命改変プログラム

ファーストなサイコロ

空の花

 空間を歪めて現れる花の城。その出現と同時に漂い出す鼻を擽る香りと、舞い出す無数の花びら。そんな中、花の城の縁に立つ人物の姿が目を引いた。月明かりの様な輝きを放つ長い金髪。そしてその細長い脚や腕を惜しげも無く見せる服装。
 こっちの……というかリアルの防御力的に弱そうな格好だ。まあアイツ等的にはそこら辺気にしてないっぽいからな。だけどちょっとミニスカ過ぎるんじゃないか? さっきからチラチラと風がいたずらしそうで見えそうで見えないのが悩ましいぞ。
 これも僕の煩悩を刺激しようと言う巧妙な作戦か? 流石シクラ、汚い奴だ。


「お〜い、スオウ〜来たよ〜〜☆」


 何とも軽いノリでそう言ってくるシクラの奴。まるで友達が家に訪問してきたみたいな気軽さだ。よくそんな気軽に声かけられるな。今僕達は最終決戦とも言えるバトル繰り広げてる筈だろう。それなのに何なんだあの脳天気差は。
 まあシクラの奴は大体ああいう奴だけど……ああいう風に何も考えてない様に見せて、色々とえげつない事を考えてる奴だからな油断はできない。


「スオウ……」
「全員警戒はしとけよ」


 心配気な表情をしたアギトの奴から皆に視線を向かわせてそう言った。今の僕には皆を守るって事は難しいからな。それぞれに警戒してもらうしか––


「あれが親玉なんでしょ、なら先手必勝じゃない!!」


 そう言って飛び出したのはメカブの奴だ。背中の車輪の様な武器を構えて、シクラに向かって投げつける。車輪の様な武器は一つに炎を、もう一つに雷撃を宿してシクラに向かって真っ直ぐに進む。


「おいメカブ! 幾らアイツ等に効果的な陣があるからって無闇に突っ込むな! そんな甘い奴等じゃないぞ!!」
「大丈夫だって、まあ見てて!!」


 メカブの奴は腕を振るって、真っ直ぐに向かってた車輪をお互いにぶつけあう。そのせいで車輪はシクラに向かう軌道から直前でズレた。回りこませる気か? まあ流石に素直過ぎる攻撃じゃ無理と思ったのかも。
 けどその後もメカブの奴は何回も何回も、シクラの周りで車輪をぶつけて行く。すると僕は気付いた。ぶつかった車輪の場所には何か残ってる。なんだか火の玉と言うか……弱々しい炎の欠片みたいなのだ。それが無数にシクラの周囲に散らばってる。


「その余裕面、曇らせてあげる」


 その言葉と共に雷撃が炎の欠片を走って行き、連鎖的に起きる大爆発。耳に届いた音が脳をぶっ叩いたみたいな衝撃が僕達にも走ったよ。なんてえげつない攻撃。こいつ……シクラの癖にマジで結構やるのか? なんかテッケンさんの反応も変だしな……そもそもLROやってるなんて言ってなかったような。
 メカブなら、これだけの強さを有してるのなら、絶対に自慢してくるだろうに……だってこいつ僕達以外に友達居ないっぽいからな。絶対に嬉々として言ってくるだろう……だけどそれは無かった。なんでだろうか?
 単純でイタい奴だとばかり思ってたけど、案外複雑な所でもあるのだろうか?




「どう?」
「どうって言われても……」
「何よその歯切れの悪い言い方。折角速攻で一人倒したってのに。感謝しなさい」
「いや、あの程度で倒れるシクラじゃねーよ」


 認めたくはないけどさ、認めるしか無いチートがアイツ等だ。あの程度で倒せるわけがない。メカブの奴は対峙した事がないからわからないんだろう。それに物凄く今の自分に自信もあるようだ。だからこそ認めたくないのも分かる。
 けどさ、アイツ等と一度でもやりあえば分かる。そんな甘くはないって事が。


「ケホケホッ––全く突然失礼な奴だね。折角この日の為に服を下ろしたのに、直ぐに汚れちゃったらどうするのよ。弁償させちゃうぞ☆」


 服に汚れが無いか確認するようにクネクネしながらシクラの奴はそう言った。分かってたことだけど、埃一つついてないな。いや、今までと今の攻撃は違う。それなのに埃一つついてないのは頂けないかも……


「ちょっとどういう事なの。全然効いてないじゃん」
「どういう事だろうな」


 確かに倒せはしなくても、それなりに効果があってもおかしくはない……と思うんだけど。コレまでの様に余裕綽々では居られなく成ってる筈。元に蘭達はそうだった。何か仕掛けがある? 何が? そう思って見てると、視界が通常の景色とは変わる。
 色も輝きも普通に見えてた物とは違って、データの様に見える。モデリングされた様に見える世界。そこには様々なデータが流れてる。だけどそれは一瞬だ。瞬きをするといつもの景色。


