命改変プログラム

ファーストなサイコロ

最高の親友

 振りぬく剣先に緑色の血がへばりつく。真っ二つに切り裂かれたモンスターが消える前に、更に奥からモンスターが雪崩の様に現れる。それを更に二本のセラ・シルフィングで切り裂いた。だけど更に––更に来る!


「ぜはっ!」


 吐き捨てる空気。だけど燃え盛る周囲には取り込む空気が……ない。でも僕の力の二つの内一つは風だ。無いのならもって来ればいい。新鮮な空気を。幸い多少の操作なら出来るしね。取り敢えず振りかかる斧を紙一重で避けつつ、交差際に攻撃を叩き込む。そして更に勢いを付けて、雷撃で周囲の敵を一気になぎ払う。


(僅かな猶予––ここだ!)


 二つのセラ・シルフィングを起こした風。繊細な操作は今は無理だから、沢山の風を発生させて空気を得ることに。それに自分を中心に起こした風のお陰で、モンスター共との間に壁となって立ちふさがってくれてるからね。
 風は使い勝手良いよな。爆発力なら雷撃なんだろうけどね。あれを維持するのは難しいから……


「はぁはぁ……」


 入って直ぐに始まった戦闘に息も絶え絶えだ。もうこの世界に、仲間だった奴等は誰一人居ないから。どれだけ大軍で来られても、今は僕しか……戦えないんだ。


(秋徒、愛さん、天道さん、ラオウさんにメカブにセラにノウイ……後間に合うかどうか分かんないけど、シルクちゃんにテッケンさん……)


 皆……待ってる。戦う準備をしてくれてる。本当はこんな場所にこさせたくなんかないけど、でも僕は弱いから……頼らざる得ない。その為にも……こんな所で雑魚の相手をいつまでもやってるわけにはいかない!


「苦十! どうだ?」
「取り敢えずデータは調べましたよ。そうですね。やっぱりここにあるようです」
「そうだよな……」


 僕の後ろにヌルっと現れる苦十。だけどこいつはなんか薄い。姿が半透明というか、LROではこういう状態でしか存在出来ない様だ。だから戦闘とかの手助けは期待できない。けど、こいつもこの世界のルールの外に居るやつだ。
 色々と出来る事があるらしいから、サポートに回って貰ってる。可能性を見たいらしいからな。手助けなんかしたら、それは改竄とかなのかも知れないけど、こいつは別にそこまで気にしてる風じゃない。もしかしたら「自分を味方に付けたのも可能性」と思ってるのかもしれない。そもそもこっちに付くかどうか決めたのは苦十だしな。
 自分に都合よく世界を変えたいのなら、シクラ達の方へ付いたって別にいいし……苦十の見たいものはきっとシクラ達とは全く別の物なんだろう。まあでもこいつは気まぐれで僕達に協力してるようだし、可能性って奴を感じさせれなくちゃ簡単に手のひらを返すだろう。
 背中にだけは常に気をつけながら付き合わないとな。そもそも可能性の感じさせ方––なんか分かんないからな。必死に頑張るしか無いってことだ。


「よし苦十、ポイントまで誘導してくれ」
「いけますか? 私の感じ得る情報では既に五百体位周囲に居ますよ」
「ごひゃ……いや、どの道この程度の敵ならまだ問題ない。イクシードで突っ切ってみせる」


 五百体なんて数は正直異常だろ。なんでここだけにそんなに居るんだよ。いや、ここだけじゃないのかも知れないけどさ……数だけ聞けばそれだけで絶望的。正直一人で相手に出来る数じゃない。でもここは森の中で燃え盛る炎の影響は奴等にもあるみたいに見える。木々は炎は奴等を固まらせない。
 一斉に五百体の敵が襲ってきたら確かにひとたまりもないけど、数十体が散り散りに襲ってくるのならまだどうにか出来る。どうやらこの亀獣人タイプしか居ないようだしな。それはつまり、扱いやすい獣人タイプしか発生しない様にシクラ達がやってるって事なんだろう。
 前にもアルテミナスの時も同じような事があった。ある程度思考性を与えられた獣人タイプが奴等には支配しやすいのかも知れない。
 それに……


