命改変プログラム

ファーストなサイコロ

ため息が止まらない

 病院での邂逅から数日、ため息がよく出るようになった。何かふと良く「はぁ」と漏らしてしまう。だって自分がLROに入ったのは彼女の為……というのもおこがましい事なんだろうけど。自分的にはそのつもりで、それがこうズバッと切られたらな……
 能登くんからの情報によれば彼女は今はきちんと学校に通ってるらしい。なんでもペナルティがあったとかなんとか。運営側に規制を掛けられた様だと言ってた。だから彼女は今はLROに入れない。だから学校に通ってると……確かに再びLROが原因で入院とかは流石にイメージというか……信用問題だしな。
 運営側の配慮もわかる。でもそれだけしても得たい報酬みたいな物を提示したのもそっちだよね。それか元々、時間制限でもリーフィアに組み込めばよかっただろうにとも思う。その位出来そうな気もする。
 自分達は一日二時間程度しかLROに入ってられないし……今はまだ良いけど、本当に本腰を入れてる人達とエリアバトルする事に成ったら、流石にその時間じゃ限界というモノがあるよね。


「はあ……」
「おい、そっちに行ったぞ!!」


 誰かの声が聞こえて我に変えると、こっちに向かってくる小さな奴等が見えた。今回のエリアバトルの相手は全員がモブリだった。そしてその人達がこっちに一斉に向かってきてる。


(どどどどどど、どうすれば!?)


 とりあえず一番最初に接触しそうな奴に斬りかかる。横殴りの一閃。けどそれはピョンと跳ねてかわされた。そして武器を踏み台に眼前に迫ったその人は自分の目の前で魔法を撃ち放った。


「ぐああああああああああああ!?」


 体に走るビリバリとした痺れと痛み。雷系の魔法を放たれたのか? よく分からない。仰向けで倒れてる自分をわざわざ踏むように通ってく他のモブリ達。そして彼等はエリアのどこかに消えていく。


「くっそ、逃げられたか」
「時間がありませんよ会長。どうします?」
「そうだね。まあ時間が無いのは向こうも同じでしょうし、接触の機会はあるよ。それよりもルミルミは回復魔法してあげて」
「ええ〜こいつに〜?」


 あからさまに嫌そうな声が聴こえる。そう言う所ルミルミは全然隠そうとしないよな。まあ影でコソコソなんかしないのがサバサバしたルミルミのいい所なのかもしれないけど、正面から来られすぎると、それはそれでメンタル弱い自分には結構キツイんだよね。


「まったく、会長の手をこれ以上煩わせたら私がとどめ刺すから」
「…………はい」


 グリグリとその短い足で踏まれながら言われた。返事と共に回復魔法の光が自分を包む。痛みが和らいで行き、体中に広がってた焦げ消えていく。


「あ、ありがとうございます」
「気合入れろよ」


 胸ぐら掴まれてマジの目でそう言われた。怖い……自分のモブリのイメージが覆りそうだ。街中とかで見かけるモブリはもっと可愛らしくて愛らしいのに……この人だけは全然かわいくない。寧ろ怖い。小さな猛獣にしか見えない。
 なんでこの人がモブリに成ってしまったんだ。いや、逆に考えた方がいいかもしれない。この人がモブリだからこそ、まだ救われてると。だってこの人が他の種族だったら、こんな小さくないからもっとビシバシと殴られて蹴られて––としてた可能性が高い。そう考えるとモブリ事態が犠牲に成ったのかもね。
 この人がその種族の皮を被ってるとイメージダウン甚だしいし……もう見た目なんて信じない! 


