命改変プログラム

ファーストなサイコロ

綻びの雷光

 クルクル、クルクルと回ってチリリンと音を立てて止まる指輪。完全に消え去ったあの人の存在証明は最早これだけ。不幸中の幸いか、この指輪にはさっきの人の一生……じゃなく半生が刻まれては居るんだよな。
 消え去ったとしても生きてた証明は……って、これで終わったわけじゃないだろう。前も神隠しにあった人達は戻ってきた。それなら今回だってその可能性はあるはずだ。


「とりあえず、これをそのままって訳にもいかないよな」


 そう呟きつつ、僕は指輪に手を伸ばす。するとその時だ。光り続けてるこの街の輝きをその身に帯びて、指輪は僕の手をすり抜けて行く。


「なっ!? おい!」


 僕はすり抜けた指輪の行方を追う。すると手近にあった石塚へと吸収されていった。おいおい、どういう事だよ? これはその為にあるのか? 


「スオウ、何やってる? 取り敢えずぶつけれるだけはぶつけた。今の内に離れるぞ」
「テトラ……それは勿論なんだけど……今、人が消えた」
「消えた?」


 僕の言葉に息を荒くしてるテトラが首をかしげる。てか相当無理したのかかなり消耗してる様に見えるな。やっぱりこの街じゃ万全な態勢で力を発揮できないらしい。まあそれでも僕達よりもずっと強力な力を操ってる事に変わりはないけどな。
 そこら辺は流石神。頼りになる。だけど神を味方に付けてるのに勝てないんだから笑えない。普通は神って存在を味方につければそれで終戦だろ。確かにテトラは設定上の神でしか無いけどさ……奴等の存在がほんとチート過ぎる。
 そもそもシクラ達はまだ分かるんだ。あの姉妹は、元々LROの住人じゃないからな。外から入ってきた奴等。だからこそ、LROのルールやシステムに縛られる事がないってのは納得出来る。だけどあの黒い奴はこの世界で一応は生まれた存在だろ。なのになんなんだよあれ? シクラが創りだしたとしても……なんかもう訳分かんない存在だろあれ。
 一応この世界で生まれたくせに神より上って……おかしい。まあそれもコードを喰ったおかげなんだろうけど。


 僕は首を傾げるテトラに、こう言うよ。


「ああ、第一の……統括達の自分達の欲望が上に来てるのかも知れない」
「……そうか、なら次の行動をとれ。うじうじやってる暇なんてない。そうじゃないのか?」


 テトラの奴は直ぐに切り替えてそう言ってきた。確かにそうだな……その通りだ。まだ統括達の真意までは図りかねるけど……目の前で起きた事は紛れもない事実だ。それを受け止めて、次の行動に変える。それが今、僕がやれる事だ。
 幸いにも僕の手元には三種の神器がある。これがあれば、こっちから無理矢理統括達の目的を妨害とか出来るかも。それに消えた人達だって連れ戻せるかも。僕は懐から御札を取り出す。これで孫ちゃん達と連絡取れる筈だ。


「テトラ、やっぱお前神様っぽいな」
「なんだそれ。俺は紛れもなく神なんだよ」


 僕の言葉に呆れたようにそう返すテトラ。確かに当たり前だけどさ、今はホントお前が居てよかったって思えるわけだよ。僕は御札の表面を指でなぞって数字を描く。複数の御札をリンクさせた場合はそれぞれに番号を割り振るからな。それで通話先を決めるんだ。取り敢えずはフランさん辺りが妥当かな。
 所長よりも話しやすいしな。そう思ってると、激しい音と共に、空に上る黒く禍々しい姿が目に入った。アレだけの攻撃を食らったのに、もう復活か……もう少しゆっくりしてればいいのに。下手に隠れて流れ逃げる事も出来ないから、僕達は大通りの方に出て街の外側を目指す。
 案の定奴は僕達を見つけて追いかけてきた。するとそこで撹乱目的か、テトラの奴が濃い靄を周囲に拡散しだす。なるほど、安易だけど、ある意味効果的かもな。当たりにくくは成るよな。とにかく今のうちに連絡を取り合っとかないと……


