミの言うとおり自殺行為だ。


「セオリー通りにボスが出てくるのを待っとくのはどうですか会長? 他にもプレイヤーは居るんだし、自分達は何処かに身を潜めてて、漁夫の利を狙うのがいいような」
「…………腰抜け」
「ぬあ!? 別にそうじゃないよ。自分は現実的な方法を提案しただけで……」


 うう……皆の視線が冷たい。だって他にどんな方法があるんだよ。ボスを倒す為の余力を残しとくためにも、雑魚は他のプレイヤーに任せたほうが良い。わざわざ出向かなくても向こうから出てきてくれるんなら無理をする必要なんて無いんだ。


「う〜ん、ツヅ君のいうことも分かるよ。別に間違ってないしね。でも駄目だよそれじゃ。面白くない」


 面白く無いって……そんな理由?


「負けたらどうするんですか?」
「別に負けてもいいよ。エリアが取られる訳じゃない。まあ掛けた時間分のスキル値とか取られるだろうけど、掛けた時間は取り戻せるしね。こういうのは挑戦だよ。それにどうせなら誰もしなかった事をやりたいじゃない。
 次はいつ現れるかわからないしね」


 会長はやる気満々だ。絶対負ける気ないじゃん。まあ挑戦をどこでするかは重要だとも思うけど……やられるのって痛いんだよね。一瞬だけど……覚悟が必要だ。


「それでどうやって挑戦するのかな? 実際私達だけじゃプルートに近づくことも難しいと思うけど」
「そうですね。時間は掛けてられないし、少し皆さんに協力して貰わないとかな?」
「協力って……そんなお人好しばかりじゃないわよ」
「そうですね。言葉で言っても意味は無いと思います。言葉も大切ですけど、まずは示しましょう。私達が協力的だということを」


 自分達の後ろから勢い良く追い抜いていく人々。そして先に戦闘を初めてる人々。まだプレイヤーも増えてるから良いけど、このままじゃジリ貧だ。敵が強いからこの混戦の中、チームだけで当たるのは不利に成ってる。
 でもだからって皆さんどこかと協力なんて思ってない。だって自分達のチームがあるからね。ソロでやってる人も居るだろうけど、ここでソロの人は初心者だろうから、積極的にコレに参加はしないだろうし……それぞれが小さな枠組みで完結してるからプレイヤー側も多いけど、更に多いモンスター達に飲み込まれかけてる。
 このままじゃ劣勢のまま終わりそうな……会長は協力とか言ってるけど、どうするんだろうか? 示す……とは一体? 


「みんな、私の指示通りに動いてね。テア・レス・テレス––行くよ!!」


 行動は開始された。自分達は会長の指示の下、劣勢気味のプレイヤーのフォローに回る。でも後から来た自分達がフォローに入ると、倒した時の報酬が無くなったりするから慎重に選別しないとフォローして怒られるという事態になるかもしれない。
 回復をしてあげる位なら問題ないんだけど、パーティー以外がターゲットの獲物に攻撃を加えるとフォローしたとみなされて報酬はもらえない。だからフォローする側も、本当にピンチな所を助ける様にしないと––まあそこの選別は会長がやってくれるんだろうけどね。だから自分達は信じて動くだけだ。


 転んで今にも止めを刺されそうなプレイヤーの前に立って敵の攻撃を受け止める。態勢を立て直す時間を作る。その向こうでは別の人達が逃げまわってたから、モブリ達が魔法で障壁を作ってブロックしてる。
 HPが危ない人達は積極的に回復魔法を回していく。そうしてく内に、会長は自分達だけじゃなく、助けた人達にも指示を飛ばし始めてた。


「そこは危ないですから少し下がってください。各パーティーのヒーラーは集結を。詠唱を回して効率を高めます。ここを最終防衛ラインにして押し戻す。盾の人達は二段階に分けます。スイッチを意識してください。アタッカーはHPが少ない敵から攻撃を当てていってください。まずは数を減らすことが大事です!!」


