命改変プログラム

ファーストなサイコロ

完全なる円環の理

 地面から湧き上がる光の向こうからこちらに向かってくる誰か。敵なんか殆ど居ない訳だけど……今後ろで伸びてる奴ともう一人……だけど油断は出来ない。そのもう一人かもしれないからな。仲間が目の前で消えていき、余裕が無くなってる今の僕の手には汗が凄く滲んでる。


(きっと大丈夫……)


 そう自分に言い聞かせるけど、その人影が近づいてくる様子からこの目を離すことは出来ない。心臓の鼓動が激しさを増し、少し息苦しさを感じる。街中が光ってるせいで目が痛いくらいだけど、その目を逆に見開いて僕はその人物の一挙手一投足に注目してる。


 光の中黒く見えてたその人物が徐々に姿を現してくる。色が見て取れて、耳にはその人の声が届く。それは聞き覚えのある声だった。


「おお! ようやく見つけた。勘が当たったようだ」
「ロウ副局長」


 ようやく力を抜くことが出来る。よかった良かった。ロウ副局長は味方だからな。でもそこで僕はあれ?––と思う。一人だけってのはおかしいよな。それに探してたみたいに言ったし、やっぱり向こうでも何かがあったと考えるべき……これ以上嫌な事なんか聞きたくは正直ない。でも、聞かない訳には行かないんだ。
 知らなくても良いことは世界にいっぱいある……でもそれと目を逸らそうとすることは違う。受け止めなきゃいけないことも、勿論あるんだ。今を知ること、それは重要だ。


「ロウ副局長、一体どうしたんですか?」
「ああ……それが……ん? お前だけか?」


 目を細めた彼がそう言ってくる。僕は口を強く結び首を縦に振るう。するとロウ副局長は「そうか」と詰まるような声で言った。彼はそれだけで何かを察してくれた様だ。そしてその様子で、僕もなんとなく察する事が出来る。つまりは……そう言うことだろ。


「こちらと多分状況は同じだな。変化が増してきてる様だ。次々と人が消えていく」
「それじゃあやっぱりクリエ達も?」
「ああ、消えてしまったよ」
「……そんな」


 強く握り締める拳。これもやっぱり統括達の狙い通りだとするなら、その行動を許してしまった僕のせきに––


「そんな思いつめるな。君だけのせいじゃない。それに、消えた人々が戻らないと決まったわけでもないだろう」
「確かにそうなんだけど……」


 弱音を吐きたくなんかないけど、この状況じゃどうしたって出てきてしまう。二人だぞ……たった二人で何が……もしかしたら零区画の所長達は無事なのかも知れないけど……僕は一縷の望みを掛けて御札を取り出して連絡を試みる。


「……ダメか」
「零区画の方か?」


 僕は力無く頷いた。本当に……もしかしたらだけど、今この街で残ってるのは僕達だけなんじゃないのだろうか? そう思うと心なしか、こんなに陽気に光ってるのに薄ら寒く感じる気がする。ただ煌々と光ってるだけで、そこにある筈の喧騒がない。
 こういう光が受け入れれるのは、繁華街とかそれを受け入れられるだけのテンションが必要なんじゃないだろうか? それなのに今この街にそんな人々は居ない。そんなテンションもない。だからこの光が虚しく映る。


「こうなったら、我々だけで動くしか無い」
「そう……だな。だけど、僕達もいつ消えるかわかんないんだよな?」


 何か法則でもあるのなら、対処のしようがあるだろうけど、今のところそれを見つける事は出来ない。共通点があるとすれば、この指輪なんだろうけど……如何せん取れないからな。過激な方法として指を切り落とすって選択肢も無いわけじゃない。
 リアルではあり得ない訳だけど、LROでならまだ出来る……と思う。やっぱりそれなりの覚悟は必要だろうけど、このままじゃ本当にいつ消えるか分かったものじゃないからな。消えた人達全員に共通してる点があるとすれば、これしかない訳だしな。


 実際、僕達までも対象になってるのは多分この指輪のせいだと思う。あのテトラやリルフィンまでも消すなんてどういう事かわかんないけど、抗う事が出来ない力が働いてるんだろう。テトラは神様の筈なんだけど……魔鏡強啓零項が本当に三種の神器を作り出せる物だとしたら、システムレベルに干渉できる代物なのかも知れない。


 そうなるとテトラだってLROという世界のNPCに過ぎなくなる。あいつは用意された神様だからな。だけどその存在は僕達には大きかった。プレイヤーが居なくなった時点で、テトラ以上の力を持った存在はほぼ居なくなったんだ。 
 だからこそ、シクラ達に対抗しうる力の持ち主として貴重だったのに……このままで、実質僕だけじゃ、奴等に対抗出来ないぞ。流石にロウ副局長は戦闘タイプじゃないからな。


