命改変プログラム

ファーストなサイコロ

契約の履行

「いやっははっはは……はぁ……」


 カラ元気の様な笑い声の後に、それを確定付けるようなため息。ロウ副局長さん率いる研究チームの施設に招かれたのは良いけど、ホントどこからも歓迎されてない感じだよ。いや、まあ他の所はしょうがない。
 けどもうこうなったらこのチームだけでも歓迎するべきだろ。昨日はあんなに盛り上がったじゃないか。そりゃあ体面が大切なのもわかるけど、契約書はあるんだ。否定はできない……それなら第四研究所と共に、全ての奴等を見返す方向にシフトするべき。
 今回の共同は、それだけの事が起こりえる事だ。だからこそ、本当は第二研究所全体でバックアップ位してほしいくらいだよな。


「ロウ副局長、それに皆さん」


 なんだか厄介者を受け入れてしまって頭痛い感じの皆さんに、フランさんが声を掛ける。気まずい空気の中、彼女に視線が集まった。そこで彼女は丁寧に、そして感謝を込めてこう言うよ。


「ありがとうございます。本当に」


 フランさんは数秒じゃなく、数十秒でもなく、なんだか頭を上げる気配がない。そんな真摯な態度を見せつけられて、ロウ副局長以下子分共は、どこか心を締め付けられたのか、向こうも立ち上がりこういった。


「いや、こちらこそ……すまない!」
「「「すみませんでした!!」」」


 なんだか変な光景が目の前に。良い大人たちが体を曲げて頭を下げ続ける対決をしてるかのよう。僕達はどうしたら良いか困惑だよ。頭下げる対決に加わったほうが良いのだろうか? そう思ってると、「ふふ」と漏れ出るかの様な声が聞こえた。
 そしてそれをきっかけに双方から笑い声が聞こえて、頭を上げる。


「見返してやりましょう。全ての人を」
「そうだな。我々は現状に浸りすぎてたのかも知れない。一緒に上を目指そうじゃないか」


 そう言って二人は固い握手をかわす。ここにようやく確固たる同盟が結ばれた感じだな。今までの契約上だけの物じゃなく、しっかりと同じ前を見据えた握手だ。流石にここから裏切るとかはないだろう。


「うっ……うう……」
「意識回復です。意識回復です〜」


 そう言う小人さん達の報告に僕達はソファの方に視線を送る。そこには白衣を少々焦がした所長が横たわってる。クリエのせいで意識不明にまで陥ってたんだよな。


「くっ、クリエのせいじゃないよ!」
「いやいや、どう考えてもお前が吹き飛ばしたせいだろ」


 そんなやり取りしながら僕達は意識を取り戻したらしい所長の元へ。仰向けの所長の体には数体の小人達がいて、その体の上をワイワイと動きまわってる。なんだか微笑ましい光景だ。


「ご苦労様小人さん達」
「「「…………」」」


 あれ? クリエが挨拶すると、楽しそうに––というか、陽気にしてた小人達の動きが一斉に止まる。まるで蛇に睨まれた蛙状態とでもいうのか……なんかそんな感じ? 


「お前何をやったんだよ?」
「く、クリエは何もやってないよ〜だ!」


 イーーとしてくるクリエ。だけどこれはな……明らかに怯えてるぞ。僕はどうしてなのか小人達に理由でも聞こうと声を掛ける。


「なあ、なんでそんな怯えて––」
「「「うわっわっわ〜〜〜〜! 悪魔です〜〜〜〜〜〜」」」
「–––え?」


 何故か僕が近づいた瞬間に一斉に皆逃げ出してしまったぞ。なんかクリエよりも対応酷くないか?


「ぷぷー!」


 口に手を当てて頬をふくらませ、明らかにバカにしたように音を立てるクリエ。頭グリグリしてやろうか。


「なんだってんだ一体……」


 ふくれっ面でそう言うと、第二研究所の人達がこう言うよ。


「君は彼等の集合体を倒したからね。怯えられても仕方ないよ。潜在的な恐怖の対象に成ってるんだろう」
「うぐ……」


 確かにあのデカブツをぶっ倒しはしたけどさ、別に僕がトドメ刺した訳じゃ……奴等のミサイルをただ返しただけだ。力でゴリ押ししたわけでもないのに、あんなに怖がられるのは……