『ふぁふぁい? えっと聞こえてる?』
「聞こえてるよ。そっちの状況は?」


 初めて使う御札に慣れない感じが見えなくても声だけでわかる。いつもは指輪を使ってるはずだしね。しかもきっとももっと簡単で高機能なんだろう。御札はあくまで声だけを送るものだし、通信するにはリンクが必要。
 なんかローカルな感じだからな。でも素早く連絡取り合えるってのは便利だ。まあ指輪でも出来るだろうけど、ローカル具合が御札はいいんだよね。安心感があるって言うか……無理矢理付けさせられた指輪で通信ってのもなんかな……て感じだから。それに別段不便はないだろ。
 周りでは激しく物騒な音が響いてる。黒い奴が闇雲に力を振るってるんだろう。取り敢えずこっち側に向けて力を振るう分には問題ない。研究所から遠ざかる様に仕向けてるんだからな。こっちに夢中なら研究所は大丈夫な筈。周りの建物はズタボロに成ってるだろうけど……それはほら、流石に仕方ない。
 こっちも体張ってるんだからな。その位は許容して貰いたい所だ。


『人数も増えたけど、そうね……色々と難しい物があるわ。なんか減ってる本があるみたいだしね』
「減ってる?」
『もしかしたら、重要……というか、ここの本は全部それなりに重要だろうけど、多分その中でも必要な物は第一の奴等によって持ちだされてる可能性があるわ』


 しまったな。どうしてその可能性を考えなかったのか……一番最初にあそこで本に食いついてたのは第一の奴等だったじゃないか。だけど初めて来た筈の場所で、しかも初めて見たはずの本で、どれか重要かなんて早々分かるはずもないと思うんだけどな。
 零区画だけでかなりの蔵書があったんだぞ。あの時間だけで重要な物を全て選び取れる訳がない。普通なら……だけどあいつらって全員天才なんだよな。何か選り分ける術でも持ってたと考えるべきか? いつだって後手後手だなホント。仕方ないっちゃ仕方ないんだけど……


「じゃあ三種の神器に関しての本はもうないって事?」
『それはなんとも言えないわ。今目玉がここの蔵書を一気にスキャンしてるから、それが終われば一気に検索掛けれると思う』
「目玉が? そっか」


 目玉の奴なかなか有用じゃないか。あいつ第一の研究データも丸々全部入れてたけど、零区画の蔵書までも収納できるって、どれだけストレージ容量あるんだよ。幾ら動画とかのデカイデータじゃないからって研究データとかもやっぱ膨大だとは思うんだけど……しかも零区画の本はどれも鈍器出来そうな程に分厚かった。
 やっぱバカでかい容量になりそうな物だけどな。まあ錬金や魔法がある世界なんだから、リアルの感覚で違和感感じるのも可笑しなことなんだろうけど、ふと思っちゃったよ。取り敢えず今の段階では真新しい情報は得られてないってのが結論か。口惜しいがこればかりは僕が焦ってもどうすることも出来ない事だ。
 それに皆頑張ってくれてた筈ではあるだろうしな。あんな分厚い本を読み漁るとか、僕が自分でやらないといけないと考えると辟易するもん。しかも内容を把握してより早く……多分僕なら一冊読破するにも数日かかってもおかしくない。
 物語性がある小説ならまだしも、アレ全部なんか小難しい……いやもう超理論とかが書いてある代物だろう。きっと頭が付いて行かない自信がある。まあそもそもこっちの言葉は読めないんだけど。
 そんなクソ難しい本の内容確認に頭使ってくれてたんだからご苦労様だよ。新発見が無いのなら、今の現状に目を向けよう。幸い零区画はブリームスの様子を伺うことが出来るみたいだし、それならこの街で何が起こってるのか把握できる筈だ。


