命改変プログラム

ファーストなサイコロ

生まれる時

 光が萎んでく。視界に明るさが戻っていき、輪郭を取り戻してく。空は黒から溢れだしたかのような様々な色に満たされてた。そんな様々な色で照らされた地面もまたカラフルに成ってる。僕達に影は落ちない。なんだかとても曖昧に思える。
 暗く沈んでる物がないからだろうか。不自然というか、不完全というか。そんな感じを受ける。そんな中、世界で唯一だろうべちゃべちゃしてそうな黒い存在が、えらく貧相になって地面を這いつくばってた。


「くそお! このバカ女が!! ずっと泣いてれば良かったものを!! 死ね死ね死ね……食わせろおおおおお!!」


 そう言ってこの場所で一番輝いてるセツリへと手を伸ばす奴。どうやらまだ諦めてないらしい。 セツリはへたり込んだまま顔を上げない。もう一度今のを……ってセツリ的には無意識だったのかもしれないな。
 よくわらないまま力が発動したから、あんな風に呆然としてるのかも……でもこのままじゃ、あの黒いのに食べられるかも––とか思ってると次の瞬間、黒い奴がはじけ飛んだ。奴の黒い液体が周囲に飛び散り、それが僕の頬にも付く。
 うわ、汚っ!? って感じでビクッとなった。けどこすった時には何もつかなかった。なんだか一瞬で沁み入った様な……


「俺を作り出したのは貴様等の癖に……」
「もう必要ないんだよ。さっさと消えろよ!!」


 ヒマワリの奴がそう言って涙ながらに何回も何回も奴の残りの部分も叩き潰す。崩れてく奴と言う存在。だけど奴は最後までその赤い瞳を輝かせて、不気味な笑いを漏らしてた。








「はぁはぁはぁ……」


 夢中で殴ってたヒマワリは息を荒く吐いて泣いてた。拳は真っ赤に成ってる。そんな拳を優しく包むようにサイドから手が伸びてくる。


「よくやったなヒマ。お前は守ったんだ。良くやった」
「ヒマにしてはよくやったわよホント。だからそんなに泣かないでよ……」


 サイドからヒマワリの手を包んだのは蘭と柊だ。蘭はやっぱりお姉ちゃんぽくしっかりした声でヒマワリを支えてる。けど柊はやっぱりどれだけ大人ぶっても一番末っ子。言葉を紡ぎながらその瞳からは堪え切れずに涙が溢れてた。そしてそんな暖かさにヒマの感情は決壊する。


「でも……でも、うあああああああああああん! レシア姉がレシア姉がああああああああああ! ヒマのせいだよ。もっと慎重にやってればああああああ!」
「ヒマのせいなんかじゃない。私の……せいだよ。こんな私がレシアを犠牲にしたの。皆だってわかってるでしょ」


 その言葉に集まってた姉妹達は声をさせずに居る。でもそんな中、大泣きしてるヒマワリが首を振ってセツリに抱きついた。


「違うよ! そんな事絶対無い。だってセッちゃん友達って言ってくれたもん。レシア姉、きっと喜んでるよ! だからもう、自分を責めないで!!」
「ヒマ……」


 ぎゅっと力を込めてヒマワリを抱きしめるセツリ。ヒマワリの無鉄砲で真っ直ぐな所がセツリの扉をようやく開けたって感じか? 


「もう会えないのかな? レシアにも、サクヤにも……取り戻そうとしたけど、出来なかった」
「そんな事無いよセッちゃん☆ 世界は変る。そこには私達は誰かさんのせいで組み込まれてるもの。新しい世界が稼働し始めれば、その世界できっとまた会えるよ」
「そうですよ〜世界が生まれ変わるって事は〜レシアちゃんだってきっと大丈夫〜私達はそもそも死んだりしませんよ〜」


 セツリの不安を拭うようにシクラと百合が言葉を紡ぐ。まあ確かに、セツリはコードは取り返しただろうし、それなら大丈夫……だとは思う。そんな事を密かに思ってると、天道さんが前へ出る。


「セツリ、あの化け物を倒したって事は、外にでるって事よね?」
「そっ……それは……」


 天道さんの言葉に目を背けるセツリ。ここまで来てまだ迷ってるのかお前は。いや、ヒマワリ達のお陰で、生きる方向に振れては居るんだろう。だけどリアルと言う壁はきっとセツリには厚いんだ。


