命改変プログラム

ファーストなサイコロ

あの世界へもう一度

 協力……と言っていいのかは分からないが、取り敢えず話には乗ってくれた。奴等の好奇心を擽れたのかは正直分からないし、キチンと味方してくれるかも定かじゃない。けど、一応の同盟は結べたと思う。


『まあ間に居るというのは悪くない。全てを知れる位置に我等が居る。精々寝首を掻かれないようにする事だな』


 そんな捨て台詞の後に、そいつは仲間に電話を替わらせて指示を送ってた。何を言ってたのかは分からないが、まあ奴等も色々と情報が得れるまでは大人しくしてるだろう。それこそ、従順な振りをするはずだ。


「大丈夫なんでしょうか?」
「何がですか?」


 隣に座ってるドデカイ体のラオウさんに言葉を振る。協力は確かに約束してくれたけど、イマイチ不安と言うか……信頼は出来ないよな。利用してるだけだからな。こっちが言葉を通した感じだっただっけど、実際はそうじゃない。色々と危ういバランスにしか成らなかった。
 あの電話の向こうの相手の心なんてきっと一ミリも動かせてなんかない。やっぱ日鞠の奴の様には行かない。俺は早々上手くやれた試しがないからな。忘れてたが、そんな奴なんだよ俺。何とか成ったのは、ラオウさんが居たからだろうし、それに向こうの奴の気紛れでもあった気がする。


「奴等の事ですよ。直ぐに自由にしちゃって……一人ぐらい人質にしてても良かったような」
「そんなの意味ないですよ」


 何故か確信めいた声でそう言うラオウさん。でも俺はそうだろうか? って思う。人質は安易だけど、効果的ではある筈だ。俺達みたいに不利で後ろ盾もない……というか、ゴリ押し材料がない方に取っては簡単にゴリ押し材料が出来て重宝するじゃん。
 取り敢えず脅しとして使える。


「秋徒君、人質の真の価値を知ってますか?」
「真の価値?」


 随分大層そうな煽りだな。だけど人質の真の価値か……俺は尻に車の振動を感じながら考えてみる。


「やっぱり命ですか? それならまあ、俺達には意味ない物になりますしね。どう考えても俺達には人質を殺すなんて事出来ない訳ですし」
「そうですね。大体正解です。命はやっぱり大事です。そしてそれを私達は奪えないというのも、人質の価値を下げる要因に成り得ます」
「でも大体って事は違うんですか?」


 頷きながら聞いてたけど、結果はさいしょから告げられてた。大体––らしいからな。それは正解じゃない。俺が視線を向けてると、ラオウさんは窮屈そうな車内で、天井に頭を擦りながらこっちを向いて来る。
 真面目そうな顔なのに、そんなギャグみたいな事をやられると正直困るな……まあ多分ラオウさんは全然気にしてないだろうから、突っ込むのはよしとくか。彼女の体の都合上仕方ないんだ。日本車はラオウさんには小さすぎる。外車なら様になるんだろうけど……日本じゃ外車なんて殆ど見ないからな。
 それに日本の道にあってもないし、わざわざレンタカーとかで借りもしないだろ。置いてあるか知らんけど。でも愛の家の車とかは高級外車だったかもな。でもそこまでデカイって訳でもなかったか……多分長いのとかもあるんだろうけど、それじゃあな。
 てかアメ車がデカイだけで、外車って言ってもそんなに大きさ的に変わらないのが多いかも……結局ラオウさんが規格外だから仕方ないな。
 俺がそんなどうでもいい事を考えてると、ラオウさんが答えを言ってくれる。


「わかりませんか? 人質が人質に成り得る要因。それは繋がりです」
「繋がり……」
「そう、何がなんでも助ける––その感情を引き出せないと、人質は人質に成り得ないとは思いませんか?」