 会長の言葉に素直に対応していく人達。このままじゃ不味いと誰もが思ってたのだろうか、無闇に反対する人は居ない。やっぱりフォローに回ってたのも効いてるようだ。あっという間に五十人超の部隊を率いだす会長。
 さっきまでそこかしこで無秩序に起こってた戦闘が、大きなプレイヤー軍団とモンスター軍団でハッキリと分けられた感じ。けどモンスターはとどまる所を知らずに増えていってる。でも統率が取れたからか、プレイヤー側での戦死者は今の所まとまってからは出てなくて、モンスターを減らす事には成功してる。
 問題は減らした数よりも出てくる数の方が多いって事だろう。上手く回っていても、このままじゃ瓦解する。再びモンスターの並に飲まれるのは時間の問題だ。


「このままじゃ不味いね。よし! ソーサラーの人達は狙いを変更。プルートへ照準を絞って! 盾の皆はちょっとの間踏ん張ってね」


 一瞬「ええ!?」と成ったけど、だけど皆その判断を信じるしか無い状況だ。心には一体いつまで今の状況が続くんだって不安が立ち込めてた筈だからね。不安が蔓延したら弱気に移る……そうなったら指揮を再び高めるのは難しい。
 そして弱気は攻撃にも影響する。LROは心を汲むとも言われてるからね。


 攻撃魔法の光が自分達の頭上を超えてプルートへ炸裂する。遠くで起こる爆発。そのせいか、モンスターたちの動きが止まる。この一瞬を逃すことは出来ない! 一気に自分達は目の前のモンスター共のHPを削り切る。
 オブジェクト化して砕けて消えてく目の前のモンスター達。これでちょっとは勢い付ける……と思った矢先、地面を揺らす程の不気味な声が辺り一面に響き渡る。


「なっ……なんだ!?」
「ひっ!?」


 周りではこの声に反射的に恐怖を抱く者も居たようだ。地面にへたり込んだりしてる。いや、実際自分も驚いた……でもそれ以上に目を引くものが自分の視界には入ってたんだ。




「なんだあれ?」


 魔法で起きた爆煙を吹き飛ばし、まだそこに存在してるプルート。それは大きく縦や横に伸びてる。まるで今のこの声を出すためにそうやってるかのよう……それにああやって伸びてれば、大きくなりそうだよね。まるで何かが出る準備をしてる様な……


「よし、プルートからの排出は止まった。前線を押し上げる!!」


 再び会長の指示の下戦闘は激しさを増す。またいつプルートがモンスターを排出しだすかは分からないけど、だからこそ今がチャンスなのは同じ。皆は必死に戦線を押し返して行く。統率が取れてるから前衛は前衛の仕事だけに集中できるのは大きい。
 いつの間にか回復されてるしね。余計な事を考えずに目の前の敵だけに集中できるってのは今までにない感覚だ。それに会長の指示はとても的確だ。崩すべき所から崩していけてる。だけどそんな中厄介なのが現れた。
 芋虫みたいなモンスターにゴブリン共が乗った騎兵隊部隊の様なのが出てきたんだ。ソーサラーの魔法を全面に押し出すけど、変なぬめりのせいか、効きが悪い。それにそのぬめりは自分達の武器の通りも悪くしてる。
 そしてその芋虫は一斉に鼻が折れてネジ曲がって脳みそを破壊するかと思わんばかりの強烈な匂いを吐き出して来る。


「ぬあ……」「これ……は……」「あががが……」


 勇姿達が次々と倒れていく……HPは減ってないのになんて恐ろしい攻撃だ。幾ら鼻を押さえても匂いを完全に遮断する事は出来ない。視界がボヤける……くらくらする。殺人的だよ……この匂い。


「つ……使える人達は風魔法を……」


 会長の声はかろうじて聞こえた。でも詠唱を開始する声は聞こえない。風魔法でこの匂いを吹き飛ばしたいんだろうけど……魔法を使える人達も尽くこの匂いにやられてるようだ。動けなくなった自分達に止めを刺すべく迫ってくるモンスター達の足音が聞こえる。
 今回の戦闘……キツすぎるんじゃないかな? 初心者が集まる街で起こるクラスのイベントじゃない気がする。運営側が敵のランクを間違ったんじゃないかと疑うレベル。纏まらなかったらもっと早くにプレイヤー側は全滅してただろうし、まだボスも出てない時点でコレだよ。
 自分達クラスにはまだ、匂いを完全に封じるとかの特殊なスキル持ちとか居ないから。防げない攻撃をかましてくるとか残酷すぎるよ。


