命改変プログラム

ファーストなサイコロ

芽吹いた芽

 ボロッボロした建物の前にやってきた。外れそうな看板に書かれた文字は『公認(仮)第四研究所』LROの中でこんなに訪れた場所はここが初めてかもしれないな。まあリアルでのイベント時は実際に訪れた訳ではなかったけど……あの時はまさかこのボロっちい場所がこんな重要な場所になるなんて思ってなかった。
 僕は周囲を見回す。この街には誰も居ない。ゴーストタウンのブリームス。ついこの前までは生活感で溢れてたは筈だけど、今はその存在は消し去れら、街だけが残ってる。


「まだ蘭の奴は動き出して無いようだな。それよりもよくよく考えたら、なんでもう一度復元してあるんだろう? この世界を改変する気なら、無くなった場所を元に戻す必要なんて無いはず……」


 二度手間……いや三度手間くらいいってなかろうか。わざわざ壊して戻して、また壊す。意味がわからないよ。もしかしたら別に奴等が戻した訳じゃないのかも。LROの機能とか。でもそれならゴーストタウンであるのはおかしいような気もする。
 人の復元までは出来ないようにしてるのか? でもどうだろう……繋がってるのなら、これは何かが始まってるとか?


「まあいいか、考えてもわからないし、さっさと過去で見たあのアイテムをゲットしないと」


 僕は第四研究所の中へと入る。そしてガラクタを通りすぎて壁際へと歩いた。思いだせ、再現するんだあのミニゴーレムがやってたことを。僕はその白い……というか黄ばんだ壁に指を付けて、その腕の動きを再現した。何を描いたのかは知らない。けど、僕の目はあの動きを見逃しはしないし、忘れもしてなかったようだ。
 なんだかこの目に特殊能力でも宿ったみたいだな。異様に視力いいし、動きもゆっくり見える時がある。メカブの奴じゃないけど、能力名が必要かもみたいに思える。これも可能性領域の拡張がもたらした副産物なんだよな。
 可能性領域とか実際はよくわからないけど、力が宿ったのならありがたい。有効に使わせてもらわないとな。


 僕が描いた何かに反応してくれた壁は過去で見た物と同じように穴が空く。だけどその時あれ? って思った。


「あれって、過去で起こった時間の映像の中に行ったみたいなだけだった筈。あの時に開いたんなら、ここはあの時に一度開いたって事になるよな? もしも僕が過去に顔を出したから後からああいう出来事だったと付け加えられたら、それはタイムパラドックスなのでは?」


 だけど過去に干渉は出来ない筈で、けどあの小さなミニゴーレムは僕の事をわかってたような……どうなるんだ? いや、違うな。どう、なってるんだ。このままじゃ本当にタイムパラドックス……どこかで時間の亀裂とかが生まれて深刻な事態にその内なったりしたら手におえないぞ。そう思ってると暗い穴を少し進んだ先に小さな石塚があった。それを見て僕は察するよ。それが何であるかを。


「これは……あのミニゴーレムか」


 町中には消え去る前にあれだけ各所に点在してた石塚が綺麗サッパリなくなってた。だけど……ここにはある。それは一体何を意味するのか……もしかしたらこの場所はあの時、消えなかったのかも知れない。だから再生されたワケじゃないのかも。
 だってミニゴーレムの石塚があるって事はあの時、過去でここに来た時のままって事だろう。どうして消えなかったのかは分からない。何か特殊な仕掛けがたぶんこの場所には施してある。それも、魔鏡強啓零に近い何かだと思う。
 僕達の予想では無事なはずなんだ……あの時魔鏡強啓零の扉の向こうに行った第一の奴等も。だってレシアの奴は確か「向こう側でせいぜい研究してればいい」とかなんとか言ってたはずだ。それって、あの消失に魔鏡強啓の向こう側は巻き込まることはないって意味だろ。だから多分、ここが無事だったのも同じ理由に思える。
 でも……だ。でももしもここが僕の予想通りに魔鏡強啓零に近い何かで守られたんだとしたら……それってとんでもない事ではないか? つまり第四研究所の誰かは魔鏡強啓零に辿り着いてたということに……


