命改変プログラム
なんでもない日常
第二章『世界に愛された娘』
いつも何かをする人が、何もしなくなると、途端に日常の色を失う事がある。そうなると自分の日常とは何なのか考えだしたりする。なんとも思ってなかった物が実はとても重要で、急にもう戻って来ないかもと思える現実に、目眩がしだす。自分の世界の色を誰かが付けてたなんて思いたくもないけど、その事実に気付かされたんだ。
いやちょっと違うか。誰かが付けた色に染まってる自分を自分自身は知ってたはずだ。それが心地いいとさえ思ってた。けどそれは、遥か高みからの威光であって、それが許されるのは自分の中ではただ一人の人物だった筈なんだ。
え〜とつまり、何を言いたいのかと言うと……
––––ちょっと塾で知り合った程度の他校の女子生徒に自分の日常の色が影響されてたなんて思いたくない!!
……ということだ。
「はぁ〜」
大きなため息が漏れる。木枯らしが吹く季節となった今では、学ランだけじゃ朝は冷える。けど女子なんてスカートだからな。男の自分が寒いなんて言えない。目の前を通ってく生徒達はコートにマフラーと防寒してるけど、早朝の校門前挨拶強化週間で立ってる自分達生徒会にそんなものはない。
いや、カイロ位は仕込んでるけど、どんどん冷え込んでいくこの季節には焼け石に水だ。紅葉と洒落込んでた植物たちも今や冬の北風に身包み剥がされて素っ裸状態。見てるこっちが肌寒くなる。
「おはよーございます」の声が繰り返される中、登校してく生徒達の顔をふと見ると、こいつらほんとに学校に登校してるのか? と思う感じに楽しそうである。
そもそもこんなに途切れない挨拶が他の学校で見受けられようか? いや、無いと断言できる。誰だって朝は辛いし、寒くなってくるに連れて布団から出たくなくなる。学校なんてそもそも進んで行きたい場所じゃない。大概はそうだろう。
かくいうこの学校だって半年前くらいまではありきたりなそんな学校だった。楽しみなんてそんな無い、勉強とかダルいだけ……みたいな。でも将来とかの為に、通うしか無い。友達とかと毎日会えるとかは良いんだけど……それだけ。部活とかに打ち込んでる人達は違うのかもしれないけどな。
でも大概は惰性で学校って通うものだろう。学校ってこんな物……誰もがそう思ってて、どこか諦めの様な物があったと思う。無難に通って無難に卒業できれば……そんな物だった。だけどそれは今や変わったんだ。
生徒達は見るからに学校を楽しみにして、自分達もどうやったら学校生活が楽しくなるか身を粉にして働いてる。それは辛いものじゃなく、日々がこんなにも充実してると自然と体が動くものなんだ。
だから日々普通の生徒よりも早く起きて寒空の下に立ってたって、それは苦じゃない。そう苦じゃないんだ。
「はぁ〜」
「どうしたの綴君? さっきからため息ばっかりだよ」
「雨乃森先輩……いえ、別になんでも。元気ですよ自分は」
「そうは見えないから聞いてるんだけどな〜」
イタズラな笑みを見せて覗きこんでくる先輩。ちょっ……そんな風にされたら一男子としてドキドキしちゃうんですけど! まあこの人の場合はそれも狙ってそうだけど。悪い人では無いのは確かなんだけど、色々とあざといんだよね。
てか男子の扱いに慣れてると言うか……上手く使う術を知ってると言うか……でも女子の人気も結構あるわけで、なんか生き方が上手いんだろうなって思う。確かにこうやってよく気付くし、誰にだって屈託なく話しかけてくれるし、見目麗しいしで男女共に人気なのも頷ける先輩だ。
自分は会長に拾ってもらわなかったらきっと今でも教室の片隅でネリケシとか作ってたんだろうなって思うと泣けてくる。まさかこんな凄い人達と過ごす時間が長くなる様な人種じゃないんだ。ホント会長には––
「ああ、日鞠ちゃんが居ないからでしょ? うんうん、それじゃあしょうが無いね」
「ちょっ!? 何勝手に納得してるんですか!! そんなんじゃないですよ!」
うう、登校中の生徒の視線が集まって自分は俯いた。視線が集まっても笑顔で挨拶を返す雨乃森先輩は流石だな。臆するということが無いのかこの人は。てかこの学校は女子が強いよな。まあ会長がアレだからってのが絶対に影響あると思うけど。
てか確かに会長居ないな。自分の世界の色を塗り替えた張本人。いつもなら誰よりも早く来てる筈なんだけど……
「で、会長はどこに?」
「あは、やっぱり気になるんだね。日鞠ちゃんは今度の区の学校間交流会の打ち合わせじゃなかったかな? それとも青少年健全育成委員会との会合だったかしら? いやいや、商店街のクリスマスイベントの打ち合わせ? 多分どれかかそれ意外だったと思う!」
「一つも確定してないんですけど……」
案外適当でもあるんだよなこの人。てかそのどれも、こんな朝早くからはやってないと思う。だからきっともっと個人的な––––はっ!