「それよりも私達が気になるのはその子がどうして警戒されるのか––だけどね。ちょっと検査とか解剖を……」
「させるか!」
「だよね……はぁ」


 流石研究者連中だ。研究熱心なのは良いけど、なんかちょっと怖いな。クリエも僕の脚にしがみついてちょっと怯え気味だしな。でも実際、この人達の言うことは気にはなってたよな。
 そもそも最初小人達が狙ったのはクリエだった。まあクリエが制御に失敗して照明をぶっ壊したから危険判定したんだろうと思ってたけどさ、なんかそれだけじゃないようなんだよな。
 だって僕達はもう敵じゃないと彼等小人達は分かってるはずだ。僕には倒されたってトラウマがあるからまあ仕方ないとして、クリエを未だに怖がる理由がない。それなのに、彼等はクリエを怖がる。何かあるんじゃないかと思うのは当然だな。
 小人達はもしかしてクリエの特別性をわかってるのかも。クリエの力は神の力だからな。それを感じ取ってる? と考えられるかな? 分かんないけど。


「あの、あの小人って錬金で生み出したんですよね?」
「そうだよ。彼等は実に良く働いてくれる、僕達の良きパートナーだよ。その体には幾つもの機能が備わってて研究者の間では雑用だけでなく重宝される存在なんだ」
「へぇ〜」


 確かにアレは重宝しそうだよな。傷だって直せるし、掃除も一瞬。修復作業も出来て、どれだけこき使っても文句なんて言わない。逆になんか楽しそうだしな。それに見てるだけで癒される愛らしさもある。
 研究に没頭する科学者達の心を癒す存在なのかも。でも錬金ね……実際、ずっと思ってた事を僕は言ってみるよ。


「魔法でも同じ事って出来るんですかね? 実はあの小人とよく似た存在を僕は知ってます。それは魔法の国で生み出されてました」
「何!? それは本当かい!?」
「ええ」


 僕の言葉に何か話しだす科学者の皆さん。そんなに驚くような事だったのか? 錬金と魔法で生み出す方法がちょっと違うとかそんな感じじゃないのか? だってハッキリ言って、あの小人とサン•ジェルクで見た奴はほぼ一緒だ。外見とか言動とかも似てる。


「まさか魔法で自然条理の逆転を?」
「いや、魔法ではアプローチが違うのかも知れない」
「その小人は何かココのと何か違いはあったのかな?」


 違いね……取り敢えず合体はしなかったよな。でも集まればかなりの魔法を使える仕様だったような。それぞれに特性なんかも会ったような気もする。あいつらには助けられたよな。


「なるほど……特性を一人に一つは魔法ではよくある構成だ。群れを作りたがるあの小人達にはいいのかも知れない。錬金製は色んな事が出来るが、その色んな事は予め決まってる。必要な事を決めて作ってるんだ。
 だが魔法製は単一の機能は少ないのかも知れないが、組み合わせでの魔法は無限にあるのかも知れないな。興味深い」


 うん……なんかよく分からない話しになってきたな。きっとどっちも一長一短があるよって事だろう。でもなんか不思議というか皮肉と言うか……対立してる感じなのに、同じような物が出来上がるって……


「錬金と魔法に似て非なるものだからね。いつかあの小人達と、魔法の小人達を会わせてみたいわね。どういう反応するのかしら?」
「仲良く成ったら、錬金と魔法も仲良く出来るかもな」


 フランさんが横に来て会話に加わってきた。あの小人達の抜けた様な表情を思い出すと、案外直ぐに友達に成ったりしそうだけどな。


「私達は別に魔法を毛嫌いしてるわけじゃないけどね。向こうが勝手に錬金を神に背く力って迫害しただけ。歩み寄るのなら向こうからじゃないと」
「そう言えば……そんな感じだったっけ?」


 孫ちゃんもミセス•アンダーソンも最初乗り気じゃなかったしな。そもそも錬金を禁止したのはシスカ教団だし。それはきっと錬金の危険性とか、普及した時の自分達の立場を考えての物だよな。
 もしもブリームスが表の世界にずっとあったら……ここまで錬金の研究が出来たのか疑問だよな。必ず教団の妨害が入ってもおかしくはなかったはず。そうなったら、血みどろの戦いの果てに錬金と言う物が完全に抹消されてたかも。
 ある意味、昔そのまま消えてしまった事で、錬金は今日日まで生き延びて来たとも捉えれる。そう思うと、錬金と魔法が歩み寄るのは難しいかも……


「……おい、これはどうなってるんだ?」


 状況が全くわかってない奴が一人そう言う。それは勿論所長だ。


「無事で良かったよ所長。これから第一攻略始めるから早く起きてくんない?」
「そうね。いつまで一人で楽してる気よ? 普段から何もしないんだからせめて他の人よりも数倍のやる気だけでも見せなさいよ」
「…………お、おう?」