「くっ!!」


 地面が突起状に盛り上がってきた。獣人を使う理由にはこれもあるだろう。普通のモンスターならそれぞれ自身にあったスキルを有してる。その数は多くはなくて、普通のモンスターなら二・三個程度だろう。
 だけど獣人達は僕達プレイヤーに近く設定されてる。奴等は扱う武器でそれぞれスキルが違うし、役割分担だってしてる。だからスキルとそして魔法の対処もしなくちゃいけないんだ。それに何よりも、恐るべきは、連携とかを取ってくるって事だ。
 その証拠に空中に咄嗟に避難した僕へめがけて何かの魔法で強化されてるのか、ブーメランの様に回転する斧が迫ってくる。空中だからって避けれないって事もない……けど、わざわざ武器を敵返すのもどうかも思うから、僕はセラ・シルフィングでその斧を叩き落とそうとする。
 すると斧にぶつけた瞬間、その斧自体が爆発しやがった。当然僕はその衝撃で吹き飛んだ。地面で激しくリバウンドしつつ樹の幹にぶつかる。せっかく確保してた空気が肺から漏れる。それにこんな序盤で無駄にHPを失ってしまった。
 一体一体は決してそこまで強くはない……けど連携を取れるのなら話は別––それを一人ぼっちの僕に魅せつけてくれる奴等だ。正直少しやりづらい。そもそもこいつらだって操られてるんだしな。


「そんな事思ってると命取りになりますよ?」
「人の頭の中を勝手に……」
「私達はリーフィアを共有してるんで、勝手に入ってくるんです。エッチな事を考えたら分かってしまうので気をつけてくださいね」


 今言うことじゃないだろそれ。それにこっちは共有したくてしてる訳でもない。てかこいつなら思考の共有とか拒否できるだろ……嫌待てよ。


「おい、そもそも僕はお前の考えてることわかんないぞ。おかしいだろ!」
「女の子の頭の中を覗きたいとか変態ですかスオウ? 女の子には秘密が一杯なんですよ。それよりもピンチじゃないですか?」
「このくらいで負けてられる––か!?」


 ここぞとばかりに迫ってきてたモンスターを切り裂こうとセラ・シルフィングを振り抜いた。だけどその時におかしなことが起きた。


(切れない!?)


 いつもならスパっと気持ちよく振りきれるのに、この時は何故か奴等の防具に阻まれた。だけど弾かれた訳じゃない、何か今ズルっと滑ったような……


「ちっ!」


 僕は咄嗟に地面を蹴ってモンスター共の間を一回転して潜り抜ける。するとさっきまで僕の背にあった木がメキメキと倒れていった。危ない危ない……ヘタしたら僕の体があの木の様に成ってるところだったよ。
 僕の防具は薄いからな。だけどどうしてセラ・シルフィングで斬れなかったんだ? そんな筈ないのに……


「これは!」


 僕はその原因を見た。なんだかセラ・シルフィングに緑色した粘っぽい粘液がへばりついてる。まさかさっきの爆発は、直接ダメージを与えるのも勿論だけど、敵の武器を無力化すると特性も持ち合わせてたのか? なんて厄介な。


「スオウ大ピ〜〜〜ンチ」


 うるっせぇ。他人事みたいに言いやがって! でもこれはマジで大ピンチ。セラ・シルフィングがこんな状態じゃ、雑魚にも苦戦するぞ。こんな所で終わったら可能性もクソもない! 周囲からはドスドスと獲物を求めて迫ってくるモンスターが多数。このままじゃこの波に押しつぶされるのは明白だ。


「どうする?」
「どうするも何も、一気に駆け抜ける! セラ・シルフィングの鋭さは刀身だけじゃないんだよ!!」


 集まる風。それが一気に刀身へと収束しだす。


「イクシード!!」


 唸る風が周囲から迫ってたモンスター共を切り裂く。イクシードの風がセラ・シルフィングの刀身に二本のウネリとして吹いている。僕は薄くなってる苦十に視線を向けた。


「行くぞ! どっちだ?」
「しょうがないですね––––––こっちですよ」
「んな!?」


 さっきまで傍に居たと思ったら、一瞬で別の場所に移動してやがる。瞬間移動かよ。しかもアイツ、モンスターに存在を認識されてないから、余裕で歩いてるし……なんてズルい奴だ。こっちは大変なのに……向こうはスルスルと進んいきやがる。だけど文句行った所で、苦十の奴にも戦闘させる訳にはいかない。
 寧ろこっちが守らなくて言い分、実は楽なのかも知れない。守りながら戦うって言うのは難易度高いからな。しかもそれが圧倒的な数の差があるのなら尚更だ。これだけ囲まれてても苦十の心配だけはしなくていいってのは実は精神的にも肉体的にも僕は救われてるのかも。


