命改変プログラム

ファーストなサイコロ

余韻と旅立ち

 新しい朝が始まったような気がした。昨日よりも清々しく目が覚める。太陽の暖かさ……はこの時期にはないけど、冷える中でも窓を開けて外気に肌を晒したくなった。


「さぶっ!」


 外はやっぱり刺さるように寒い。でも悪くないと思える。空気とか、あんまり気にした事なかったけど、なんだか昇る朝日が今日は特別に見える。昨日あんな事があったからだろうか。あんな……


「ぷくくくく」


 思わず笑いがこみ上げて来る。あんな青春っぽいことが起こるだなんて。今思い出すと、恥ずかしい事一杯だったけど、今まで生きてきた中で、味わえなかった感覚が一杯だった。こうやって再び朝を迎えられて、良かったって思える。
 なんだか感慨深い物がある。だからだろうか、自分はアホみたいな事を口走った。


「おはよう新しい自分。そしてさよなら、昨日までの自分」


 するとその時、スマホが音を鳴らしてビックリ。誰かに今の聞かれたかと思った。流石にあんなの聞かれたら頭おかしいと思われるかもしれないからね。家族から温かい目を向けられるとかある意味辛いから。
 それよりもこんな朝早くから一体なんだ? 部屋ではそりゃあマナーモードじゃないけど、目覚ましは今日はやってなかったはずだし、そもそもいつも目覚める時間よりも随分早い。部屋に戻ってスマホを取ってみると、そこにはメールを告げるマークが光ってた。


「メール? こんな時間に? ––って先輩!?」


 一瞬心臓の鼓動が跳ね上がる。それからも比較的早く刻まれてる気がする。とりあえず内容確認だ。それはこんな内容だった。


【朝早くからごめんね。起きてるかな? 昨日はありがとう。また学校でね】


 質素で簡潔。でも返って好印象です。女子のメールってもっと派手派手しくて暗号めいた物を想像してたけど、先輩は普通の様だ。まあこっちに合わせてくれてるのかもしれないけど。


「ん? 画像もある?」


 一緒に添付されてる画像ファイルがあった。なんとはなしに開いて見ると、思わず僕は吹き出した。




「ぶはっ!? こ、これは!!」


 そこには天使の様な寝顔の会長のお姿が!! ヤバイ……今まで画面の向こうのアイドルや、雑誌のグラビアにキスに行くような奴等を小馬鹿にしてたけど、これは……自然に引き寄せられる!!
 反則だよこんなの。何これ? タイトルをみると【お礼ね☆】と題してあった。なるほど、ありがたい。とりあえずクラウドにバックアップを取った。良し、家宝にしよう。


「う〜ん、壁紙にしたいけど……これってある意味バレたらやばいよな」


 冷静に考えるとこんなお宝写真、他の誰かに見られたら絶対に不味い。寝顔とか、どういうこと!? ––ってなるだろうし、そもそもパジャマ……どこで撮ったって事に……そしてこの写真に群がる生徒達が見える。


「無難に画像フォルダの中で我慢しとこ」


 とりあえず壁紙は今まで通り、当り障りのない会長の凛々しいお姿のままにしておいた。これがあればさぞや自慢出来るだろうけど、目立つのは嫌だしな。


「そうだ、先輩に返信を返さないと」


 そう思って返信フォームに移って手が止まる。よく考えたら生徒会の仕事意外で女子にメールとか初めてだ。緊張してきた。


「いやいやいや、普通でいいんだ普通で。とりあえず写真のお礼言っとかないとな」


 でもそれってお礼に対してお礼になるな。いいのかそれ? ややこしいような……けど、お礼をいわないってのも、もやもやする。とりあえず、最初の一文は「おはようございます」から始めよう。


「え〜と、【おはようございます。写真ありがとうございます。家宝にします。また学校でお会いしましょう】––と、これでいいかな? ちょっと硬いか? も、もっと柔らかい感じの方がいいかな?」