 全然わからないのに、誰も状況を教えてくれないから、所長は周りを見回して必死に状況把握に努めてる。すると見覚えのある顔でも発見したのか、その人をジーと見つめる。


「う〜〜〜〜ん、貴様どこかで見たな?」
「貴様とは言ってくれるな。昨晩会ったはずだが?」
「昨晩……ああ! 助手に色目使ってた変態か!」


 ガクッと体が崩れるロウ副局長さん。そりゃあ無いだろ所長って感じだな。お前らかなり意気投合してたじゃないか。実は変態と思ってたのか。


「この際だからハッキリ言っとくが、助手はやらんぞ! 絶対にな」
「ちょっ! 今更話ややこしくしないでよバカ!」


 フランさんが顔を火照らせてそう言う。なんだか満更嫌そうでもないな。ずっと不機嫌な感じだったのに、今は言葉とは裏腹にちょっと嬉しそう。


「ふん、彼女を第四研究所などで埋もれさせておくのは勿体ない。昨日は是非とも自分もと言ってたじゃないか。上手く行けば二人一緒に雇ってやるぞ」


 おい、そんな事言ってたのか所長。第四研究所の所長としての誇りとか無かったのかよ。


「ふん、あんなのは社交辞令だ。俺はこの肩書を捨てる気などない! マッドサイエンティストは誰の下にもつきはしない! お前達はわかってないかも知れないが、使う側はこちらだ。なあ助手?」
「何をバカな。夢見るのは寝てる時だけにしろよ。やはりこんな奴は早々と見限ったほうが良いですよフランさん。貴女が支える価値などない」
「あははは、え〜と……」


 折角協力関係が確立したのに、ここで関係悪化は望ましくない。だからフランさんは曖昧な笑みしか返せない。そもそも確かにただ利用としてるのは本当なんだ。けどそれを堂々というバカがどこに居るって––ここに居たせいでなんかまた厄介な事になりそうな雰囲気。


「まあこちらとしてもハッキリ言って君は必要ない。彼女だけでな。彼女は君のなんだ? ただの助手だろう? 彼女の居場所は彼女が決めるべきだ。そしてどこが彼女にとって一番メリットになるのか、それも賢い彼女なら分かるだろう。
 君はせいぜい、捨てられた時の心配をしていなさい」
「はっ……はっはは……はははははは! 助手は、助手はな……」
「彼女の事を考えればどちらに居るべきかなど簡単な筈だがな?」


 そう言われて、続かなかった言葉が完全に沈黙した所長。実際、フランさんが自分の所に居るメリットとか幾ら考えても思い浮かばないんだろうな。マジでメリットないしね。もしも万が一、奇跡でも起こって所長が本当に大成をするのなら、これ以上無いメリットなんだろうけど……強く行けないと言うことは、どこかで自分を疑ってるのかも知れないな。
 あんな所長でも。マッドサイエンティストを自称してても、不安があるんだろう。


「それなら……」
「ん? 何か言ったかな?」
「それなら! 俺が本当の意味で助手に相応しい功績を上げるだけだ! 俺が第四研究所を天下にしらしめる! 貴様等第二など軽々と越えて行ってやるわ!」


 ぜ〜は〜ぜ〜は〜と荒々しく息を吐きながらそう言い切った所長。いや、マジで言い切ったな。まわりポカーンだよ。そしてその後に主に第二研究所の皆さん大爆笑。まあ……しょうがないな。
 僕達も中々信じれないし。てか所長の実力って全然知らないしな。今の段階ではどう考えても、所長よりもフランさんの方が優秀じゃん。だけど笑いの渦が起こる中、フランさんをふと見るとちょっと幸せそうというか……なんだか憧れの人でも見るような目をしてるような……眼科に行ったほうがいいかな?


「いや〜ははは……これは今年一番の笑い話かもしれないな。だが本気なんだろ?」
「当然だ。誰にバカにされようと、俺はいつだって本気だ」
「それなら、頑張りたまえよ。どちらが先に魔鏡強経第一を解明し、零へと至るか……それを無した者にこそ、彼女は相応しい。そうだろう?」
「望む所だな。協力はしても、俺達はライバルだ!」
「ああ、せいぜい期待せずに使ってやろう」


 そう言ってロウ副局長と所長は手を握り合う。ギリギリと力を込めて、更にはガン飛ばしながらね。まあ……収まる所に収まったのかな? 協力しあうんなら僕達的にはどうでもいいか。
 なんかフランさんの取り合いみたいに成ってるけど、美人で優秀なのは中々罪なことだな。


