命改変プログラム

ファーストなサイコロ

人間再生?

「ええ夢!?」
「まあ正確には幻覚かな?」
「そんな……」


 床に両手ついて項垂れるフランさん。ははっ、相当ショックみたいだ。幸せそうだったからな……二人共。


「くっ……なんて残酷な仕打ちをしやがるんだ第一研究所の奴等め!」


 当然の如く所長も相当悔しがってる。まあだけど気付けよ。何処かに疑問くらいはあったんじゃないのか? まだ何もやってないのに、研究者として認められる訳無いじゃん。


「どういう意味だ貴様!」


 そう言って胸倉掴もうとしてきた所長。だけど直前でその手が止まる。なんだか僕の姿を見てその手を止めたっぽかった。今はクリエの体だからな。乱暴に扱えないと思ったんだろう。良い心掛けじゃないか。


「ズルいぞお前。早く元に戻れ」
「こっちもその気だっての。だけど状況がな……」


 そう状況がそれをなかなか許してくれない。厄介な仕様過ぎるんだよここ。地図も無いくせに構造変えまくって、一体ここの職員達はどうやってるんだよ。入る度に毎回構造が変わるんじゃ、出勤もできなくないか?
 ああ、そう言えばここの奴等は研究に没頭しててそんな外に出ないとか言ってたっけ。だから問題無いのか。この第一研究所内で残りの人生を終える気の奴等ばかりなのかな? でも誰かの入室で構造が変化するのなら、トイレに行くのだって不便な様な気もするよな。だって同じ所に有るなんて思わない方が良いんだろしさ。
 あのセグウェイに乗ってた奴もその歩みに迷いなんて物は見れなかった。それっておかしいよな? だって僕達が入って来た時、この建物は確実に構造を変えてた。それってつまり、彼処へ至る道が全く変わったって事だろう? それに自分の部屋に戻る道だってきっと変わった筈だ。
 それなのに全く迷った様子もなく去っていったってどう考えてもおかしい。やっぱりこの研究所の職員達は構造変化に対する対策が有るのかも。


「構造変化に対する対策か……まあ無いわけは無いと思ってたがな。きっと何かは有るんだろう。この構造変化に対応するデータか、変化した後の構造を職員には随時更新してるのかもかも知れん。これがあれば出来るかもだしな」


 そう言って所長は自身の指にはまってるリングを見せる。別に面白味なんてない普通の指輪だ。シンプル・イズ・ベストみたいな感じ。人差し指に嵌めたそれはこの街の誰もがしてる物なんだよな。


「今までスルーしてたけど、それって実際なんだ? 情報端末か何かなのか? てかそれも錬金で生み出したアイテム?」


 気にはなってたけど、汎用品かと思ってそこまで気にしてなかったんだよね。だって誰もがしてるってそこまで貴重性無いのかなって思うじゃん。貴重性が無いって事はそこまで重要な物じゃない––ってゲームでは成るだろ? 
 だけどよくよく考えたらそれは間違いかも知れない。この街の全ての人がしてるって事は必需品ってことだ。ただの情報端末ならそれっておかしいよな。いやまあ今の時代携帯やスマホを一人一台位は常識だろうけどさ、これってそう言う物か?
 いや、そもそも具体的にどういう物だ?


「錬金都市ブリームスだぞ。これも当然錬金の代物だ。正式名称『メビウスの指輪』だ。そして情報端末ってのも間違いではない。天気から今日の献立まで、コレがあれば調べれる」


 メビウスの指輪……それって形的に違うくね? 確かそれって無限を表したような形というか、輪を一回クルッとひねった感じのアレだよな? なにか意味が有るのかな? でもまあメビウスの指輪って壮大な名前の割に言えることは––


「それだけ?」


 ––って事だな。だって天気や献立って……いや、浸透するってのは生活レベルで浸透するって事だから必要なんだろうけど、なんか名前負けって言うかさ。ていうか、錬金に関わりだして固有名詞出すぎなんだよ。覚えきれない。
 それになんだか恥ずかしい奴が多いよな。中二病的というか……でも考えれば錬金術ってのが中二病らしいのかも知れない。