(ここまでか……)


 と内心諦めかけたその時、モンスターたちの足音とは違う、重量感があって鎧の金属音や、武器を構える音……そしてスキルを纏ったような様々な光が自分達を追い抜いて行った。そして更に炸裂するスキルの光と爆発音。その勢いに吹き飛ばされてく匂い。
 視界が戻ってくる。まだ臭くて気持ち悪いけど、さっきまでの比じゃない。前を向くとそこには圧倒的な装備に身を包んでる人達が居た。
 どこまでレアなのかは分からないけど、自分達の質素な装備とは雲泥の差なのは明らか。そんな人達が助けに来てくれた?


「彼奴等……ソロ連中だな」
「ソロ……って事はここを一人で旅してるって事ですよね? 凄い……」


 一人で未開の地とかに行くの怖いよ。まあでも一人でも行けるからあんな凄い装備なんだろうな。自分達が苦戦してたモンスター共をほぼ一撃で倒してるし……レベルの差……なんてのはLROにはないけどさ、スキルの差はあるからね。
 ぜんぜん違う。アレがトッププレイヤーなんだろう。


「凄い……けど、このままじゃ全部彼奴等に持ってかれる。自分の事しか考えないから、ソロなんてやってられるんだ。エリアバトルでも雇われたりするんだけど、かなりボッタクルって聞くし、傭兵でありハイエナなんだ彼奴等は」


 近くに倒れてた親切な人がそう教えてくれる。どうやらあの人達はあんまり好かれてはないようだ。確かに倒れてる自分達はガン無視されてるからね。どうやら助けてくれたって訳ではないよう。
 彼等の目的はあくまでもレアアイテムってわけか。今戦ってる人達も、協力してる訳じゃなく、誰がアイテムを取るかの競争をしてるのかもしれない。


「あ〜あ、あんなの出てきたらもう駄目だ」
「だな〜」
「はぁ〜」


 ゾロゾロとプレイヤーの方々が街の方へ帰ってく。どうやらレアアイテムを取れる目が無くなったと判断したようだ。確かに彼等と今の自分達が張り合える筈もない。助かった……けど、こここから進めなく成ってしまった。


「どうする日鞠様?」
「諦めないよ。折角ここまでやったんだしね。雑魚を狩ってくれるのなら好都合。私達は隙を見てプルートへ飛び込もう。大きく開いたりしてるし、中に入れそうだよ」


 まだ諦めて無かったのか。確かに大きく開いたりしてるけど、逆になんだか禍々しく成ってる気がする。彼処に飛び込むのはちょっと……だけど皆会長に続いて行く。まったく……とりあえず物陰に隠れてタイミングを図る。


「よし、三・二・一で行くよ」


会長のカウントダウンと共に一斉に飛び出す。モンスターを避けて、ソロに人達の隙間を通り、プルートを目指す。どうやら何人かはソロの人達に阻まれたりしたようだけど、そこで一番乗りを果たすのはやっぱり会長だった。自分の数歩先に彼女は常に居る。
 そして会長がプルートに触れた瞬間、激しい光が周囲を包んだ。


「あれ?」


 目を開くとそこはさっきまでの場所と違ってた。空は無くて自分達の居る数十メートルのフィールド以外は亜空間のような……そんな場所。これ……落ちたらどうなるんだろう? 大理石で出来たような円形状のフィールド。
 その周囲の柱から柱へと青い電撃が流れだすと、黒い靄が現れてそこからでっかい芋虫が現れた。いや、さっきまで相手してた奴もデカかったけど、これは数十メートル級……まさにボスなんだろう。
 ってことはここはボス戦用の特殊フィールド。外にでるんじゃなく、自分達がここに落ちてきたのだろうか?


