命改変プログラム

ファーストなサイコロ

小人の巨人

 鐘が鳴る……二度……三度。空を飛んでる白い鳥はどこまで飛べて、どこに帰るのだろうか? 第二研究所の前でそんな鳥を視線で追ってると、受付で色々と交渉してたフランさんが戻ってきてた。


「さっ、行くわよ」


 そう言って今度は僕達全員が彼女の後についていく。第二研究所––初めて来たけど、というか初めて見たけど……これはハッキリ言って想像以上にデカイし豪華だ。錬金の研究に金掛けてるなって事が分かる。
 日光を反射するガラス張りみたいな外壁。それはもう眩しい程だった。それになんだか妙にゴチャゴチャした建物だ。形が歪というか……出っ張ったり凹んだり、上に伸びたり、斜めになったりしてる。何かの形を形作ってるのかも知れないけど、その何かを判断する事は出来なかった。
 建物内もやっぱり凄い。なんだかテクノロジーって奴を感じる。LROで感じたテクノロジーはせいぜいグリンフィード位だったけど、ブリームスには本当にテクノロジーが溢れてるって感じだ。
 まず床動いてるしな。動く歩道とか、LROなのに感動的。それが建物内の中央へ真っ直ぐへと伸びてる。実際受付は随分と簡素で、外とのギャップがあった。変な一枚板に、インターホンみたいなボタンが付いてるだけだったからな。
 でもフランさんが脅––じゃなく、手続きを済ませると、その一枚板が開いて出てきたのがこの歩道だ。ここって来客用のルートなのかな? なんか誰ともすれ違わない。結構デカイ建物だったんだ。数百人程度は居てもおかしくないとおもったんだけど……そもそも外で見た時はあれだけ輝いてたのに、この歩道の壁はヤケに黒い……というか深い緑色してる感じ? 細長い緑の光がずっと奥に続いてる。なんか微妙に下に下がってるような気もしなくもないような……


「ねぇねぇ、あんまり中は綺麗じゃないね」
「そうだな」


 クリエの奴は外観見てはしゃいでたからな。ワクワクが裏切られた気分なのかも。


「外が奇抜なのはどの研究所でも同じだ。中身は案外こんな物なんだ」
「へぇ〜第四研究所は外見も中身も大差無い親切設計だったのか」
「それ褒めてないよな?」
「褒めてないな」


 床が時々ガコンと音を立てる。その音だけしか聞こえてこない。そう思ってると、ようやく長い一本の動く歩道の先に強い光が見えた。近づいていく連れにそれはもっともっと強くなっていって暗さに慣れてたから、思わず僕達は目を細める。


「うあああああああああああ!」


 クリエの感嘆とした声が真っ先に響く。長く暗い歩道から導かれた場所はやけに広々とした場所だった。てかどうみてもここが本来のエントランスホールって感じだな。


「凄い明るいな」
「変な匂いがたくさんする」
「そうか?」


 リルフィンに言われてクンクンと嗅いでみるけど、別段そんな変な匂いはしないけどな。でも嗅覚の性能が桁違いだから、僕には分からなくて当然か。中央には見取り図が立体映像にみたいに表示されるな。
 それに周りにはよく分からないものが一杯。


「うわぁ〜スオウ! 見て見てあれ!」


 そう言ってクリエが指差す方を見ると、空中に設置されてるレールを玩具みたいなトロッコが走ってた。遊び心? とか思ったけど、クリエが注目したのはどうやらそこじゃなくて、トロッコに乗ってる者みたいだな。
 なんか小人みたいな奴がワラワラといる。


「おお〜い!」


 クリエが手を振るとその小人たちも手を振ってくれる。


「なんだあれ?」
「あれは錬金で作られた使い魔みたいな物よ。色んな雑用やってくれるんだって。便利そうよね。あれが居れば部屋の掃除とか洗濯とか諸々の家事を全部押し付けれるのに……はぁ」


 フランさんがそう言って深い溜息をついた。相当羨ましいんだな。すると所長の奴がまだ痛い頭を抑えつつこう言うよ。


「ふん、身の回りの事も自分で出来ん奴が偉大な発明など出来るか。あんな物は怠惰の証だな」
「そういう事は自分で掃除洗濯料理全部一人でやれる様になってから言いなさいよこのダメ人間」
「うぐっ……」