「そういえば奴は!? 奴も来てないんじゃないですか?」
「奴? ああ、スオウ君ね。そういえば彼も居ないね」
「やっぱり! アイツがきっと会長を困らせてるんですよ! あの下っ端!」
沸々と怒りが沸いてくる。そもそも一番早くに来とかないと行かない立場の癖に、何かとサボる事が多いんだよな。会長が作り上げたこの意識の高い生徒会の足並みを乱すのはいつだってアイツだ。
本当の敵は内側に居るとか言うけど、それは当たってると思う。奴こそがこの生徒会の……いや、学校の不協和音!! 何かと騒ぎ起こすし、会長に協力的でもない。幼馴染ってだけで会長の傍に居る蝿。それがあのスオウって奴だ。
てか普通は一番影響されてておかしくない立場の筈なのに奴には一切それが見えない。この学校は会長のお陰で変わって、生徒も教師も色々と変わった。それなのに……一番長く一緒に居る奴がアレとはどういうことなんだ?
自分は理解できない。会長の様な幼馴染がいれば自分だってもっと社交的に成れてたのかも知れない。どうしてその場所にアイツなんかが居るのか……それが許せない人達はこの学校にいっぱいだ。
「そういえば雨乃森先輩は奴の事、良く擁護しますよね? 何故ですか? まさか恋愛感情がある……とか?」
「ふふ、それはないよ。だって私女の子が好きだもん」
「ああ、な〜んだ。そうですかぁ〜」
あれ? 安心していい所なのかこれ? かなりの爆弾発言聞いたような気が。雨乃森先輩はかなり男子にも人気であって、思いを寄せる人達はきっと何十人も……ご愁傷様と思っておこう。
「じゃあ、なんで何ですか?」
「あれ? スルーなんだ? まあいいけど。う〜んそうだね。ほら、スオウくんってなんだか不幸属性じゃない。ある程度デキる女からしたらなんだか放っとけないのよね」
「あれが不幸? 寧ろ何よりも幸運な奴でしょ。誰もが羨む立場に居るんですよ」
「突っ込む所はそこしか無いんだ……」
何故か残念がられる自分。何が望みなのやら。
「確かに私も羨ましいとは思うけど、まあ彼にも色々とあるんじゃないかな? 同じ生徒会なんだし、友達に成ればいいのに。そしたらもっと日鞠ちゃんに近づけるわよ?」
「それが狙いですか……」
奴にもそれなりに接するのはそう言うことだったんですね。確かに、奴に近づければ自ずと会長ともお近づきになれるかもしれない。その可能性はある。でも……
「別に近づきたいなんて思ってるわけじゃ……自分には今の距離でも充分過ぎるくらいです」
「けどスオウくんが羨ましいんでしょ?」
「羨ましいって言うか、許せないんですよ! 奴が会長の隣に相応しいなんて思えない。けどだからって自分がそこに立候補とかはする気は無いんです。自分だって釣り合いが取れるとは思ってないですし」
「ふ〜ん、欲が無いんだね。じゃあどこ位なら釣り合い取れるって思ってるのかしら?」
「どこってそんなの……」
そんな質問にふと思い浮かぶ顔があった。それは最初考えてた塾で出会った彼女の顔。でも速攻で振り払う。
「その様子……思い当たる節がある様だね。私……かな?」
「いえ、それは無いです」
「ええ〜そうハッキリ言われるとなんかショック……」
「なんでショック受けるんですか? 女の子が好きなんでしょ?」
そう言ってましたよね? そもそも言葉だけ言ってみた感アリアリなんですけど……
「まあそうだけど、ほら好かれるのは嫌じゃないから」
この人、別に男を汚らわしいとか思ってる訳じゃないんだな。まあそうだったら、わざわざ喋りかけてなんか来ないか。でも無駄に愛想を振りまくのもどうかと……女の子が好きとか知ったら残念がる男子がいっぱいですよ。そう思ってるといつの間にか、ニヤニヤしてこっちを見てる。