『持って行ってくれ。あの日の感謝の印だ』


 その言葉が脳内で再生される。あの声……あの時はバタバタとしてたから思いつかなかったけど……もしかして所長か? 今のじゃない。イベント時に出会った過去の第四研究所の所長。それならこの言葉を向けられるのも分かる。
 あの時必死に奔走して僕たちは過去の消えかけたブリームスを救った。アイテム手にして直ぐにイベントは終わったから、あの後ここがどうなったとか、所長達がどうなったとかは分からずじまいだったからな。
 別に第四研究所に焦点をあてたイベントってわけでもなかったから、後日談があるような物でもなかったんだろうけど、LROはあの時からもう息づいてたから、きっと何かは残ったんだろう。それぞれ一人一人に物語があるのがLROだ。だから所長達の物語だって、あのイベントの後で終わった訳じゃない。あの後も続いて、今僕達が居る時代まで第四研究所を残してくれた。
 僕はその小さな石塚を見つめつつ、一歩近づく。


「よし、踏んでみるか」


 僕は足を上げてその石塚の真上に持ってくる。精々三十センチ程度の高さだ、踏み潰すのなんか訳ない。だけどどうだろう……また声が聞えるかは謎だよな。そもそも崩れたゴーレムを踏んだのがキッカケだったのかも分からないし……たまたまタイミングが重なっただけかも知れない。
 そうだとしたら、この積み上がった石塚を壊すのは気が引ける。でももう一度声が聞けるなら……とも思わなくもないんだよな。そう思ってると奥の方から光が徐々に強くなってくる。なんだかまるでその存在を主張するかのような光。
「早くしろ」と言われてるような気がしないでもない。そうだった……あの時託されたのはこの光を放ってる物だ。僕に手にとって欲しいのは過去の思い出じゃない。これからの為に残してくれた、自慢のアイテムなんだ。
 僕は足を引っ込める。そして石塚の横を通って奥へと進んだ。奥には宙に浮く丸い容器があった。そしてその中で漂ってるのがそのアイテム。なんていうか……爪? つけ爪とかじゃなく、指一本を丸々覆って先っぽが尖ってる、まさに指の防具みたいなのがそこにはある。
 でも防具にしては随分と綺麗だ。金ぴかだし、装飾も凝ってる。赤い宝石が一つ埋まってる。そもそも指一本のガードなんて何の意味があるんだって感じだし、防具ではないんだろう。それなら一体これは何の役割を果たすための物なのだろうか?
 そう思って手を伸ばすと、突然僕の指に嵌ってる指輪から何かビームみたいな青く細い光が射出された。するとどうやら向こうからも、あっちは赤い色の光が射出されてる。そしてその光は互いにぶつかり合い、交じり合う。するとどちらのアイテムもそれぞれ別の色で光り出した。
 こっちは赤、向こうは青い光を発してる。そしてその光が徐々に強くなってアイテムも見えないほどに……それに心なしか熱くも感じる。


「一体何が……」


 そう思ってると僕の方の光がニュアアアアと伸びる。指の一箇所だけだった光が人差し指全体に広がる。その形はさっきそこにあったアイテムみたいな……そう思ってると徐々に光は収まってきた。そして露わに成るのはまさに今思ったこと。それが現実に成ってた。つまりは目の前のアイテムが今、僕の手に勝手に嵌ってるって事だ。
 強制装着されてしまった。しかもじゃあ指輪は宙に浮いてる容器の中に移ったのかと思ったけどそうじゃないみたいだ。どうやら同化してるみたいに見える。元々こうなる物だったみたいだ。直接間近に来たことでその輝きってのがよく分かる。でもなんだか指の一部だけこんな光ってると悪趣味っぽく思うな。そう思ってるとグググとどこからから力が加わる様な感覚が……


