命改変プログラム

ファーストなサイコロ

気付かない内に

 新しい日が昇る。もう丸何日こっちに居るんだっけ? なんだか次第に向こうの世界が幻だったんじゃないか? みたいな感覚に陥る時がある。そもそもこっちじゃ眠るって行為が必要無いような……どうなんだろう? 大丈夫かな僕の体。
 別段異変は無いんだけど、こっちに馴染めば馴染むほどに、リアルが遠のいて行ってる様な……そんな気がする。既にこのLROも誰もが生きてるように見えてしまってるからホント何も世界としての違和感がない。
 よくよく考えたらさ、前は店のNPCはあんな自由じゃなかった。確かに自由度が高いキャラは居たけど、全てが全てあんなに意思を持ち感情的に行動はしてなかったはずなんだよ。
 LROにも昔のゲームキャラみたいな一定の受け答えしか出来ないキャラは確かに居たんだ。けど……今はどうだ? 街ですれ違うキャラの会話……カフェで雑談する人達の表情、街に溢れる生活臭。特にこの『ブリームス』はリアルに結構雰囲気が似てるから、重なる様に見える。
 まあ今いる場所は森の一軒家だから遠くに見えるブリームスの建物の一部を見ながらそんな思いを馳せてるわけだけどね。皆は返ってきたらさっさと寝たからな。やっぱりちゃんとこっちで生きてるNPC達は、眠るって行為を普通にするよな。
 僕もベットに入る振りだけはしたけどね。だけど直ぐに起きて色々とやってた訳だ。体動かしたり、アイテム整理したり、考えたりと色々ね。


「う〜ん、やっぱ相変わらず向こうへの連絡手段は使えないな」


 メールとか送れないし、チャットとかも反応はない。もしかしてと思うけど、これってシクラ達がこの機能を停止してたりするのかな? 色んな混乱が原因かもと思ってたけど、そもそもこの世界をリアルと切り離したいシクラ達にとっては、リアルと繋がる手段なんて邪魔なだけなんだよな。
 そう考えると、外部との連絡手段は永遠に復活しないような気もするな。時間が経てば……は甘い考えだったか。外の情報がわからないのは気になるよな。絶対に日鞠心配してるだろうし。
 僕以外のプレイヤーは既にこのLROにいなんだ。そして再び戻る事も出来ない状況……これだけの事態ならリアルでは絶対に何か動きが起こってるはずだろう。LROに没頭してたプレイヤーが黙ってるとも思えないし、調査委員会とかも気になる。


「はぁ〜」


 いくら考えても、今の僕には向こうの事をどうする事も出来ない。僕は体を伸ばして背中を床につける。眼前に広がるのは薄闇が晴れてく空。そしてそんな空に手を伸ばす。


(向こうの世界は遠いのか、近いのか……ホントよく分かんないな)


 戻れなくなると、遠く感じる。いつでも帰れる時は近かった。当たり前か。そりゃそうだと誰も居ないのに自分で突っ込んだよ。伸ばした腕で顔を隠して呟く。


「今は遠くなった場所に思いを馳せても意味ないか……向こうに戻るためにも、こっちで色々と足掻いてる訳だしな」


 希望はある。命改変プログラムはセツリを返すための物らしいから、それに便乗出来れば帰れるかも知れない。それかマザーへの接触でもどうにかなるのかも知れない。マザーという存在が最近少しだけ身近に成った気がするからな。
 接触の方法があるかも知れない。リアルではきっと日鞠や秋徒達が動いてくれてると信じる。だからこっちはこっちで出来る事をやる。それだけで、それしかない。立ち止まらなければ、道は続くんだ。


「ちょっと、邪魔なんだけど」
「……その声はフランさん?」


 腕を顔から退けると、既にキャリアウーマン風な格好してるフランさんが僕の事を見下してた。いや、見下してると表現したのは僕の勝手な印象だけどね。でもなんか……不機嫌?
 僕は上半身を起こす。惜しかったんだけどね。あの状態じゃパンツ見えそうで、しかもそれに気付かれたら何されるか分からないから仕方ない。


「フランさんって所長と一緒に暮らしてないんだね」


 てっきり同じ場所に寝泊まりしてるのか思ってた。いや、ホント勝手にだけどさ。


「私はちゃんと実家があるから。アレにも実家はあるけど、勘当されてるも同然だからアレは研究所に寝泊まりしてるのよ」
「勘当って……なんで?」


 いや、そう聞いてなんだけど、なんか大体予想つくかも。多分きっとマッドサイエンティストとか第四研究所関連じゃないか?


