命改変プログラム
小さな反逆者
「スオウ……」
ギュッとズボンを引っ張られる感覚がして下に視線を向けると、そこにはクリエの奴が不安気な顔をしてた。確かにロウ副局長のあの表情はちょっと怖い物が……
「そうじゃなくて……ううん、それもそうだけど、どうにかしないと」
「ああ、こっちか。確かにどうにかしないとは行けないよな。おいリルフィン、犯人がどこに行ったのかはわからないのか?」
画面上を埋め尽くしてた埃が徐々に落ち着いていく。すると頭上から差し込んでる光が眩しく見えてきた。そしてその光のお陰でその場の惨状が見えてくる。前に行った時は薄暗い中にズラッとゴーレムが立ち並んでたんだけど……今はそのほとんどが瓦礫と化してしまってる。そして地面に倒れてる人々……かなり派手にやられた用だな。
だけど一研究者にそこまで……いや、ここの兵隊位ならまだわかる。けど、リルフィンまでやられるってのはな。油断しすぎたんじゃないか? そんなリルフィンの姿はかなり薄汚れちゃってボロボロだ。
『犯人はゴーレムを操ってるからな。きっと目立つだろう。その穴から街に出たはずだ』
「そっか……それなら確かに見つけるは簡単かもな」
四•五メートルはあるし、それだけデカかったら目にも止まりやすいだろう。まあ問題は今は緊急事態で多分周辺には人が居なくて目撃情報とかは期待できないって事だろうな。中央に集まって、しかも政府お抱えの機関の人達もそこでの護衛とかに人材を使ってる。
どれだけ捜索にいける? てか、ここにはクリエさえいればどうにかなりそうな気がするから、僕も行きたいくらいだ。
「おい君、その裏切った奴はどんな奴だった? 出来る範囲で構わんから教えるである」
『そうだな……変な乗り物に乗ってる子供っぽい奴だ』
「ふむ……」
やっぱりか。だと思ったよ。まさかここまでの事をするとは思ってなかったけど、自分の中では納得出来る。そして統括もそうなのか、考え込んだままだ。
『おいどうした?』
隣の画面のテトラがそう言ってくる。そっちはかなり進んでそうだし、人材を割り振って捜索に回した方がいいかもしれない。
「アクシデントだ。リルフィン達の方で裏切り者が出たらしい。そいつは組み上がったゴーレムを操って逃走中だそうだ」
『なるほど。なら俺が行ってやる」
「いいのか?」
『他に適役が居るか? それに俺はリルフィンとは違うからな。やられる事などない』
「まあ、確かに」
『貴様ら……好き勝手言いやがって……』
しまったしまった。傷付いたリルフィンになんて事を。傷に塩塗ったら可哀想だもんな。
『ふん、邪神だからと油断しないことだな。錬金は貴様も専門外だろう? 足元救われるぞ』
『貴様に心配されるとはな。だがまあ、気には留めてておこう。それで、俺が抜けるのは許可してくれるのか統括とやら?』
その言葉で考えこんでた統括が顔を上げる。まあ一応、今俺達の身柄はこの人に一任されてるからな。何やるにも統括の許しが必要だ。
「まあよかろう。貴様の力は信頼出来るである。だがやりすぎてゴーレムを破壊はするな。それと犯人は生きて捕らえるである!」
『まあ、善処しよう』
そう言ってテトラは孫ちゃんの方に歩いて行って、何か話してる。きっと僧兵達の現状を教えて、自分が捜索に行くのを伝えてるんだろう。すると孫ちゃんがすごい勢いでこっちに迫ってくる。
『ちょっと、裏切り者って何よ? 全然まったく心配とかそんなんじゃないけど、アイツは無事なんでしょうね?』
全く孫ちゃんは素直じゃないなぁ。そこまで言ったら誰だか丸わかりだよ。でもまあ孫ちゃんだからな。仕方ない。でもそう言えば僧兵の奴は無事なのだろうか? リルフィンがなんとか無事だから、僧兵は紙一重で死んでてもおかしくは……
「リルフィン……僧兵のやつは……」
僕はゴクリと唾を飲み込んで聞いた。すると沈痛な面持ちでリルフィンが答える。
『残念だが……』
『ちょっと! 何やってくれてるのよ! なんの為にアンタがそこに行ったか分かってんの!? 守りなさいよ! その為のアンタでしょ!! 召喚獣何でしょ! 少しは役にたって見せなさいよ!
