命改変プログラム

ファーストなサイコロ

今までで一番長い夜

 駅前はやっぱりまだ人が溢れてる。会社帰りの人とか、塾帰りの学生とか、何やらよく分からない路上パフォーマーやらと色々だ。タクシーも次々と来ては去っていき、バスを待つ人達が列を成してる。
 そんな人混みの中、停車した車から怖いグラサンの護衛と共に、雨乃森先輩が姿を現す。流石にドレス姿だけあって目立ってるな。白い肌に映える鮮やかな紫色した華やかなドレスだ。髪もいつもと違って片側だけクルクル縦ロールで、残りは後ろでまとめてある。そのまとめてる髪を止めてる髪留めというか、包んでアクセサリーが異様にキラキラしてるよ。
 化粧もしっかりしてるせいか、普段と違ってかなり大人びて見える。大学生と言われても信じるね。さっきは気づかなかったけど、いつもよりも華やかさが三割増しくらいある。でもそのせいで周囲からの注目が……ただでさえドレスで目立ってるのに、美女と来たら嫌でも注目されてしまう。


(えっと……今からあの人を自分が攫うの?)


 こんななんの特徴もない奴が? 誰もがきっと釣り合ってないと思うんだろうな。そう思うと既に恥ずかしい。すると肩に力強い手が置かれた。


「雨乃森先輩、お前の事待ってるぞ。早く行かないと、車に戻られたらアウトだ」
「わかってるよ……わかってるけど……この中で自分が飛び出すなんて……そんな……」


 体が震えてる。今度は分かる。これは寒さなんかじゃない。怖いんだ。自分は自分自身にだって期待したことない。そんな自分が背負えるものなんて殆ど無いんだ。だから怖くて、恥ずかしくて、息も乱れて、震えが止まらない。
 自分自身を思い出して、僕の中で脈打ってた筈の脈動は成りを潜めてしまった。もう……ダメだ。


「秋徒……君、君なら出来るし、きっと相応しい。自分なんかよりもずっと相応しいよ。だから君が……」
「何言ってんだ? 良く彼女を見ろよ」


そう言われて強引に雨乃森先輩へと顔を向けさせられる。やめて欲しい。いつもと違う先輩をあまり直視出来ないんだ。でも自分の力では彼を振りほどけない。視界に入る雨乃森先輩はとても綺麗だ。でも流石に顔を赤らめてちょっとモジモジしてる。


「あの人はお前を待ってるんだ。そしてあの人だってあんな格好で注目浴びて恥ずかしくないわけないだろ。それなのに、彼処に立ってるのはお前が来てくれるって信じてるからなんだよ。その役目は俺には出来ない。俺じゃダメなんだ」
「先輩……」


 実際そこまで期待されてるのか……自信はない。だって結構サバサバしてるよあの人。でもそうだね……今見えるあの人は、自分を信じて彼処にいるんだ。それは事実。これから失望されたり、やっぱりか––と思われたりするかもしれないけど、まだ先輩は彼処に居てくれてる。


「お嬢様、もう外の空気は充分吸われたでしょう? お戻りください」


 グラサンの人がそう言って後部の扉を開ける。不味い、このままじゃ先輩が車に戻ってしまう。もたもたやってる場合じゃない!!


「あっ……ああああああああああああああああああああ!!」
「よし、あのグラサンは俺が止める! お前は先輩だけを目指せ!!」


 ヤケクソで飛び出した自分を追い越して秋徒君が先行する。声を上げたせいで注目がきっと集まってるだろうな。本当ならもっと静かに行動するべきだった。でも、そんなの考えてる余裕なんて今の自分には無かったんだ。


「何だ貴様等!? お嬢様早く中へ!!」


 護衛の人のそんな声が聴こえる。周囲からも突然現れて突進してく、自分達に不信感を募らせてるが分かる声が聴こえる。でも突然の事にそんな直ぐ反応できる人達はそう居ない。大丈夫、秋徒君ならあの護衛の人にだって負けない体格をしてる。
 先輩は中に入らずに待っててくれてるし、少しの間護衛を足止めしてくれたらどうにかなる。まあ協力を煽ってて本気を見せられるか……と問われると微妙だけど、これが自分の精一杯ではある。そんな感じで既にどうにかなった––––そう思ってると、先行してた秋徒君が何故かこっちに向かって来てた。
 どういう事? そう思ってる間に自分達はぶつかってその場に倒れこむ。一体どうして同じ方向に向かって進んでた彼がこっち向きになってぶつかるんだ? 