「アンタの陣が私達にも入ってるのよね? それなら効果ある筈でしょ?」
「あ……ああ、その筈だけど……」
(何だ今の……いや、待てよ)


 コレが初めてじゃない。時々そう言う風に見える時はあった気がする。そもそも今の僕だってシクラ達と同じようにシステムへの干渉を果たしてる。その影響で、データまでも認識してるのかもしれない。普通は世界の裏側で動いてる物で表面には出てこない……いや、見えない物が、今の僕には見えるように成ってしまってる。
 でもなんだろう……頻繁にそうなる訳でもないんだよな。何か……意思を感じるような。そういえば、あの声は最近聞こえてこないな。体を乗っ取られる事もない。結局何だったのかよく分からないけど……そういうのの全てを解明できる訳でもないよな。
 今は目の前に事に集中。そして僅かに感じる意思を汲み取って僕は目を閉じてもう一度目を開く。するとまたあの視界に切り替わった。


【スオウ】
【苦十か、分かるかコレ?】


 どうやら苦十の奴にも見えてるようだな。同じ脳内に居るような物だし、当然か。その御蔭で、僕達は理解を共有できる訳だしな。


【そうですね。色々なデータを統合して推測すると、アレは世界に存在してないですね】
【意味がわからん。あるじゃん、見えてるぞオイ】


 もっとわかりやすく言えよ。そもそもデータがあるんなら存在してるだろ。存在してないものにデータなんて無いんだから、そもそもがおかしいんだよ。


【そうですね〜けどアレは存在してないんですよ。この世界には】
【この世界には?】
【ええ、アレが今存在してるのは、新たに構築されかけてる世界。推測ですけど、アレを中心に世界を再構成する気何じゃないんですか?】
【そういえば……】


 花の城に侵入した時、何か大掛かりな儀式っぽい事をやってたな。そもそも奴等の居城だ。何か重要な物である可能性は大いにあるじゃないか。アレが……あの城そのものが奴等の鍵。


【––て事はだ、アレをここに持ってきたって事は……】
【中心地になりかけてるこの場所で行う気でしょうね。扉もあるし、条件としてはいいんでしょう】
「頭の中のお友達との会話は終わったかなスオウ☆」


 っつ!? 何こいつ。気持ち悪い。なんで分かるんだよ。頭の中まで読むなよ。


「そうだよ〜この花の城の存在空間はLROとは違う。だからこの内部ではLROに順した攻撃手段は効かない。残念だったね☆」
「なによ……それ」


 メカブの奴が唇を噛み締めてる。確かにそう言いたく成るな。あの花の城の空間内に居る限り、どんな攻撃も受け付けないとなるとな……手のうちようが……いや、今までは確かにそうだった。けど、今は……今こそ僕の出番でもあるよな。


【苦十、解析出来るか?】
【難しいですね。あれはもう全くの別物。どうしても解析したいのなら、それ相応のデータが必要ですね】
【データか……】
【ええ、つまりは奴等……いいえ、あのシクラとか言う中心人物のコードがあればまだ何とかなるかもですね】


 確かに解析するために一番手っ取り早いのはそれを知る者の口を割らせる事。実際口を割らせるのは難しくても、コードさえ抜き取れればどうにかなるかも知れない。けど、それだって一筋縄じゃいかないだろう。


「スオウ、君はよくやったよ☆ だけどね、最後に勝つのは私達」


 そう言って手を掲げるシクラ。すると花の城からまた見たこともない陣が出現した。そしてその最初の一つを中心にして、空に描かれて行く無限とも言えるその続き。それはあっという間に視界に見える範囲を越えていく。


「一時間。この空の全てが覆われる時、改変は始まる。どうする? まだ遊ぶ?」


 そう言って軽く微笑むシクラ。一時間……急に知らされたタイムリミット。だけどそれは考え方によってはそれだけの猶予はあるって事だ。一時間なんて短い様に感じるけど、今まではいつ始まるか分からない改変に……いや始まってはいたのか。
 いつ終わってしまうか分からないこの世界の改変にビクビクしてた。それが明確な時間で知らされたのはその時間まで、余計な事考えずに集中出来るって事だ。
 なんだって考え方次第……自分自身が諦めた時が負けた時。皆は一時間と言う言葉に同様を隠しきれてない。表情に出ちゃってる。だけどウンディーネに転生してるラオウさんだけはなんか違う。一人ブツブツと呟きながら何か指折り数えてる? 一体何を? 神に祈ってるって訳でも無さそうだけど……まあここは取り敢えず、こう言っておこう。


