命改変プログラム

ファーストなサイコロ

鮮血の空

 ウネリが奴を捕らえる。だけどその瞬間霧の様に消えてしまう。これはテトラの奴もこんなことを……つまりは次に現れるのは––


「後ろだ!!」


 僕はもう片方のセラ・シルフィングを後方へと伸ばす。すると確かな手応えがあった。


「はっは! よく分かったな!!」
「そりゃあ同じような事何度もあるからな!!」


 僕は先に伸ばしてた方のウネリを第一の壁に当ててそれを支えに上へ登る。それを見て黒い奴はぶつかるウネリを切り裂いてその斬撃をこっちまで飛ばしてきた。この場所では早々自由に移動できないって踏んでの単調な攻撃なんだろう。
 確かにお前やテトラに比べたら人間の僕は地面じゃないと出来る行動は限られる。けどな、それでも僕達は知恵を絞ってやってきたんだよ!


「づあ!!」


 僕は手の甲を第一の壁に叩きつける。するとその瞬間、体が反対に吹き飛ぶほどに衝撃が増幅される。それを利用して僕は奴の斬撃をかわした。


「はは! 面白れえええ! だがもうどこにもなんもねえぇぞ!!」


 そういう奴は一気に加速して向かってくる。


「っつ!」


 手の甲に広がる痛み。流石に強く叩きつけ過ぎたか……第二の人達から貰った衝撃増幅の錬金アイテムを背中から手の甲に付け替えてたんだけど、そう多様出来るものでもなさそうだ。
 でも一瞬の移動には使える。空中で足場を持てない僕にはそれは結構デカイ。それにただ避けただけとか思うなよ。痛みの分、勢いを付けれるんだ!


「来やがれクソ野郎!!」


 僕は体を回転させながら二つのセラ・シルフィングのウネリを重ねて奴に向ける。一つよりもデカく強力になったウネリだ! だけど黒い奴はそれを避けようともしない。


「今更、こんな程度の攻撃が俺に効くとでも思ってるのかよ!!」


 奴はその自信を表すように二つの力を重ねたウネリをたった一本の手で受け止めて、自身のヘドロの様な黒い力でウネリを殺した。セラ・シルフィングの刀身からウネリが消えた。喰われた––のか? あの力に……


「さあ次はどうする!? どうしようもないのなら、殺すぞ!!」


 黒い奴はどうやら心底戦闘を楽しんでるようだな。増幅させてきた力を披露できる機会だからテンションアゲアゲなんだろう。だけどその遊び感覚が命取りだ。


「おいお前、いつからお前の相手は一人だけに成ったんだよ」
「その通りだな!!」


 拳に力を溜めたテトラが奴の背後に靄を使って移動してくる。禍々しい程にその力が見えて、流石にそれはヤバイと感じたのか奴は咄嗟に背後に腕を振るう。けどそれを紙一重で交わしたテトラはそのままその拳を奴の腹に叩きこむ。


「ごふっ!?」
「吹き飛べ」


 その瞬間一気に上空に送り返される奴。そして空の上で奴を中心に巨大な魔法陣が展開された。黒い靄を放つその魔法陣は行き成りそこに現れた感じ……つまりは今の攻撃でテトラが奴の腹にあれを仕掛けたって事か。
 魔法陣に磔にされた様になってる奴は脱出しようともがいてるが、どうやらそうそう簡単では無いらしい。だけど何故か途中から盛大に笑い出す奴。その笑い声を不快に感じたのか、テトラは無慈悲にその行動を取った。
 靄を体中から沸き立たせるテトラが奴に向けた手を僅かに握る。すると魔法陣がそれに連動してクシャリ––と僅かだけど歪になった様に見える。そして後は一気にその手を握ると激しい爆発が起こった。