「アレの家って実は結構な資産家なのよね。ブリームスの中でも五指には入る名家」
「マジか!?」
「マジね」


 なにそれ。ボンボンだったのか所長。人は見かけによらない物だ。いや、今は勘当されて貧乏だし、見かけ通りなのか。でもボンボンって……想像できない。てか所長って昔の所長と関連ないの? 
 少しはあるのかと思ってたんだけどな。まあそもそもあのイベント時のブリームスがどの位の年代だったのかが分からないからな……関係無いほうが当たり前の様にも思えるけど……どこか関連性を疑っちゃうよな。けど街並みも発展してる様に見えるし、やっぱり相当な期間が空いてるのは間違いない。
 百年前に人の国が出来たとか言ってたけど、でもその前にも人の種族は居て、それぞれの場所で独自にコミュニティを築いてたらしいんだろ? 集まりだしたのが百年前ってだけで、その前からここに有ったって事もあるよな……まあでも、子孫って線はあると思うけどな。
 やっぱりどこか面影がある気がするんだ。それに意外と資産家って事は、昔の功績が実は密かに認められてたとかかもじゃん。けどそれなら、なんで第四研究所は昔と同じ立場なのかって疑問は沸くけどな。


「アレの家は重鎮だから何をやってるってのはよく分からないのよね。多分何もしなくても収入が得れるシステムに組み込まれてるんでしょう」
「なんだそれ? どういう事?」
「だからアレよ。企業の上の方って出勤しなくても給料貰えるじゃない。それと同じって事」


 なるほど、会長職みたいな物か。役員とか、天下りとかもそうだよな。印象悪いな。てかズルい。


「けど、そんなお坊ちゃんな所長と幼馴染なんだよね? じゃあフランさんもお嬢様って事?」
「なんでそうなるの? 私の家は至って普通よ。庶民ですから」


 こっちも意外だな。フランさんの方が気品あると思うんだけどな。


「いや、だって普通金持ちって教育から違うじゃん。接点なんて持てないのが普通だろ?」


 庶民は公立、金持ちは私立だろ? 幼い頃の教育機関って大体そうだろ? リアルでは。大学になると国立の方が威厳あるけど、義務教育過程では決められた指導しか出来ない公立よりも私立を選ぶ金持ちは多いだろう。
 なんか違うのかな?


「どこの話ししてるのか知らないけど、あのね、ブリームスには教育施設って一つしか無いのよ。誰もが六歳から十八歳までそこで一貫して教育を受けるのよ」
「へぇ〜、でも一つって意外だな」


 錬金って頭使いそうだし、研究所も第一から第三、非公式で第四まであるんだから、学術都市みたいなものだろうに一個で足りるのか? って感じだ。


「確かに学術は盛んだけど、ブリームスの街の規模を考えなさいよ。それにここは外とは隔絶してる。これ以上の拡張だって出来ない。不思議と人工は安定してるけど、一杯教育機関が有ったって分散して生徒数が少なくなるだけで効率が悪くなるだけよ。
 最新鋭の教育を一箇所に集中させて受けさせる––それが一番手っ取り早い」


 なるほどね。隔絶されたブリームスだからそれでいいんだろうな。外の街だと、拡張すればそれだけ人工も増えるし、街の外から来る人だって居ないわけじゃないだろう。そうなるとやっぱり一個じゃ心許なくなるだろう。
 でもここはそんな心配はいらないんだ。


「じゃあ所長との出会いはその学校でって事なんだ?」
「そうね。それから色々とあって今に至るのよ」


 凄い端折ったな。今から過去の回想にでも入るのかと思ったら、そんなもの一切無く終わったぞ。まあそこまで興味あるわけでもないんだけどな。でも流石に勘当された理由くらいは聞きたいな。


