命改変プログラム

ファーストなサイコロ

変化の潮流

 海よりも深い色をした青に身を包んだ毅然とした人達。それはこの街の治安を守る組織の人達だ。僕達が……というか、このクソ目玉が孫ちゃんにいかがわしい事をしてたせいで、気を使ってくれた誰かが通報してしまったようだな。正しい行動だけど、これはどうすれば……いや、焦ることはないかもな。
 誤解はとけば良いだけだ。


「なっ、なんでもないよ〜なんでも! ねっ!」


 僕はなるべくクリエっぽくそう言った。やっぱこいつ等にまでバレるのは駄目だと思うんだ。だって第一研究所に潜入とか、どう考えても逮捕ものの行動だからな。しかもまだ所長達が中にいるし……ますます不利にさせるわけには行かない。
 だからなるべく後ろの第一研究所なんて関係ないような素振りで、たまたまここで騒いでただけってのがいい。それで内輪揉めで収まれば、この人達も引いてくれるだろう。僕達にいつまでも構ってるほど暇でもないだろうしな。
 だから僕は二人に「ねっねっ」と合図を送る。


「そうだな、別になんでもないな。もう収まったから心配無いですよ皆さん。お仕事ご苦労様です」
「そうね。私もこの通り無事だから、もう解散して宜しい」
「そう言われても……」


 僕達が問題ないと行ってるのに、彼は真面目そうだからなかなか引く気はないようだ。それに僕達が所長達と関わりがあるのもバレてるしな。何か訝しんでるのかも。


「いかがわしい事をやってたと聞いたが、まさか君達昼間っからこんな人目のある所で憚らずやってたのかい? モブリと言う種族は知的で教養に長けた種族だと聞いてたけど、そっちにも長けてたんですね」
「んなっ!?」


 僧兵と孫ちゃんを交互に見ながらそう言った彼。まあここでいかがわしい事をしてた二人って行ったらこの二人に成るよな。取り敢えず目玉は強制的に隠してるからな。見つかると面倒そうじゃん。
 だけどそんな認識が耐え切れなかったのか、孫ちゃんは思わずこう言ってしまう。


「やめてよねその認識! 私が昼間っからそんないかがわしい事するわけ無いじゃない! しかも、こんな奴と! あれは目玉が勝手に––」
「おい!」
「孫ちゃん!!」


 僕達の声で急いで口を紡ぐ孫ちゃん。だけどその言葉はどうやら彼の耳にまで届いてしまったようだ。


「目玉? なんのことだい? 君達以外にも誰か居るのかな?」
「はは、まっさかぁ〜。お兄さんお兄さん、孫ちゃんは恥ずかしがり屋なだけだよ」
「恥ずかしがり屋なのに、こんな所でいかがわしいことを? しかも君の様な子供の目の前で? 凄い恥ずかしがり屋だね」
「……………」


 この人の言ってることのほうが正しいな。その場凌ぎの言葉じゃボロが出続けてしまう。確かに恥ずかしがり屋って設定にすると、そもそもがこんな場所でんな事をやるわけがないって事になってしまう。
 だけど今からビッチにするのもそれはそれで大問題だよな。だけど目玉の存在は知られたくないし……こうなったら––


「ま……まままま孫ちゃんは恥ずかしがり屋だけど、お男って狼って聞いたもん。僧兵もそうなっちゃったの。でももう大丈夫だから!」
「–––っ!!」


 こっちを思わず見て「何言ってんだコラ!?」的な眼差しで見つめてくる僧兵。だけどもうこれしかないじゃん。話の辻褄を合わせるにはこれしかないんだよ! 受け入れて! お願い! 