「おっ––ん? あれれ?」


 勝手に動き出す指が何かを宙に書き始める。いつもならその文字にどんな意味があるのかなんて分からない。けど、今の僕は理解や知識が拡張されてる。いつもよりはわかる。


『条件クリア。指定行動実施』


 多分そう書いてあった筈だ。文面から察するに、多分元から僕が嵌めたら動き出す様に作られてたようだ。所長(過去)は元からこのアイテムを僕に託す気だったようだし、この位の仕込みは出来るだろう。でも一体何を実行したのやら。そう思ってると、微かな揺れを感じる。地震? 蘭の奴が暴れだしたか? それとも……今のが原因か? それか……


「苦十の奴が魔鏡強啓零を開いたか……だな」


 そのどれでもないとかは勘弁してほしい。これ以上の問題は対処しきれない。するとさっきは僅かに揺れを感じる程度だったのが、今度はまさにここが揺れてるって振動を感じる。しかもそれが数十秒位続いたと思ったら、またどこか遠くからの微かな振動の響きに変わる。
 やっぱ地震じゃないようだな。地震ならこんな所々から振動が伝わってくるなんてあり得ないだろ。震源地から一斉に放たれた力が地面を揺らすんだ。こんな凸凹はしない。じゃあ蘭の奴が暴れだした? それもやっぱりノーだろう。確かにアイツならそこら中を揺らす程の攻撃は出来るだろう。
 でも、こんな闇雲に行動するやつじゃない。直情型だけど、ちゃんと考える事も出来るやつだしな。なら後はやっぱりこのアイテムの行動がキッカケでこの振動が起こってると考えるべき。僕は何が起きてるのか確かめる為に、外へ向かおうと思う。
 振り返って少し進むと、そこに有ったはずの石塚の姿がなくなってた。どういう事だ? まさかミニゴーレムに戻ってどっかに行ったのだろうか? 考えても仕方ない。取り敢えず外に出るのが先決。




「これは……」


 外に出た瞬間に眩い光が目に飛び込んできた。僕は一度閉じた目を薄く開きながら周りを確認する。


「この光……でもどうして?」


 似た光を知ってる。この今の状態ってブリームスの飽和する力を消費するために輝きだしてるアレと一緒だ。だけどどうして今更? いや、それよりも、なんで輝けてるんだ? この街の力のほぼ全ては、あの時……レシアの奴に法の書のエネルギーにされたはず。それでもう残ってなんか無かったんじゃ。
 延長線上ならその筈だ。でもこうして街は輝きを放ってる……その力は一体どこから得てるんだ? 


【スオウ、生きてますか?】
「僕が死んでたら、お前だって分かるだろ。同じ頭を共有してるんだしな」
【まあ、そうですね。相変わらず悪運強いんですから。残念、じゃなく嬉しいです】
「お前な……」


 残念言い切って嬉しいとか言うな。少しは残念を隠す努力をしろよ。まあだけど、わざわざそんな細かな事を気にしてる場合じゃない。話しかけて来たんなら丁度いい。


「おい苦十、これはお前がやってるのか? てかそっちはどうなった?」
【こっちはなかなかに手こずってます。あと一歩なんですけどね。私を通さないとは、流石は魔鏡強啓零と言ったところなんでしょうね】
「なんだ、威張ってた割りには大した来ないなお前も」
【……は?  はああああああ!? 大した事ない? この私が? ちょっと今直ぐ開けてやりますよ】


 なんかいきなりムキになった苦十。お前そんなキャラじゃなかった筈では? さらっと流すかと思ったけど、変な琴線にふれたっぽい。


【丁度、エネルギーが流れてきてますし、今なら行けるでしょう】


 ん? 今なんて……やっぱりこの状況になってるのは苦十の奴のせいじゃないのか。てかそもそもこんなエネルギーが要らなくても、魔鏡強啓の向こうに行けるように過去で第一の奴等に着いてったんだもんな。
 こんな事をやったらそれが無意味になる。まあ結局は力の後押しに頼るっぽいけど……


「見つけたぞ」
「げっ……蘭」


 まさか既に動き出してたとは。もうちょっと戸惑ってればいいものを……でもいつまでも悶々と悩むキャラでも無いか。けど、どうする……また天叢雲剣使われたら流石にやばいぞ。