 フランさんの冷徹な言葉に一蹴される所長。まあそうだよね。何も言い返せないよな。本当に自分だけであの研究所を綺麗にしてるのなら、それ言えるけどさ。ぶっちゃけ料理も後片付けも昨日見てた限りだと全部フランさんがやってたし、所長好き勝手に遊んでるだけだよな。
 それに夜は酒を煽ってグデングデンだし、次の日二日酔いとか……ダメ人間の典型だろ。絵に描いたようなダメ人間と言ってもいい。


「てかそもそもアンタ、研究者は研究だけ出来ればいいんだ––って事を前に言ってなかったっけ?」
「ふっ、俺はな助手、過去は過ぎ去るものだと思ってる」
「当たり前ね。だけど私は過去は消せない物だと思ってるわ」
「うっ……」


 勝者フランさんだな。なんか格好良く言って誤魔化そうとしたようだけど、軽くフランさんに超えられたな。地力の差が出た感じ。


「ふ、ふん、それでここからどうする? どこに行けばいいんだ? それよりも向かえもこんとはなっとらんな。今俺は水が欲しい。いやホント切実に……うぷ」


 それはどう考えも自分が吐きそうだからだろ。てか、このままじゃ実際やばそうだ。


「誰か! 誰か水を!」


 初めて来た場所で叫ぶのもどうかと思ったけど、ゲロをぶちまけるよりはいいよな。でもどうしてか誰も居ない。誰も出てこない。小さい小人達は所々に居るんだけど……


「うん?」


 柱の影に小さな姿がある。こっちを隠れて伺ってる様に見えるそれは……やっぱり小人。


「うぷっ……」
「おい! もうちょっと耐えろ!」


 取り敢えずこちらを伺う小人を気にしてる暇はないな。トイレを探すしか無い。丁度中央に見取り図があるみたいだし、そこまで僕は駆けた。


「えっと……トイレ、トイレはっと……うう」


 よくよく考えたらこっちの文字読めないじゃん! 言葉は日本語なのに何で文字は日本語じゃないんだよ! よく考えたらおかしいよなそれ。でもレストランとか発行されてる地域の新聞とかは文字変換勝手にされるんだけどな……されないのはダンジョンにある奴とか、貴重なアイテムに綴られた文字とか、LROの中でも古代文字みたいな扱いの奴だけ。
 でもなんか幾ら目を凝らして見てもこの見取り図の文字が日本語に成ることはない。何故になんだ? けど諦めないぞ!


「だけどこういうのは分かりやすさも重視してる筈だから、それらしいマークとかがあるは––ず……」


 無い……そう思ったけどそんな親切設計されてないよコレ。きっと外からの客とか考えなくて良い職員仕様なんだな。


「うっ……もうダメ……だ」


 そう言って頬が膨らむ所長。ヤバイ、アレはもう遂に履きます五秒前だろ。さっさとフランさんとか離れてるし。そう思ってると柱の影に隠れてた小人が何故か走りだす。そしてその瞬間ゲロゲロゲロゲロ〜と黄色い液体が流れ出る。
 するとそれに飛び込む小人。盛大にゲロまみれになって動かなくなった。


「あ〜あ」


 なんかそう言うしか無いな。皆所長の周りから後ずさる。たく、どうするんだコレ? こうなったら職員の人達に見つかるのが不味いような……誰かが来る前に掃除しないと……


「うげっげひほっ……やめ……て……」


 なんか所長の虫の息みたいな声が聞こえると思ったら、小人が倒れこんだ所長の腹を殴ってた。何やってんだおい!


「全部出してしまうです〜。です〜。です〜」


 そう言いながらドンドンと腹を打ち付けてやがる。その度にビチャビチャと汚れる床。駄目だ……なんか近づきたくない。いやさ、吐き終わったらいいよ。でも現在進行形で吐かれてる所には近づけないだろ。
 すると少しして何も出なくなった。床のかなりの範囲に所長のゲロが広がってる。そしてもらいゲロしそうな酸っぱい匂いが辺りに……ヤバイ……掃除しないと行けないのにこの匂いが僕達の行動を阻んでる。てか既にクリエがやばそうだし。


「お掃除するです〜」


 そう言った小人は今度はその場で両手を上げた。すると小さな魔法陣が現れてそこに汚らしいゲロが一気に吸い込まれてく。ものの数秒でゲロ本体どころか、その匂いまでもが消え去った。


「完了です〜」


 そう言ってペコッと頭を下げると、スタコラと楽し気に走ってく。なんなんだあれ? いや、説明は受けたけど……万能だなおい。


「すご〜い! すご〜い!」


 そう言って喜んでるクリエ。僕達は白目向いてる所長の所に集まる。


「どうするよコレ?」
「捨てて行きましょう。もうなんかどうでも良くなってきたかも」
「そうだな。鼻の効く俺にはこいつの口臭さがまだ堪らんからな。賛成だ」


 酷いなこいつら……てかフランさんに捨てられたら所長泣くぞ。いや、まあ一度はそれを匂わせるのも良いのか? 