「それだけではない! これはそもそも管理デバイスだ。常に俺達の体調とかを計って記憶してる。それにそれぞれの一生分の記録を取るためとも言われてるな。これはこのブリームスにおいて、生きた証を物理的に残すものでもある」


 人の生涯を記憶する装置って事か? でもそんなのに何の意味が? よく分かんないぞ。すると頭抱えてたフランさんが気を持ち直して話に入ってきた。


「そう物理的に生きた証を残してその人を保存する。でも私はこれの目的がただのアカシックレコードの収集じゃないと思ってる。その人の生涯を残して、その人の思いを残す。神を超える事を目標にしてる錬金術で、それを成せたと言えるほどの成果ってなんだと思う?」


 フランさんが真っ直ぐに僕達を射抜くような目で見てくる。ええ〜いきなりそんな事を言われてもな……魔鏡強啓最終項零で神と同等なんだっけ? そしてそのさきの錬金の体系も考えてるんだよな。
 でも今の質問は神と同等の資格の証明……


「クリエまだ頭がポワワ〜ってしてるから分かんない」


 瞼をゴシゴシと擦るクリエはダルそうだ。別に寝てたわけじゃないだろうに。お前体の力が抜けてただけだろ? なんで眠く成ってるんだよ。するとリルフィンの奴がそれっぽいことを言ってくれる。


「そうだな。神と同等の証明となると、それこそ世界の創造とかだろう」
「デカイな」


 だけど確かに『自分は神を超えた!』位言うのならそのくらいはしてもらわないと信じることは出来ないかもな。けど世界を創造するってどこに? って問題もあるし、どうやって見せるんだ? 
 小さな箱庭でも作ってそこに小さな命をバラ撒いて、その命の進化や戦争を外側から高見の見物するとか? なんかそんな話あったよな? てかそう言う考えってあるよね。自分達のこの世界は上位の存在のおもちゃ箱の中みたいなさ。


「待てよ。錬金術なんだよな……」


 僕は顎に手を置いて考える。リルフィンの言葉を聞いて思ったんだけど、錬金術ってリアルでは金の精製を目指したみたいな感じだけど、ファンタジーで良く使われる目標みたいなのがあるよな。
 それは世界の創造よりは小さいけど、神にしか許されて無くて、それを行うことは絶対の禁忌だといわれてること。それを人がやってしまうと世界のバランスが崩れると考えられるてるそれは、神と同等といえるだけの証明だろ。
 僕はフランさんと所長を見ながら口を開く。


「人体錬成か?」


 僕のその言葉にフランさんは頷くよ。やっぱり。考えて見れば錬金術と切っても切れない関係だよなそれ。ホムンクルスって奴が出来上がるんだ。


「そう人体錬成……その為の布石がこのメビウスの指輪じゃないかって私は思ってるわ」
「どういう事だ?」


 人体錬成は錬金らしいけど、メビウスって別に錬金の専売特許じゃないだろ。でもここで言うメビウスってのはあの指輪の事だからな……でもリアルとの意味が関連付けられてないとも思えないんだよな。


「このメビウスの指輪は私達の全てを記憶してる。この街では出産は中央病院でだけ専門に扱ってるの。そして生まれたその瞬間に……ううん、この世に生まれるよりも前から、その子がこの世界に誕生するときに備えてこの指輪は作られる。
 私達が知らない生まれる前さえも記録してるのよ。そして生まれた瞬間から肌身離さず身に付けることが義務付けられる。
 そしてこの街の住人が死んだら、これは回収されるわけよ。その人の一生を知ってるこの指輪はどこかに厳重に保管されてるって話」


 なんか話しを聞いてるとちょっと怖くなるな。生まれる前って……お腹に居る時も記録を取ってるって事か? 母子手帳代わりにでも成るのかな? でもそれが人体錬成とどう関係する?
 その人の全てを記憶したメビウスの指輪。それって……