「ありがたい……とか思ったほうがいいのかな?」


 取り敢えずアイツこっちのペースに合わせる気ないみたいだし、見失わない内に追いかけるか。僕はウネリに雷撃を混ぜて、出来うる限り真っ直ぐに伸ばす。そして進行方向のモンスター達を一気に薙ぎ払った。


「急ぐぞ苦十」
「へぇ、ではそうしましょう」


 ちょっと関心したような声を出した苦十の奴は歩く速さを変えずにペースを上げた。僕がどれだけスピードを上げても、常に同じ歩く速さで前に居る。僕は苦十の背中を見つめて森を進んだ。








「おいスオウ……これはどういう事だよ?」


 きつい視線と言葉で僕を睨んでくる秋徒。どうやらメールだけでは納得して貰ってないようだ。しょうがないから口頭で説明してやるか。


「だから、僕達だけじゃ駄目だから、全部巻き込む事にした……それだけだ」
「こっ、こんな奴等に頼るのかよ!! こいつら捕らわれた人達なんかどうでもいいんだぞ! こいつらの目的はあくまでLROの技術であって救出じゃない! 教えただろ! それなのに、こんな奴等と手を取り合うって言うのかよ!?」


 秋徒の奴は今にも僕に掴みかかってきそうな勢いだな。でもまあ、それは仕方ない。僕なんかよりも、この人達の事、分かってるだろうからな。他の皆も別に受け入れてくれた訳じゃない。割り切ったんだろうと思う。
 僕は熱り立つ秋徒にあくまで冷静にこう言うよ。


「そうだ。そしてそのおかげで色々と可能性って奴が出てきた」
「なんで……一体いつんな事に成ってんだ!?」
「最初は当夜さんに合わせてくれるって言われたから……前に摂理にした直接ダイブする手段を使えるなら、当夜さんに会えると思ったんだ。突破口が見つかるかもって思えるだろ?」
「確かに……それはそうだけど……なんで今まで黙ってたんだよ!? 一人で行くこと無いだろ!」
「一人じゃねーよ。天道さんも一緒だった」
「なんで俺じゃないんだ!? 親友だろ!」
「え〜〜〜」


 僕は顔を背けて見せた。すると大げさにも膝を崩す秋徒。そんな冗談なのに、そこまで落ち込まなくても……


「いやいや、親友だとは思ってるって」
「どうだか……結局俺はいつだって二番目だろ……」
「いや……それは……」


 なんか言いづらいな。今回はその……二番目……でもないし……てか二番目とかなんだよ。愛人かよ。こんなガタイ良くてデカイ愛人なんて嫌だ。そう思ってると、植物園の方からやけにビビッドカラーの服に身を包んだ巨乳がやってきた。


「何やってるのよ二人共。その時が来たのよ」
「メカブ……」
「お前、まさかそれを言いたいが為に出てきたのか?」


 なんでもかんでも意味深に言いたがるよな中二病って。てかこいつの中で今の台詞はきっと言ってみたい台詞ベスト10にでも入ってるんだろうな。にへへ〜と笑ってるもん。するとメカブの奴に秋徒は詰め寄った。


「お前はいいのかよ? 俺達の覚悟が否定された様なものだぞ! 俺達だけじゃ駄目だっていわれてんだ!」
「……そんなの分かってた事でしょ。あんたバカなの? まあ私は駄目じゃないけどね。私があと数人居れば、インフィニット・アート的にそれで事足りるんだけど、ほら、私って貴重だし。まあだからしょうがないわよ。
 それに実際無謀な賭けだったわけだし、それがどうにかなるかもしれないのならいいじゃない。調査委員会だって、今は協力的になってるしね」
「信頼……出来ると思ってるのかよ?」


