命改変プログラム

ファーストなサイコロ

心の火

 空でぶつかり合う黒い二つの力。聳え立つ塔がいくつも伸びるこのブリームスなら、僕でも上手くやれば混ざれるだろう。テトラの奴も粘ってるけど、奪われたコードと完全回復したわけじゃないだろう体では流石に不利そうだ。まあそんな事全然見せて無かったけどさ、万全じゃない事くらいわかる。
 なんせついさっきまでずっと眠ってたんだしな。ただ眠ってんじゃない。僕達を守って無理させたから……そして今も一人で無茶させてる。神……邪神だからってその力を宛にしてずさんな扱いしていいわけじゃない。
 あいつは仲間なんだしな。大抵の場合は心配なんて逆に失礼なのかも知れないけどさ、奴等は駄目だ。天敵と言っていい。この世界で本当ならこれ以上天井なんか無い筈の神設定のテトラ。
 けどその天井をぶっ壊した存在が奴等だ。きっとアイツ等に上限なんて無い。システムの外側に居るシクラ達はどんな事だって出来て、他人が集めた知識や力をコードとして喰ってく事で無限に強く成るみたいな……きっとそんな感じだ。
 僕達だろうと神様であるテトラだろうと、そんな事はできない。僕達プレイヤーもそしてNPCであるテトラだって結局はこのゲームのシステムに縛られてる存在に変わりはないからだ。


(だけど……)


 僕は二人の戦闘を眺めつつその手に力を込める。もしも奴等シクラ達を超える存在が居るのだとしたら、多分だけどそれはテトラとかじゃない様な気がする。奴等を超えるのはきっとプレイヤーの役目なんだと……そう感じる。
 無限に強化されるシクラや姉妹にそしてあの黒いの……対抗なんか出来なさそうだけど、僕達にだって唯一システムに縛られてない部分がある。そしてそれをこのゲームは汲んでくれるんだ。
 奇跡だけを頼りになんかしちゃいけないんだろうけど、僕達には時間がない。それに真っ当な方法で奴等を超えることは出来ない。無理でも無茶でも奇跡でも、可能性があるものを否定なんてしない。
 LROは定められたシステム上のスキルとかが全てじゃない。LROはときどき汲み取ってくれる。思いを……心を……それは時に奇跡を起こす力に変わる。今の僕達が奴等に勝ってセツリを取り戻す事が出来るとしたら、そういうのを計算にでも入れないと正直な……地力ではテトラはともかく、僕達じゃ奴等に追い付くことさえ厳しい。
 まあ完全に宛になどしないけど、奇跡の解明でも出来れば……


(そう言えばローレの奴が奇跡には目撃者とかが必要とか言ってたっけ?)


 思いの集合がそういう何かを……いやシステムを刺激するって事か? だけど問題がある。今この世界にはプレイヤーが僕しか居ない。NPC達はいるけど、それでいいのかどうか……


(いや、考えててもしょうがないか)


 下を見るとブリームスの兵隊達が別の錬金アイテムを引っ張ってきてる。デカイ物も便利に運ぶストローっぽいのあったじゃん。あれはどうしたんだ? 何か利用条件があるのだろうか?
 それかもしかしたらあのストロー……第四研究所独自の発明品? そうだとしたら所長達の評価が覆るな。でも某用品とか言ってような気も……


「おい……どうなってるんだこれ? なんでこんな……てかなんで第一研究所がこんなに一杯……」


 そっか中に居たから所長達は何がどうなってるのかわかってないのか。確かに第一研究所が一杯周りに出現してるのも謎だし、兵隊が出張って来てるのも理解できないよな。


「おいスオウ、邪神の奴復活したのか? それに奴と戦ってるのは……」
「あの黒いの……シクラ達と一緒にいた奴だよね?」


 リルフィンとクリエが空での戦闘を見ながらそう訪ねてくる。色々と話さないと行けないことが多い……だけどそれを逐一話してる暇はあんまりないな。取り敢えず早口で言えることだけ言っとくか。