「いつつつ……」
「貴方達、これは一体どういう事でしょう?」
「ひっ!?」


 自分は思わず腰が引ける。だってすっげええ怖いもん。グラサンの奥の瞳が怒ってるのが分かる……それに威圧感が半端ない。誰とも揉めないようにしてきた自分にとって、他人からの圧力というのはとても怖い。
 だけどそんな自分を尻目に、一緒に倒れてた秋徒君が立ち上がりながらこういった。


「どういう事? はっ、教えるか––よ!!」


 一瞬のアイコンタクトの後、彼は再び護衛に襲いかかる。あれは多分「次こそ上手くやるから、その隙に!」とかだろう。だけど……今の自分は腰が抜けて……


「ぬわっ!? ……がっはぁ!!」
「––っつ!!」


 その痛そうな光景に自分は思わず目を瞑る。秋徒君は一瞬で投げられて地面に叩き付けられてた。その様子に周囲の人達は「おおおお!」とか歓声上げてる。こっちの味方は零……当然だね。だって僕達傍から見てると悪者だし。通り魔的存在だよね。




「こいつは組の奴か? 君のその制服………確かお嬢様と同じ……こいつに脅されたのかどうか知らないが、これ以上抵抗するなら、ノシて警察に連れて行くことになるぞ」
「警察……」


 全身に変な汗が湧いて来る。だって警察ってヤバイよ。そこまでの事になるなんて……考えてなかった。これってこのままじゃ、リーフィアを得るどころか、停学……いや、最悪退学とかだって……そうなったら生徒会もやめさせられて……人生のお先も真っ暗。
 高校中退なんて、どんな理由があったって世間からいい目で見られるはずない。そしてこれで退学なら、そんな期待出来ようも筈ない。人生が詰む瞬間の音が聞こえる……それはグシャでもポイッでもなく、足元から瓦解していくような……そんな音。


(いや待てよ)


 ふと過ぎる最低の考え。自分を守る手段はある。さっきこの護衛の人は脅されたどうとか言ってた。つまりは自分には逃げ道がある。それは全ての罪を彼に着せる事。そうすれば自分だけは助かる。
 今この場だけでは……だけど。でもそれさえもやっちゃえよ––と自分の中の悪魔が言う。いや、違う。そう思ってるのは自分。これは自分の本心。そういう奴なんだ自分自身は。この場から逃げ出したくてたまらない。
 何も詳しい事を聞かずに危険な役を買ってくれた彼さえ裏切って……自分だけ助かろうとあまつさえ考える……それが『風砂 綴』という人間なんだ。自分自身を突き付けられて……何も出来ない。結局自分は……誰かの求める人になり得る奴なんかじゃ……


「つかまえ……たぜ。今だ、風砂」
「え?」


 投げられてたのを利用して、秋徒君は護衛の腕を掴んでる。確かにこれなら……今まで掴みにいってたけど、それさえもさしてもらえなかったんだ。でも向こうが掴んできたのならその部分を掴むのは簡単。まあ言うほど優しくないだろうけど。なんたってコンクリートにたたきつけられたんだから。
 そこまでやられても必死で彼は自分に協力してくれてる……ほんと格好良すぎるよ。腰も抜けて逃げたくて、あまつさえこんなに協力してくれてる君を売ろうとしてる自分とは大違いだ。自分はもうダメなんだよ。幾ら君が頑張って貰っても……僕なんかじゃ……何も出来ない。
 足が……動かないんだ。