 秋徒の奴はやっぱりそこが気になる訳か。まあ誘拐とかしてたらしいし、疑うのはしょうがない。するとその時、ガサガサと木々が揺れたと思ったら、その木から言葉が……


「大丈夫ですよ。スオウくんは上手く引き込みました。調査委員会は秋徒くんも知っての通り、その目的はLROというブラックボックスの解明。彼等は既にそれに詰まってたようですから、きっかけが欲しかったんですよ。
 それに悠長にやってる時間もないと分かれば、尚更でしょう。彼等も賭けに出るしか無い訳です」
「ラオウさん……」
(なぜ、木になってるんだろう?)


 変装かな? 変装だな。一体この人は何と戦ってるのか。ちょっと前までは調査委員会だったんだろうけど、今や協力関係だ。わざわざこんな事する必要ないだろ。顔にペイントまでして、銃も背負ってる……それは本物なのだろうか? 気になる所だ。でも聞いちゃいけない気がする。


「居ないと思ったら……何やってるのよランラン」


 パンダみたいなアダ名つけるなよ!? そんな風に呼んでるのか? でも不思議と突っ込めない。そもそもラオウという名前は女の人にどうかとは思うからな。いや、メッチャ嵌ってるんだけどね。


「いえ、色々と調査を。心を許した時が一番危険ですので」
「あれ? さっきラオウさんが大丈夫とか言ってませんでしたっけ?」


 秋徒の奴がまともな事を言った。確かにさっきラオウさん自身が心配ないと言ってたのに、危険って……矛盾してるよね?


「まあ私のやってる事は保険の様な物なので気にしないでください。基本的には彼等の状況も考えて大丈夫な筈です」
「……ラオウさんは納得してるんですか?」


 それだけの言葉だったのに、ラオウさんは今までの全てを聞いてたかのように直ぐに答える。てか、聞いてたよね。


「そうですね。私は納得してますよ。私達の生存率を高めるためでもありますので。任務の時は感情は殺してますし……上の命令に納得する必要はない。実行するだけです」


 なんと言う重い言葉。なんという軍人。軍人というか傭兵だったはずだけど。てか別に僕はラオウさんの上司とかじゃない。上……なんて立場じゃないんだけど……


「それはつまりスオウの行動を批判してると言うことでは?」
「いいですよ別に、僕はラオウさんの上司なんかじゃないし、言いたいことがあれば言ってください!」
「別に今のはこれまではそうだったと言うだけですよ。私自身、皆さんを上や下で見てなどいません。神の下に皆平等ですので。それに既にちゃんと謝ってもらってます。私達の事も考えてくださった行動……それをなぜ、責められるでしょうか。
 敵などとは言いますが、敵と必ずしも戦う必要なんてないんです。それが出来るのなら、それに越したこと無い。そうではないですか秋徒くん?」


 ラオウさんの言葉に、言い返せない秋徒。代わりにこっちを睨んでくる。そこまで納得行かないか。なんか意固地になってるのかもしれない。こうなったら、最終手段でほぐすしか無い。






「ままままま、まさか愛も……」
「ごめんなさい秋くん。でもスオウくんの行動で希望が見えてきたんです。聞いてください」
「ふん! やっぱスオウかよ……どいつもこいつもスオウスオウスオウかよ!? 愛だけは俺側だと思ってたのに!」
「え〜っと……」


 秋徒の奴の余りの拗っぷりに、愛さんも困ってる。なんでここまで拗ねてるんだろうか? ハッキリ言ってよくわかんないぞ。そこまで意固地な奴でもないだろお前。


「何を子供っぽいことを言ってるだ。君だって無謀に飛び込むよりかは良いはずだろう?」


 目の部分だけを覆うシルバーの仮面を付けたどっかの三倍速そうな機体に乗り込みそうなタンちゃんさんがそう言った。いい忘れてたけど、今は植物園内部の調査委員会施設の一室に僕達は居る。
 ここはあの透明なフロアと違って、普通の部屋になってる。まあ監視カメラっぽいのはあるけど。僕達はこの一室をあてがわれたのだ。タンちゃんはさっきまで調査委員会の研究者連中と色々と話してて最終調整というか……今もまだパソコンの前から動かない。だけどその体だけ秋徒に向けてる。


