命改変プログラム

ファーストなサイコロ

勝利の油断

 二つの攻撃のぶつかりが激しく世界を揺らす。その衝撃も、振動も、これまで感じてきた物とは全く違う規模のもの。世界は真っ白に染まり、そして真っ黒に落ちていく。そのずっと向こうで君臨してるのは花の城。
 それが世界を……無くなりかけてる世界の欠片を集めて再構成しようとしてる。


「新しい世界が始まる。セッちゃんの為だけの新しい世界」


 こんな中でもやけに鮮明に聞こえるシクラの声。僕達を守る為に精霊やピクが盾に成ってくれてるけど、このままじゃ世界の書き換えが完了してしまう。そうなったら終わりだ。さっきの攻撃……あれさえシクラの奴にとってはそうしやすくする為の手段の一つでしかなかったって事か。
 僕達を一掃するように見せかけて実は世界を一度壊しての再構成が狙い。


「まだまだ世界全体を壊すには足りなかったかな? 今度は姉妹皆でやろっか☆」


 そう言うシクラの周りに集まる姉妹達。レシアの奴だけは別のようだけど、それ以外の百合、蘭、ヒマワリに柊が集結してる。更にあの人数でもう一撃を叩き込む気かよ。そんな事されたら本当にLROが崩壊してしまう。
新しい物を作るときにそこにある物が邪魔だからって一度更地にするのはよくあるけどさ、世界レベルでそれをするか。


「ローレ!」
『もう無理です〜。今ので打ち止めですよ〜』


 そう云うのは分離したフィアだ。ローレの奴はその場で荒い息を吐いてる。それはそうか、寧ろ一回でも同レベルの攻撃を出せたことの方が驚きだ。あんな隠し球あったなんてな……まさにローレは自身の全てを今の一撃に込めたたんだろう。
 ……どうする……どうすれば……今度は姉妹合わせての攻撃だ。あれに対抗するとなると、こっちだってバランス崩し全部の力を合わせるくらいしないと……いや、それでもきっと足りないだろう。ローレは多分今さっき限界を超えてた筈だ。それでようやくだった。今度は姉妹の合わさった力……撃たせた時点で終わりは見えてる。


「だけどあれに割り込むにはやっぱりバランス崩し並の力は絶対に必要……」


 でも今この場所で使えるバランス崩しはローレしか……


「なら今度は俺の出番か」
「おっさん、でもここは……」
「ここはなんだ? 忘れたか? ブリームスは元々人の領土だ」
「あっ!?」


 考えてみればそうだ。そうじゃん! ブリームスは人の国の領土だ。それならばおっさんのバランス崩しは使える!! けどあれ? この人のバランス崩しってなんだ? その馬鹿でかい剣じゃ確か無かったよな。見たこと無いぞ。
 まあ切り札であるバランス崩しはそう簡単に使うものじゃないんだろうけど、この場面でも一度もその姿を見せないってのは異常では? てかもっと早く出せと言いたいし。


「まあだが、期待には応えられんと思うがな。この国のバランス崩しはお前が期待してるものとは根本的に違う」
「どういう事だ?」
「見せてやろう」


 そういって首元に手を入れて取り出したのは、真っ白い玉だった。おいおい何これ? 砂浜とかに落ちてそうなんですけど。真珠ほど綺麗でもないしな。オッサンの体液で汚れてるのか?


「あれ……か? オッサン自身にしか影響を与える事はできない代物とか?」
「そういうのでもない。これは『天啓の紋』––我が国が誇る道を示すバランス崩しだ」
「道?」


 どういう事だ? ますます分からなく成って来たぞ。そう思ってる間にも、シクラ達はその力を結集させた魔法を造ってる。時間はない。それにさっきの衝突でもかなり既存のLROは破壊されて再構成されてしまってる。天空の花の城と重なるように別の空が見えてるよ。


「何が出来るんだ!?」


 僕は急かすようにそう聞く。だって悠長にしてる暇はない。


「これは我が国の道を示してくれるバランス崩しだ。我が国に絶対有利な選択肢を教えてくれる」
「それだけ? 実は超強力な力が封じ込められてるとか……」
「聞いたこと無いな」
「今の状況じゃ全然役に立たないだろそれ!! てか本当にバランス崩しか?」


 今まで見てきた物と違いすぎてバランス崩しとはおもえない。だって何が強力なんだよそれ!? バランス崩して無くない?