「こいつ!」


 護衛の人が拳を握る。殴ってでも離させる気だ。止めたくても、自分はその握られた拳が怖い。けどその時、雨乃森先輩の声が届いた。


「やめて。もういい。何もされてないし、もういいわ。行きましょう」
「ですがお嬢様……」
「いいの、充分だから」


 あっ……目が合った瞬間、それは自分に言われてるのだと分かった。先輩も僕達を助けようとしてくれてる。結局ダメだったから、自分が犠牲に成ればそれでいいと––そう先輩は結論づけた。この中で……自分は本当に何もやってない。
 本気なんて物、これっぽっちも分かってなかった。先輩の優しい瞳を見ると、何かがトクンと脈打つ気がした。


「お嬢様の慈悲に感謝するんだな」


 そう言って開放される秋徒君。折角決まってたのに、服も髪もボロボロにさせてしまった。自分の為に……いや彼こそ誰かの為に……自分はそれが一ミリもできてないじゃないか。事件は終わったとみなされたのか、集まってたギャラリーが散っていく。
 そして素知らぬ顔をした横顔を見せて先輩は車に戻ろうとする。先輩のその顔が……そんな顔をさせてしまったのは他の誰でもない自分だと言う事実が……胸を苦しくする。


「何をやってるんだ!」


 人混みをかき分けて向かってくるのは、警察のコスプレをした警官風の人達。いや、あれは本物か。そういえば駅前には交番があるし……ヤバイ、これはマジで捕まる?


「おい、一端引くぞ」


 解放された秋徒君もそう言ってる。確かに捕まったら色々と面倒。けど……秋徒君や、雨乃森先輩……二人を見て自分を見ると嫌になるんだ。二人の姿に比べて、自分は余りにも汚れてない。秋徒君はパーティー用の衣装なのにこんなになって……先輩はそのドレスの中に心をグッと押し込めて……自己嫌悪が襲う。
 だからかな、どうなっても良いと自分はこの時思ってた。周りなんて見えてなかった。どうにかして先輩を……そのことだけを考えて、伏せた彼女の瞼を開けさせたくて、自分の口は後先なんか考えずに動いてた。


「行かないで……行かないでください先輩!!」
「え?」
「好きでもない奴の所になんか行かないください!!」


 空気が止まった気がした。ザワザワと騒がしく流れてた無関係な喧騒までも止まって、静かになった。聞こえるのは駅から聞こえる列車の発射音と、寒さを伝える木枯らしの音だけ。だけど不思議と気にならない。
 今の自分には先輩しか見えてない。その先輩は驚いてる驚いて彼女も止まってる。誰も動けない空間で、自分だけがその選択権を持ってる気がする。だからまだ言わないと……自分が先輩を攫うんだ。
 自分自身の右手を差し出して先輩を誘う。それが当然の自分の役目であるかのように。


「そんな顔させる奴の所なんかに行かせたくない。自分が先輩をどこへだって攫いますから」


 こんなしょぼい自分にはそんな資格はないし、先輩だってお気に召してなんてくれないだろう……けど、今だけは先輩に釣り合うようにに胸を張って背筋を伸ばす。震えを隠して……ヤバ、声はどうだっただろうか?
 震えてたかな? それじゃあ締まらな––


「うん! ––うん、うん!」


 ––突如視界が遮られた。ダイレクトに伝わってくる香りと暖かさ。それが先輩の物であると気づくのに数瞬かかった。手を取るどころか、先輩は飛びついて来てた。大胆すぎるよこの人。それに何この柔らかさ。一部分が特にムニュッと……これはまさか……その……


「お、お嬢様……」
「よし、行け風砂! 先輩を連れて逃げろ!!」


 ようやく護衛の人が動きを取り戻そうとするよりも早く、秋徒君が自分達と護衛の人の間にたった。これ以上、ボロボロにさせていいのだろうか? そう思ったけど、彼は背中を向けたまま、こう言うよ。


「ここは俺に任せろ。お前は先輩を守るんだよ!!」


 そう言って先に動き出す秋徒君。ホント、どれだけイケメンなんだよこいつ。二人共無事で居られたら友達になろうと決心した。自分は反対側に先輩の手を引いて走りだす。何故か物凄く盛り上がった周囲から声を掛けられてる気がしてた。
 そして秋徒君を残した後ろのほうから、警察とそして護衛の人の叫び、でもそれ以上に、大量の人達の揉みしだく様な声が多かった気がした。