「じゃあ、私程度でも無いのなら、綴君の思い描いた女性はどなたなのかしら?」
「先輩の知らない方ですよ。これ以上詮索しないでください」
「じゃあため息の原因もその方?」
「別に……」
「そうね。他人の色恋に干渉なんて無粋ね。だけど相談事があったら聞いてあげる。同じ生徒会の仲間なんだもの。応援してるわ」
そう言って雨乃森先輩は自分から離れてく。靡くセミロングの髪からふわりと香る芳しい香り。はぁ、緊張した。やっぱり女子と話すのはなかなか慣れないものだ。雨乃森先輩はまだ回数多いほうだけど、やっぱり先輩ってこともあるしな。
まあ向こうはなるべくそう言う事を気にしないで良いように振る舞ってる気はするけど、やっぱりね。こっちはちょっと尻込みしてしまう。やっぱりああいう目立つ部類の人達はどうしても……
いや、いい先輩なんだけどね。
「……そういえば、あのカミングアウトはどうしたら?」
取り敢えず言いふらす友達もいないし、心の片隅に留めて置くことにした。そうこうしてる内に校舎の方からチャイムの音が鳴り響く。HRが始まるし、自分達も急いで校舎の方へ向けて走りだす。
午前中の授業を終える鐘の響きと同時に、廊下ではすでに購買目指して駆ける生徒の姿が見える。このクラスの何人からも、そわそわした感じが伝わってくる。そして案の定、先生への挨拶を終えると同時に獣の様にかけ出す男子が数人。丸坊主だから体育会系のクラブの奴等なんだろう。
朝練やらなにやらで持ってきた弁当ではいつも足りないようだ。まあこの学校は購買が充実してるし、パンとかだけじゃなく、惣菜や弁当も諸で販売してるから、利用する人は多い。てか会長が購買の不満を聞いて動いた結果だ。
地元の商店街の人とかを動かして、パン屋や惣菜、弁当屋とかが納品してるからな。この時間に並ぶ物は出来たてホカホカで評判がいい。地元にも貢献出来て一石二鳥である。商店街の人達も大変らしいから、野獣の様な若者が買い漁る購買は良い商売場所だろう。
販売は購買のおばちゃんと、生徒会で行う様になってる。前は購買のおばちゃんだけで良かったわけだけど、品数も増えたし、利用者も激増して捌き切れないからな。それにかく店舗の品の検品に、売上分配となかなか面倒な業務も増えた。
購買のおばちゃんは自分に委託されてる商品の分しか把握する必要はないわけで、こっちが勝手に始めた地域店舗の納入分の金額とかは取り扱わないから、そこら辺は生徒会の仕事だ。
「でも、今日はゆっくり出来るな」
自分はそう言いつつ、バックから弁当を取り出す。購買の販売は分担制だから、今日は自分は休みなんだ。購買の手伝いの日はいつも弁当食う時間は最後の十分間くらいしか無いからな。ハッキリ言って休み時間なんてものじゃない。
さて……と思いつつ立ち上がる。教室内を見渡すと既に出来上がったグループがあるんだ。その中で一人食べるのはなんか気まずい。別にハブられてるとかそう言う訳でもなく、声を掛けられたりとかもするわけでだけど、流石に出来上がった輪の中にズカズカと入れるほど神経太くないんだ。
特に女子の輪の中なんて無理。会長の計らいもあって男女の垣根が低く成ってるから、社交的な人とか、お節介タイプの人とか声かけてくれるんだけど、いや〜ねえ……ハードル高い。だから昼休みはこうやってちょっといそいそと支度する振りをして教室を出るのが恒例。いそいそとやってれば「生徒会の方かな?」と思われるだろ?