別に私の人生にアイツは必要ないけど……必要なくても居るスペースくらい有ったのに!!』
涙ながらにそう叫ぶ孫ちゃん。すると微妙な顔しつつ、リルフィンの奴が後ろに顔を向ける。
『いや、ほんと……残念だったかもな』
『別にわかってた事だし。それにまあ、自分的にはそれなりには嬉しいかな。まあこっちの人生にも影響なんかないけどな!』
『ちょっ……なんで生きてるのよ!?』
孫ちゃんの五月蝿い声が響き渡る。でもまあそうなるよな。だってリルフィンの奴明らかにそんな雰囲気出してたし……
『別に死んだとは言ってない』
『それに、アイツにはそこまでする気なんか無かったようだしな。だから被害がデカく見えるだろうけど、死人は居ない』
『……アンタ達ね……』
スッゲー不満気な顔してる孫ちゃん。気持ちはわかるけど、僧兵だって気持ち的な物を知りたかったんじゃないのか? 見えるものじゃないし、いつも上に居られてるから強く出れないってのもあるだろうし、こんな方法でしか気持ちを聞き出せなかったんだよ。
まあ確かに今やることでもないだろうけど、何が大切かなんか人によって違うからな。僧兵には孫ちゃんの気持ちは大切だったって事だろう。
「駄目だよ……」
「クリエ?」
「死んだとか思わせるのは駄目! 行けないよ!」
クリエの奴が珍しく怒ってる? しかもかなり真剣に? 確かに褒められる事は全くないけど……でも、そこまで言うこと……でもあるのかな。クリエは一度『死』を経験してるもんな。
冗談とかだとしても軽く扱ってほしくはないのかも。色々とあったから少しは時間が経った様に感じるけど……クリエにとって辛かった出来事はつい最近なんだ。そしてクリエみたいな小さな子程、そういうのは印象に残ってる物だな。
「謝って!!」
ズイッと圧力を掛けてそう言い出すクリエ。それに大の男二人はモゴモゴと何か言い訳じみた事を言ったけど、もう一度その言葉を口にしたクリエの本気に折れたようだ。
『悪かったな』
『ごめんなさい』
まあ、これはこれでどうなんだろう? と思わなくもないけどな。でもそんな事は実際どうでもいいから、これ以上掘り返すのは止めておいた。謝ったのなら、それで終わりだろ。他の人達もらしいし、次に目を向けるべきだろ。
既にテトラは出発したみたいだけど、そこの人達の為にも、人員を送ったほうがいいのは確かだろう。
「取り敢えず作業も終盤のようですし、こちらにゴーレムを届ける人数を最小限に押さえて、残りを救援に向かせましょうか?」
「そうであるな」
ロウ副局長の案に統括が首を縦にふる。そして指示を飛ばしてく。すると孫ちゃんがそこに割って入ってきた。
『ちょっと待って、このゴーレムってそっちに持ってく必要あるのかしら?』
「何を言ってる? こっちにはそれ用の場所があるのだ」
確かに統括の言う通り、こっちには不自然な空きが見られる。どう考えてもそこには残り二つのゴーレムが収まるだろう。だけどどうやら孫ちゃんにも言い分があるようだ。
『それは知らないけど、こっちにも台座みたいなのはあるわよ。そしてもう一方の方にも有ったはず』
有ったっけ? 覚えがない様な……するとセスさんが思い出したように言う。
「確かに、一つだけ台座に乗ってるゴーレムが有ったかも知れない」
なるほど。既に乗ってたから、あの時僕は見逃してた訳か……納得。多分孫ちゃん達もゴーレムをばらしてく中で気付いたんだろう。でも向こうにもあるってのはどういう事だ? それこそ飾りじゃないか?
「孫ちゃん達は知らないだろうけど、こっちは今特集な空間を見つけてその中に居るんだ。そしてここが真の零区画。そこにある台座は本当にただの台座ってだけかも……この場所の方が特殊性が高い」
『そうなんだ……そんな場所が……』
「ああ、だからこっちまで持ってきた方が確実だと思う」
こっちの空間はずっと秘密にされてきた超特殊な場所だ。そこに用意された台座。こっちの方が何か有りそうだろ。でも孫ちゃんはまだ迷ってる。
『その可能性は高いけど……けど……』
「何をそんなに躊躇してる? そんなボロい空間の物など壊れてるかもしれないんだぞ!」
所長がイライラしながらそう言う。確かに壊れてるかもしれないな。それかもしかしたら向こうにも同じような仕掛けが……でもおかしいか。こっちはこの空間に完成形のゴーレムがある。
だけど向こうはゴーレムがあって、それを組み立てる様に仕向けられてた……もしも向こうもここと同じなら、ゴーレムも別位相に置いてれば良いんだ。けど、そうじゃない……
「孫ちゃんは何が気になるんだ?」
『私はここが無意味な場所なんて思えないの。そしてもう一つもね。ここには確かに錬金の力が集まってる。そして積層する陣がある……ここはこの場所である意味がある。そう思うわ。
けど、その中心は多分あのゴーレムでしょう。もしもアレをそっちに持ってくのなら、この場所である意味がなくなるわ。だから……まずは試させて。あれを台座に置いてみましょう』
孫ちゃんが必死にそう訴えてくる。彼女のお陰で色々と進んだ所はある。僕達とは違う方向性で現状を捉えてるのは孫ちゃんかも知れない。それなら、やってみる価値はあるのかも。けどそれを判断するのは僕じゃない。
僕は統括に目を向ける。すると僕と目がったのは統括じゃなくロウ副局長の方だった。するとなんだか「任せておけ」みたいな顔をされたよ。う〜んやっぱこんな奴だったかな?
