命改変プログラム

ファーストなサイコロ

どこかで始まってる

 夜もふけりつつある中、自分と彼はすぐ近くのファミレスに……と思ったけど、駅前には塾とか集中してるせいか、同じ年代の学生が多かった。多分終わる時間とかも重なってるのかな? 早く帰れば良い物をこんな所でたむろって……基本的に寄り道はどこの学校も禁止の筈だろうに。
 まあこれは完全に八つ当たりだけどね。だって基本こういう所に集まってくるのってリア充と呼ばれる人種だろう。友達が居るから、こういう所で話そうとかなるわけだから。自分なんてほぼ塾が終わったら真っ直ぐ帰るだけだもん。
 違う世界を垣間見た気分。いや、生徒会に入ってからは、こういう場所も利用して来たから少しは耐性がついてると思ってたけど、どうやらそれは過大評価だったようだ。実際席は空いてた。でも自分達の様なボッチ属性の二人であの中に飛び込んで会話とか無理そうだったんだ。 
 だから回れ右して次に向かったのはファーストフード店。でも––


「ありがとうございました〜」


 ––と響く店員さんの声。そしてそれぞれに抱える店名のロゴ入りの紙袋……テイクアウトが精一杯でした。どこもかしこもワラワラと人が居るものだから……中でなんか食えない。


「と……取り敢えず近くの公園にでも……」
「そう……ですね」


 自分達は再びそれきりの会話で歩き出す。彼もちょっと凹んでる様な……いや、周りのリア充どもに聞こえない様に舌打ちしてるのを見ると、呪いでも振りまいてるのかもしれない。自分の様に卑屈になるとはちょっとタイプが違う?
 でも少しでも目が合いそうになると、途端に萎み込むのはどことなく一緒だ。


 公園につくと彼はブランコの脇に紙袋を置いてブランコに座る。まあベンチとか無く、遊具も少ない、本当に余ったから公園にしました的な場所だから座る所はブランコくらいしかない。でももう片方に座ると言う選択を自分はしなかった。
 だって男が揃って公園のブランコに座ってるとかなんか悲しいじゃないか。だから自分はブランコの仕切り? みたいに設置してある柵に体を預ける。ガサゴソと音を立てて買ったばかりのハンバーガーに口をつけてる彼。
 自分も買ったハンバーガーを食べてコーヒーをすする。学校でも外でも極力お金は使わないようにしてるけど、どっちも百円だし、許容範囲だろう。ブランコに座った彼は季節限定のハンバーガーにポテトとドリンクのセットと言う豪華な物を頼んでたけど、自分にはこれで充分。


 取り敢えず自分が食い終わり、彼がポテトをポリポリと頬張る中、切り出す。メインのハンバーガーはどちらも食い終わったらいいかなと……


「ええっと、そろそろ良いかな?」
「いいけど……一つだけ聞かせてよ。好きなの? 彼女の事?」
「すっ!? ええ!!」


 不意打ちにも程がある。握手しに言ったら突然銃を心臓に当てられてるかの様な不意打ちだよ。自分は慌てまくって言葉にならない声しか出なくなってしまう。


「ああ、やっぱりそうなんだ」
「ななななななななにを……べべべべ別にそんなんじゃないから!」


 必死に否定の言葉を紡ぎだす。だけど必死であればあるほど、逆に見えるんだよね。わかってはいるけど、人生の経験値が低い自分にはこれ以上の対応策が取れない。でもまてよ……ふと思ったけど、ただの知り合い程度の関係ならこんな事聞いて来ないんでは? 
 同じ学校に通ってるようだし……そして同じ塾……接点無さそうで実は色々と彼女の事に付いて知ってる……これってまさか……


「そ、そんな事言って、それは君の方なんじゃないのかな?」


 言ったーー! 言ってやってしまった。今まで人生で恋話と言う物をしたこと無い自分がまさに恋話に殴りこみを掛けてしまった! だけどあれ? 全然反応がない。てか前髪で目が隠れてるから反応が窺い知れない。そう思ってると、僅かに「ふふふ……ふふ」と不気味な笑いが聞こえてた。


