命改変プログラム

ファーストなサイコロ

押し開ける事

「奴等を暴く……やるぞ!!」


 僕はそう言ってスレイプニールを掴む腕に力を込める。そして僕の掴んでるスレイプニールの少し前に、二体のちっこい奴が居る。フランさんの相棒––というかアイテムというか、そんな二体だ。一体は銀甲冑に身を包んだ様な格好いい感じの奴で、もう一体がてるてる坊主みたいな奴。
 その二体の力も加えて、僕は蘭達への侵攻を開始する。グリンフィードの攻撃が消える前に、三人の中身を、その存在を、そのチートを解き明かせれば奴等への対策になる。これからの為に
……勝利を呼び寄せるために、これは必要な事だ。
 覚悟と共に左手に現れる法の書。そして右手の人差し指についてる謎のアイテムが勝手にその爪を突き立ててスレイプニールにへと刺さった。なんとなくだけど、これは僕の意思を汲んでくれたって事なのかも知れない。
 僕のやろうとしてることをこの普通じゃないアイテム達は手助けしてくれようとしてる……そんな気がなんとなくだけどする。


「クリエ、テトラ、力の解放を」
「分かった」
「くれぐれも慎重にしろよ。お前はまだ操りきれてないんだからな」
「分かってるもん! テトラのバーカ!」


  クリエの奴がテトラの言葉に舌を出しながらそう言った。全く、緊張感が無いやつだ。実際一番の不安要素はクリエだぞ。以前とは違って、少しは自身の中の力を操れる様になってるけど、実際繊細なコントロールなんてまだ出来ないだろう。
 ただ、爆発さえしてくれなければ後はこっちで調整出来る筈。抑えるというか、無駄な部分は周囲に流せばいい。それでバランス取る。元々テトラの力と女神シスカの力は相反する力だ。繊細なコントロールはテトラ自身と僕でやるしか無い。
 クリエは唯一この世界で二人の神の力を宿してる存在。ハッキリ言えばクリエが完璧に自身の力を操れるのなら、テトラは必要じゃない。けど二つの力を同時に引き出すとどう考えても爆発オチは目に見えてるからな。だから今回は片一方の女神の力だけを対象にしてもう一方はオリジナルであるテトラに任せる。それが懸命だろう。
 だけど神だけじゃ外せない道……通れない裏側……その為の錬金。


「所長もそのアイテムを」
「分かってる。天命の環はお前の法の書に近い力を持ったアイテムだ。二つの法の改竄からは逃れらないよな」


 そう言ってバッバッバと無駄なポーズを決めながら両手を前へ出す所長。するとその両手にあるリングが大きくなって僕達と中心の光を無限の環を表す様にして包んだ。どうやら天命の環なるアイテムはフランさんの内装破壊の礼機と連動してるところがあるようだ。
 役割を分担してると言うか、フランさん側のアイテムが敵の情報の収集と解析、理解をしてそれを天命の環で有効な手で実行するみたいな。だからどちらかと言うと天命の環は三種の神器でいうところのバンドロームの箱の方が近い様な気がする。
 けど確かに法の書の様な力がない無いわけでもない様な気はする。あれだな、法の書とバンドロームの役割を少しズラして実現してるような……たぶんそんな感じだろう。まあ詳しいことは僕には分からない。けどこんなアイテムを作ってたなんてとんでもない奴が居たもんだ。
 そんな事を思ってると突き刺さる光を持ち上げる様にして姿を現す二人の姿が見える。


「うがががっ––こんなのに負けない––––よ」
「踏ん張れヒマワリ! もう少し……だ!」


 それはヒマワリと蘭。やっぱりこれでも駄目か。服とか肌に多少の汚れは着いてるけど、出血とか見えない。そもそもHPの減り具合も……ここはまあいっか。どうせ心がダメージ受けるだけだからな。
 二人は元気そうだけど、柊の姿は見えない。どうやらコードを引っ張り抜いたのはかなりショックが大きかったのかも知れないな。蘭達がそれなりに必死そうなのも、柊を守るためかも。あいつ末っ子で可愛がられてるからな。
 まだ蘭達はこの場所に固定されてるけど、それも長くはない。早く始めるに越したことはない。ヒマワリの体にはスレイプニールがまとわり付いてるけど、それをまずは三人に伸ばす。三人に直接干渉するんだ、接点が必要だからな。
 それはそこまで難しい事じゃない。ちょちょっと操作すれば、スレイプニールから枝葉を伸ばせる。そうやって蘭と柊にスレイプニールを絡ませて……ここからが本番だ。溢れ出るテトラとクリエの力。それを使って侵食し、法の書に内装破壊の礼機を使ってあの姉妹の中を暴く。出来るだけコードを抜き出すんだ。