「リルフィン!」


 僕は所長達を地面に降ろして戻ってきてくれたリルフィンの背に乗る。激しい爆発で黒煙に包まれた空では奴がどうなったのか確認できない。けど……テトラの顔は芳しくない。僕もあの程度でどうにか出来る奴とは思ってない。
 だけど……


「やったのか?」
「ああ、やったんだ!」


 そんな声が周囲からは聞こえる。確かにアレだけの爆発だったからな。普通はそう思うかも知れない。だけどそう言う浅い希望は簡単に絶望にひっくり返る物だ。そうとても簡単に……


「クハッ……ククククククク」


 どこからともなく響き渡ってくる抑えこもうとしてるような笑い声。でも全然押さえ込めてない。


「そんな……」


 誰かがそんな声を出したのが聞こえた。判断が早いな……誰もがこの声だけで恐怖を思い出す様になってる。そして奴は黒煙の中から姿を表す。その体には傷一つない……


「まさか……あり得ないだろ」


 腐ってもテトラは邪神だぞ。神の攻撃だ。それを無傷って……それは流石になしだろ。どれだけ強化されてるんだ。確かに神の攻撃でも無傷なら僕の攻撃なんて避けるまでもないな。


「あぁ……楽しくなってきた。楽しくなってきたなああああああ!!」


 そう言う奴はその背から何故か羽を生やした。既に飛んでる癖に八本の異様に細長い羽。どう見ても飛ぶためじゃない。なんか凶悪にみえるしな……


『おい』
「うん? うお!? ってリルフィンか……」


 頭に直接声が響くと思ったら、元の姿に戻ったリルフィンかよ。まあ精霊化してるからな。精霊達は頭に直接話しかけて来るのが基本だ。なんかこういうデカく威厳たっぷりの生物が普通に言葉とか喋ってもね……近しさみたいなのは感じるかも知れないけど、その分高尚さが失われる様な気もする。
 その分、頭に直接ってのは良いと思う。普通は出来ないから、なんだか凄い存在なんだと思える。まあでも今はそんな感想はどうでも良くて、何かリルフィンは言いたいことがあるようだ。


『どうする? 今ので無傷なら貴様の攻撃など屁でもないかもしれないぞ』
「今、それを言うか……」


 止めろよな。確かにその可能性はあるけど……でも決まった訳じゃない。それに今のイクシードで駄目でも3なら通る可能性はある。


「あいつは確かにえげつない程に力を蓄えてるようだが、通った攻撃もあった……全ての攻撃が無駄だとか、そんな決め付けは早すぎる」


 錬金の攻撃は喰らってたしな。それにクリエの時の砲撃……というか、ガムシャラなのも吹き飛んではくれてた。つまりは何かカラクリがあるって事だ。それに……僕はリルフィンの上から周りの人達の表情を見る。
 誰もが絶望に染まろうとしてる。何をすれば……どうすればいいのかもう分からない状況なんだろう。後は第一の発明にでも頼るしか無い。けどそれにも準備があるし……それまでを支えるのは彼等なんだ。
 僕達だけじゃ厳しい。それはもう……わかってる。だから彼等の心を繋ぎ止める為にも、僕達は立ち向かわないといけない。すると無傷で生還されたテトラの奴が舌打ちしながらこう言ってきた。


「スオウ、かなり厄介だぞアイツは」
「分かってるっての。だけど僕達が見せないと……テトラ、お前は少し援護に徹してろ。復活したばっかりなんだし、お前の力が決め時には必要だ」
「やられるなよ」
「その為にもしっかり援護しろよ。行くぞリルフィン!」