実はそんなに自分の事を気に掛けてる人は居ないのかもしれないし、ちょっと自意識過剰なのかもしれない。でも自分に興味はなくても、会長に興味ある人は大多数だからな。それで声を掛けられる事が多くて、生徒会に入りたての頃は戸惑った。最近は馴れてきたけど、でもやっぱり入る前と今とではその……注目度は段違いだと思うんだ。まあ注目度高い人達からすればそんなのは微々たるものなんだろうけど。取り敢えず忙しない廊下に出る。教室の後方のドアから出て、ふと隣のクラスを覗く。
そこは会長のクラスだ。でも会長は教室に居ることの方が稀な訳だけど……でもそれでもよく顔を出すんだ。まあ自分のクラスによく顔を出すって言うこと自体おかしいんだけど、あの人は例外だから。
(居ないか……)
やっぱりだけど、今日はまだ姿を見てない。それに奴も居ないし。奴と良くつるんでるデカイのはいるけど、男女混合で弁当つつき合って……死ねばいいのに。自分は少しイライラしつつ生徒会室に向かって歩き出す。
(いや、別に弁当はいいんだよ弁当は。会長が心配だ。会長だけ姿見えないならまだしも、奴もだし……まてよ、もしかして彼女が最近塾に来ないことと関係が……)
あるわけ無いか。流石にその結びつきは強引過ぎる。メールとか出来れば……ともおもうけど、そんなアイテムはゲットできてない。そりゃそうだ。自分にそんな行動力はないんだ。会長の十分の一でもいいから、自分に行動力があれば……それかさっきのデカイの様に、もっと気さくに尻軽な感じがあれば自分でも女子にアドレスを聞くという行為が出来たかもしれない。
(はぁ……諦めよう)
別に辞めた訳でもないだろうし、もしもそうだったとしても、追いかけるとか色々と手をつくして彼女の家を突き止めるとかそんな事出来ないしな。普通の自分のこの感情はきっと自然と萎んでく。それでも自分的には構わない……そういうものだったんだと、諦めがいつだって付くんだ。だから気にし過ぎることは良くないよな。
自分が何よりも気にする存在は会長という存在ただ一人でいいんだ。この三年間はあの人に捧げると決めたしな。そんな事を再確認してるとヴヴヴとポッケから伝わる振動に気付く。スマホを取り出してメールの内容を確認。それは今日はまだ姿を見せない会長から。そしてその題名を見た瞬間足が止まる。後ろからドカッとぶつかった奴が何か言ったけど、反応できない。
ちょっと困惑したような顔で去って行くその人には悪い事をしてしまっただろうか? でもそのメールの内容に目を通す事に必死だったんだ。
『緊急事態!! だよ。今日の放課後は皆して生徒会第一議事堂に集合せよ。欠席する者は報告よろしく。これは勅命である。第一優先目標だ! 更に忙しく成っちゃうけど、皆の力を貸してね』
いつも何かをする人が、何もしなくなると、途端に日常の色を失う事がある。そうなると自分の日常とは何なのか考えだしたりする。なんとも思ってなかった物が実はとても重要で、急にもう戻って来ないかもと思える現実に、目眩がしだす。自分の世界の色を誰かが付けてたなんて思いたくもないけど、その事実に気付かされたんだ。
いやちょっと違うか。誰かが付けた色に染まってる自分を自分自身は知ってたはずだ。それが心地いいとさえ思ってた。けどそれは、遥か高みからの威光であって、それが許されるのは自分の中ではただ一人の人物だった筈なんだ。
え〜とつまり、何を言いたいのかと言うと……
––––ちょっと塾で知り合った程度の他校の女子生徒に自分の日常の色が影響されてたなんて思いたくない!!