「お〜い、このままじゃ捨てられるよ」


 ペシペシと白目の所長の顔を叩くクリエ。お前はお前で酷いな。


「やめなさいクリエちゃん。ゲロ移るわよ」
「もう大丈夫だよ。それよりもクリエが起こしてあげる。任せて!」


 そう言ってクリエの奴が両手を所長に向けた。何をやるんだ? そう思ってると、クリエは深呼吸して白い魔法陣を足元に出した。魔法か……爆発しないだろうな?


「大丈夫だもん。一杯練習してるからね」


 確かにテトラの奴と一緒に練習してるけど……そもそも目を覚まさせる魔法とかあるのか? そんな疑問を持ってると、いきなりエントランスを明るく照らしてた周りの照明が一気に爆発しだす。そしてそれにビックリしたクリエが所長を爆発させて吹き飛ばした。


「ああ、失敗しちゃった」
「いやいや、お前そんな軽いノリで言えないぞコレ!?」


 どう考えても大惨事なんですけど! なんかビービーと五月蝿い警報も鳴りまくってるしな。


「あっはは、クリエちゃん最高ね。このくらいしてやって当然よ」
「そうかな? 実は成功かな?」
「そうね。大成功よ!」


 グッと親指を立てて満足感を伝える様にそう言うフランさん。なんか相当溜まってたんだな。そうとう傷めつけてたのに、それでも全然足りなかったのか。てかこれの修理代とか請求されてもそれ言えるか? 
 そう思ってると、流石にこれだけ盛大な事態に成れば遂に現れるのはここの職員さんたちだ。


「て、敵襲か!?」
「何事だ!!」
「うおっ!?」


 なんか一杯集まってきたぞ。照明器具が破壊されて、吹き抜けの天井から差し込む日差しだけの光源の中、ゾロゾロと白衣の男女が出てきてる。やっぱりかなりの人数いるよ。この階だけじゃなく、二階三階も見下ろすために沢山の人が通路に押し寄せてる。そう思ってると、空中を走るトロッコから大量の小人達が一斉に降り注いで来た。


「「「修理するです〜〜」」」
「「「お掃除するです〜〜」」」
「「「危険な魔力を感知したです〜〜。排除排除」」」


 あれ? なんかおっかない言葉を発してるグループもあるぞ。するとそのおっかないグループは一人の小人さんが他の仲間を食いだした。そして現れるのは巨大化した小人さんだ。


「排除です〜〜」


 と叫ぶ声が可愛らしい高さだったのに今は野太いものに変わってしまってる。容姿は変わんないんだけど……身長五メートル位はありそうだぞ。最初は手のひらサイズだったのに……なんて絶望感。
 姿形は同じでもここまで大きくなったらなんか愛着持てない。


「おい、どうする? 倒すか? いかにも雑魚っぽいぞ」
「ちょっと待って!」


 指をポキポキ鳴らすリルフィンを止めるフランさん。流石にここで真っ先に殺り合うのは不味いと踏んだようだ。彼女は周りの人達に聞こえるように声をだす。


「私達は第四研究所の者です。敵ではありません。これは単なる事故なんです! まずはお話を聞いてください!」


 だけどそんな言葉を第二研究所の人達はあざ笑う。「第四研究所?」「なんでそんな底辺の奴等が?」とか嫌味な声が聞こえてくる。


「排除するです〜〜!」


 大きくなった腕を無造作に振り回す小人じゃなく既に巨人。だけど動きは鈍いから取り敢えず僕達は距離を取る。


「ここにちゃんとした契約書もあります。ロウ•ヂリア第三開発副局長の署名です!」


 そう言いながら契約書を表示させるフランさん。するとその名で注目される人が一人。二階に居るそれは確かに昨日の夜会ったあの人だな。なんだかあんまりパッとしない中年のオッサン。頭もちょっと禿げかけてるかも……そんなロウ副開発局長様は視線を集める中こういう。


「しっ、知らんな。昨日の事はよく覚えてない!」
「覚えてなくてもコレが証拠です。契約は錬金術師が尤も尊ぶものの筈です! 私達と貴方達は協力関係にある!」


 ズバンとハッキリと言ってやるフランさん。ヤバイなこの人。格好良いぜ。そしてその眼光に貫かれるロウ副開発局長様はフラフラと後ずさって後ろの、これも昨日見た職員にぶつかった。
 フランさんの迫力に気圧され、契約書という証拠もある。観念してほしいな。そしてさっさとあの暴走してる巨人をなんとかしろ。