 僕の掛け声と共に、リルフィンが空を駆け出す。その美しい毛を靡かせて力強く足を動かす度にスピードが増すのが分かる。すると僕達の後方から一斉射撃が––


「さっさと近づけ! 奴にダメージを与えるのは近接戦闘しかない!」


 テトラの奴、一人で数百人、いやその気になれば数千人規模の射撃出来るな。流石神。それにテトラの今の力なら援護の方が向いてるよな。靄での射撃は楽そうにこなすし、その気に成れば靄を使っての瞬間移動もできる。僕達がやることは、隙を作る事。一人では難しかっただろうけど、協力し合えばきっと出来る。
 黒い奴はテトラの砲撃を交わす為に移動を始める。爆発の中を移動をしてく奴を見ながら僕達は進路を変える。真正面から馬鹿正直に行かなくてもいい。この砲撃を利用して少しでも有利に、より確実に奴に接近して攻撃を加えるんだ。


 連続しての砲撃の合間、奴の視界がそっちに無いてる時を狙う。大きく周囲を旋回して一周してきそうな奴の死角をとって僕はリルフィンの背から飛び出す。狙いは上後方左斜めからの首ぶった斬るコースだ!!


「イクシード3!!」


 出し惜しみなんてしない、見せなきゃいけないんだ! やれるって所を!! 砲撃の煙を纏つつ現れる奴めがけて、背中のウネリを使って加速する。だけど奴の反応は想像以上だった。
 何を感じ取ってるのか知らないが、後方から迫った僕に首折れてるんじゃないかと思うほど回してその目を細くして不気味に笑いやがった。感じる寒気……でも引けるか!!


「こんの野郎!!」


 僕はセラ・シルフィングを振りかぶる。ウネリじゃなくなってるけど、高密度な風をまとってる刃の攻撃力はウネリの非じゃない。しかも僕の気合にでも反応してるのか、その軌跡が緑色の輝きを示してる。


「つっ!?」


 だけど防がれた。奴のなんの為に生やしたか分からない羽が重なりあってセラ・シルフィングを受け止めた。そしてその隙に奴は鎌をその手に掴む。だけど––


「させるか!!」


 僕はもう一本のセラ・シルフィングを振り上げてその腕を切断する。だけど奴にどうした様子はない。安心してる暇はないな……僕は背中のウネリを使ってそのまま横に体を強引にズラして、今度は背中側からじゃなく前方から二本のセラ・シルフィングを同時に振るう。今度こそその首を貰うつもりだ。
 既にその羽根じゃ間に合わないだろう。行ける! 回避できる距離じゃない。スピードもこっちが上だ!!


 だけどその瞬間甲高い音と共にセラ・シルフィングが弾かれる。


「何!?」


 分からない。何で? どうやって今防いだ? 奴の残った片腕は到達してないし、羽も勿論視界には入らなかった。むき出しの首がそこにあっただけの筈……それなのに弾かれた。


(まだだ、もう一––––っ!)


 目が合った瞬間、奴の恍惚の表情が見えた。爛々と輝いたその瞳は僕を食う気満々な気がした。『退け』の言葉が脳内に轟く。僕は反射的に奴を蹴って距離を取る。するとその瞬間、僕が居たはずの場所から甲高く刃物を擦り合わせた様な音が聞こえた。
 何か––がそこで起きたんだろう。けど……何かは分からない。


「どうした! 怖くなったか!!」


 そう言って奴はこっちに向かってくる。くっそ……ただ落ちてるだけに成ってる状態じゃヤバイ。一•二撃は背中のウネリを使えば凌げるだろうけど、向こうの飛行能力が上だからそれ以上は対応のしようがない。
 それに今の不思議な力……もしもカマイタチみたいなのを放ってるんだとしたら、挙動無く見えもしない刃は厄介だ。


「さあ! 片腕の仕返しに、お前のどこをもぎ取るか! やっぱ同じ部分か? それとも脚にするか! きゃっははは!」


 長い舌を垂らして唾吐きながら迫ってくる奴はまさに狂気だ。狂ってる……いや、生まれからしてこいつは狂ってるんだ。当然か。


「ぎゃはぎゃはははぎゃ––がっ!!」


 下品な笑いを止める攻撃で奴の体が反り返る。奴の動きが止まった瞬間横からリルフィンの奴が音もなく駆けてきて僕を背中で受け止めてくれた。僕はリルフィンの背中から落ちないようにその毛を掴む。
 すると加速してその場からリルフィンが離れてそれと同時に更に多くの黒い光弾が奴に飛来した。激しい爆発が巻き起こる。直撃……さっきと同じだ。だけど結果は違って欲しいと願う。
 小さな願いかも知れないが切実にそう思う。


