命改変プログラム

ファーストなサイコロ

お願いの多積

 必然……それは答えに成ってない様に僕は感じた。てか意味分かんないし。だけどこっちには伝わってなくても向こうは全然構わないっぽい。埃を被り、ただそこにあるだけと化してしまった歪な人形に寄り添って、いつまでもやる気ない感じの少女。
 実際こいつら姉妹とか言ってるけど歳の差とかあるんだろうか? ヒマワリと柊の奴は一•二歳年下っぽく見えるわけだが、そこから上の奴等は大概だぞ。百合は二十歳超えてそうではあったけど、まあそれも僕の主観だしな。
 てかそもそも姉妹も設定でしか無いよな。別にこの眼の前の奴にしても、シクラ達にしてもリアルの家族みたいに血が繋がってたりするわけじゃない。そういう括りで設定されてるだけ。
 でも何か共通な部分はあるのかも……よく分からないけどな。てかどうする。こいつ、何かやる気か? ずっと気だるそうにしてるだけだぞ。そもそも何が出来るのか……


「くぁ〜」
「ちょ、先回りしてた割りにはやる気ないわよ」
「私、働かないが座右の銘だから。シクラに言われてもそこだけは譲れないよね〜」


 とことこんやる気が無い奴ってだけは分かった。そう思ってると、後方からガラゴロやらゴラゴラやら地面を踏みしめる音が近づいてくる。


「後ろから敵が来てる。彼女にやる気が無いのなら、相手にする必要もない筈です。力の中心を見つけましょう」
「そうね……って力の中心はここだけど……」


 確かに孫ちゃんはそう言ってた。確かにここは今までの通路とは違う。言うなれば格納庫みたいな……そんな感じだな。中心なのかも知れないけど、中核って感じじゃない。それにその強い錬金の力がどの範囲まで影響を及ぼしてるのかも問題だしね。
 結構な範囲をカバーしてるとしたらここからが本当の捜索って事になってしまう。手間取ってると後ろからは敵が……雑魚だけど。でもきっとその内黒い奴も戻ってくるだろうしな。
 あれで倒せたなんてそもそも思ってないし。無駄な時間を掛けてると自分達の首を締めることに……


「孫ちゃん、ここから先はどこに向かえばいいの?」
「……取り敢えずこの部屋の中心?」


 おい、絶対にわかってないぞ。でもまあ結構広いし、ちゃんと確認しておくことは大切だな。このゴーレム達のせいで奥とか見えないし。この先に本当の扉があったりするかも知れない。


「何もないよ〜」
「「「……………」」」


 僕達がこの部屋の奥にちょっとした希望を抱こうとしてたら気怠そうな女にぶち壊された。だ、だけどそれは嘘って可能性もあるよな。そもそもこっちに教えること事態おかしいし。


「し、信じないよ! きっと何かあるよ!」
「そうね。アンタの言葉を信じる義理はないわ」


 僕と孫ちゃんがそう反論してゴーレム達の間を進もうとする。すると「くぁぁぁ」とまた欠伸を一つしてそいつがこういう。


「別にどうでも良いけど、わたし的にはヒントはこのゴーレムだと思うな」
「なに?」


 僕が思わず素でそう言いかけたけど、それに治安部の彼が被せてくれたから僕の「なに?」は掻き消されたようだ。危ない危ない。治安部の彼にもこの女にも僕が僕だと気付かれるのは不味い。
 でも一体その情報は誰のために言ったんだ? 間抜けなのかこいつ? いや……だからそれを鵜呑みにするかは僕達次第か。


「どういうことなんだい?」
「う〜ん、面倒臭い」


 おい、興味あるとこだけ伝えるなよ。それなら最初から何も言わない方が良かったっての。やっぱり僕達を撹乱しようとしてるのか? でもそんな意図が奴の態度から見えないというか……くっそ、なんかイライラするな。


「どうせ私達を混乱させようとでも思ってるんでしょ? その手には乗らないわ」


 おお孫ちゃんが珍しく感情的に成らない。いつもなら高飛車に反論しているだろうに、なんか最近頼もしいな。どうしたんだろう一体。こんなの孫ちゃんじゃない! いや、いいんだけど……なんかどこか納得出来ないというかね。いや、ほんと助かってるんだけどさ。


「ふぁ、うんまあなんとなくなんだけどね。こうやって接してると錬金の息吹を感じるって言うのはまあ嘘で––」
(嘘なのかよ)


 こいつ本当に掴みどころないやつだな。なんだ? マジで何がしたいのかわからん。いや、そもそも何もしたくないんだっけ? 最初からそう言ってるし。んじゃ全部無視して問題ない? 