「そうなのかい君?」


 僧兵の方に歩み寄ってそう聞いた彼。後ろの治安部の人達はなんだかコソコソと「モブリって小さいのにやるな」とかなんとか言ってるのが聞こえてきてた。恥ずかしいな……だけど僧兵には耐えて貰うしか……だってそういう事にしないと丸く収まらないんだよ。
 マジ頼んます僧兵さん。


「あ……ああ。そうだとも。俺は時々猛烈に本能を抑えきれなくなるんだ。男なら誰でも経験あると思うけどな」
「自分はありませんけどね」


 冷静にそう返された。なんて惨めな僧兵。恥に耐えて言ったのに。


「彼は時々貴女を襲うんですか?」
「……ええそうね。まあ私が魅力的な事も原因なんでしょうね」
「良いんですかそれで?」
「私のこの溢れ出る魅力が罪であって、それは仕方ない事だから。だから、いいのよ」
「それじゃあ彼以外の誰かが貴女を襲っても仕方ないんですね?」
「なななななな、何言ってるのよ! そんなの駄目に決まってるでしょ! 私はそんな安い女じゃないのよ!」


 あ〜あ、だ。ほらまた矛盾しちゃったじゃないか。もうそこは「だれでもウェルカムよ」位言ってくれないと……ってそれだとやっぱ恥ずかしがり屋な一面と矛盾が生じるか。やっぱ詰んでるな……どうすれば……


「なんだか色々とチグハグでは? 怪しい……」
「ちょっ、待ってよ。確かに私のこの魅力が原因でそこの下僕が我慢できなくなるのはもう仕方ないって諦めついてるだけだから! だけど他の誰にでもオープンになんて出来るわけないじゃない。
 仕方ないって思えるのは知ってるから。理解してるからで、それと……」
「それと?」


 言葉に詰まった孫ちゃん。なんだかプルプル震えてて耳も異常に赤くなってる。そしてチラッと僧兵を見て視線を下に落としたりしてる。何かこの場で言うには恥ずかしい事を言わなくちゃいけない状況に自分を追い込んでしまったって感じなのかも。
 けど、それを言わないと彼は納得してくれなさそうだ。


「それと……それと私はただの下僕じゃないって思ってるから!!」
「「「……え?」」」


 僕と僧兵……それと治安部隊の彼も同時にそんな声を発した。いやだって、それって耳真っ赤にしていうことか。なんかもっと大胆な発言があると思ったんだけど、期待外れもいいとこだよ。
 「ただの下僕じゃない」てのは「特別な下僕」ってことだろ? だけど下僕の時点でな……けどまあそこは孫ちゃんの本当の恥ずかしがり屋な一面だし、本当の所は「特別な存在」ってことでいいんだよな?
 てかきっと孫ちゃんはそんな感覚で言ったんだと思う。気持ち的にはね。その証拠にこれだけ真っ赤っ赤なんだろうし。
 孫ちゃんも面倒だよな。そのプライドが自分を支えてる支柱みたいな所あるから、絶対に僧兵を自分と対等には出来ないというジレンマがある。


「隊長、これ以上二人の関係を探るのは野暮って物ですよ。襲われてた訳じゃないのなら自分たちの出番はないです」
「そうだが……公共の場でああ言うことは控えてもらわないと行けないだろう。子供達の教育にも悪い。イヤラシイ事は人目のつかない所でやりたまえ」
「そ、そんなのはそいつに言ってよ」
「また……自重します」


 最終的に悪い奴になったのは結局僧兵だった。ホント苦労しちゃうな。だけどまあ、大切な人に汚名を着せずにすんだと思えば安いものだろ。多分。まあこれで絡まれる理由も無くなったし、さっさと行ってくれないかな? 
 さっきから目玉の奴が服の中で肌に擦り寄ってきて気持ち悪いんだ。早くつまみ上げで地面に叩きつけて踏みつけたいよ。


「そういえば、君達だけなのか?」
「そうよ、何か悪いことでも?」


 くっ、本当早く行けよ。なんで更に話広げようとしてくるんだ。超迷惑だから。僕達の空気を呼んでほしい。でもそれはそれで困るか。僕達が「早くどっかいけ〜」的な空気を醸し出してるって感じられたら、ますます怪しまれ兼ねないからな。
 やんわり対応するしか道はないってことだな。治安部の彼は何かを探してるみたいに視線を動かしてる。僕達しか見えないことに不満でもあるみたいだから、多分その視線は所長達を探してるんだろう。
 なんか知り合いっぽいこと言ってたしな。