『音が聞こえる。不快な音だ』
「音?」


 するとその時、周りの建物の幾つかがどこからともなく切り裂かれた。地上に居る兵士たちはさらなるパニックに陥る。阿鼻叫喚の声が僕達の所まで響いてくる。


「一体どういう––」
『掴まってろスオウ!!」


 するとリルフィンが一気にその場を離れる。そして聞こえた金属の擦り合うような不快な音。一緒だ……あの時と……やっぱり奴は何かで攻撃を仕掛けてきてる。僕には何も聞こえないけど、リルフィンにはその何かの音が聞こえてる?


『来るぞ!』


 その声で、奴を包んでる黒煙を見上げると、そこから黒い雨みたいなのが降ってくる。広範囲に散布されるそれを避けきる事は流石のリルフィンでも無理だ。僕達はその黒い雨に晒された。
 風を操ってある程度は防いだけど、全てじゃない……すると肌や服に付いた今の黒い雨がモゾモゾと蠢きだし「キシャー」と吠えた。


「んな!? ––づっ!」


 目がなく鋭い歯を持つオタマジャクシが僕の腕を食べ始める。でも血が溢れ出るって事がない……いや、普通のプレイヤーならそもそも血なんか出ないんだけど、僕の場合は浸透率の影響でそこまで表現される。
 けどそれがなく、でも喰われた箇所は確実な穴に成ってる……これは……


「構成するデータごと食ってるとか、壊しに来てるって事か!」


 僕はセラ・シルフィングでそいつらを叩ききる。そしてリルフィンに着いてた奴も引き剥がした。だけど下の方では凄惨な悲鳴が聞こえてた。


『おいスオウ、あれを見ろ』


 リルフィンの言葉に従ってその方向に目をやると、人じゃなくて、建物に取り憑いた奴等はその建物を食ってた……見境なんてないって事なんだろう。


「くっそ、リルフィンもう一度奴に接近してくれ!」
『危険過ぎる。やられるぞ!!』
「それでもこのままじゃ駄目だ。このままじゃこの街ごと食いつくされるぞ!」


 あいつはもう破壊することしか考えてなんか無いんだろう。頭残念そうだったし、ありえるだろ。目的なんか忘れて、今を楽しんでるんだ。なんとしても止めないと、蹂躙される。そう思ってると黒い靄が広範囲に広がって雨を受け止めてくれる。


「邪神の俺がらしくない事をやってやるんだ。さっさと止めろ!」


 そして次の瞬間、雨が飛ばされる爆煙を吹き飛ばすように砲撃が始まった。大きな球体が生み出されては空間を抉って消えていく。テトラの靄で狙いなんて定まらない筈じゃ……と思ったけど濃度でどうにでもなったな。


「うおおおおおおおおお! このマッドサイエンティストが相手になってやるぞおおおおおおおおお!!」
「所長……」


 ガタガタ震えながらも設置された錬金兵器で攻撃をしてくれる所長。きっとフランさんも別の兵器のところに居ることだろう。そしてセスさんもね。戦ってくれてる……僕はリルフィンの毛を強く握る。


「行くぞリルフィン」
『そうだな。やるしかない!』


 錬金の砲撃で姿を隠してた煙は晴れて、奴の姿が見えた。そこで嫌な事に気付く。


「あいつ、腕が戻ってる」
『便利な体だな––っつ、またこの音か』


 リルフィンは一瞬ガクッとスピードを落とす。音……さっきもそんな事を言ってたな。すると次の瞬間、所長が居た場所の錬金兵器が一瞬で切り刻まれた。そして爆発……誰かが名前を叫ぶ声が聞こえたけど、立ち上った煙でそれを見る事はかなわない。