 テトラとクリエ、それぞれの足元で展開されてる魔法陣。その魔法陣はそれぞれ黒と白。そしてソレよりも大きく無限の印は回ってる。二人の溢れる力を制御して、蘭達への侵入経路をスレイプニールを通してウイルスみたいに送り込む。
 これにはさっき柊に使ったコードを応用だ。


「蘭姐! なんか気持ち悪い感じがする!!」
「どうやら柊に仕掛けた事をする気のようだな。小賢しい、プロテクトを掛けておけヒマワリ!」


 プロテクト? そんな事出来るのかよ彼奴等。だけどあれ? なんかヒマワリの反応が芳しくない。


「うん! ……うん? ぷ……ぷロポーマメント?」
「プしか合ってないだろうがこのバカ!」


 なんで長く成ってるんだよ。どういう間違いだ。流石バカ。斜め上を行ってる。けどこれはチャンスだ。ヒマワリへまずは意識を集中する。


(苦十!)
(待ってください。色々とこっちも大変なんですよ。神の力、今までの情報の整理、法の書の強制介入の道標は……)


 自分の頭と苦十の頭……二つを使って流れこむ情報を処理する。そこにフランさんの二体の力も借りて、更に近くを漂ってたインテグの奴を引き寄せる。


【なんやねん!?】
「お前の中の知識も貸せ、錬金の知識が詰まってるんだろ」


 法の書を使って強制的にインテグと繋がる。頭が情報だけで破裂しそうだ。血液の代わりに流れこむ情報達が肉体を駆けまわってるかのよう。だけどまだだ……ヒマワリの表層をこじ開けた程度。蘭も柊も開ける。まあ柊の奴は開いてるから、後は蘭だな。
 だけど繋がった時から気付いてた。


(蘭の奴、綻んでるな)
(多分さっきそこのマッドサイエンティストが強制的にコードリリースを解除させたのが原因でしょうね。けど閉じつつある。あれがプロテクトなんでしょう)
(完全に閉じる前に差し込むぞ!!)


 テトラとクリエ、二人の魔法陣が無限を記す模様に溶け込む様に組み込まれてく。そこから更に地面にいくつかの陣が発生しては消えていく。周囲の人達は何をしてるかなんか分かんないだろう。ただ囲んでだけで直接的な事はやってないからな。
 けど……固唾を飲む雰囲気は伝わってくる。本当なら蘭達が普通に姿を見せた瞬間にもまたまた絶望が広がってもおかしくはなかった筈だ。でも、皆僕達の行動を分からなくても、理解してるんだろう。まだ対抗できるはずだと、信じてくれてる。


「スオウ!!」


 クリエの叫びが聞こえた。僕は咄嗟に「動くな!!」と叫ぶ。今クリエに動かれた困る。力の供給をしてもらってるだけだけど、それだけじゃない。二人の……いや、僕達四人の位置は重要なんだ。
 錬金も魔法も陣の基本は円だ。力の創出とそれを利用するための円環を模しての位置。今様々に組み替えてる陣は僕達の位置を基準に創成してるんだ。まあ偉そうな事を言ってる割にはどっちの力も深く理解してるわけじゃない。だけど不思議と分かるんだ。大切な事だけは察せれる。それに流れ込む情報の理解は積み重なってる。追いつかないほどに。それならば何故、魔法も錬金も理解出来てないかと言うと、多分僕の理解は滅茶苦茶だからだ。
 順序を追ってるわけでも、錬金と魔法を分けて考えてる訳でもない。大量の情報とその理解と法の書のゴリ押しで、僕はシステムを捻じ曲げてる。沢山の情報とシステムの中に見える僅かな繋がりそうな糸、それを繋げたり離したり、更に違う法則を組み込んで、描くのは奴等を暴ける陣だ。