「別にそういうわけでもないが……奴はどうしてる?」
「奴? あぁ、あの頭可笑しいマッドサイエンティストの事?」
「ああ、その頭可笑しいマッドサイエンティストの事だ」


 ……お前等、所長に対して辛辣過ぎだろ。確かにマッドサイエンティストとか頭可笑しく無いと言えないだろうけど、一応孫ちゃんはこっち側なんだし擁護したっていいんだよ。敵対してるみたいな彼がそういうのは別に違和感ないんだけど、孫ちゃんまでそう言ったら救いがないじゃん。


「さあ、私は知らないわね。そっちのチビの方が詳しいんじゃない?」
(このバカ……)


 僕は心の中でそう呟く。わざわざこっちに振る事なんかしなくてもいいのに……そこは知らないでいいじゃん。それで十分だったんだよ。なのにわざわざ情報がありそうな事なんて言わなくてもいいんだ。


「チビって……いやまあそうだね。じゃあいいかい君?」


 そう言って愛想よく微笑んで彼は片膝を地面に付く。それでも全然見上げる位だけど、きっと子供のクリエの事を思って少しでも楽に話しが出来るようにって心遣いなんだろうな。案外良い人だ。
 いやまあ、人の良さそうな感じは普段から感じれたけどね。所長と違って静観で清潔そうだし、所長と違って知的っぽいし、所長と違って気遣いも出来る。あれ? 所長何一つこの人に勝ってなくない? 全てが劣ってるのか……それは目の敵にもするな。いや、でも確か発狂してたのはフランさんの方だったような?
 でも所長もどちらかと言うと嫌ってそうだったしな。まあ嫉妬なんだろうけど。でもなんだ……こんなイケメンが同世代にいたらそりゃあな。僕も最初はアギトの事嫌いだったしな。


 けど嫌いって言い方が語弊があるかも。気に食わない奴が沸いてきたなって感じだったと思う。まあ結局アギトの奴は外面だけで、頭の良さも性格も中々に残念だったのが功を奏したんだ。
 あいつ背も高いし、顔も(それなりに)良いし、クラスではムードメーカー的な役割を果たしてて、なんだこいつリア充か? とか思ってたんだが、それはアイツの表面的な部分でしかなかったわけだ。
 僕達が知り合ったのは中学一年の時、やたらと日鞠に絡んできてて、日鞠の奴もちょっと一目置いてる感じだった。「ふ〜ん」てな感じだったんだけど、向こうもなんか僕が居ると一瞬変な空気を出すというか、そんなのを感じてた。まあ互いに知らない時期だったしな。


 日鞠に対抗するなんてアホな事を……とか思ってたけど、実際なかなかそのクラスでは評判上場って感じだったしな。クラス違ったから傍目に見てるだけだったけど、デカイから目についたんだよね。無駄––にデカイし。本当無駄に。見かける度にアイツは誰かと居て、フレンドリーで気さくな姿をよく見かけた。
 僕にも別に普通に接してくれては居たけど、あの頃は二度目の黒歴史と言うか……そんな時期だったから秋徒の事、スッゲー無視してたんだよね。それなのにアイツはめげもせずに僕達を見かけるとわざわざ声かけて来てたからな。


 まあ大体は日鞠が会話してただけだったけど、その内日鞠の奴が僕にも話し振るようになって、ポツリポツリと会話に参加する羽目に。「あっ」「うん」程度だったのに、日鞠の気を使ったボケに何故か二人で突っ込んだり……まあそれでもそこまで打ち解けたわけでもなかった。
 僕は基本コミュ症気味だし、秋徒の奴もちょっと来ては直ぐに去るのが基本だったからな。なんだか良く声を掛けられる奴なんだ。でもちょくちょく日鞠の奴が居なくても声かけて来るようには成ってた。まあアイツが僕に対してまで気を使ってる間に、日鞠の奴は学校を掌握したんだけどな。


 根回しの速度と範囲が日鞠の奴は異常だったんだ。きっとアイツはあの時に明確な敗北でも味わったんじゃないだろうか? いや敗北というか、別格の差と言うものかも。核の違いって奴か。それにその後に、日鞠に振られたしな。
 普通にやってて勝てない相手だと悟ると、取り込む事を考えたのかも。対立してるって感じでもなかったけど、あいつもどこかに意地があったのかもな。けど日鞠はどうもそれを告白とは受け取らなかった様で……結果的に秋徒は一人で勝手に勝負を挑んで敗北したとみたいな……そんな感じで元気がなくなったというか。