「そうじゃない……そんなんじゃないんだよ! お前は……お前は……」


 何故か今にも泣きそうな顔でこっちを見てる秋徒。どうしたんだ一体? そんな情緒不安定なやつじゃないだろ。もう一度ちゃんと謝ったほうがいいかなこれは? そう思ってると、秋徒の奴がクルッと背中を向ける。そして扉を激しく開けて走り去る。


「クソ馬鹿野郎おおおおおお!!」


 ってな声を残響させて。


「秋くん!」
「やめようよ愛ちゃん。直ぐに戻ってくるでしょ。てか出て行くはずはないし、甘やかすのはメッだよ」


 追いかけようとした愛さんをそう言ってメカブの奴が止めた。大丈夫だろうか? あんな秋徒はアルテミナスの時以来と言うか……それともちょっと違うけど……なんだか重い空気が流れる。するとその空気を切り裂くようにピピピという音が鳴り響いた。


「さて、大体の準備は整ったようだ。スオウ、覚悟は出来てるかい?」


 タンちゃんさんが立ち上がりこっちを見てる。覚悟……そんなものはとっくに出来てるよ。気掛かりも今できたけど……でも、まっ秋徒は大丈夫だよな。


「当然です」
「では行こうか」


 そう言ってタンちゃんは秋徒の奴が開け放ったドアから出てく。それに僕達も続いた。




 いつものあの透明なエリア。そこにはいつも以上に沢山の人達が集まってた。白衣の人達だけじゃない、スーツを着てる人も一杯で、なんか大集合って感じだ。そして前に僕が寝てた部屋を目指す。すると愛さんが確認するようにタンちゃんさんに聞くよ。


「あの、本当に最初はスオウ君だけしか無理なんですか? ジェスチャーコードもあるんだし、何か方法が––」
「説明した筈ですよ。スオウと他では条件が違う。ジェスチャーコードは確かにLROの扉を開く事は出来る。でも今のLROへたどり着くには浸透率二百以上が必要です。これは苦十とかいう正体不明の奴と、LROから持ち帰った改竄後のデータと、法の書によって導き出した数字です。
 多分そう設定しなおしたのは、敵であるシクラ達という姉妹か……あるいはマザー自身。彼以外がLROへダイブするにはまずはその条件を無くす必要があります。ですが、悔しいことにリアルからLROの中枢へアクセスする術はない。あるかも知れないけど、見つけてない。そしてそれが今のところ可能なのも、彼です。
 LRO内でなら三種の神器という物が使えるそうじゃないですか。三種の神器は運営の人達もその存在を正確には知らなかったアイテム。桜矢当夜が独自に作った裏アイテムみたいなものなのでしょう。だけど、その使い方はまだ完全には分からない。
 だからこそ、ゲーム上の設定も使う。彼の話では、人間再生なるものがあったようで、もしかしたらだが、創始者を復活できるかも。それにそれが上手く行けば、神やらも復活出来る」
「だけど、そんな事を一人で出来るの? スオウなんかに?」


 おい、なんかってなんだよメカブの奴。そりゃあ確かに……かなりキツイけどな……やるしかない。


「そもそも今LROがどうなってるかわからないのですよね? どうやってその人間再生やらを行うのですか?」
「それは三種の神器の一つを使う。法の書・バンドロームの箱は彼の話で大体の使用方はわかってる。だから問題は最後の一つ『愚者の祭典』だった。苦十に受け渡された桜矢当夜の記憶と、法の書に侵入させて得た情報で、愚者の祭典の用途がなんとなくだが見えてる。半々の確率で使える筈だ」
「半々ですか……博打ですね」
「それでも、そのアイテムに賭けるしか無い」