「統括、彼女の与えた情報がこの作戦に役立ってるのは事実です。面白い発想をしてると思いませんか?」
「それはそうだな……モブリはやはりなかなかに侮れんな」
そう言って不気味な笑みを零す統括。そしてその許可をくれた。 孫ちゃん達は早速ゴーレムを台座に移動させようとする。それを見て僕は思った。
「なあ、裏切った奴ってどうやってゴーレムを操ってるんだ?」
完成したはずの孫ちゃん達の方のゴーレムは自ら動く気配なんて無いぞ。ならどうやって、そいつはゴーレムを動かしたんだ?
「何か特殊なコードを送り込んだのかも知れんな。だがそれをやると元のが破壊される恐れがある……強引な奴であるな」
コード––って言葉に敏感に反応するけど、多分シクラ達が求めてた様なのとは違うんだろう。ようはプログラムみたいな物を与えってことだろ。
「そもそもなんの為にその彼はゴーレムを奪取したのでしょうね。この街の未来が掛かってるというのに」
ロウ副局長の言葉は最もだな。この作戦にはこの街の未来が掛かってる。いつもう一度奴等が襲ってくるかわからないんだ。その前に、何かしらの対策が必要で、希望はもう錬金の更なる昇華……くらいしか無い。
人は簡単には強くはなれないんだ。それこそチートな連中に追い付くなんて、不可能に近い。人がもっとも簡単に強くなる方法は道具を持つこと。それが人外の物なら直良し。錬金は人外じゃないけど、魔鏡強啓の第零項くらいまで行けばLROのシステム干渉出来る程の物なのは実感してる。
それを使えれば……まだどうにか出来るかも知れないって希望は湧く。そしてその鍵が今の行動だ。ブリームスは今まさに欲してるんだ。力って奴を。まあ僕の腕には既にその力があるわけだけど……三つのアイテムも揃ってる……けど、下手には使えない。
そう言えばここならあるんではないだろうか? 三種の神器の資料。だけどアレだけの本の中からゆっくりと探してる暇は……
「どうしました? 君も犯人を追いたいですか?」
「えっ、ああ、出来るならそうですね」
後方を見つめてたからロウ副局長に勘違いされたな。でも勘違いでもないか、確かにそれもやりたい事だ。けど待てよ……
「そう言えばここから出る方法は?」
僕のその疑問に皆沈黙だ。来れたことに興奮しまくってたからな。誰もそれを考えてなかったのかも知れない。どうやって出るんだろうなここ。
「来た場所から戻れるんじゃないか?」
「だけど来るだけで力使ってた感じだったわよ。もしかしたらもう一度来た場所でクリエちゃんか僕の力を使えば戻れるって事かしら?」
そうなのか? けどあの本は入り口であって……出口なのかは疑問が残る。それにクリエはともかく、僕の力をもう一度解放するのはな……この場所には貴重な資料がいっぱいだろうし、止めたほうがいいような気がする。
まあ僕の力の解放の仕方が問題なんだろうけど……もっと上手く出来ればいいんだけど、如何せんやり方が分からない。そもそもここに来れたのもどうやったかなんかわかってないからな。
どうにかして風を増幅して行ってなんとか……って感じだ。
「ねぇねぇ、ここって凄い場所なんだよね? クリエもなんとなくだけどわかる。世界樹の感じに似てるし……世界樹は世界の全てを知ってるからね。だからここも同じかも」
「どういう事だ?」
あんまり要領得ない言葉だな? まあクリエだから仕方ないけど。するとフランさんがクリエの前に膝をついてこういった
「世界樹って外にある世界を支える木の事でしょ。テトラとかが言ってたわね。世界に漂う力の源とか……それを供給してるのが世界樹なら……回収する時にでも全ての事象を力を通して得てるとか?