 まあそれでもアイツの偉い所はいつも通りに振る舞う所だった。それも意地だったのかも知れないけどな。なんでそんな個人的な事を当時友達でもなかった僕が知ってるかと言うと、微妙な距離感で日鞠とも接点がある人物が僕くらいだったからだろう。それに珍しくこっちから声を掛けたのもキッカケだったのかも。
 色々と中学生なりに踏みとどまってバランス保ってた秋徒の均衡を僕のただの気まぐれ……というか教科書忘れが崩しちゃったみたいな。いつもなら日鞠に借りるんだけど、その時居なかったし、移動教室で時間もなかったからな。


 教師に怒られて一時間親しくもないクラスメイトと遠慮がちに教科書共有するよりも、その一瞬だけ、頭下げて僅かなプライドの消失で一時間の気兼ねない時間が確保されるなら、そっちを選ぶじゃん。
 だけど均衡が崩れた秋徒は僕に教科書を貸すどころかサボりを提案。そして授業も四時間目前とあって、腹の虫も丁度いい頃合いになってた僕は、なんとなく乗ってしまったんだよね。


 僕達は二人で校舎の隅の一角へ。その途中色々ブツブツ言ってた秋徒。僕は適当に相槌だけ打ってた。別に興味もなかったからな。まあ「気の毒に」位は思ってたけどね。ジュースくらいは奢ってやったよ。「ざまぁ」とも思いながらね。するとそこに何故か日鞠の奴が。全ての元凶がなんか一人コソコソやってたんだ。気まずい雰囲気を僕と秋徒が漂わせる。
 別に僕まで変な空気になる必要なんてなかったけど、流しながらも話しは聞こえてたからな。このタイミングでなんでこんな所……って感じだろ。僕は取り敢えずここから去ろうと思った。だけど僕よりも早く秋徒の奴はぎこちない挨拶をして背を向けてた。
 なんとかいつも通りを演じようとしてる様だったけど全く出来てなかったんだ。そんな姿を見て僕はため息一つ日鞠に昨日の事を聞いてみた。すると日鞠の奴はこういったんだ。


「昨日の……ああ、お互いに高め合って行きましょう的なアレね。うん、この学校の為に頑張っていこうね!」


 秋徒それ聞いて、愕然。どんな風に言ったのかは知らないけど、この二人の間で意思疎通がうまく出来てなかったっぽいのは確定的だった。それを認識させて、まあちょっとは回復して貰おうと思ったわけだけど、ダメージは結構大きかったようだ。
 誰とでもフランクに接してたから、気兼ねなくそんな事を囁くやつだと思ってたけど、違ったんだなって思ったよ。そんな中、日鞠の足元から現れた子犬。日鞠がコソコソしてたのはこの子犬を匿うためだったらしい。


 そして日鞠の決断力––というか脅迫? でサボり三人で飼い主探しをすることに。何故か日鞠はなんの疑いも無く秋徒も手伝ってくれるだろう––とか思ってたっぽい。そもそも返事聞く前に引っ張ったからな。
 強引に連れ回して、ヤケクソ気味になってった秋徒。飼い主が見つかる頃には素が出る様になってた。いつも良い顔しかしてなかったのに、グチグチと愚痴言うようになってたからな。
 まあだからって直ぐに今の関係に成ったわけでもなかった。これはただの一つのキッカケ。ただそれからは三人で行動する事もあるようになったってだけ。


 ようは秋徒の奴はこの眼の前の優秀そうな人っぽいけど、実はそうじゃないから仲良く馴れました––ってね。でもあれか……この人を秋徒に例えるのが間違いかも。男だからって僕か秋徒のどちらかってことはない。
 フランさんもやっかんでたって事は、三人の中で一番優秀ってことかもしれないからな。それなら、僕達で言うとそれは日鞠って事になる。僕がジーと見てると、目の前の彼はちょっと苦笑いを見せる。