「次に消えるとしたら多分私だろう。なんとなくそう思う。だからその時が来る前に、全力を尽くそうと思う」
「ロウ副局長……」


 この人こんな人だったっけ? 思わずそう思ったけど、多分こんな人だったんだろう。そもそも出会ってまだ一日•二日くらいだもんな。そんなによく知ってるわけじゃない。案外正義感というか、責任感が強い人だったんだろう。
 上に行くこととか、実績とかを追い求めてばっかりなのかとも思ったけど、案外ちゃんとこの街の事も考えてたのかもな。


「だけど何か出来る事が?」
「大丈夫だ。言っただろう、我々には得た情報がある。だからそれを伝えるためにわざわざ出向いたんだ」


 そう言えばそうだったかな? あの黒い奴が腕を生やして、どっか行こうとするから、それを食い止めるために動き出したからクリエ達が来た理由は聞いてないんだよ。てか待てよ……


「なあロウ副局長、インテグは? あの目玉も消えたのか?」


 思い出したけど、あいつ消える要素ないだろ。それなのになんで居ない? 


「あ? ああ、あの気持ち悪い目玉か。そう言えば見ないから一緒に消えたんじゃないか。あの小さなモブリの子にひっついてたから」


 あの変態……何やってんだよ。お前の中のデータは貴重じゃなかったのか。残しとけよ……せめて中のデータだけでも。正直インテグ自身はどうでもいいけどさ、中のデータだけは死守しとけよな。
 まあ、重要な部分はロウ副局長も知ってるって事なんだろうけどさ。全くあの目玉は何の為に居やがったのか……これじゃあ本当にただの変態だったって事で終わりじゃないか。


「大丈夫、彼はちゃんと役立ってくれたよ。そもそも彼が居なければ、あの零区画の大量の蔵書の中に埋もれた情報をこの短時間でみつけるなんて不可能だったんだからね」
「まあ、それはそうですね」


 確かにそこは感謝するべきか。僕みたいに最前線で戦ってる側では、インテグの活躍は知りようがあまりないけど、実際にはちゃんと役にはたって様だな。


「それじゃあ早速始めよう。君は三種の神器を所有してるんだろう?」


 どうしてそれを……いや、それを教える事が出来る奴は居たな。それに第一の奴等への最後の対抗策として、僕も三種の神器の使用を考えてた訳だし、ロウ副局長にその情報を最後に誰かが渡したとしてもおかしくない。


「ええ、ここに」


 そう言って僕は腕を出す。まあ見えないだろうけど。だから僕はバンドロームの箱をその手に出現させた。するとその際、出現した際の光が空気を伝って街全体に広がったような……やっぱり今のこの街に、オリジナルは危険なのかも。


「おお〜! これが本物!! 確かに第一研究所と同じ形だ」
「でしょうね。三つの研究所は三種の神器の力を模すために同じ姿に作られてるんでしょう?」
「そのようだね」


 三つの研究所の役目は統括の……というか第一のとっておきの隠し球だった様だし、第二の連中もそれは知らなかったみたいだよな。だけど自分達が毎日通ってた場所が求めてた魔鏡強啓の最終項を内包してたってのも皮肉な感じだ。


「これが伝説級の……」


 そう言ってこちらに向ける腕をワナワナと震わせるロウ副局長。過剰だろ……と思わなくもないけど、彼––というか、彼等の様な錬金の研究者にはそれこそさっき言った様にこのアイテムは伝説級なんだよな。
 そりゃあ手も震えるか。だけど後少しで振れる寸前で彼は自分の腕を止める。


「いや、やめとこう。今は余計な干渉は避けるべきだろう。何が起こるか分からないからね」
「そうですね」


 懸命な判断だ。色々と触っていじくり回したい筈だろうに……それが研究者の性だろ。だけどその欲を抑える事が出来るってのは立派。実際、何が起こるかわからないしな。それにこのアイテムは本当に危険だし。
 だけど、その危険性にこそ賭ける物がある。同じ力が働いてるんだ。だからこそ、介入できる筈だろう。