そしてここもその感じに似てる……ブリームスに溢れる力……ここが供給源って事かしら?」
「なるほど、供給源だからこそ、ブリームスの全てを知る術があるということだな助手」
世界樹と同じ役割をこのたった一つの街の範囲でこの場所がやってると? 確かに世界じゃなく、たった一つの街くらいなら……と思えなくもない。けど疑問もあるぞ。
「待て、今この街に溢れてるのは錬金特化の力だろ? でもここを守ってたのは古いハイブリッド式だ。矛盾してるだろ?」
「供給とかをしてる訳ではないのかもしれんである。ここがやってるのは収集ではなかろうか?」
「収集?」
収集ってなんだ? 何を集めてる? だけどその詳細を統括は言う気がないようだ。
「ふむ、取り敢えず見えてきた物もある。そうであるなら、ここから裏切り者を探せるかもしれんぞ」
「そんな事が? どうやって?」
「出番じゃぞ」
その言葉でモコモコと更に小人達が出てきた。なんて携帯性いい奴らだ。すると小人達は何か鼻をクンカクンカしだした。そしてゴーレムや一本柱の中に溶け込んでく。だけど直ぐにバチバチと弾けて外へと飛び出してくる。
白煙まで上がっちゃって……なんだか可哀想だな。でもそんな感情は統括には無いようだ。
「どうであるか?」
「指輪できっと出来るですぅ〜」
指輪? ってこれか? 僕は自身の指にも嵌ってるシンプルな指輪を見つめる。でもこれって情報端末だろ? しかも何かここと関係あるのか?
「指輪って……もしかして……」
フランさんが指輪を見た後に、統括を見る。統括はその視線を無視して自身の指輪に命令をしてみた。
「ゴーレムを強奪した奴の居場所を映し出せである」
その言葉の直後、部屋全体が激しく光った。そして目を開けると、何故か僕達はブリームスの町並みの中に居た。
「外?」
「おい、あれを見ろ」
所長の指差す先には建物の裏で丸くなってるゴーレムが。そしてその傍らに白衣を着たちっちゃな研究者もいる。なんて便利な機能だ。彼には悪いけどこれで終わりだな。
「ちょっと待って。これって……」
フランさんが建物に触れようとする。するとその手が建物をすり抜けた。まさかこれってホログラムか。都合いいと思った!! だけど居場所が分かっただけでもありがたい。テトラに連絡を……
「スオウ……あれ」
「ん?」
クリエの指差す方向にも何かがあるのか? そう思って振り返ると、ぼんやりと光る古い扉が見える。あそこは……
「あれも地下への入り口ですね」
そう教えてくれたのはロウ副局長。地下への扉が光ってる? なんだか誘ってる様に見えるあの光……まさか––するとその時、ホログラムが一瞬ぶれた。そして中央で存在感を消してたゴーレムのある場所が再び異彩を放って主張してくる。そこには左側に黒いゴーレムが見える様に成ってる。
「これって……」
『どうよ! 私の推測に間違いはなかったわ。今このエリアを中心としたシステムが動き出した。これで文句無いでしょ?』
「やるではないか。文句など言いはしないである!」
ようは向こうの台座とこっちの台座はリンクしてるって事か? ならもう一体を元の場所に納めれば、それで何かが出来上がるって事か。
「後は一体……よし! フランさん所長、クリエの事少しの間頼む」
「何をする気だ?」
「あそこからなら外に出れるような気がする」
ここが地下道の統括みたいな場所で、位相を変える見たいなわけわからない事でこれたのなら、同じように別の場所にも位相を戻す事で出れるんじゃないか? そしてその出口はこのブリームスに無数にあるという地下への道。
あり得ない話じゃない。
「行っていいよな?」
「好きにするがいいである。ただし、必ずゴーレムを台座に戻すんだ」
「わかってるさ」
僕は光ってる扉へ向けて走る。そして手を伸ばすと触れられた。閉まってる扉を開けるように開くと次の瞬間僕はさっきと寸分違わぬ場所に。だけど……違うとわかる。空気や風がさっきの場所とはぜんぜん違う。
時が流れてるのを感じる。僕は歩みを進めて丸まってるゴーレムの元へ。足音を聞いたのか、小さな研究者が顔を上げる。すると次の瞬間行き成りキレられた。
「バカなんて大っ嫌いだ!!」