「取り敢えず本の方は目玉に頼るとして、フランさん達は今この街で何が起きてるか、知ってますか?」
『う〜ん、私達はずっと本に齧りついてたから……街の様子の方はクリエちゃんや、治安部の奴等が騒いでた様な気がするわよ。何かあったの?』
「ああ、魔鏡強啓零項の扉が開いて、錬金が変な方向に活性化してるのかどうか知らないが、あの時と同じだな。いや、もっと深刻かも……人が消えだしてるっぽい」
『ぽいって……』
「しょうがないだろ。自分で確認したのは一人だけなんだよ。だからそっちで街の状況を見て欲しい」
『そうね。それが確かならやっぱり第一の連中は不味いことやってるって事だものね』
「¬¬……そうだな」
『わかったわ』


 フランさんはそう言って周りに何か言ってる。多分奥の方へ進むんだろう。あの金のゴーレムと台座があった場所へ行くはずだ。取り敢えずこの街全体で何が起ころうとしてるのか、それを知らないとだな。
 一人だから良かった……なんて言いたくはないけど、一人で済んでればまだいい。だけど既に次々と神隠しが発生てるのなら、それはもう第一の連中はわかってたんだろうって事になる。てか、その可能性は過去の経験から予測出来てた筈だろう。
 それなのに何の警告も出さなかったってのは、やっぱり言うと実行できなくなるからか? ブリームスの街の人達が全員消えてもいいと思ってるのだろうか? それとも流石にそこまでは行かないだろうって思ってるとか? 多少なら、やむを得ない考えか……どちらにしても神隠しが起き始めてるのなら放っては置けない。
 不確定要素が強いけど、三種の神器の代わりを各研究所で補おうとしてるのなら、本物で対抗できるのは道理だろ。寧ろこっちが正攻法だ。だからこっちはまだどうにか––その時刃がそこら中を切り裂く音が聞こえ出す。
 かなり濃い靄のせいで僕にとっても見えるのはテトラの背中だけ……だけどこれは見えなくてもわかる。あいつ、この靄の範囲全部を切り刻む気だ!!


「脱出する! 飛び込め!!」


 テトラの奴も当然気づいて既に移動用の靄を作ってた。そこに僕達は突っ込んだ。そして次に広がったのはまたもや空。しかもさっきまで靄で光を遮ってたせいで陽の光が眩しい。どうやら単純に靄の上空にきただけの様だ。
 どこにも足場がない。僕は飛べないんだからもうちょっと配慮して欲しかったな。だけど多分、ソレさえもできなかったのかも。眼下には軒並み切り刻まれて僕達が通った跡だけポッカリとしてる町並みがみえる。つまりは周辺には建物自体が無くなってる。
 テトラの靄を使っての移動はそんなに距離を稼げる物ではないし、仕方なかったのかも知れない。それになんか息が上がってるようにも見える。こいつもやっぱり疲れてる。当然だな。少し前まで昏睡状態だったわけだし、そこから目覚めたらまたバトルだ。無茶させすぎだ。分かってはいるんだけど、でもテトラに頼るしか無いのが現状だ。
 僕がもっと色んなスキルを覚えてて、オールマイティーに動けたなら……そう思うけど、結局はここではそれでも状況は変わらなかっただろう。だってブリームスではスキルが通常通りには発動できない。僕のイクシードとかはそこらの風も巻き込めるからまだ良いけど、魔法とかはヤバイと孫ちゃんも言ってたからな。大抵の普通のスキルもきっと影響受けるだろう。テトラは神だから色々と大丈夫そうだったんだけど、やっぱりこれだけ力を使わせてると影響はでてくるよな。
 だけど今まさにこの下でも同じ様に建物のミンチが製造されてるんだろうし……このまま眼下に落ちるのは不味いな。ミキサーの中に飛び込む様な物だ。ここは自分でなんとかしよう。大丈夫、空中での移動もイクシードを使えばある程度は––


「ようやく出来てきた。かくれんぼはオシマイだ!」


 そんな声が僕とテトラの耳に届く。後ろから高速で向かってくる奴の体からは黒い煙の他に赤い蒸気が見て取れる。なんだあれ? 禍々しさが増してるぞ。奴の背中の羽根の音を僕達は聞くことは出来ない。だけどこの街に吹く風が教えてくれる。鎌を両手に持ってる癖にまずは羽で切り刻む気か! 避けるにしても追撃をどうするか……テトラの奴は今の移動で反応が僅かに鈍いし、僕がよけれたとしてもテトラが危ない。
 こうなったら無茶だろうけど、先にぶつかるであろう僕が止めるしか無い。


(頼むぞセラ・シルフィング!!)