 なるほど。確かにそれはあるかも知れないな。諦められる程度の存在じゃ、人質には成り得ないという事か……犯人が子供狙うのかそうだよな。親は子供を諦めきれない。まあ世の中にはそうじゃない親も居るかも知れないけど、大半はきっと大切に思ってる……だろう。
 だからこそ、子供の誘拐事件とか絶えない訳だしな。そう言えば俺達の住んでる地域でも結構前に誘拐事件っぽいことがあったな。結局いつの間にか風化したけど……解決したとかは聞かなかったような……まあその当時は小学生だったし、興味が薄れて結果なんてどうでも良くなってたから覚えてないだけなのかも知れないけど。
 でもラオウさんの言いたい事はわかる。そいつの命の価値は、自分との繋がり強さで決まるもんな。正直、どこの誰かさんが死んだって胸が痛くなるって事はそうそうない。知らない親戚が死んでもそうだ。まず「誰だっけ?」ってなる。
 親戚は一応他人じゃないだろ? だけど、繋がりが薄ければ、同じ事なんだ。だから大切なのは繋がりって事か……


「ようは、奴等の繋がりは俺達が思ってるほどに無いって事か。まあ確かに、そこまで仲良さそうって訳でもなかったけど……」
「もしかしたら、こちらにいたあの下っ端の人達は信頼くらいはしてたのかも知れないですね」


 下っ端……間違ってないだろうけど、酷い言い方っすね。


「ですが、電話向こうの奴は違う。あいつ、一度でも会話の中で彼らの事を口にしましたか?」
「そういえば……」


 思い出してみると、全然触れられなかったな。信頼とか繋がりがあるのなら、心配とかするのが普通だろ。だけど電話向こうの奴の声にそんな色はなく、そして彼等の事が触れられたのは最後の最後にこれからの事を指示する時だけ。
 繋がりって奴は確かに薄かったのかも……


「良く気付きましたね。そこまで頭回ってなかったですよ」
「いえ、ただそれだけではないですよ。最初から感じてたんです。これは多分、長年の勘というか、そういう類の物なので秋徒君が気にする必要はないですよ。あの電話向こうの相手は最初から、いけ好かない感じでした」


 そういうラオウさんはなんかちょびっと怖い顔をして前方を見てた。思い出したら、胸糞悪くなったのだろうか? でもまあ、いけ好かない奴ではあったよな。それは全面的に同意出来る。それにラオウさんの勘はなんとなくだけど、信頼度が高い。
 これまで修羅場を潜ってきた経験からの勘なんだからな……俺達が感じるなんとなく––よりもラオウさんのなんとなくはきっと質が違うだろう。


「多分電話向こうの奴は多分簡単に部下を切り捨てることが出来る。そんな奴に、人質なんて意味を成さないでしょう」
「それもそうですね。ラオウさんが言うならそうなんだと思います。それに敵側のおっさんを連れ回すってのもなんか嫌ですしね」


 面倒だし。人質もメリットばかりじゃないかもしれないもんな。逃したらこっちの情報とかがヤバイ。まああのおっさん達にそんな根性があるとは思えなかったけど。ラオウさんのひと睨みで震え上がるもんな。


「取り敢えず奴等との連絡はこれで取るって事で……」


 俺はそう言ってポッケから他人のスマホを取り出す。あのおっさん達のスマホそのまま拝借してきたんだ。おじさんも快く貸してくれたよ。きっとラオウさんに逆らえなかっただけだろうけど。


「けどわざわざこれを使う必要あるんですか? 別に自分達のでも連絡は取れますよ」
「そうですけど、そうすれば私達の番号が向こうに渡ります。嫌な奴にはなるべく教えたくはないでしょう?」


 確かに……でもそれって完全に個人的意見では? まあ反対はしないけど。


「それにですね。今の時代、そういう物には様々な情報が残ってる筈です。もしかしたら思いもよらない収穫もあるかも……敵側の端末というのはそれだけ重要ですよ」
「なるほど。確かに奴等にとって都合悪い事は情報交換してこないかもしれないですしね。何かがこの中にある可能性はある」