「––でも私の勘はあたるんだよね。もう予言に近いレベル? ハッキリ言って百発百中。まあ当たり前なんだけど」
「当たり前?」
「もういいわよ。あんなの相手にしててもきり無いわ。取り敢えずこの空間を素早く見て回ってからゴーレムも調べるわよ」
「超参考にしてるじゃん!」


 無視しないんだ。案外柔軟な発想も出来る奴だったのかな? すると孫ちゃんはこう言うよ。


「別に参考になんかしてないわ。私は他人がどう言おうと使えると思ったものは使うだけ」


 それを参考にしてるって言うよね。いや、いいんだけどさ……取り敢えず僕達はいつまでもこいつの相手してる訳にも行かないから動き出す。結局こいつが何を言おうと、自分達で確かめないとモヤモヤしたものが残るからな。


「無駄なのに。じゃあ戻ってきたら起こしてね」


 そう言って奴は瞳を閉じて寝息を立て始める。おいおいマジで寝だしたぞ。てかなんで僕達がわざわざこいつに声を掛けないと行けないんだよ。そんな事する必要性皆無だろ。こっちとしてはそのまま永眠してくれた方がありがたい。
 まあ勝手に声かけられると思って眠っててもらおう。僕達はそれぞれ二手に別れてこの空間を調べることに。中央に向かって進んで、壁に行き着いてから孫ちゃんと僧兵•僕と治安部の彼ってな風に別れた。こっちは彼の持ってた懐中電灯みたいなのを駆使して色々と見た回ったけど、結局何も見つけられなかった。時々出くわして襲ってくるミニゴーレム達をやり過ごしながら戻ってきた元の場所。
 そこには孫ちゃん達も既に居たよ。僕達を見つけるなり「どうだった?」と聞いてきたから僕たちは首を横に振るう。それに残念そうに瞳を伏せるところをみると、向こうも収穫はなかったようだな。


「後はこれね」


 そう言って孫ちゃんはゴーレム達を見上げる。その一体の上には気持ちよさそうに寝息を立ててる奴が……無視しとこう


「でもこのゴーレムが何なのかな?」
「それは調べてみないとわからないわ……」
「そうだ……ね」


 僕は目玉に視線を向けるよ。実は僕達がこの場所を調べてる間に、こいつにはゴーレムを調べて貰ってたのだ。時間を有効に使うためにも役割分担って必要じゃん。それにこのゴーレムは錬金で作られてるんだし、同じ存在の目玉なら何か感じることがあるかも知れないってね。
 それに僕達よりもこいつの方が錬金に詳しいし……何か発見できるかもと思ったんだ。まあ治安部の彼もここの住人だし、錬金に詳しいのは分かるけど、研究者とかじゃないしね。このブリームスの住人だからって誰もが専門知識を蓄えてるって訳でもないだろうし、案外身近にあるからこそ知らないって事は多いと思うんだ。
 リアルで今やスマホとか無くては成らない時代で、誰もが一人に一台……それ以上持ってる人だって沢山居るだろう。だけど様々あるスマホの違いをわかってるってる人ってそんな居ないし、どうやって動いてるのかLTEとか4GとかWiFiとかそんな通信規格さえ知らない人は一杯だろ。
 製造メーカーとか気にしない人は気にしないし、そもそもOSだってそうだよ。iPhoneとその他だからね。案外身近な物を知り尽くしてる人なんていない。だって身近すぎるんだもん。
 知ろうとしなくてもそこにあって当たり前……なんの疑問もなく使うことが出来る。だからこそ知る必要もない。当たり前だからね。まあでもこの人は所長とかフランさんよりも優秀だったっていうし、一般の人よりはきっと錬金について詳しいんだろうなってのは思う。
 でもだからってこの古さをカバーしてるのかっていうとね……かなり秘密裏な場所っぽいし、そうなると秘密裏な情報が一杯な目玉がいいだろう。自分の中のデータと色々と照合してり出来そうだしな。


「で、どうだったんだ?」
(そうやな、端的に言うとわからへん)
「なんだそれ」


 超絶役に立たない目玉だな。なんの為にそのデカイ目はあるんだよ。真実を見通せよ。


(自分はそんな特殊能力持ってへんから。けど端的言うたやろ。もう少し詳しく言うと、アレは動くことはないっちゅうことや)
「まあ古そうだしな」


 もうボロボロって感じだ。確かに動くことは出来なさそう。安心していいって事か?