「それはないよ。 いや、ほんと全く。アイツに興味ないし」
「アイツ!?」


 なにその親しげな呼び方。自分の中ではますます怪しさ度アップだよ。自分の疑いのオーラを感じ取ったのか、彼は続いてこういった。


「幼馴染なんだよ。家が隣でさ」
「幼馴染ぃ?」
「なっなに!?」


 初めて彼が大きくリアクション取った。足を動かしてブランコ事後ろに下がる。しまった、思わずドス黒い物が出てしまってたようだ。


「いや、ゴメン。ちょっと幼馴染って単語に良い印象が無くてさ」


 ホント、どっかの誰かさんのせいで幼馴染と聞くと憎悪の念が沸き立つようになってしまった。


「幼馴染に良い印象ないってどういう……」
「いやあ、自分の憧れてる人にも幼馴染が居てね。でもその幼馴染がムカツク奴なんだ。なのにその人はやっぱり誰よりもその幼馴染が大切っぽくて……」
「案外気が多いんだね君」
「なっなんでそうなる!?」
「だってその憧れてる人って女だろ?」


 何故に女と分かったのか。でも違うから。これは全然そういうのじゃない。


「いやいや、まあ女性だけどさ、憧れなんだよね。純粋に。本当に凄い人だもん。もう何が凄いって語り尽くせない位に凄いんだ」
「良くわからん」
「会えば分かるよ。一目見れば感じれる。そういう人だから」
「ふ〜ん、まっ今はその人の事はいいんだよ。好きなんだよね?」
「いや、だからまだそんなんじゃないって」
「まだ……」


 墓穴を掘った。でも今のは言葉の綾というもので……とか言い訳しても意味ないか。そもそも論点がズレてると言うね……


「それって関係ある事なのかな? どうでもいい事じゃないかい?」


 ちょっと強気にそう言ってみる。すると彼は案外あっさりと引いてくれた。


「確かに関係ないね。ただの興味本位だし。でもアイツ優しいから、君みたいな奴が良く勘違いするんだよね。ちょっと優しくされたら直ぐにコロッと落ちそうな奴がまさにそうなると言うか……」
「コロッと落ちそうな奴で悪かったな。まあ自分は落ちてないけど」


 声が震えてたけど、気にしない。自分には当てはまってないし。


「だから無駄に気にしても意味ないよってね。アイツ美形が好きっぽいし」
「それってジャニーズ系って事?」
「まあ、そうだね」


 確かに自分も彼も美形ではないよね。でもああいうのは誰しもが好きなものだろう。男だって美人を嫌いな奴は居ないだろ。でも付き合うとかどうかはまた別問題というか……そんなの考えても居ませんけど。


「何? 追っかけでもしてるから。学校とか休んでるとか?」
「そんなアホな理由ではないかな。流石にそこまでアホじゃないし」
「あれ? でもさっき詳しい理由は知らないとか、塾で言ってたような。なんであの子達には理由を教えて上げなかったんですかね?」


 今までの口ぶりからして理由までを彼は知ってるだろう。それなら、彼女達に教えても良かったはず。それをしなかった理由とはなんだろうか?


「女って口軽いじゃん。それに友達だからって信用なんて出来ない」
「そうなのかな?」
「そうなんだよ。狡猾で獰猛なのが奴等の本性なんだ」


 いやいやいや流石に偏見に満ちすぎじゃないですかねそれ? 確かにそういう人も居るだろうけど、全てがそうなわけない。彼の口ぶりでは全ての女性がそうだと言ってる様に聞こえるぞ。


「程度の違いはあれ、そうなんだ。僕は知ってる。君はまだ女性に夢を持ってるんだね」


 何その自分が一歩先を歩んでます的なセリフは。確かにいままでは女性に縁なんてなかった。でも生徒会に入ってからは色々と接点がある女性だっているんだ。ただ遠くから眺めてた奴じゃもうない。ちゃんと触れ合ってそして良い人も居るってわかってる。
 その最上位が会長だよ。


「君さ、家族に姉や妹は居る?」
「いいえ、兄だけ」
「なら、知らないのも無理ないよ。女の本質は心を許してる相手でないと見れないんだ」


 なんだろうか、その言葉には重みがある気がする。すするコーヒーも次第に冷たくなっていってるし、時折強く吹く木枯らしはその度に体の体温を奪うかの様に寒い。流石に外で話しを長々と続けられる季節ではないな。
 最近は毎年そうだけど、暑さの後には直ぐに寒さがやってきてる様に思う。秋は一体どこにいったのか。まあ自然は人間なんかがどうにか出来るものでもないし、文句言ったってどうしようもない。
 そういつまでもここで彼と世間話というか無駄な話なんて意味ないんだ。本筋に戻さないと。自分は温くなったコーヒーを一気にすすり、紙袋に詰め込んだ。