「当然だろ。一時間……充分だ。LROは改変させない。そしてセツリの奴を外に連れ出す。捕らわれた人達も開放させる。それでハッピーエンドだ!」
「そうこなくっちゃ☆ けど、そうは成らないよスオウ! 私達がさせない。セッちゃんの逃げ場所を作ってあげるのが私達姉妹の役目。皆!!」


 シクラの掛け声と共に、集う姉妹達。シクラを中心に右側に年上陣、左側に年下陣が集ってる。てか……なんか柊の奴居るんだけど。おいおい倒せてないじゃないか。超ド派手な一撃を浴びた筈だったのに……あれで倒せないのか。
 柊の奴は僕の視線に気付いたのか、こっちを睨んできた。なんだか不機嫌そうだ。そしてプイッとそっぽを向いた。嫌われたか? そもそも好かれてたかどうか知らないけど……もしかして結構辛酸を舐めさせたのだろうか? あの反応はそんな気がしないでもない。
 姉妹達はその身に光を帯びてる。一体何をしようとしてるのか……


「誓を果たす時は今。皆、ここからは全力全開でいっくよ! コードリリース––ツヴァイ」


 ツヴァイ!? なんだそれ? 隠し球か! 見た目的にあんまり変わってるようには見えない。光ってるのは前からだし、言うなれば前も見た空間に描いた様な羽がシクラからは生えてるくらいか。
 他の奴等もそれぞれ翼を出してるけど、柊とかは元からだし、蘭だってちょっと前からコードリリースしてたはず……炎の翼が出てるけど、それだけ……なんて事はないよな。


「ツヴァイは効率化を測った第二バージョンだよ☆ スオウのやってるの見て、思いついたんだよね。私達のコードリリースも結構前に組んだ物だし、今はこっちにも法の書がある。だから出来るよね––って思ってね」
「効率化……それだけなのか?」
「それだけ? それだけかどうかは、戦ったら分かるんじゃないかな☆」


 そう言った矢先に真っ先に動き出したのはヒマワリと蘭。ヒマワリが「おっさきー!」と飛び出して蘭の奴がそれに続いて向かってくる。


「アギト! 皆!!」
「わかってる。こっちだって出し惜しみしてる場合じゃない! 行くぞ!! ナイト・オブ・ウオーカー」


 その言葉と共にアギトの装備が変わる。いつもは槍な訳だけど、そのスキル発動時には大剣と盾を持つスタイルへと変わる。そして各々、武器を構える。だけど取り敢えず……


「天道さんとラオウさんは下がってた方がいいかもです!」
「それはお前もだ!!」


 肩を引っ張られて後ろに押しやられる僕。アギトの奴は前に出てその盾を掲げた。するとピクの前方にアギトの持つ盾が大きく投影される。


「こんなもん!! ぶっ飛ばしちゃる!!」


 ヒマワリの振りかぶった右ストレートがその投影された盾とぶつかり合う。その瞬間周囲に拡散する凄まじい衝撃。すると前方からでっかい何かが衝突して来た。


「っ……なん––アギト!?」


 どうやら今の一撃を受け止められずに吹っ飛んできた様だ。前に居る他のアイリとかはここまで衝撃を受けてない所を見るに、あの盾で受けた衝撃の殆どはアギトの奴に還元されてるって事なんだろう。


「おい無事か?」
「あの野郎……どこにあんな力あるんだよ」
「良かった。どうやら大丈夫のようですね」


 ラオウさんが支えてくれたからピクから落ちずに済んだ。危ない危ない……ラオウさんのデカさはなんだか安心感を与えるよな。こっちではその強さがどれだけの物か分からないけど、やっぱり頼りがいはある。


「退けヒマワリ!!」
「ええ〜って! ちょっとタンマ蘭姐!!」


 ヒマワリは後方を確認して慌てて横に移動しやがった。ヒマワリの更に後方には蘭の奴がその剣を掲げてる。天叢雲剣……その刀身は確認できないけど、蘭の奴の気合の入りようは一目瞭然だ。奴の背中の炎の翼。それが数百メートル四方に伸びてる。


「シルクちゃん、あれはヤバイ! 避けるんだ!!」
「けど下はブリームスです!」


 そうか……確かに僕達が避ければ被害は下に及ぶ。下でだって戦いは続いてるだろう。上からの不意の攻撃にどれだけの被害が及ぶか……


「忘れたか? この剣から逃れる術はない」


 そんな言葉が聞こえた。それと同時にピクの羽ばたきがぎこちなく成って、体が蘭に引き寄せられてく。


「どうしたのピク!?」
「引力だ。あの天叢雲剣っていう武器には対象を引き寄せる力がある」
「元から避ける選択肢なんてないということだったんですね。それなら––ピク!!」