……ということだ。
「はぁ〜」
大きなため息が漏れる。木枯らしが吹く季節となった今では、学ランだけじゃ朝は冷える。けど女子なんてスカートだからな。男の自分が寒いなんて言えない。目の前を通ってく生徒達はコートにマフラーと防寒してるけど、早朝の校門前挨拶強化週間で立ってる自分達生徒会にそんなものはない。
いや、カイロ位は仕込んでるけど、どんどん冷え込んでいくこの季節には焼け石に水だ。紅葉と洒落込んでた植物たちも今や冬の北風に身包み剥がされて素っ裸状態。見てるこっちが肌寒くなる。
「おはよーございます」の声が繰り返される中、登校してく生徒達の顔をふと見ると、こいつらほんとに学校に登校してるのか? と思う感じに楽しそうである。
そもそもこんなに途切れない挨拶が他の学校で見受けられようか? いや、無いと断言できる。誰だって朝は辛いし、寒くなってくるに連れて布団から出たくなくなる。学校なんてそもそも進んで行きたい場所じゃない。大概はそうだろう。
かくいうこの学校だって半年前くらいまではありきたりなそんな学校だった。楽しみなんてそんな無い、勉強とかダルいだけ……みたいな。でも将来とかの為に、通うしか無い。友達とかと毎日会えるとかは良いんだけど……それだけ。部活とかに打ち込んでる人達は違うのかもしれないけどな。
でも大概は惰性で学校って通うものだろう。学校ってこんな物……誰もがそう思ってて、どこか諦めの様な物があったと思う。無難に通って無難に卒業できれば……そんな物だった。だけどそれは今や変わったんだ。
生徒達は見るからに学校を楽しみにして、自分達もどうやったら学校生活が楽しくなるか身を粉にして働いてる。それは辛いものじゃなく、日々がこんなにも充実してると自然と体が動くものなんだ。
だから日々普通の生徒よりも早く起きて寒空の下に立ってたって、それは苦じゃない。そう苦じゃないんだ。
「はぁ〜」
「どうしたの綴君? さっきからため息ばっかりだよ」
「雨乃森先輩……いえ、別になんでも。元気ですよ自分は」
「そうは見えないから聞いてるんだけどな〜」
イタズラな笑みを見せて覗きこんでくる先輩。ちょっ……そんな風にされたら一男子としてドキドキしちゃうんですけど! まあこの人の場合はそれも狙ってそうだけど。悪い人では無いのは確かなんだけど、色々とあざといんだよね。
てか男子の扱いに慣れてると言うか……上手く使う術を知ってると言うか……でも女子の人気も結構あるわけで、なんか生き方が上手いんだろうなって思う。確かにこうやってよく気付くし、誰にだって屈託なく話しかけてくれるし、見目麗しいしで男女共に人気なのも頷ける先輩だ。
自分は会長に拾ってもらわなかったらきっと今でも教室の片隅でネリケシとか作ってたんだろうなって思うと泣けてくる。まさかこんな凄い人達と過ごす時間が長くなる様な人種じゃないんだ。ホント会長には––
「ああ、日鞠ちゃんが居ないからでしょ? うんうん、それじゃあしょうが無いね」
「ちょっ!? 何勝手に納得してるんですか!! そんなんじゃないですよ!」
うう、登校中の生徒の視線が集まって自分は俯いた。視線が集まっても笑顔で挨拶を返す雨乃森先輩は流石だな。臆するということが無いのかこの人は。てかこの学校は女子が強いよな。まあ会長がアレだからってのが絶対に影響あると思うけど。
てか確かに会長居ないな。自分の世界の色を塗り替えた張本人。いつもなら誰よりも早く来てる筈なんだけど……
「で、会長はどこに?」
「あは、やっぱり気になるんだね。日鞠ちゃんは今度の区の学校間交流会の打ち合わせじゃなかったかな? それとも青少年健全育成委員会との会合だったかしら? いやいや、商店街のクリスマスイベントの打ち合わせ? 多分どれかかそれ意外だったと思う!」
「一つも確定してないんですけど……」
案外適当でもあるんだよなこの人。てかそのどれも、こんな朝早くからはやってないと思う。だからきっともっと個人的な––––はっ!
「そういえば奴は!? 奴も来てないんじゃないですか?」
「奴? ああ、スオウ君ね。そういえば彼も居ないね」
「やっぱり! アイツがきっと会長を困らせてるんですよ! あの下っ端!」
沸々と怒りが沸いてくる。そもそも一番早くに来とかないと行かない立場の癖に、何かとサボる事が多いんだよな。会長が作り上げたこの意識の高い生徒会の足並みを乱すのはいつだってアイツだ。
本当の敵は内側に居るとか言うけど、それは当たってると思う。奴こそがこの生徒会の……いや、学校の不協和音!! 何かと騒ぎ起こすし、会長に協力的でもない。幼馴染ってだけで会長の傍に居る蝿。それがあのスオウって奴だ。
てか普通は一番影響されてておかしくない立場の筈なのに奴には一切それが見えない。この学校は会長のお陰で変わって、生徒も教師も色々と変わった。それなのに……一番長く一緒に居る奴がアレとはどういうことなんだ?