「でも……スオウ血が!」


 そう言うクリエの言葉で気付いたけど、確かにまた目とかから血が流れてるようだ。ぽたぽたと手元にある法の書にソレが落ちてる。法の書もさっきからずっとページがめくり続けてるし、血なんて落ちても見えなかったよ。そもそも視線落としてなかったし、僕の視界に映ってる風景は普通とは違ったからな。


「気にするな。こんなのどうってこと無い。直接戦闘出来ないんだ。この位はやらなきゃだろ」


 コレは今の僕が出来る唯一の事で、そして僕にしか出来ないことだ。だからやめる訳にはいかない。


「ヒマワリ、少し持ち堪えろ。周囲を蹴散らす!」
「オッケー蘭姐。やっちゃえ!!」


 蘭の奴は天叢雲剣に手を伸ばす。けど、そんな事させてたまるか!! 足元に展開してる組変わり続ける陣が一際大きく輝く。中心から周囲に広がる色の違う光。それが通ると頭に響くカチカチカチと言うはまるような音。スレイプニールを通して蘭のプロテクトにギリギリ差し込まれる組み合わさった陣の力は奴のソレを打ち砕く。


「何!?」


 見た目に変化はない。けど……自身でプロテクトなんかを掛けれる蘭はそれに気付いたようだ。


「これで三人とも丸裸だ!」


 組み合わさってた陣が崩れる。そして再び様々形が現れては消えていく。今度は一人じゃない……三人。共通する部分や、違う部分、そういう比較が出来る。


「なに……これ? なんだか嫌な感じだよ」
「くっ……法の書か……いや、それだけじゃない……ここまでの条件が揃ってるとは……私達姉妹を丸裸にする気か変態め」


 変態って……お前達が言うと僕が悪者みたいだな。女ってズルい。変態言うと大抵被害者になれるんだから。確かに丸裸にするつもりだけど、別に服を脱がそうって訳じゃない。内部を暴くだけだ。出来ればなんだけどね。


「変態で結構……そろそろ出番だぞ所長!!」
「ようし、来い!!」


 覚悟を決めたそんな顔の所長。それに目もめっちゃキラキラしてた。けど次の瞬間、噴水の様に吹き出す鼻血。そして微動打にしないまま後方へ倒れこむ。


「ちょっとおおおおおおお!!」


 そう叫ぶのはフランさんだ。僕達はそのあまりのシュールさに声を失ってたけど、フランさんはとても心配そうな声をあげてた。普段は結構所長に対してツンツンしてるフランさんだけど、やっぱり一番所長の事を想ってるんだなって分かる。
 まあずっと付き合って来たんだもんな……フランさんの気持ちなんて誰もが分かる。当人を除いて。そんな風に思いながら見てると、所長の奴は倒れたまま伸ばしてた腕を力強く握ったのが見えた。そして声が聞こえてくる。


「騒ぐな助手。そこのバカと同じ、脳に情報が流れ込み過ぎてオーバーヒートしただけだ。だが、このマッドサイエンティストの最高の脳細胞を死に追いやるには足りない。ふふ、面白いぞ。貴様の描く陣、実現してみせよう!!」


 無限の奇跡を描いて回ってたリングまでも融け合う様に陣へと消える。そして更に新たに組出てくる陣が地面から沸き立って上下で挟む様に展開された。陣と陣の間の空間に走る無数の電流の様な物。二つの陣はリンクしてるけど、上と下では全くの別物……けどそこに歪はない。
 頭を焼き切るほどに酷使して完成させた神の力と錬金の交じり合った陣だ。行けるところまで行くぞ!!