瞳を輝かせたゴーレムが立ち上がる。そして大きな口をバキバキ言わせて開けると、地鳴の様な声を高らかに上げた。
ギュッとズボンを引っ張られる感覚がして下に視線を向けると、そこにはクリエの奴が不安気な顔をしてた。確かにロウ副局長のあの表情はちょっと怖い物が……
「そうじゃなくて……ううん、それもそうだけど、どうにかしないと」
「ああ、こっちか。確かにどうにかしないとは行けないよな。おいリルフィン、犯人がどこに行ったのかはわからないのか?」
画面上を埋め尽くしてた埃が徐々に落ち着いていく。すると頭上から差し込んでる光が眩しく見えてきた。そしてその光のお陰でその場の惨状が見えてくる。前に行った時は薄暗い中にズラッとゴーレムが立ち並んでたんだけど……今はそのほとんどが瓦礫と化してしまってる。そして地面に倒れてる人々……かなり派手にやられた用だな。
だけど一研究者にそこまで……いや、ここの兵隊位ならまだわかる。けど、リルフィンまでやられるってのはな。油断しすぎたんじゃないか? そんなリルフィンの姿はかなり薄汚れちゃってボロボロだ。
『犯人はゴーレムを操ってるからな。きっと目立つだろう。その穴から街に出たはずだ』
「そっか……それなら確かに見つけるは簡単かもな」
四•五メートルはあるし、それだけデカかったら目にも止まりやすいだろう。まあ問題は今は緊急事態で多分周辺には人が居なくて目撃情報とかは期待できないって事だろうな。中央に集まって、しかも政府お抱えの機関の人達もそこでの護衛とかに人材を使ってる。
どれだけ捜索にいける? てか、ここにはクリエさえいればどうにかなりそうな気がするから、僕も行きたいくらいだ。
「おい君、その裏切った奴はどんな奴だった? 出来る範囲で構わんから教えるである」
『そうだな……変な乗り物に乗ってる子供っぽい奴だ』
「ふむ……」
やっぱりか。だと思ったよ。まさかここまでの事をするとは思ってなかったけど、自分の中では納得出来る。そして統括もそうなのか、考え込んだままだ。
『おいどうした?』
隣の画面のテトラがそう言ってくる。そっちはかなり進んでそうだし、人材を割り振って捜索に回した方がいいかもしれない。
「アクシデントだ。リルフィン達の方で裏切り者が出たらしい。そいつは組み上がったゴーレムを操って逃走中だそうだ」
『なるほど。なら俺が行ってやる」
「いいのか?」
『他に適役が居るか? それに俺はリルフィンとは違うからな。やられる事などない』
「まあ、確かに」
『貴様ら……好き勝手言いやがって……』
しまったしまった。傷付いたリルフィンになんて事を。傷に塩塗ったら可哀想だもんな。
『ふん、邪神だからと油断しないことだな。錬金は貴様も専門外だろう? 足元救われるぞ』
『貴様に心配されるとはな。だがまあ、気には留めてておこう。それで、俺が抜けるのは許可してくれるのか統括とやら?』
その言葉で考えこんでた統括が顔を上げる。まあ一応、今俺達の身柄はこの人に一任されてるからな。何やるにも統括の許しが必要だ。
「まあよかろう。貴様の力は信頼出来るである。だがやりすぎてゴーレムを破壊はするな。それと犯人は生きて捕らえるである!」
『まあ、善処しよう』
そう言ってテトラは孫ちゃんの方に歩いて行って、何か話してる。きっと僧兵達の現状を教えて、自分が捜索に行くのを伝えてるんだろう。すると孫ちゃんがすごい勢いでこっちに迫ってくる。
『ちょっと、裏切り者って何よ? 全然まったく心配とかそんなんじゃないけど、アイツは無事なんでしょうね?』
全く孫ちゃんは素直じゃないなぁ。そこまで言ったら誰だか丸わかりだよ。でもまあ孫ちゃんだからな。仕方ない。でもそう言えば僧兵の奴は無事なのだろうか? リルフィンがなんとか無事だから、僧兵は紙一重で死んでてもおかしくは……
「リルフィン……僧兵のやつは……」
僕はゴクリと唾を飲み込んで聞いた。すると沈痛な面持ちでリルフィンが答える。
『残念だが……』
『ちょっと! 何やってくれてるのよ! なんの為にアンタがそこに行ったか分かってんの!? 守りなさいよ! その為のアンタでしょ!! 召喚獣何でしょ! 少しは役にたって見せなさいよ!