「アンタはまだそんな––」
「だ……だって、どんな顔して戻ればいいの? 沢山沢山、迷惑掛けて……ただ戻るだけでも怖いよ!」


 確かに現実を直視すれば、セツリを中心にとんでもない事に成ったしな。この弱々なセツリじゃ不安で不安で仕方ないだろう。今までは戻らない気でいたから無視できてた問題も、リアルに帰還するとなったら、自分の責任も追求されるかもしれない。それが怖いんだろう。でも責任が完全に無いとは言えないし、そことも向い合ってもらうしか無い。
 未成年だし刑務所に行くとかは無いだろうしな。でも責められたりなんやりに弱いからな。ここでまた一悶着ありそうな……ん? 頭に響く音と知らせ。そこには待ちわびてた物の使用が出来ると言う報告が。確かにあの黒い奴は消えたんだ。使えるようになっておかしくない。
 僕はニヤッと笑って声をだす。


「それはお前の責任だろセツリ。お前の我儘の責任はお前が取るしか無い。まあでも怖いってのも分かる」
「スオウ……」
「だから武器を取れセツリ」
「え?」


 周りからも「は?」と言う反応が聞こえた。まあそうなるよな。けどこれは大切な事だよ。


「お前はさはセツリ。さよならしなきゃいけない。この世界に、そしてその力にだ。お前に与えられた権限は新しい世界の為に返すべきもの。そしたらきっとどちらかの世界に縛られる事もなくなる。もっとお前は自由になれる。
 だから……最後だから、この世界にお別れを言うために力を出し合おうってこった。ちょうどここに、セラ・シルフィングも戻ってきたしな」


 そう言って僕は両の手に自分の愛刀を出現させる。うん、やっぱりこの感触、この重みがしっくりくる。


「さあ、武器を取れセツリ」


 僕のその視線に、たじろぐセツリ。だけどそこでシクラの奴がいつもの笑みを浮かべてセツリの背中を押した。


「丁度良いじゃない☆ セッちゃん私達はアイツに散々辛酸を飲まされて来たのよ。今までの不満全部ぶちまけちゃいなさい! なんだっていい、自分の中のありったけ全部、吐き出すの!」
「ええ!?」
「いいんじゃねえのそれ? まあセツリ程度に僕は負けないけど。お前、色々と責め立てられるのが怖いって言ってたよな」
「……うん」
「それなら心配するなよ。僕が誰も何も言えないくらいにベッコベコにしてやるよ。そして気付いた時にはリアルだ。簡単だろ?」
「はっ……はははは……何それ」


 セツリの口調が変わった。怯えてただけだったのに、明らかにちょっと黒い部分が出てきてる。そしてそれはセツリだけじゃない。


「やっちゃえセッちゃん。せっちゃんなら返り討ちに出来るよ! セッちゃんをバカにする奴は許せないよ!」
「ヒマ……」
「そうね。私達の代わりにアイツをベッコベコにしちゃって」
「柊……出来るのかな私に……」
「出来る。貴女の力は奴を圧倒してます。自信を持ってください」
「うんうん、だけど〜どっちも怪我をしないようにね〜〜」
「姉様、それこそ無茶でしょう!」


 確かに百合のいうことは無理だっての。本気の本気だぞ。最後なんだ。僕もセツリも今の力をもう一度手にすることはないだろう。だから最初で最後の全力全開って奴だ。昔の少年漫画よろしく––じゃないけど、本気でぶつかる事で色々と分かることだってきっと……まあ実際はこれ以上グダグダやるのも嫌だから何だけどね。


「お前はホント、無茶な事ばっかやろうとするな」
「じゃあ止めるか?」


 アギトの奴が呆れた様な物言いでそう言って来たから僕は試すようにそう言ってやった。するとアギトの奴は、いつもの笑みを見せてこう言うよ。


「いや、思う存分やってこい!」
「おう!!」


 僕は前に出る。すると背中に沢山の声が掛かる。


「スオウくんガンバ!」
「最後の花道だ。想いっきりに派手にしてくれ」
「最後って言うのもおかしいけど、けど私達がお世話になった世界は終わりですからね」
「これまでの全てを出し尽くしなさいよスオウ。ヘタれたら蔑むから」


 アイリにテッケンさん、シルクちゃんにセラ……そして更にエイル達が続く。


「ホント、アホだなお前。アホ過ぎるよ」
「でもエイルは羨ましいんだよね? ふふ、頑張ってください」
「その剣が見納めだと思うと寂しいな。輝かせろ、目に焼き付けておいてやるから」
「負けたら承知しないわよスオウ。私達の分の色々、全部ぶつけて倍返しよ!!」
「そうだな。まあこれからに遺恨は残したくもない。だから勝って終わらせろおおおおおお!」