「第一のカラクリを破壊したらこうなった、テトラはクリエの中の神の力を与えて復活させた。あの黒いのはその通りだけど……問題は姉妹の一人もこのブリームスに入ってるって事だ」
「何!? それはどいつなんだ? シクラか百合か凛かヒマワリか柊か?」
「その内にはいないな……最後の一人だ。名前も能力も分からない。わかってるのはそいつには極端にやる気が無いってことくらいか」
「なんだそれ……」


 いや確かに「なんだそれ」なんだけど……そう言われても困る。だってそれしか分からなかったんだ。でもある意味で重要な情報だろ。やる気無いんなら積極的に戦闘する気がないってことなんだろうしな。そもそも一回接触しておいて何もして来なかったしな。


(待てよ……)


 今思ったけど、だからこそ––何じゃないか? だからこそ、あのやる気ない奴と暴れる気だけはあるあの黒いのなんじゃ……僕はあの黒いのの戦闘のせいであちこちから煙が立ってる街を見回す。
 まあこの第一研究所程度の高さの建物じゃ見回すなんて言ってもたかが知れてるけどさ……だけど思うんだ。今この瞬間あのやる気のないパジャマ女は何してるんだ? 本当にただやる気ないだけだったのかと。


「どうしたスオウ? 取り敢えず上手くやったんだと思ってたが、現状そうでもなさそうだな。どうすればいい?」


 どうすれば……か。今やることは決まってる。あの黒いのを倒すしか無い。それもこの街の人達に奴等の狙いが僕の持つ法の書だと分かる前に––だ。それが知れ渡ると、不味い風潮になるかもしれないからな。
 でも現状その心配はあまりないかも。あいつ戦闘に夢中っぽいからな。あの黒いのはただ壊すこと破壊する事が大好きなんだよな。だからこそ、目的よりも戦闘に夢中になりやすい。


「おいスオウ、このままじゃ我々は犯罪者だぞ。ここを切り抜けても多分投獄だ。ほっといて独自に行動するべきじゃないか? 魔鏡強啓第零の扉を開けば全ては帳消しだ」
「その前にブリームス自体が残ってればいいけどな」
「うぐ……」


 このままあの黒いのとテトラの戦闘を放置してたら、どれだけ被害がますか分からない。マジであの二人ならこの街を崩壊させてもおかしくないからな。それにもしも奴に勝てるとしたら今しかない。
 もう一人の奴は居なくて、テトラも僕もリルフィンも居る。それに未知の錬金アイテム。これだけ揃えば勝てる見込みだって大きくなるだろ。それにだ––


「「「逃がしません。逃がしません。逃がしません」」」
「うわっ、一杯小人さんは沸いてきたよスオウ」


 黒い壁をすり抜けるように出てくる小人の大群。全く、今はこんな場合じゃないだろうに。そりゃあ第一にしてみれば僕達は悪者だ。機密を盗んじゃってるしな。まあそれは知らないだろうが、その気があるってだけで許されないことなのだろう。
 でも今は第一の危機じゃなくブリームスの危機だろ。本当にただの更地にこのままだとなるぞ。僕は沸き立ってきた小人の一人を掴み上げる。


「おい、聞こえるか第一の統括とやら」


 僕が小人に向かってそう言うと、ガガガガ––と雑音が聞こえて、さっきまでのポワポワした声と違う年行った声が聞こえてきた。


『何だである。投降する気になったか? まあそれでも刑は軽くはならんであるがな』


 やっぱなんかこの「あるある」いうのがイライラするな。お前は中国人かと……まあ「アル」じゃなく「ある」だから別にそこまで片言みたいな感じではないんだけどね。


「違う。お前達も協力しろ」
『はっ?』


 僕の言葉に呆気にとられた様な声を出す統括。さっきまで対立してた奴にいきなり「協力」とか言われてもこんな反応になるのはわかる。だけど孫ちゃんも言ってたけど、こいつらきっと凄いの隠し持ってるだろう。
 それを引っ張りだして使えば、この状況を打破することだってできるかも知れない。


「このままじゃブリームス自体がヤバイんだぞ。そうなったら研究とかやってる場合じゃなく成る。僕達とテトラ、そして錬金が加わればまだどうにか出来るかも知れない。だから今は協力しろ」
『くっ……ははっはははは! 貴様等の指図など––ん?』


 会話の途中で統括の声が途切れる。なんだ? 横から連絡でも入ったのか? 