(ちゃうわ。そういうこったない。初めからアレは動かんのちゃうか? って事や)
「おいおい。じゃあなんだ? アレは置物とでも言いたいのかよ? 邪魔過ぎだろ」


 けど見方を変えて考えれば、邪魔だからこそここに置いてある? ––とか。そうなるとやっぱりただの物置程度に成ってしまうんだが……この空間事態がさ。それじゃあどうしてこの場所に錬金の力が溢れてるのか分からないぞ。


「流石にただの置物って訳は無いだろ? 何か他にないのか?」
(そうやな〜変な回路は見えるで)
「回路? 魔法で言う術式みたいな物か?」
(まあそうやな。錬金の力の流れを制御する物やな。せやけど機能してるとは言いがたい)


 機能してない回路……やっぱりただの置物って訳じゃないって事だよな。てかどうして動かないなんて分かるんだ? そこ謎だろ。


(簡単やな。ざっと見てもチグハグやからや)
「チグハグ?」


 どういうことだよ一体。よくわからん。


(つまりやな嬢ちゃん。今までみた錬金のアイテム達は全部その一つのアイテムの中で完結しとった筈や。その物体だけでその力を発揮するように作られとる。そういう物やからな)
「なるほど……確かに」


 まだそんなに数を見てるわけでもないと思うんだけど、見た限りではそうかも知れない。どれもこれもそれだけで力を発揮してた。しかも結構デタラメな。


「つまりはこのゴーレムに組み込まれてる回路じゃこいつらを動かすことが出来ないって事がお前にはわかるのか」
(うう〜ん、ちょいちゃうかな? 確かにそこまではわかるんや。せやけど、これはどうみても足りない? 中途半端? ぶっきらぼう?)


 最後はなんか違うよな。ぶっきらぼうって性格だろ。回路みたいな物の表現に使うなよ。まあ開発者に使うのはまだ分かるけどな。


(まあつまりはそう言う感じや。動かすどころか何も出来へんで。だから今の所はマジ置物やな)
「何も出来ない……ね」


 僕はその言葉を復唱してこの聳えるゴーレム達を見上げる。その大きさと数に圧倒されそうになる……これが置物? 信じれないだろ。どう考えても無駄じゃん。一体何のためにこんな……それにあの眠ってる奴の言葉も気になるっちゃ気になるんだよな。
 一応シクラ達のお仲間だし、その力はきっと絶大だろう。そんな奴が言ったんだ……適当かも知れないけど、そうじゃないのかも知れない。くっそ惑わされちゃ意味ないのにな。どうしても考えてしまうぞ。


「あ! ミニゴーレム君達が!」
「くっ、どんどん多くなってきてるようだ」


 そう言いながら彼は撃破に向かう。そして僧兵もね。その間に僕は目玉の情報を孫ちゃんに伝えるよ。そして取り敢えず孫ちゃん自身もその目で色々と探って見る。少しすると粗方片付け終わった二人がこっちに戻ってきた。


「その内ここも埋め尽くされる。早く移動するか、何かあるのなら掴んだ方がいい」
「そんな簡単に言わないで」


 彼の言葉に孫ちゃんが強い口調でそう言った。まあ簡単に見つけられたら苦労なんてしないからな。だけど今の孫ちゃんの声で起きなくても良い奴を刺激したようだ。


「うう〜〜ん、はれ? ランチはどこ? 私のスペシャルスペシャルスペシャルはぁ?」


 スペシャル何回言う気だよ。メッチャ頭悪そうなネーミングだな。てかランチってその前に言ってるって事は料理の名前かなんかか? 一体何が出てくるのか一切想像できないな。ファミレスとかにあっても怪しすぎて絶対に頼まないだろう。
 寝ぼけ眼でそんな事を口走ってた彼女は僕達を見つけると「あぁ〜」と行って手を叩いた。多分状況を思い出したんだろう。


「どうだったぁ? 何かみつかったの?」
「「「…………」」」


 僕たちはその言葉に何も返すことが出来ない。すると彼女は欠伸しながら「やっぱりねぇ」とか言ってる。くっそ……マジで永眠しとけばよかったのに。そう思ってると孫ちゃんが彼女に向かって強い口調でこう言うよ。