「所長……死んでない……よな?」
『前を向けスオウ! 俺達がやらないと被害が増え続けるぞ!!』


 そうだ。リルフィンの言う通り……僕達が奴を止めるか、せめて気を引かないと被害が周りに及ぶ。煙から出て雨はやんでる。上手くテトラと連携して今度こそ、どうにかしないと……けどわからないことが多い。
 不確定要素が一杯だ。でもこのまま手を被ってる訳にはいかない。耳障りを一個潰したら今度は僕達とばかりに突っ込んで奴。僕は取り敢えず風の刃を飛ばす。だけどそれは普通に軌道で避けられた。流石に自由に空を動ける奴に当てるのは難しいか。
 確実に当てるならやっぱり近接戦闘が確実だな。


「危険だけど……近づけるかリルフィン?」
『危険? はっ、やるしかないだろ! 奴の見えない攻撃は俺が確実に避ける。貴様は自分の剣を当てる事だけを考えろ!!』
「了解! 頼りにしてるぞ!」


 両のセラ・シルフィングに風を集める。接近する僕達と黒い奴。その手にはデカイ鎌が握られて––


「くっ!」


 鎌を見せびらかして癖に襲ってきたのは見えない刃。リルフィンがいち早く察知して素早く移動した。こっちに掛け声を……と思わなくもないけど、そんなの言ってる暇も無いんだろう。
 とにかく僕は振り落とされない様に注意しながら、セラ・シルフィングを叩きこむ事を考えるんだ。上下左右、障害物のない空を自由に移動する。だけど違いもある。奴は飛んでる。けどリルフィンは疾走ってる。
 奴が旋回中を見計らってリルフィンは強引に動くことが出来るんだ。それは空の全てが足場だからこその芸当。奴の背後に僕達は迫り、そして交差際にセラ・シルフィングを叩きこむ!!


「ぐわっ!」


 だけどまただ。’何か’に阻まれた。


『今の瞬間、あの音が聞こえた』
「つまりはこの見えない刃で防御もしてるって事か……」


 なんて厄介な……防御なんて高度な事良く覚えれたな。そう思って奴を見ると、ある違和感を感じた。


(なんだ?)


 何か存在が足りないような……


「––おい! アイツの大鎌どこ行った?」


 さっきまで奴が握ってた大鎌。それがない! するとその時、リルフィンが行き成り移動した。例の攻撃か……だけどその移動先には例の大鎌が迫ってた。


(誘導されたのか!?)


 予め投げてて、その軌道にリルフィンを……ホント賢く成ってやがる。急な移動は連続しては使えない。それにこの距離……左側面で勢い良く回転する刃はリルフィンの行動ではもう無理だ。僕がセラ・シルフィングで叩き落とすしかない!
 だけどその時、視界に光る何かが入った。その瞬間、大鎌は僕達の直前でその動きを止める。見ると、糸が絡まってる? その糸の先は地上に向かってる。そうか……これはスレイプニルか。
 きっとフランさんかセスさんが……それか所長かも知れない。そう思ってると突如、リルフィンの奴が背中をバウンドさせて僕を自身から放り投げた。するとその瞬間真上からもう一本の大鎌が垂直にリルフィンの体を抉った。
 リルフィンの白銀の毛が舞い、抉られた肉と血が体を飛び散りながらオブジェクト化して消えていく。


「リル––」
「誰が鎌は一つって言ったよ? えぇ〜?」


 その言い方が頭に来た。リルフィンのお陰でこっちが上にいる……これは最後のチャンスだ! リルフィンは避けれないと思って僕だけ逃がしてくれた……その思いに答えるためにもここで奴に一矢報いないでどうするよ!!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 僕は背中のウネリを荒ぶらせて加速する。緑色の風の光が線を引く。


「はっは! そうだ、そうこなくっちゃなあ!!」


 僕はその瞬間四本のウネリ利用して体を強引に回して見えない刃を交わす。


「何?」


 そして更に二度、三度と同じようにしてその攻撃を避けた。完全に無理矢理な体の移動だ。その度にミシミシと体が言ってるのがわかる。けど、これがきっと最後のチャンスだ。なんとしてたどり着かないと行かない。無理なんて気合で押し通す!!