「結局勘当はどうしてなんだよ?」
「だから家名が汚れる様なことばっかりしてるからよ。それに後継がずに所長なんてやってるしね。いつまでも夢見過ぎなよアレは」


 なんだろう……フランさんはどこか遠くを見てる気がする。見てるというか、思いを馳せてるというか……多分自分の中だけで回想してるんじゃないだろうか。アレ呼ばわりな割には優しい顔に見える。


「でもそんな夢見過ぎな所長にフランさんは付いて行ってるよね?」
「それは……アレは私が居ないと駄目だし……それに楽しかったってのが本当かな」


 おお、なんだかそれは素直な感じがして驚いたぞ。ちょっとドキンとした。楽しいね。大切な事だよな。楽しさは人を変えるよ。世界を広げる。それは革新的だ。楽しさに人は魅せられる。それは僕も知ってるよ。
 だからちょっと共感する。


「そっか、うん……楽しさは大事だよね」
「アンタはそう言ってくれるんだ」


 うん? なんだその反応。普通じゃないのこれ? 


「普通はいつまでそんなの言ってるのよ––とか言われるわ。楽しいだけじゃやってけないとかね。まあ分かるんだけど」


 なるほどね。確かに一理ある。大人な意見だな。楽しいことだけじゃ生きちゃいけないよな。けど、それが無いと生きてく事に価値があるかどうか……


「でも結局、それを蔑ろにはできないし、希望はあるわ。設備も資金もあるわけじゃないけど、私達は最終到達地点を目指し続ける。二人でね」
「魔鏡強経第零だっけ?」


 するとフランさんは首を横に振るう。え? ってなる僕。だって昨日言ってたじゃん。全ての人達がそこを目指してやってるって。魔鏡強経第零が到達点だって……


「確かにその門を誰もが開けようとしてるわ。勿論私達だって目指してる。けど、そこが最終じゃないわ。私達はその先を見据えてる。きっと私達だけね」
「先って……零だってその最初の奴しか開けて無かったんだろ? 無謀だろ。てか気早すぎじゃないか?」


 僕のそんな言葉にフランさんは体を近づけて、僕の鼻の頭に指を置いてきた。そして間近でこう言うよ。


「進化はね僕、止まりかけた時から訪れないのよ。いつだって先を見続ける。だってそこまで行ったらきっと、別の何かが見えるはずじゃない。星生錬金はそんな進化の先の錬金術なの」
「星生錬金……」


 そういやそんなの言ってたな。魔鏡強経が目の前の事だから、忘れてたよ。まあ考える必要とか無さそうだけどな。星生錬金が零の向こうなら、どういう物なのか全然全く想像できないし。


「てかそれも三種の神器並とか言ってなかったっけ? 零が開ければそれで事足りそうだろ?」
「バカね。進歩は時に劇的だけど、新たなそれが成熟するには時間が必要。星生錬金ってのは用は魔鏡強経零を0に変えてそこから新たに始まる錬金術なのよ」
「魔鏡強経零の三種の神器でヤバイことが起こったのに、それ以上を作り出せる様になったら、世界に危険が満ちそうな気もするけどな」


 だってベースが三種の神器になるって事だろ? 誰もが世界を終わらせる兵器を持つ時代に成ったりしそうじゃないか? 世紀末に思えるんだが……


「そんなのはその時代が来てから考えることでしょ? 私達科学者は常に新しい場所を目指すだけよ」
「無責任だな」
「私達の責任は革新をすること。それをどう使うかなんてのはモラルの問題でしょ。力も兵器も武器も使う側の問題よ。生んだ側が悪いのなら、神様が一番悪いじゃない。だけど誰もそんな事言わないわ」


 ……確かにな。神様は偉大で絶対に正しい存在を壊しちゃいけないんだろう。聖書では結構散々な所晒されてるのにな。


「って事で、僕もうじうじしてちゃいけないよって事」
「……見てたのか?」
「ウジウジしてる所をね」


 鼻から離れる指。フランさんはそのまま扉に手を掛ける。


「これから忙しくなるんだから前を見といてもらわないと困るわね」
「大丈夫だよ。ただ確認してただけからな。今の僕にはここでしかやれる事はないってな」
「そう、それなら安心ね。所でアレはまだ寝てる?」


