命改変プログラム

ファーストなサイコロ

確率の問題

「ちょうちょう! なんだあれ? 説明しろインテグ!」
『キスしてくれたら考えんでもないで』
(この変態が……)


 大量のサイレン響かせる小人達に、そいつらを踏みつけながら迫り来る1.5メートル位の小型恐竜の群れみたいなおっかない奴等。ズンズンという音を響かせて、その不安定そうな体を前傾姿勢にして、二本の足で迫ってきてる。
 肉々しいというよりもメカメカしいその恐竜共は多分中身がずっしりと詰まってるんだろう。かなり一足の重みが大きい。だけどそれでもスピードはかなり出てるんだから、凄いものだよ。
 現代のロボット超えてるんじゃね? 位。


「どうする!? どんどん小さい奴等が湧いてきてるぞ!」


 確かに恐竜型の奴が戦闘力高そうで危険視してたけど、小人達もワラワラと––というかモサモサとなんか湧いてる。その全員がサイレン鳴らして、頭部に回るランプ付けてるから眩しいくらいだ。
 通路の薄暗さを小人達の明かりで補ってるみたいな……
 でも回転してるからやっぱチカチカする。後ろからはヤバそうな恐竜型、周りには大量の小人達……これじゃあどこまで逃げても、この小人達の目から逃げることが出来ないんじゃ……


『ヤバイでヤバイで〜、手遅れになる前にキッスしちゃった方がウィよ〜〜〜』


 くっそ、なんてムカツク目玉だ。しかもどうしてチャラく成ってんだよ。ますますその目玉潰したく成る。


「このままじゃ逃げ切るなんて不可能よ」
「へはぁ……へはぁ……そうっ––だな……」


 おいいいいい! 既に所長の奴バッテバテじゃないか。どういうことだよ。森で逃げてた時はめっちゃ元気だったろ。まだ数分も走ってないぞ。体力無さ過ぎだ。マジでこれは逃げ切るなんて無理っぽい。こうなったら、打って出るべきかも。取り敢えず一回視界から外れたいしな。
 でも今の僕はクリエなんだ。それが出来るか? そう思ってるとフランさんがこういった。


「一瞬でも良いからどうにか動きが止まってくれれば……」
「なんとか出来るのか?」
「多分ね」


 その言葉信じよう。一瞬でいいんなら、いい方法がある。


「リルフィン吠えろ!」
「アオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!」


 リルフィンの咆哮がこの空間に響き渡る。相変わらず近くで聞くとどこか頭が痺れるような感覚がする咆哮だ。だけどだからこそ、効果は覿面。対策を知らない奴等にはこの咆哮はよく効く。


「ふにゃあああ」「あわわわわわわ」「べへへへです〜」


 色々な声を発しながら小人達が目を回して倒れてく。機械の恐竜共はどうかと思ったけど、目の所のディスプレイというか、フィルターというかの様な所に変な砂嵐が発生して、向こうもこっちを認識出来なくなってるようだ。
 思ってた以上の効果だな。


「これでなんとか成るか?」
「十分、てかリルフィンも案外役に立つのね」
「どういう意味だ」


 リルフィンの不満そうな声は無視して、フランさんはポッケから髪留めのゴムみたいなのを取り出した。どう見てもそれはなんの変哲もない女子がよく使うゴムにしか見えない。だけどそれを手で揉んでもう一度開くと、何故か大きさが数十倍に成ってた。どういう原理だよ……まあリアルじゃないし、原理なんて物を推測するのも野暮ってもんか。
 魔法を科学的に説明しようとすることと同じ位意味ないことだな。フランさんは大きくなったゴムを床に落としてパンパンと二度手を叩く。するとゴムの内側か曖昧な輝きを醸しだした。
 そして床に膝を付き、その輝きの中に首を突っ込む。するとニュルってな感じで頭が滑りこんだ。なるほど、どうやらこのアイテムは壁を抜けれるみたいだな。確かにそれならあの恐竜型はやりすごせられるかも……でも小人達はこいつら事態が壁をすり抜けてたようにも見えるんだよな……


「大丈夫、誰も居ない。行きましょう」


 そう言ってフランさんがまっさきに飛び込む。次にゼェゼェ言ってる所長が行った。


「先に行け。戦えるのは俺だけだからな。しんがりくらい努めてやる」
「それはありがたい事で。クリエ!」
「だ、大丈夫かな?」
「大丈夫だろ。フランさん達が先に行ったんだ。信じろ」
「うん!」