「じゃあその指輪って映像も撮ってるわけか? その人の生きた証って体の状態を死ぬまで付けたって生きた証には成らないだろ?」
「そこら辺は実際分からないわね。全ての機能を開放してる訳じゃないって言われてるし。でも多分撮ってるんでしょう。それに色んなデータも取ってるから、その時々の感情なんかも割り出してるんじゃないかしら? 人の全てを記録するってそういうことよ。その時感じた気持ちや、成長の過程。その人の趣味嗜好と言ったあらゆる全て。
 そうでないと、ハッキリ言って意味無いでしょこれ。こんな人がいたんだな〜でいいのなら、写真一枚でも撮っとけば済むことよ」


 まあ確かに。生まれる前から記録を撮り続けるって相当だよな。人間に対する大量のデータを欲しがってるんだろうか? いや、ほしがってるからこそ、こんな事をやってるんだよな。
 そしてその目標がフランさんは人体錬成だと睨んでる……


(待てよ……それじゃあ……)


 やばいぞ、僕は見てはいけない世界の裏側を盗み見てしまったかも知れない。思いついた事がなんかそうっぽいんだ。人体錬成……そしてその人を保存してるようなメビウスの指輪。
 これって……


「まさかフランさんの考えって、メビウスの指輪と魔境強啓最終項零に至った錬金術での人体錬成を経ての『人間再生』って事ですか?」
「なに!?」
「ええ!? それって……ええ!? わかんない」


 クリエの奴はいつまで寝ぼけてるつもりだ。まあ起きててもクリエの頭じゃ理解出来そうもないけどな。でもこれは……確かに神への冒涜かもね。孫ちゃんとミセス•アンダーソンが居なくてよかったかも。


「助手……お前凄いな。そんな事を考えてたのか! 流石はこのマッドサイエンティストの助手だ!」


 いやいやいや、なんでお前まで驚いてるんだよ。寧ろこの考えでフランさんの方がよっぽどマッドサイエンティストぽく成ったっての。なんかマッドサイエンティストのお株奪われっぱなしじゃね? 
 所長って自分の事マッドサイエンティストって叫ぶ割に、考えとか行動がそれに釣り合ってないんだよな。なんか色々とショボイというか?


「誰がショボイだ。助手がこの考えに至れたのも一重に俺の背中を見続けたおかげだというのに」
「はいはい」


 そうだといいね。取り敢えず所長は自分の中だけでそう思ってればいいよ。適当に流しているとフランさんがこう言うよ。


「まあ私の考えってだけだし、それにこんな事をやろうとしてるのは私じゃないからね。だから私を痛いマッドサイエンティストみたいに言うのは止めてよね」
「はは、そう言えばそうですね」


 確かにフランさんは別に人間再生ってのを計画した訳じゃなく、あの指輪の役割を推測しただけなんだよな。人間再生なんてキチガイじみた発想をしてるのはこのブリームスの上層部連中か。
 いや、そんな人類補完計画みたいな事を本当にやろうとしてるかは謎だけどさ。


『やろうとしちょる』
「ん?」


 なんだ? 今聴きたくない声が聞こえたような。気のせいだよな? そういうことにしておこう。


『嬢ちゃん聞こえとるやろ? その姉ちゃんの考えは当たっとるで。なかなか見込みあるでその娘』
「くっ……やっぱお前か」


 視線をクリエの方に向けると腰に下がってる巾着袋がモゾモゾとしてる。あの中に目玉が……名前なんだったっけ? が入ってる筈だ。


『お前やない! インテグや!』
「ああ〜、思い出した思い出した」
『忘れとったんかい!』


 丁度名前言ってくれて助かったよ。別に覚える気はないんだけどな。てか、激しく動きすぎだろ。なんかクリエの奴と違って超元気になってるぞ。そう思ってると巾着袋から飛び出してきやがった。


『シャバやシャバや! 自分は自由に成ったんや!!』


 巾着袋に入れられてただけで大袈裟な奴だな。巾着袋結構居心地良いだろ。刑務所と違って。硬くないし、包まれてる感じが最高だろ?


『最高ちゃうわ! 暗闇で一人ぼっちってめっちゃ怖いんやで!』
「どこの乙女だ。この目玉が」
『うぐっ……その毒も最高やけど……今の自分は優しくされたんじゃああああああい!』
「あっ!」


 あの目玉、フランさん目掛けて飛んでいきやがった。いや、フラン目掛けてというか、フランさんの胸目掛けてってのが正しいな。流石変態! 