「それで、会長ここからの作戦なんですが」
「うん……ここで決める気だったからね。正直無いかな。向こうはトラップが好きみたいだから、多分とっておきの隠し球でもあるんじゃないかな?」
「ヤバイじゃないですか!」
「だからそれを出させる前に決めようとしてたんじゃない」


 あっけらかんとそう言う会長にザバン君はキツイ瞳をこっちに向けてくる。はいはい、自分のせいですはい。実際エリアバトルってどっちかのエリア指定して出来るんだし、自分達のエリアでやれば有利に戦闘を進めれる。
 でも多分それじゃ受けてくれる人達は少なく成ってしまうんだろう。それはそうだよね。誰だって不利な中大切なエリアを賭けたくは無いんだろう。だからその心を見透かして会長はわざわざ不利な条件を飲んでエリアバトルを受けてるっぽい。


「すみません会長……自分のせいです」
「過ぎたことはしょうが無いよ。それになんでもかんでも思い通りに行くわけ無いしね。上手く行かなくたって笑えばいいよ。楽しんで行こう!」


 そう言って会長は本当に楽しげにステップを踏み出した。ちょっとだけ漂いだしてた不安を吹き飛ばす様な会長の行動。雰囲気が柔らかくなる。するとその時、ひょっこりと遠くに見える小さな影を見つける。


「会長アレ!」
「うん、出てきたようだね」


 けどその顔を見せたモブリは直ぐに逃走を始める。辺りは白い積み木が積み上がった様な空間で、まだまだこれからという感じがありありと出てる。扉が付いてる部分には入れる訳だけど、内装とかも出来てる所は無かった。
 多分彼等のアジトだけがまともな状態なんだろう。逃走するモブリを追いかける僕達。地の利を活かせる向こうの進路に迷いはない。ってことは……


「会長、誘われてるんじゃないんですか?」
「そうだね。結構複雑に入り組んでる中で、わざわざ私達に姿を晒して追いかけさせてるんだからそうなんでしょう」
「じゃあこのままだと一網打尽にされるってことじゃ?」
「でも、わかったこともある。彼等の隠し球は何処かに固定されてる。その場所でしか使えない代物って事だよ。このエリア全体で使えるのなら、わざわざ姿を見せるってリスクは侵さない」


 この状況で会長は冷静だ。確かにそうだけど……それなら追いかけない方が良いのでは無いだろうか?


「ううん逆だよ。ここは乗っておこうよ。彼等の策略に」


 会長はニヤリと笑う。ああ、これは何か思いついた顔だ。勝利の方程式が再び動き出す気がする。






 ちょっとした広さの空間に出た所でそれは発動された。地面に浮かぶ魔法陣が眩しい位に輝いて、自分の視界を奪って行く。だけどそこで別の音が聞こえて更に瓦礫とともに振ってくる何か。それらを巻き込んで魔法陣は内包してたエネルギーを爆散させた。
 体が消滅してく……そして気付いたらバトル前の場所に投げ出されてた。自分だけじゃない、さっきの爆発に巻き込まれたらしい敵のモブリ達も一緒だ。視界の中には勝利の文字が輝いてる。


「あっあれ? 負けてる? そんな!?」
「なんで? どうしてだよ!!」


 モブリの人達が一斉にこっちを睨んでくる。ちょっ、怖いんですけど。ダメージ受けないからって街中での暴力行為は犯罪行為に該当しますよ。LROでは素行での評価・評判は結構重要だ。名前の表示がそれで変わるからね。
 通常は白、犯罪行為や喧嘩をしていくとどんどんと色は黄色に寄って赤に変わる。逆に徳を積んでく人は白から青へとシフトして最終的には紫に変わるらしい。らしいってのは確定情報が無いからだ。
 赤の人は既に確認されてるらしいけど、紫は居ないらしい。居ないらしいけど、青寄りの人は居るんだろう。だからそんな噂が流れてる。まあ評判を上げるよりも落とす方が圧倒的に簡単な証拠だよね。
 今の時代、悪い噂なんかあっという間に広まっちゃうし……だからバトルに負けて苛ついてるからって短絡的な行動はオススメ出来ないな。


「皆さん、落ち着きましょう……ね?」
「コレが落ち着いてられるかああああ! 私達は私達のやりたいことがあったのよ!!」


 そう言って飛びかかってくるモブリ達に蹂躙される自分。髪引っ張られたり、頬を伸ばされたり、甘咬みされたり……一応戯れてる程度には抑えてくれてるらしい。でもついつい「いててててて!」って言っちゃうよね。
 それにそもそも五人くらいから一斉に攻められたら、幾らじゃれ合い程度の攻撃でも厄介なんだよ。無理に力を入れて、こっちが攻撃したことになっても面倒だしね。だから為すがままにされるしか……