「げっ」
「うわっ、ちょ何か叫んでるわよ」


 下を見てそんな事を言ってるのは所長とフランさんだ。何を見てるのかと思ったらセスさんがこっちに向かって何か叫んでた。でも色々と五月蝿いからよくきこえない。けど何か怒ってるのは二人にもわかるようだ。


「ヤバイな……あの糞真面目な奴にバレたらマジで投獄されるぞ」
「ホント……てかなんか既にバレてない? どう見ても怒ってるわよアレ」
「バレてるよ。もう彼は知ってる」


 僕がそう言うと二人共同時に頭を抱えだす。まあバレるのは確かに痛いけど、二人の場合は彼にバレたって部分が相当痛そうだな。何故にだろうか? でもそれを聞く前に統括の奴が声を出した。


『ふむ……貴様等が逃げ出さずに我等のもとに下るのなら考えてやらんでもない』
「どういう事だ?」
『有耶無耶にしたいのであろう? 街を救った事実を貴様等は欲しい。そうなったら情状酌量の余地があるかもしれんであるからな』


 うぐ……バレてるな。それに実際ようは済んだし、出来うる限り第一とは離れておきたいのが本音だ。だってそうしないと、どこで目玉の事がバレるか……あれバレたらきっとこいつら許してくれないだろうし。
 それに……あの目玉を作った人もヤバイだろうしな。しかも下るって何? なんか嫌な予感しかしない。


『撃てえええええええ!!』


 掛け声と共に放たれたミサイルが着弾地点で球体を作って広がった。おお、なんだか凄く強力そうな兵器だ。だけど黒い奴はその広がった球体でさえ切り裂いて現れる。なんだあいつ……不死身か? 
 すると奴は胸を大きく反らして息を吸い、そしてリルフィンの咆哮に似た声を出した。音が辺り一帯に轟、そして衝撃までも伝えるその音は地上に居た人達を昏倒させる。全員じゃないけど、あの兵器の傍にいた兵士達が軒並み……あいつ、今のをぶつける相手を選べるのか。


『このままではあいつには勝てないのであろう? そして貴様等も逃げたと言ったである。つまりは貴様が参戦しても勝てる確率は低い。だが我等の研究の成果を使えばそこに光をさせる。そうであるな』
「悔しいけど、大体そうだな。まあお前達がどれだけ大層な物を開発出来てるのかによるが……」


 兵隊達が引っ張って来てるアイテムも相当の物の筈だ。だけどそれでもあいつには効いてない。それでもなんとか出来るほどの物が第一にはあるのか……


『見くびるなである! 我等は常に進化しておる。立ち止まる事はない! どうであるか? 条件を飲むか?』
「具体的に下ったらどうなるんだ?」


 それ次第によるな。選択肢なさそうでもあるけど……一応聞いておくべきだろう。


『何、簡単である。罪人は鎖に繋がっておくべきという事だ』


 具体性が欠片もないな。多分意図してそうしてるんだろうけど……これじゃあな。


「スオウ不味いぞ。兵の中にも逃げ出し始めた奴等がいる。瓦解するぞ」


 確かにリルフィンの言う通り、心が折れ出してる奴等が見える。今までモンスターの脅威とか全然知らずに育って来たんだもんな。いきなりあんな規格外の化け物から街を守れってのが無理があるのかも。
 だけど彼等が逃げ出したら誰が折角の錬金アイテムを使うんだ。効いちゃいないけど、有効ではあるぞあれ。この街を守るには僕達と、そして彼等の連携は必須だ。どうにかして、その心にもう一度勇気を灯さないと。
 僕は握った小人に向かって言うよ。


「必ず、使えるアイテムがあるんだろうな?」
『勿論である! 時間を稼げ。貴様の力を見せてみろである。数が居ないとやれぬ事だ』


 統括も数は必要か……第一の研究員だけじゃどうにも出来ないのか? それだけ大掛かりな事をやるって事だろう。確かにあの黒いのをやるには、それ相応の人数であたる位の頼もしさは欲しいな。