「「はぁはぁはぁ……」」


 適当に走って走って、長い階段の中腹くらいで自分達はへたり込んでた。それなりに登ったからか駅が見える。大丈夫だろうか……とも思ったけど、流石にドレス姿の先輩をこれ以上無理矢理走らせる訳にも行かいないよな。ハイヒールだし、髪も乱れてしまってる。
 ドレスだからか、服の密着度が普段の制服よりもきつくて、その……呼吸をする度に胸が上下するのがスゲエと思える。首に白いモコモコしたの巻いてるけど、胸元は結構大胆に空いてるから、男子高校生には刺激が強い。


「ふふ、なんだか本当に駆け落ちしたみたいだね」


 ドレスなのも気にせずにこんな階段に腰掛けちゃった先輩は、走って蒸気した顔を向けてそう言った。赤くなった顔とか、荒い息が白く成ってムードを演出してる様な……そこで自分は気付いたよ。


(手……繋いだままだ)


 しかも結構強く。自分はちょっと力を緩めてみる。だっていつまでも手を握ってる意味もないし……とかおもったけど、何故か自分が緩めた分、先輩が強く握って来た。それはまるで、離さないで––とでも言ってるよう。


「先輩?」
「本気……見せられちゃったね」


 先輩は抱き寄せた膝の上に頭を置いてこっちを見てる。その目がなんというか……こう……とろけてる様に見えるのは気のせいかな? 赤くなってるのは、走ってきたからだとわかってるのに、妙な考えが頭を過ぎる。ドキドキしてくる自分。それは自分のなのか、それとも繋いだ手から伝わってるのか……同じように先輩もドキドキしてる? 先輩から目を離せない。今は誰も邪魔しに来ないと何故か分かるようで、再び自分達の空間に居るような感覚。


(これって、まさか……その……自分は……先輩の事……もしかして……)


 すると先輩はふと視線を外した。そしてこういった。


「私の負けみたい。綴くんの本気、伝わったよ。頑張ってね、その彼女の為に」
「あっ……えっと、はい」


 手はいつの間にか離れてて、先輩はいつもの先輩の雰囲気に戻ってた。そして自分も本来の目的を思い出してた。なんて事をやってるんだ自分。今、完全に先輩の事を好きだなんて勘違いして……何かとんでもない事を口走りそうになってた。
 そんなの先輩だって迷惑だろうに。これはあくまで、それぞれの目的を果たすための手段でしか無かったんだよ。勘違いするな自分。先輩はなんかヒールをモジモジさせてる。やっぱり未練が……とか思って一応確認取ってみる。


「本当に、いいんですか? 自分、殆ど何もやってないですけど」
「何もやってないとか……あんな大胆な事やっておいてよく言うね。いいよ。いいんだよ。しょうが無いよ。だって……」
「だって?」
「––や、約束だからね」


 なんだかちょっと慌てた様な雨乃森先輩。 約束……までしたかは分からないけど、これでLROに行ける。そう思ってるとスマホのバイブが鳴り出す。知らない番号……一応出てみるとそれは秋徒君からだった。


『おう、無事だったか?』
「そっちこそ、大丈夫なの? 警察に突出されたりは……」
『はは、大丈夫大丈夫。周りの人達も助けてくれたからな。今は電車だよ』
「周りの人達が? なんで?」


 だってかなり引いてたと言うか、こっちを悪者に見てたろ。確かになんだか最後は盛り上がってたけど……


『なんで? そりゃあ目の前であんな光景見せられたら、二人を応援したくなるだろ。良くやったよホント。まあ明日から大変だろうけど、頑張れよ』
「えっと、それってどういう……」
『明日になれば分かるだろ。じゃあな』
「あっ、えっと、ありがとう。ほんとにありがとう」
『おう、俺も楽しかったよ』


 ホント、なんてお礼を言えば……いや、お礼言うだけじゃ全然足りないな。こうやって上手く言ったのは彼が居たおかげ。自分一人じゃ何も出来なかったよ。とりあえず、この番号を登録しておこう。
 生徒会と家族しかグループないけど、わざわざ友達を作って、一足先にそこにグループ分けだ。