自分は理解できない。会長の様な幼馴染がいれば自分だってもっと社交的に成れてたのかも知れない。どうしてその場所にアイツなんかが居るのか……それが許せない人達はこの学校にいっぱいだ。
「そういえば雨乃森先輩は奴の事、良く擁護しますよね? 何故ですか? まさか恋愛感情がある……とか?」
「ふふ、それはないよ。だって私女の子が好きだもん」
「ああ、な〜んだ。そうですかぁ〜」
あれ? 安心していい所なのかこれ? かなりの爆弾発言聞いたような気が。雨乃森先輩はかなり男子にも人気であって、思いを寄せる人達はきっと何十人も……ご愁傷様と思っておこう。
「じゃあ、なんで何ですか?」
「あれ? スルーなんだ? まあいいけど。う〜んそうだね。ほら、スオウくんってなんだか不幸属性じゃない。ある程度デキる女からしたらなんだか放っとけないのよね」
「あれが不幸? 寧ろ何よりも幸運な奴でしょ。誰もが羨む立場に居るんですよ」
「突っ込む所はそこしか無いんだ……」
何故か残念がられる自分。何が望みなのやら。
「確かに私も羨ましいとは思うけど、まあ彼にも色々とあるんじゃないかな? 同じ生徒会なんだし、友達に成ればいいのに。そしたらもっと日鞠ちゃんに近づけるわよ?」
「それが狙いですか……」
奴にもそれなりに接するのはそう言うことだったんですね。確かに、奴に近づければ自ずと会長ともお近づきになれるかもしれない。その可能性はある。でも……
「別に近づきたいなんて思ってるわけじゃ……自分には今の距離でも充分過ぎるくらいです」
「けどスオウくんが羨ましいんでしょ?」
「羨ましいって言うか、許せないんですよ! 奴が会長の隣に相応しいなんて思えない。けどだからって自分がそこに立候補とかはする気は無いんです。自分だって釣り合いが取れるとは思ってないですし」
「ふ〜ん、欲が無いんだね。じゃあどこ位なら釣り合い取れるって思ってるのかしら?」
「どこってそんなの……」
そんな質問にふと思い浮かぶ顔があった。それは最初考えてた塾で出会った彼女の顔。でも速攻で振り払う。
「その様子……思い当たる節がある様だね。私……かな?」
「いえ、それは無いです」
「ええ〜そうハッキリ言われるとなんかショック……」
「なんでショック受けるんですか? 女の子が好きなんでしょ?」
そう言ってましたよね? そもそも言葉だけ言ってみた感アリアリなんですけど……
「まあそうだけど、ほら好かれるのは嫌じゃないから」
この人、別に男を汚らわしいとか思ってる訳じゃないんだな。まあそうだったら、わざわざ喋りかけてなんか来ないか。でも無駄に愛想を振りまくのもどうかと……女の子が好きとか知ったら残念がる男子がいっぱいですよ。そう思ってるといつの間にか、ニヤニヤしてこっちを見てる。
「じゃあ、私程度でも無いのなら、綴君の思い描いた女性はどなたなのかしら?」
「先輩の知らない方ですよ。これ以上詮索しないでください」
「じゃあため息の原因もその方?」
「別に……」
「そうね。他人の色恋に干渉なんて無粋ね。だけど相談事があったら聞いてあげる。同じ生徒会の仲間なんだもの。応援してるわ」
そう言って雨乃森先輩は自分から離れてく。靡くセミロングの髪からふわりと香る芳しい香り。はぁ、緊張した。やっぱり女子と話すのはなかなか慣れないものだ。雨乃森先輩はまだ回数多いほうだけど、やっぱり先輩ってこともあるしな。
まあ向こうはなるべくそう言う事を気にしないで良いように振る舞ってる気はするけど、やっぱりね。こっちはちょっと尻込みしてしまう。やっぱりああいう目立つ部類の人達はどうしても……
いや、いい先輩なんだけどね。
「……そういえば、あのカミングアウトはどうしたら?」
取り敢えず言いふらす友達もいないし、心の片隅に留めて置くことにした。そうこうしてる内に校舎の方からチャイムの音が鳴り響く。HRが始まるし、自分達も急いで校舎の方へ向けて走りだす。
午前中の授業を終える鐘の響きと同時に、廊下ではすでに購買目指して駆ける生徒の姿が見える。このクラスの何人からも、そわそわした感じが伝わってくる。そして案の定、先生への挨拶を終えると同時に獣の様にかけ出す男子が数人。丸坊主だから体育会系のクラブの奴等なんだろう。