「フランさん避けて!!」
「え? ってこの目玉まだ居たんだ」


 そんな悠長な事を言ってる場合じゃないんだ! そいつは変態なんだよ! 僕以外には声聞こえてないから分からないだろうけど、そいつは超ド級の変態なんだ!! 胸に飛び込む気だから!! 
 そう思ってると何かがシュバッと白衣の胸ポケットから飛び出した。そして目玉に向かって何かを振り下ろした。


「成敗です〜〜!」
『むびゃ!?』


 上部を殴られた目玉はそのまま床に落ちた。哀れなり目玉。そしてその近くにシュタッと降り立つのは小人だ。そう言えば居たな。忘れてたよ。小人はその手に爪楊枝みたいなのを携えてる。あれで殴ったのか……てかどこから調達したんだあれ?


「小人さん、いきなりどうしたの?」
「危険でしたので〜守ったです〜」
「私を?」
「はいです〜〜」


 爪楊枝を掲げてフリフリする小人はなんか可愛い。それに比べてこの目玉と来たら……なんか見る度にがっかりするな。


『な……何やねん我!? 何すんねん!』


 ヒョロヒョロと浮きだしながらそう言う目玉。だけど小人はフランさんに「ありがとう」されて上機嫌。勝ち組と負け組の差がハッキリと見える。世界って残酷だな。


「まあなんだ。涙拭けよ」
『うわあああああああああああああああああん! 嬢ちゃああああああああああん!』
「キモイ」


 バシッと平手打ちで再び床に叩きつけた。いやだってキモかったし。


「スオウのバカ! お目目が可哀想だよ!」
『くっ……男なんかに優しくされたってなぁ……なぁ……嬉しくなんか……うおおおおおお!』


 自分の余りの仕打ちに等々号泣しだした目玉。最後までクリエだけは味方だったから、その優しさも通じたのかもな。だけど実際今直ぐ離れて欲しいけどね。だってそれ、僕の体だ。汚さないでほしい。


「なんだか色々とカオスになってきたな。てかその人間再生って今関係あるか?」


 傍目から傍観してたリルフィンの奴が話題を戻すようにそう言ってくる。ナイスタイミングだな。ありがたい。


「まあ別に関係はないかもね。ただこの指輪の事を聞かれたら説明ついでに言っただけだし」
「だがなかなかマッドサイエンティストらしくて良かったぞ」


 所長も少しは雰囲気だけじゃなく実績でもマッドサイエンティストっぽいことをしたほうがいいな。確かに今別に人間再生とかの事は考えないで良いかもだけど……気にはなるよな。目玉がそれは正解だと言ってたし。


「どっちみち推測よ。それにそれがいい事かどうかもわからない。世界の理には反してると思うけどね」
「そんな事を恐れていてはマッドサイエンティストは名乗れん。人間再生か……良いではないか。我等が魔鏡強啓最終項零を超えたら、上の奴等のその計画の真相も見えてくるだろう」


 …………どうしようか? それは間違いないと言ったほうがいいのかな? だけどソースはこの目玉だしな。どれだけ信用できるか怪しいものだ。


「おい目玉」
『何やねん嬢ちゃん? 今更慰めたって許さへんで』
「いや、そんな気は全く無いけど、お前ってもしかして中央図書館の禁止区域Zって所への行き方って知ってるか?」
『知っとるで』
「へぇ〜〜〜–––って知ってるのかよ!?」


 いや、もしかしたらそうじゃないかなって思ったんだけど、まさか本当に知ってるとは。僕の驚愕の声にフランさん達が反応するよ。


「まさか知ってるって……そういうことなの?」
「そうみたいですね」
「そんな都合よく事が運ぶか。寝言は寝て言え」


 所長の奴はどうしてそこまであり得ないって感じで否定するんだよ。そこまで否定できる根拠もないだろ。この目玉はここの奴が捨てていったんだぞ。あり得なく無いだろ。


「あり得ないな。捨てられた物のデータが残ってる事がおかしいだろ。そんなミスを研究者はしない。研究成果や機密というものは何よりも守らねば成らない物だと、俺達は知ってるからな!」


 なるほど……初めて所長の言葉に納得したかも。でも確かにそれはそうだ。捨てる物のデータは真っ更にするのが常識だよな。それは一般人だってそうだ。それなのに機密性の高い研究をしてる筈の研究者がそれを疎かにすれなんて考えられない。じゃあ一体どうして?