 先輩、昨日は親に逆らってパーティーばっくれたし、もしかしたらこれから怒られるかもと心配してるかもしれない。気が重いかも……先輩は先輩だから、あんまりそういうの見せないし……でも護衛に運転手も居る家だ。厳格な親なのかも知れない。あんな親に逆ら様な事したら大目玉かも……けど家の事を直接聞くとかは出来ないから、せめてちょっとした言い回しでクスっとでもして貰えればとも思うけど、何も思いつかない。
 昨日の事、持ち出すのも嫌だしな……そうなると僕と先輩にはそこまで共通の話題なんてない。精々生徒会の事……でもリーフィアの約束の確認とかそれは違うと思うし、とりあえず会長との夜がどうだったのか聞こうかな?
 それなら先輩も楽しくなるだろう。会長と会長の家にお泊りとか羨まし過ぎるからね。てな訳で【会長の家はどうでした? 羨ましいです】って入れて送った。送信ボタン押すのにも震えたよ。送ってからはやっぱり普通に最初のでよかったんじゃないかと悶々するし……先輩がどんな反応してるか考えると不安だった。
 そんな事を考えてると、直ぐに返信が帰ってきた。早い、流石女子。てか帰ってきた事にちょっとホッとした。無視とかされる可能性も実は考えてたもんね。まあ先輩に限ってそれはないだろうけど、万が一があるからね。


【起きてたんだ。良かった。日鞠ちゃん家は良かったよ。お母さんも妹さんも可愛いし、何より日鞠ちゃんと一緒にお風呂とか入ったしね。パジャマも借りたよ。でもちょっと胸の所は苦しいかな?
 でも日鞠ちゃんの匂いに包まれてるから別の意味で苦しいよ】


 ……犯罪を犯してないか、ちょっと心配になった。いやわかるけど。自分がその立場なら(あり得ないけど)正気を保ってられる自信はないもん。てか妹とかいたんだ。会長の妹さん……
さぞかし優秀なんだろうな。
 勝手な想像を膨らませてると、再びメールが届いた。連続とは畳み掛けられた。とりあえず開いてみる。


【昨晩の幸せな時間、おすそ分けしてあげる。感謝してるしね】


 どうやら今度は出し惜しみしてた写真をまるごと送ってきてくれたようだ。開いてみるとそこには普段学校では中々見れないレアな会長のお姿が数々と写ってた。髪を降ろした会長。ラフな格好の会長。会長の家族との写真。会長のお部屋もチラチラと見える。それに会長のタオル姿に、髪を乾かす会長。会長の歯ブラシ……を持つ先輩? が鏡に写ってる写真に、多分脱衣所の所で、綺麗に畳まれた会長の衣服だけを撮ってる写真。
 そして続いて靴下を取り出したのか、それを並べた写真に、次の一枚はそれを履いた足が写ってました。え〜と、これは先輩の脚だよね? でも問題はこれが使用済みかそうじゃないか……だろう。
 綺麗に畳まれてた所を見ると着替えだったのかも……


(いや待てよ!!)


 その時、自分の灰色の脳細胞に電撃が走った。そして自分は急いで前の写真をスクロールして見回す。


(うん、やっぱりだ)


 先輩が会長の家族とかと写ってる写真は全部着替えてる。つまり会長の家に来て直ぐにお風呂に入ったって事だろう。まあドレスで家の中居られても困るしね。それに会長の服は畳まれてたのとは違う……つまり……(ゴクッ)……この写真のソックスは使用済み!! 


(犯罪だよ!!)


 だけどどうやら自分はまだ序の口だった様だ。これは入り口に過ぎなかった。先輩が会長のソック履いてる画像の後にはでかでかとおパンツが……これは使用済み? そう思うとなんかヤバイ。体の一部分がちょっと……まあ朝だしね。
 てかなんて物を送ってくるんだ。ありがたいけども! 


【先輩! このパンツ履いたんですか? 履いてないんですか!?】


 って思わず返信してしまった。すると今度はメールじゃなく電話が来た。自分は迷わずワンコールも待たずに出た。


『ちょっ……いや、あのね……あああああれは間違い……間違いだから! 今直ぐ消して!!』


 間違い。やっぱり選択ミスして一緒に送っちゃったって事か。てか先輩すっげー取り乱してる。まあ結構衝撃写真だしね。てかこの反応……履いたな。


「先輩……」
「ち、違うよ。綴君が思ってる様な事はしてないから。せいぜい、匂いを楽しんだだけだから!」
「先輩、そっちの方がなんか絵的に犯罪臭が強いんですけど!!」
『ええ!?』


 先輩プロっすね!! 下着を履いてる写真とかなら、まあ女子が女物の下着を履いてるだけに見えなくもないけどさ、荒い息を吐きながらパンツに顔を埋めてる様を想像するとそれは男女ともにヤバイかなって思う。電話の向こうで小さくなった先輩の声が聴こえる。