「他の女性の事はいいんだ。勿体ぶらずに彼女を事を聞かせてくれ」
「一応君が信用できる奴か見極めてたんだけど……まあいいや。君友達居無さそうだし」


 余計なお世話だ。そっちも友達居無さそうな癖して言われたくない。


「家が隣なのはさっき言ったけど、部屋も向かいでさ。様子は結構分かるんだ」


 なんだ? 自慢か? それともストーカー宣言か。でも現実でそんなシチュエーションがあるとは。あれって漫画だけの話じゃないのか。じゃあもしかして着替えとかも見えるんじゃ……


「言っとくけど、別に日常的に覗いたりはしてないから。カーテンは閉まってるし」
「ああ……」


 なんかホッとしたけど、それはどうなんだ。


「カーテン閉まってるのに様子は分かるの?」
「そこはほら、長年の付き合いでさ。それにカーテンあっても電気つけたりとかで影とかは見えるし」


 なるほど……シルエットで楽しむという上級者なのか。それで目は必要なくなったからわざわざ前髪を伸ばして目を隠してると……全ては合点がいった。間違いない推理。コナン君並かも知れない。そんな風に一人で納得してると、何か感じ取ったのか彼はこういった。


「言っとくけど、兄妹みたいな物だし、変な想像なんかアイツではしないからな」
「そんな事言う奴が一番怪しい。幼馴染とか幼馴染とか幼馴染とか、良くそう言うけどフィクションの世界じゃ鉄板ルートじゃないか」


 ホントそんな事言いながら意識しあってる幼馴染は止めろよ。まあだからって傍目にももう夫婦かって程に見せつけられるのも嫌なんだけどね。でも彼と彼女は確かにただの幼馴染でそれ以上でもそれ以下でもないのかもしれないけど。
 塾でも喋ってる所見たことないし……でもそれならあの友達の娘達はどうやってこの彼が彼女の友達だと? 制服だけじゃ話しかけるには情報不足だよね。同じ学校だからって必ず知り合いって訳じゃない。
 ああそっか、彼女の方から聞いてたとかか。それならあり得る。それが一番だと思っとこう。


「フィクションの話されてもな……でも丁度いいかも。今アイツはそのフィクション……みたいな世界に行っちゃってる訳だし」
「え?」


 その時一際冷たい木枯らしが吹いた気がした。ガサガサと音を立てて地面を転がる落ち葉達の音が不安を掻き立てるような……


「LROってしってるか? いや知ってるよな。それがどうやら帰ってきたらしくてさ。再び始める人は他言しちゃいけないような規約があるようだけど、始める前に見せてくれて……それから休みがちになってたったんだ。やっぱあのゲームヤバイだろ」


 LRO……一瞬そんな気がした。そしてなんてタイムリーな。今日聞いたばかりだよ。しかも自分達もそれに参加しようとしてる。まあ自分は結局ジャンケンで負けたんだけどね。でも今の話しを聞いたら、どうして負けたんだろうって思い始めてくる。
 いつもの自分ならやっぱりってなる。そんな自分に諦めもつくって物だ。自分の人生はそんな感じで進んでくと理解してる。でも……なんだか悔しい。


「でも、リーフィアが帰ってきたって事は前からLROやってた筈だよね? 前もそうだったの?」
「いや、前は程々にやってた。それになんだか雲域怪しくなった所で離れてたみたいだし……」
「それなのに、帰ってきたリーフィアで再びゲームを始める……かな?」


 そこまでLROに嵌ってなくて、危険を感じたからいったん遠ざかったのに、危険を解消できたとは思えないゲームを再びプレイするだろうか? 普通は警戒するよな。何か噛み合わない物がある。


「なんでも生徒会でなにやらって言ってたような……」
「え?」


 何それ。まさに今日我が校でも同じような事を会長がいったぞ。何? 政府は学生を使って何か始めようとしてるのか? 会長も技術の発展とか、安全性の確認とか言ってたけど、でもそれって学生を使ってやるようなものじゃないよね。
 しかも会長は時間も厳格に定めてた。学校活動の一環だからと。彼女のそれは明らかにそれを超えてしまってる。


「親とかは……その心配してないのかな? それに生徒会でやってるのなら、同じ生徒会の仲間だって心配してるだろうし。止めないのおかしくない?」
「そこら辺がよく分からない。なんだかそんな気配がないんだよ。学校に行ってないのも別にお咎めないようだし……何かあるぞこれ」
「そう……かもですね」


 確かにおかしい事がいっぱいだ。そんな学校にも行かずに許されるってどんな特殊な事情だよ。それに親だってそれで文句を言わないって事は、安心できる理由があるってことに……それかなにかもっと別な裏金的な黒いものが動いてるとか。
 でも会長はそんな……でも会長も全てを話してくれるって訳じゃない。実は一番危ない時にLROに入ってたとか聞いた時は奴に殺意が湧いたくらいだ。ホント、奴の事になると会長は歯止め聞かないから。まてよ……もしかして今度も奴の為? その可能性も無きにしもあらずのような……