「家が第四なんかと協力関係?」
「なんのメリットが有るというんだ?」
「冗談言わないでほしいわね」
「だけどあの契約書は本物っぽいぞ」
「いつまでも局長に成れないからってトチ狂ったのかしら?」


 なんか散々な言葉が周囲から聞こえるな。でも実際事情を知らない職員たちの反応はこんな物だろう。第四研究所の評判から考えて妥当だ。第四研究所と組むなんてトチ狂った所業だよ。
 だけどこの契約書は事実。何言ったって後の祭りだ。酒に酔ってたからって取り消しは出来ないんだろう。そこら辺はきっとフランさんだから抜かりはない筈だ。そう思ってると照明を直し終えたのか、薄暗かった周囲が明るくなった。
 すると役目を終えた小人達が一斉に暴れてる奴に飛びついて吸収されてく。そして更に大きくなった。ここが吹き抜けじゃ無かったら天井突き抜けてるぞのレベルだ。


「危険な魔力を排除するです〜〜」


 そう言って奴が狙うのはクリエだ。その太い腕がクリエに向かって伸ばされる。僕はセラ•シルフィングを抜きつつ走りだす。そして巨人に向かって雷撃を飛ばした。「んぎゃあ!」という声を上げて大きく後ろに倒れる巨人が通路にぶつかって建物全体を大きく揺らす。


(うわぁ〜ヤバイことしたかも)


 誰も死んでない事を祈りたいな。でもだって仕方ないだろ。あのままだとクリエが潰されてたんだ。攻撃したのは仕方ない。だけど想像以上に印象が悪くなったみたいだった。


「ちょっと……武器よあれ?」
「なんて野蛮な」
「危険だ。やっぱりテロリストなんじゃないか?」
「目的は我等の技術か?」
「そ、そんな事させてたまるか!」


 なんだか猛烈に周りの空気が悪化してく。そう言えばここの人達は武器なんて持ってないんだよな……野蛮というのも仕方ないのかも。武器なんて持つのは犯罪者くらいなのかも知れない。でも納めてる時は誰も気にもしなかったくせに。レプリカとかファッションの一部とでも思われていたのだろうか? 
 だけどこの機運は不味いな……このままじゃ反撃すればするほどにこっちが悪役で、昨日の人達も余計に認めづらいことに……どうにかして円満な雰囲気に出来ないものか? てかマジでさっさと出てこいよな。
 チラリとロウ副開発局長様の方を見ると、なんだか数人でコソコソしてやがる。きっとあの囲んでる奴等は昨日の面子だろう。


「皆さん違います! 私達はテロリストなんかじゃありません! ロウ副局長、この契約書を確認してください!」


 フランさんが今一度大きな声でそう言う。だけどロウ副局長様は下手な演技してこう返しやがった。


「いたたた……済まないがさっきの衝撃で腰をやられて……そこまで行けそうもない! すまないな〜ああ〜すまない!」


 あの野郎、完全に無かったことにする気だろう。多分本当は周りには内緒でやりたかったんだろうな。こういう風にバカにされるってわかってたから。だからこそ向かえもよこさずにフランさんにだけ来る場所を教えてたと……ロウ副局長は他の職員たちも知ったことで手のひらを返したと……そういうことだろう。
 あわよくばこの巨人に僕達を殺させようとしてるって事に……そうして証拠である契約書諸共消し去る気か。そうは問屋がおろさないぞ!


「クリエは取り敢えず下がれ! 踏み潰されるぞ!」
「う……うん」
「は〜い〜じょ〜!」


 デカブツがそう言いながらドスンドスンと踏み込んでくる。両手を合わせて振り下ろさる攻撃を僕はセラ•シルフィングでさばく。激しく凹む床。これはまた派手に壊してしまったな。周りはもうすっかり僕達を倒すことに熱中してるようで、このデカブツを止めようとする機運はない。
 この流れを変えるにはどうあってもあのロウ副局長にあの契約書の存在を認めさせる以外ないだろう。唇を噛み締めてるフランさんはハラワタが煮えくりかえってる様に見えるな。まあそれだけの事をあいつはやったよ。こっちもちょっとミスったけどさ、だからってこの状況で逃げ出すとかゲス過ぎるだろ。
 命を何だと思ってる。