「まあ面白い。だがどうあっても俺には届かないがな」
「言ってろ!!」


 僕は一斉に風の刃を乱舞する。数撃ちゃ当たるじゃないけど、アイツの力にもどこか穴がある筈なんだ。だからこそ一度その腕を切り落とせた。自分だけで作れる隙は多くない……けど、やるしかないだろ! 幸いな事に攻撃の気配はない。絶対に通らせない自信が奴にはある。
 これ以上体に負荷が増えないのはいい事だ。全力でセラ・シルフィングを叩き込めるからな。風を掴んで声を聞いたからなんとか避けれたけど、アレ以上は厳しかった。迫る奴の姿を見据えて両手に力を込める。
 一撃でやれるなんて思ってない……ぶつかって、地上に叩き続けるまで斬り続ける!! 二刀流のアドバンテージは手数の多さを生かした攻撃回数だ。


 まずは一撃真正面から切りつけて更に別角度から第二撃を間髪入れずに入れる。そして勢いを殺さずに背中のウネリの制御で回転を更に加えていき、第三•第四•第五と息をする暇なく繋げる。
 周りでどう見られてるか分からないけど、もしかしたらセラ・シルフィングの風の光がずっと繋がって行ってる様に見えてるのだろうか。息さえ出来ない……しない数秒か数十秒の間に一体何撃叩き込んだが……だけど僕は気付く。こいつ全く移動してないって事に。そして聞こえたこんな声。


「なあ、それ本気か?」


 背筋が凍った。ありえないが……あり得てる。僕の攻撃は全くこいつに届いてな––


「––がっ!?」


 首を掴まれて息が……そもそも息してなかったのに、ここで呼吸をすることを強制的に奪われたら喋るなんてとても出来ない……僕の周りから勢いが……風が離れてくのを感じる。


「おい、俺が強くなりすぎたのか? まあ何人も何人も喰ったからなぁ。お前一人じゃどうにも出来ないかもな」


 恍惚の表情で長い舌から涎を垂らすこいつはどこかにトリップでもしてるよう。でもそうか……こいつが……沢山の人達を意識不明に……このクソ野郎が。僕は霞む視界の中、なんとか言葉を紡いで疑問を投げかける。


「な……んで……さっ……きは……うで……」
「腕? ああ、あれか。あれはな––」


 そう言って奴は僕に極限まで顔を近づける。


「––あれは、ワザとやらせた……お前のその表情が見たかったからだよおおおお! 希望にすがった奴が絶望に落ちる顔を見たかったんだよおおおおおおおお! ぎゃああっっはははははははっは!!」


 不快な声で頭が埋まる。聞きたくないのにそれしか聞こえない。するとフッとその声が止んで聞こえてくる底冷えする言葉。


「じゃあ、そろそろ死ね」
「お前がな……」


 僕はその瞬間両の手の甲を奴の腕に叩きつける。そしてその衝撃を錬金アイテムが増幅してくれてそれを利用して奴の腕から逃れた。最後の勢い––生んだ風––ゼロ距離の射程––意識が朦朧とする中、僕は二つのセラ・シルフィングを同じ方向に振りぬいた。
 だけど次の瞬間見えたのは赤い鮮血……セラ・シルフィングに風はない……不発? そして体中から吹き出る血で世界が真っ赤に染まった。



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