 一応、奴等にはこちらの求める情報開示の条件は付けてる。だけど、どこまで信頼出来るかは怪しいからな。その分、これには今までのやり取りとかが残ってる可能性はあるよな。流石に色々といじるのはどうかと躊躇ってたけど背に腹は代えられない、これもスオウ達の為だ。
 俺は早速中身を漁ることに。取り敢えずはメールだな。これが一番情報として残ってる可能性が高い。だけどそこで思わぬ伏兵が現れた。


「ロックだと……」


 パスコード要求が画面には現れてる。あやふやな感じで入力を試みるけど、当然そんなので開くわけがない。くっそ……まさかロックをかけてるとは。


「まあ大人となれば見られたくないメールがあったりとしますしね。ロックくらい掛けててもおかしくはありません」


 ラオウさんは別に慌てるでもなくそう言う。そういう物なのか? 俺は実際ロックとか掛けないからわからないな。そこまで隠す内容の物がないし。でもパソコンのエロ動画とかのファイルは隠してるな。
 なるほど、それと一緒か。つまりはこのロックの向こうには浮気か二股とかの証拠があったりなかったり……大人がメールを隠すとか、そういうものしか思いつかない。


「ラオウさんも掛けてるんですか? ロック」
「いえ、私は……メールなど、誰からも来ませんから……はは」


 なんてこった! 地雷を踏んじまったぞ。確かに積極的にこの人に関わろうとする奇特な奴はそうそういないよな。ロック掛けるのが普通ってな感じで言ってたから、ラオウさんもかなって思ったけど、少し考えれば分かることだったな。
 想像だったんだ、きっとテレビか何かで得た知識だったんだ。そもそも俺も前あった時メアド交換さえしなかったしな。てか携帯持ってるとかしらなかったし……って待てよ。




「そう言えば、メカブとはメールしてたんじゃないんですか? 誰からも来ないなんて嘘じゃないですか」
「ああ、メカブですか……そう言えばそうですね」


 あれ? なんで余計に遠くを見るんだ? 空を見上げて、一体どこをみてるんですか? まるで故郷に思いを馳せるようだ。そんな哀愁を漂わせる何かがあるのか? なんか触れちゃいけないような……でもその背中は語りたがってるようにも見える。


(どうする……選択を誤るな秋徒! お前ならきっとやれる! 自分を信じるんだ!!)


 心の中で自分を鼓舞しつつ、俺は意を決して声を出す。


「なんすかその反応は? まあメカブの奴だからろくなメールをしないのは想像つきますけど」
「そうですね。ふふ、悪い子じゃないんですけどね」


 遠い目が疲れた様な目に! いや、アイツまじでなに送ってたんだよ。おかしいだろ。普通こんな反応しないぞ。スルーするか貫くかで迷ったわけだけどさ。一回踏んだものは踏み抜くのがいいのかなと思って突き進んだけど、なんかこっちが耐えられなさそうだ。
 よく日鞠の奴は地雷を踏み抜けていけるな。取り敢えず話しを逸らそうと、話題を考えてると、ラオウさんはブツブツと何か言い出した。聞き耳を立てくないけど、静かな車内では嫌でも聞こえてきてしまう。


「アカシック・レコードと言う名の妄想日記が毎日の様に……最初は嬉しかったんですけどね。ですが、ほんと……あの子の文才の無さには頭痛が……いえ、日本語はまだ完璧でないので、言えた義理ではないですが……ですが、アレは……」


 窓の外を見て歯噛みするラオウさん。いやいやいや、そこまで酷いの? てか文章読んでそこまでの感情をもたせるってある意味で凄いんではないか? 俺はそんなん感じた事無いぞ。一体どれだけ酷かったら歯噛みするほどの感情を文章だけで抱けるんだ? 
 ある意味見てみたい気がする。頭痛まで催すとか……まあ俺はラノベ読んでるから大丈夫だとは思うけどな。でもメカブの奴は見た目アレで、中身もアレとか……救いようないな。
 タンちゃんは見た目アレだけど、中身は優秀なのに……同じ血を分けてるんじゃないのかよ。


「ラオウさん、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です。少し思い出しただけですから。そう言えば私も掛けてましたロック。封印と言う名の鍵を厳重に」