別に私の人生にアイツは必要ないけど……必要なくても居るスペースくらい有ったのに!!』
涙ながらにそう叫ぶ孫ちゃん。すると微妙な顔しつつ、リルフィンの奴が後ろに顔を向ける。
『いや、ほんと……残念だったかもな』
『別にわかってた事だし。それにまあ、自分的にはそれなりには嬉しいかな。まあこっちの人生にも影響なんかないけどな!』
『ちょっ……なんで生きてるのよ!?』
孫ちゃんの五月蝿い声が響き渡る。でもまあそうなるよな。だってリルフィンの奴明らかにそんな雰囲気出してたし……
『別に死んだとは言ってない』
『それに、アイツにはそこまでする気なんか無かったようだしな。だから被害がデカく見えるだろうけど、死人は居ない』
『……アンタ達ね……』
スッゲー不満気な顔してる孫ちゃん。気持ちはわかるけど、僧兵だって気持ち的な物を知りたかったんじゃないのか? 見えるものじゃないし、いつも上に居られてるから強く出れないってのもあるだろうし、こんな方法でしか気持ちを聞き出せなかったんだよ。
まあ確かに今やることでもないだろうけど、何が大切かなんか人によって違うからな。僧兵には孫ちゃんの気持ちは大切だったって事だろう。
「駄目だよ……」
「クリエ?」
「死んだとか思わせるのは駄目! 行けないよ!」
クリエの奴が珍しく怒ってる? しかもかなり真剣に? 確かに褒められる事は全くないけど……でも、そこまで言うこと……でもあるのかな。クリエは一度『死』を経験してるもんな。
冗談とかだとしても軽く扱ってほしくはないのかも。色々とあったから少しは時間が経った様に感じるけど……クリエにとって辛かった出来事はつい最近なんだ。そしてクリエみたいな小さな子程、そういうのは印象に残ってる物だな。
「謝って!!」
ズイッと圧力を掛けてそう言い出すクリエ。それに大の男二人はモゴモゴと何か言い訳じみた事を言ったけど、もう一度その言葉を口にしたクリエの本気に折れたようだ。
『悪かったな』
『ごめんなさい』
まあ、これはこれでどうなんだろう? と思わなくもないけどな。でもそんな事は実際どうでもいいから、これ以上掘り返すのは止めておいた。謝ったのなら、それで終わりだろ。他の人達もらしいし、次に目を向けるべきだろ。
既にテトラは出発したみたいだけど、そこの人達の為にも、人員を送ったほうがいいのは確かだろう。
「取り敢えず作業も終盤のようですし、こちらにゴーレムを届ける人数を最小限に押さえて、残りを救援に向かせましょうか?」
「そうであるな」
ロウ副局長の案に統括が首を縦にふる。そして指示を飛ばしてく。すると孫ちゃんがそこに割って入ってきた。
『ちょっと待って、このゴーレムってそっちに持ってく必要あるのかしら?』
「何を言ってる? こっちにはそれ用の場所があるのだ」
確かに統括の言う通り、こっちには不自然な空きが見られる。どう考えてもそこには残り二つのゴーレムが収まるだろう。だけどどうやら孫ちゃんにも言い分があるようだ。
『それは知らないけど、こっちにも台座みたいなのはあるわよ。そしてもう一方の方にも有ったはず』
有ったっけ? 覚えがない様な……するとセスさんが思い出したように言う。
「確かに、一つだけ台座に乗ってるゴーレムが有ったかも知れない」
なるほど。既に乗ってたから、あの時僕は見逃してた訳か……納得。多分孫ちゃん達もゴーレムをばらしてく中で気付いたんだろう。でも向こうにもあるってのはどういう事だ? それこそ飾りじゃないか?
「孫ちゃん達は知らないだろうけど、こっちは今特集な空間を見つけてその中に居るんだ。そしてここが真の零区画。そこにある台座は本当にただの台座ってだけかも……この場所の方が特殊性が高い」
『そうなんだ……そんな場所が……』
「ああ、だからこっちまで持ってきた方が確実だと思う」
こっちの空間はずっと秘密にされてきた超特殊な場所だ。そこに用意された台座。こっちの方が何か有りそうだろ。でも孫ちゃんはまだ迷ってる。
『その可能性は高いけど……けど……』
「何をそんなに躊躇してる? そんなボロい空間の物など壊れてるかもしれないんだぞ!」
所長がイライラしながらそう言う。確かに壊れてるかもしれないな。それかもしかしたら向こうにも同じような仕掛けが……でもおかしいか。こっちはこの空間に完成形のゴーレムがある。
だけど向こうはゴーレムがあって、それを組み立てる様に仕向けられてた……もしも向こうもここと同じなら、ゴーレムも別位相に置いてれば良いんだ。けど、そうじゃない……
「孫ちゃんは何が気になるんだ?」
『私はここが無意味な場所なんて思えないの。そしてもう一つもね。ここには確かに錬金の力が集まってる。そして積層する陣がある……ここはこの場所である意味がある。そう思うわ。
けど、その中心は多分あのゴーレムでしょう。もしもアレをそっちに持ってくのなら、この場所である意味がなくなるわ。だから……まずは試させて。あれを台座に置いてみましょう』
孫ちゃんが必死にそう訴えてくる。彼女のお陰で色々と進んだ所はある。僕達とは違う方向性で現状を捉えてるのは孫ちゃんかも知れない。それなら、やってみる価値はあるのかも。けどそれを判断するのは僕じゃない。
僕は統括に目を向ける。すると僕と目がったのは統括じゃなくロウ副局長の方だった。するとなんだか「任せておけ」みたいな顔をされたよ。う〜んやっぱこんな奴だったかな?