 ローレとオッサン達が無駄に煽るから、他のあんまり繋がりない人たちはそっちに引っ張られて、最後の対立起きてる。まあだけど、オッサンの言うとおり、これから先に遺恨を残さないためにも、ベッコベコにするつもりだよ。
 誰もが許せる––そんな姿を見せようじゃないか。僕達は互いに進み、歩み寄る。ギャラリーがとってもうるさくなってるよ。


「どうするセツリ。怖気づいたんじゃないか? 酷い言葉飛び交ってるぞ」
「そうだね……ちょっと怖いけど、でも心に刺さる感じじゃない。雰囲気も皆明るいし、なんだか不思議な感じかな。皆の盛り上がりと一緒にね……ワクワクしてくる気がする」


 そう言うセツリの足元には魔法陣が現れる。その魔法陣の輝きに照らされるセツリを見ながら僕は言うよ。


「せいぜい楽しめよ。お前にとっては最初で最後のこの世界での戦闘だ」
「負けないよスオウ。私に期待してくれる皆が居るもん。皆の無念は私が晴らす!」


 掲げた手に武器が顕現する。それは不思議な形をしてた。なんか頭を落とした鳥の胴体みたいな……いや、形だけね。材質はキラキラした感じで色合いも女の子が持つものっぽい。両サイドには羽もついてる。トリガーもあって、なんだか銃っぽい?
 でも先端は穴が開いてる訳じゃない。杖とかを出すと思ってたんだけど、なんだかもっとごついの出して来やがったよ。


「まだまだ行くよ! 変身開始!」


 もっと良いセリフは無かったのかよと突っ込みたかった。だけどそれ以上に、ここから始まった変身バンクにビックリだよ! 誰が用意してたんだ。さっき出した武器の先端に軽い口づけと共にそれは始まった。激しい光の中で、シルエットだけが僕達には見えてたよ。
 多分今、セツリの中では格好良い曲が流れてるんだろう。そして光が収束して出てきたのは、フリルいっぱいの衣装に身を包んで、更に髪のボリュームが増して色までビビットカラー化したセツリの姿。どこのプリ◯ュアだよ。まあアレも長いからな……憧れてたのかもしれない。
 それに似合ってるか似合ってないかで言えばそれなりに似合ってる。流石元が良いだけはある。


「恥ずかしい格好だな」
「はっ!? 恥ずかしい? カッコ可愛いじゃん! ええい、わからず屋のスオウにはその体にこの格好の凄さを叩き込んであげるから!」


 なんか発言が物騒だぞ。正義の味方じゃないのその格好。まあ、いいけどね。僕も気合を入れよう。見た目はアレだけど、きっと強いんだろうしね。僕は自身の周りに風を集めだす。そして宣言するよ。


「イクシード3 さあベッコベコにされる覚悟は出来たかセツリ?」
「それはこっちのセリフだよ!!」


 セツリは一気に距離を取り出す為に上空へ。だけど逃がさない。僕も背中のうねりを使って追った。こちらにその武器を向けてトリガーを引くセツリ。すると一気に数十発の光線が発射された。けどそれを一振りで片付けて距離を詰める。


「遠慮はしないって言ったよな!」


 セツリは一気に地面に落ちた。今までのアイツならこれでもう嫌がってやめてもおかしくはない。けど、舞う埃の中で大きく膨らむ光の塊が見える。


「私は……変わるんだ!!」


 放たれた光はさっきの比じゃない。僕は咄嗟にその攻撃を回避する。だけどその回避した先にセツリの姿が––読まれてた? でも接近戦は選択ミスだろ。接近戦では敵わないと踏んでたから、最初から距離を取りに行ってたんだろうに、熱くなりすぎたか?


「私はもう逃げないって決めたから!!」


 その言葉を聞いて僕はハッとしたよ。そうだな、どれだけ熱くなれるかだよ。最後なんだ、戦術も戦略も、HPの残量がどうだとかも、全部どうでもいいんだ。ただ、思いっきりぶつかりあう。それだけで……


「セツリイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」
「スオウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 いつまで続いたか分からないバトルは次第に、白昼夢の様に消えていく。時間の感覚なんか無くなって、いつまでもそうしてた様に思う。だけどそれは戦ってたのだろうか。楽しかったんだ。楽しくて楽しくて、僕達はこんな世界をくれたその人にやっぱり感謝してた。
 僕達は二人とも、大切な事を色々と学んだから。