『出来ぬのであるか?』


 挑発するようなその言葉……僕はそれに自信を見せて答えてやる。


「そっちこそ舐めるなよ。お前達がモンスターの存在を忘れた時も、外では戦い続けてたんだ。場数が違うね」


 最初は自分達の力と、今この場に残ってるアイテムで兵士たちの心を繋ぎ止めないと行けない。自分達でもやれるんだと、思わせなくちゃいけない。NPCでも行けるのかは分からないけど、奇跡にも数は必要らしいからな。
 それに奇跡じゃなくても、ここに住む者達が諦めたら、それこそお終いだろ。想いを繋ぎ止める……それが大きな力にきっとなる。


「僧兵、クリエの事は頼む。孫ちゃんと合流してくれ。所長達はセスさんと残ってる兵士達と共にアイテムの場所へ。アレで支援して欲しい。リルフィンは一緒に奴を殺るぞ」
「了解、あいつの事も心配だしな」
「スオウ……クリエも出来る事あったら言ってね!」
「「うげぇ……」」
「リベンジと行くか」


 やる気を表してくれる面々の中であからさまに嫌そうな態度を取る二人が……全くなんでそこまで嫌いなんだよ。てか今は非常事態なんだからいうこと聞けよ。


「だが結局はここを切り抜けても第一に捕まるのだろう? やる気が……」
「ホントね。それにあいつと一緒って……絶対グチグチ言われるわ」
「そんな事言ってる場合じゃない。さっきの攻撃でアイテム周りの兵士倒れてるんだぞ。このままじゃただの置物だ! 僕達だけでなんとか出来れば良いけど、大切なのは協力する事だよ。
 自分達にも出来ると思わせないと、ここから立ち上がる事が出来なくなる。所長達はなんの為に錬金を研究してるんだ? 自分達の為だけなのか? この街の為でもあるだろ! だから一緒に守ろう。この街を」


 僕は真っ直ぐに二人を見つめるよ。すると二人は観念した様に息を吐く。


「しょうがないか、マッドサイエンティストとしてはどうかと思うが、まあ恩を打っておくのも悪くない。その内支配する奴等だしな」
「そうね……確かになくなるのは嫌だしね。分かったわ」


 二人のその言葉を聞いて僕は「ありがとう」を送るよ。さあ、そろそろ行くか。僕は空でぶつかってる二人を見つめる。


「なあリルフィン。お前元の姿に成れるか?」
「力はどこかの誰かに分散されたままだ。完全に戻ることは出来ないな」
「そうか……」


 リルフィンがフィンリルの形態に戻れれば空で戦うことも難しくなかったんだけどな。だけど戻れないんじゃ仕方ない。


「おい、完全には戻れないと言ったんだ。ローレ様に分けてた時よりも力は戻ってる。無理な改変が漏れを生んでるのかもな」
「じゃあ」
「力を元の姿の維持に殆ど振ることになるが、いいか?」
「空での自由が手に入るのならそれでいい」


 テトラも黒いのも自由に飛び回ってるんだ。僕だけがジャンプで参戦とかかっこ悪いだろ。まあ一応対応策は考えてたけど、それも完璧じゃないからな。リルフィンが自由に空を駆けれるのなら、僕達は二人で一人分には成れるだろう。


「よし、なら行くぞ!」


 そう言ったリルフィンの体に魔法陣が浮かぶ。そして輝きを増すとリルフィンの体が膨張して白銀の毛に青い外装を讃えた大きな狼になった。その姿に所長達は驚愕してる。取り敢えずまずは所長達を地上へ。
 するとその時頭上から声が響く。


「そっちに言ったぞ!」


 僕の目の前を高速で突っ切った黒い奴の狙いはリルフィンか! 多分今の光で気付かれたんだ。僕は押さえてたうねりを伸ばして奴を追いかけて飛び出した。


「させるかああああああああああああああああああああ!!」


 奴の背中に向かってうねりを振るう。吹き上げる風、叫喚に苛まれる人々……無残に壊される建物。これ以上好き勝手にはさせない。今このブリームスを守る二度目の戦いの幕が開ける。

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