『こんな私に引いた?』


 くっ、何そのキュンキュン来る言葉は。そんな事をんな声で言われたら、男は「うん」とか「はい」とか返せる訳ないですよ。全くズルいな女の子って。


「別に……会長のパンツには興味ありますしね」
『綴君ってやっぱり案外大胆だよね』


 あ、あれ〜、逆になんだか引かれてる気が……確かに女の人にパンツに興味が有ります––というのは不味かったかも知れない。いや、一緒の立場になってあげようと……ね。


『ふふ、そんな綴君には特別に教えてあげよっかな。日鞠ちゃんのパンツの香り』
「ええ!? それはその自分なんかには恐れ多いのでは……」
『興味あるんでしょ?』
「それは……勿論そうですけど……」


 でもまさか、教えてもらえるだなんて……けどやっぱ倫理に反してないかな? 他人のパンツの匂いとか……会長に悪いし……一日中その事で頭いっぱいになりそうで怖いし……でも、頭に既にさっきのパンツの画像が焼き付いてる。
 これに……匂いが……


『日鞠ちゃんのパンティはね…………女の子の香りだったよ』
「わかりません」


 キッパリとそう言える自分が情けない。女の子の香りって何? それは普段ふとすれ違い様に残る鼻孔を擽る香りで良いんでしょうか? あれが女の子香りなんですか? そ、それとももっともっと生々しい……その汗の匂いとかであるものなのかな?
 で、でも会長なら汗まで美味しそうなイメージが……キラキラしてるし。それならやっぱり使用済みのパンツであってもいい匂いがしそうな。分からない……童貞の自分には到底分からないです。


『そっか、わからないか残念。でも私達の日鞠ちゃんは期待を裏切ってないとだけ言っておくよ』
「そ、それはつまり……」


 ゴクッと喉が鳴る。だよねだよね、会長は全てにパーフェクトだから、夢を壊す訳ないよね。まあでも会長のなら多分なんでも受け入れられるとも思うんだけど……ちょっと臭う会長ってのもそれはそれで悪くはね……ないかなと。


『じゃあそろそろ切るね。学校で。あ、それと学校でちゃんとチェックするからね。パンツとか靴下とかの写真は消しとくように』
「も、もちろんですとも。分かってます」
『よろしい。じゃあまた学校で』
「はい、それじゃあ学校で」


 ツーツーと虚しく響くスマホを耳から離す。息を一つ履いて自分はベッドに横たわった。そして再び送られてきた画像を眺める。


「…………排除か」


 何かが自分の中で激しくせめぎあってる。パンツや靴下……パンツに……靴下……そうしてるといつの間にか時間は過ぎてて、学校に遅れそうになった。






 授業の終了を告げる鐘の音が鳴り響く。ガヤガヤと席を立ち始めるクラスメイト達。自分も身支度を済ませて急ぎ足で教室を後にする––と、廊下に出た瞬間に大量の視線を感じた。いや、今だけじゃ実はない。
 今日は何かずっとこんな感じだった。周りから視線を常に感じるというか……何かひそひそ話もされてるような気がしてた。


(でも、そんな訳ないよね)


 自分はそんな自意識過剰じゃない。自分の分などちゃんとわきまえてるから。他人の話の話題に上がるような奴じゃないって自分が一番知ってるよ。だからきっとこれは気のせいだ。そう思ってると隣の教室から出てくる奴と目が合った。


「おう、もう帰りか?」
「いや、これから生徒会で」
「ああ、そういえば今日からとか日鞠が言ってたな。まあ頑張れ大将」


 そう言って彼、秋徒君は背中を向けて手を振る。サバサバした奴だ。昨日の事もやっぱり何も聞かないんだな。でもこっちはそれじゃあ収まりきかないよ。ちゃんとお礼は言うべき。気恥ずかしくて今日一日言い出せなかったんだけど、今なら……この流れなら自然と言える! 


「あ、あの、昨日はホントありがとう!」


 そう頭を下げた瞬間、ザワッと周囲の空気が変わった気がした。そして明らかにコソコソとした話しが大きくなってるような……


「おい」


 そう言われて顔を上げた自分の頬を掠めて彼の手のひらがドアを叩く。


「え?」


 大きな音が耳に響いた。なになになに? なんでそんな怒ってるの? 謝った筈なのに……どうしてなの!? 意味が分からない。 自分が混乱してオドオドしてると、秋徒君が顔を近づけて小声で言ってきた。


「お前天然か? せっかくこっちが触れないようしてたってのに……」
「え? なんで?」
「なんでって、今学校中でお前と雨乃森先輩の事が噂になってるからだよ」
「ええ––ガボ」


 思わず声を上げそうになったけど、素早く塞がれた。でも……ええ!? 噂? 自分と雨乃森先輩の? どちて〜?