 アレ=所長だろ? 僕は「そりゃあもうグッスリと」と言ってやった。するといい笑顔で「そう」と笑って中へ入ってくフランさん。本当にいい笑顔だったんだけど何故か僕の背筋に一筋のゾクリとした悪寒が走った。
 僕に対しては普通だったけど、やっぱなんか怒ってる? そう思ってると突然建物内から響く野太い断末魔の叫び。ドタドタと振動も伝わってきた。一体何をされてるのだろうか?


「おい、なんだ今の叫び?」
「ん? って僧兵じゃん。何やってたんだ今まで……おいおい、お暑いな」


 森の向こうからやってきたのは僧兵だ。そして何故か孫ちゃんをオンブしてる。いつの間にそこまで親密になったんだ? それに朝帰りって––


「はっ!? まさか僧兵お前……孫ちゃんとやっ……」
「何行ってるんだお前!! んな訳無いだろ! これは彼女が疲れたっていうからオンブしたらそのまま寝息立て始めたんだよ」
「むふふ〜」
「なんだその顔。妙にムカツクな」


 いやいや、やっぱなんだかんだ言って順調なんだなと思って。二人共全然素直じゃないけど、実は求めあってるよな。まあ僧兵が孫ちゃんに傾くのはわかるけど、ホントなんで孫ちゃんは僧兵なんだろ? 
 ぶっちゃけそこら中の別の僧兵と何か違ったかな? って感じ。けどそれを言うのは野暮ってもんだよな。きっとそれは孫ちゃんだってわかってないと思うんだ。だから自分の中の気持ちがわからないというか、信じれないというか……否定から入ってる。
 けど分からない事こそが、世間一般で広く言われてる、『恋に理由なんてない』みたいなことなのかなって思う。孫ちゃんがもしも素直になった時に、どこに惚れたのかとか聞いても絶対に返せそうにないだろうからな。


「まあいいや。取り敢えず彼女をベッドに連れてく。何やってたかはまだ言うなって言われてるからな。秘密だ」
「なんだそれ?」


 秘密とか気になるじゃないか。まあでも付き合ってる暇はないかもな。これから第二研究所まで行かなきゃいけない。そこから第一研究所の攻略が始まるんだ。どう考えても忙しくなるだろう。
 中途半端な情報で気が散るよりは何も聞かないほうが良いのかも。それにやっぱ、二人の邪魔しちゃ悪いしな。僕はグヘヘと笑ってやるよ。


「やっぱその顔ムカツクな」


 またそれか。全く人の顔を何だと思ってる。僕の顔はリアルでもコレなんだぞ。カスタマイズされた奴ならネタで済むけど、一生付き合う顔晒してるんだからな。あんまり酷い事言ってくれると凹むぞ。
 でもまっ、ムカツク顔してたのは確かかも知れないけどね。


「それよりもお前達はどうだったんだよ?」
「ん? 順調だよ」
「そう……なのか?」


 そういう僧兵は建物を見上げる。なんだか中でドンガラガッシャンという音が聞こえてきてるから、疑惑を持ってるようだな。けど大丈夫。ミッションは至って順調だ。この音はそうだな……人柱みたいなものだよね。
 僕は親指を立てて笑ってやるよ。