 僕は体を回転させて、ウネリの中で内包させてた雷撃を周囲に放出する。その瞬間ガキン!!––と何かにぶつかった衝撃が腕に走った。奴の進行してくる方向とは真逆での手応え。明らかにあの羽根での攻撃だ。
 するとその衝撃に続いて、周囲で雷撃に反応して次々と火花が散った。その音のせいで耳がキンキンするけど、見えない刃は僕の体まで届いてはいない。


(やっぱり)


 もしかして……と思ってたけど、これはそうなのかも知れない。奴に初めて雷撃を使ったときは不意打ちだったからあれほど効果的だった––と思ったんだけど、それから何回かの攻防で僕はあることを感じてた。


 派手な火花が散ったことでテンションが上がったのか「ひゃっはああああああ!」とか叫びながら奴は僕に近づいてくる。テトラがこっちに助太刀に来ようとしてるのを視線で止めて、僕はセラ・シルフィングを強く握る。


(まだ確信じゃない。だけど、もしもそうならもう少しだけ渡り合える筈だ!!)


 奴は僕が頭から地面に落ちて行ってるのを見て今の攻撃でダメージを受けたと思い込んでる筈だ。そして止めを刺そうと両手に持った鎌を大きく広げて向かってきてる。その鎌を奴は左右から同時に振り抜いて来る。僕の体を三等分にでもする気か……だけど、そうは問屋が卸さない!


(ここだ!!)


 僕は向かってきてる鎌の勢いに合わせてセラ・シルフィングをぶつける。そしてその瞬間雷撃を放った。だけどそれで奴の勢いが落ちるわけがないのはわかってる。無理矢理でも押し切ってくる。だから無理せず僕はセラ・シルフィングと鎌の勢いを利用して、鎌と鎌の間で回転してその攻撃を受け流した。


(やっぱり)


 その場に居たら普通はもう、鎌の見えない方の刃に僕の体は切り刻まれてる筈だ。だけど、そんなの一切こない。やっぱりそうなんだ。多分こいつは、電撃系の技に弱い。体の敏感な反応も、それが無関係じゃないのかも。


 攻撃を受け流されて両腕が伸びきった奴の体は全面が完全に空いてる。今なら届く!! 回転に風の尾が集ってくる。薄い緑色した微かな風の色に、スパークする雷撃が混同した剣をそのがら空きの胸に叩きこむ!!


「づあっ!?」


 手応えありだ! だけど多分それでも奴のHPの減少は多分微量だろう。けどそんなの気にしない。少しづつでも、攻撃を当て続ける限り、ゼロに近づいていくんだ!! 勢いのままに五連撃をあびせる。勢いを取り戻す為に僕は拳の甲を打ち付ける。反動は増幅し、腕に引っ張られる様に体が回る。それから更に機動を変えて更に剣戟を続かせる。
 それを幾重にも幾重にも続ける。反撃の暇なんて与えない。体中の空気が無くなろうと、体中の血液が沸騰しそうになろうと、僕は攻撃をやめなかった。だってコレ以上のチャンスはない。こいつのHPが尽きるまで、この体を動かし続かさないと勝算なんてないんだ!


「うおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああ!!!」


 だけどその時、僕の勢いが止まる。奴はその強靭な顎と歯でセラ・シルフィングを止めやがった。赤く光るその目には狂気と執念が宿ってる。


「くっ……」
「退けスオウ!!」
「離しやがれ!!」


 僕はテトラの言葉を受けて、最後に雷撃を食らわせて奴を踏み台に距離を取る。そしてそのまま地面に着地。奴は地面に落ちるその寸前でテトラの拳を今再び受けた。あのテトラが声を荒げて
拳を振りかぶったんだ。
 テトラの拳は奴の体を貫いて更に地面に打ち付けられる。その瞬間、円形状に地面が爆散する。目の前が一気に瓦礫や土で覆われて体が浮き上がり上下の感覚がなくなった。そしてそのまま何処かへと僕は飛ばされる。