「どうすればいいんですか?」
「焦っては行けない。チャンスは一度だ。第一の狙いが三つの研究所で三種の神器を再現する事なら、その瞬間に向けてエネルギーが回ってるはず。この街から消えた全ての人達を戻し、事態を収束させるためには、やはりその力を使うべきだろう。三種の神器は凄まじいアイテムだが、無限のエネルギーを有してる訳ではないだろう。
 目的の事を成すためのエネルギーは自分達で用意しないと行けない」
「なるほど。なんだって出来る様な気がしてたけど、それはあくまで自分達の力で出来る範囲だったって事か……」
「普通は世界に溢れる力とかも変換して補完もしてるが、きっと今やろうとしてることは規格外だろう。闇雲に寄せ集めて実行できる訳はない。この街の光が表してるが、このブリームス全体をつかって力を増幅させてるんだろう。
 そしてそれらの力は全て魔鏡強啓零項の向こうへと流れてるはずだ」


 このブリームス全体の光は、錬金の力を増幅させてるからこうなってるのか? だけど確か、フランさんは飽和状態の力を拡散させるために、数世代前の統治者が光るようにしたとかなんとか言ってたような。
 それってつまりは逆の事だよな? 増幅じゃなく、意図した減産。それなのに、今は増幅に機能が変わってると?


「忘れたのか? この街全体に仕掛けられてた古の陣を」
「古の陣って……それってアレですよね? 確か孫ちゃんが言ってた積層魔法陣」


 僕のその言葉にロウ副局長は頷いた。アレか……何の為かよく分からなかった大規模な奴な。実際その積層魔法陣は零区画への道とは直接的な関係は無かったんだよな。って事は別の役割があったって事で、それがこれ。この現象を引き起こす為にあったって事か。
 ロウ副局長の言う通りだとしたら……だけど。


「そうだ。夜な夜なの力の消費は元からあったその陣を改造してたのかもしれん。今はそれが通常の歯車として回ってるんだ。古の姿のままでは、その魔法力を無くしたこの街の住人では扱う事は出来ないからな」
「魔改造してたのが剥がれ落ちたって事か……」


 魔改造ってかハリボテを貼り付けてたって所なんだろうけど……あんまり効果なかったようだしな。飽和状態まで行ってたのがその証拠だろ。それを解消するためだったとしても、出来てなかったんだから、やっぱりハリボテだったことは確定だしな。実際はただ光ってただけの今までと、今のこの光はどこかがきっと違うんだろう。そもそも古の錬金はこの街の外の世界の力って奴を使ってるはずで、これだけの光を放ってるって事は……それはつまりその力が発生してるって事に……
 だけど街中に外の力が溢れだしてるのなら、テトラの奴だって何か気付く筈だよな。そして回復できてなかった所を考えると、この街中の錬金寄りに変換された力が外の力に取って代わったって訳でもない。


「この光の力事態は一体どこから来てるんだろう?」
「それは分からない。もしかしたら零区画と同じでどこかに蓄えでもあったのかも知れない。それか積層で精密に組まれた陣だけが外から供給できるルートを作り出してる……とかか。だが多分、この街に蔓延してた錬金に偏った力も変換はしてるはずだと思うがね」
「けど、それをテトラもリルフィンも感じてなかった様だけど……あいつ等は特殊な存在だ。僕達なんかよりも、世界と密接に繋がってる。だからきっと変換なんかされてるのなら分かりそうな物だと思うんだけど……」


 確証なんて物はないけど、テトラは神だしリルフィンは精霊だ。分からないなんて事はないと思うんだよな。


「無駄なんてどこにもない」
「え?」


 何をいきなり言い出すんだ? 僕はちょっと呆けてしまったよ。


「いや、それが錬金の理想なんだ。誰しもが使える力と言うのは人々を惹きつけるのに有効だから、矢面に立たされて、誰もが知る錬金のアドバンテージに成ってる。だけどその誰しも––と同じように我々は完璧を目指してるのだよ。
 錬金の理想は『完全効率』だ。一切の無駄を無くした完全なる円環の理。それこそが世界の理想でもある。それをこの積層の陣が実現してるのだとすれば……」
「……テトラ達にだって漏れることはない力の循環が行われてるって事か」


 って事はフランさんが言ってた人間再生とかも、完全効率とやらの輪に入ってるのかも。人は生きてる限り死から解放される事はない。それらは隣り合わせの事だから、切り離したらきっと世界の理か何かが崩れてしまうような気がする。
 でも人は不死の夢をいつだって見てる。その一つの答えに『人間再生』とやらが……生と死……切り離せないのなら、繰り返せばいいっていう発想か? 生死の円環を世界じゃなく個人で循環させる。
 夢の様に怖ろしい発想だな。そしてそれが出来てしまうかもしれないLROパないな。作られた世界だから……だろうけど、でもその人間再生とやらではプレイヤーは再生出来なさそうだよな。僕達の魂はここで造られた訳じゃないから、ここに存在してる訳じゃない。
 今の自分がどういう風に成ってるのかはよくわからないけど、その再生に入れないような気はするんだ。本当の魂が再生される事はきっとない。まあ人間再生のやり方も厳密には多分再生では無い様な気がするけど……その人の生涯を保管してそれからその人を再生するのなら、厳密にはそれは複製の様な感じだろう。