「そうでもないわよ。国の行く末を必ず成功に導けるなんてとんでもないバランス崩しでしょ。まあ勝利だけに導くわけでもなさそうだけど」


 ローレの言うとおり、確かにそう考えれば結構なチートなのかも知れない。要はあのバランス崩しは個人に力を与えるんじゃなく、国と言うものに力を与えてるのか。でもそれは普通にLROが成り立ってたらいいけど、この状況じゃなんの役にも立たないのは変わりないよな。


「まあ自分に合ってないのは百も承知だ。だがこれのお陰で我が国は繁栄を続けていた。停滞したアルテミナスや、宗教に固執するノーヴィスとは違ってな。そもそも俺は政治や経済などそこまで詳しくはないしな」


 なるほど。確かにそのアイテムがあれバカでも国を繁栄させれるというとんでもないバランス崩しなのかもしれない。でもやっぱりいくら考えてもこの状況の足しにはなりそうにない。


『いや、待ってくださいスオウ。道を示すバランス崩し……それは未来視に似たような力で、道筋 を見通すのなら、私達には願ってもない物かも』
「そう……なのか?」


 必要な事なのだろうか? けど確かに未来視とか言われると何か凄いことが出来そうな気がしないでもない。だけど未来が分かるとか流石のLROでもないんでは……選択肢を提示して選ぶとかなら、確率の問題の様な気もする。
 実際どういう風に使うのかはよくわからないんだけど。


『まあ重要なのは未来視と言うか道筋ですよ。私達に足りない道筋を示してくれるのなら、もっと色々な事が出来るように成るかもしれないです』
「なるほど……」


 それこそ全然突破口が見えない自分の回復手段とかにこのアイテムが道を示してくれると? そんな事まで教えてくれるんだろうか? 


『そこはほら、法の書とラプラスで強制開放でしょ。きっと何か得られるものはある』
「出来る……か?」
『そんな風に迷ってる暇なんてないんじゃない?』


 確かに苦十の言うとおり、迷ってる暇なんて無いか。なにか出来る事があるのなら、やらないと。


「おっさん、起動してくれ」
「おう、我等に道を示せ」


 その言葉と共に、小さな白い石が輝く。でも僕達にはそれだけ。おっさんにしか方向を教えてくれないのかも––というかそうだろう。バランス崩しは認められた相手にしか使えないのが普通。けど……今の僕なら、無理矢理介入できる。何を知らせてるのかは知らないけど、とりあえず僕は輝く天啓の紋に指を置いて法の書とラプラスを展開させる。


「法の書にコード模写。ラプラスによって介入を開始する」


 浮かび上がる文字列。自分の中に入ってくる確かに僕に新しい扉を開かせる物だったようだ。てか、自分のバランス崩しが変な改造されてるにも関わらず、おっさんは詳細を求めてこないな。緊急事態だし、目を瞑ってくれてるのかもしれない。
 ありがたい。


「どうだ? 行けるか?」
「ああ、いろんな物が頭でハマってく気がする。この状況を切り抜けるために必要な力も見えてる」


 僕は巨大な陣を二つ出してそれを広げてく。陣の周囲にどんどん陣を追加して、離れてる仲間の元へ届かせる。実際、向こうもあっちも無事かどうかなんて分からないけど、天啓の紋も示したのなら、鍵になる二人はどっちも無事な筈だ。


「土地の縛りを開放する。それぞれに供給できる力に陣を通して変換––気付いてくれよ!」


 すると直ぐに変化は起こる。集まってた姉妹達に割り込める力が炸裂したんだ。そして大量の雨が僕達の体を包み込む様にして回復を始める。これがウンディーネのバランス崩しの力? まあ僕には回復まではおきないけど、それでも他の人達にとってはありがたい事だろう。
 バラバラに吹き飛んだ姉妹。すると今度は花の城が激しく揺れた。しかもなんだかデカイ衝撃音も世界には響いてる。


「はは、大人しそうな顔してあの女も大胆な事をする」
「アイリ……」


 どうやらアイリはカーテナで花の城をぶっ叩いているようだ。確かにカーテナならそれが出来る。視界に捕らえさえすればその攻撃を届かせる事が出来るんだ。あれだけデカイんなら、余裕だろ。レシアは物理的に守ってるわけじゃないし、カーテナの力はちゃんと届く筈。
 そして実際、僅かながら花の城は傾きながら下降し始める。