「ん……」


 よく見たら天叢雲剣がボロボロ状態に戻ってる。ってことは少しは牽制が効いたって事か。けどどの道当たれば不味いからな。あんなボロボロ状態でも、かなりの威力だし……取り敢えず早く苦十に魔鏡強啓の扉を開けて貰わないと。


「全く、こうなれば考えてもしょうがない。私は私の力を信じるのみだ。貴様が何をしようとそれはトリックみたいな物。今起きてる事もそうだ。街の配置を変えて何をしようとしてるのかは知らんが、私の力は貴様の付け焼き刃のトリックなどに負けはしない。劣りはしないんだ!」
「配置?」


 なかなかに熱いことを言ってくれた蘭には悪いけど、途中から聞いてなかった。だって気になるワードを言ったんだもん。それが頭にビシッ! と突き刺さって、僕は周囲に目を向けた。だけどブリームスはLROの中でも比較的に背の高い建物が多い。ここからじゃ、確かめる事が出来ない。


「ちっ!」


 僕は地面を蹴って、建物を登る。第四研究所の屋上に上り、ざっと見回すだけで、それは明らかだった。ブリームスの中央には一番背の高い政府やら教育機関やらが入ってる建物があった。そしてその周囲を囲む様に三つの研究所があったんだ。それなのに今は違う。それぞれ研究所も一番高い建物も端っこに移動してる。
 そして中央にこの第四研究所は移動してる。それに気付いたけど天叢雲剣によって破壊された空間が再生してる。色々と何かが始まってしまってるみたいだな。形を変えて……発動してるんだ。積層魔法陣が。


「行くぞ! これ以上何もさせはしない!!」


 そう叫んだ蘭が一気に距離を詰めてくる。するとその時頭に響く苦十の声。


【開きますよ。零の扉が】


 来たか。だけどこっちには蘭の奴が来てる。無駄に冷静になりやがってからに、太刀筋が鋭い。それに力強さの中にしなやかさが出てるようで……なんか……どんどんと太刀筋が速くなっていってる。
 紙一重でかわしてると、空気を切る音が耳元で鳴り響く。


「どうした? 反撃しないのか?」
「––っち」


 反撃なんて出来るか。そもそもセラ・シルフィングが……それに、体が重く感じる。やっぱり法の書影響が……


【スオウ、たぶん第一の人達には私の姿は見えません。だから貴方が話さないと】
「それっは……そうかもだけど……こっちは今取り込み中で––声だけ伝える位出来るだろ?」
【それは出来ますけど、頑なな爺が率いてるんでしょう? やってくれるかどうか】


 酷い言い様だな。でもこっちは蘭の攻撃をかわすのでせいい––いや、もう殆どかわせてない。皮一枚から今はもう肉が削られるまでいってる。このままじゃ不味い……法の書を使うしか……けどHPが赤を示し既に消え入りそう。
 ラプラスを解除して回復薬を飲んどくべきだった。


「どうした? 法の書はもう使えぬか!? それならここで死ね!!」
「ぐはっ!」


 天叢雲剣の柄でみぞおちを撃ちぬかれて屋上を転がる。そしていきなり抵抗がなくなった……と思ったら屋上からはみ出てるじゃないか!! 僕は咄嗟に手を伸ばして屋上の縁を掴む。


「色々と手こずったが、ここまでのようだな。やはり何も間違いなどありはしない。お前が私に勝てるわけもなし」
「はぁ……はぁ……」


 やばい。もう頭の中の法の書のページもめくれない。捧げる力さえ無いようだ。それならなんとかバンドロームだけで……掲げられる天叢雲剣に光が反射して目を照らす。細めた瞬間に降りてくるその刀身は外れる事はきっとない。
「バンドロ––––えっ?」


 自分の意思とは関係なく指が縁から離れた。なぜ––と思ってたら右手についたアイテムが何かを描いてた。空中に解けて消えていく文字。何を示したか分からなかった。でも次の瞬間、光が大きなウネリとなる。
 それはあの時と同じ。このブリームスの光全体が集う力。既に零が開き、再び溢れてる力の渦。けどこれは消失への渦じゃない。これはきっと……可能性の渦だ。



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