 重いまぶたを開けると、沢山の人達が僕の顔を覗きこんでた。それは秋徒であったり、愛さんであったり、そして日鞠の奴であったりだ。喚起の声が周りから聞こえる。うるさいなぁ……と思いつつ、皆が何か言う言葉は五月蝿すぎてかき消されてるよ。
 だけどなんでかな……僕の耳は日鞠の言葉だけはやけに良く拾う。


「おかえりスオウ」


 届いたその言葉に「お前もな」と返しておいた。この喧騒で届いたか分からないけど……多分大丈夫だろう。日鞠も僕の言葉はよく拾う。そして気がかりだったことを聞くよ。


「セツリの奴は……」
「いこっか?」


 日鞠はそう言って僕の腕を肩に回して支えに成ってくれる。それほど弱ってない……と言おうと思ったけど、如何せん足元はおぼつかなかった。どうやら自分が思ってた以上に疲労は蓄積されてたようだ。
 でもそれなら日鞠じゃなくてももっと適任は居る。秋徒とか、それこそラオウさんなら僕なんて軽々だろう。日鞠は規格外だけど体型とかは普通の女子高生だからな。男子高校生を支えるには少しか弱い。
 でも、それでも日鞠はこれは自分の役目と言わんばかりに譲らなかった。だから僕もそんな日鞠に体を預けてたよ。元々僕の目が覚めたらそうする段取りだったのか、皆が道をスムーズに開けてくれる。そして進む度に周りから聞こえてくる色んな声に、まともに反応できない僕だけど、そんなの関係なく盛り上がってる。
 どうやら眠ってた人達も加わってるようだな。ちゃんと皆戻ってこれた……良かった。後は最後の一人。僕達はエレベーターに乗り込み下の階層に。実際あの部屋はモニターされてるから、セツリが目覚めたかどうかはわかってる筈だろう。でも何も伝え聞くことは無かった。けどこの目でそれを確かめさせてくれるって事はありがたい。


 階下に着いた事を示す音が控えめに響き、音もなく扉は開く。広い部屋だ。細分化されてた上層とは違う。このためだけの繰り抜かれたかのような空間。そこにある二つのベッド。その一つが起き上がってた。
 人物が……じゃない。流石に三年も眠ってた奴がいきなり起きるなんて出来ないからな。ベッドのリクライニングで上半身が起きてるんだ。脚の方も波打って、楽な態勢にベッドが気を利かせてるっぽい。
 自然光なんて入らない地下室。だけど周囲は暗く、あの二人の頭上にだけは当たるLEDの灯りが、初めて見る起きたリアルのセツリに神秘性ってのを与えてる。骨さえも透けて見えそうな白い肌。伸ばしっぱなしの栗色の髪は一本一本がずっと寝てたとは思えないほどに艷やかで輝いて見える。その姿に僕達は一瞬、息をするのも忘れて止まった。けど、頬を流れる雫が見えた時、行かないと––と思い、体が動き出す。それを感じ取ったのか日鞠も足を進めてくれた。僕達の存在に気付いたのセツリはこっちを見て、直ぐに隣のベッドに目を移す。
 そして口を開くけど、漏れてくるのは空気の詰まるような音だけ。多分、声の出し方もセツリの体は忘れてる。でも、何を言いたいのか、僕には分かった。どこで言うべきかずっと考えてたけど、ここしか無いよな。隠してたって、しょうが無いことだ。


「当夜さんは戻らない。戻れないんだセツリ。あの人は言ってた。自分は手遅れだって。離れすぎた体と魂は戻れないと」


 小雨のようだった涙が大粒に代わり、上手く動かせない体でベットから乗り出そうとするものだから、ラオウさん達が慌ててとめる。リアルは……この世界はセツリに無慈悲だ。そう思う。両親を奪い……今度はたった一人の兄まで奪う。こんな後出しで言うのは卑怯だっただろう。恨んでくれて構わない。
 けど、死なせたくなんか無かったんだ。それにきっと希望が無いはずはないだろう。


「でも、彼の肉体はまだ生きてる。それに魂だって向こうにはあるんだ。戻す方法はきっとある。当夜さんは天才だったけど、全てをわかってる訳じゃない。だからその可能性は零なんかじゃないんだ。
 セツリ、僕達も手伝うよ。一緒に当夜さんを取り戻そう」


 まだ終わってない。終わった訳じゃない。区切りが着いただけ。僕の言葉に日鞠達も頷いてくれる。それを見たセツリは、ただ赤ちゃんの様に泣くことしか出来ないようだった。言葉も喋れないから、泣くしか無い。
 今ここにまた、桜矢摂理は生まれたんだ。



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