「やめ––––ろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 響く怒号。その瞬間、大規模攻撃でフエードアウトしてた雑魚共が再び超大量に出現する。地平線までうめつくすかの如く軍勢。


「ん……あれ?」


 動く気配がない。雄叫びも何も聞こえない。現れたけど、モンスター共は動かない。いやそれどころか、世界全体がなんだかとても重く成ってるような。百合の時魔法? ともおもったけど、世界全体に影響は既に起きないはずだ。
 それにこれはそんな処理をしてると言うよりも……頭に響くピーという警告音。そして表示された文字に驚いた。


『大量のプレイヤーアクセスを確認。優先処理をプレイヤー側に実行中です』
「これって……」
『どうやら外から大量にLROにアクセスしてるようね。まあダイブしてくる訳じゃないようだけど、臆病者達の援護なのかもしれないですよ。そもそもがこの世界はプレイヤー優先。だからこそ、ゴチャゴチャになってしまってる内部の処理と、外からの処理で世界に遅延が起こってる。
 この世界ではそうあることじゃないけど、経験はあるでしょ?」
「あっ」


 そういえば前にも確かにあった。サンジュルクでの戦闘で、不確定な者達が集まりすぎた時とかLRO自体が落ちたからな。あれと基本同じことが起きてるのか。それでも普段なら多分処理できるんだろうけど、今は世界に世界が重なろうとしてる滅茶苦茶な状態。
 そこに優先順位最高のプレイヤーからの大量のアクセスでLROのキャパが限界に近く達してて、更に無闇に雑魚を大量にポップさせた物だから、世界全体に処理落ちのような現象が起きてるのか。


「この……ポンコツ……が!!」


 流石の姉妹も世界自体の処理落ちには勝てないようだ。アイツ等も周りと同じようにかくかくしてる。まあそれはそうだろうな。システムの外側の存在と言っても、システムがあるから生まれた存在だ。
 システムの処理落ちには勝てない。僕達も動き重いけど、優先順位高いだけに、奴等ほどじゃない。けどNPCや精霊達は動きが極端に遅くなってるからな、プレイヤーだけでやるしか無い。そんな事を思ってると、空にチカチカと光を反射する何かが出現する。


「あれは……鏡か!? 異様にデカイぞ!!」
「ミラージュコロイド? ノウイ?」


 でもアイツの姿は見えない。でもあのデカさ……あの位置へ出現……これって……ミラージュコロイドは落ちだした花の城の真下に現れてる。そしてもう一枚が地上の直ぐ側に……ミラージュコロイドを通せば、一気に花の城を落とせる!


(そういう事だろノウイ!)


 ここで僕達が徹することは簡単だ。あの鏡を守り、アイリを守る。まあアイリにはアギトという騎士がついてるだろうから、僕達はシクラ達の行動を封じる! 今の遅い動きの奴等なら、コレで行けるはずだ!


「スレイプニール!! 奴等をしばれ!!」


 新たに作った陣から放たれる錬金の楔。それらがシクラ達に絡みつく。作り方はインテグ通して理解してたからな。でも普段のアイツラには通用なんてしないから、使う機会なんか無かったわけだけど、今こそその使い所だろう。
 今なら捕らえれる。それに数秒だけでも、その行動をしばれる。しかも今こっちには飛べる奴はプレイヤーではセラだけ。皆の力を活かすなら、これを引っ張ってもらう方が効果的だ。


「おっさんコレを!!」
「任せろ!!」


 オッサンと軍の人達が一斉にスレイプニールの紐を引く。少しの間だけど、これで時間は出来る。後はこの間に少しでも花の城が鏡に触れれば……それだけで一瞬で地上に近づくことになる。世界に響き渡る大きな音。カーテナの攻撃は続いてる。もう少し……もう少しで……


「レシア姉! いつまでも寝てる場合じゃないって!!」
「う〜ん、しょうがないな~」


 しまった。レシアの奴は高い位置に居るから、捕まえてない。流石に動くか。この状況なら其の重い腰を上げずには居られないだろう。けどそのレシアに向かう武器の姿が見えた。それは聖典だ。今の状況でレシアの位置まで飛べるのは聖典か、ウンディーネの人達しかいない。
 ウンディーネも向かってるようだけど、いかんせん機動力は圧倒的に聖典が上だ。聖典は一斉に砲撃を開始する。だけどそれを片手で展開した障壁で弾く。すると弾いた攻撃が全て鏡に向かう。弾かれたらもっと無作為に広がるだろうに、明らかに鏡だけに向かってる。
 これは確率か? そう思ってると、ウンディーネの人達が何とか身を呈して鏡を守ってくれる。聖典自体の攻撃はそこまで強力じゃないからな。でも鏡は脆いからそれでもきっと壊れてただろう。ウンディーネの人達の判断は正しい。しかもその身を呈さないと確率ですり抜ける……なんて事が起きたかもしれないしな。