朝練やらなにやらで持ってきた弁当ではいつも足りないようだ。まあこの学校は購買が充実してるし、パンとかだけじゃなく、惣菜や弁当も諸で販売してるから、利用する人は多い。てか会長が購買の不満を聞いて動いた結果だ。
地元の商店街の人とかを動かして、パン屋や惣菜、弁当屋とかが納品してるからな。この時間に並ぶ物は出来たてホカホカで評判がいい。地元にも貢献出来て一石二鳥である。商店街の人達も大変らしいから、野獣の様な若者が買い漁る購買は良い商売場所だろう。
販売は購買のおばちゃんと、生徒会で行う様になってる。前は購買のおばちゃんだけで良かったわけだけど、品数も増えたし、利用者も激増して捌き切れないからな。それにかく店舗の品の検品に、売上分配となかなか面倒な業務も増えた。
購買のおばちゃんは自分に委託されてる商品の分しか把握する必要はないわけで、こっちが勝手に始めた地域店舗の納入分の金額とかは取り扱わないから、そこら辺は生徒会の仕事だ。
「でも、今日はゆっくり出来るな」
自分はそう言いつつ、バックから弁当を取り出す。購買の販売は分担制だから、今日は自分は休みなんだ。購買の手伝いの日はいつも弁当食う時間は最後の十分間くらいしか無いからな。ハッキリ言って休み時間なんてものじゃない。
さて……と思いつつ立ち上がる。教室内を見渡すと既に出来上がったグループがあるんだ。その中で一人食べるのはなんか気まずい。別にハブられてるとかそう言う訳でもなく、声を掛けられたりとかもするわけでだけど、流石に出来上がった輪の中にズカズカと入れるほど神経太くないんだ。
特に女子の輪の中なんて無理。会長の計らいもあって男女の垣根が低く成ってるから、社交的な人とか、お節介タイプの人とか声かけてくれるんだけど、いや〜ねえ……ハードル高い。だから昼休みはこうやってちょっといそいそと支度する振りをして教室を出るのが恒例。いそいそとやってれば「生徒会の方かな?」と思われるだろ?
実はそんなに自分の事を気に掛けてる人は居ないのかもしれないし、ちょっと自意識過剰なのかもしれない。でも自分に興味はなくても、会長に興味ある人は大多数だからな。それで声を掛けられる事が多くて、生徒会に入りたての頃は戸惑った。最近は馴れてきたけど、でもやっぱり入る前と今とではその……注目度は段違いだと思うんだ。まあ注目度高い人達からすればそんなのは微々たるものなんだろうけど。取り敢えず忙しない廊下に出る。教室の後方のドアから出て、ふと隣のクラスを覗く。
そこは会長のクラスだ。でも会長は教室に居ることの方が稀な訳だけど……でもそれでもよく顔を出すんだ。まあ自分のクラスによく顔を出すって言うこと自体おかしいんだけど、あの人は例外だから。
(居ないか……)
やっぱりだけど、今日はまだ姿を見てない。それに奴も居ないし。奴と良くつるんでるデカイのはいるけど、男女混合で弁当つつき合って……死ねばいいのに。自分は少しイライラしつつ生徒会室に向かって歩き出す。
(いや、別に弁当はいいんだよ弁当は。会長が心配だ。会長だけ姿見えないならまだしも、奴もだし……まてよ、もしかして彼女が最近塾に来ないことと関係が……)
あるわけ無いか。流石にその結びつきは強引過ぎる。メールとか出来れば……ともおもうけど、そんなアイテムはゲットできてない。そりゃそうだ。自分にそんな行動力はないんだ。会長の十分の一でもいいから、自分に行動力があれば……それかさっきのデカイの様に、もっと気さくに尻軽な感じがあれば自分でも女子にアドレスを聞くという行為が出来たかもしれない。
(はぁ……諦めよう)
別に辞めた訳でもないだろうし、もしもそうだったとしても、追いかけるとか色々と手をつくして彼女の家を突き止めるとかそんな事出来ないしな。普通の自分のこの感情はきっと自然と萎んでく。それでも自分的には構わない……そういうものだったんだと、諦めがいつだって付くんだ。だから気にし過ぎることは良くないよな。