 そしてクリエもピョコンと飛んで円の中へ。円の中を通るとき、僕には電気の様なビリリって感覚が走った。まあもしかしたら僕だけじゃなく、皆そうなのかも知れないけどね。


「ぐはっ!?」
「はれ?」


 変な声が聞こえたな。下を見てみると、白く大きな虫が横たわってる。


「し……死ぬ……」
「ご、ごめんなさい!」


 クリエは急いでその虫から離れる。人語を話したこの虫はどうやら所長の様だ。いや、知ってたけど。たく、なんでこんな所で寝てるんだ––


「よっと」
「ぐぎゃああああああああああ!?」


 あ〜あ、だ。折角退いてやったのに、次に降りてきたリルフィンが今度は所長を踏みつけた。哀れだな。


「おお、スマンスマン」
「…………」


 駄目だ返事がない、ただの屍のようだ。


「さて、これからどうするんだ?」
「これからっていうか、これだけじゃ不十分だろ。もっと出来るだけ移動した方がいい」
「そうね、あのちっちゃな存在達の視線は厄介そうだし、もっと離れたほうがよさそうよね」
「でもでも、ただ滅茶苦茶に歩いてたら迷子に成っちゃうよ?」


 確かに滅茶苦茶に歩いてるだけじゃ迷子になるな……てか既に迷子みたいな物だけどな。そもそもあの移動装置から出た瞬間に、どことも分からない空間に放り出されたから、今自分達の居場所なんて分かろうはずもない。
 周りを見渡すと、ここは薄暗い部屋には棚が猥雑に置かれて、そこには物が置かれてると言うか、投げ捨てられてると言うか……ここもなんかガラクタ置き場っぽいな。ここってホントに第一研究所なのだろうか? 今のところガラクタしか見てないぞ。
 しかもどう考えても見た目的には第二研究所の方が綺麗で豪華だった。第一はなんか常に薄暗い。まあ物が乱雑に置かれてる方がある意味でおかしな研究者っぽいと言えばぽいかもな。第一の奴等は研究以外の物は目に入らないのかも知れない。
 研究バカみたいなのの集まりだろうしな。それを考えると、やっぱり第二は普通なんだなって思うな。そこがきっと第一に入れない理由だったのかもね。そう思ってるとリルフィンの奴が、鼻をクンカクンカしながらこの部屋を歩き出す。どうしたんだ?


「あの変な乗り物乗った奴を追うんだろ?」
「分かるのか?」
「俺の嗅覚を舐めるな。さっきの奴の匂いは記憶してる。この建物内なら、見失う事はない」
「「おお〜〜」」


 クリエの体の僕と、僕の体のクリエが同時に声を上げる。なんだかいつになくリルフィンの奴が頼もしい。どういう事だこれは? 今までこんな事あったか? 精霊の癖にいつだって微妙な立ち位置、それがお前のアイデンティティだったんじゃないのかよ。


「くだらん位置づけを勝手にするな。俺が微妙なのは、力を分けてるからだ。それがなければ、貴様よりも俺は強い。流石に邪神のアイツ以上とは言わんがな」
「まあ分かってるけど、それもわからないよな。今この世界にローレは居ないはず……それに改変も行われてる。それなのにお前の力は戻らない。じゃあ一体誰に分配されてるんだって事に……」
「だが前に元の姿を取り繕う事はできた。もしかしたら……いや、俺達には確かめる術はないな。確証じゃない」
「そう言えばそうだったな」


 でもよくよく考えたらノエインとかに聞けばよかったんだよな。改変の影響を受けてた時なら理解なんかされなかっただろうが、今はもう元に戻ってるんだ。それにリア•レーゼはサン•ジェルクと共に並ぶノーヴィスの双璧。
 そのトップ同士が知らない訳無い。そもそもローレの事を思いださせることで、ノエインの記憶の改変を弾いたわけだしな。でもそう言えば元に戻ると改変されてた記憶の方が曖昧に成るんだったっけ?
 それじゃあ覚えてないかもな。でも世界中は改変され続けてる。ある意味真実を知ってる僕達だけがこの世界の変化に取り残されて置き去りにされてるというか、なんというかだな。
 真実を知る者こそ孤独になって行く……そう考えるとちょっと格好良いかも。


(あれ? この考えなんかメカブっぽいな)