 そんな会話をしてる間に用意された部屋へと着いた。扉の前には細目が特徴の東雲さんが僕のリーフィアを持って待ってた。


「さて、結局子供に頼ることになるとは、大人として情けないと思いますよ」


 そう言いながら僕にリーフィアを差し出してくる。でもなんか目がそんな悲観そうでもないような………


「本当にそうおもってるんですか?」
「まあ私は気楽な立場ですから、言ってみただけですよ」


 この人は全く……やっぱ胡散臭いな。胡散臭い大人の代表だよ。僕はリーフィアを受け取って部屋に入ろうとする。するとボソッとこう言われた。


「君も別段無理をする事はありません。逃げたっていいんですよ」


 予想外の言葉。ここに居る人達は、誰もがこの作戦に賭けてるだろうに……気楽な立場だったっけ。僕はクスッと笑ってこう言ってやる。


「無理なんてしてませんよ。何故なら、ここに居る誰よりも、この状況を望んでたのた僕だから」


 そのまま僕は部屋に入る。中には佐々木さん達運営に、ここの偉い人達とかが居る。僕は早速リーフィアを被るよ。すると直ぐにベッドに誘導されて横にさせられた。そしてその色々とリーフィアにコードが接続されていく。
 そんな様子を見つめてると、僕はあることに気付いた。


「そう言えば苦十の奴、見えませんね」


 どこ言ったんだよあいつ。付いてくるとか言ってたくせに。もう行っちゃうぞ。べ、別に寂しくなんかないけど……


【寂しいならそう言えばいいんですよ。笑ってあげますから】
「お前な……どこ行ってたんだよ?」


 こいつの煽りに付き合ってられない。もう既に昼は過ぎてるんだ。いつLROが改変されるかわからないからな。気になることだけ聞くよ。


【別にずっと傍に居ましたよ。リーフィアを付けてないから見えてなかっただけです】
「そうかよ。ああそうだ」


 僕は厳しい目をして立ってるお偉いさんっぽい人に話掛ける。


「例の件、頼みますね」
「アレか……例え通ったとしても、期待など出来ないと思うがな……」
「それでもお願いします」
「……分かった。では準備も出来たようだ。健闘を祈る」


 その人は軍人っぽく敬礼をする。すると示し合わせてたのか周りの人達もみんな敬礼してる。不思議な感覚だな。敬礼なんて普通されないもん。僕は皆のその光景を焼き付けて、口を開く。すると苦十の奴がタイミング悪く言ってきた。


【ちょっと待ってください。多分もう来るでしょうから】
「来る?」


 するとその瞬間だ。このフロア中に響く声が届く。


「スオウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「秋徒?」


 なんだ……どうしてそんな叫んでるんだよ? なんで……そんなに必死で……なんで……そんなに泣いてるんだ。
 透明な壁を隔てた向こうで、秋徒の奴は膝に手を置いてゼエゼエと息をしてる。そしてそれと一緒に落ちてる雫が見える。


「お前ばっかりだ……お前ばっかり前を行く。犠牲になるように……前を行く。日鞠のやつもそうだけど、お前はここ最近ずっと死に急ぎすぎだろ! なんで……なんで……俺はお前たちの前に行けないんだよ。
 少しは……俺にもその役目譲れよスオウ!!」


 叩いた壁が震える。だけど叩かれた、壁だけじゃなかった。震えたのは壁だけじゃなかった。さっきまでやけに静かだった僕の心が……ユラユラと……ガタガタと震え出す。


「お前ばっかり……犠牲になる必要なんて……ないのに……俺達じゃ全然追いつけない。俺は親友なのかスオウ……並べてもいないのに……おれは!!」


 再び叩かれる壁。秋徒のその姿に……言葉に……静かに体が震えてる。鼻が痛くて、目から涙が零れそうだった。だけど……見せちゃいけない。何言ってんだこいつ––って体で余裕を見せる。そう……決めたんだ。
 誰もが成功率なんて考えないようにしてる。だから余裕綽々な感じで行くんだよ。僕は震える手を握りしめてその震えを隠す。そして言ってやるよ。


「秋徒……お前は最高の親友だよ。それに間違えるなよ。別に僕は犠牲に成りに前を疾走ってる訳じゃない。誰よりも先に自分が助けたい奴が居るだけだ。誰よりも先に可能性を掴みたいだけだ。だから……まあいっちょ行って来る」


 軽く敬礼を僕もして、ベッドに寝る。そして見えないように後部側に涙を落としつつ、僕はジェスチャーコードを使用して、この言葉を紡ぐ。


「ダイブ・オン」

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