「な〜んだ、もう仲良く成ったんだ。よかった」
「これが仲良くしてるように見えますか!?」


 扉の向こうから帰ってきた会長が的はずれな事を言うものだからついつい声を荒らげてしまった。するとすかさずルミルミが睨んでくるんだもん……マジこの人どうにかして欲しい。アレかな? 自分はモブリと相性が悪いのだろうか? 


「お前! お前がリーダーだろ!? どういうことなんだよ! どうしてこんな事に……」


 荒かった語気が段々と萎んでく。悔しさってのが出てきてるようだ。最初に戦ったチンピラの人達とは違う……ここ数日の対戦相手は誰も彼もここを楽しんでる様に思える。いや、最初の人達も楽しんでたんだと思うけど……そうだね……きっとそのベクトルが違ったんだろう。
 自分達の成長や目標に向けてたか……それとも自身の欲に身を任せてたかの違い。まあ今は結構あの人達も意識を変えてきてるっぽいけどね。どんな魔法を使ったのかは分からないけど、会長の事を「姉さん」呼ばわりしてるしね。多分何かあったんだろうとは思う。
 そんな関係ない事を考えてると殴りかかろうとしてたルミルミを制して会長がさっきの状況を説明する。


「私達は貴方達のトラップを逆手に取っただけですよ。問題は場所だったので、私達の前に姿を表した誘導係の彼を捕まえてトラップ場所と貴方達の居場所を吐かせました」


 その言葉で囮役だったモブリが顔を伏せる。まあ彼の失態が敗北の原因だからね。


「ちょっと待って、こっちはエリアの隅々まで把握してるのよ。初めてのエリアでどうやってアンタ達がこいつを捕まえられるのよ!」
「それはほら、最初に四方を確認した時にね」
「それだけで私達のエリアの全てを理解したとでも言う気!? ふざけるな!」
「そもそもアンタ達は二組位になってそれしてた。貴女がエリアの全てを知ることは不可能」


 おお、なんだか眠そうな顔した奴がビシッと会長を指差してそういって来た。確かにそうだね……自分達は二手に分かれてエリア探索をした。一人で居るのは危ないからね。だけど今回は複雑で、広さも少しは広く成ってたからまとまった行動では間に合わないと判断したんだ。
 それでも会長は両方の探索範囲をちゃんと詳細に知ってた。それには会長のスキルのおかげだ。


「種明かしするには仲間になってもらわないとダメかな? 拡張エリアだけで今回の報酬になるけど、仲間にならないかな?」
「仲間……それが私達にどんな特があるものなの?」
「う〜ん、そうだね。今回手に入れたエリア分の土地を与えましょう。拡張エリアは勝者である私達のエリア部分に付属するから、貴方達の初期エリアとは切り離されてしまうでしょう? 
 だからあ私達のエリアで今までの土地を分け与えるの」
「それって実質、私達は何も無くしてないんじゃない?」


 確かに。それって実質貰ってるよね? 敗者に勝者が身を切り売りしてるような物の様な気がする。いいのかなそれで。でも会長の事だ……何か考えがあるんだと思う。路地裏の少し開けた場所は人通りもなく、最初のエリアバトルとは違って祝福も称える拍手もない。
 けど本来こういうもの。最初のアレが普通ではない。まあ結果的にエリアバトルの結果は全プレイヤーに知らされちゃうんだけどね。


「そうですよ〜お得だよ〜。さあ君達もテア・レス・テレスに!」


 なんだか怪しく聞こえるのは自分だけだろうか? 悪徳業者っぽく見えますよ。まず良いことしか言ってないもんね。裏があるんじゃないかと普通は疑う。


「そ、それで本当に良いのか?」
「エリアが一つの色をしてないと行けない決まりなんてないし、それに大きくなるといろんな物が内包されるものじゃないかな? いろんな物や考えが混在してていいんだよ。でも勿論繋がりは求めるけどね。
 でもそんなのは一朝一夕に作れる物じゃないでしょ。だからただの仲間から友達になっていきましょう」
「そんなのでいいの?」
「そんなのとは失敬な。繋がりはどれだけ広大なエリアや、目が眩むような大金よりも輝く物だよ」