 笑顔で酷いことを言ってる。けど今の言い回しは、メカブ好みそうだな。アイツ中二病全開だから、封印とか、鍵とか意味深な言葉大好きだろ。でもまあ、それだけしなきゃいけない代物だったんだろう。逆にそこまでさせたメカブが凄いとも言えるかも知れない。


「うわっ!?」


 微妙な空気になってる所でいきなりスマホが震えた。どうやらメールが届いた様だ。だけど如何せんロックのせいで内容が確認できないぞ。このタイミングで来たって事は、もしかしたらこいつらのボスからかも知れないのにな……


「仕方ありません。合流したらタンちゃんにロックを解除してもらいましょう。彼ならきっと開けれるでしょう」
「そうですね」


 確かにタンちゃんならこの程度のロックなんて速攻で解除してくれそうだな。まあ本人聞けば早いんだろうが、電話帳もロックされてるし、名前は一応聞いたけど、履歴がない。なんかちょっとおかしいなこれ。
 まるでロック解除を先回って妨害されてるような……そんな気がしないでもない。そもそもこのスマホって一回本人に戻したんだもんな。そしてその時、奴等はボスから指示を受けてる。もしかしたらこのロックも最初からじゃなく、その時に掛けられたものなのかも知れない。


(だけどそれなら……なんの為にって事に)


 そこがわからないな。見られたくないデータがあるなら、その時にでも消しておけば良いだけだ。ロックなんて解除される可能性を残す必要ないだろ。消した物を復元するよりも、鍵をあける方が簡単だろう。そもそも鍵を掛けるから怪しまれるってのもある。違和感とか感じなければ、消したことになんか気付かないしな。
 でも実際はこの携帯はロックされてる。メールとアドレス帳……後はSNSや無料通話アプリなんかも掛けられてるな。どうやら連絡手段を潰したかったようだ。だけどロックの時点で完全じゃない。通話履歴を消してるのは、そこから通話を掛けられない様にするため……名前さえわかってたら、履歴から通話できるもんな。
 でもそれなら電話機能もロックかけとけば……ってそれは無理なのか? 


「秋徒君、どうしました?」
「いえ、このロックってなんだか不自然だなと思いまして」
「不自然……ですか」


 俺は考えをラオウさんに伝える。するとラオウさんも疑問を持ってくれた様だ。


「確かに、少しおかしいですね。気になります。連絡を取らせたくない……それはつまりもう連絡を取り合う気がないと言うことですね」
「だけどまってください。名前は出てないですけど、直前の履歴は一件だけ残ってるんです。って事は、取ろうと思えばこちらからあのいけ好かない奴には連絡取れるんですよ」


 知らなかっただけなのか……それとも知ってての事なのか……でも奴等が俺達を切るのは得策じゃないからな。それを考えるとこれはワザとって気がする。


「連絡手段を残した上でのロックですか……その狙いは一体……」
「時間稼ぎ……とか? 連絡はメールでもやるって言ってたのに、これですからね。ハッキングとかを仕掛けた奴が居ると分かった上でのロックじゃないでしょうか。
 どこかに直ぐには見せたくない情報がある」
「その線が妥当ですね。取り敢えず、それなら急いで戻るしかありません。すみませんが、更に急いでください」


 ラオウさんは運転してるSPの人にそう告げる。コクリと頷いたその人はスピードを更に上げてくれるけど……大丈夫かこれ? 警察に出会わない事を祈ろう。




 運良く警察に見つからずにたどり着いたのは調査委員会のアジト近くのオフィスビルだ。普通に働いてる人達の横を通るのはなんだか忍びない。てか、本当にこんな所に愛達がいるのか疑問だ。皆さん真面目に仕事してらっしゃるぞ。
 時々感じる奇異の目が余計に気恥ずかしさを誘うというか……いや、よく見たら向こうの方がなんかびっくりしてるな。ああ、そっか。ラオウさんいるもんな。そう思いながら案内の人の後を付いて行くと、ビルの奥の一室に通される。