「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああ!!」
「蘭姐ええええええええええええええええ! 一杯出るよおおおおおおおおおおおおお!!」




 蘭、ヒマワリ、柊の三人の体から溢れだすコード。それが上下の陣に吸い込まれてく。流れこんでくる被害にあった人達の情報や、ヒマワリ達の記憶。けど僕が求めるのはもっと奥の……核の様な物だ。それがあれば、大掛かり過ぎる世界ごとの改変なんて必要なくなるかも知れない。
 意識を集中して流れこむ情報を辿り奴等の奥の奥へ侵入する。すると遠くに何かが見える。蠢くコードの向こうに……輝く何か。あれがヒマワリ達の核なのかも知れない。あれを暴ければ! そう思って僕は手を伸ばす。けどその時だ。


「え?」


 意識が強制的に肉体にへ戻る。そして視界に移る光景に戦慄した。


「止まってる?」


 色褪せて見える世界は空気の振動一つない。誰もがこの現象を認識出来ずに固まってるようだった。じゃあなんで自分は無事なのか……その答えは輝く鍵にあった。


「愚者の祭典……そうか、これが時間干渉から守ってくれたのか」


 愚者の祭典も時間を操るアイテムの一つ。その使用条件は特殊だけど、所有者を守る機能とかあるようだ。僕の周りを覆う膜が多分愚者の祭典の干渉フィールドかなんかなんだろう。だけどいきなりこんな……こんな規格外の時間操作なんて出来るやつはやっぱり姉妹の一人だよな。
 確か長女がそんな能力だと聞いた。つまりはそいつもこの戦場に参戦してきたって事か。そんな考えをしてると時間が逆に流れ出す。全てが元に戻ろうと動き出す。コードを抜かれる……その前の状態へと戻りだす。


「させるかあ!!」


 時間が戻ればそれは無かった事も同然。ここまでの頑張りを無にされちゃたまらない。手元の法の書のページが溢れる様に周囲に飛散していく。法の書の千切れたページには輝く文字が刻まれてる。


(いける、僕の中にはまだ三人を暴いた情報も力もある!)
(そうですね。私の頑張りまで無駄にされては困るので、協力しますよ)
(苦十、お前は無事なんだな)
(私はスオウの一部扱いですから)




 なるほど。確かにそれなら無事なのも納得だ。それなら一緒に世界の時を取り戻そう。溢れ続ける法の書のページは空中とか、そんなの関係なくブリームス全体に広がってく。


「まあ、世界って言ったけど、流石にな」
(けど、ブリームスを動かせば付いてきてくれますよ。きっと)
「おう!」


 姉妹の力……それなら付け入る隙はもう陣に組み込んである。後は法の書とラプラスの出番だ。


「範囲固定、時間管理の法に強制介入。都市ブリームス……その時間を正しき範囲に押し戻す!!」


 周囲に散った法の書のページから広がる魔法陣が幾重もの線を辿って僕の元へ伸びてくる。僕は右手を法の書に押し付けると、それを時計回りに一捻りする。ページは敗れたりせずに世界からガチン––と言う音が聞こえる。
 けどまだ足りない僕は腕を元の位置に戻してもう一度腕を回す。それは古い時計のネジを回す様な事だ。そしてそれを繰り返す度に響く、何かにぶつかるような世界の音。だけど次第にセピア色に染まってた世界にヒビが入り始める。ネジを回す度に、違法な力で止められた世界の時に亀裂が入ってく。


「進めええええええええええええええええええええええ!!」


 思いっきり手を回す。手首と肘のひねりが勢いつきすぎてゴキッと響いてきたけど、その瞬間、セピア色の時間はガラスの様に砕かれて、色のついた元の時間が戻ってきた。


「よ––し!」


 何もかも元通り、そう思ったけど、そうじゃない。視線の先、柊達を固定してたグリンフィードの砲撃はなくなってて、そしてそこに居るのは三人じゃない。四人目がその姿を表してた。ちょっと地味めなローブに身を包んで体系を隠してるにもかかわらずに、隠しきれてない豊満過ぎる二つの胸が目一杯主張してる。だけど顔は童顔で、蘭とは明らかに違って優しいお姉さんの様に常にニコニコ。
 そんな彼女がローブから覗かせる白い腕を露わにするとそこにはカスタネット? みたいなのが現れた。そして彼女はそれを向きあわせてこういった。


「そ〜れっ!」

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