「じゃあアンタは何をわかってるって言うのよ? 言ってみなさい。私が聞いて上げるから」


 何故にそんなに上から目線? いや、孫ちゃんらしいけど。だけど別に彼女はそんな孫ちゃんの態度とかは別にどうでもいいらしい。腹を立てる訳でも引くわけでもなく、いつも通りかったるそうにしながらこういう。


「言ったじゃ〜〜ん。なんとなくだって。だから理由なんてない。あるとすれば私がそう思ったから……かな?」
「なにそれ? てかさっきも同じような事言ってたわね?」


 確かに、でもそれ僕が気にしたのに孫ちゃんがスルーしたんじゃん。でもやっぱり気になるよな。なんか絶望の足音も聞こえてきてる気もするけど……でもこの姉妹を相手に今更でもある。
 その言葉の意味が、こいつの能力……ひいては強さに繋がってるのなら知っておいて損はない。それがどれだけ強大で凶悪でふざけんなって能力でも、知らないと知ってるのでは心の持ちようが違うだろ。
 どうやらここで僕達の相手をする気はないみたいだし、それならなるべく情報欲しい、こいつが最後の姉妹なんだ。いずれ絶対にぶつかる相手だからな。


「はふ〜、知りたい?」


 なんか勿体付けるように聞いてきた。ここで「知りたい」といえば教えてくれるのか? う〜ん何も考えてなさそうだし教えてくれそうな気もするな。それに今僕はクリエなんだ。純粋さを装って真っ先に声を出せるんじゃないか? 
 よし!


「知りたい!! クリエ超知りたい!!」
「あ〜私五月蝿いの駄目だから。テンション下がったわ〜」


 えええええええええええ!? どこの現代っ子だよ! いや、どこのヒッキーだよ! の方が正しいか? でも最近の若者はテンション管理できないともいうしな。いきなりキレたりさ……ちょっと違うような気がするけど。
 でもこいつ……ある意味で一番面倒臭いやつじゃないか? 柊の奴もやる気ない様な時もあったけど、ここまで酷くなかったしな。それにあいつ自分で考えて行動出来る奴だった。こいつはマジで何を考えてるのか分からない。
 シクラの奴もそういう所は同じだけど、本質がなんか違う。シクラの場合は思慮や思惑を上手く隠したり見せたり、そうしながら周囲を操る悪女であり魔女だ。でもこいつは……本当にただ面倒臭がってるだけのニートっぽい。
 そこに思慮や思惑は垣間見えない。なんか全てがどうでもいいみたいな……そんな感じを受ける。本当になんでこんな奴がここに? 僕達前にしてその力を行使しようとする素振りさえもないからな。いや、もしかしたらもうしてるとか? 
 幾らやる気がなくたって、あの姉妹の一人が完全な無能って訳はないだろうしな。多分こいつがさっきから意味深に言ってる言葉に何かあるんだろうな。でも既にふて寝の体勢に入っちゃってる。


「どうせ最初から教える気なんかなかったんでしょ? 邪魔する気も無いのならさっさと消えなさい!」
「…………動くのダルい。死ぬかも」


 駄目だこいつ。やる気という要素が完全に欠落してる。てか何でもう死にそうなんだよ。


(お願いだから死んでください)


 一応祈っとこ。


「どうやらあいつは相手にするだけ無駄なようね。それよりもこのゴーレムの中途半端な回路の事を考えましょう。もしかしたらだけど、組み合わせで完成できるとか?」
「ゴーレム同士をひっつけたり?」


 孫ちゃんの言葉に僧兵がそう言うよ。それで内部の回路がどう繋がるんだ? 


「違うわよ。私ミニゴーレムを見て思ったんだけど、あいつらってパーツがバラバラでも組み上がるじゃない? それってこのゴーレムでも同じじゃないのかしら?」
「なるほど。つまりこの大量のゴーレムの中からパーツ事態を組み替えて一つのちゃんとしたゴーレムを作ろうって事かな」
「まあそういう事ね」


 なるなる。確かにその可能性はあるな。それならこれだけ沢山ある理由も納得できる。つまりは撹乱だろう。しかも内に秘めた回路を持つゴーレムともなると、それを見つけるとか感じるとかなると相応の何かが必要なのかも。
 それが出来る奴だけに開かれる扉がある……のかも。けど……問題がある。