「嘘ついてるんじゃないかお前?」
『データ見せたやん! 他にも一杯有るんやで!』


 そう言えばそうだな。こいつの中にデータが残ってるのはちょっと前に確かめてる。あれ? でもそれってどういう事なんだ? おかしいことが一杯だろ。


「うっかりしてたんじゃないかな?」
「そんなバカな……」


 クリエの奴の言葉は余りにも希望的観測過ぎだろ。たしかにあり得ないって訳はないけど……その可能性は極めて低い。でもそれ以外に理由が無いのも確かだな。ラッキーと思えばいいのか?


「ちょっとこっちに来なさい」
『うひょおおおおおおお姉さまああああああああああ!」
「成敗です〜」


 再びバシッと弾かれる目玉。今回は呼ばれたから行ったのにな。まあきっと気持ち悪かったんだろう。分かるよその気持。床に落ちた目玉に近づくフランさん、そして指を翳してみる。すると指輪から光が伸びて、目玉に当たる。すると指輪の上部にデータらしき羅列が現れた。
 指輪が目玉の内部データにアクセスしてるのか?


「確かにデータは残ってるみたい……ってこれ、今までの第一研究所の研究データ全部じゃない?」
「なっ!? そんな訳はないだろう。幾らここの研究員でも一人にそんな権限が有るわけがない!」


 確かに所長の言うとおりだよな。たった一人が個人でそれだけのデータを手に入れれる訳無いだろ。自分の関わってる、あるいは関連してるデータならまだ分かる。でも、全部って……おかしい。明らかに。


「アクセスできるのか?」
「駄目ね。プロテクトは一応掛かってるみたい。でもこれだけのデータを一体どうしようとしてたのかしら?」
「そんなの決まってる。出し抜くためだ。他の誰よりも先へ進むためにこの情報を集めたんだろう」


 所長の言い分は妥当かもな。その線は確かに有るだろうけど……でも、そんな大切な物を捨てるか? いや、もしもうっかりだったとしても、気付いたら直ぐに回収しに来るだろう。するとリルフィンの奴がこういった。


「それはアレだろう。騒ぎに成ったから回収することが出来なくなってるということだ」
「なるほど、それは好都合だな。おいスオウ」
「なんだ?」


 なんか所長の奴が嫌な笑顔を浮かべてる気がする。この自称マッドサイエンティスト、何を言う気だ? 


「何簡単だ。もうちょっとその姿で居てくれ。これを捨てた奴を追うのは止めて、脱出に動くべき。そうだろ?」
「なっ!? それは駄目だろ! このままなんて困る!」
「困ると言われても、それはこっちだ。実状問題ない入れ替わりと、いつ捕まるか分からないこの場所を徘徊する危険……それを天秤に掛けて何を優先するべきかくらいわかるだろう! この目玉と共に今すぐ脱出して、この目玉の内部データを解析するほうが大切だ!」


 いつにない迫力で、そう言い切った所長。それは確かに正論に聞こえた。でも……だけど……僕は周りの面子を見るよ。だけど誰もその所長の意見に反対する者はいないっぽい。僕もわかるけど……でも……でも……するとポンと僕の頭にその手を置いた所長。


「焦るな。なぁに目玉の中にはきっとあの蛇のアイテムのデータもあるさ。そしたら俺が同じのを作ってやるよ。任せろ」
「所長……」


 ああ、その可能性もあるかもな。頭に置かれた手は大きくて温かい。まるで包み込まれてるよう。なんだろう……少しだけ安心……安心……安心……出来るかああああ! 僕はガクッとその場に膝と両手をついてうなだれた。


「あれ? おい?」


 自分的には決めてたんだろう所長が「おっかしいな〜」的な声を出してる。確かに決まってたよ。心に確かに届いた。だけどだけど……僕はまだ所長の事をそれほど信用してないんだよね。 
 だって信頼出来る要素ないじゃん! 

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