「まあでも自分には何も出来ないし、やる気もないんだけどさ」
「幼馴染……なのに?」
「幼馴染の全部が仲良しこよしって訳じゃない。家が隣だからまだ関係は続いてるけど、これが大学とかになるともう会うこともそれこそ一年に数回とかになるかもだろ。そうやって行くのが多分普通の幼馴染なんだよ。
 どれだけ幼馴染に夢持ってるのか知らないけど、そんなものだから」


 幼馴染は語ると言うやつか。確かに会長と奴の繋がりの方が特殊なのかもしれない。そもそもどっちも存在自体が特殊だもんな。会長は云わずもがなだけど、あんまり目立たない奴だって充分に特殊だ。それを示したのがLRO事件だろう。あんな事が自分の身に起こったらどうするか……考えるまでもない。自分の事は自分が一番よくわかってる。
 彼も飲み干したのか、紙袋にゴミを突っ込んでる。そして自販機の傍にあるゴミ箱にそれを投げた。だけど入らない。それを彼は気にした風はない。


「ゴミ……」
「まあいいんじゃない別に?」


 そんな事を言う彼にちょっとムッとするよ。でも普通はこんなもの。それに一度言えただけで進歩した。今までは素通りしか出来なかったし……とりあえず自分のゴミもあるから、一緒に捨てる事に。近くまで行ってゴミを捨てると、後ろから彼の言葉が掛かる。


「真面目なんだな。別に放っとけば誰かがやるだろうに」
「見ず知らずの誰か––それは誰でもない自分だって家の会長が言ってたから。それに自分も生徒会だし」
「へえ〜アンタ生徒会なんだ。そっちの学校ではどうなんだ?」
「丁度今日、リーフィアを見たよ」
「それはそれは……ははっ、なんだか偶然じゃない気がするな。おあつらえ向きじゃん。向こうでアイツに会えるんじゃないか?」
「それは無理。だって、自分はそのメンバーに入れなかった」


 僕は拳を強く握る。それは悔しい事だろうか。


「理由を話して誰かに譲ってもらえばいいじゃん」
「理由って……別に事件でもなんでもないようだし、わざわざ譲ってもらう理由なんて……」
「好き……ではなくても気になってるんだろ? お勧めはしないけど、協力くらいはするぞ」
「なんでそんな……別に興味ないって言ってたくせに」
「アイツの事には興味ないよ。でも、裏側って覗きたくなるじゃん。再稼働を始めたLROの裏側を暴きたいみたいな。そっちは中から、こっちは外からさ」
「自分だって気になってる程度でそこまで……」


 そこまでやる気は……


「じゃあ、このままいつかまあアイツが戻ってきたとして、塾でいつか声かけれるのか? きっと何も起きないぞ。それに実際、やり過ぎな面はある。どこかで誰かが止めるべきだろ。そしてそれは俺じゃない」
「それが自分だって言いたいのか?」


 自販機の中の電灯が消耗してるのか点滅を繰り返す。二台並んでるうちの一台だから明るい事に変わりはないけど、片側が崩れ落ちそうな……変な不安が感じれる。


「別にそうじゃないけど、誰かがどうにかするかな〜て思ってた。でもさ、君の中ではその‘誰か’は自分なんだろ? 諦めなければやれるんじゃないのか?」


 前髪に隠れた目が点滅を繰り返す光を受けて光ったような……そんな気がした。そして体の中からドクドクと何か沸き立つような……でもなんだかこの沸き立つものをどうしていいかは分からなしい、ここで爆発させるのも違うと思う。


「そう……かもね。そろそろ帰るよ。ごめん、ありがとう」
「ああ。また……」


 そう言って僕達は別れた。それぞれ家の方向が違うのか、それとも意識的に別れる様なルートを選択したのかは分からない。けど……姿が見えなくなった所で僕はずっと握ってたスマホを取り出す。


「はぁはぁ……」


 息が荒い。体もなんだか熱い。沸き立つ何かが確かにある。確かに今自分は、その誰かになれるのかも知れない。生徒会に入って少しは変わった気がする。でも、もっと変わりたい自分が居る。電話帳に登録されてる名前は多くはない。
 クラスの数人と、生徒会と家族だけ。その中で生徒会の中で一番話しを……思いを汲んでくれそうな人を選ぶ。そして震える指で、初めて女の人に自分から電話を掛ける。
 選んだその人は雨乃森先輩……その人だ。



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