「はっ、面白え! こんな事が出来たなんてな!!」


 後ろを振り向くとそこにはソロの人達も居た。どうやらあの場に居た人達は皆巻き込まれた様だ。だけどソロの人達は目を輝かせてる。自分達は不安が大きいのに……負けるとか考えて無さそうだ。
 まあ外のモンスターを一撃だったし、ボスも楽に倒せると踏んでるのかもしれない。そして早速彼等は現れた芋虫っぽいモンスターに向かってく。そして早速スキルをまとわせた一撃でぶった切る。
「ぬあ!?」


 誰かがそんな声を出した。けど分かる。だって本当に一撃で真っ二つに成ったんだ。凄すぎるよ。まさかボスまで一撃? 


「ううん、よく見て、HPは減ってないよ」


 会長の声に確認すると確かにHPは削られてない? 真っ二つにされた芋虫は切り口の断面から再生して行き、二体になった。


「はん、それなら!!」


 別の人が今度は魔法で芋虫を焼きつくす。なるほど、確かにコレなら分裂は出来ない。けど芋虫は焼けた皮の下からツヤツヤの体が出てきた。なんと!? どうやって倒すんだこれ? それからもソロの人達は攻撃をしまくった……けど、増えて再生して、討伐の目処は立たない。
 糸口が見えないんだ。攻撃を行ってない自分達が襲われる可能性は低く、優先度はソロの人達だからまだ安心。けどそんな事を思ってるとソロの一人が丸呑みされた。
 そして吐出されたのはその装備だけ……恐怖がそこにはあった。そして増えた芋虫に次々とソロプレイヤーの皆さんが食われてく。大理石の地面には虚しく装備だけが残った。そして彼等がいなくなると……必然的に標的は自分達へと向く。
 攻撃してないけど、この空間は特殊な場所だ。居るだけで標的にされるんだろう。デカイ芋虫達が悠然とこっちを向いてくる。自分達もああなるかと思うと嫌過ぎる。食われて溶ける感覚とかあるのだろうか……いやだああああああ!!


「皆……諦めるにはまだ早いよ。なんとかなる。いえ、なんとかしようよ」
「「会長……」」


 なんとか成れば良いけど……流石に今回ばかりはその言葉信じれない。だって自分達よりもずっと強い人達でこの様だ自分達が束に成ってもきっとあのソロプレイヤー一人にも及ばない。それを考えると勝てる可能性なんて……


「大丈夫、皆には私がついてるからね」


 その背中は大きい。いや、女の子の背中だけど、頼れる背中だ。震えが自然と止まる。皆の心を会長は繋いでる。こうなったらやるしか無いよね。逃げ場なんて無いし。目の前に進んできた芋虫が自分達にその大きな影を落とす。
 そして開く汚い口。自分達は向かってくるその口を迎え撃とうと構えた。するとその時だ。音もなく、その頭が切り落とされた。そして落ちた頭の向こう……切り落とされた頭の胴体に誰か居る。フードと目深に被って、マントを揺らす誰か。その誰かの分かる唯一の特徴は二刀流って事だけ。てか居たっけあんな人? 
 そう思ってるとその人は視界から消えた。そして風が一迅吹いたと思ったら、別の個体を切り刻んでた。なんだこれ? まるで台風みたいな……更に風が吹いて目を一瞬閉じた。そして次に開けると、全ての個体は切り刻まれて更にそれらが竜巻で一箇所に集められてた。
 その中でブクブクと再生をしようとしてる様に見える。そうだ……このままじゃ何回だって再生をしてしまう。そう思ってると、その人の体がバチバチと帯電していくような……そして次の瞬間、鼓膜を破るかの様な轟音と、光が空間をうめつくす。
 何か遠くで音楽が聞こえる気がするけど……分からない。次に視界が元に戻った時、そこは元の岩場だった。ボスのフィールドじゃない。そして二刀流のあの人も消えていた。


「スオウ?」


 ポツリと、そう呟く会長の声が自分には聞こえてた。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品