「統括、彼女の与えた情報がこの作戦に役立ってるのは事実です。面白い発想をしてると思いませんか?」
「それはそうだな……モブリはやはりなかなかに侮れんな」
そう言って不気味な笑みを零す統括。そしてその許可をくれた。 孫ちゃん達は早速ゴーレムを台座に移動させようとする。それを見て僕は思った。
「なあ、裏切った奴ってどうやってゴーレムを操ってるんだ?」
完成したはずの孫ちゃん達の方のゴーレムは自ら動く気配なんて無いぞ。ならどうやって、そいつはゴーレムを動かしたんだ?
「何か特殊なコードを送り込んだのかも知れんな。だがそれをやると元のが破壊される恐れがある……強引な奴であるな」
コード––って言葉に敏感に反応するけど、多分シクラ達が求めてた様なのとは違うんだろう。ようはプログラムみたいな物を与えってことだろ。
「そもそもなんの為にその彼はゴーレムを奪取したのでしょうね。この街の未来が掛かってるというのに」
ロウ副局長の言葉は最もだな。この作戦にはこの街の未来が掛かってる。いつもう一度奴等が襲ってくるかわからないんだ。その前に、何かしらの対策が必要で、希望はもう錬金の更なる昇華……くらいしか無い。
人は簡単には強くはなれないんだ。それこそチートな連中に追い付くなんて、不可能に近い。人がもっとも簡単に強くなる方法は道具を持つこと。それが人外の物なら直良し。錬金は人外じゃないけど、魔鏡強啓の第零項くらいまで行けばLROのシステム干渉出来る程の物なのは実感してる。
それを使えれば……まだどうにか出来るかも知れないって希望は湧く。そしてその鍵が今の行動だ。ブリームスは今まさに欲してるんだ。力って奴を。まあ僕の腕には既にその力があるわけだけど……三つのアイテムも揃ってる……けど、下手には使えない。
そう言えばここならあるんではないだろうか? 三種の神器の資料。だけどアレだけの本の中からゆっくりと探してる暇は……
「どうしました? 君も犯人を追いたいですか?」
「えっ、ああ、出来るならそうですね」
後方を見つめてたからロウ副局長に勘違いされたな。でも勘違いでもないか、確かにそれもやりたい事だ。けど待てよ……
「そう言えばここから出る方法は?」
僕のその疑問に皆沈黙だ。来れたことに興奮しまくってたからな。誰もそれを考えてなかったのかも知れない。どうやって出るんだろうなここ。
「来た場所から戻れるんじゃないか?」
「だけど来るだけで力使ってた感じだったわよ。もしかしたらもう一度来た場所でクリエちゃんか僕の力を使えば戻れるって事かしら?」
そうなのか? けどあの本は入り口であって……出口なのかは疑問が残る。それにクリエはともかく、僕の力をもう一度解放するのはな……この場所には貴重な資料がいっぱいだろうし、止めたほうがいいような気がする。
まあ僕の力の解放の仕方が問題なんだろうけど……もっと上手く出来ればいいんだけど、如何せんやり方が分からない。そもそもここに来れたのもどうやったかなんかわかってないからな。
どうにかして風を増幅して行ってなんとか……って感じだ。
「ねぇねぇ、ここって凄い場所なんだよね? クリエもなんとなくだけどわかる。世界樹の感じに似てるし……世界樹は世界の全てを知ってるからね。だからここも同じかも」
「どういう事だ?」
あんまり要領得ない言葉だな? まあクリエだから仕方ないけど。するとフランさんがクリエの前に膝をついてこういった
「世界樹って外にある世界を支える木の事でしょ。テトラとかが言ってたわね。世界に漂う力の源とか……それを供給してるのが世界樹なら……回収する時にでも全ての事象を力を通して得てるとか?