「この循環の力を逆に利用して、君の持つオリジナルを使えば、コピーで代用しようとしてる第一を上回れる筈だ」
「確かにそれが出来ればいいけど……でも問題はこれを制御出来るかって方が問題な気がするんだ……それだけの力を利用しようとして、暴走なんかさせたらそれこそ不味いだろ」
「だから三種の神器の事を調べさせたんだろう。それを使うために」
「見つかったのか?」


 それなら希望はある。ロウ副局長の自信をみるに、その可能性は––


「いや、厳密な使用方などはわからない。だが法の書とバンドロームの箱は密接に繋がったアイテムではあるらしい事は分かった」
「それはちょっと感じた事はあるかな。愚者の祭典はどうなんですか?」


 愚者の祭典だけは今なお反応しないからな。三つのアイテムはそれぞれ司る物があるんじゃなかったっけ? 三対になってる訳じゃないのか? 法の書とバンドロームは一度その組み合わせの凄さって奴を実感できたけど、愚者の祭典だけは今だ謎だ。


「愚者は三つの中でも記載が少ない。なんだか曖昧に感じる代物だ。実在してるのか?」
「そうは言っても……ここにはある」


 ––筈だ。実物見たこと無いけどな。……あるよね? あるかな? あると思う。でも全然反応しないからな。実は空っぽなんじゃ。それか実はこれだけは完成してないとか? でも流石にそれは……ないよな。


「取り敢えず、バンドロームと法の書だけで事は足りるだろう。その二つが規律を破り、実行に移せるアイテムの筈」


 顎に手を当ててそう言うロウ副局長はちょっとは様に成ってて説得力を持ってる気がする。まあ確かに不確かな愚者の祭典を無理に使う事もないとは思う。いつまでも無視も出来ないだろうけど、今は確実に発動するであろう法の書とバンドロームの箱が重要だ。


「そうですね。バンドロームはともかく、法の書はとにかく体力持ってかれるんだけど、それを補って、実行できる力を循環させてるんですよね」


 この街の光がその為なんだから、多分当然その筈だ。バンドロームは自身にそこまで影響は出ないけど、法の書は別だった。物凄く力取られるからな。そうはそれを糧にシステムに干渉してたのかも知れないな。
 だからこそ、大きな力を与えればそれだけシステムの奥へと干渉できるってことなのかも。街一つを使った大規模な事をやってるんだ。それだけの事は出来そうだよな。


「よし、いつ消えてしまうかわからないんだ。覚悟が決まったのなら、実行に移す為に最も効果的な場所へと移動しよう。移動中に法の書の実態に触れて置きたいんがいいかい? 天才達には及ばない私でも、皆が残してくれた物を有意義に使う為に出来る事はしておきたい」
「……そうですね」


 バンドロームには触れなかったけど、法の書には触れるんだな。まあだけどバンドロームは実行兵器で、法の書が指示系統みたいな……組み合わせた時はなんとなくそんな感じだったからな。ロウ副局長の立場で確認しておきたい方は、どちらかと言えば法の書の方なんだろう。
 それはいいんだけど……


「あのロウ副局長、アイツどうしますか? トドメ刺しておいた方がいいのかな〜と。結構今がチャンスっぽいんですよね。白い腕も動かなく成ってるし、放って置いたら大事な場面でまた邪魔されるかも……」


 そんな事になったら大問題だ。ハッキリ言って今度まともにぶつかったら、勝てる要素が僕達にはもう無い。皆無といっていい。だからこのチャンスを逃すのはどうかと……殺れる時にやっといた方が良いような?
 ロウ副局長も僕の言葉を聞いて視線を地面に寝てる奴の方へ向ける。その瞳が一瞬鋭さを増したように見えたけど、それも無理は無い事だよな。突然の襲撃者なんだ。あんな姿を見ても同情の目とかは流石に向けないだろう。


「君は後何回切り刻めば奴を倒せる?」
「それは……分からないですけど」
「一撃で倒せないのなら、下手な衝撃こそ逆効果になりそうじゃないか?」


 ふむ、確かにそれはある。下手な衝撃与えて目覚めさせると厄介だよな。


「だけど、あの白い手とか……出来る事ならなんとかしてやりたい様な気がするんだよな。あれは多分コードを奪われた人達の成れの果ての姿だと思うんだ」
「多くを求めすぎると何も手には出来ないぞ。我々はもう失いすぎた。取り返せるものだけを見るべきだ」