 ピクはシルクちゃんの声を受けて口の前方に炎を収束し始める。だけどそこに撃ち込まれる攻撃。そのせいで不完全だった炎がピクの顔面で爆発した。大きく唸るピク。揺れる体に僕達は必死にしがみつく。


「おとなしく斬られてなさい」
「シクラ!」


 あの野郎。そうこうしてる間に振り下ろされる一撃。足場の状態が悪くて振り落とされないようにしがみつくのがやっと。これは……


「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 黒い光と青い光が背後から僕達を追い抜いた。そして天叢雲剣にぶつかるそれは……


「テトラ、それにリルフィンか」


 でも二人だけであの攻撃を受け止めれるなんて……いや、二人だけじゃない? 大きな陣が僕達の少し下に展開してる。どうやら中央寄りの人達が集まって下支えしてるようだ。だけどそれもいつまで保つかだし、ここで動くべきだろ。


「メカブ! 蘭の奴を狙えるか?」
「当然!!」


 メカブは車輪を蘭に向けるけどそれを柊の奴が氷で撃ち落とす。シルクちゃんに頼んでもう一度ピクに炎を打ってもらう。今度は溜めよりも拡散性重視の奴だ。口の前の炎から前方広範囲に広がる炎の弾。コレならそれぞれに対処するしか––そう思ったけど一生懸命避けてるのは一番近くのヒマワリだけで後は柊の天扇一つで全ての炎が凍ってた。
 こいつらホント中途半端な攻撃は一切効かないな。今のピクでさえ、最大級の攻撃でしか削れないなんて……


「うおおおおし! 蘭姉が駄目ならヒマしか居ないよね!!」


 そう言って加速して突進してくる。ヒマワリ。その前にアイリが立った。


「無茶するなアイリ!!」
「無茶? 笑わせないでださいアギト。私達全員、無茶するためにここに来たんですよ!!」


 アギトを一撃で吹き飛ばした拳がアイリの華奢な体に迫る。一撃で粉砕されてもおかしくない。けどアイリはちゃんと見て、呼吸を整え、その細い剣の側面で優しく触れて、そして一瞬で二人の位置が入れ替わる。


「受け流した!?」
「ガラ空きです!!」


 アイリは素早くヒマワリの背中に四連撃を叩き込む。歯を食いしめるヒマワリ。やっぱり効くようには成ってる。けどあの程度じゃ奴等の動きを止めることは出来ない。ヒマワリは振り向きざま踵を決めに来る。
 けどそれをアギトの奴が盾で受けて止めて今度こそピクから落とされてた。おいおい誰も居ない方にふっとばされたせいで誰の手も届かなかったじゃないか。引力のせいでピクは動けないし……ご愁傷様アギト。


「おいスオウ! 貴様の知り合いが落ちてきたぞ!!」


 あれ? ピクの隣にグリンフィードが……そのテラス部分に所長やフランさん、クリエとかと一緒にアギトの奴も。悪運の強いやつだ。


「アギト、良かった」
「余所見してていいの!?」


 アイリとヒマワリは交戦中。なんとか戦えてる様に見えるけど、完璧に決定打に欠けてる。カーテナさえ使えれば……そこにテッケンさんも参入して二対一に。取り敢えず他の奴等が参入する前にこの引力から脱さないと。
 そうしないとテトラもフィンリルもヤバイからな。そう思ってると目の前にフランさんの二体の錬金人形が来た。そして何故かインテグの奴も居る。


(引力脱出やるで!)
「脱出……確かにそれをしないとな。いや、待て」
(なんや? 大丈夫ウチ等なら出来るで!)
「確かに出来るかもだけど、それじゃあダメだ。それじゃあ……」
「テトラ! リルフィン! それにシルクちゃん」


 僕は視線で合図を送る。考えがある。それを伝える距離にいるのは三人の中ではシルクちゃんだけだけど、大丈夫あの二人なら理解してくれるだろう。法の書を広げて、僕はアビスのペンを走らせる。


「うわ!? なになに?」


 ヒマワリの奴が慌て出す。無理もない。何故なら僕達は一斉に蘭の攻撃に更なる勢いでぶつかっていってる。だって下には支えてくれてる皆が居るんだ。避けれないだろ。それなら潰すしかない。そしてそれなら、奴のこの引き寄せる力を使うんだ。


「ピク! 大きくなった意味を今ここで見せよう!!」


 その言葉に一鳴きするピクは羽を広げて輝きをます。そして激しく回転してテトラ達と共に天叢雲剣にぶつかる。


「私だって!! お願いアンダーソン!!」


 後方から追加されるグリンフィードの主砲。それらがあわさって僕達はその攻撃を弾く。そして一気にシクラ達を飛び越える。上から奴を見下ろした時、不敵に笑うシクラの奴と目が合った。



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