そしてここもその感じに似てる……ブリームスに溢れる力……ここが供給源って事かしら?」
「なるほど、供給源だからこそ、ブリームスの全てを知る術があるということだな助手」
世界樹と同じ役割をこのたった一つの街の範囲でこの場所がやってると? 確かに世界じゃなく、たった一つの街くらいなら……と思えなくもない。けど疑問もあるぞ。
「待て、今この街に溢れてるのは錬金特化の力だろ? でもここを守ってたのは古いハイブリッド式だ。矛盾してるだろ?」
「供給とかをしてる訳ではないのかもしれんである。ここがやってるのは収集ではなかろうか?」
「収集?」
収集ってなんだ? 何を集めてる? だけどその詳細を統括は言う気がないようだ。
「ふむ、取り敢えず見えてきた物もある。そうであるなら、ここから裏切り者を探せるかもしれんぞ」
「そんな事が? どうやって?」
「出番じゃぞ」
その言葉でモコモコと更に小人達が出てきた。なんて携帯性いい奴らだ。すると小人達は何か鼻をクンカクンカしだした。そしてゴーレムや一本柱の中に溶け込んでく。だけど直ぐにバチバチと弾けて外へと飛び出してくる。
白煙まで上がっちゃって……なんだか可哀想だな。でもそんな感情は統括には無いようだ。
「どうであるか?」
「指輪できっと出来るですぅ〜」
指輪? ってこれか? 僕は自身の指にも嵌ってるシンプルな指輪を見つめる。でもこれって情報端末だろ? しかも何かここと関係あるのか?
「指輪って……もしかして……」
フランさんが指輪を見た後に、統括を見る。統括はその視線を無視して自身の指輪に命令をしてみた。
「ゴーレムを強奪した奴の居場所を映し出せである」
その言葉の直後、部屋全体が激しく光った。そして目を開けると、何故か僕達はブリームスの町並みの中に居た。
「外?」
「おい、あれを見ろ」
所長の指差す先には建物の裏で丸くなってるゴーレムが。そしてその傍らに白衣を着たちっちゃな研究者もいる。なんて便利な機能だ。彼には悪いけどこれで終わりだな。
「ちょっと待って。これって……」
フランさんが建物に触れようとする。するとその手が建物をすり抜けた。まさかこれってホログラムか。都合いいと思った!! だけど居場所が分かっただけでもありがたい。テトラに連絡を……
「スオウ……あれ」
「ん?」
クリエの指差す方向にも何かがあるのか? そう思って振り返ると、ぼんやりと光る古い扉が見える。あそこは……
「あれも地下への入り口ですね」
そう教えてくれたのはロウ副局長。地下への扉が光ってる? なんだか誘ってる様に見えるあの光……まさか––するとその時、ホログラムが一瞬ぶれた。そして中央で存在感を消してたゴーレムのある場所が再び異彩を放って主張してくる。そこには左側に黒いゴーレムが見える様に成ってる。
「これって……」
『どうよ! 私の推測に間違いはなかったわ。今このエリアを中心としたシステムが動き出した。これで文句無いでしょ?』
「やるではないか。文句など言いはしないである!」
ようは向こうの台座とこっちの台座はリンクしてるって事か? ならもう一体を元の場所に納めれば、それで何かが出来上がるって事か。
「後は一体……よし! フランさん所長、クリエの事少しの間頼む」
「何をする気だ?」
「あそこからなら外に出れるような気がする」
ここが地下道の統括みたいな場所で、位相を変える見たいなわけわからない事でこれたのなら、同じように別の場所にも位相を戻す事で出れるんじゃないか? そしてその出口はこのブリームスに無数にあるという地下への道。
あり得ない話じゃない。
「行っていいよな?」
「好きにするがいいである。ただし、必ずゴーレムを台座に戻すんだ」
「わかってるさ」
僕は光ってる扉へ向けて走る。そして手を伸ばすと触れられた。閉まってる扉を開けるように開くと次の瞬間僕はさっきと寸分違わぬ場所に。だけど……違うとわかる。空気や風がさっきの場所とはぜんぜん違う。
時が流れてるのを感じる。僕は歩みを進めて丸まってるゴーレムの元へ。足音を聞いたのか、小さな研究者が顔を上げる。すると次の瞬間行き成りキレられた。
「バカなんて大っ嫌いだ!!」
瞳を輝かせたゴーレムが立ち上がる。そして大きな口をバキバキ言わせて開けると、地鳴の様な声を高らかに上げた。
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