 気がつくと、なんだか口の中がジャリジャリした。そして背中が重い。見てみると瓦礫が体に乗っかってた。でもそんないっぱいじゃない。なんとか這い出せる程度だ。体が自由になると、その惨状に僕は驚くよ。
 これはちょっと……派手にぶっ壊しすぎじゃね? 半径百メートル範囲でもろもろ崩壊してるぞ。その中心でテトラと奴が……


「って、どっちもぶっ倒れてるじゃねーか!」


 攻撃を受けたあの黒い奴は当然だろうけど、なんでテトラまで。あいつ後先考えずにまさに全部を出しきったのかも。僕は急いでテトラの元へ。でも確かに、全てを出さないといけない相手だったよな。テトラの判断は間違ってはないだろう。
 チャンスは多分、この一回きりだった。それを掴んだ、僕達の勝利。


「大丈夫か?」
「貴様こそ、命を安売りしすぎだ。お前は完全に落ちてるのだろう。今死ねば、確実にあの世行きだぞ」
「そうだな」


 確かにそうだ。でも、それを考えてなんか居られないだろ。お前と同じだよ。取り敢えず僕はテトラに肩を貸して立ち上がる。するとその時御札から音が響く。きっとフランさんだろう。僕はポケットから御札を取り出そうとするけど、片側にテトラの重さがあるから取りこぼしてしまった。御札は宙を舞い、なんと奴の体の上へ。なぜよりによってそんなところへ……だけど見る限り、意識はなさそうだ。
 でもHPはなくなっちゃいない。これだけの攻撃を受けてもまだ健在ってどんだけだよ。そう思いながらも僕は御札を取ろうと手を伸ばす。


(起きるなよ〜)


 そう祈りながら御札に手を掛ける。するとその時、奴の胸に空いた穴から白く無骨な手が出て、僕の腕を掴んだ。
「ひっ!?」


 最早ホラーだろこれ。なんだか穴から声みたいなのも聞こえるような……


(ああ、そうか。貴様なら丁度いい)


 そんな声が聞こえたと思ったら、何かが流れ込んでくる様な……するとその手は優しく手を放してくれた。なんだ? 悪意がある物じゃない? そう思って、取り敢えず御札をしっかり回収した後に、もう一度そ〜と覗こうとすると、次の瞬間何本もの白い手が穴から一斉に出てくる。そしてそれは一斉にこっちに向かってくる。テトラを抱えてるせいで上手く避けれない。
 するとその腕の一本に肩を掴まれる。その力はさっきのとはまるで違う。凶暴で凶悪な……破壊を目的としたようなそんな力だ。そしてまた何か聞こえる。


(たすけて……たすけ……)


 ギリギリと肉に食い込んでくる指。このままじゃヤバイ。更に数本の手がこっちに向かってくる。


「放て!!」


 そんな声と共に放たれたのは大きな水の玉? 腕にぶつかって弾けるそれに一体何の意味が? とか思ってると、手が歪な感じに曲がりだす。なんだ? 苦しんでる?


「大丈夫か? 遅れて済まない」


 そう言って近づいてくる中年男性はロウ副局長だ。まさか周りの奴等がもってるこの水鉄砲が、奴相手に使える武器なのか? 僕のそんな思考を読んだのか、ロウ副局長はこう言うよ。


「これはただの水弾ではない。錬金で周囲の水分を集め作り出し、更にオプションで付加価値を付けれるすぐれものだ」
「付加価値?」
「ふふ、錬金は基本一つのアイテムで一つの事をやるのが基本。だがこれは様々な効果をこれだけで与えれる。応用が聞くのだよ。ちなみに今は毒を仕込んでる。それもとっておきのな」


 なるほど、アレは苦しんでるって事か。すると次々と奴の傷という傷から腕が生えてくる。そして大量の腕が奴の仰向けの体を持ち上げる。これじゃあもう、別のモンスターだ。


「おい、これは効いてるのか?」
「も、勿論。とっておきだからな」


 そういうロウ副局長の声は震えてた。どうやらまだまだ、僕達の苦難は続きそうだ。



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