「はは……えっと、君はあの頭可笑しいマッドサイエンティストと一緒にいたのかい?」


 またそれか……それが所長を的確に表してるってことかな? いや、いいけど。だけどどうしよう。一緒に居たって言うのもなんだし……そもそもさっさとここから離れたいからな。
 ここで居たって言うと、色々と面倒そうだ。だから僕は首を横に振ることに。


「知らない。ク、クリエは一人で散策してただけだもん」
「そうなのかい?」
「そっそうだよ」


 視線が刺さってくる。別にキツイ目をしてるとかじゃないんだけど、ジーと見られると緊張するよ。それにクリエを演じてる気恥ずかしさってのもあるしね。だけどその人は案外あっさりと引いてくれたよ。まあ今の僕は子供だからな。
 強引にする訳にも行かないってことかも知れないけどね。


「そうか、ならしょうがないね。あんまり周りに迷惑を掛けるような事ばかりやるなと言っといてくれ」
「はぁ……」


 なんだかんだ言って気にしてるんだね。さっさとどっか行ってほしいのは事実だけど、ちょっと関係が気になるよな。僕は離れかけたその背中にこう尋ねる。


「あの! お兄さんは所長達とどんな関係なの? 二人共怒ってたっていうか……お兄さんの事好きじゃなかったぽいよ」
「ははは、そうか。それは仕方ないかもしれないね」


 カラッと笑って僕の頭に手を置いた彼。好きじゃないって言ったのに、意外だな。そして更にこう言ったよ。


「僕達は昔は友達だった。だけど今はそうじゃない。それだけだよ。僕が彼等を裏切ったからね」
「え?」


 裏切った? それって一体……


「これ以上知りたかったら、アイツに聞いてみれば良い。僕が酷い奴だとわかるから。だから自分の口では言わない。こう見えて、外面を整えていたい奴なんだよ」


 そう言って彼は再び背中を向けて取り巻き……というか、同じ仲間たちの所へ戻っていく。裏切ったとか酷いやつとか……本当にそうなのか? 確かにフランさんの異常な怒り様とか思い出せば、酷いことをやったのかもしれないとは思えるけど……だけど、自分で酷い奴と罵ったあの人を間近でみたら、何か理由があったんじゃないかって思える。
 フランさんや所長に聞けばきっとその裏切りが何だったのかわかって、ひっどい奴って印象が僕達にも伝染するんだろうけど、それは所長達側から見ただけの事だよな。真実だろうけど、本質じゃないような……あの人も何かを背負ってるような……それを感じたよ。


「それじゃあ君達、いかがわしいことは公の場では慎むように。今度は逮捕するよ」
「わかってるわよ。さっさとどっか行きなさい」


 シッシと手の甲を向けて追い払う様にする孫ちゃん。それを適当に無視して彼等治安部の方々はこの場から離れだす。僕はなんとか去った危機に胸を撫で下ろす。


『あの兄さん、なかなかやりおるようやな』
「そんな事わかるのか?」
『当然や。自分にはいろんな機能があるさかい––ん?』
「どうした?」


 まだ完全に治安部の人達が去ってもいなのに服から飛び出す目玉。そして透き通る空をぐるっと見回してる。


『何かが干渉してるで……一体誰がこんな……』
「おい、どういう事だ?」


 目玉の声が震えてる。いつものおふざけじゃないのか? 「なーんちゃって」ってはやく言えよ。だけどそんなふざけた言葉を期待してた僕の耳に届いたのは、本当にふざけた存在の声だった。


「見つけたぞ! クソ野郎共!!」
「法の書……返してもらう……かも」


 一人はそこまで見覚えない。だけどもう一人の化け物は、ガイエンの犠牲の元に生まれた闇の存在。どうやらとうとうここまで追いかけて来たみたいだ。これはヤバイ……何がヤバイって全てに置いてヤバ過ぎる。
 絶体絶命は、いつ何時でも降り注ぐ。ブリームスの街の空気が、こいつらの存在一つで変わりだした気がする。世界の改変の渦が、この街にまで襲い掛かろうとしてた。

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