「本当に分かってないのか? まあ日鞠が釘打ってたから、周囲が余計な詮索してくることはないだろうけど、内心では皆気になってるんだよ」


 そう言って彼は自分のスマホに送られて来たメールを見せてくれた。


【皆、雨乃森先輩と風砂君の事はそっとしておく様に。暖かく見守ってあげましょう】
「何これ?」
「だから日鞠の打った釘だ。皆色々と聞きたいけど、本人達にはコレで聞けないから、噂が飛び交ってる」


 つまりは……今日一日視線を常に感じてたのは気のせいじゃなかったと……そう言う事か。で、でもこれってさ、これで昨日の事を知ったって事にならないかな?


「これ、知らなかった人にもその話しが伝わるよね?」
「お前な……昨日どこでどんな事したか思い出せよ。駅前だぞ。この学校の生徒だって居ただろ」
「あっ……」


 そこまで言われてようやく気付いた。確かに学生はいっぱいいたんだ。そこにうちの生徒がいたっておかしくない。つまりはこれがあっても無くても、きっと今日には自分と雨乃森先輩の事は噂に成ってたって事か。
 そしてこのメールが……会長から釘が刺されてなかったら、自分と雨乃森先輩は針のむしろに成ってた筈なのか。自分が今日一日平和に過ごせたのは会長のおかげと……


「まあしばらく噂は飛び交うだろうけど、本人達には聞けないんだ。確定情報がないんじゃ噂は噂止まり。そのうち消えるさ。火に油を注ぎたくなかったら気を付けろよ」
「ど、どうも、すみません」


 なんか彼には色々と心配を掛けたみたいだ。気も使わせちゃったしな。多分自分に聞けない分、きっと彼に真相を迫る奴も居ただろう。いや……ホントいい人だ。そう思ってると離れる間際、ボソッと耳元で彼は囁いた。


「まあでも、結構お似合いとも思ったけどな」


 そんな言葉を残して彼は「じゃあな〜」と言って消えてった。な、何を言うんだ。お似合いとか、雨乃森先輩とは多分生きる世界違うよ。だってあの人運転手に護衛付きだぞ。一緒に見たじゃん。全然違う世界に生きてる。
 自分達の接点はこの学校だけだ。それにそもそも別の娘の為だったし……まあそれは言ってないから彼が知らなくても無理は無い。それにさ、今日は何度か雨乃森先輩見つけたけど、こっちに気付いても変わらなかった。普段通りのいつもどおり……喋ったりはできてないけど、昨日の事を思い出してドキドキしてるのは自分だけのようだったよ。
 秋徒君が消えて、一人になると急に周囲の視線が気になりだす。自分は急いで生徒会室に向かった。


 生徒会メンバーの反応は他の人達とあまり変わらなかった。聞きたいけど、聞けないみたいな……でも会長がLROへ行くメンバーが雨乃森先輩から自分になった事を告げると流石に理由を問いただす人達が居たよ。
 でもそこは会長と雨乃森先輩。噂の部分には触れずに上手く皆を納得させてた。でも、こっちに向けられる視線が一層強くなったような気が……いや、このくらいは別にいい。気にしなければいいんだ。


「じゃあ早速、それぞれリーフィアを取って」


 そう言われて各々メンバーがリーフィアを取る。自分は最後に余ったのを手にとった。ヒンヤリとして、思ってたよりもずっと軽いんだな––って思った。これにテクノロジーが詰まってるとは……技術の進歩は凄いな––と素直に感心したよ。
 会長は最初の手順を説明してくれる。そしてそれぞれの種族をくじ引きで更に決めた。どうやら五種族をそれぞれに分けた方が効率がいいらしい。合流手順も教えてもらって、自分達は各々、生徒会室に用意されてたちょっと豪華な椅子に腰掛ける。いつもの安っぽいパイプ椅子じゃなく、リクライニングチェアとか言うやつかな? 楽な姿勢が出来る奴だ。椅子に全身が包み込まれる様な感覚。電源を入れると目の前のゴーグル部分に光が走る。
 そして会長が号令を掛ける。


「じゃあ、一斉に行こうか。せ〜の!」
「「「ダイブ・オン!!」」」


 その瞬間、目の前が光に包まれて、自分の意識が何処かへと引っ張られてく。いや、何処か……なんか分かりきってる。行こう、仮想世界LROへ!



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