「この奥でお待ちです」


 そう言ってその人は立ち去る。俺はドアノブを回して中に入ると「うわあ」と声を出した。でもそれは俺だけじゃなく、後ろから入ってきたラオウさんやSPの人達も一緒だ。だってそこはなんだかとてもタンちゃんのあのビルの部屋と似てた。


「ようやく来たか。準備は既に済んでるぞ」
「遅いわよホント。私達は未来を託された選ばれた戦士なんだからね。わかってる秋徒?」


 タンちゃんとメカブの奴が俺達を見た上でそう言ってきた。特にメカブはなんか目元や鼻が赤い。分かりやすい奴だな。それに泣きたいのはこっちも同じだっての。


「わかってるさ。でもそれを最後まで伝えられなかったのも俺だった。こっちのほうが悔しいんだからな!」
「秋君……その……ごめんなさい」
「ホント、バカ……は言葉が悪いわね。勇敢な子達よ」


 愛が申し訳なさそうに肩を縮こませて、天道さんはどこか痛々しそうに体を抱いてる。皆が辛いんだ。誰だって、止めたかった筈だ。だから誰かを責めるなんて間違ってる。それよりも、前を見ることが大事だろう。
 準備は整ってるとタンちゃんは言った。机を見ると、三つのリーフィアがパソコンと繋がってる。あの三つはシルクとテツ……そして俺のリーフィアだろう。後は俺がジェスチャーコードを使えば……きっとLROへの道が開く。


「必ず連れ戻す」


 俺はその場の全員に聞こえる様にそう言い切る。それにその言葉は自分を鼓舞する為にも必要だ。怖くない訳ない。沢山の人の意識を奪って、そして日鞠はジェスチャーコードを使って意識を無くした。
 中に入れても戻ってこれる保証なんてないんだ。だけど……やるしか無い。俺しかいないんだ。


「タンちゃん、これのロックを解除といてくれ」


 そう言って俺はスマホを投げた。それを危なっかしくキャッチする彼。よくわかってないようだけど、後はラオウさんが説明してくれるだろう。俺は部屋の奥に進みだす。天道さんに会釈して通りすぎて、愛の前に行くと、愛が自身のスマホの画面を見せてきた。


「秋君、セラもシルクちゃんもテッケンさんも応援してますよ」


 画面には確かに「頑張れ」やらの文字が三つ見える。言われなくても頑張るさ。


「必ず戻ってくるから」


 そう言うと一瞬愛の瞳に涙がたまった。だけどそれをグッと堪えて愛は「はい」と笑ってくれた。更に進むとメカブの奴がこっちを睨んでくる。それはもうほっぺたを大きくふくらませて。なんだ? にらめっこか?


「どうしてアンタなのかわからない。頼りなさすぎでしょ!」
「ほっとけ!」


 何言ってくれるんだよこいつは! そんな事今言うな。んな事自分でもわかってるっての。するとメカブの奴は小指を差し出してくる。


「なんだ?」
「呪い。これ以上アンタがヘタレにならないようにするね」
「そりゃどうも」


 イラつくが一応俺も小指を絡ませてやった。


「呪いと共に、力も分けてやるわ。呪いは代償なのよ。私のインフィニットアートを渡す為のね。だからどっちもありがたく受け取ってよね」


 相変わらず全然可愛くない奴だ。全然可愛くないけど、ありがたい。くれるっていうのならその力貰い受けようじゃん。そして最後に俺はタンちゃんを見る。だけど向こうはこっちを見ない。


「まあなんだ……健闘を祈ろう」


 ダッサイマスクをしてキザったらしくそう言うタンちゃん。てかそのマスクしてここまで来たのか? やっぱり兄妹だな。そう思いながら俺はリーフィアを被る。部屋を見渡すと視線が自分に集中してるのがわかる。
 俺は深呼吸を少しして、そしてこういった。


「行ってくる」


 紡ごうジェスチャーコードを。答えてくれ……リーフィア……それにLRO。両手を駆使して俺はそのコードを表す。誰も知らない『約束』を。



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