「残念。う〜んあんまり傷つけてほしくないし、あの子殺した方が確率的にいいかな?」


 そう言った瞬間、再び一斉に攻撃する聖典。だけど次の瞬間聖典は爆散する。


「何が起きた? 攻撃されたのか?」
「いや、今のは……」


 オッサンには見えなかったようだな。レシアの奴は攻撃なんかしてない。ただ弾いただけだ。それで弾いた攻撃が全てそれぞれの聖典にぶつかった。全て都合のいい様に出来るのかアイツは? そうだとするならまさに最強だな。処理落ちの影響もアイツだけは薄い様だし……それも確率なのだろうか?
 レシアの奴は下を目指して加速する。下からあがる炎。あれはきっとアギトだろう。それに他の攻撃も見える。だけどそれら全部触れもせずにレシアは地上にその衝撃を与えた。モンスター共が邪魔で向こう側が見えない––と思ったら雑魚共が再びドロップアウトしてく。ありがたい……と思ったけど、これは不味い。
 多分処理落ちを改善するためにシクラ達が引っ込めたんだろう。それはつまりこいつらが消え去ると同時に奴等の進軍が再び始まるということだ。それを覚悟しつつ、消えいくモンスター共の先を見つめると、視界には衝撃の光景が入ってきた。
 胸を貫かれたアギトの姿。そのHPに残量は見えない。シルクちゃんも地面に倒れたまま……このままじゃ……


「アキ……ト」
「なにやってる……後一撃だ! やれアイリ!!」


 涙が飛んで腕を振り下ろすアイリ。世界に響く衝撃とともに花の城は鏡に吸い込まれる。それと時を同じくしてアギトの姿オブジェクト化して消えてく。その最後の時に、目が合った気がした。だけどそれを考えるまもなく僕達の頭上に花の城が現れた。
 そしてそれと同時に一気に僕の目の前にシクラ達が命を取りに来た。


「ここまでだ!」
「ばいばいスオウ!」
「コレ以上はないから」
「さようなら〜」
「終・わ・り☆」


 全員が一気に僕を……だけどその時、ボロボロになって動作停止してたはずの聖典が一気に加速してこっちに向かってくるのが見えた。


(一か八かだ!!)


 僕はセラを信じてその聖典に飛び乗る。そしてありったけ出してた回復薬を口に突っ込む。聖典はシクラ達に真っ直ぐに突っ込んでいく。すり抜ける気だと分かってた。だからこそありったけの回復薬をつっこんだんだ。
 HPが一でも残ればいい。いや、確率を握られてる以上それは無いかもしれないけど、なくなったってタイムラグで……


「アンタだけにいい格好させないわよ!! フラワーガーデン!!」


 荒野に成ってた地上に咲き誇る花々。そうか、シクラ達が動けるようになったって事は孫ちゃん達だって動ける筈。これで多少は生きる希望が出てきた。聖典は驚異的な動きで姉妹の攻撃の直撃を避ける。それでも体に刻まれる痛み––苦しみ––それらを耐えて僕はシクラ達の背後に出る。HPはまだ残ってる!


「こっの––しぶとい!」


 すぐさま追いかけてこようとするシクラ達の前に召喚獣とテトラが立ちはだかる。それでも何秒保つか分からない……けど充分だ。聖典は速く、花の城は充分な位置に落ちてきてる。数秒で充分。皆の力のお陰で、僕は届く!!


「「「いっけええええええええええええええええええ!!」」」


 背中に聞こえる沢山の声。けどその時、聖典が真っ二つに割られた。誰が? とかどうやって? は二の次だ。僕はそれでも諦めない。僕は爆発する直前に聖典を蹴った。そして足場を作って一歩を飛ぶ。
 その瞬間聖典は爆発する。その爆風を掴んで僕は昇る。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 手が届いた瞬間、僕は宣言する。


「この世界の改変に介入する!!」



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