「加勢するかスオウ?」
「そうだな。別に全然ピンチじゃないけど、ちょっと引き受けろリルフィン」
「はっ、偉そうな奴だな。俺とお前の違いを見せてやるから、その言葉使いが間違いだと気付け」


 そう言ってリルフィンの奴が髪に手を突っ込んでそこから武器を取り出した。その強靭な髪を編みこんで信じれない硬度と化したトゲトゲの棍棒みたいな撲殺武器だ。まあ実際撲殺なのか棘による刺殺が主なのか分かりかねるけどね。
 それを手にしてリルフィンの奴が横から入ってきて、向かってきてたデカブツの左腕を弾き飛ばす。


「お前と違って俺は避けるなんて小賢しい真似はしない」
「あっそ、だけど倒さなくていいからな。それをやると不味い」
「ふん、殺さずとも戦意を無くさせる方法くらいある。どんな奴にもあるだろう。絶対に叶わないと悟る瞬間がな!」


 大きく吠えるデカブツ。その攻撃を定めた場所で一歩も動かずに弾き返していくリルフィン。なんか格好良い事を言ってたけど、お前を頼もしいと思えたのが久々なんだけど……それはまあ言わないであげよう。
 ノリノリの所に悪いしな。


「僕達って結構強いのね」
「これでも全然相手にもされない敵も居ますけどね。けど僕達はそんな相手に挑まざる得ない。その為にも錬金をもっと知ることが必要なんです。だから行きましょうフランさん」


 そう言って僕は彼女をお姫様抱っこする。


「ちょっ!? ええ!!」
「あの野郎が来れないのなら、こっちから出向くだけですよ。だけど派手に暴れてる奴もいるし、通路には盛り上がってる人達が一杯。僕達を簡単に通すとは思えない。無理矢理も印象悪い––となると、道じゃない道を使うしか無いですよね?」
「道じゃない道?」


 僕は意味深に笑ってデカブツの方を向く。アイツのあのデカさなら十分だ。リルフィンの奴に夢中のようだし、アレを足場に出来る。僕は勢い良く走りだす。


「まっ、まさか僕! そういう事!?」


 デカブツに真っ直ぐに近づいて行くからフランさんも分かったようだな。だから今更暴れても遅い。僕は強く彼女を抱いて床を蹴る。結構柔らかい体で足がめり込む。だけど体勢を崩さないように支えて更に飛ぶ。すると流石に気付いたのか、顔がグリっとこっちを向いた。
 そして開かれる大きな口。そこからドガシャンと装填されるミサイルの様な物。


「んがあああああああああああああああああああ!」


 なんだあれ? と思うもどうみてもミサイルだ。巨大なミサイルが飛んできた。だけどなんか憎めないデザイン。けど流石にデカイからまともに当たるとヤバイだろう。てかこんな建物内でそれはどうだろうか。
 吹き飛ぶんじゃないか? そう思いつつ僕は納めてたセラ•シルフィングを一本だけ取り出す。


「どうする気?」
「こんなのマトモに爆発させられない!」


 僕は風を操って刀身に薄い膜を作る。派手な衝撃は爆発を誘発するかもしれないからな。クッションだ。刀身の腹でミサイルの先端を受けて、そのまま上へ押し上げてるそ。そして風を操作してその勢いを更に強める。
 すると上手い具合にクルッと来た方向に方向転換してくれた。


「返してやるよ!」


 思わぬ事態に「ぬわっわっわ!」と目を丸くして慌てふためくデカブツ。だけど奴は動きが鈍い。避けることも出来ずにミサイルは口の中におしこまれた。
 僕はミサイルの尻部分に着地して、思いっきり押しこむと同時に、二階の通路に向かってジャンプする。ゴックン……と言う音が聞こえた数秒後。後方で激しい音が炸裂した。そして至る所に寄り集まってた小人達が吹き飛ばされる。


 「あれ〜〜〜〜」「ぬわわわ〜〜〜」「敗北です〜〜〜」


 とか抜けた事を言ってたから、案外丈夫らしい。デカブツが負けた事で一気に静まり返るこの場。僕達の前にはロウ副局長の姿が。静まり返ったこの場にフランさんのヒールの音がカツンと響いた。


「さあ、その両目でしっかり確認していただきましょうか!」


 その言葉を受けてロウ副局長は涙目に成りながら第四研究所との協力協定を皆さんの前で認めた。めでたしめでたしだ。


「……………………あれ? なんか忘れてる気がする」


 頭に引っかかる何か……なんだっけ? そう思う僕の耳にどこからか「要救助者一名発見です〜〜」という声が聞こえたような、聞こえなかったような。

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