 中二病的なアイツっぽい。僕は僕の腕の中で頭を振るう。恥ずかしい、中二病的思想とか恥ずかしからな。振り払っておかないと。それに格好いいとか言ってる場合でもないし。リアルでは中二病的な妄想なんか現実に成ることは無かった。
 だけどここでは違う。洒落にならない事が起こってるのは本当なんだ。


「私達に分からない事を話してないで、どこに道を作れば良いのか早く指示してよ。悠長にやっとく暇はないんだからね」
「そう……だな。見つかった以上悠長に構えてるわけにもいかない。取り敢えず道を開け」


 あれ? いつの間にか所長が復活してる。それにそう言いながら所長の奴は例のストローで目ぼしいものを吸い込んでるし。おい……それは犯罪だろ。てかまさかさっきのガラクタも何個か吸い込んでるんじゃないか? 体力減ったのはその分重くなったから? だけどストローで吸い込んだ物はどっかの空間に送られるはずでは? 
 いや、よく知らないけどさ。でも所長ちゃっかりしてるなおい。


「ねぇねぇスオウ、そう言えばお目目さん居ないよ」
「ん? そう言えばあのうざったい声が聴こえないな」


 忘れてたけど確かに姿が見えないな。まさか置いてきた? アイツの中には重要情報があったらしいんだか……不味いな。


「ん?」


 あれ? なぜか胸がズキンって……いやいや、待て待てあんな変態目玉に何故に僕が心を痛めるんだよ。あり得ないあり得ない。情報が得られなかった事に残念がってはいるけどさ、痛むってのとは違うんだよね。
 だけど何故かホントに胸が……ズキンズキン……というかモゾモゾとするような。


「モゾモゾ?」


 僕はペッタンコなクリエの体に目を落とす。まあクリエに限らずモブリは総じてペッタンコだけどさ……その筈なのになんだかクリエの体には膨らみが。しかもなんか動いてるし。これはまさか……僕はクリエの服の首辺りを引っ張って中を確かめる。


『むっはー! 幼女の肌スベスベやぁ』


 腕を突っ込んで無言で目玉を掴んだ。その瞬間、声はしぼみ水分を感じた。冷や汗か何かか? 目玉の癖に?


「何やってるんだ?」
『……』
「いつ、入ってきた?」
『お……落ち着くんや。これは事故なんやで』
「事故? クリエの肌に擦り寄ってスーハースーハーしてたのが事故だと?」


 面白い事故だな。どうやら僕が知ってる事故という言葉の意味とこいつ言ってる事故は違いそうだ。説明して貰おうか。


『いやな、スーハースーハーしてたのは不可抗力ってやつやん? 重要なのはそこやない。どうして自分がここに居るんかってことやろ? スーハースーハーは二の次やん?』
「じゃあどうしてそこに居るのかまずは説明しろ。事故ってなんだ? 故意だろ?」
『決め付けは良くないで。そう何事も公平な目で見ることが重要やん。自分は嬢ちゃんが忘れてくから急いで服にしがみついたんやで。そして気付いたらここにいたんや』
「いや、それで中まで入ってきてんだろ?」


 下手な言い訳してるんじゃない。しがみついたついでに中まで侵入して、変態行為に及んでましたって言え。それが真実だろ。


『違うんや! どうして信じてくれないんや! 自分が嘘言うような奴に見えるんかいな!』
「見える」


 てか、この目玉のどこに信用できる要素があるのか? 今までの言動を考えみても、どうやったって信じれる要素無いだろ。己の普段の行いを後悔しやがれ。


『本当なんや……本当……』
「仮にそれが本当だったとして、じゃあなんで今お前はんな所に居る?」
『それはわからないんや。ほらそこの兄ちゃんの声で自分もダメージ食らっとったさかい、しがみつくのに必死で。気付いたらここで、状況理解したらスリスリするのは普通やん?』


 最後の所、何当たり前みたいに言ってるんだこの変態。普通じゃねーよ。お前がそんなんだから信じられないんだ。


「おい、目玉も居たのなら行くぞ。そいつがなんて言ってるのか俺には聞こえないが、お前の言葉を聞いてる範囲で推察すれば、もう一度この輪をくぐればはっきりするだろ」
「なるほど。確かにそうだな」


 リルフィンの奴の言葉に納得だ。確かにもう一度くぐれば、それが本当かどうかはっきりするだろ。一回外に出して、くぐった後、中に居たら本当って事だろう。だけどそのまま外を漂ってたら……どうなるか思い知らせて野郎じゃないか。