 ニコッと笑う会長の笑顔は眩しい。会長はエリアバトルの火付け役を買ってるようだけど、自身ではそこまでエリアに執着は無いようだ。寧ろ彼女が得たいのは今言った繋がりの様……確かに会長はリアルでもそういうのを大切にしてる。
 でも沢山の人と繋がるって事は相対的にいろんな問題も起こるからね。会長には悪いけど、自分は人は分かり合えない生き物だと思ってる。否定的な意味ではなくて、だからこそこの社会は成り立ってるし、そこに多様性という物があるんだ。
 分かり合えないからこそ、わかろうと気をつかうし、配慮もする。そんな個々のバランスで成り立つのが人間社会なんだ。嫌いだから距離を置いたってそれはそれでバランスだ。まあそう思って割り切って生きてた中学時代には自分……友達一人も居なかったけどね。
 誰もが距離を探るから、常に離れてる人は離れっぱなしだ。それこそ、そんなのを無理にこじ開ける無遠慮な人でも居ないとね。まあ会長は無遠慮とは違ったし、近づきたいと思ったのは自分からだった。
 会長の言う繋がりを自分も欲してたのかもしれない。


 会長の話しを聞いて、モブリ達は集まって会議を始める。その姿は可愛らしい物だ。うん、やっぱり普通にしとけばモブリは愛玩動物だね。そしてものの数分で意見は一致したようだ。


「それでいい。私達はそのテア・レス・テレスに入ってあげる」
「うん、よろしくね」


 そう言って手を差し出す互いのリーダー二人。けどその手が触れる前に街中に響き渡るサイレンの音。空を仰ぐと、普段は澄んで見える空に一枚膜がかかったような状態に成ってた。自分達は急いで大通りに出る。
 するとそこら中で慌ただしくやってる人々の姿があった。NPCは荷物を捨てて建物に入り、プレイヤー達は急いで同じ方向に走ってる。一体何が起こってるんだ?


「これは?」
「大変です姉さん!! どうやら街の外にプルートが発生したようです!!」


 慌ててそんな報告をしてくるのは最初のバトルで倒したチンピラ君達。どうやらかなり大変な事態のようだけど……


「ぷ、プルートって何ですか?」
「それも知らないなんて向上心足りないんじゃない」
「ほんと、プルートってのは突如発生する謎の空間の事なんだ。そこから大量のモンスターが湧き出す。けどそれを狩って内部に侵襲してそこのボスを倒せばそのエリア丸々と通常では手にできない貴重なアイテムが手に入る。
 でも完全にランダム発生だから狙うなんか事はできない。だからこう一度発生すると、そのエリアとアイテム目当てでプレイヤーが殺気立つ」
「まあ以前はエリアよりもアイテム目当てが多かったけどね。でも今はエリアを狙う者も居るだろうし、競争率は今まで一番かもね」


 あれ〜いつの間にモブリ同士仲良く成ってるんだ? ルミルミと今倒したところのリーダー、なんか気があってるじゃないか。自分的にはモブリが徒党を組むのは怖い。


「どうするのリーダーさん? それともカイチョウって呼んだほうが良い?」


 早速試すようにそう言うモブリ。でも会長の決断は早かった。


「どっちでもいいよ。プルートか……うん、行こう。まだ時間あるしね」


 その言葉に反対の人は居ない。自分以外は……いや、待ち合わせが。今日は塾前にでも能登君と会う予定だったんだけど……間に合うかな? でも皆盛り上がってる所でそんなの言えない。皆のやる気に合わせて自分も拳を突き上げる。


「行くぞーー!!」
「「「おおー!!」」」
「お〜」


 はぁ……あっ、またため息出ちゃった。



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