「それで、第一の持ってる情報とかはどうやって引き出すんだ? てか、中央図書館のどっかにあるんだろ? 貴重な情報を保管してる場所が?」


 僕は話しがまとまってきた所でそう切りだすよ。第一を攻略するのはその中央図書館の秘密区画へ侵入するルートを探るためでもあるんだ。まああわよくば第一の研究データとかも欲しいよな。


「第一への扉はこちらが開こう。一応こちらは第二研究所というポジションで、一番近い。中に招かれる位は出来る。こちらの研究成果を譲渡する形でな」
「研究成果とか吸われてるんだ」
「第二も第三も第一の下請けみたいな存在だからな。核の研究は第一以外はやれないんだ」


 なるほど……それなら科学者としては不満溜まりそうだよな。


「って事はその研究成果を持ってく時に一緒に潜入すればいいんだな?」
「そうだな。だが、第二研究所との関係性は疑われるのは不味い」
「けど、一緒に潜入するしか無いんだろ? 情報を盗まれたとか気付かれなければ良いんじゃないか?」
「君はそれを完璧に出来る自信があるのかな?」
「それは……」


 確かに完璧に出来るかと言われれば……その保証は難しいかもな。どんなセキュリティが張り巡らされてるかわからんし。


「私達だけならまだいい。だが第二研究所全体に関わる事態になると不味いんだ」
「それもそうだな」


 真面目に仕事やってる人達が大半だろうに、その人達にまで迷惑を掛ける訳にはいかないな。けどじゃあどうやって潜入しろと?


「まずは私達が第一の内部に入る。そこに小人達を連れて行き、その小人達に君達の道を作ってもらう」
「なるほどね。でもそれ上手くいくのか?」
「第一には何度も行ってる。最初の外壁は特殊だが、別段特別な事がされてた訳ではない筈だ」
「それなら良いけど……」


 特殊って言葉が引っかかるな。どんな所なんだろうか? でも第一研究所だからな……第二でこれだけ凄いんなら、第一はきっとこの非じゃないだろう。想像もできない形してるのかも。ん? そうだ、聞いておきたい事があったや。


「なあロウ副局長さん。この第二研究所の建物ってなんであんな歪なの? 何かを模してるとか?」
「歪? ああ、外観のことかな? それは私達にもわからないよ。かなり古いからね。改修は何度も行われてるが、形が変わったことはないと聞いてる。意味があるのかも知れないな」


 そう言う割にはあんまり気にしてないっぽいな。余りにも身近だから、興味が出ないのかも。それに今は特大級の山をつかもうとしてるんだからな。


「そう言えばこちらも聞きたいことがあるんだよ。君達の言う魔境強経をもちいたという飛空艇はどこかな? 何人か向かわせたいんだ」
「ああ、それなら––」
「それなら私が教えます。えっとですね」


 そう言ってフランさんが指輪を翳した。するとそこに第二の研究者の人が同じ指輪を翳す。どうやらそれで情報が共有出来るようだ。数人連れてその人達は研究室を後にする。


「さて、ではこちらも動き出そうか」


 そう言ってロウ副局長は閉まった扉を再び開ける。するとそこにはダルマ体型の小さな爺さんが居た。


「所長!?」


 所長? ってそれはこっちのマッドサイエンティストの事じゃ勿論無く、そのちっさいほうだよな? って事は第二研究所の所長か。今にもぽっくり行きそうで目も眉で隠れて、髪は頭頂部がなく、周りの髪がなんか逆だってるけど……元気なのかそうじゃないのかわからんな。


「お前さん達……達者でな……」


 それだけいうと、トコトコと歩き去る第二研究所の所長。なんだったんだ? そう思ってると、ロウ副局長以下研究員の皆さんがなんか震えてる。


「どうしたんだ?」
「所長がああ言ったということは……我等にはもしかしたら帰る場所がない未来が待ってるかもしれないということだ」


 はっ? どういう事かよく分からない。すると別の研究員が更に言うよ。


「所長が意味深な事をいうと、その通りの事が起こると言われてる。やっぱりやめたほうが良いのかも……」
「ちょっと、今更そんなの許されないわよ」


 フランさんの言う通り、今更そんな事は許されない。契約書もあるしな。


「そうだな。皆腹を決めろ。我等はもう一蓮托生の存在だ。あの言葉は我等が飛躍して巣立ってくという事かも知れん」
「な、なるほど!」
「そ、それならいいですね!」


 必死にいい方向へ解釈しようとしてる皆さん。それで足踏みしなくなるんならいいよ。おもいっきり良い想像をふくらませてください。なんとか気持ちを持ち直した皆さんと共に、僕達は第二研究所を後に、第一へと向かう。
 錬金の核の研究機関第一研究所––そこが次の戦いの場だな。

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