自分が何よりも気にする存在は会長という存在ただ一人でいいんだ。この三年間はあの人に捧げると決めたしな。そんな事を再確認してるとヴヴヴとポッケから伝わる振動に気付く。スマホを取り出してメールの内容を確認。それは今日はまだ姿を見せない会長から。そしてその題名を見た瞬間足が止まる。後ろからドカッとぶつかった奴が何か言ったけど、反応できない。
ちょっと困惑したような顔で去って行くその人には悪い事をしてしまっただろうか? でもそのメールの内容に目を通す事に必死だったんだ。
『緊急事態!! だよ。今日の放課後は皆して生徒会第一議事堂に集合せよ。欠席する者は報告よろしく。これは勅命である。第一優先目標だ! 更に忙しく成っちゃうけど、皆の力を貸してね』
「命改変プログラム」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
-
83
-
2,915
-
-
2.1万
-
7万
-
-
1,391
-
1,159
-
-
6,681
-
2.9万
-
-
176
-
61
-
-
66
-
22
-
-
1.2万
-
4.8万
-
-
450
-
727
-
-
5,039
-
1万
-
-
5,217
-
2.6万
-
-
9,711
-
1.6万
-
-
8,191
-
5.5万
-
-
3,152
-
3,387
-
-
2,534
-
6,825
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
9,448
-
2.4万
-
-
3,548
-
5,228
-
-
27
-
2
-
-
6,199
-
2.6万
-
-
1,295
-
1,425
-
-
2,860
-
4,949
-
-
1,000
-
1,512
-
-
6,675
-
6,971
-
-
3万
-
4.9万
-
-
6,044
-
2.9万
-
-
215
-
969
-
-
344
-
843
-
-
65
-
390
-
-
6,237
-
3.1万
-
-
398
-
3,087
-
-
76
-
153
-
-
104
-
158
-
-
3,653
-
9,436
-
-
10
-
46
-
-
3
-
2
-
-
1,863
-
1,560
-
-
108
-
364
-
-
14
-
8
-
-
187
-
610
-
-
71
-
63
-
-
83
-
250
-
-
33
-
48
-
-
4
-
1
-
-
86
-
893
-
-
2,629
-
7,284
-
-
2,951
-
4,405
-
-
218
-
165
-
-
23
-
3
-
-
10
-
72
-
-
477
-
3,004
-
-
86
-
288
-
-
3,224
-
1.5万
-
-
2,799
-
1万
-
-
47
-
515
-
-
614
-
221
-
-
4
-
4
-
-
51
-
163
-
-
6
-
45
-
-
9,173
-
2.3万
-
-
7
-
10
-
-
17
-
14
-
-
9
-
23
-
-
18
-
60
-
-
213
-
937
-
-
408
-
439
-
-
2,431
-
9,370
-
-
7,474
-
1.5万
-
-
29
-
52
-
-
1,301
-
8,782
-
-
220
-
516
-
-
1,658
-
2,771
-
-
4,922
-
1.7万
-
-
42
-
52
-
-
265
-
1,847
-
-
614
-
1,144
-
-
42
-
14
-
-
88
-
150
-
-
34
-
83
-
-
164
-
253
-
-
116
-
17
-
-
62
-
89
「SF」の人気作品
-
-
1,798
-
1.8万
-
-
1,274
-
1.2万
-
-
477
-
3,004
-
-
452
-
98
-
-
432
-
947
-
-
432
-
816
-
-
415
-
688
-
-
369
-
994
-
-
362
-
192
コメント