「くくくっ、今はまだ殺されないでいてやるよ」
『嬢ちゃん……完全にヤバイ奴の目やでそれ……』


 僕の言葉に生気を失いつつある目玉。こいつの命もあと僅かだな。取り敢えず服の中から抜き取った。そして痛がるほどに握っててやる。なんかの拍子でスポッと奇跡的に服の内側に入ることもあるかもしれないからな。そんな事があったら痛めつけれなくなる。


「よしいいぞリルフィン」
「ならついてこい。こいクリエ」
「うん!」


 僕達は再び円状に光る輪の中に飛び込む。そして今度も薄暗いというか、なんだかモワッとした煙で満たされた場所に出た。


「なにこれ?」
「そんな事より、目玉だ!」


 僕は自分の手に注目する。するとそこにはガタガタ震える目玉の姿が。僕は瞼を閉じてる目玉に静かに言ってやる。


「覚悟は出来てるよな?」
『確率の問題やないか? 同じ事が二度連続して起こるとは限らへん! そうやろ?』


 この目玉、口調と見た目の割には中々に頭が回るじゃないか。てかどこに頭が有るんだろう? でも確かに同じ現象が頻発するとは限らないな。だけど検証してる場合でもないしな……僕は考えるよ。


「リルフィン、さっきガラクタ捨てた奴とはまだ距離あるのか?」
「そうだな、建物内だから数十分掛かる距離があるとは言えないが、それなりにはまだ離れては居る」
「そうか」


 じゃあまだまだ潜る事になりそうだな。それなら検証の余地はあるか。


「じゃあそうだな。さっきの奴に追いつくまでに一回でも同じ現象が起きたら、見逃してやるよ」
『よ、よ〜し、それが最良やで。良い判断や!』


 目玉は死期が伸びた事で喜んでる。ふん、どうせ同じ事なんか起きないと思うけどな。それにそもそも今はこいつに制裁加えてる暇も無さそうだから、妥協してやった迄だ。ちゃんと後でたっぷり制裁してやるから安心してていい。


『あれ? なんや寒気が……』


 僕の笑顔を見てそう言って来る目玉。取り敢えず握ってるのもキモいから、クリエのアイテム欄にあった巾着袋みたいなのに入れとくことに。


『この扱いはあんまりや!』


 そんな声が聞こえたけど気にしない。逃げられたら困るからな。そもそもこいつが僕達に付いてきてる理由が良くわからないし。危険を感じて逃げられたら困る。でもこうやって袋に入れてれば逃げられる心配もないだろう。


「クリエ、これ腰につけてろ」
「クリエでいいの?」
「ああ、目玉だけどそれでもこいつが暴れると今の体じゃキツイからな」
「分かった」


 そう言って巾着袋を受け取ったクリエはそれを腰につける。僕の体なら、あんな目玉が暴れてもびくともしないだろう。さてと……


「この緑がかった煙はなんだ?」
「さあ? でも害はないみたいだし大丈夫でしょう。早く次の穴を開けて進むわよ。リルフィン」
「わかって––ハッハックション!! ……匂いが辿れん」


 なんだって!! この煙まさか鼻をいかれさせる物なのか? 狙ってやられたのか? でもこっちの情報なんて向こうには無いはず……てかどうするんだよこれから。そう思ってると、どこかからシュゴーシュゴーと言うへんな音が。そして蔓延してる煙の色が緑から赤紫っぽい色へ変わっていく。


「色が変わる煙? なんだこ––」
『色が変わる煙やて? それはアカンもんや! はや…………』


 なんだ? 声が来こえなくなった? なんだか不味そうだな。これは逃げるべきだと頭が警鐘を鳴らしてる。


「皆、逃げよ––!!」


 その瞬間、クリエが膝を付く。正確に言えば、僕の姿のクリエが力をなくした様に膝を折った。


「あ……あれ? 力入んないよ?」
「なっ!?」


 どういう事だ? 所長はなんだか鬱モードに入ってブツブツ言ってるし、フランさんも妄想の世界に招かれたみたいに成ってる。どういう……いや、明らかにこの煙の効果なんだろう。すると煙の向こうからカツカツと言う音も響いてきた。 シュゴーシュゴーという音とカツカツと言う音が同時に近づいてくる。
 これはヤバイ。この煙の向こうには誰か居る。その存在を感じる。

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