 神妙な声でそう告げるロウ副局長。確かに……この手の平からは零れて行ったものが多い。いつだってそうだ。僕の手が繋げれる物はそうそうない。簡単に零れてしまう。どうしようもない事ばかりだけど、何か出来なかったのかと思ってしまう。


「確かに沢山の物を一度に手にするなんて器用な事は僕には出来ない。目の前の事で一杯一杯だ。だけど……今が無理だからって諦める事はしない。あれも、取り返さないといけない物なんだ」


 リアルの魂を放っておくなんてしてたら、セツリを助けれたとしても意味なんて無くなってしまう。全てを救って上手くいく……なんて夢物語かも知れない。だけど、誰か一人でも戻ってこれないなんて事になったら、背負わせる事になる。
 アイツの体じゃ……きっとそんなの背負えない。だから今は助けれなくても、このままにしておく気はない。


「勝手にすればいい。自分はこの街を救う事を考えるだけだ」
「それでいいと思う。これは僕達の問題だから。それでどこに移動するんだ?」
「それは勿論積層の陣での変換されてる力を横取り出来る所だろうな」


 横取りって……いや、間違ってないけどさ。だけどそれってようは中央に戻るって事か? 孫ちゃんの話では陣は別に中央に集中してるわけじゃない様だったけど、その供給は多分三つの研究所に集中してる筈だからな。
 それを狙うってことだろう。


「じゃあ第一か第二か第三のどこかって事か」
「いや、そうじゃない。その三つは円環の循環の中心じゃない。通り道に過ぎないだろう。三つを一つの消失点には出来ない。周り巡る行き着く場所は一つで、そしてその流れが集まる場所こそ、変換に変換を重ねれる場所でもある」


 無駄に複雑に言うな。ようは力の流れの集中点こそ、流れを変える場所って事だな。


「じゃあその場所は?」
「君の仲間が古い地図を持っててくれた」
「これって……」


 そう言って広げた地図は確か森の方の研究所で使った奴だな。フランさん達が幼い時の奴とかいってた。そう言えばそれに孫ちゃんが積層魔法陣を書いてた。全貌じゃなく、分かる範囲をだったけど……三つのゴーレムがあった部屋に力が集中してた筈。
 でもその時は、今のように完全に発動してた状態じゃない。多分色々と変わってると思うんだけど……


「君はあちこちにある石塚に気付いたか? アレは多分積層魔法陣の歯車に成ってる様だ。小さな歯車が無数に周り、大きな歯車を動かしてる」
「それが何か?」
「目が行くのはいつだって大きい方だが、本当に大切なのは小さな方だったりする」


 分からなくもないけど、この街に今その石塚がどれだけあるかなんて把握できないだろう。


「私も伊達に研究者を名乗ってる訳ではない。第一の近くで見てきたものもある。それに貴重な資料もあったしな。私にも沢山の物が刻まれてるのだよ。安心しろ検討は付いてる。そう検討は……」
「ん? ……頼りにしてる」


 他にもう誰もいないからな。でもなんだか気になる間があった。するとロウ副局長はとことこと倒れてる黒い奴の方へ。何をするのかと思ったら、何か四方の地面に仕掛けてる? そしてこっちに戻ってきた。


「まあ保険だよ。奴が目覚めても数秒位は稼げるだろう」


 何もしないよりはマシって事をしたようだ。もしかしたらその数秒が明暗を分けるかもしれないしね。


「では行くか」


 そう言ってロウ副局長は手を差し出してくる。法の書か。僕はバンドロームを消して、法の書を取り出す。それを受け取ってロウ副局長は何故かまだ僕を見てる。出発するんじゃないのか?


「私も共に走ると時間が掛かるだろ? 担ぎたまえ。それに走りながらだと本を確認出来ない」


 さも当たり前の様にそう言ってきた。だけどまあ、この人について行くってのは確かに時間がかかるからな。僕が担いで行ったほうが速いか。僕はため息を吐きつつ腰を下ろす。そして背中に掛かる重みを噛み締めながら立ち上がった。


「指示通りに走ってくれ。なるべく速くな」
「わかってますよ。だけど、法の書を落としたりしないでくださいよ!」


 地面を蹴って風を切る。背中に掛かる重みは、結構キツイ物があるけど、この重さがなくなるかも知れないと……僕は心のどこかで怖がってる。ふと気づいたらいつの間にか自分一人に……それがあり得ないなんて事はないんだ。
 だから僕はこの重みを噛み締めながら走る。この重さがあり続ける事を願って走るんだ。

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