「嬉しそうだね」
「あっ、えっと手伝ってくれた……ほら、秋徒って奴で」
「知ってる、日鞠ちゃんの友達でしょ」
「アイツ……事情なんて聞かずに、それに用事もあったのに協力してくれて……どうしてアイツがモテるのかわかった気がします」
「あの子達はほんとそうだよね。多分日鞠ちゃんとスオウくんに影響されてなんだろうけど、皆誰かの為に自分を犠牲に出来る子達」
「凄いですね。素直にそう思います」


 一人を除いてね。確かに奴の評判も聞くには聞くけど、ちょっと半信半疑だから。でも秋徒君はいや、最高の奴だった。


「綴君も凄いやつになれるかもよ」
「そんな……自分なんかじゃ無理ですよ」
「そんな事ないと思うけど。ねえスマホ貸して、自分のは車に置いてきちゃったから」
「どうするんですか?」
「友達に連絡。流石に女の子が夜徘徊するわけにも行かないし、綴君家って訳にも行かないでしょ?」
「そう……ですね」


 ちょっと残念な気はするけど、でもこれ以上雨乃森先輩といたら、何か間違いを犯しそう。いやそんな度胸ないんだけど……けど、なんだか今夜の先輩はちょっとか弱い所も見せてくれるから……って何を言ってるんだろう自分。


「はい、直ぐに来てくれるって」
「そうですか。場所良く伝えられましたね」


 てきとうに走ってきた筈なんだけど。


「土地勘が凄くある子だから」
「そう……なんですか……」


 なんだか急に会話が途切れた。そしてこれは今までのやつとは違って、気まずいタイプの沈黙だ。なんだろう、思い出すと死にたくなるような事言ってた気がする。いやいや、あんまり考え過ぎない方がいいな。先輩もなんか指をモジモジしてる。
 何か……何か話題はないのか? そう思って考えを巡らせてるとふと気付いた。この場所、覚えがある。そして自分は階段の上を見る。


「先輩、登りませんか?」
「ええ、疲れた」
「きっと良い物見れますよ」


 そう言って自分は立ち上がる。すると先輩はその手をこっちに差し出してくる。引っ張って……って事か? あ、アレだよね? 疲れてるからであって他意はないよね? 僕はその手をもう一度取って先輩を立たせる。
 そして二人で手を取ったまま階段をあがる。


(な……なんだろう、さっきも手を繋いでた筈なのに……すっごいドキドキする)


 前は走るのに夢中で意識してなかったからだろうか。早く、頂上来い……と思う自分と、もうちょっとこうしていたいと思う自分が居る。でも案外早く階段は終わった。そこは小さな出っ張りが公園に成ってて、端っこに行けば街を一望できる眺めがある。


「それなりには綺麗だね」
「そんな感想なんですか?」
「だってやっぱり凄い所を知ってるとね。でも、二人で観る夜景は初めてだよ」


 その言葉に鼓動が一回大きく跳ねた。そしてそっと自分に寄り添ってくれる。


(ええええええええええええ!?)


 どうしていいか分からない。自分の体は岩の様に硬くなった気分。気が利いた奴なら、いくらでもアプローチできるのかも知れないけど……自分には無理。でも、繋がった手から先輩の鼓動も伝わってる様な気がして、一緒なのかもとちょっと安心する。
 一回大きく息を吐いて緊張を解く。そして口を開いた。


「自分は子供の時から何回も観てますけど……今日が一番綺麗に見えます」
「そっか。それじゃあ私はラッキーだね」


 それ移行は会話はなかった。だけど別に気まずくはなかった。なんだか通じ合えてる……様なきがしたから。握ってる手から安心が伝わってきて、こっちも落ちつけてた。だから、タイミングよく、スマホが再びなりだすまで、自分達のその幸せな時間は続いたよ。
 ちなみに迎えに来たのは会長でした。タイミング良かったのは、もしかしてそれまで待っててくれたのだろうか? と思ったらちょっと申し訳なく成ったけど、会長は今来た風を装ってたから、自分もそれに合わせた。
 なにせ恥ずかしいですし!! だけどこうして、僕の長い夜は終わりを告げた。



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