「クリエ達だけじゃ、大変じゃないかな?」


 僕の言葉に一気に空気が重くなる。いや、まあわかってたけどね。でも誰かが言わなきゃだろ。今の僕達じゃこの巨大なゴーレムを動かしたりしてパーツを組み替えるなんてハッキリ言って無理だ。
 三人はモブリで唯一の人である彼も怪我を負ってる。それに敵は雑魚だけどわんさかいて、その内あの黒い奴も来るだろう。どう考えても時間がない……労力もない。


「確かに……ここだけじゃないしね」
「ん? どゆこと?」
「え? 別の中心地もあるし」


 聞いてねぇよ! 中心って言ったら普通一つだろ! ––って声を荒げて言いたかったけど、一応クリエっぽく言う。


「ええ〜〜〜! 聞いてないよ!」
「中心が一つなんて言ってないでしょ? 一番近いところを目指したのよ。街の地図に照らしてみなさいよ。街の中心からズレた所くらいだか……ら」


 ん? なんか孫ちゃんがおかしい。いや、いつもおかしいけど、なんか反応が変わったような。まるで何かに気付いて思考の海に閉じこもった感じ? そう思ってると僧兵に向かって「地図出して」って言った。
 それに従順に従う僧兵はまじ僧兵。もう一僧兵って感じだ。いいのかそれで? と思わなくもないけど、まあ今のはしょうがないかな。
 結構発達したと思ってたブリームスだけど地図は紙だった。てかかなり古そうな地図だ。あってんのかこれ? そもそもここの通貨を僕達持ち合わせてないからな……まさかあの研究所を家捜しして見つけたのかな? 
 それならこの汚さも納得かも。なんか印とかもついてるし。てか明らかに書き込んだのいっぱいだった。


「これは……」


 そんな風に呟いたのは彼だ。何か知ってるものなのか? 思い出の品だったりして……けどそんな事はお構いなしに孫ちゃんは更に線を付け足して行く。この街はデカイ壁によってグルっと囲まれた円状に成ってる。
 まあその外にも僅かな森が存在してる訳だけど……ブリームス事態は円状だ。てか孫ちゃんは一体何を書き込んで……


「私の張った根は外の力で成長する。だから多少は違うかも知れない。けど、きっと筋は大体合ってる筈よ」


 赤い線が書き込まれた古いブリームスの地図。そこには歪な陣が浮かび上がってる様に見える。どんな意味があるのかとか全然分からない……だけど、魔法陣っぽく見えるそれにはきっと意味があるんだろう。


「これはこの街に張り巡らされてる錬金の力の流れその物よ。これが表面、だけどそれだけじゃないのかも。確証には居たらないけど、この空間も円で、そして私達が来た道順を書きだしてみると……」


 浮かび上がる……様に見えるのはもう一つの陣? 表の陣と裏の陣……それを見て僧兵が声をだす。


「二重魔法陣?」
「いいえ、違うわね。これでもまだ足りないわ。多分これは……多重……ううん積層魔法陣よ。歯車の様にそれはきっと回ってる。回ってたのかも知れない」


 過去形? 今は機能してないからか。でも……それだけの物を仕込んでるとしたら、どうして使ってないとかが気になるよな。それになんの為に……気になることが多すぎるな。消化不良……マジでこれを一つ一つやってく暇ないぞ。
 だけどやらないと行けないのも事実……その時どこか遠くで轟音が響き。僅かに天井からパラパラと埃が落ちてきた。嫌な予感しかしない。


「きっとあの黒い奴だ! どうするんだい?」
「……撤退しましょう。今の私達にはこれ以上の謎を解くことは出来ない」


 その言葉に皆が頷く。口惜しいけど、引き際は肝心だ。僕は一番孫ちゃんが駄々こねると思ってたから意外だった。だけどその孫ちゃんが真っ先にそう言ったから良かったよ。でもまだ問題はあるな。


「どこから出るの? 来た道は戻れないよ?」


 あの黒い奴と鉢合う可能性高いしな。そう思ってると治安部の彼が地図を覗き見、そしてこういった。


「今がこの場所なら……近い出口は幾つかある。道順は分からないが、とにかく行こう!」


 なかなか行き当たりばったりな事をこの人も言うんだなって思いつつ僕は頷くよ。今はしょうがない。それしかないんだ。僕は彼に抱えられ、孫ちゃは再び僧兵の背に乗る。そして走りだす二人。
 僕はこの部屋を出るとき、後ろを見た。そこにはゴーレムの上でスヤスヤと寝息を立ててる奴が……本当に何しに来たんだろうか? まあ取り敢えず……


(二度と起きるな!)


 ってもう一度お願いしておいた。

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