「さあ! では我等第四研究所が天下をとる日が来た! 出陣だ!」
「「「………………」」」
「おい!?」


 誰もその声に乗らなかった物だから所長が顔を赤くして抗議の声を上げる。いや、だってね。いきなりそんな事を言われても……


「そもそも僕達第四研究所の職員じゃないし。いうならフランさんに言えよ」
「うぐっ……助手」
「何?」


 その一言だけで震え上がる所長。ホント何されたんだ? いやまあ派手に折檻されてたけどね。


「まあ……なんだ……行くか」
「そうね」


 微妙な距離を取って歩き出す二人。なんかこっちまで気まずくなる雰囲気だな。すると今度はバッチリ付いてきたクリエがこう言うよ。


「ねぇねぇ、あの二人どうしちゃったの?」
「さあな。所長が粗相をやらかしたんじゃね?」
「粗相?」


 そう言ってると、当の所長がチラリと僕を睨んでくる。間違った事は言ってないだろ。すると所長は頭を抑えて背を丸める。どうやら所長二日酔いらしい。しかも昨晩の事あんまり覚えてないようなんだよな。
 完全に飲み過ぎだ。目的忘れて女の子にデレデレして酒を煽って粗相意外のなんだって言うんだよ。こっちはお前達が楽しんでる時に皿洗いとかやってたんだぞ。それに……いや、これはいいや。
 思い出す事じゃない。


「全くあの程度で二日酔いとは、情けないぞ」
「くっ……なんで貴様は平気なんだ……」
「俺はあの程度の酒にやられる体はしていない。鍛え方が違うんだよ」


 確かにリルフィンの奴はピンピンしてる。同じくらい……てか倍以上はこいつが飲んでた筈だが……やっぱ精霊だし、なんか違うのかもな。


「ねぇねぇフランお姉ちゃん。今日はどこ行くの?」
「それはね、第二研究所って所よ。そこの人達と協力して第一研究所の資料をちょっと拝借するのよ」
「拝借?」
「お願いして借りるってことよ」
「なるほど。じゃあ安心だね」
「勿論」


 嘘こけ––と僕は心で吐いた。なにいい笑顔で嘘言ってるんだ。お願いなんてする気ないぞ。そりゃあ頼めば借りられるってんならそれに越したことはないけどさ……そんな訳無いからな。


「クリエちゃん」
「うん? ふひゃぁ」


 ヒョイッとフランさんはクリエを抱えてその腕に抱く。何だいきなり?


「ふふ、クリエちゃんは可愛いね」
「えへっ、えへへへ……そうかなぁ? それほどでもあるかもぉ」


 満更でもなさそうにヘラヘラと笑うクリエ。なんだか微笑ましい光景だな。まあ確かにクリエはモブリの中でもかなり可愛いとは思う。ちっちゃいモブリは総じて愛らしいけど、その中でも子供でちっちゃなクリエは子犬や子猫みたいな可愛らしさがある。
 だからフランさんもクリエにはメロメロって感じだな。隣の頭をガンガン叩いてる所長はなんか汚らしいから視界に入れないようにしとこう。そう思いつつ森を抜け再びブリームスの街へ入る。まずは第二研究所だな。
 ってアレ? 僕はここでちょっとした不安に襲われる。それは所長の情けない背中が伝えてくれた。


「あのさ……思ったんだけど、第二研究所の皆さんも記憶無くしてるって事無いよな?」


 まさかのリセット。その不安は直ぐに広がりかける。だけどそこでフランさんが頼もしい言葉をくれた。


「大丈夫よ。例え記憶が無くなったとしても、この契約が切れる事はない」


 そう言ってフランさんは自身の指輪から何かを空中に映した。どうやらそれは契約書? みたいだな。こんなのいつの間に……て、捏造じゃないよな?


「失礼ね。正真正銘本物よ。この指輪でかわす契約はブリームスでは絶対なのよ。ないがしろには出来ないの。署名なんかよりもよっぽど重いんだから」
「へぇ〜そうなんだ。流石フランさん」


 感心だな。


「当然よ。どこかのマッドサイエンティストみたいに目的を忘れたりしないもの」
「うっ……じょ! 助手! 助手の癖に––––––いや、た、助かった」
「う、うん?」


 所長の急な態度の急変にちょっと困惑気味なフランさん。二日酔いでしかも叱られたから少し反省してるのか? けどちょっと違和感があるような……フランさんもそれを感じたからちょっと疑問形が入ってるんだろう。
 それから所長は第二研究所に付くまで、チラチラとフランさんを見てた。やっぱり何か昨日までと違う気がする。昨日はフランさんが後ろを付いてくるのは当然みたいな感じだったのに……今日は歩幅を合わせてるような感じに見える。まあ具体的に言うと……なんかキモいな。
 空は青く日が高い。吹く風は街の匂いと活気を届けて、どこからか重厚な鐘の音が聞こえてる。

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